いつも誤字脱字の訂正ありがとうございます。見直してはいるのですが…
執事と彼女に案内され食堂に着くと、そこには初めて見るくらいに豪華な食事が並べられていた。
光景的にはドラマとかアニメで良くある長い机で奥の方に…よく言うお誕生席みたいな場所に族長であるゆんゆんの親父さんが座っており、そこから少し距離はあるが丁度対面になるように正面に俺の席が準備されており、俺から向かって右手の位置にゆんゆんの席が用意されていた。
「さあさあ大した持て成しは出来ないが楽しんでくれると嬉しいかな」
自重気味にゆんゆんの親父さんはそう言うと俺に食事を勧めた。
軽く友人の家に遊びに来た気分だったのだが、相手はそうとは思っていなかったようだ。
「では失礼します」
先程とは雰囲気が違う事に若干と言うかかなりの違和感を憶えながら勧められた席に座る。
どうやら3人で屋敷に押しかけていた時はあくまで族長として外部の人と接する様の外面だった様だが、今回はあくまでゆんゆんの父親役の様だ。
席に座ると執事が奥の部屋から前菜であるオードブルが目の前に置かれる。
え?紅魔の里ってフランス料理なの?
てっきり格式が高そうだけど結局の所田舎飯的なものかと思っていたが、どうやら違うらしい。
マナーだ何だとかいつだったがテレビの特集で組まれていた事を今更ながらに必死に思い出そうとするが、テンパっている為かいまいちピンと来ない。
確かフォークやナイフは外側から使ってナプキンは膝の上に置くんだったよな?
他にも手を使ってもいい料理等々あるのだが、今はそんな事はどうでもいい。要するに全てフォークで食べれば何とかなるだろう。
前菜が終わり、続いてスープが運ばれてくる。
相手の表情を見る限り俺の行いに間違いは無いようだったが果たしてこれから先うまく行くのだろうか。
スープが届くまでの数分の沈黙が痛々しいが、これさえ終われば旅の疲れを言い訳にして寝床にありつけるだろう。
「カズマ君だったかな。うちの娘とパーティーを組んでいるらしいが最初はどう言ったきっかけなのかな?」
このまま沈黙を耐え続ければ勝てると思っていたがスープが届くまでの間の沈黙を破ったのは意外にも親父さんだった。
いや…意外にもって思ったが招待したのは向こうなのだから話しかけなければ逆に失礼だろう。
…落ち着け、落ち着くんだ俺。
内容的にはただの世間話だ、やましいことはやっていないとは言えないが普通に受け答えすれば大丈夫なはずだ。
「最初ですか?」
そう言いながらゆんゆんの方向に目を向けると珍しくニコニコとこっちを見てくるだけで何も言ってくることは無かった。
どうやら俺1人で答えろという事だろうか。
「そうですね…最初の出会いはジャイアントトードの討伐の際に手伝ってくれた事ですね」
「ほう…ジャイアントトードか。あれは初心者でもかれると聞いているが」
「そうですね。何しろ最初の…初めてのクエストでしたから何分不自由していまして」
「成る程、最初の最初に出会った訳か。めぐみんとはその時にあったのかな?」
「いえ、めぐみんとは暫くしてからですね」
そうこうしている間にスープが運ばれてくる。
スープは確かスプーンで手前から奥に押すように掬いながら飲めばいいんだったよな。
「カズマ君は剣を持っているからクラスは戦士とかかな?それともムーンナイト・ソードマスターかな?」
「いえ、冒険者です」
一番聞かれたくなかった質問。
これでバカにして来た奴は悉く搦手で沈めてその鼻っ面をズタズタにしてきたのだが、流石にゆんゆんの親父さんにそれをする訳にはいかない。
「そ、そうか。まだ冒険者として始めたばかりだからな。これからレベルも上がればなれる職業も増える事だろう」
さすが族長なだけあってか今まで会った人たちと比べて大人な対応をしてくれたが、どこかガッカリする所を見ているとむしろ笑ってくれた方がよかったと思わずにはいられなかった。
「確かにカズマさんは冒険者だけど、それはアークウィザードが2人しか居ないからパーティーのバランスを取るために色々スキルの取れる冒険者をやって貰っているのよ」
意外なことに我関せずと黙っていたゆんゆんがフォローに入ってくれる。
なんだかんだ言って協力はしてくれないだろうと思っていたのでこれは嬉しい誤算だ。
「そ、そうなのか。それは大変だったな、それでウチの娘は上手くやっているのかね?」
流石の族長も娘には敵わなかった様でたじろいでいるのが分かる。
「えぇ、ゆんゆんのお陰でウチのパーティーも上手くやって行けてますよ。むしろゆんゆんが居なかったらお終いですからね」
「…そんなカズマさん言い過ぎです…」
…お前が照れるな。
しかし、その言葉を聞いたのか心無しか少し安心している様な気がする。
「それは良かった。何せ娘はココでは些か馴染めていない様だったからな」
「お父さんそれは言い過ぎです」
聞きたいことが無くなったのかそれとも親子の久しぶりの会話だったこともあってか、ゆんゆんが話を始めると先程の圧は無くなり俺の事など忘れたかの様に2人で話を初めて盛り上がっていた。
その光景を見て助かったと思ったが、けどそれはそれで何だが疎外感を感じるのだった。
スープが片付けられ、2人の会話は続いてくるメインの様に盛り上がりを見せていた。
内容はよくある内容なのだが、所々俺の名前が出てくると目つきが鋭くなるのは俺の気のせいだろうか?
しかし、同じ屋敷で住んでいるとは言えここまで自分から話すゆんゆんを見るのはかなり珍しい気がする。やはり産まれてから里を出るまでの年月を過ごした家族なだけあって心を許しているのだろう。
そして暫くの後メインである肉料理が運ばれてくる。
基本は先に魚が出てくるのだが、今回のメインは両方とも肉料理なのだろう。
「あれ?」
そう言えばというか今更というか、この食卓にナイフが無いことに気づく。
これではどうやって肉を切ればいいのだろうか?
もしかして既に切られているのかと思いマナー違反だがコッソリと肉をフォークで突いてみたが分かれる気配は無かった。
ゆんゆんの方を見るとやはりナイフは無くスプーンとフォークの二つだけ置かれている所を見ると、どうやらただ置き忘れたようでは無いらしい。
…と言うことはフォークを肉に刺してそのままステーキ一枚かぶり付けとでも言うのだろうか。
いや、流石にそれは無いだろう。
それがまかり通るならそこまで形式化した食卓を形成しないだろうと判断できるのだが
もしかしたら俺の知らないマナーがこの里には存在するのだろうか?
フランス形式かと思っていたが、実は違って他の方式を使っていた可能性もある。
やばいな…このままだとマナー違反になりかねない。
ゆんゆんはどうなのだろうか?会話の流れ的にそろそろメインに手をつける頃だろう。
一抹の希望を抱きながら彼女にコッソリとどう食べるのかと聞こうとする。
「なあゆんゆ…」
「ウィンドカッター」
俺が話しかけようとした所で事件は起こった。
何と彼女はステーキを風属性の魔法で切り裂き始めたのだ。
俺が何を言っているかわからないって?安心してくれ俺自身も何を言っているのか分からない。
「あ、そう言えばカズマさんはスキル持っていましたっけ?」
俺の目線をどうやら俺の分も切ってくれと勘違いしたのか、俺の皿の上に置かれたステーキを風の魔法で綺麗に賽の目状に切り裂いた。
ウワーチョーキレー
「これで大丈夫ですね‼︎」
俺のステーキを綺麗に切ったことで何かの優越感に浸っているのか笑顔でそう答えるゆんゆん。
「こんな…」
「え?何ですか?」
「こんな…こんなテーブルマナーがあってたまるかっ⁉︎」
「え、えぇーーーーーーーっ⁉︎」
思わず隣にいたゆんゆんの肩を掴んで思いっきり揺さぶってしまう。
今までの苦労はいったい何だったのか。俺の苦労を返してくれ‼︎
「成る程、カズマ君は紅魔式テーブルマナーを知らなかったか‼︎。私たちも紅魔族以外の方とこの方式で食事するのは初めてでな失念していたよ」
はははと笑うゆんゆんの親父さんだが、内心怒ってそうで怖い。
流石の理不尽さにここが彼女の実家であることを忘れていつものアクセルでの様に振る舞ってしまった事に若干の後悔があるが、やってしまったものは仕方がないし隠していた所でどのみちいつかはボロが出てしまっただろう。
…まあ今がその時とは思わないが。
「ふぅ、いきなり暴れるからビックリしましたよ」
「悪かったよ」
先程まで目を回していたゆんゆんが意識を取り戻し取り敢えず親父さんに謝罪をして食事会は再開し、紅魔流食事マナーで色々と苦戦しそれでも何だかんだ色々あったが食事会は何も起きずに終了した。
その後勧められるがまま風呂に案内され一風呂浴びて彼女の元に戻ろうとすると、俺を待っていた執事にゆんゆんは既に旅で疲れて眠られてしまいましたと伝えられる。
思い返せば色々あったなと、1日に凝縮された出来事を思い返すと疲れが体から湧き上がるような気がしたのでここらで考えるのはやめておく。
「分かったよ。俺は大人しく眠るとするよ」
「いえ」
「まだ何かあるのか?」
余計な事はせずに俺にとっとと寝る様にと遠回りに伝えて来ているのかと思ったがどうやら違うらしい。
ならば一体俺に何の様なのだろうか?何処ぞの映画のように娘に寄り付く悪い虫は取り払わなくては行けないとか、そんな理由で俺の事を消そうとでも言うのだろうか?
「ほほほ、そう警戒されなくても宜しいかと、旦那様がお呼びです。何か用事がありましたらそれを済まされてから向かわれた方が良いかと」
「ああ、分かったよ。それで俺は何処に向かえばいいんだ?」
「これは失礼。旦那様は最上階のテラスに居らっしゃいます」
それでは失礼と執事は踵を返しながら元の執務へと戻っていった。
あの執事は一体何者なんだろうか?
用件というかバスローブから部屋着に着替えただけだが、それを済ませてから屋敷のロビーへと向かう。
ロビー自体は外から見えたので位置は大体わかるがそれでも迷う危険性はある。
まあでも広いと言っても一個人が暮らす屋敷なのでそこまで迷う程では無いのだが。
廊下には何処かの画家だろうか、抽象的な絵がさまざまなバリエーションごとに飾られている。やはり一枚一枚高いのだろうか?
田舎貴族と内心バカにしていたがその認識を改めなくては行けない。
そんなこんなでテラスに着く、屋敷のテラスは俺達の住んでいる屋敷とは違って一面だけではなく屋上そのものを全て使用しており一つの庭の様な感じだった。
そして、その橋の方に小さな丸テーブルが置かれており、そこにゆんゆんの親父さんがちょこんと座っていた。
「やあ、カズマ君急に呼び出して悪かったね、さぁこっちに来たまえ」
テーブルを見ると親父さんの対面に何か飲料水の入ったグラスとツマミの様な軽食が置かれているのが確認できる。
どうやら眠る前に少し話をしようという事らしい。
「失礼します」
流石にここで断るのは不味いので素直に案内されるがまま対面の席へと座る。
夜風が当たり、紅魔の里全体が一望出来るこのテラスはこの族長の性格を映し出しているのだろうか。
「突然呼び出して悪いね」
「いえ、気にしないで下さい」
まずは時間外に呼び出された事による謝罪を頂いた。
しかし、なぜこのタイミングで呼び出されたのかが不明だ。
先程の件に関しての無礼を咎められるのかそれとも彼女と縁を切れと迫られるのだろうか?
どちらにしても俺には得のない話になる事に変わりはない。
「少しだけゆんゆん抜きで君と話をしたくてな」
「そうですか」
まあ飲みたまえとグラスに注がれた飲料、多分しゅわしゅわだろう物に口をつける。口当たりからして年代物だろうか。
「これ美味しいですね。かなり前から熟成されたビンテージ品ですか?」
「ほう、これの良さがわかるのかね」
以前クリスから物を見極める訓練と称して色々な物を飲まされた事を思い出す。
あの時はこんな事は良いから訓練しようぜと思っていたが、こんな所で役に立つとは思わなかった。
「まあ、それはさておきだ。君はウチの娘と同じ屋敷で住んでいるそうじゃないか、そこの所どうなんだ?」
その…と少し聞きずらそうに親父さんは俺に問いかけてくる、その姿は年頃の娘を持つ父親そのものだった。
「そうですね。一緒に住んでいると言っても屋敷に住んでいますので部屋は遠いので会わない時はとことん会いませんね」
「…そうなのか」
親父さんは少しがっかりした様に言葉を返す。
「それにめぐみんもいますからね。シェアハウスみたいな物ですよ」
「シェア?ハウス?」
どうやら親父さんにはシェアハウスの意味が分からないようだ。
女神から貰ったと言うか押し付けられたこの世界の言語変換機能を使っているが、やはり和製英語は変換しづらく時折日本語のイントネーションでそのまま出て来ることがある。
「あれですよ、上京したての若者同士が集まって部屋を共有するみたいな物ですよ」
「成る程な。冒険者は始めたては報酬が足りず個別で宿を借りることができないから一部屋借りて雑魚寝するというが、それに近い物か」
「そうそう、それですね」
「それで屋敷というものはそれくらいの広さなんだね?」
うーんどうしようか。
会話の途中で言葉に詰まる。
この屋敷よりも広いですと素直に伝えれば良いのだが、それだと角が立ってしまうし下手に狭くしてしまえばそんな狭屋に一人娘を閉じ込めて不自由させているみたいな感じになりかねない。
「そうですね、色々あって借りれる事になったのですけど…」
流石に幽霊屋敷に住んでいる事は言えなかったので、その辺ははぐらかしサイズ感はここよりも少し小さいくらいにして説明する。
あまり嘘はつきたくはなかったが、必要悪なので仕方ない割り切る事にした。
「それで収入的にはどのくらいなのかね?娘達はアークウィザードとはいえ拠点は初心者の集まるアクセルだ。あまり危険がないという点には私も賛成だが、それだと報酬が少ないんじゃないか?」
確かにここでの暮らしを考えるとアクセルの平均報酬での生活レベルは些かを通り越してかなり劣っている。
俺も最初は劣悪な環境で暮らしたものだ。
「それに関しては問題ありません。金銭面に関しては魔王軍幹部の討伐報酬がありますので当面に関しての生活は維持できます」
「そうか。流石はアクセルの最終兵器と言われているだけはあるな」
「え?そんな風に呼ばれていたんですか?」
「ああ、先程頼んでいた書類を貰ってな。失礼な話だが君の事を少し調べさせてもらったよ。これでも一人娘の親だ、この行為を許して欲しい」
そう言うと親父さんはテーブルの上に俺の肖像画の入った書類を数枚出してきた。
その用紙を上面だけだが流し目で眺めていると俺がアクセルに来てから起こして来た事件等々さまざまな内容が記されていた。
「ははは、そんな事が出来るなんて初めて知りましたよ…」
この世界にはというかアクセルの街でこんな興信所のような真似事ができるなんて流石の俺も予想できなかった。
果たしてゆんゆんの親父さんはこれを見て何を知ったのだろうか。
「魔王軍幹部ベルディアの討伐指揮にバニル・ハンスの討伐娘とめぐみんの協力があったにしても君の功績は目を見張るものがある、それにその報酬を利用して資産運用している」
「これは何だかむず痒いですね」
確かに魔王軍幹部を倒したのは色々あったが俺の功績という事にはなっているらしい。
「…まあ住んでいる屋敷については私に気を遣ってくれていたのだろうね、その辺はありがとう。それと君がクズマと言われている理由だね…これは一体どういう事なんだね?」
「いや…それは…それはですね」
恐るべき紅魔式興信所、俺の行いは全て知られているようだ。というか知っているならわざわざ俺に聞いてくるなよ‼︎
「えぇまあはい…」
観念して全てを説明する事にした。
しかし、流石にやられっぱなしにされるのは癪なので、俺がクズマと呼ばれている原因・キッカケに関して全て洗いざらい吐いてやる事にした。
「成る程…確かにアクセルの街周囲で爆発騒ぎの名物があると聞いていたがそれがめぐみんのものだったとは…それにウチの娘が色々と迷惑をかけていたようだね」
「ええ、まあ色々言い過ぎたところはありますけどおおよそは事実です」
日々の鬱憤の為か説明につい力が入ってしまい、言わなくてもいい事まで全て説明してしまったのだ。
「それはそうだな。確かにこの書類に書かれている事にも合致している。これは済まない事をしたようだね」
「ええ、疑いが晴れて何よりです」
親って大変だなと自分でここまで追い詰めて置いて何だが、そう思わずにはいられなかった。
「それと最後にいいかな?」
「何でしょうか?」
書類を捲り上げ最後に残ったページにはバニルの絵が描かれており、そこには悪魔という文字と契約、魔王軍幹部という文字が描かれたいた。
これは最後にとんでもない爆弾を持って来たもんだと感心を通り過ぎて恐怖を感じるまでである。
内容としては魔王軍幹部がアクセルの管轄で撃破されたのに街にて商売を始め俺と何かしらの取引をしていると言った内容だった。
俺の行った内容は客観的な文章にすると完全に悪役じゃないかと突っ込まずにはいられないが、このままではせっかく払拭したクズマの汚名を挽回させてしまいそうだ。
「これはですね…深いわけがあるんですよ」
「深い訳とは一体何かな?」
俺は包み隠さずバニルの関係に関して契約の面に関して説明した。
「…成る程。つまり君のいた国にあった技術をこの国で商品化して売り出そうという内容でいいのかな?」
「ざっくり言えばそうなります。その権利を売ればざっと3億エリスの収益が見込めますね」
「な…」
3億と聞いてゆんゆんの親父さんの動きが硬直する。全てに置いて把握しているもんだと思って喋っていたが流石に口を滑らせてしまったようだ。
「そ、それは大事な商談じゃないのか?こんな所に居ていいのかね?」
「ええ、まあ期限はありますがそれまでには帰るつもりです」
「それならいいんだが…もしも期限が間に合いそうもなかったら言いなさい。今里にいるメンバーでは流石にアクセルの街には一度に飛ばせないが、一番近い馬車駅のある街には飛ばせるからね」
流石に億を超える大金は関わったことがなかったのか、それともシュワシュワのアルコールのような成分が回って来たのか少し慌ただしい雰囲気を醸し出している親父さんだが、根はいい人なのかもしれない。
「そうだ、私ばかり質問して申し訳ないね。君も私に質問したい事があったら遠慮なく聞いてくれ」
どうやら彼の中で俺への疑念は払拭されたよう親父さんはどこか安心したように俺に語りかけてくる。
「そうですね。これは言えなかった言えないでいいのですが、俺の事をどうやって調べたんですか?そういう部隊的なものがあったりするんですかね?」
ブッコロリーたちが自警団だったように紅魔の里にもそういった組織があっても不思議ではない。あのゆんゆんが昔紅魔の里は里を出ればほぼ全てのギルドから引っ張りだこになると言っていた気がする。
もしも何かした際にそれがばれようものならもしかしたら俺は消されてしまう危険性があるのかもしれない。
「この書類を作成した人かい?そうだね。これは里の秘密なんだけどね。まあこの里で過ごしていればいずれは気付くだろうから教えるけど、この紅魔の里にはソケットと言う占い師の方がいてね。普段はあまり占ってくれないのだけども、今回は族長権限を使って君の事を詳しく占ってもらったのだよ」
「成る程…それは恐ろしいですね」
「そうだろ?君も気をつけた方が良い。彼女を敵に回すとこちらの素性を全て暴露されてしまうからね。君はブッコロリー君とはあったのかね?」
「ええ、里に来るときに案内してもらった程度ですが面識は一応あります」
「そのブッコロリー君が彼女にちょっかいを掛けてね」
「掛けて…まさか」
「そのまさかだよ。見事彼女に恥ずかしい過去をバラされてね。内容は本人のために伏せておくがね」
「何だって⁉︎」
占い師に関してはどこかで聞いたことがあったなと思ったが、よくよく思い出して見ればゆんゆんに出された手紙にそんな内容があった事に気づく。
しかし本当にモデルが居たとは思わなかったが。
まあ占い師か。見ず知らずの俺の情報をここまで調べ上げた事を考えるとやはりその実力は本物なのだろう。
時間があればその占い師スキルを教わりたいのだがメモリやスキルポイントを持っていかれそうだし、そもそもその様な秘技中の秘技を簡単に教えてくれるとは思えない。
まあ、その機会があったら一応聞いてみるだけ聞くのも良いだろう。案外すんなり教えてくれる可能性もなきにしもあらずだ。
「その占い師の方に一度会ってみたいですね。ここまで調べ上げられるのでしたら故郷への帰り方とか聞いてみたいですし」
「そう言えば君の出身はニホンだったかな?」
「ええって知っているんですか?」
「いや、残念だけどその国の名前は言葉で知っているだけだね、実際どこにあってどのような生活を過ごしているのかは分からない」
「そうですよね」
前いた世界…まあ日本に関して未練は断ち切った筈なのだが、やはり完全ではない様でこうして名前が出るたび食いついてしまう。
それに帰りたいかと言われればそこまで帰りたいとは思わない。
意外にも俺はこの世界での生活を気に入っているのだ。
「ただ、ニホン人の特徴としては君みたいに黒髪に黒か茶色掛かった黒と聞いているがね。今日君と対面して一瞬で分かったよ、ニホンの方とは他所で数人程あった事があるが君の目はその中で群を抜いて真っ黒だ」
「そうなんですか、やっぱり他の日本人がいらっしゃるんですね」
「そうだね。この里の周囲も魔王城が近いだけあってモンスターも強力だからね。腕試しによく寄ってくれる事が少なくはなかったね」
やはりアクセルの外には俺と同じ転生者がうじゃうじゃいるのだな改めて思う。
今のところアクセルではミツルギしか出会って居なかったので忘れていたが、この世界にも沢山の転生者がいることに注意した方がいいのかもしれない。
皆ミツルギの様に頭のネジが吹き飛んでいてくれるとは限らないのだ。
「それでその日本人はこの里にいたりするんですか?」
「いや、今は居ないね。昔はたくさん来てくれたみたいだけど最近…ここ数年めっきりと数が減ったかな?」
「へえ、そうなんですか?」
「そうだね。実を言うと君が来るまで存在を忘れていたよ」
「そうですね。俺も今まで1人しか出会ったことしかありませんからね」
最近魔王軍の活動も激化して来たとも言うし、もしかしたらそちらの方に数を割いているのかもしれない。
「そう言えば君たちニホンの方は皆凄い何かを持っていると聞いたけど君は何か特別な何かを持っているのかな?」
「持っていると言えば持っていますけど、今は使えませんね」
「それは何か条件があって使えないとかそういったものかな?」
親父さんは目をキラキラと光らせながら女神に与えられた特典に関して聞いてくる。
確かに俺たちには神技や神具等々渡されるが、それを大ぴろげには言わない筈なのだが…そう言えばミツルギがこの魔剣グラムは女神から託されたものだとか言っていた事を考えると普通に言ってしまっても良いのでは無いかと考えてしまう。
「いえ、これは恥ずかしくてあまり言えないのですが、力が強すぎて制御できないんですよ。まあそのお陰で殆どの魔王軍幹部を倒せたんですけど」
「ほう、これ中々に興味深い。つまり本当に困った時に一か八かでしか使えないと言うことで良いのかな?」
「ええ、まあそうなんですけど」
使いこなせたのならこの場で炎芸でも見せてあげたかったが、この場で出してこの屋敷に飛び火しようものならとんでもない事になるので意地でも出さない様にしなければならない。
「素晴らしい。流石はゆんゆんの見込んだ男だ、流石は私の娘だな」
「え、どういう事ですか?」
俺の話が紅魔族の琴線に触れたのか声を荒らげながらシュワシュワを一気飲みして新しい瓶の栓を開けた。
おいおいこのオッサン一体何本飲むんだよ。流石の俺もドン引きなんだけど。
やはり紅魔族の族長なだけあってこう言った酒の付き合いは多いのか、アルコールに関しては鍛えられているのだろう。
「すまない少し取り乱したようだ。流石に見せてくれと言うのは野暮だったな、いつかその力を使い熟せる時が来たら是非見せて欲しい」
「ええ、まあはいわかりました」
「そうだ、これを渡そうと思ったんだよ。色々と疑ってしまったからねせめてのお詫びだよ」
「そんな。悪いですよ」
「良いんだ、むしろ受け取らない方が悪いと思わないか?」
「はい、では頂きます」
「うむ、では開けて見たまえ」
そう言いながら族長が懐から出した小箱を俺に渡す。
中を開けるとそこにはマナタイトだろうか、今まで見たことのない輝きをした宝石が埋め込まれたブレスレットだった。
「これを嵌めてその能力を使うときに外すと良い」
「えぇ、それって何か意味あるんですか?」
「無い‼︎」
「無いのかよ⁉︎」
「まあでもカッコいいだろう?」
「はあ…さいで。でも折角頂き物なので着けさせて頂きます」
やはり紅魔族=中二病なのだろうか。発想が昔の黒歴史を連想しそうで嫌なのだが、それでも頂いたプレゼントは意外にもシンプルで何処かのハイブランドを連想させそうだった。
「それでは夜も更けて来た所で私は部屋に戻るとするよ。瓶や食器は気にしないでいい、後で執事が取りに来るからね」
ブレスレットを腕に嵌めて眺めていると、流石に酔いが回って来たのか親父さんは立ち上がりテラスを後にしようとする。
「ブレスレットありがとうございます。大事にします」
テラスの扉を通して中に入るタイミングでお礼を言うと
「ああ、大事にしてくれたまえ。それは…いや何でもない。それよりも娘を頼んだよ、見た通りうちの娘寂しがり屋だからね」
そう言ってテラスを後にして姿が見えなくなってしまった。
後半は別の話にしようと思ったのですが父親の話で終ってしまいました…