この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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ゴブリン狩り

その後収穫の疲れもあってか泣き疲れた彼女を受付の人に預け、入浴を済ませ馬小屋に戻る。

いい加減まともな寝床が欲しいかな。

藁が敷かれた寝床に体を預け天井を見上げ一息つきながら目を瞑る。

そろそろ普通の寝床で寝たい…

 

 

朝目が覚めるといつもの様に着替えギルドに向かう。

今年のキャベツは大量だった為か集計に時間が掛かるらしい、つまりそれが終わるまでお金が入らない。

そして残りの所持金は残りわずかで、クエストを受けねば餓死する。

どうしようか考えているうちにギルドに着き、ドアを開けて周りを見るが端の席にもゆんゆんは居なかった。

仕方ないので、ギルドの奥に行き。

 

「あの、ゆんゆん見ませんでした?」

 

受付に聞くと、受付の人はため息をつき「アレ」と柱を指差す。

その方向を見るとゆんゆんが柱の陰に隠れながらこそこそこちらを伺っていた。

 

「何をしたのか知りませんけど、来た時からずっとこそこそ柱に隠れながら来た人を確認しているんです、お願いしますよ貴方がパーティー解消したらまた仕事が増えるんですからね」

 

すいませんと受付の人に軽く謝罪し受付の影に隠れる、そしてゆんゆんの視界から俺が消えた事を確認した後、潜伏スキルを使い俺を見失いキョロキョロしている彼女の後方に立ち。

 

「おはようゆんゆん」

「きゃぁ‼︎」

 

突然後方から挨拶されビックリしたのか、彼女は体を仰け反らせて跳び上がった。

 

「ななな、カズマさん‼︎さっきまであそこにいたのに…」

 

彼女は態勢を立て直し、モジモジしながら。

 

「あの…昨日は見苦しい所を見せてしまいすいませんでした」

 

恥ずかしそうに、目線は俺の目を見ては逸らしを繰り返しながら彼女はそう言った。

 

「そう言う事はあまり気にすんな、こっちまで恥ずかしくなるだろ」

「そ…そうですね」

 

二人揃って恥ずかしさで顔が赤くなる。

 

「そうだ、今日はクエスト行かないか?もうお金が無いんだ」

 

急いで話題を変える、流石にこの雰囲気はキツイ。

 

「そそ、そうですね。それじゃ昨日見たクエストがまだありますのでそれに行きましょうか」

 

彼女は急いで掲示板に向かうとベリっとクエストの用紙を剥がし受付へと持って行った。

しばらくすると受付が終わったので彼女が俺の元に戻り。

 

「クエスト受注完了しました、一応何日か掛かるので準備してきますね、カズマさんもしばらく此処には戻ってこれないので色々済ませてくださいね」

 

では午後に停馬所で、と彼女は言い残しギルドを去って行った。

しばらく此処には戻ってこれないか…なんかゲームみたいだな。

ここに来て数日、特に持ち物などないのでやることが無いなと思っていた所に銀髪が見えた。

 

「おーいクリス‼︎」

 

午後まではクリス達にスキルを教えて貰う事にした。

 

 

 

「お待たせしました」

 

スキル指南を終え、指定された場所で待っていると大荷物を背中に背負ってカタツムリみたいになった彼女が急いで走ってきた。

 

「おぉ…凄い荷物だな、何入ってんだ?」

 

後ろの荷物を指差すと彼女は自信満々に

 

「これですか?これには色々入っているんですよ、トランプにオヤツや…」

 

途中から聞き流していたが中には色々入っている様だった、何というか初めてのお出かけに行く子供みたいな量だなと思いつつも、かつての自分もそんな時代もあったなと思い出す。

 

「へ、へぇ…所で馬車で行くんだよな切符とか買わなくてもいいのか?」

 

それを聞いた彼女はふふん、と笑いながらポケットから数枚のチケットを出す。

 

「安心してください、席ならもう取ってありますので」

 

はい、と俺に一枚渡す、しかし彼女の手に残り何枚か握られている、アレは何だ?途中で乗り換えるのだろうか?

疑問に思っていると彼女にさささっと言われるままに馬車に案内される。

案内された馬車は左右3人ずつ座る計6人用で少し広いくらいの広さである。

中を覗くと他には誰もおらず、一番乗りかと思いチケットを渡すと奥に詰めて座る、彼女は操縦士にチケットを見せ少し会話したかと思うとそのままこちらに入る。

 

「では、巡回路コースで出発します」

 

そして彼女が入るのを確認すると操縦士手綱を握り馬を走らせる。

中には俺とゆんゆん、馬車とはこんなにも空くものなのかと止まっている他の台の馬車を覗くとどこもそれなりに混んでいる。

 

「なぁゆんゆん」

「はい何でしょうか?」

 

彼女は屈託のない笑顔で返事をする。

 

「この馬車もしかして貸き…」

「あ、カズマさん外を見てください動物の群れですよ」

 

唐突にそしてあからさまに彼女は俺の言葉を遮った、これはもう確信犯だろう。

 

「貸し切ったんだな」

 

再び問いただすと、彼女は諦めた様で

 

「そうですね…確かに貸し切りました。ですけどこれには理由がありまして…」

 

ツンツンと両人差し指を数回突いた後、鞄から何やら板の様なものを取り出すと、そのまま俺の前に置いた。

 

「こ、これは⁉︎」

 

それには見覚えがある、板の上に書かれたマスにそれぞれの現象が書かれ、ルーレットを利用し進む数を選択してお金を集めるゲーム…つまりこの世界の人生ゲームだった。

 

「これは旅の商人が何処かの冒険者から聞いたアトバイスを元に作ったと言われるボードゲームなんです‼︎」

 

ババーンと彼女は手を伸ばしボードゲームの紹介する、どうやら言葉や文化的な物が違う位でおおよそのルールは変わらないようだ。

 

「これやるのか?馬車の中だからすごく揺れるぞ」

 

俺も昔バスとかでボードゲームをやったが揺れがすごくて駒がずれた事を思い出す。

 

「大丈夫です!こんな事もあろうかと衝撃を吸収する魔道具を持ってきました」

 

ゴソゴソと鞄から円柱に丸められたシートを取り出し広げると、そのまま器用にボードの下に引いた。

 

「さあこれで大丈夫です‼︎」

 

やりましょう、と彼女は言い出すので仕方無しに付き合う事にする。

 

「さてと」

 

ボードに備え付けられたポーチからいくつかの道具を取り出し分けていく、金、職業、イベントなどにカードがあり、職業は冒険者などに変更されている。

 

「カズマさん手付きが慣れてますね、もしかしてやった事あるんですか?」

 

俺が準備する手際の良さに気づいたのか、不思議そうに聞いてきた。

 

「あぁ、このゲームは俺の国にもあったな中身はだいぶ変わってるけど」

 

ほっほっほっと駒を並べ、ルーレットを組み立てる。

 

「カズマさんはよその国から来たんですよね、どんな所なんですか?」

 

金銭の管理は彼女に任せ、俺は他の雑用を担当する。

 

「ニホンって言う国だよ、俺はアクセルしか知らないけど、そこはモンスターも冒険者も居ない平和な国だけど何も無かったかな?よし準備も済んだし先攻後攻決めようか。」

 

じゃんけんポン、と両者互いに手を出す。

彼女がグーで俺がパー、俺は先攻を選びルーレットを回し駒を進める。

 

「えっと盗賊に転職する、か」

 

カード束から盗賊の職業カードを引っ張り出し手元に置く。

 

「次は私ですね、えいっ!あっ私はアークウィザードですね」

 

はいよ、と彼女に職業カードを渡す。

 

「話は戻りますけど、ニホンってここからだとどの辺りにあるんですか?モンスターが居ないなんて聞いた事ないですね…あっ!別にカズマさんを疑ってるわけでは無いですよ」

 

自分で言ったものの、どう説明したら良いものか…

 

「なんて言ったら良いんだろうかな?俺もどうやってここに来たかはよく分からないんだよね、気づいたらアクセルの真ん前に居たって感じかな」

 

取り敢えずはぐらかす事にする、まぁここに来た方法なんて俺もよく分からん女神に聞いてくれ。

 

「気づいたらって、それ誰かにテレポートで飛ばされたんじゃ無いですか⁉︎」

 

びっくりしながら彼女は言う。

テレポートは多分呪文の事だろう、帝都に行くルートに確かそんな感じの事を聞いた気がする。

 

「それに似た様なものかな、まあでも今更戻ろうとは思わないかな。おっ結婚したぞ、お祝い金くれよ」

 

結婚したので駒に女性のピンを突き刺し、ゆんゆんから4000エリスぶん取る。

 

「うわ、もう結婚ですか早いですね…」

 

お金を取られた彼女は悲しそうにルーレットを回す。

 

「なんか他人と関わるマスに止まれないんですけど…」

 

止まったマスは臨時収入、先程から金銭関係のマスにしか止まらず彼女は思わずため息を吐く。

 

「その何だ…良いことあるよ、次は子供が生まれたぞ」

 

今度は子供が生まれたので小さなピンを駒に突き刺し、再び金をぶんどった。

 

「またですか、カズマさんも気が早いですね」

 

再び彼女はルーレットを回す。

 

「そう言えばゆんゆんはどんな魔法が使えるんだ?」

 

ふと疑問に思った。魔法使い系の最高職の彼女は一体どの程度使えるのだろうか?

 

「私ですか?私なんてまだまだです…一応上級魔法は大体使えます」

 

何…だと⁉︎

俺は彼女が何故パーティーに入らずボッチなのか分からなくなった。

 

 

二人だけで始まった人生ゲームを数回繰り返し、ひと段落した所で丁度馬車が停止した。

操縦士に帰りの時間を確認した後、先に馬車を降りたゆんゆんと合流する。

 

「なぁ、ゆんゆんその大きなバックどうにかならないか?折角の緊張感が台無しになるんだが…」

 

これからモンスター達と命のやり取りをしようと言うのに、目の前で大きなバックを揺らされると何だか遊びに行く様な感覚になってしまう。

 

「駄目ですよ‼︎この中にはこの後使うものが沢山入っているんですから!」

 

一歩後ずさると彼女は手を振りながら抗議する。

このままだと冒険者では無く旅芸人に見られてしまう。

しかし彼女が楽しみに色々準備してきた事を思うと何だか可哀想に思えてきた…雰囲気は壊れるが仕方ない彼女の為だ。

 

「ほら貸せよゆんゆん、取り敢えず報告のあった所まで持って行ってやるよ」

 

手を出すと彼女は最初警戒していたが、パーティーメンバーの言うことが聞けないのかと言うと嬉しそうに差し出してきた。

 

「全く、早く差し出せば良いのに…っ‼︎」

 

荷物を受け取り彼女が手を離した瞬間、とてつもない程の重さが腕に伝わり危うく落としそうになる。

 

「どうかしました?」

 

彼女はそんな俺の気も知ってか知らずか、不思議そうに聞いてきた。

 

「い…いや…何でもない…」

 

自分で言った手前、引くわけにもいかないので、無理やり自分の力で何とか持ち上げ背中で背負う。ここに来て互いのレベルの違いがはっきりとした瞬間だった。

アークウィザードって腕力強かったけ?

手ぶらになった彼女は気分まで軽くなったのか。

 

「さぁ‼︎張り切って行きましょうか!」

 

私に着いて来いと言わんばかりに先陣切って進んでいく。情けないが今回は荷物持ちとして頑張ろう…。

 

 

 

山を登り始めてはや数時間、俺たちは山頂にたどり着く。そこには休憩所と言わんばかりに小屋が一棟建っており中は手入れをされているかの様に綺麗だった。

久し振りに山を登ったのが災いしたのか足がクタクタになってしまい、とてもゴブリンどころではないので一旦休憩にしようと提案する。

 

「しょうがないですね、まぁ空も暗くなってきた事ですし此処で一泊しましょうか」

 

彼女は言った反面嬉しそうに小屋に入っていった。俺も早く荷物を降ろしたいので中に入る。

中に入ると様々な設備が設置されているが、その隣に縦穴が空いてある。どうやら設備使用にエリスを支払う様だ。

荷物を置き、照明等々必要最低限の設備をエリスにより稼働させ、そのまま床に寝そべる。

数日とはいえ馬小屋で寝ていた為か、この硬い床も心地良い気分になり思わず欠伸が出る。

 

「なに寝ようとしてるんですか⁉︎」

 

ウトウトしていると、バックを漁っていた彼女に見つかってしまい注意される。

 

「登山で疲れたんだ…ちょっとだけ…ちょっとだけ寝る」

「いやいやいや、それ絶対起きないやつじゃ無いですか⁉︎」

 

抵抗するもゆさゆさと彼女に揺らされ、仕方なく起き上がり頰を叩いて眠気を覚ます。

 

「で何するんだ?」

 

寝ぼけ半分で聞くと彼女はバックの中から一つの地図を引っ張り出し俺の前に広げる。

 

「作戦会議ですよ、まさか何の考えも無くゴブリン狩りに参加するつもりですか?」

「それもそうだな」

 

ジャイアントトード狩りの時の手際を見ていると、何もしなくてもどうにかなりそうな気がしなくも無いんだが、流石にそれは駄目らしい。

 

「ゴブリンの目撃情報は一度山頂に登ってから下った所だそうです」

 

広げられた地図に彼女が指差す。

 

「周辺に何か洞窟でもあるのかもな」

 

ゲームの話になるが、大抵ゴブリン狩りとなれば洞窟に居ることが多い。

 

「あるかもしれないですね…あとゴブリンを狩る冒険者を狙う初心者殺しというモンスターがいますので気をつけてください」

 

…何それ怖い。

 

「そいつ結構強いのか?」

「結構強いと言われていますね、私が居ないとカズマさんは一撃ですよ」

 

間髪入れずに彼女は何故か嬉しそうに言う。

 

「成る程、気をつけよう」

 

まぁゆんゆんも居るし、いざとなれば何とかなるだろう。

 

「なぁゆんゆん?」

「何ですか?」

「モンスターの動きを封じるスキルとかあるのか?」

「ありますよ」

 

彼女は頭にハテナマークを浮かべた様にキョトンとした表情になる。

 

「出来ればで良いんだが頼みたいことがある」

 

 

 

作戦会議を終えると、各自自由にしましょうと彼女が言い出したので小屋から出ている。

正確に言えば彼女がシャワーを浴びるので追い出された感じである。

一体俺が何をしたんだ?と考えるも数回彼女の下着を窃盗した事を思い出し、何とも言えない感情が湧き出す。いかんいかん彼女は大事な仲間だ、今まで大目に見てもらったが流石にこれ以上は駄目だろう。

後方からは彼女が発信源であろう鼻歌とシャワーの水飛沫の音が聞こえる。

落ち着くのだ佐藤和真、素数を数えるのだ。

 

「2、3、5、7、11、13、17、19…」

 

 

 

「3259、3271、3299、3301、3307」

 

かつての邪念は消え去り、俺は新たな領域に達しようとしている。世界という広大なスケールに比べれは俺たちという存在はちっぽけなものであり、またその行為も…

 

「一人でブツブツ何してるんですか?」

 

彼女の呼び掛けによりハッとする。危ない…あと少しで戻って来れなくなる所だった。

 

「あぁ、ゆんゆん遅かったな、俺が何言ってたかって?これは素数と言ってだな」

 

重い腰を上げ、立ち上がる。

 

「素数って何ですか?」

 

入浴後なのからか体から湯気が出ている彼女は不思議そうに聞いてくる。

 

「1以外で割り切れない数字だよ、例えば37人居て2人組を作るとするとどうなると思う?」

「18組と1人あまりですね」

 

質問を質問で返され、彼女は若干驚きながらも答える

 

「次は3人組を作ると?」

「12組と1人ですね」

 

俺は、悶々とさせられた八つ当たりと言わんばかりに。

 

「じゃあこの残った1人がゆんゆんだとして、ゆんゆんはペアを作るには何人組を作れば良いんだ?」

 

えっ私⁉︎と言いながら彼女の動きが止まる、恐らく計算しているのだろう。

しばらく眺めていると

 

「そんな…私一生独りぼっちなの…」

 

答えに辿り着いたのか、悲しそうに項垂れる。ペアで省かれるのは辛いよな…俺も大体余って先生と組んだな…。

 

「ゆんゆんみたいのを生み出してしまう数が素数だよ。じゃ、俺もシャワー浴びてくるわ」

 

トラウマを踏んだ彼女は、最終的に体育座りで遠い目をしながら虚を見ている。

 

「みんな友達って言ってたのに他の人とペア組むんだ…」

 

ブツブツと小声で何か言っているが、聞きたく無いので耳を塞ぎながら浴槽に向かった。

後でまたボードゲームに付き合ってやるか…

 

 

浴槽に着くと100エリス硬貨を投入しボタンを押す、するとホースを伝ったノズルからお湯が降り注ぐ。

久し振りにシャワーを浴びたな、街の銭湯だと桶にお湯を張るしか無いからな…これももしかして他の俺みたいなのが作ったのか?

ボードゲームといい、転生された俺たちはこの世界に影響を与え過ぎな様な気がする。

身体を洗っている途中、ふと能力について思い出す。この炎の性質は一体どんな物なんだろうか、ゲームで言えば攻撃力の高い火炎系か闇系の能力になるのだが、こいつはどっちなのだろうか?もしかしたらまた違うものなのか。試そうにもアクセル前の草原の燃え広がりが再現されそうで怖い。

聞く機会あったら今度ゆんゆんに聞いてみるか、知らないにしても何かしらの手掛かりはあるかもしれない。

身体を流し、水気をタオルで取った後服に着替え、先程作戦会議をしていた部屋に戻るが、そこに彼女は居らず。

外に出ると彼女は未だに体育座りで座っていた。

はぁ…。溜息を吐きながら彼女を迎えに行く。今夜は面倒くさくなりそうだ。

 

 

 

朝、目が醒める。

あの後、放心状態の彼女を引きずりながら小屋に入れ、数分の説得の末にトランプ勝負をとことん付き合う事で事なきを得た。おかげで寝不足になったが彼女の笑顔には代えられないだろう。

 

「おはよう、ゆんゆん。意外と早起きなんだな」

 

ゆっくり起き上がり身体の節々を伸ばす。

馬小屋生活が功を奏したのか、俺は難なく床に寝ることができた。因みに彼女はパンパンのバックの中から寝袋を引きずり出し、それに包まって眠った。俺も中に入ろうと考えたが、今度こそ殺されそうなのでやめておいた。

 

「おはようございます、カズマさん。私はいつもこの位ですよ」

 

寝巻きから着替え終え、更にはシャワーを浴びていたのだろうか少し体が赤い。

よっこいせっと、ストレッチを一通り済ませ起き上がりジャージに着替え、貸し出しの剣を腰に掛けると次に靴に細工した。

 

「何してるんですか?」

 

玄関でモゾモゾしているのを見かねたのか、不思議そうに聞いてくる。

 

「これか?これは動物の皮に短い釘を刺した奴だ、これを靴底に巻きつければスパイクの完成だ」

 

足場が悪くなった時用に考えておいたもので、野球選手が使うスパイクの様な感じで滑り止めになってくれれば良いのだが。

 

「あの…スパイクってなんでしょうか?私は棘の生えた靴にしか見えないんですけど」

 

俺はゆっくり溜息をつくと、ゆんゆんに野球のルールを踏まえて一から教えることにした。

 

「さて行くか」

 

軽く掃除を済ませ、小屋から外に出ると特に何かある訳は無くそのまま道なりに進む。

道は多少は整備されているが、日本のメジャーな山々に比べると殆ど獣道に近い。凸凹道に草むら、細い木々を手で払いながら進む、最初は冒険と浮かれていたが現実はこんなにも厳しい。

ある程度進むと地図にあるゴブリンの目撃情報があった場所に着く、そこは予想以上に開けておりゴブリンだろうか、どこか生活感を感じさせる様に焚き木の跡や動物の骨などが散りばめられていた。

 

「ゴブリンは…居ませんね」

 

彼女も期待が裏切られ、少しがっかりした様に辺りを見渡す。

俺も大きい荷物を降ろし、辺りを見渡して2人で辺りを散策するが特にゴブリンは見当たらなく、また洞窟もない。

 

「残骸から見て、まだ新しいな。暫く様子を見よう此処を見渡せて隠れやすい所は…」

 

辺りを見渡すと、ちょうど良いところに崖下になっている所があり更に茂みもある。

 

「ゆんゆん、あそこで隠れて様子を見よう」

「えっあ、はい」

 

ゲームであれば多分イベントの発生条件の時間帯が違うのだろう、暫く様子を見て駄目だったら一度麓まで降りてまた登りながら考えよう。幸い帰りの馬車までの時間は余裕がある。

彼女の手を掴みそのまま茂みに向かう。勢いで彼女の手を掴んでしまったせいか、ブツブツ何かを言いながら恥ずかしそうに付いてくる。

 

「潜伏スキル使うから、ゆんゆんはなるべく俺に触れ続けてくれ」

 

茂みの奥に彼女のバックを隠し、茂みの中に身体を突っ込み、潜伏スキルを使いながら彼女の手を肩に乗せる。

 

「なんか悪い事をしてるみたいでワクワクしますね」

 

ルンルンと興奮しながら先程の場所を眺めている、これからゴブリンと組んず解れつすると言うのに楽しそうで何よりだ。

まあ、俺もまともな戦闘は初めてなので期待の様な不安はあるが…。

暇なので彼女と話すことにした。

 

「ゆんゆんは、こないだ里から来たって言ってたけど何処から来たんだ?」

 

彼女は聞かれたくなかったのか、ビクッと震え、なんだか遠くを見るような目をしながら。

 

「此処から離れた所に紅魔の里と言うものがありまして…」

 

自分で聞いといてなんだが、煮え切らない様な反応なので

 

「あ、いや別に言いたく無いなら無理に言わなくて良いんだぞ」

「そう言う訳じゃ…ただ里の皆さんは他の人達と比べて少し変というか…個性が強すぎるんですよね、名前とか挨拶とか…」

 

成る程、ゆんゆんという名前は只のキラキラネームでは無くて里だと普通の名前なのか、初対面の挨拶は確かに凄かったな。

 

「その里に住む者は紅魔族と言われて、私みたいに眼が赤いのと魔力値が高いのが特徴ですね。ちなみに里の皆はアークウィザードなんですよ」

「へぇ…って皆アークウィザードだと⁉︎それじゃ里の皆で攻めれば魔王退治も楽勝じゃ無いのか?」

「そう言う訳にも行かないんですよ、魔王の城にも結界が張ってありまして魔法が通らないんですよ」

 

因みに結界を解除するには、8人の幹部を倒さないといけないんですよと、彼女は付け足す。成る程道理で俺たち異世界人が送られてくる訳だ、紅魔族とやらが攻めて終わっていれば誰も苦労はしないだろう。

しかし幹部か…蛙ですら苦戦する俺がどう立ち回ったら良いものか。話が大きすぎる為に、まず何処から考えたら良いか思いつかないが、他にも此処に送られる人は居るらしいしその人に任せよう。

 

「魔王幹部は置いといて、まずは俺たちの生活の安定が先だな」

 

俺たちの立たされた状況は幹部の討伐以前の状態で、まず馬小屋生活の脱却を目標に…

 

 

ゆんゆんと話している事やや数時間、日が傾き始めた頃に数匹のゴブリン達が動物の死骸だろうか、何かを木に吊るしながら先程の広場に運び始めている。

 

「戻って来ましたね、どうしますか?」

 

ゆんゆんは構え、いつでも行動できる態勢に入る。

 

「いやまて、まだ全員集まっている訳とは限らない。暫く様子を見よう」

 

出て行こうとするゆんゆんを制止し、再び監視の態勢に入る。広場に散らかっている骨の量や物の数からしてまだ数匹いるだろう、このまま退治した所で他のゴブリンが戻って来れば挟み打ちになりかねない。

暫く様子を見ていると、先程のゴブリンを筆頭にゾロゾロと集まり広場の中心で薪を組み火を着けるとそこに動物を掲げ焼き始めた。

 

「まるでキャンプファイヤーだな」

 

ふと、昔の事を思い出す。

 

「何ですか?キャンプファイヤーって?」

 

昔の思い出に浸っていると、隣にいる彼女に聞こえたのか聞いてくる。

 

「キャンプファイヤーってのはな、俺たちの国では大人数であんな感じに炎を囲んでドンチャン騒ぎする事を言うんだよ」

 

本来の趣旨とは大分ずれるがおおよそ間違っては無いだろう。

 

「そう言えば里のみんなもやってましたね…なんか大悪魔を召喚するとか何とか」

「おい待て、それは流石に違うだろ‼︎」

 

俺達の世界の常識が変な方向に伝わらない様に横槍を指すと、広場は全員揃ったのかゴブリン達は焼けた動物達を手にしながら宴を始める。

 

「いいか、この食事が終わった頃を見計らって俺が合図したら突撃するぞ」

「はっはい!分かりました」

 

あの状況からして生物の最も奇襲に成功するタイミングは食後だと考える、理由としては単純に動きづらく、急な運動は消化器に負担を与える、給食後の体育でお腹が痛くなる様なものだ。それに俺だったら一息入れたいタイミングで襲われるのは結構嫌だ。

ゴブリンの食事を眺めていると、本当はモンスターじゃなくて中身はおっさんなんじゃないかとふと思う位にその姿は親父臭かった。

 

「楽しそうですね、なんだか私もお腹がすいて来ちゃいました」

 

ゴブリン達の宴会を見て何か感化されたのか、彼女のお腹が鳴る。

この緊張感の中何言ってんだよ…

 

「じゃあゆんゆんも混ざってくればいいじゃない?」

「い、いやぁ…流石に誰も知らない人達の中に手ぶら行くのはちょっと…」

 

気にすんのそこかよ⁉︎。

彼女の考え方にびっくりしていると、ゴブリン達の食事が終わったのか次々と横になっていく。

本当におっさんかよ⁉︎と突っ込みたくなる気持ちを抑え彼女に指示する。

合図と共に彼女は前に出ると詠唱を始め、俺は一時的に別れ走る。

 

「ライトニング・ストライク‼︎」

 

彼女の叫び声とともに、広場の中心に落雷が落とされ食事を終えゆっくりしていたゴブリン達が次々と飛び起きる。

 

「今です‼︎」

 

潜伏スキルを使用しながら、彼女とは別の方向から広場に入り、怯んでいるゴブリンの首に剣を突き立て引いていく。ゴブリンの動きはサイズが小学生位なせいか動きも比例して遅く、この俺でも何とか対応できる。

初めて生き物に手を掛けた衝撃に戸惑いながらも、手を休める訳にも行かずゴブリン達を切り捨てていく。片手剣スキルを取っていたからか、まるで体が知っているかの様に対応し自然と体が獲物を切れる様に動く。

周りを見渡すと、一箇所にゴブリンが集まっている所を見つけ、覚えたての下級呪文を唱える。

 

「クリエイト・ウォーター」「フリーズ」

 

水を生成する魔法と氷結魔法、2つの魔法の合わせ技により、上から水を浴びたゴブリンを足場ごと凍らせ、身動きの取れない状態のゴブリン等に斬りかかる。幸いにもスパイクにより足は安定し踏み込みも問題なく完了し、奴らの首元を掻っ切っていく。

 

「ボトムレス・スワンプ」

 

残りのゴブリンが彼女の存在に気付き、向かって行った所に彼女の魔法が発動する。これは昨日聞いた足止めをする呪文、大きな沼を作り出し相手を沈めるものでまともに食らえば大きな大人でも帰ってこれないらしい。

 

「よし!よくやったゆんゆん‼︎」

 

彼女に手を振り、沼に沈んでいるゴブリンに斬りかかろうとするが…

 

「届かねー⁉︎」

 

彼女の出現した沼は俺の予想以上に広く、ぶっちゃけ弓矢とか無いとキツイ。

 

「おーい‼︎剣が届かないんだけど、どうにかならないのか?」

 

彼女に向かって大声で呼びかける。

 

「そ、そんなこと言われても、一度出したら元に戻せませんよ‼︎」

 

どうしたら良いものか…元々の作戦では、彼女に足止めされたゴブリン達を俺が倒して行ってレベルを上げる手筈だったのだが。

 

「もう俺は良いから、ゆんゆんが始末してくれ‼︎」

 

何体かは倒せたし、まあ良いかと思い残りを彼女に託す。

 

「分かりました‼︎ライトニング・ストライク」

 

再び聞いた落雷の魔法は沼に落ちるとそのまま沼を伝い他のゴブリン達に伝導し、ゴブリン達の悲鳴が聞こえる。

ゴブリン討伐を終え、敵感知で周りを確認し何もいない事を確認し、彼女と合流すると互いの冒険者カードに記録された討伐数を確認し漏れがないことを確認する。

互いの討伐数の合計と突入前の目視での確認数が一致する。

 

「何とかなった、ありがとなゆんゆん‼︎」

 

初めて手応えを感じたクエストで興奮してしまったのか、思わず彼女の肩を抱いてしまう。

すると彼女は顔を真っ赤にしながら、反対側の俺の肩に手を回し俯きながら。

 

「いえいえ、私は言われた事をしただけです」

 

小さな声でボソボソっと言った。

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