この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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すいません大分遅くなりました。
誤字脱字の訂正ありがとうございます、とても助かります。
ギリギリだったので少し内容が崩れているかもしれません、時間が空き次第修繕します…m(_ _)m


紅魔の里17

「それで、話とは何でしょうか?」

 

部屋に入り、それぞれが椅子に座ると真ん中に備え付けられていたテーブルに例の超電磁砲の砲台を乗せる。

これがどの様なものは俺でもおおよその事くらいしか分からないが、とりあえず魔力を溜め込んでトリガーを引けばその魔力が圧縮されて放たれるといったしくみになっているのだろう。

 

「これはだなあの魔王軍幹部であるシルビアが手に入れた魔術師殺しに対する抑止力で、名前は超電磁砲っていうんだ」

「レールガン…ですか?お父さんがよく里の皆さんと話していた会話はよく盗み聞きしていましたけど、その名前は聞いた事はないですね」

 

取り敢えずと、背中に背負って持ってきた武器に対しての説明を終えると、ゆんゆんが口を開いた。

まあ、結局の所魔術師殺しの内容自体彼女の耳には入っていなかったことから、危ない話系はねりまきの酒場で行われていていると推測できるが、やはり里の皆にはあの魔術師殺しの存在すら秘匿されていたのだろう。

 

里に眠ると言うあの兵器に対して何故秘密を共有しておかなかったのかと思ったが、紅魔族であればその様な厨二アイテムを知って仕舞えばたただちに発掘に行ってしまうだろうなと思い至り微妙な感傷に浸る。

どう考えたところで所詮は結果論なのでこれからのことを考えなければならないと考える方向性を変える。

 

「取り敢えず、この物干し竿に魔力を注ぎ込めばいいのですね?」

「まあ、そうなるな。そこでだ、俺一人の魔力じゃ多分足りないからお前たちの魔力を分けてほしい」

 

俺自身の魔力を流し込み彼女たちに

結局の所、問題はそこにあるのだ。

この兵器は魔術師殺し同様かなりの魔力を喰らうというデメリットを持っているが、それゆえ瞬間的威力は魔術師殺しを超える物であることが伺える。

 

「魔力ですか?確かに私とめぐみんの魔力を合わせればおおよそは大丈夫だとは思いますけど、そうすると多分ですけどカズマさん一人であのシルビアに対抗しなければいけなくなりますよ…」

「…まあそれくらいは覚悟してるよ」

 

ドレインタッチでの魔力供給には僅かにロスエネルギーが存在する。

いつものような少量の魔力の移譲だったら特に分からないほどのロスだが、今回の様に多量の魔力量を超電磁砲に移すとなるとものすごい量のロスが生じる。

 

例えるなら消費税を想像して貰えば分かり易いだろう。

俺のいた時代では物を買う際に10%の税を課されている。これは100円のものを買ったら10円の税がつき110円となると言った仕組みだ。

まあ10円くらいならいいだろうと思うが、これを100万円の物を買ったと想定してみよう。一つ買うだけで10万円も余分に支払うと言う事になる。

これは流石に見逃せないと結果になり、購入の際にかなりの負担となってしまうのだ。

 

ヴァシュロンなど高い時計を買い知り合いの時計を見ると、消費税で買えるなと思う時もあるほどにこの税は理不尽なのだが、その話はまた後にしておいて本題に戻ろう。

 

要するに俺を通してこの機械に魔力を通せばそれなりにロスを生じてしまい彼女達二人が戦線離脱してしまう羽目になってしまうと言うわけだ。

回復に使うマナタイトも全て族長の屋敷に置いてきてしまっているので回収も難しいだろう。

もちろん他の紅魔族の方々から魔力を分けてもらうのも手だが、この超電磁砲を信じてもらえる可能性はほとんどなく、せいぜい物干し竿を持って何か言ってるだろう程度にしか思われないだろう。

 

というか、この物干し竿の許可をもらっていない事を思い出す。

まあ後でいえばあのおっさんなら許してくれるだろう。

 

仮に納得しても俺たちの年齢を考えれば里の大人達は俺たちを送り出すことに躊躇してしまうだろう。

それだけは何としても防がなければいけない。

 

「それでめぐみんはどう思う?」

「…そうですね」

 

先程までの勢いはどこにやら俺が超電磁砲に関しての説明をしている間、彼女にしては珍しく黙っていたのだ。

 

「どうしたのめぐみん?いつもなら何かしら言うと思うんだけど…」

「随分と失礼なことを言うじゃありませんか、普段あなたが私の事をどう思っているのかよく分かりましたよ‼︎」

 

いつもの如く暴れ出すめぐみんと被虐気質でもあるのかめぐみんの地雷を踏み抜いたゆんゆんのイチャイチャタイムが始まり、今更混ざる気は起きないので少し距離をとりながらその様子を眺める。

彼女達の体力は無限大なのだろうか?

 

そんなこんなでしばらく眺めているとひと段落したのか、息を切らしながら立ち上がるめぐみんと半泣きで床に転がるゆんゆんの構図が形成される。

 

「落ち着いた所悪いんだけど、さっきめぐみんが言いかけていた事聞かせてくれないか?」

「はぁ…はぁ…そうでしたね、ゆんゆんの茶々で有耶無耶になってそれを問い直したお陰で重要な話に感じたと思いますが、そんな事はないので期待しないで聞いてください」

 

息を切らしながら呼吸を整えると彼女は俺にあまり期待するなと言いいながら先程の言葉を続ける。

 

「まずはですね、もう一度紅魔の里に戻る方法ですね。そのちょう…銃に魔力を私たちの魔力で代用するにしてもテレポートを使わなければ里には戻れませんよ」

 

めぐみん曰く、この避難地は紅魔の里から遠く俺自身がどんなに努力しても間に合わないらしい。

 

「それに関しては問題ない。訳あって足は既に用意してあるんだ」

「へぇ…カズマにしては周到ですね」

 

先日ねりまきに貰ったテレポートのスクロールをめぐみんに突き出す。

里の宿兼酒場と限られた所にしか飛べないが、ここから走って向かうことと比べれば造作もない距離だろう。

 

「カズマさんこれってねりまきさんの所の…」

「それでだ、足はこれで問題ないだろ?続きを言ってくれ」

 

謎の勘を発揮し始めたゆんゆんの言葉に被せるようにめぐみんの意見を催促する。

 

「え、えぇ…そうですね。移動の距離が解決されたなら後は失敗した時のリスクですね。その銃の攻撃を外した場合カズマはどうするんですか?そのスクロールはコストを抑えるため基本は片道しか使えませんよ?」

 

めぐみんに指摘され、この銃を外した時の事を考えていなかった事に気づく。

思考の目標設定をこの銃を射つまでにしかしていなかった為、そこから先のリスク管理を怠っていた。

 

「その時はその時だろ?逃げる事に関してのスキルならそこら辺の冒険者より上だぜ?異次元の逃亡を見せてやるよ」

 

その時の事はその時の状況にならなければ分からないだろう。ならば今は全てが上手くいった時の事を考えて成功率を上げた方が懸命だ。

 

俺の経験談だが、人生のおおよその挑戦は度胸と勢いが大事なのだ。

下手に躊躇わず、自分に出来ると言い聞かせながら勢いで物事を進めれば案外上手くいく物なのだ。

…まあ例外は沢山あるが。

 

「…全くカズマは前向きに後ろ向きですね」

 

俺の口先八丁に呆れながらも彼女はどこか納得したような雰囲気を醸し出す。

今までの行いの結果が彼女に謎の安心感を与えているのか特に俺の作戦に反対はないようだ。

 

「私は反対です。素直に里の皆さんに事情を伝えて安全に行ったほうがいいと思うのですが…」

「いや、それだと止められる可能性が高いからなるべく隠密に行きたいんだ」

 

自身の起こした事の責任を取るといえば聞こえばいいのだが、結局の所俺がシルビアを倒したいのかもしれない。

英雄願望の行き着く先は自身の崩壊を招くというが、こうでもしなければ奴らの領域に上がることは出来ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「分かりました…けど危険だと思ったらすぐ逃げてくださいね」

 

長時間にわたる説得の末ゆんゆんを説得することに成功する。

手こずらせやがってと思ったが、もし立場が逆だったとしたなら俺も彼女以上に止めるように説得していたかもしれないと思うと少し罪悪感があるが、今はそんな事を気にしている場合ではないのだ。

 

「それじゃあ二人とも魔力を貰うから頸を見せてくれ」

 

二人の了承を得てそれぞれの魔力を吸い出し超電磁砲に流してく。

自身を介して彼女達の膨大な魔力を流しているが、やはり紅魔族は規格外と言われる理由がよくわかるほどに膨大な魔力の流動を感じる。

そして、その膨大な魔力を流してようやくエネルギーが満タンになるこの超電磁砲の容量に恐れを抱く。

 

これほどの魔力を放ったとしてその弾である魔力が及ぼす影響はそれほどのものなのだろうか?

魔術師殺しと対をなす兵器超電磁砲だが、名目的には抑止力となっている以上瞬間的威力は魔術師殺しを上回っている事になる。あれ程の防御性能に特化した兵器を破壊するとなると威力は俺の想像をゆうに超えるだろう。

 

 

 

 

 

「よし、満タンになったな。ありがとうな二人とも…やっぱりダメだったか」

 

超電磁砲のインジゲーターが満タンを示すfullを表示したことを確認すると二人に礼を言うために視界を移すと、そこにはモノの見事にぶっ倒れて伸びている二人の姿があった。

再び首を触り脈を確認すると確かな脈拍を確認できたので大丈夫だろうと判断して、二人をベットに運び寝かせる。

 

超電磁砲を背中に背負い机に出したスクロールを拾い上げ、簡易的な準備を済ませ外に向かう。

 

「行かれるのですな」

 

屋敷を出る所で誰かに声をかけられる。

声の質からして執事の爺さんだろう、前回の一件からして俺の所業に感づいているのではないかと構える。

 

「ああ、ダメかもしれないけどやってみないとわからないからな」

「ふむ…成る程」

 

執事は俺の姿を上から下まで眺め吟味すると、どこか納得したように頷いた。

 

「旦那様よりあなたの行動を制限するなと仰せつかっております故、あまり言えた事ではありませんが現在紅魔の里には王都から派遣された騎士の一派が向かっており、そろそろついている頃合いかと。ここで坊ちゃんが向かった所で危険に下手を打つだけかと」

 

ねりまきだったか誰だったか忘れたが、魔術師殺しが発動した時は王都の人間が派遣されるとしてそいつらがシルビアを倒せるとは限らないのだ。

仮にも奴は魔王軍幹部である以上は一筋縄では行かないだろう。もし簡単に倒せるのだとしたら現時点で魔王軍は解散の危機に追いやられている。

 

「それでもだ、何もしなくて解決されたとしても、何もしないのは俺じゃないからな」

 

適当に答えを返し、屋敷の外に出るとスクロールを開き中に書いてある発動コードを唱える。

 

 

 

 

 

 

 

 

転移魔法特有の浮遊感に包まれ気がつくと、先日楽しんでいたであろう酒場の前まで移動していた。

流石のシルビアもここまで破壊の手を届かせてはいなかったようで、多少の煤が付いているが建物自体にダメージはないようだ。

しかし、里の中心の方へ視界を移すと木々に遮られていて詳しくは分からないが、黒煙のようなものが所々上がっていた。

 

「さて…」

 

ボソッと呟きながら現状を確認する。

超電磁砲は魔力を貯める前に試し撃ちした際に安全装置は一通り外しておき、念のために一つだけの動作を残しているが現状いつでも射てる状態だ。

 

後はあの動き回るやつをどう仕留めるかだ。

近ければ近いほど奴に当てる可能性は高くなるが、同じように奴からの返り討ちを受ける可能性の方が高い。それに威力も高い以上安全に近づいたところで超電磁砲の着弾の余波を受けて全身火傷どころか肉体が消滅しかねない。

 

取り敢えずは姿を一度確認した方がいいだろうと思い、装備を再確認したのち最後にシルビアと会った所に向かって走り出した。

 

 

数分走ると目的地の手前である里の中央に出るが、そこはねりまきの酒場とは違い建物は破壊され焼かれてなど、不謹慎ではあるが戦時中の空襲を受けたての街中にいるような光景だった。

住民は全員テレポートで避難したとは聞いていたが、ここまでひどくやられたなら復興までにかなりの時間がかかるだろう。流石の皆もしばらくはあの避難所での生活を余儀なくされるだろう。

 

炎上する街並みを突っ切りながら謎施設跡地へと向かう。

途中シルビアの部下なのだろうか、小さな小鬼達が街を破壊していたので潜伏を使い気配を完全に消し剣を腰から引き抜き通りがてらに首を刎ねていった。

 

一体どんだけ部下がいるんだよと思いながら進んでいき、ようやく奴のいた場所へと辿り着く。

里の皆が居なくなったとしてシルビアは一体何をするのだろうと頭の隅で思っていたが、結果は王都の騎士により足止めをくらっていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

シルビアが地下から力尽くで這い上がった事により周囲の地盤が崩壊し奴を中心にしてクレーターのようなものが出来てしまい、そこに鎮座するように奴が納まっている。

そこに王都の騎士団だろうか、リーダー格ぽいのが軽装をして後方に立ち指示を出し、残りの重装備をしている連中らが前衛となりその指示に従って陣形を作り一進一退の攻防戦を繰り広げていた。

その陣形や装備を見るにやはり事前に対策が練られていたのか全員近接戦闘に特化した装備で、いかにも脳筋集団ですと言わんばかりだ。

これなら魔術師殺しを装備している事によって得られるアドバンテージは無くなったと言ってもいいが、魔術師殺し自体強力な物理兵器であることに違いないので油断はできない。

そもそもの前提として奴は魔王軍幹部なのだ。例え魔術師殺しがなくても実力だけでここまで来たので、そう簡単に討伐できるとは限らない。

 

背中に背負っている超電磁砲を降ろし、地面に固定できるように脚を組み立て地面に刺して固定しそこに銃身を乗せて安全装置を解除する。

インジゲーターがfullの点滅をしている事を確認しながら付属しているスコープを覗き込む。

 

騎士団の連中には悪いがこんな絶好の機会を逃すわけには行かない。

着弾の反動は試し射ちができない以上未知数だが、あれだけの防御性能を備えているのであればたとえ何かあっても命までは失わないだろう。

騎士団であると言うことは、日本で言う公務員と言う分類に含まれているという事に近いだろう。であれば福利厚生も充実しており腕の一つや二つ吹き飛んだ所で王都御用達凄腕アークウィザード的な人が即座に再生させてくれるだろう。

進みすぎた医療は命の重要さを欠落させるというが、俺自身ここまで毒されるとは思わなかったので少し不安になるが郷に入れば郷に従えと言うので多分これで大丈夫だろう。

 

狙いをシルビアに定め、指をトリガーに引っ掛ける。

 

「やあ、おもしろそうな物を持っているね」

「え?」

 

後は引くだけのタイミングで後ろから声がかけられる。

予想だにしない来客により思わず驚いてしまう。

感知スキルを常時発動させていたつもりだったが、奴に狙いを定めることに集中しすぎたためか気を緩めてしまっていたようだ。

 

スコープから視線を移しその人物の方へ向くと、そいつは先ほどまで重装備だった近接戦闘部隊を指揮していた軽装の司令塔だった。

つい癖で感知スキルを絞ってしまい奴のスペックを洗い出してしまう。

そいつは細身ながらに鍛え抜かれた肉体に腰には神具なのだろうか異様な雰囲気を漂わせた細剣に鎧は金属をあまり使っていないのか、必要最低限に抑えられその代わりに特殊な繊維を使って編み込まれた布を使用しているようだった。

 

「あんたは…」

「ああ紹介がまだだったね。僕の名前はアレクセイ・バーネス。バルター、今回の一件を任された騎士の一人さ」

 

爽やかそうな外見をした青年は何の躊躇もなく戦場で仲間ごと敵を撃ち抜こうとした俺に対して身分を明かした。

一体何が目的なのだろうか?

普通に考えれば仲間を後ろか巻き込むのをやめてほしいと注意しに来たと考えるが、そのような回りくどい事はせずに隙だらけな俺をそのまま屠ればいいだけの筈。

それとも騎士道的なやつで正々堂々でなくては戦えないミツルギ的な感じの性格なのだろうか?

 

頭の中で思考がグルグルと渦巻いていくが、そんな事はお構いなしにバルターと名乗る青年は話を進める。

 

「俺の名前はサトウ・カズマだ。その騎士様が一体俺に何のようだ?」

 

取り敢えずこちらも名乗りを挙げる。

奴が騎士道に忠実であれば、ここからやつの求める条件が提示されるだろう。

 

「そうだね。まずは君のその銃の性能についてだね。その武器はあの蛇みたいなキメラを屠るに至るかだね。自身はあるのかな?」

 

騎士にしては礼節などはなく、いきなり本題に入ってくる。

建前の積み重ねで本題になかなか入らない事に対して結構イライラしたことがあるので、こう言ったタイプは正直嫌いではないが、だからといって好きかと言われればまた違うのだ。

 

「そうだな、一応はそうなってるけど。それで?」

 

立ち上がり鞘にしまっていた剣を引き抜き構える。

奴の狙いはこの超電磁砲かもしれない。よくよく考えてみれば王都の騎士団という縦社会の性質上利権や出世争いがあるのはどこの世界でも共通だろう。

であるなら奴がこの超電磁砲を俺から奪い通りそれで奴を倒したのならその功績を持って奴の地位は向上するだろう。

 

せっかく彼女らの犠牲を得て使用可能になったこの超電磁砲を奪われる事は彼女らへの裏切り行為に等しい。

それだけは命に変えても止めなくてはいけない。

 

「そう構えなくてもいい。確かにその魔道具は魅力的だが、今の僕の目的はあいにくそれじゃないんだ」

「それじゃなければ一体何なんだ?わざわざ自分たちの仲間達から離れてまでここにくる理由は?」

 

「そんなの君が一番わかっているんじゃないのか?それとも緊張しすぎて考えられなくなったのかな?」

「何?」

 

「普通こういう時は互いに協力しようって話になるんだけど君はそう思わないのかな?」

「…」

 

どうやら俺が勘ぐりすぎていただけなのかもしれない。

ミツルギの件から爽やかなイケメンに対して悪印象のようなヘイトがあった事は否定できない。

人間の本性はほぼ第一印象に違和感となって出現すると言うが、俺はその説を身をもって学んでいる。最初に声をかけられた時にこいつからは禍々しい何かを感じたのだが、どんな原則にも例外が存在するように、こいつは例外なのだろうか?

それか今回はギブアンドテイクという事で悪意のようなものはないのかもしれない。

 

どんなに腹に闇を抱えていようとその闇が俺に向かわなければむしろ有効活用できると聞いたことがあるが、それにかけてみるのもいいかもしれない。

 

「それで、協力したとして俺に何を望むっていうんだよ?悪いけど俺はこいつをあいつに射ち込んでそれで終わりだけど」

 

結局の所バルターに協力した所で俺に得がないのだ。まあシルビアが動かないようにヘイトを集めてくれている事には感謝するが、奴の指示で撤収して居なくなっても今すぐに照準を合わせれば問題はないだろう。

 

「そうだね…それじゃ逆に君は僕に何を望むんだい?これでも家柄は良くてねある程度の事は可能だよ」

「そうだな…だったらお前の所の紋章の入ったペンダントをくれないか?」

 

この世界には日本には殆どない身分制度のようなものがある。

要するに信用みたいなものだ、基本的に冒険者というものには信用というものが無いのでドレスコードの店やある程度の敷居が高い店には入れないのだ。

そのペンダントがあればその者の身分はその貴族に保障され高価な物の購入や、クエスト依頼や王都での賃貸の契約や銀行の融資などを受けられる万能パスなのだ。

 

基本的にアクセルに住む分には必要ないのだが、これから先みんなと色々と旅する際に必要になる事があるかもしれないのだ。

奴の討伐でいくらか報酬が出るが、いくら金があっても身分は手に入らない。ならば今回のシルビア討伐の功績で信用を買うと考えれば安い物だろう。

 

魔力をくれた二人には申しわけがないが、貴族の保障が得られればこの先の生活がかなり豊かなものになるのだから許してくれるだろう。

 

「成る程…強欲そうに見えて慎ましんだね意外だよこんな物でいいなら今すぐ渡すよ」

「マジか⁉︎」

 

俺が念には念を入れて考えた案を奴はそんな事かと一蹴し胸にぶら下げていた何処かの貴族の紋章の入ったペンダントを俺に向かって投げ渡す。

それを無くさないように拾い上げ、鑑定眼のスキルを使い確認すると偽物ではなく間違いなく本物を示す色が浮かび上がった。

 

貴族はなかなかペンダントを出さないと聞いていたが、それを何の躊躇いなく差し出したのだ。一体どんな神経をしているのだろうか?

 

「これで交渉成立だね。それじゃ作戦を説明しようか」

「ああ、別に構わないけど」

 

ペンダントを俺に差し出すと奴はニッコリとした表情を浮かばせ作戦について話し始めた。

 

「作戦は簡単さ、僕が奴の上体と機械を分けるから君はその離れた状態をその魔道具で消し去って欲しいんだ」

「成る程な…そんな事を簡単に言ってくれるけど…まあそれはさておきいいのか?」

「え?何がかい?」

 

あの機械と完全に融合した奴の体を分けるというそもそもの難題を奴は最も簡単に成し遂げると言っているが、それはさてき

 

「それだとシルビアの討伐の記録は俺に着いちまうぞ?いいのか?せっかくの功績がパァになるぞ?」

「別に構わないさ。結局の所魔王軍幹部を倒した所で立場が良くなるだけだからね」

「変わった奴だな。本当に貴族か?」

「もちろん貴族だとも、君は自分の思っている常識に囚われすぎているね。少し考え直した方がいい、そのままではいずれ自分の考えに殺されてしまうよ」

「余計なお世話だ!」

 

どうやら奴の目的はあくまでシルビアの討伐で、その功績は俺にくれるということになる。

貴族というものはどいつもこいつも権力に飢えていると思っていたのだが、その認識を改めなくてはいけないようだ。

しかし、そこまでしてなぜ奴は俺に協力を申し出たのだろうか?このまま放っておけば黙っていても俺は奴を屠るために超電磁砲を放つというのに。

 

「まあいいけどさ、それでタイミングはいつやるんだ?やるなら早くしないとお前の仲間がやられちまうぞ」

「ああ、タイミングなら僕が指示するから君はそのままそこで待っていてくれ」

「どういうことだ?」

「そのままの通りさ、君はただ僕の指示があるまでそこで待機してほしいんだ」

 

そのままバルター自身が奴の元に向かってシルビアを真っ二つにするという作戦かと思ったが、奴自身俺に待てと言いながらも動く気配がまったくもって感じられない。

 

「つまりこのままアイツらがやられるのを待てということか?」

「言い方が悪いね。彼らは魔王軍幹部を討伐するために犠牲になったという事だよ」

 

どう言う事だ?仮にもこいつらは自分の部下なのだろ?それを見殺しにするなんて事をするなんて一体どんな思考をしているのだろうか?

 

「ああ、君が考えていることは大体わかるよ。なぜ僕が部下を犠牲にしようとしているかだろ?そんな事は説明するまでもないけど、簡単だよ」

 

そう言いながらバルターは事の話をし始める。

内容は簡単で、彼らは自分よりも身分の高い連中から推薦されて集められた部隊で、いざとなれば自分を抹殺してついでに手柄を得ようというありきたりな内部政治だった。

 

「つまりアイツらはお前にとって邪魔者というわけか?」

「そうだね。表向きはそう言うことにしているが、彼たちは自分で考える事を止め思考停止した連中らだ。考える事を止めた人間は生きているとは言えない」

「だったら殺していいだろって?随分と独裁的な発想だな。俺の想像する貴族よりおぞましいよ」

「そうかな?当たり前のことだと思うよ。君は随分と優しんだね」

 

ニッコリとまるで面白いものを見るような目で俺のことを見つめる。

流石に目の前で人が死ぬ所を見せられるのは目覚めが悪いので、ここは助けることにする。

 

「お…ぐっ⁉︎」

 

おーいお前たち逃げろ‼︎と伝えようとした所で首に刀を押し付けらていることに気づく。

なぜ気づいたと言う表現を使うのかと言うと、俺は奴が刀を鞘から抜き俺の首にあてがう動きを感知スキルですら捉えることができなかったからだ。

あまりにも早い動き、油断してたとはいえ俺ですら見逃してしまった。

こいつの戦闘力はクリスに及ばないとしてもそれに近しいほどの気を感じる。

 

「交渉は成立しただろ?君に与えられた行動は一つ、奴の別れた上半身をその魔道具で吹き飛ばすだけだ。余計なことをするならこの場で斬る」

「くっ…」

 

確かに奴からすれば部下の騎士団は目の上のたんこぶだが、それほどまでに有能ならその力で懐柔すればいいだけの話だろう。

出会ってからわずか数分に満たないが、奴からは恐ろしいほどのカリスマ性に富んだオーラのような雰囲気を漂っているのがわかる。それ程の人間がわざわざ部下を見捨てる意味が俺には理解できなかった。

 

「…分かったよ」

「分かってくれたかな?君には期待しているんだ、あまり失望させないでくれサトウ・カズマ」

 

刀を俺の首から離し再び鞘にしまい、下で戦っている騎士団員の一進一退の攻防戦を眺めることになる。

まさに何処ぞの因果応報を突き返されたような気分だ。

 

 

 

 

 

 

 

その後指揮系統を失った騎士団は呆気なくシルビアの魔術師殺しによって蹂躙されていった。

彼たちの動きからして王都の中でもかなりの実力者であったことは使っていたスキル等や動きで判断できる。

 

「…人でなしだなお前は」

「そうだね、それは否定しないよ。僕にも僕の事情があるんだ、君は冒険者なんだろ?常に戦いにいるのに命を重くとらえすぎだよ」

「…そうかよ」

 

こいつとは多分分かり合えないのだろう。

思考に使うピースのようなワードが俺とはかけ離れすぎている。そもそもの見えている世界が違うのだろう。

 

「それじゃあ僕はもう行くから君は早く準備してくれ、僕がシルビアの胴体を分けた時が君の発射の時だ」

 

そう言い残しバルターはシルビアのいる所まで滑り降りていく。

その光景を千里眼スキルと読唇スキルで解読する。

 

「あら、途中で居なくなったと思っていたけど今更戻ってきたのかしら?けど残念ね坊やの仲間は既に全員この世からいなくなってしまったわ」

「そのようだね。だからまずは君に礼を言うよ、ありがとう」

「はぁ?何を言っているのかしら?緊張しすぎて頭がおかしくなっちゃったの?」

「いや、僕は正常だよ彼らは現在進行しているもう一つの作戦を遂行する上で邪魔でね、こうして緊急出動にかまけて連れて来たのはいいけど結局処分に困ってね。僕が手を出すと記録に残ってしまうし、かと言って他の人に依頼しても返り討ちに合うのが目に見えている、だから君に処理して欲しかったわけさ」

 

「へぇ、なかなかに狡猾ね坊や。冒険者の方の坊やには負けるけどあなたもなかなかにいいわね」

「それはどうも。お眼鏡にかなって光栄です」

 

あくまで礼儀正しく本性を見せるバルターに対して、シルビアはふーんと舌鼓をしながらバルターを品定めしているようだが、俺が未だ一番なのかよと突っ込みたくなってしまう。

 

「それで?こんなタイミングで現れてお礼だけわけじゃないでしょう?」

「それはもちろんです」

 

奴のおぞましさに気付いたのか、シルビアも若干引き攣りながらも奴の要求を聞く。流石の奴も抜刀していない青年をいきなり襲うほどモンスターではないようだ。

 

「ここまでして置いて言うのもアレですが、どうでしょう?その魔術師殺しを僕に譲る気はありませんか?そうしていただければ命までは取りませんよ」

 

確かに部下を見殺しにしておいて今更交渉なんてお前が言うな的な感じだ。

 

「あら私の命を気遣っているのかしら、それは随分と面白いことを言うじゃないかしら」

「えぇ、それで答えは?」

 

答えをはぐらかすシルビアに対して笑顔で答えを催促するバルター、側から見れば刑事とサイコパスの対談的なものにしか見えないほどその光景はおぞましいものだった。

 

「そんな事するわけないじゃない‼︎この兵器であの憎たらしい紅魔族を根絶やしにするのよ‼︎」

 

優しそうな表情から一転し奴の表情が険悪な表情に変わると、そのままバルターに向かって襲いかかる。

 

「残念です。あなたのキメラの力は僕としては優秀だと思ったので仲間になれればと思ったのですが」

 

そう本当に残念そうに彼は言いながら奴は腰に下げていた刀に手を当てると一瞬のうちに奴の胴体を上下真っ二つにしてしまった。

 

「今だ‼︎」

「おうよ‼︎」

 

一体どんな手品を使ったのかシルビアの体はものの見事に分かれ、彼の魔法により上方へと打ち上げられる。

その光景をポカンと見ている訳にはいかず、すぐさま引き金を引き超電磁砲を発動させる。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーっ⁉︎」

 

銃口から圧縮された高濃度の魔力が発射されると打ち上げられたシルビアへと命中し、まるで打ち上げ花火の如く語音を立てながら奴の肉体は美しく爆ぜていった。

そして俺はその反動を受け後方の木に激突するまで吹き飛ばされる。

 

なんだかんだ言って木まで飛ばされるのはなれているのですぐさま受け身を取ることで意外にも意識を残す事ができ、回復魔法を掛ければすぐさま動ける状態だった。

体を這わせクレーターの淵までたどり着くと、そのまま下を覗き込み事の顛末を確認する。

 

先程までシルビアがいた場所には魔術師殺しが無傷で残っており、上の住民がいないだけの良品のようだ。

 

「汚い花火だったね、君もそう思うだろ?」

「ああ、ものすごい爆発だったけど生きていたのかよ」

「残念だったね。魔道具の威力は流石の僕もビックリしたけど、予想の範囲内だったからね。特に問題はないよ」

 

あの爆発の中生きていた事に驚きはあったが、それよりも超電磁砲の状態を確認したかったので奴を無視して台座の方へと向かう。

 

「これは…」

 

俺の視界に映った光景は無惨にも反動で物理的に壊れた超電磁砲だった。

銃身はひしゃげ、インジゲータのランプは粉々に割れている。ここまで壊れてしまえは修理は不可能だろう。

 

「その魔道具に関しては残念だったね。見たところあと一回使えるかどうかだったんだろう」

 

嘆き悲しむ俺の後ろで残念そうに彼はそう言った。

確かに物干し竿として普段から外に雨曝していれば風化して使いものにならなくなるだろう。むしろよく今回の戦いまで持ってくれたと称賛すべきだろう。

 

「それでシルビアの上の部分は倒したけど残りの体組織が魔術師殺しに残っていて再生するとかないよな?」

 

よくある漫画では基本的キメラのような魔物は少しでも肉体が残っていればそこから再生するのがお約束なのだが、ここから立て直されると流石の俺もお手上げになってしまう。

 

「それに関しては安心してもらって構わない。奴はグロウキメラである以上元となった肉体の脳が無くなってしまえば再生は困難だ仮に何かしらの繋がりがあってもこの刀で斬ればそれを断ち切ることができる」

 

そう言い奴は腰に下げていた刀を俺に向ける。

するとその刀身は力を失ったように崩れ、灰となりて風に乗せられ何処かに消えてしまった。

 

「やはりあれを斬るには荷が重すぎたか、君にとどめを任せて正解だったよ」

 

残った柄を放り投げ、鞘を地面に突き刺すと刀身を追うかのように自身の体を灰に転じさせ崩れ同じように風に乗って何処かへ消えていった。

奴自身がシルビアを仕留めようにも刀が保たない以上決め手が欠けてしまっていたのだろう。

 

「勿体無いな、結構高い剣だったんだろ?」

「ああ、まあでも武器に執着は特にないからね、また他の武器を使えばいいだけさ」

 

彼にとって武器は道具でしかないのだろう。

 

「それであの魔術師殺しが目的だったんだろ?」

 

範囲を絞りあの魔術師殺しの周囲を探ると爆風の影響を受けないように色々と細工を施していたのがわかる。

家の強化とか防御性能を上げるとかそんな事に使われるのだろうか?

 

「そうとも、あの魔道具があるだけで計画が大分省略できるからね。何としてでも手に入れたかったのが本音かな」

「へぇ」

 

気づけば何処からか現れたバルターの仲間だろうか騎士とは違う家自体の使用人だろうかが現れデストロイヤーを彷彿とさせる魔法陣でそれらを運んでいった。

 

「礼を言うよサトウカズマ。魔王軍幹部シルビアはカードに記載されているように君が倒した事で報告しておくよ」

 

そう言いながら彼は転移魔法を使ったのかそれとも仲間が遠方で使ったのか一瞬にしてバルターの姿が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

その後俺は帰る手段がないのでそのまま里で待つ事になり、ねりまきたちが様子を見るために戻ってくるまで一人で里の火消しや生き残った部下の討伐を行なった。

疲れ果て祝勝会では壇上に立たされスピーチなどをさせられ、里の皆からはゆんゆんのコレの人だと小指を立てられる羽目になった。

親父さんからは酔っ払っているのか任せたぞととか言ってくるし、当のゆんゆんはシュワシュワで気が大きくなったのかカズマさんは私のこれですなんて言い始める始末だし、明日は大変な目にあうだろうな…

 

超電磁砲は記念として加工された後に街に飾られることとなり、今もふざけては里の者達が魔法で魔法で余剰にコーティングを始めた。

もう宴もたけなわなので眠る事にするわと酔っ払っているのか適当な椅子に腰掛け眠りについた。

 

 

 

 

 

「おや、目が覚めましたか?」

 

目を覚ますと全身が痛い事に気づく、どうやら椅子で寝たから体を痛めたらしい。

そして起き上がった際にめぐみんが何か作業していたのか横から声をかけてきた。

 

「めぐみんか?あの後大丈夫だったか?」

「覚えていないのですか?戦いの後酒盛りで一緒にドキドキ爆裂魔法ポーズ大会と言う余興をして優勝したではありませんか」

「何その余興、怖いんだけど」

 

どうやら飲みすぎたようで記憶が少し曖昧になっているようだ。

やはり疲れている時に大酒飲みは体に良くないなと、これから気をつけようと自分を律する。

 

「他の皆さんなら紅魔の里で復興作業していますよ」

「成る程な、通りで気配がしないのか」

 

感知スキルで周囲を探ったのだが、ここを抜け出す前と比べると周囲に漂って居る気配の濃度がかなり薄くなっている。

 

「つまり役に立たないめぐみんはお留守番ということか‼︎」

「なっ何を言っているのですか⁉︎はっ倒しますよ‼︎」

 

まあ、役に立たないのは俺も同じだが…

そうなるアクセルに帰るのはいつになるのか…

 

「そういえば今何日だっけ?」

 

そういえばと予定が一つあったことを思い出した。

 

「今日ですか?今日は…」

 

宴の片付けをしているめぐみんは一度手を止めると、指を顎に当てながらうーんと何かを考えると思い出したのか今日の日付を言った。

その日付は奇しくもバニルの指定した期限のギリギリの日で…

 

「やばい俺の3億エリスの商談が消える‼︎」

「どう言うことですか⁉︎」

「ここにくる前に言っただろ、バニルと三億円の商談があるって‼︎その期限が今日なんだよ‼︎」

「なんですと⁉︎」

 

思わず一緒になってめぐみんとビックリするが、今はそれどころではないので急いで残っている里の住人に声をかけアクセルに運んでもらおうとしたが、アクセルを登録している人はおらず、仕方ないので馬車の停留所がありアクセルの街に近い場所へとテレポートで飛ばしてもらう事になった。

そこからなら馬車を貸し切って飛ばせば時間に少し余裕を持って到着するとのことだ。

 

「里の復興に大体どれだけ掛かるんだ?」

「そうですね、少なく見積もっても一週間以上かかるかと…」

「分かった、用が済み次第そっち向かうからゆんゆん達が帰ってきたらそう伝えておいてくれ‼︎」

「わっ分かりました‼︎カズマも気をつけて、こっちの事は私がなんとかしますから、なんとしても3億エリスの商談を成功させてください‼︎」

「おう、任せておけ‼︎無事終わったらお前の欲しがってた杖買ってやるよ」

「ほんとですか‼︎」

 

そうしてめぐみんに仕事を全て押し付け俺はアクセル近くの街へと飛ばされ、馬車を貸し切るとそのままアクセルへと馬車を向かわせる。

流石に貸し切ると途中の停馬場にいちいち止まらなくていい分スピードがかなりの速度で流れるので見ているこちらからしたら中々に楽しい。

 

このペースなら予想より早く着くから一度シャワーを浴びても大丈夫そうだな。

そう思いながら外の景色を眺めていると、ちょうど小河の橋に差し掛かり水辺には高く売れるアダマンマイマイ的な生物がいると聞いたことがあるので、どんなものか眺めていると。

 

「…ん?」

 

川の向こう岸に倒れた人影のようなものがある事に気づく。

まさかこの世界にも土左衛門的なものがいるのだろうか…気になって感知スキルを絞ると弱々しいが僅かに気配を感じるのでもしかしたら本当かもしれない。

 

「すいません‼︎橋を渡った先で一度馬車を止めてください‼︎」

 

料金を追加で払いますのでと言うと運転手は喜んで馬車を停め、俺は河の岸まで降りるとその人影のところまで向かう。

そこにいたのは確かに人で、やはり冒険者だろうか薄着だが腰に細剣を下げており、身長はめぐみんと同じくらいだろう。身なりがボロボロで全身生傷が絶えない所から何処かの戦闘で河に落ちて命かながらここまで流れてきたのだろう。

 

「大丈夫か⁉︎」

 

時間があれなのですぐさま馬車へ戻り出発させ、揺れる小屋の中で回復魔法をかけ肩を揺すると少し咳き込みながら目を覚ました。

金髪に碧眼で中々に整った顔をした少女は俺に目を合わせると、ゆっくりと起き上がる。

 

「私は…」

「目が覚めたみたいだな、一応回復魔法は掛けたけど体調は大丈夫か?」

「えっあはい…特に問題はありません」

 

手を握ったり開いたりした後立ち上がって動ける範囲で動き運動機能に問題が無い事を確認する。

 

「あの…ここは?」

「ああ、ここは馬車の中だよ。アクセルの街に向かっているんだけど君は何処から来たんだ?後そういえば名前も聞いてなかったな、俺の名前はサトウ・カズマだよろしくな」

「あっはいよろしくお願いします」

 

やはりいきなり男と二人の空間に居るとなるとかなりの緊張を与えているのだろう、その証拠に少女の態度が終始困ったようにおろおろとした感じで不安に満ちているのがわかる。

 

「あの…私の名前ってなんでしょうか?」

「はぁ?」

 

あはははと苦笑いで少女は俺にそう聞いてきた。

 

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