この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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遅くなりました、ギリギリなので読みづらいかもしれません…
誤字脱字の訂正いつもありがとうございます。


紅魔の里14

サキュバスランジェリーを後にしてゆんゆんのいる屋敷へと向かう。

こんな遅くまで飲む予定はなかったのでこっそり戻れるか不安だが、俺には潜伏スキルがあるので大丈夫だろう。

 

やはり飲み会で全員外に出払っていた為か辺りは不気味すぎる程に静かだった。

…これが嵐の前の前触れでなければいいのだが、と思いながら潜伏スキルで屋敷へと戻る。

 

シュワシュワという名のアルコール類似物質が体に回っている為か体がふわふわとした感じになっており、なんでも出来そうな万能感に満たされているがこれが酒飲みが失敗する理由だろうと思いよからぬ事をしまいと自制をかける。

もうお酒で失敗したくは無いのだ。

 

「帰ったぞー」

 

ボゾっと呟きながら潜伏・罠解除など様々なスキルをふんだんに使用してこっそりと族長の住む屋敷へと侵入する。

女性の家へスキルを使用して侵入するなんて字面だけ見るなら最低な行為だが、今回のそれは仕方がないだろう。

 

正面の門のロックを解錠してなるべく音を立てないように開き庭へと侵入する、夜の庭園なんて随分とおつなもんだなと思いながら眺め、道沿いに進む。

それからセキュリティをそつなく掻い潜り屋敷の正面へと辿り着く。

 

族長とは言え所詮は片田舎の村長にしか過ぎないので警備もこの程度だろう。

以前何故かクリスに仕込まれた屋敷の侵入方法がまさかこんな方法で役に立つとは思わなかったので、思わずこの人生は何がどう繋がるか分からねーなと心の中で笑ってしまう。

 

裏口のドアを解錠し、スキルで音を隠しているとは言え念の為とゆっくりとドアを開き中に侵入する。

中は既に片付けが済んでいるのか気持ち悪いくらい静まり返っており、下手なことをすれば俺が戻ってきたことがバレるだろう。

 

…まあこんなに意地を張らずにインターホンを押せば執事の爺さんが迎え入れてくれそうだが、ゆんゆんにねりまきと会っていることがバレると変に誤解されて後々面倒なことになりかねない。

 

…後は部屋に戻るだけだな。

中に入りドアを閉め、自分に言い聞かせるように心の中の小言で決意表明し前を向いた時だった。

 

「うっ⁉︎」

 

俺の首元にうっすらと銀色の線が引かれている事に気づき即ざに動きを止める。

光り方からして何かしらの刃だろう。感知スキルは人も罠も何も反応していなかった事を踏まえると、この状況を生み出した人はかなりの手練れと見える。

しかし、本来であればこのまま刃を引かれ俺の喉は掻っ捌かれて失血死してしまうのだが、今のところその動きは無い。

 

…つまりは

 

「…おや、誰かと思えばお嬢様の御友人でしたか」

 

両手を挙げ、無抵抗である事を示しながら待つこと数十秒。その無限に思える程の短い時間という矛盾した時を感じながら待機していると侵入者は俺ということに気づいたのか話しかけてくる。

声の主は声色からして屋敷の執事をしている爺さんだろうか。声の距離が少し遠い所から見ると得物は中距離から遠距離型だろうか、どちらにしてもこの状況では何もできない。

 

前言撤回セキリュティが薄かったのは片田舎だからではなく、この爺さんがいるから必要ないという事だったようだ。

いや、むしろ入る時のセキュリティが薄い分油断してしまう事も計算に入れているのかもしれない。

 

「このようなお時間にいったい何をされていたのですかな?」

「…悪いね、里の皆が参加している打ち上げパーティーに参加しないで外で飲んでるなんてゆんゆんには言えないからさ」

「面白い方だ」

 

この爺さんの追求から逃れるとは思えなかったので正直に事を話すと、不気味な位に笑みを浮かべて笑いながらをボソッと言葉を発した。

 

「マジか⁉︎」

 

言葉と共に一瞬の殺意を感じたので後方に回避をすると、目の前にあった刃の線が目の前を横切り視界から消えた。

避けていなければ今頃俺の首は上と下で別れていただろう。

 

「危ねぇな⁉︎何しやがんだ‼︎」

「何をと申されても見ての通りお嬢様の露払いとしか」

「成る程な、俺はゆんゆんに取り憑く虫って訳か‼︎」

 

どうやらこの爺さんは俺を始末したいようだ。

まったく客人になんて対応するんだと怒りたいところだが、長年面倒を見てきた主人の娘が連れてきた男が寝ている事をいい事に外で飲み歩いていたと知れば手の一つでも挙げたくなるだろう。

気持ちは分からなくはないが、だからと言って殺されるわけにはいかないのだ。

 

光の線が消えた方向とは真逆に体を運び何処に居るか分からない爺さんと距離を取る。

流石に姿を見ないで事を鎮静化するのは不可能に近いので、感知スキルを全て爺さんを捉えるために絞りに絞るとなんとかその輪郭を捉えることに成功する。

 

「薙刀か…随分渋い武器を使ってるな」

 

はっきりとは分からないが形としてはそれに近いだろう。

アークウィザードの里にまさか武闘派が居るとは思っていなかったが、考えてみると確かに魔法軍団を抑えるなら近距離の戦士を1人くらいは置いておいても不思議ではない。

しかし、まさかゆんゆんの居る屋敷でリアルファイトするなんて流石の俺でも予想できない。

 

「この私の姿を捉えましたか…成る程、流石お嬢様が連れているだけの事はありますな」

「お褒めに預かり至極恐悦だよ、まったく」

 

腰に携えた剣を鞘から引き抜き正面に構える。

オークなど違い、今回の相手は切断系の技を使ってくるので一撃でも生身で攻撃を受ければガードしていても四肢切断の可能性が出てくる。

であれば、攻撃は最小限にとどめ残りの余力は剣を利用した防御に徹するのがセオリーだろう。

 

…と言うか何で俺たち闘ってるんだ? 

構えてみたのはいいのだが、流石にこの場で殺し合いみたいな私闘はどうなのだろうか?

相手は完全にやる気みたいだが、俺としては混乱の方が大きい。この里に魔王軍が攻めてきている以上余裕だとしても戦力を削ぐのは得策だとは思えない。

 

「念の為に確認するけど俺を殺す気なのか?」

「もちろんでございます」

「即答かよ⁉︎」

 

執事は俺の問いに対して目線を逸らす事も迷う事も無く1秒に満たない間の後に答えた。

たかが飲みにいっただけなのにここまでの仕打ちを受けるとは流石は紅魔族族長のお屋敷だ。欲に駆られて一つの選択肢を間違えただけで命を狙われるとは…

 

「これくらいの事で殺されるのは不本意だけど、せっかくの機会だから試しに付き合ってやるよ‼︎」

 

もうどうにでもなれと、何処ぞの戦闘狂みたいな台詞を吐きながら自分に対して発破をかける。正直言ってキャラじゃ無いんだが、それでもアークウィザードの集団を仕切る紅魔族の族長を守護する役目を担っている老人の実力を試して見たいと言う気持ちがないわけではない。

 

「どうやら覚悟が決まったようですな、そうでなくてはこちらの興が削がれるというものです」

 

俺の意を汲み取ったのか、執事の爺さんも乗り気で薙刀を構えるとそのまま俺に向かって突っ込んでくる。

モンスターの戦闘民族の次は紅魔族に潜む戦闘民族かよと心の中で突っ込む。どうもここに来てから血の気の盛んな連中らと遭遇するなと若干困惑する。

 

「はっ‼︎言うじゃねえか‼︎紅魔族族長の執事だが何だが知らないけどこの場で引退式あげてやるぜ‼︎地獄で余生を送りやがれ‼︎」

 

罵詈雑言を浴びせながら執事の横なぎを上体を逸らして側方へと回避する。

正直言って素の状態では認識する事すら怪しいが、今回に限っては感知スキルと今までの戦闘で培った勘にものを言わせて回避する。

 

「ほう…」

 

まずは大腿部に軽く切れ込みでも入れて牽制してやろうかと思い切先を向けたが、やはり相手は手練れで薙ぎ払われた刃はすぐさま切先を切り返し俺の頭上へと進路を変更していた。

しかし、それをはいそうですかと受ける訳もなく、体を翻しながら剣で刃を弾き軌道を逸らした上で後方へと回避する。

 

「末恐ろしい爺さんだな」

「そちらこそ、そこら辺の坊主かと思いましたが、認識を改めなくてはいけないようですな」

 

一度の攻防戦で互いの実力が自身の想像よりも上の方にいると両者共に認識したところで、再び得物に力を込め構え直し仕切り直す。

互いに実力を上方修正した事により変な間のようなものが出来てしまう。

 

まどろっこしいので俺の方から踏み込み攻撃を仕掛ける。

先手必勝とただの袈裟斬りを爺さんにお見舞いすると、何かの流派なのか不気味なほどにブレのないステップを刻むと残像のような気配の影を残しながら即方へと体をずらし下段へ薙ぎを放つ。

もはや視覚のみでの視認は難しく、直感に近い感覚に身を委ね体を側方に翻しつつ横に半回転し横薙を回避し、躱しきった事を確認しないまま次の一手として全体重を乗せた横切りを放つ。

 

しかし、そんな事は把握済みと気付けは爺さんの姿はなく気配は俺の視認していた場所よりも一段階上へと跳躍を済ませていた。

 

「なろ‼︎」

 

気付けば全体重を乗せた一撃を肩透かしの如く躱され、上方から振り下ろされる一撃を跳ね返せるほどの動きを出来るほど余裕はない。

背に腹は変えられないとそのまま体を前方へと前転させ、無様にも床を転がりながら振り下ろしを回避し前回り受け身の要領で起き上がりつつ距離を取る。

 

屋敷の廊下という狭い状況下で不利だと思われていた長物の得物は、その不得意性で足を引っ張るような事はなく寧ろ俺を追い詰める為に真価を発揮しているように見える。

 

「成る程…その薙刀の長さはこの廊下のサイズに合わせて作られているってことか?」

「御名答、この薙刀はスラッシュバスターと呼ばれる業物で、私がこの屋敷にお招きいただいた時にご主人から頂いた物でしてな、私の身長とリーチを計算され長さを決めた物と伺っておりまますな」

「はぁ…今ので全て台無しだこの野郎‼︎」

 

相手の秘密を見抜いてカッコ良く決めたのだが、ここにきて紅魔ネームを浴びせられてしまうと何だか締まりのない展開へと崩れてしまう。

 

しかし、それで状況は変わる事はなく。寧ろこの廊下自体が爺さんにとっての独壇場と分かってしまった以上、ただでさえ掴めていない状況下で不利な要素が加わり俺の精神的ストレスが増えた事になる。

 

「そろそろ息は戻りましたかな?」

「けっ、知ってて付き合ってやがったな‼︎」

 

適当に話を引き伸ばし息を整えていたが、この爺さんはそんな事は知っていたとあえて俺の息が整ったタイミングで言葉をかけて来た。

どうやらこの状況は場所が屋敷である事を差し引いても俺の方が下という事を知らしめられる。

 

ならばこれ以上真面目に切り合ったところで勝ち目など無いことは考えるまでもなく、またいつもの如く搦手を使わなくては勝ち目はない。

 

通常何かとこうして戦う時は事前に色々と仕込むのだが、今回に限っては突然だったので何も準備をしておらず、寧ろ遊びに行く感じで部屋に小道具を置いて行ってしまっているので俺の手持ちにはこの剣と投擲用のナイフが数本あるくらいだ。

本来ならナイフで牽制をしつつ隙を作るのだが、今回の相手はそんな手を物ともしないだろう。

 

「考え事をしているようですな。成る程、私との実力差を知り戦術を考えているようですな。だがしかし‼︎」

 

互いに一定の距離を取り両者共に相手の出方を伺っている局面だったのだが、俺の行動をすぐ様察知し一瞬のうちに俺との間合いを埋めるとそのまま突きを繰り出してきた。

 

「ぐっ‼︎」

 

それを何とか剣を挟み込み軌道を側方へと逸らすが、それを事前に予知していたのかそらされた状態から足を一歩踏み出し横薙ぎへと流れが変化し俺を挟んだ剣ごと横へ払い飛ばす。

飛ばされ空中で浮遊感を感じつつも早く体勢を整えなくてはいけないと思い空中に風の魔法を放ちブレーキをかける。

 

勢いを殺し、地面に足を着いた所で剣を前に構え防御の姿勢を取ると、丁度そこ目掛けて追い討ちの薙ぎ払いが放たれ受け止める形になる。

この攻撃はまあ来るだろうと思っていたので、防御した余力で横に払い反動で薙刀の刃が後方へと弾かれたタイミングで袈裟斬りを放つ。

 

「ごふっ‼︎」

「甘いですな、相手の攻撃を弾いたからと言って必ずしも相手が丸腰になるとは思わない事ですな」

 

今のは完全に取れたと思った瞬間、爺さんの姿が消えたかと思うと腹部に激痛が走る。

一体何が起きたのかは分からないが、このままだと次の一手を打たれ致命傷を受けかねないのであえて大振りの攻撃を放ちその反動を利用して後方へ退避する。

 

何が起きたのだろうか…

後方に退避しながら爺さんの姿を捉えると石突を前方に突き出している様子が見えた。

 

要するに刃を後方に上手く弾けたのではなく、奴はそれを見越してわざと弾かれた様に後ろに薙刀を引いた事になる。

そして相対的に前に出る事になった石突を突きという形で前方に繰り出し俺の腹部に直撃させたのだ。

 

「相変わらず恐ろしい爺さんだぜ」

 

痛みを回復魔法で引かせ、距離をとる。

普通の戦闘ならこんな休ませる暇を与えない物だが、何故だがこの爺さんは攻防戦の間にこうして数秒の休憩を挟んでいる。

自身の回服のためだろうか?

いや、その可能性は低いだろう。あの爺さんはこの状態でも息一つ乱れていない。そんな達人が果たして休憩を取るだろうか?

 

ならば考えることは一つ。

もしそれが予想通りならこの爺さんはかなり食えないクソジジイという事になる。

 

「動きの新鮮さがなくなって来ましたな、そろそろ限界が近いようだ」

 

まるで曲芸師の様に薙刀を振り回す演舞を見せながら俺のことを挑発する。

 

その発言に対し挑発を返したいが、爺さんのいう通り俺の体力もそろそろ限界が近い。

言い訳をさせてもらえれば酒を飲み過ぎて気持ちが悪く、コンディションが最悪なのだ。

 

これ以上も戦闘の続行ジリ貧なのでそろそろ決めないと、文字通り殺されかねない。あの爺さんはチャンスを与えリスクも与えているのだ。

 

「悪いけど、これで決めさせてもらうぞ‼︎」

「…ほう、覚悟を決めたか。ならば私も答えるとしよう」

 

剣を鞘に収め脇腹にスライドさせいつでも抜刀できるようにし、持っていたナイフを半分に分けて奴を左右から挟み込むように矢状面状に回転を加えながらそれぞれ投擲する。

流石狙撃スキルと感銘を受けるほどに綺麗な曲線を描きながら放たれたナイフはブレる事なく爺さんに向かって行き、左右の退路を塞ぎ残された前方の道を埋めるように俺は剣を鞘から引き抜き前方へと駆け抜ける。

単純だが、これにより爺さんはナイフを処理しなくてはいけない必要性が生まれ、それに動きを要すれば俺の攻撃の対処が僅かに遅れる。

俺自身も危険リスクに晒されるが、それでもリスクを冒さなければこの爺さんに勝つ事はできない。

 

「貰ったぁぁぁぁぁぁぁーっ‼︎」

「ふむ…成る程、私も舐められたものだ‼︎」

 

完全に捨て身に走った俺の攻撃に対して爺さんは臆することなく薙刀を正面に突き出し突き構えを取ると、そのまま俺に向かって突撃してくる。

狙撃スキルの能力で軌道が収束したナイフ群を臆することなく前に前進することでズレを生じさせ、両腕を皮一枚切らせ躱す。

 

流石の狙撃スキルも掠ったことで役目を終えたのか、その機動性を失い爺さんを追いかけることなく慣性のまま床や壁に突き刺さる。

そして互いに交わす選択を捨て突撃を選び前方へと攻撃を進め、両者が交差する瞬間を迎える。

 

「「勝負だ‼︎」」

 

互いに紅魔族に影響されているのか言葉を持って最終接戦の狼煙をあげる。

 

突き同士、スキルを使い互いの切先を合わせて拮抗させればいいのだが、爺さんの実力的に恐らく純粋な力比べではなく力の使い合いになるので負ける可能性が高い。

ならば俺の取る方法は、たった一つ。

 

剣を奴の薙刀にぶつけ軌道をギリギリ俺に当たらない所まで逸らす。

しかし、そのまま剣を持ち続けるとその反動を受け側方へと体が飛ばされてしまうので、剣を離し反動を全て預け後方へと飛ばしそれによる反作用でより前に進み、空いた手で無謀にも薙刀の柄を掴みそのまま自分の体へと引き寄せ押し下げるとそのまま足で地面まで踏み倒す。

それと同時に左手に水を生成し、風で整え氷の魔法で固め薄氷の剣を作成しそれを爺さんの喉へとそらせる。

 

正直賭けの要素が強く、なおかつ左右の手で全く違う作業を行うというかなり狂った作業を熟さないと行けなかったが、躊躇しないで勢いで行けば案外何とかなると思い知った。

 

「チェックメイトだ爺さん」

「ほう…これはこれは」

 

負けを認めたのか手に持っていた薙刀を離しそのまま地面に落下するが、これが映画なら足でキャッチして形成逆転みたいな事に成りかねないので、そのまま足の力で踏み落とし地面に抑える。

 

「流石にこれも効きませぬか」

「残念だったな」

 

どうやら俺の考え通りの事をしようと思っていたのか残念そうにそう言うと両手をあげ降参意を俺に伝える。

しかし、そこで気を許すほど俺も甘くは無く今度は右手で薄氷の刃を生成し二刀流にし、何かあっても対応できるようにする。

 

「…止めは刺さないのですかな?」

 

膠着状態になると最初に爺さんが口を開いた。

 

「いや、あんたは完全に俺を殺そうなんて思ってなかっただろ?まずは理由を聞こうかと思ってな」

 

フッとカッコ良く決めると廊下の奥から拍手が聞こえ、ゆんゆんの親父さんが現れる。

感知スキルを爺さんに絞っていたので気づかなかったが、屋敷の奥の方で俺の戦いを見ていたようだ。

 

「手荒な真似をしてすまなかったね、もう警戒しなくても大丈夫だよ」

「別に構いませんけど、何がしたかったんですか?」

 

薄氷の刃を収め爺さんに距離を取りながら飛ばされた剣を拾い鞘に収める。

 

「何て事はない、単にうちの執事が君と戦ってみたいと言っていてね。君が会合に出席しないで酒場にいると連絡を受けてね、いい口実だから手合わせしてみたらどうかと言う話になったのだよ」

「申し訳ありません、お嬢様のお相手が務まるものか確かめたく思いまして」

 

親父さんから説明を受け、執事が申し訳なさそうに頭を下げる。

正直こんな目に遭ったのだから報復の一つや二つをしてやりたい気持ちがあるが、流石にゆんゆんの親父さんなのでここはぐっっと堪える。

 

「それで、カズマくんは君からみてどうだったのかな?」

 

ゆんゆんの親父さんは楽しそうに執事に向かって今回の戦闘の感想を問いかける。

そこは流石に俺のいない所で話してくれよ、いやむしろ俺を部屋に帰してくれよと思ったが流石に言えないので黙って聞くに徹する。

 

「ええ、動きは粗く実力はまだまだですが、それでも機転とセンスはなかなかのものでした。かく言う私も殺す気はなかったとは言え一本取られるとは思いませんでした。流石はお嬢様が選んだ事はあるかと」

「成る程な」

気持ち悪いくらいの良い評価に若干気を良くしそうだが、むしろあからさま過ぎて何か裏があるんじゃないかと思って警戒する。

しかし、族長も結構酔っているのか自分の若い頃の話をし出し執事共々思い出話に浸っていた。

 

「もう部屋に戻ってもいいですか?」

 

正直疲れたし、出来レースの殺し合いをさせられて精神の摩耗が凄いので早く寝たいのだ。

 

「ああ、すまなかったね。お詫びと言ってはなんだが…何も思いつかないな」

 

…思いつかなんかい⁉︎

決して言葉にはできないので心の中で突っ込だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーなんかもう疲れた、明後日には帰る予定だったんだけどもう帰ろうかな…」

 

あの後紅魔の技術の結晶だなんか言いながら変な薬を飲まされ体力が回復したが、それでも精神が疲れているし酔いも冷めているのでただの疲れたおっさんの気分を味合わされている気分だ。

重たい部屋のドアを開け、心に思ったことをあえて言葉にすることでストレスを解消する。

 

「おや?」

 

上着をハンガーにかけ布団に向かうとなんと布団に誰かいるではないか。

少し捲るとそこにはゆんゆんの姿があった。

 

「成る程な…」

 

これは俺を待っていてくれたのだろうか、それとも部屋で何かが起きたから俺の部屋に逃げて来たのだろうか。真相は謎だが疲れ切った俺の心に結構刺さる状況だ。

 

「…」

 

しかし、こんな状況だが俺は一体どうしたらいいのだろうか?

1、起こす

2、一緒に寝て朝の反応を楽しむ

3、いっその事襲う

4、逆に俺がゆんゆんの部屋で寝る

 

どうやら俺の頭には四つの選択肢が浮かんでいるようだ。折角なのでそれぞれコメントをつけようと思う。

 

1、俺の布団に寝ているのだから叩き起こして退かすのはオセアニアじゃ常識だよなぁ?

2、あの時思い出をもう一度、朝の一言はもちろんあのセリフさ。

3、もう俺の衝動は止められないぜ‼︎そう、これは若さゆえの過ちなのだ。さあ今こそ青空に向かって凱旋だ‼︎…まあ今は夜だけど。

4、一夜限りのルームチェンジこれはこれで面白いことになりそうだ。

 

我ながら子供の考えそうな寒いセリフをよく思い付いたものだと思う。

しかし、どの選択肢も魅力的だが3もいいかもしれない、ゆんゆんの親父さんにはかなり酷い目にあってお詫びの行動も思いつかないと来た、ならばその責任を娘にぶつけてもなんら不思議はない。

よくあるドラマでも父親の借金の片に娘を売り飛ばされるのは王道と言われている程だ。まあ実際にこの目で見た事はないが…。

 

しかし、それでもそうでもしなければ俺の怒りは治らない、俺の怒りはたった今を持って頂点に達した。

もう誰も俺を止める事は出来ない。

 

「ええいままよ‼︎」

 

布団をひっぺかしシーツを掴んでゆんゆんをベットから転がり落とす。

そう今日からここはオセアニアなのだ…

 

はぁ…今日程意気地なしの自分を殴りたいと思った日はない。しかし寝込みを襲うなんて事をした後にそのまま繋げる事の運びを考えられる程俺の経験は多くはないのだ。

なので選択肢1になるのは必然なのだ。

 

「うっ…私いつの間に寝ていたんですか…」

 

思いっきり床に転がされ流石の彼女も目を覚ました。

普通にいつものトーンで話す彼女を見て無理やり起こしても意外と寝起きは良いいんだな思う俺だったが、この後の話を続けないと単に嫌なやつになってしまう。

 

「グッドモーニング、ゆんゆん」

「グッド…モー…なんですか?カズマさんもたまに変なこと言いますね。それにしても朝にしては…ってまだ夜じゃないですか⁉︎」

 

ようやく目が覚めたのか、窓の外の光景を見てようやく覚醒してツッコミを入れる。

 

「いや何か寝てたからさ」

「なんかって何ですか⁉︎起きたらパーティーしていてカズマさんの話になったので呼ぼうと思って部屋に入ったらカズマさんが居なかったのでこうして待っていたんですよ‼︎」

「長い説明ありがとう、けどそれで何で俺のベッドで寝てたんだよ?」

「それは…その…そんな事はいいので早くパーティーに行きましょう‼︎」

 

俺の手を掴んで部屋の外に連れ出そうとするが、それに抵抗して彼女が部屋の外に出ないよう引き止める。

 

「もうパーティーは終わったぞ」

 

ボソッと彼女に過酷な現実を伝える。

よくある事だ、休みの日に少し仮眠を取ったつもりが気づけば夜になってしまって結局何も出来ない休日になってしまう最悪の結末を。

 

「えっ…嘘…でしょ…」

「本当だ」

「そんな…折角みんなに紹介できると思ってたのに…」

 

真実を伝えると彼女はそのまま床に崩れ落ちる。

後半ボソボソと何言っているか分からないがそこまでショックだったのだろうか?

 

「もういいです…もう一度寝ます」

 

そう言いなが彼女は俺の手を離すと再び俺のベッドへと歩いていき布団の中に戻っていった。

どうやらまだ寝ぼけているようだ。

 

「…え?何これ?」

 

行動したつもりが再び来た時と同じ状況になっていることに気づく。もしかしてこの状況…ループの世界⁉︎

正しい選択をするまで話が進まない的なよくあるゲームの展開だが、いざ自分が同じ状況になると楽しさと言うよりかは困惑の方が勝ってしまっている。

 

つまり残りの選択肢を試せと言う事だろうか?

と、言うことは再び3の選択肢を選べるチャンスなのか?

いや流石にそれは無いだろう…。

そもそも3の選択肢を思い浮かべ期待している発想自体が気色悪いだろうか?まあ疲れているし仕方がないだろう。

 

「もういいや、考えるだけで無駄な気がしてきた」

 

興奮よりも睡魔の方が勝ってしまったので、もうなんでもいいと寝ることにする。

ストレッチを惰性で行い無意識に布団を捲りそのまま横になる。

 

そしてふと目を開けると眼前には思いっきりゆんゆんの寝顔がドアップになる。

 

「ヤベ…ゆんゆんのこと忘れてた」

 

しかし、もう既に後の祭り。

入ってしまった以上このまま寝てしまうのも仕方がないのだ、そう仕方が……

予想以上に睡魔が凄かったので眠っているゆんゆんを無意識に抱き枕がわりに引き寄せる。

 

「…ん?ってカズマさん⁉︎何で私の布団に居るんですか‼︎」

 

どうやら抱き寄せた時に起こしてしまったらしい。

動転したゆんゆんが隣で大声で叫び、流石の俺も目が完全に覚めてしまう。

それはそれでアレなのでここはそう言う感じで行こうかと思う。

 

「いやいや、ここは俺の部屋で俺の布団だし入ってきたのはゆんゆんだろう?」

 

順番は俺の方が後だけどな。

 

「え?あれ?そうですね?」

 

やはり先程のあれは一応寝ぼけていた様で記憶にないのか、先程のようなフレッシュな反応を示してくれた。

 

「もうパーティーは終わったみたいだし、廊下も真っ暗だから寝ようぜ」

 

飛び起きたゆんゆんに対していつものペースを崩さないように一緒の布団を被せながら眠るように促す。

 

「ここ外じゃなくて私の家なので暗いとか関係ないのですが…」

「そんな事はいいから寝ようぜ、明日は早いんだから」

「え…あ、はいわかりました…」

 

ここまできたら押して押してゴリ押すのが正解だろう。

こう言ったケースは相手に考える隙を与えないで強引に自分が正しいと相手に思い込ませるのが重要なのだ。

その結果こうしてゆんゆんは混乱しながら何の疑いなく俺の隣へと体を戻して行った。

 

そして再び対面の状態に戻るのだが、やはり完全に目が覚めているので匂いなど先程とは違った情報がいきなり俺の頭の中に詰め込まれ眠るどころではなくなってしまう。

 

「ねぇカズマさん起きていますか?」

「起きてるけどどうした?」

 

結果両者恥ずかしくて背中を向けているのだが、ゆんゆん方から話しかけられる。

 

「私が手紙を受け取った日のこと覚えていますか?」

「ああ、あの一日中放心状態になっていたあれだろ?覚えてるけどそれがどうかしたか?」

「そのことは忘れてくだい‼︎それでその日の夜のことです」

「ああ…あの日の夜だろ覚えてるよ、流石の俺もびっくりしたからな」

「その事なんですけど…」

「あーあれだろう、心配しなくても他の奴に言ったりしないから安心してくれ」

「そう言う事では無くてですね…あの日はめぐみんに邪魔されましたけど…」

 

二人っきりの時に随分と恥ずかしい思い出話をするなと思い彼女を宥めると、思いも寄らない返事が返ってくる。

急な展開に思わず彼女の方を向くと、そこには顔を真っ赤にした彼女の顔があった。

 

「え?ど…」

 

どう言う事と?と言おうとしたが、それは彼女に抱きつかれた事で言葉にできなかった。

 

「その先は恥ずかしいので言わせないでくだい…」

「ゆんゆん…」

 

あの日の続きと言う事は要するにアレだろう。つまり…

 

…これ以上の考えは無粋だろう、俺は震える彼女に腕を回しもっと近くに抱き寄せ…

 

《魔王軍襲来‼︎魔王軍襲来‼︎既に魔王軍の一部が里の中に侵入した模様‼︎》

 

里中にけたたましい音量でアナウンスが入った。

 

 

 




結局進みませんでした…
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