誤字脱字の訂正ありがとうございます。
「…きてください……起きて……起きてください‼︎」
「…ん…ああ、ゆんゆんか…後5分頼む」
「そう言っていつも一時間ぐらい寝ているじゃ無いですか‼︎流石の今日は許さないですよ‼︎」
ベットで眠っている俺を叩き起こさんばかりに揺らし続けるゆんゆん。さては昨日の事を根に持っているな?
流石の俺も疲れと言うものがゆんゆん以上に溜まっているのでもう少し長く寝ていたいものなんだが…
まあでもしかし、こうして体感してみて分かった事なんだが、やはり高い寝具というものはこうも寝心地が良いものなのかと改めて実感させられる。
低反発が良いとか聞いていたが、案外このくらいの適度な反発が俺にはあっていることを考えるとやはり個人差というものをあながち馬鹿に出来ない。
「うぇ…分かったよ。起きるから揺らすのをやめてくれ」
あの後俺は少しテーブルの上を軽く片付けた後テラスを後にし割り当てられた部屋に戻るとそのまま熟睡した。
そうして俺の長い1日は終わったのだが、翌日目覚めるとこうしてバッチリおめかししたゆんゆんにいきなり起こされにかかられている状況だ。
「ふぁーあ…知らない天井だ…」
「それは私の実家ですから」
目を開けてまず最初に映ったのは屋敷とは違ったデザインの天井だった。
頭の中では分かっていてもやはり急に寝床が変わると目覚めて早々にびっくりしてしまう。誰かこの現象に名前をつけて欲しいものだ。
「それで急に起こされたけど今日はどうする予定だった感じ?」
「ええ、それなんですけど今日は折角なのでこの里を案内しようかと思いまして」
「この里って昨日回ったじゃないか?改まって見るものとかあるのか?」
「いえ、この里も一応ですけど観光者向けに色々用意していますのでそこを回ろうかと」
「マジか…お前たち紅魔族の観光資源とかって変な方向に尖っているから嫌な予感がプンプンするんだけど」
前に見た紅魔族バーサス魔王軍幹部とかももしかしたら観光名物になるかも的な話も記憶に新しい。
この里での目的は済んでいて特にやる事もないのでこういうのも良いのかもしれないと思い、折角の二度寝を我慢して今回は朝から活動しようかと思う事にする。
「…まあいいか。今日はゆんゆんに任せて紅魔の里を楽しみますかね」
「はい‼︎それじゃあ早く支度してくださいね」
「分かったよ」
「…」
「…」
「…」
「…」
「あの…なんで黙っているんでしょうか?」
沈黙が続く中最初にそれを破ったのはゆんゆんだった。
まあ別にわざとそうした訳ではないのだがそうなってしまうのは些か仕方のないことで
「取り敢えず着替えるから出てってくれない?」
「え、あ、はい。すいません失礼します‼︎」
俺の沈黙の意味を察したのか彼女はそそくさと部屋から出て行った。
流石の俺も女の子の前で着替えるほどガサツでは無いのだ。
「それでは今日はこの紅魔の里を案内しますね‼︎」
「おー」
あの後そそくさと着替えを済ませた俺は嫌な予感がするのでブレスレットを袖の中に隠すと部屋の前で待っていた彼女と再会し、何かの執務をしていた執事に声をかけて屋敷を後にした所で彼女が始まりの合図のようにそう宣言した。
それに追随するように返事を返したが少し抜けたような感じになってしまった。
「それではこちらへ」
そう言われ最初に向かったのは神社のような場所だった。
規模としてはこじんまりとしたお社だったのだが、やはり観光名所とされているだけあってか手入れが行き届いており何処か綺麗な感じを醸し出していた。
「へー紅魔族にも信仰的なものはあったんだな。てっきり神は堕とすものだとか神殺しとかそんな事を言い出しそうなのに」
「ここですか?これは神様を祀ったものでは無くてですね。そうですね…何を祀っているかは中を見て頂ければわかると思います」
そういえばこの世界では神といえば女神様を祀るといった宗教観を嫌というほど見てきたが、やはりこの祠は女神を祀っているわけではないようだ。
ならば一体何を祀っているのだろうか?
そう思い彼女の後をついていくと、本来は神主的なお偉いさんしか開けてはいけないであろう扉を開き中に案内される。
「ここですね。これが御神体です…」
最奥に案内され微妙な表情をした彼女が俺に差し向けたのは、何処ぞのアニメショップなどで荒れていそうなフィギアを何とも丁寧に木彫りで表現したものだった。
これはこれで芸術性の高い代物だったのでじっくり眺めようとしたが、何故か彼女の視線が突き刺さっているような気がしたのであまり興味の無い程で話を進める。
「これは一体何なんだ?」
「さあ私には分かりません…ただ昔紅魔族の方が旅人を救った際に譲り受けた神作と言われるほどの大切な品だと聞いていますね」
神作…そんな表現をするのは俺たち日本人だろう。
成る程な、確かに木彫りでこのクオリティを作り出すのは中々に苦労したことが伺える。これなら確かに神作だが、多分これを神に通じる何かと紅魔族の方々は勘違いしたのだろう。
まあ偶像信仰は良くある事なので特に何も思わないが、それでもまさか萌えフィギアが御身体になるとは流石の俺でも思わなかったぞ。
「何かご利益とかあったりするのか?ほらエリス教とかだと幸運とかが上がったりするとか言うだろ?」
「ご利益ですか?いえ、特にその様な効果は特に聞いていませんね」
「何も無いんかい⁉︎」
長く崇拝すれば神が宿る的な付喪神的な話を期待していたが、どうやらそう言ったことは無いようだ。
次に案内されたのは某剣士のゲームのお約束最強武器的な剣が突き刺さった台座のような場所だった。
ゲームに沿って設置されるなら森の中に隠された某神殿跡地の中に聳え立っているのがお約束なのだが、今回は思いっきり里の中に鎮座しており雰囲気などは全て台無しになってしまっている。
「…何これ?これを抜くと伝説の勇者にでもなれるの?それとも伝説の勇者ならこの剣を抜くことができるの?」
「いえ、そういう訳では無いですね…」
どうやら違うらしい、では一体この剣は何なのだろうか?
今日このタイミングで案内されたと言う事はきっと観光資源の一つなのは分かっているのでそんな大したものでは無いことはわかるのだが。
「…すまん、これってどう言った企画ものなんだ?」
多分この里の人間の仕業だろうと思うので聞き方を変えて聞いて見ることにした。
「これは伝説の聖剣を抜こうと言った取り組みでして一日1人一回だけ抜く事ができる仕組みになっていますね」
「成る程な、選ばれるのは運に選ばれると言った感じか…」
多分腕試しチャレンジ的なものだろうか?
ならば俺のオーバーラップ支援魔法で引っこ抜いてみる価値はあるかもしれないな。
「これは内緒のお話ですけどこの剣は挑戦者が丁度一万人になった時に抜けるような仕組みになっていますので、カズマさんがどんなに頑張っても抜く事はできませんよ」
「マジかよ⁉︎」
「しかも挑戦料を支払わなくてはカウントされませんので、このままだと一生抜けませんね…」
どうやら八百長システム搭載の伝説の勇者選別マシーンらしい。
金儲けも馬鹿では務まらないとは言うが流石にここまであからさまだと、これはこれで一種の趣旨として楽しめそうだなと思うがチャレンジする挑戦者の挑戦料はこの里の財政の肥やしになってしまう訳だ。
つまり抜くまで誰かの養分と言う事になるのだ。
「成る程な…一回全力で挑戦してみてもいいか?これくらいなら行けそうな気がするんだけど」
軽く掴んでみるとやはり魔法か何かでしっかりと固定されている様な感覚がするが、支援魔法を重ねて行けば何とかゴリ押しできそうな気がする。
冒険者だがこれでも魔王軍幹部を3人ほど屠っているんだ、レベルだけ見ればそれなりに実力があると言うわけだ。
「駄目ですよ⁉︎そんな事したら鍛冶屋のおじさんに怒られちゃいますよ‼︎」
「やっぱり駄目か」
流石に弁償等々の話になると厄介なので名残惜しくも剣の柄から手を離す。
こうしてカズマの聖剣伝説は意外な形で幕を降ろしたのだった。
三つ目に案内されたのは池のような多分泉だろう結構広い水溜りに案内された。
泉の背景には大きめの岩が置かれているので、うまく距離を合わせて写真を撮ればそれなりに凝ったものが撮れそうな感じがするがこの世界に写真は無かったなと思い出す。
「それでこの泉には一体何があるんだ?」
見た感じは泉の中に小銭やら武具が沈められているのでおおよその事は察せられるが、ここは紅魔の里なのでもしかしたら突拍子も無いような道の文化があるのかおしれないので念のため確認する。
「ここは願いの泉ですね、ここにコインや斧を投げると女神が現れるという噂があります。なのでこうして泉を除くエリスやら武具が沈んでいるんです」
「成る程な…」
これは俺の国でもよく見るな…まあ考えたのは十中八九日本人だろう。話の内容が完全に童話の金の斧と銀の斧の選択を迫られるアレに近い。
「そうそう、あの石で覆われた所にエリス硬貨を投げると願いが成就するとか言いますね。カズマさんもどうですか?」
「さりげなくこの里の財源を潤わそうとすんなよ…まあでも面白そうだからやってみるか」
「そうですね上手く一発で入れられたらさらに泉の精が現れて願いを直接叶えてくれるとも言い伝えられていますよ」
日本だとよく地蔵とかが奥に置かれてその麓に竹を編んで作られた小さな籠が設置されている様なものを見たことがあるが、多分それに近いものだろう。
エリス硬貨は一エリスから存在するので、それを財布から出して思いっきり投擲する。
話が何だがパチンコの演出じみているのは俺の気のせいだろうか?まあせっかくの観光なのでプレイする時だけは何も考えないで行うのも悪くは無いだろう。
「いっけ‼︎スキルなしのカズマ様直伝の投球フォームだ‼︎」
流石に運や実力試しにスキルを使うわけには行かないので完全に実力で投げてみたが、やはり日々狙撃スキルを乱用してたせいかスキルを使用しなくてもこの距離くらいなら的中させることに成功した。
「おっしゃ‼︎」
「流石ですね‼︎」
一発で入れた感動で思わずゆんゆんとイエーイとハイタッチをかましてしまう。
俺たちのバイブスは絶好調に達している。
「…なあ」
「どうしたんですか?さっきから泉を覗き込んでいますけど」
そして暫く待っていたのだが、俺の思っているような展開は起きなかったのでゆんゆんに尋ねてみると彼女は不思議そうに俺に問いを返してきた。
「あそこにコイン入れたら女神が出てくるんじゃ無いのか?」
「………出ません」
ボソッと疑うことを知らない子供の如く彼女に問いかけると、暫くの沈黙の後彼女もまたボソッと返事を返してくれた。
「子供騙しかよ‼︎」
やる前というかこの里の案内ツアーの前から全て子供騙しという事はわかっていたので特に精神的ダメージはなかったのだが、それでも折角一発で入れたのだから何かしらのリターンがあっても良いでは無いのだろうか。
「よし、後でめぐみん呼んで爆破してやろう‼︎この俺の怒りを里の皆に知らしめるチャンスだ」
「そんな無茶苦茶な⁉︎」
適当にストレスを発散しながら案内されたのはファンタジーあふれるこの里には似つかない工場だった。
「ここは何だ?紅魔族のブラックボックスでも隠されているのか?」
「ブラックボックス?それが何なのかは分かりませんけど、ここは謎施設と言われて世界を滅ぼせるほどの兵器があるそうですよ」
「マジか…でもさっきみたいに子供騙しで結局はハリボテなんだろ?」
「…いえ、ここは里の観光名所みたいな特徴はないですね。昔はここで何かを作っていたみたいな話は聞きましたけど今は何をしていたかまでは分からないです」
「へーまさに謎施設だな。中に入れば何かあるんだろ?それとも中はスッカラカンで外装はハリボテなのか?」
何故彼女がここを案内したのかわからないが、せっかくなので中に入ってみるのもいいかもしれない。
「中には色々施設がありますけど古代文字で色々描かれていてよく分からない機械があるだけですね」
「へーまさに古代遺跡みたいな感じか」
「そう言う感じですね。カズマさんの事ですから中に入りたいとか言い出しそうなので早く次に行きましょう」
「え?駄目なの?てっきり中に入れるかと思ったんだけど」
「この中に入るには許可が必要ですから今回は駄目です!」
施設に向かって進もうとする俺を必死に抑えようとすゆんゆんに抵抗するが、やはり支援魔法無しでは彼女には勝てないのでそのまま後ろへと引きずられていく。
「じゃあなんで案内したんだよ?駄目だったら案内しなきゃいいだろ」
「カズマさんの事ですから案内しなかったら後々誰かの会話からこの施設の存在を知って私たちに内緒で勝手に侵入しそうじゃないですか‼︎」
「うぐっ⁉︎」
屁理屈で強引に押し通そうとしたが、やはり付き合いが長いだけあって図星をつかれてしまい言葉を返せなくなってしまう。
「わかったから引っ張るのをやめてくれ!腕がもげる‼︎」
仕方なく彼女の要求に応えてそのまま次に案内される。
「一気に人が増えたな、さっきまでの閑静さが嘘みたいだ」
次に案内されたのは里の住宅街みたいな所の商店街みたいな所で、服屋や武器屋など様々な建物が乱立していた。
「ここは私たちがよく利用するお店がたくさん集まっている所ですね。よく利用すると言ってもこの辺り以外のお店はほとんど無いんですけどね」
「へーそうなのか」
どうやらこの店群が紅魔族の生活圏の主軸を支えているようだ。
まあ、生活必需品はアクセルの店では幾つかあったが、武器屋に関しては鍛冶屋等々の区別があったが一店舗しかなかったはずだが。
「せっかく来たので服屋に行ってみませんか?私も行くのは久しぶりなんですよ」
「だろうな、まあ今日はゆんゆんに任せるって決めてるから好きにしてもらって構わんぞ」
無邪気にはしゃぐ彼女の後を追いながら服屋にたどり着くとそのまま案内されるがまま中に入っていく。
「いらっしゃいませ」
入って早々挨拶をしてきたのはチェケラと名乗る店主で、その名前通り弾けたテンションで俺たちを接客しながら服屋の買い物は進んでいく。
「これなんかどうでしょうか?」
「いいんじゃないか?けどたまにはこう言うのもアリだな」
彼女の提案する服に俺の要望を取り入れながら買い物は進んでいく。
しかし、どれもこれも英語の筆記体みたいな文字やドクロや鎖等々昔よく着た服ばかりで懐かしいな
「ゆんゆんちゃん今日は結構買って行くけど大丈なのかい?こっちとしては助かるんだけど」
最後の会計の際に彼女の積み上げた服をみて店主であるチェケラが不安そうに聞いてくる。
「ええ、大丈夫ですよ。この里を出てから普通の服を買っていなかったのでむしろこれくらい買わないと回らなくなってしまいますので」
確かに最近の彼女の服がくたびれてきている感があったし、言われてみれば彼女がクエストの際に着るエンチャントのついている戦闘服以外の服を購入している所を見たことは無かったなと改めて思う。
「そ、そうなのかい?まあせっかくボーフレンドに選んでもらってたからね」
「そうなんですよ」
なんか知らないうちに外堀を埋められているような気がするが、気にしたら終わりのような気がしたので目線を外の干してある服にずらす。
「ん?」
「どうかしました?」
「いや、あれは何かなって」
目線を外に向けると、洗濯物を干している物干し竿の一つが他の物干し竿とは違ったというか、また別の物に見えて仕方がないのだ。
「お‼︎アレに目をつけるとは流石だね。アレは由緒正しき伝統の物干し竿だよ」
「へーそうなんですか…」
どっからどうみてもシルエットがライフルなんだけど、この世界の人間がそれを知る由はないだろう。
まあ、特に実害はない事だしここは黙っておこう。
「毎度あり‼︎」
買い物を終え、一度荷物を彼女の家に置きに行った後に俺は里の展望台という名の丘に案内された。
「ここでは魔道具を使って魔王城が見えるらしいですよ」
そう言い彼女が見せたのは、よくタワー系の観光名所に行った際に100円入れて使用できる設置型の望遠鏡だった。
びっくりしたと言うよりかは懐かしいと言った感情の方が勝つのだが、すごく覗きたいとかそんな気はしなかったので金を払って覗くのはやめておいた。
「今日は楽しかったな、ありがとう」
「いえいえ、私もカズマさんと久しぶりに出かけられてよかったです」
丘に寝そべる形で里を見下ろしながらゆんゆんと取り留めのない会話をする。
アルカンレティアでの旅行では散々な目に遭ったのでこうしてゆっくりと見た事のない世界を見せてもらうと言うのは中々に乙だ。
「このまましばらくゆっく…」
「どうかしましたか?」
ゆっくり話でもしてようぜと言おうと思った所で言葉に詰まり、それに不安を感じたゆんゆんが心配そうに聞いてくる。
「あーあ俺の平穏な日々終わったかも…」
「どう言う事ですか?」
「めぐみんの家の近くに魔王軍が来てる」
「あっ…」
里全体を一望できるので思わずあの辺りにめぐみんの家あるなーとか思って千里眼を使ったのが運の尽きだった。
小鬼などのモンスターを引き連れた幹部と思われる女性が里の外れにあるめぐみんの家の方からこっそりと里に侵入してきたのである。
「今日はオフの予定なんだけどな…仕方ない戦いたくないからアイツを足止めしながら里のみんなを呼ぶぞ」
「そ…そんな」
アルカンレティアならともかくお世話になった紅魔の里でこれを見逃せるほど流石に薄情ではないので、仕方なくゆんゆんを起こして向かうことにした。
「それじゃ俺はアイツらの足を止めに向かうからゆんゆんは里のみんなを呼びに行ってくれ‼︎」
「わ、分かりました‼︎」
彼女と分かれ丘を急降下するとその勢いそのまま支援魔法で速度を強化しながらめぐみんの家のある方向へと走っていく。
幸い相手が魔王軍幹部だった事もあり気配が大きい為道に迷う事はなく、時間ロスを最低限に留めながら目的地へと向かった。
「遅いですよカズマ‼︎ですがよくここが分かりましたね‼︎」
目的地である場所に着くと既に気配を察知していたのか、俺よりも早くめぐみんが魔王軍と相対して時間稼ぎをしていた。
「でかしたぞめぐみ…っておい⁉︎」
そういえば爆裂魔法しか使えないめぐみんが魔王軍に対してどうやって足止めしていたのかと言う疑問が頭に浮かび、それが一瞬のうちに解消した。
そう、地面を見ると彼女が爆裂魔法を使う際に出現する魔法陣が地面に展開されていたからだった。
つまり現時点でこの紅魔の里の大部分は彼女の意思一つで吹き飛ばされてしまう可能性を孕んでいると言う訳だ。
「そこの魔王軍の方達、命拾いしましたね‼︎我が従僕であるカズマが来た以上もはや私が爆裂魔法を撃つまでもありません‼︎」
めぐみんは俺が来た事を確認すると爆裂魔法の発動を止め、展開されていた魔法陣を収束させる。
「おい‼︎何俺の名前を言ってやがるんだ‼︎」
「え⁉︎」
折角足止めしてくれていたのに思わず怒鳴ってしまう。
こんな連中に名前が知られたら間違いなく指名手配される。
そうなれば色々なモンスターが俺の事を狙い始めてしまうだろう、平和を願う俺からしたらその状況はとても許せる物ではないので出来れば名前を覚えられる事だけは避けたかったのだ。
「折角カズマの名を他の魔王軍に知らしめてやろうと思ったのですが…そうですねでは私も名乗りましょう‼︎そうすればカズマのよく言うwin-winの関係という奴です‼︎聞け魔王軍共我が名はめぐみん‼︎」
俺のよく使う俗語を吸収し見事アウトプットして見せためぐみんだが、お前の名前までバレたら追われる危険性倍増でlose-loseなんだけど…。
「こいつ端とは言え里の皆を巻き込む事を承知で爆裂魔法を放とうとしていましたよ‼︎こんな頭のイかれた紅魔族は初めて見ましたよ‼︎」
「何ですと⁉︎」
名乗りを終えると別の意味で畏怖を与えてしまったのか幹部である女性に撤退するように進言し、イかれた女扱いされたことに彼女は激怒した。
成る程、今回の相手はシルビアと言うのか。
「確かに出会い頭に自分自身を巻き込みながら爆裂魔法なんて恐ろしい事するなんてウォルバクでもしないわね…」
「そうですよ‼︎今回の作戦も見つかった時点で撤退とおっしゃっていたじゃないですか‼︎」
「それはそうだけど…」
「さあ早く撤…痛⁉︎」
「狙撃‼︎」
人の事は言えないがダラダラと会話を続けていたので思わずそこら辺にあった石を狙撃スキルで投擲してしまった。
「何しやがるんだ人間‼︎」
流石に石をぶつけられたらキレるのは全種族共通か。
「悪い悪い…話している所悪いんだけどさ、俺がこのまま逃すと思うのか?おいめぐみんもう一度爆裂魔法の魔法陣を引け‼︎もしコイツらが逃げるそぶりを見せたらその場で爆発させてやれ‼︎」
「おお、カズマがいつになくカッコイイこと言っています‼︎ついに目覚めたのですか‼︎」
調子に乗って悪いを3回も言ってしまったが、なんかめぐみんのテンションが上がっているので良しとしよう。
あまり調子に乗ると碌な事がないので慎ましくしていたのだが、今回は最強のアークウィザード集団がバックに居るので少し強気で攻めて見るのもいいかもしれない。
運がいい事に紅魔族の方達がこちらに向かって来ているのが感知スキルで分かることだし、奴らを討伐するのは時間の問題だろう。
「あの小娘だけかと思っていましたがカズマとか言う男も頭のネジが吹っ飛んでやがりますよ‼︎」
「いいじゃない、背伸びしてる男の子は嫌いじゃないわ、ここは坊やの勇気に免じて私自ら出向いてあげるわ」
何故か俺とシルビアで一対一で戦う的な話になってる。
勝手に話を進めないで欲しいと言いたいが、部下全員で襲い掛かられたら流石の俺でも対応しきれない。
もうこれは仕方がないのだ。
「今日はゆったりと過ごせたいい日だったのによ…結局邪魔されてすこぶる機嫌が悪いんだ、運が悪かったんだよ…お前らは」
そう言いながら念のために腰に下げていた剣に手を掛け、鞘から引き抜いていく。
「へえ、中々に自信があるようね、見たところ坊やは紅魔族じゃないみたいだけど」
「…」
坊やと呼ばれたことでオークとの戦いを思い出し背筋が凍ったが、奴らはここまで来ないしあれだけ図体がでかければここからでも分かるので大丈夫だろう。
俺の本能がオークと言う生物を天敵と認識している。
「ああ、俺は普通の冒険者だよ。ただベルディア・バニル・ハンスの3人を葬ってきた普通の冒険者だよ」
「何⁉︎最近連絡がなくなったと思っていたけど、やはり倒されていたのね…」
俺の言葉を聞いて思い当たる節があるのか疑う事なく信用した。
やはりというか普通なのだが、奴らが倒された情報は魔王軍に伝達されていたようだ。
「そして4人目はお前だシルビア、お前もこの剣の錆となれ‼︎」
「か、カズマが過去サイコーにカッコイイです‼︎」
鞘から引き抜いた剣をシルビアに向け高らかに宣言する。
二日間ずっと紅魔族と過ごしていたためか、それとも元々の俺はこんな感じだったのか何も考えなくても中二病みたいなセリフが湧き上がってくる。
言ってみると案外謎の爽快感があるのだが、変に癖になってアクセルに戻って出たりしないか心配だ。
「へぇ流石に自信がある様だね。それじゃあ要求通り一度手合わせ願おうじゃないの」
「いいぜ」
「か、カズマ‼︎大丈夫ですか⁉︎流石に調子に乗りすぎじゃないですか?」
「うるせぇよ‼︎折角カッコつけてるんだから黙ってろよ‼︎」
小声で忠告するめぐみんに小声で怒鳴り黙らせる。
しかし、やはり調子に乗り過ぎたところはあるかも知れない。里のみんながこちらに到着するのはもう少し掛かるのだがそれでも距離は遠くはない、それでもその間に俺が一撃喰らってしまえばもしかしたら死んでしまう危険性がある。
身から出た錆とはこの事を言うのだろう。
しかし覆水盆に帰らず、一度口にした言葉は元には戻らないのだ。
ならばここで腹を括って奴と相対して時間を稼ぐのが筋と言うものだろう。
剣を構えながら数歩前進むとシルビアもそれに合わせて前に出てくる。
姿を見るに背丈は俺を優に超え、目つきは細く蛇を連想させる。
感知スキルで分かる限りではこいつは単体の筈なのに気配が一つではなく様々な気配が混ざった奇妙な気配をしている。今までこのようなケースは無かったが、もしかしたら人格が沢山あるのか、それとも色々な生物を体に飼っているのか、それとも合成獣なのか色々な推測は立てられるが、どれが正解になるかによっては攻略方法が180度変ってしまう。
「あら私の事をジロジロ見てそんなに私に興味があるのかしら?」
「気持ち悪い事を言ってんじゃねえよ‼︎気が散るだろ⁉︎」
「あらやだ吠えちゃって坊やって意外と可愛いじゃない!」
いちいち人のトラウマを抉るような喋り方にペースを乱されるが、その程度で集中を途切れさせる程柔な鍛え方はしていないとクリスと過ごした地獄の日々を思い出し精神を安定させる。
「それじゃ行くぜ」
「来なさい坊や」
互いに構え、周囲には緊張が走った。