「畜生が‼︎」
折角のチャンスを台無しにされ怒りに感情を支配された俺は、屋敷を飛び出し感知スキルを発動させ周囲の気配を探る。
そうして反応した気配は2箇所。
一つは里の入り口の方にかなりの数が烏合の衆となってこの里へと侵攻してきている。
そしてもう一つは前回と同じように大きな気配が村の外れの方に一つポツリと示している。
陽動のつもりだろうか?
侵攻方向からして対極に位置しているので挟み撃ちと思えるのだが、あのシルビアが紅魔族に不意打ちを放ったとして数名屠ること出来れば良い方だろう。
その後どうなるかは説明するまでもないが…。
しかし、奴も仮にも魔王軍幹部。
こんな事に気付かないほど馬鹿ではない。もしかしたら俺には分からない何かがありそれを目的にこの里に侵入してきたのかもしれない。
「早く行くぞゆんゆん」
「え、ちょっと待ってくださいよ」
結構気まずい雰囲気なのだが、それでも怒りに我を忘れている建前で強引に話しかけここまで引っ張ってきたのだ。
本来なら一人で飛び出したいところだったが、戦力から見て一人で行くよりかはゆんゆんを連れて行った方が圧倒的に生存率が上がる。
「ようやく見つけたぞ‼︎大人しく観念しやがれ‼︎」
向かっている途中湧き上がってくる羞恥心により顔が爆発しそうになったが、それでも自身を落ち着かせながらシルビアの元へと辿り着く。
どうやら忍びながらここに来ていたらしく、俺に見つかるまではどこぞの劇場の俳優がやる忍びようなあからさまな動きをしていたので返って見つけやすかった。
「ふふふ、流石ね。まさかあの陽動に引っかからずにここまで辿り着くなんてね。流石ベルディア達を倒した事はあるわ」
俺に見つかり後ろからゆんゆんが追ってきている所を見て、今日の夕方頃の光景と重ねているのだろう。
今回の作戦は失敗に終わり、応援が来る迄にどう俺たちから距離を取って逃げようか模索でもしているのだろうか、ジリジリと俺たちから距離を少しずつ取っているのが分かる。
「それで坊や達は私をどうしようって言う訳?確かに仲間がくれば…」
「うるせぇよ‼︎」
「…」
シルビアが何かを話そうとしていたが、そんな事はどうでも良くこのイラつきを早く何処かにぶつけてスッキリしたいという感情に支配されてしまい思わず話している途中で言葉を被せるように言ってしまう。
「へぇ…言うようになったじゃない。坊やの事はいい男だと思っていたけど邪魔をするなら容赦はしないわよ」
どうやら俺の意思を汲み取ったようで腰に束ねていた鞭を取り出し、それで地面を打ちながら俺のことを威嚇する。
「あのカズマさん…流石にこの戦力差じゃ不味いんじゃないでしょうか?」
剣を取りそして構え、今から斬りかかろうと思った矢先ゆんゆんが小言で助言してくる。
確かにゆんゆんが居るとしても相手は魔王軍幹部、彼女は生き残れたとしても俺のステータスでは死なないように立ち回るしかないだろう。
「そういえば、あなた達いつもはあの頭のイかれた小さい女の子とパーティーを組んでいるみたいだけど今は居ない見たいね…」
どうやら戦う前にめぐみんの爆裂魔法を警戒しているのか辺りを目線をずらしながら探っている。
「…」
相手の戦力は未知数だ、つまり下手なことを言えば見破られる可能性がある。ここは沈黙がいいだろう。
怒りを表面上落ち着かせ冷静さを取り戻す。
「へぇ…今回はいないようね。沈黙で有耶無耶にしているようだけど、それが答えになっているわ」
流石に分かり易かったのだろうか。
シルビアは先程までしていた視線での周囲の探索を止め俺たちの方のみ注意を向けている。
逆に考えれば奴の仲間がいるのだろうか?
そうなればこちらが不意打ちを受ける危険があるのだが、俺の気配感知スキルには今の所何も反応がない。
「不思議そうな顔をしているわね、なんでわかったのか知りたいかしら?」
「いや別に?知ったところでお前はここで終わりだからな」
挑発に思える奴の発言を切先を向けながら無関心を装い受け流す。
「そう?なら後学のために聞いておきなさい、あの子がいないのは坊やのテンションで丸わかりよ。取り繕うなら普段の態度も計算しておくことね」
ウフフと奴は俺を小馬鹿にするように笑い出した。どうやら助言と言いながら俺のことを小馬鹿にしているようだ。
「それに、なんであなたがこんなに怒っているかもわかったわ」
「へぇ?どう言う意味か聞かせてもらおうじゃねぇか‼︎」
不敵な笑みを浮かべながら言葉を続ける。
奴は心理学でも学んでいるのだろうか…いや心理学と言うのはそう言う学問ではないので最近流行りのメンタリズムというものだろう。
「そこのお嬢さんと少し距離ができているわね…夕方会った時はあんなに近かったのに。喧嘩したわけじゃないように見えるから…フフッ」
「何が言いたいんだコラ‼︎」
なんだか馬鹿にされているようなのでナイフを投擲し牽制するが、モノの見事にそのナイフを指で摘むように受け止められる。
「照れちゃって可愛いわね。その様子だとお楽しみだった所を私が来た事で邪魔されたようね」
ウフフフフごめんなさいね、とまるで付き合いたての中学生を見るような微笑ましい微笑を浮かべながらうっとりとした表情でこちらを見てくる。
「あ?」
図星を突かれ思わず言葉を漏らしてしまう。
「か、カズマさん。お、落ち着いて下さいね…」
ゆんゆん…お前も当事者だと言うのにやけに冷静だなと思いながら対照的に自身は冷静さがなくなり感情的になっているなと憤りを感じる。
「あら震えちゃって可愛いわね、怖がらなくてもいいんだよボーヤ」
怒りに戦慄していることをどうやら恐怖に震えていると勘違いしたのか、まるで子供をあやす様に優しく喋りかけてきた。
戦場では冷静さを欠いた者から居なくなって行くというが、これには流石の俺も堪忍袋の緒がブチギレてしまう。
「魔王軍幹部とか関係ねぇ、紅魔族とか関係ねぇ…へへへへへへっ誰がてめーなんか…テメェなんか怖くねーよ‼︎」
「か…カズマさん?」
剣を構え支援魔法を発動させる。
色々と連戦続きで体が上手く言うことを聞いてくれないなんて関係ない。俺は今この瞬間考えることをやめる事にした。
「野郎‼︎ぶっ殺してやる‼︎」
頭に血が登り正常な思考が出来ないことも考慮しつつも俺は奴に向かってただ斬りかかった。
「フフフフ、ほんと最高ね‼︎あなたみたいな坊や初めてよ‼︎」
不敵に微笑むシルビアの元に駆け寄る途中ゆんゆんが気を使ったのか後ろから魔法攻撃が放たれ、後方から俺を抜かし先制攻撃と威嚇の意を持って奴に突撃する。
「折角の楽しみを邪魔しないでちょうだい‼︎」
俺よりも先に辿り着いたゆんゆんの魔法攻撃はシルビアの背面から突如生えてきた触手のような物で振り払われ、結果として何もなかった状況へと戻される。
「クソが‼︎」
生えてきた触手は合計6本ほどでビジュアルは大人の漫画に出てくるアレとは違い、どちらかと言うと某ゾンビゲーに出てくる奴に近い。
見てくれは美人なお姉さんからグロい触手が生えると言うのは中々にショッキングなのだが、それでもオークの集団に迫り来られたときと比べればまだマシだ。
「さあ、坊や。私を楽しませて頂戴‼︎」
力任せに迫りくる触手を切り払う。
触手の硬度は幸いも支援魔法で強化された俺の腕力でなんとか切れるくらいで、足止めはされたが無抵抗に絡みつかれることは回避できた。
「貰った‼︎」
迫りくる触手を切り払い、シルビアとの距離を埋め間合いへと踏み込む。
残りの触手はこちらに向かうには距離が長く間に合わず、残された奴の対抗手段は自前の鞭だけとなる。
「惜しかったわね…坊や」
ありったけの力と執念を剣に乗せて奴に斬りかかるが、何かが俺の体に絡み付いたと思うと同時に俺の体を完全に拘束し攻撃が奴に届く事はなかった。
「なっ⁉︎」
視界を下に降ろすと、俺の体に先程の触手がまとわりついている事が確認できるが他の触手が俺を止めるなんて考えられない。
思わず感知スキルを使用すると、残りの触手達はゆんゆんの足止めをしており数は正確だった。
奴から目を離さずに気配で触手を探ると、俺を捉えていた触手は地面から生えている事が確認できる。つまり奴は俺が無意識に除いていた探知スキルの穴である地下を見事に使いこなしたと言う事になる。
「は…離しやがれ‼︎」
必死にもがくが、先程の触覚とは違い俺が全力で暴れようとしてもビクともしない。
先程の触手は俺を油断させるフェイクで、この触手が本来の硬度を持った物という事になる訳か。
「残念ね、この触手に捕まって動けた冒険者はいないのよ」
目の前で拘束された俺を見てまるでご馳走を見つけたように舌鼓を打ちながら手を伸ばし俺の顔に触れる。
「カズマさんを離して‼︎」
中級魔法ばかり使っていたので魔力の節約をはかっていたように見えたが、触手の相手がまどろっこしくなったのか彼女はいつもの光剣を生成しそのまま一振りで周囲の触手たちを一網打尽にする。
「相変わらず馬鹿みたいな強さね、紅魔族って言うのは…」
「うぉ‼︎何しやがる」
切られ残った触手たちの根を体に戻すと、今度はボコボコボコと地面に埋まっていた部分の触手を力任せに表に出すと、そのまま俺ごと自身の体の後方へと移動させる。
まさか自分自身が囚われの身になるとは流石の俺も思わなんだ。
「気に入ったわ紅魔のお嬢さん。お名前を教えて頂戴」
「この後に及んで何を言っているの」
「いいじゃない減るモンじゃない訳だし…そうだ、名乗らなければこの子をあなたより先に食べちゃうわよ」
それはどっちの意味で、と聞きたかったが藪蛇だからやめておこうと本能が告げている。
「そ、それは…仕方ないわね」
彼女は何かを感じたのか光剣を収めるといつものようにポーズを取る。
「コ、コホン…わ、我が名はゆんゆん‼︎アークウィザードにして上級魔法を操る者‼︎そして紅魔族の長の娘にしてやがて里の長になるもの‼︎」
ババーンと漫画ならそんな効果音が付きそうな彼女の宣言にどこか懐かしさを感じながらも、必死に抜け出そうと罠解除のスキル等々発動させるが相手の方が上なのか一向に解ける気配がしない。
「そうあなたゆんゆんってい言うのね…覚えたわよ」
「そんな事はどうでもいいから早くカズマさんを離しなさい‼︎」
やらされたとは言え自分で名乗っておいてどうでもいいとは、中々にアンチ紅魔族って感じだな。
まあ俺自身捕まっているから何も言えたもんじゃないんだが…
「そうね…すぐに離して逃げたい所だけどあなたが魔法を使ったおかげで、里の連中がこちらに向かって来かねないからこの子は預かっていくわね」
「おいおい、待ってくれよ…もが‼︎」
「そうよ、ちょっと待ちな…」
フッと不敵な笑みを浮かべながら俺を背中に近づけ、喋らないように触手を口周りに巻き言葉を話せないようにふさがれ、それを確認した後撤退するのか後ろを振り向き、その振り向き様に触手を生やすと一瞬のうちにゆんゆんに向かって振りきった。
「甘いわ‼︎」
しかし、彼女はそれを予測していた様で、瞬時に生成した光剣でその触手の攻撃を防ぐ。
「甘いのはどっちかしらね?」
しかし、そんなことはシルビアも予測していたようで彼女の光剣と同等かそれ以上の硬度を持った触手を生成したのか、先程のように綺麗に切れる事はなく、互いに拮抗している状態にある。
「いつもみたいま多勢に無勢で上級魔法ばかり放ってきたらどうしようもないけど、あなた一人くらいならどうって事ないわ」
流石は魔王軍幹部と言うだけはあって少人数相手となれば実力を発揮できるのだろう。
硬質化した触手の刃は彼女の光剣を防ぎながら拮抗しているが、このままではゆんゆんのジリ貧になってしまう。なんとか奴の邪魔をしようとしたが口を塞がれ両手を腕ごと封じられているのでスキルを使うどころではない。
「いい加減飽きたわね…これはどうかしら?」
互いの攻撃の鍔迫り合いに嫌気がさしたのか、奴は背中からもう一つ同じような触手を生やしゆんゆんに向かって振り下ろした。
「しまっ‼︎」
本来の性能であれば光剣は一振りしか生成できない為、この状況はかなり危険な状態にある。
シルビアの触手による攻撃は重く、彼女は光剣に両手を乗せ全体重を乗せ拮抗させるのが精一杯な状態である事は火を見るよりも明らかだ。
その状況下でもう一つの触手が出されてしまえば彼女にそれを防ぐ術はなく。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ‼︎」
そのまま振り下ろされた触手の一撃を受け、その衝撃で後方にある林へと飛ばされてしまった。
ゆんゆんが被害を受けたことで流石の俺も動かないなんて言い訳などできず全身全霊を持って奴の拘束から抜け出そうとする。
「ーーーっ‼︎ーーーっ‼︎」
「安心なさい坊や、直撃はさせてないわ。あなたにぞっこんな彼女は私の攻撃が地面にあたった衝撃で吹き飛ばされただけよ」
どうやら無事の可能性はかなり高いらしいが、それで大丈夫と言うわけにはいかないのだ。
「あーもう面倒くさいわね…ちょっと静かにして頂戴」
奴は頭をかきながら面倒くさそうにそう言うと、俺を縛っていた触手の力を強める。
「んーーーっ‼︎」
それにより俺の首が閉まり抵抗するが、体勢的に力がはいらずそのまま酸素が脳に行かずに失神する。
「そろそろ起きなさい‼︎」
誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる、いったい誰だろうか?
「俺を起こさないでくれ、死ぬほど疲れている…」
誰だろうと関係ない、俺は今惰眠を貪りたいのだ。
「いい加減起きなさい‼︎」
「うぐぁ‼︎」
思いっきり鳩尾を蹴られ目が覚める。
一瞬にして覚醒した俺はすぐさま自身の状況に気づく。
先程まで全身ぐるぐる巻きだった拘束は両腕とそれを固定する様に上半身と上だけに留まり、圧迫感はだいぶ軽減されたがそれでも手が使えないと何かしらの小細工ができないと無力感を味わう。
「ようやく起きたわね…。全くどれだけ疲れていたのかわからないけどもう夜明けちょっと前よ」
「…マジか、やけにスッキリしてるとは思ったが…」
よくよく考んがえれば酒をしこたま飲み、執事の爺さんと殺し合いをしてゆんゆんと戯れていた疲労が出たのだろう。これだけの事を1日で行ったのだからちょっとやそっとで起きなかったのは納得ものだ。全く我ながらハードな1日をこなしたものだと感心したい所だ。
しかしながら状況を確認すると何処かの建物だろうか、やけに古びた作りというか多分素材はレンガだろうファンタジーの代名詞である中世みたいな感じの見た目だが、こんな施設は紅魔の里にあったのだろうか?
それとも、ここは既に紅魔の里の外の奴らのアジトか何かなのだろうか?
時間は十分にあったのでそこまで運ばれたとしてもおかしくは無い。もしそうであればこの後俺が受けるのは情報を吐かせるために拷問を受けるという事だが…
「クッ…殺せ‼︎」
「目覚めて早々いきなり何言ってるのよ坊や…いきなり取って食いはしないわよ」
どうやら事を急いで結論を誤ったらしいが、そうであるなら一体何の為に俺をここに連れて来たのだろうか?
先程言ってた食ってやるを実行するのか?…いや今取って食いはしないと宣言していたし、それは無いだろう。
「それで、ここはどこなんだよ?見たところ古い建物の様だけど」
「おかしくなったと思ったら急に落ち着き出したわね…意外に坊やも紅魔族みたいに頭のネジが抜けてるんじゃないの?」
「失礼な奴だな、冷静沈着と言ってくれ」
はぁと呆れる様に溜息を吐くやつを放っておき話を進める。俺は一刻も早くゆんゆんの安否を確認しなくては気が済まないのだ。
「それでなんで俺をここに連れて来たんだ?逃げるなら振り切った時点で俺を捨てておくのが定石だと思うのだが」
拘束された腕をぶら下げながら無愛想にそう問いかける。
拷問にかけて情報を吐かせるわけでもない、キメラなら某究極生物みたいに俺を取り込むなんて事もしない。ならば一体何の意味があって俺をここまで連れて来たのだろうか?
「そうね…短絡的に言えばノリね」
「ノリなのかよ‼︎」
どうやら意味は無かったようで別に俺がいなくても問題は無いとのことだ。
「…結局ここはどこなんだ?お前たちのアジトか?それとも魔王城か?」
紅魔の里が一番魔王城に近いと聞いたことがあったが、あれだけの時間があればそこまで運ぶことも可能だろう。
しかし…そうなれば奴の隙を見てここから逃げ出すことは不可能に近い。魔王城であるならこいつの他にも幹部が居てもおかしくはない。
…幸いにも感知スキルには気配はシルビアしか居ないのだが…というか構造が魔王城と呼べるには狭くはないだろうか?
「安心なさい、ここは忌々しい紅魔族の暮らす紅魔の里よ」
「という事はあの謎施設の中と言うことか」
まだ確定というわけではないが、昨日ゆんゆんと里の中はあらかた探索した中でこのような構造の建物は見たこともない。それに周囲の気配が何も無いとなると消去法で謎施設しか思いつかない。
「あなたがいう謎施設がどれかはわからないけど、ここは坊やが思っている建物の隅にある洞窟よ」
「成る程な…」
予感的中と喜びたい気持ちはあるが、それはそれで自分の首を絞めることになりかねないので黙っておくことにする。
「それで?ここに何しに来たんだ?ここは何かあるとは思ってたけど結局何もないって感じの話は聞いてたけど?」
本当ははぐらかされて結局説明してもらえなかったが正しいが、なんか悔しいので適当なことを口にする。
「そうね、確かに何もわからなければ何も無いのと同義だけれど、今回は準備は万全よ」
そう言い奴は懐から何かを取り出す。
形はなんと形容したら良いかわからないが、感知スキルでは何か魔道的な細工がされている事は分かる。
しかし、それが何だというのだろうか?爆発系ならフレアタイト的なものが仕込まれているが、それは特に動力となる魔力鉱石が仕込まれているような気配は感じられない。
多分自身の魔力を原動力に作動するものだろうが、それが何を行うものなのかは現状判断できるものでは無いのだ。
「それで何しようってんだ?まさか紅魔の里を滅ぼす的な感じのやつなのか?」
某天空の城的な何かの動力源と同じ素材のなんとか石的な物で呪文を唱えると紅魔の里が天空へと飛んでいくとかそんなファンタジー的なものかもしれない。
間違ってもバ○ス的な発言をすればあの魔道具は光り輝き、目を焼かれるのは状況的に考えて俺だろう。
…いやいやそんな事は流石に無いだろう。紅魔族が天空民族なんて伏線今まで見たことも聞いたことも無かったぞ。
仕方がないので奴が答えるの待とう…
「御名答、これ自体が滅ぼすんじゃないけど。これを手に入れてここに来るのが今回の目的よ」
「答えになってないぞ、頭大丈夫か?紅魔族と関わってお前も頭のネジが飛んじまったか?」
「…随分と酷い言い草ね、まあいいわ。この魔道具は結界殺しと言ってね、どんな封印も解除してしてしまうそれはそれは恐ろしいものよ」
「つまりこの施設に封印されているものがこの里を滅ぼすと言う訳か…」
「御名答、流石坊やね」
ゆんゆんが言う事を渋った意味がようやく理解できた。
この謎施設にはきっと紅魔族の叡智が詰め込まれているのだろう、それを奴は解放して利用しようって腹積りらしい。
「どう?坊やも着いてこない?どうせ両腕塞がれて何もできないんでしょ?」
「両腕と言うか脚だけしか動かないんだけど?」
「ふふふ、そうだったわね」
こいつが魔王軍幹部ではなくてミツルギ程度の小物であったのなら足技だけでどうにかできたのだが、流石の魔王軍幹部となればそう易々とは行かまい。
「まあ良いわ、何もしないから着いて来なさい」
「…わかったよ」
なんの意図があって俺を連れて来ているのか分からないが、もしこの里を滅ぼせるものがあったのならそれをこの目で見ておきたい気持ちが無い訳ではない。
それに、その封印された物を見ておけば後になって対処できるかもしれない。
この考えは完全に俺の慢心だが、このまま里に帰って危機を皆に伝えても信じて貰えるかどうか分からないし、そもそも避難が間に合うかどうかも分からない。
ならばこうして情報収集に徹するのもあながち間違いでは無いのだ。
そう、決して知的好奇心が勝ったわけでは無いのだ。
その後、長い階段を降りると周囲の雰囲気とは全く馴染んでいない扉が行き止まりとなって俺たちに立ち塞がった。
所々何かが壊れた跡がある事から、今まで奴はこの施設を少しずつ攻略して来たことが窺える。
「ここね…前回はここで行き詰まったのよ」
「それでこの結界殺しを使おうって算段なのか」
「そうよ。この結界殺しを手に入れるのにかなり長い苦労を強いられたけど、今日ようやくそれが報われるわ」
シルビアは懐から先程の魔道具を取り出し、それを重厚な扉に押し付ける。
「…あれ?どう言うことかしら?なぜ反応しないのかしら?」
押し付けたのは良いものの結局反応する事はなく。
俺から見ればオモチャを扉に押し付けているような、何とも滑稽な光景と駄洒落をかましたくなる様な光景だった。
「クソ‼︎偽物つかまされたのね‼︎」
「いや多分それ本物だぞ。魔力を通して一応起動する反応は見えたからな」
感知スキルでは昔ウィズの魔道具店で見せられた魔道具と同じような反応をしていた事を感じ取れたのだ
「成る程ね…つまりこの扉は魔術的なものではなくて物理的な方法で閉ざされているって事ね」
「そうなるな」
ハッカーが侵入した施設の最終的なセキュリティが南京錠だった的なオチなのだが、反応を見るに奴が結界殺しを手に入れるまでかなりの苦労をしたのだろう事が窺える。
「それで、どうすんだ?大人しく引き返すか?ゆんゆんが心配だからそうしてくれると助かるんだけど」
「それはしないわ…それだけはできないわ。ここに来るために何千の部下を犠牲にしているのよ。今更引き下がれる訳無いじゃない‼︎」
そう叫ぶと奴は見た事も無いほど圧縮された触手を生成する。
今までの攻防戦は本気では無かったのかと思うほどに禍々しいそれを、思いっきり扉に叩きつける。
「く…流石に硬いわね。本気を出せばオリハルコンに傷を付けれるくらいの自信はあったのだけれど…」
必死に扉を破壊しようとしているやつを見ていると、何だかかわいそうになってしまっている。
ストックホルム症候群だったか、名前はうろ覚えだが犯罪者と一緒にいると同情して協力してしまう的な症候群があるのだが、今の俺の心境はまさにそれだろう。
「はぁ…しょうがねーな。見せてみろ」
少しくらい協力しても良いのかもしれないとやつを退かして扉に近づく。
ぱっと見石の扉の様だが、隅に何か文字が書いてあることに気づく。
この世界の言語は一通り頭にインストールされているのでおおよそ分かるが、今回それが反応する事はなかった。
つまり、この言語はこの世界のものでは無いと言うことになる…というかこれはアルファベットだな。
しばらく驚くほど見ていなかったので忘れていたが、俗に言うローマ字的な文字が刻まれていた。
英語はよく分からないがエンターだとかパスワードとか何とか書いてあるので、多分暗証番号的なものを入力しろと言うわけだろう。
しかし、そんなもの知っている訳がないと思い文章を読み進めているとヒントという単語とともに企業のロゴが描かれていた。
このロゴどっかで見たな…そうそれは某カードゲーム的な企業のロゴだな。
そして隣にはボタンみたいなスイッチ的なものもあるし…
そのボタンには4方向とアルファベットのAとBの二つが描かれていた。俗にいうコントローラの配置というわけだ。
まあ○ニーならマル・バツ・サンカク・シカクなのだが、今回は○ンテンドーと言う事だろう。
…まあそんな事はさて置き、このボタンで暗証番号を入力しろと言う訳か。
「…まあそうなるな…」
「坊やこの扉の開け方が分かるの?」
「いや全く分からない…残念だけど俺じゃさっぱり分からない…悪いな」
よくよく考えればこの里を滅ぼす兵器があるのだから下手に開けない方が平和なのでは無いだろうか、と言う結論に至った。
暗証番号に関しては昔に○ナミが考えたあのコマンドを打ち込めば良いだろう事はわかった。
あの暗号が発見された当初はかなり有名になったのだが、発表したのは会社では無く情報雑誌に掲載されたのがきっかけらしい。まあ俺も人伝なので正確かどうかは分からないが。
前にそのゲーム雑誌の関係者に聞いたところ、昔は企業が教えてくれる事はなかったのでそのゲームのコードを全て解読してプレイするのに必要でないコードを洗い出したと言っていたと聞いたが、想像しただけで精神のいかれてもおかしくは無いほどの狂気の沙汰だと思う。
信じるか信じないかはあなた次第だが。
「それじゃあ俺は帰るよ。ゆんゆんが心配だしな」
「ちょっと待ちなさい」
知らないふりして帰ろうとしたが、それを奴は引き止める。
「どうしたんだよ、帰っていいみたいな事言ってただろ?」
「坊やこの扉を開く方法が分かったようね」
先程言っていたメンタリズムだろうか?俺の嘘なんてお見通しと奴は言い放つ。
「そんな訳ないだろ?何言ってんだよ?」
「さっき言ったわよ、あなたは嘘が分かり易いってね‼︎」
「うげっ⁉︎」
どうやらあからさまに冷静を装いすぎてバレてしまったようだ。
しかし、言わなければこっちのものだ、俺は全力で階段を駆け登り里の方へと向かう。
「行かせると思ったのかしら‼︎」
「しまっ‼︎」
階段に足を乗せたタイミングで奴のバインドを受け、両足を固定されそのまま下に引き摺り下ろされる。
「クソ‼︎はっ離せ‼︎拷問したって無駄だぞ‼︎」
「私が拷問だなんてすると思わないことね、これでもサキュバスを取り込んでいるのよ。見た感じあのゆんゆんとか言う子とまだまだって感じね…後は分かるわよね?」
「クソ…何て日だ‼︎」
こうして俺は諦めて言う通りにするのだった。