この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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誤字脱字の訂正ありがとうございますm(_ _)m


六花の少女2

「それでこれからどうするのでしょうか?」

「んーそうだな」

 

ウィズの家を出てから早数分、元々商談が済み次第紅魔の里へ戻る予定だったがアイリを拾ってしまったことで予定が変更されてしまい、どうしようかと言う局面に立たされている。

 

このまま紅魔の里に行くのも悪くはないが、それだとただでさえ慣れていない彼女をゆんゆん達に会わせるということになってしまう。

多分大丈夫だと思うのだが、事情を一から話すとなると誤解を生み結果として色々在らぬ疑いをかけられそうで怖い。

 

一応だが彼女は俺の妹と言う立場であるので、この生活に少し慣らしてからの方が何かをするには良いだろう。

 

「取り敢えず家に案内するよ」

「家ですか?」

「そうそう…ああそうだった、俺の住んでいる所は屋敷で部屋は沢山あるから安心してくれよ」

 

流石に先程まで他人だった男と同じ部屋で暮らすのには抵抗があるだろう。

安心して貰うことに関して黙って置く理由はないので、驚かそうだなんてことは思わずに自身の生活環境について説明する。

 

「え。あ、はいそうですね。もしかしてお兄様はどこかの貴族なのでしょうか?アクセルは初心者冒険者の集まる街で基本皆さんは宿に泊まるとウィズさんに聞いたのですけど?」

「ああ…それね、それに関しては違うのかな?俺の住んでいる屋敷はあくまで借りている、言わば借家で俺が所有しているわけじゃないんだよ」

「そうだったんですね」

 

そう言えばこの子の部屋はどこにしようかなと、新しい疑問を発見するが身分が分かり次第元の生活に戻した方が良く、そこまで長居する事は無いと思う。そこまで深く考える必要は無さそうなのでゆんゆん達の手前の部屋で大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

「ここが俺たちの住んでいる屋敷だな結構街から外れてるから出かけた時は迷わないように気をつけてくれよな」

「はい、分かりました。それにしても大きいですね、これほどの屋敷を借りれるとなるとお兄様はやはりかなりの実力のある冒険者なのでしょうか?」

「いやいやってさっきから俺を持ち上げてるけど、そこまで強い事は…なくは無いけど本当にすごい冒険者は王都で一戸建て持ってるから」

 

何故か先程から俺を褒め殺そうとしている彼女の真意は分からないが、なんだかんだ言って冒険者カード上は魔王軍幹部を4人屠っていることになるのでそこら辺の冒険者よりは実力がある事になる。それはあくまで俺のバックの2人が優秀なだけで俺自身はそれなりの実力しか備えていないので変に期待させて落とすよりかは現実を教えておいた方が良いだろう。

 

「王都ですか?あそこはあまり良い所では無かったような気がします…」

「え?」

「え?今私何か言いましたか?」

 

ボソッと何かを言ったような気がしたが、彼女自身無意識だったようで2人して驚く。

彼女自身意図したわけではないが、ふとした拍子に記憶が蘇るのかも知れない。

完全に忘れている訳ではなく、記憶に蓋がされ何気ないタイミングでそれが一時的に開き記憶が漏れてきているのだろう。

 

「今王都がどうとかいっていたけど、何か記憶が戻ったりしなかったのか?」

「いえ…申し訳ないのでですが私にも何が何だか…」

 

もしかしたらと追及してみたが、やはり本当に一時的なものだったようでそれ以上の情報が彼女から語られることは無かった。

 

「屋敷の前でボーと突っ立てないで取り敢えず中に入ろうぜ、流石にここだと人目につくからさ」

「はい、分かりました」

 

特に悪いことをしているわけではないのだが、やはり小さな女の子を家に連れて行くと言う行為はそれが善行だとしても罪悪感のような危機感みたいな冷や汗が止まらなくなる感覚になるのだ。

まあ側から見れば誘拐以外の何者でもないのだが。

 

「そう言えばこのお屋敷にはお兄様1人で暮らしているのでしょうか?」

 

ラウンジを案内している所でふと気になったのか不思議そうに聞いてくる。

 

「いや、流石に俺1人だと広すぎるからな。今は訳あっていないけど後2人くらいの仲間がいるよ」

「そうなんですか…他の方もいらっしゃるんですね。仲良くなれるでしょうか?」

「ああ、アイリなら大丈夫だろ?2人も怖そうに見えるけど根はいい奴だから」

 

いきなり妹が増えましたと言ってハイそうですかと引き下がるとは思えないが、多分俺が屁理屈を捏ね回してアイリが遠慮して出て行く流れになれば、なんだかんだ言って俺が悪者になって迎え入れる流れになるだろうと悲しい経験則でそうなる気がする。

 

取り敢えずはこの状況を2人が帰ってきた時にどう説明するかと言う訳だが…まあその時の状況になれば何かしら思いつくだろう。

普段から嘘をつく練習をしておくか、その時の状況を色々分岐させシミュレーションして矛盾を潰し話の筋を通しておけば大抵のことは誤魔化せるが、相手の中にめぐみんが混ざっているので油断はできない。

ゆんゆんは相手が俺だと簡単に騙せるが、めぐみんは逆に俺だと他人が騙すよりも難易度が高いのだ。

 

それからなんだかんだありながらも一通りの部屋を案内し、最後に彼女の部屋にしようかと思っている部屋に案内する。

この屋敷の本来の持主が住んでいた部屋を除き、基本的な部屋の構造は同じなので、決め手となるのは部屋の位置なのだが部屋の数が多いのであまり離しすぎるとそれはそれで面倒なことになるのだ。

 

「え?こんな広いお部屋を頂いてもよろしいのでしょうか?」

 

部屋に案内し、掃除をする前に部屋を見せ了承を得ようとした所で彼女が驚いたようにそう言った。

 

「そうだよ、基本的にこの屋敷の部屋の広さは大体位同じだから遠慮しなくても大丈夫だよ」

「ありがとうございます‼︎」

 

喜ぶ彼女と一緒に部屋の掃除を始める。

掃除は当番制で行ってはいたので、そこまで埃まみれという訳ではないのだがそれでも紅魔の里に行っていた間は掃除はしておらず、尚且つ人の住んでいない部屋というものは何故か汚れていくと言う不思議な現象があるのだ。

 

それはさて置き。全ての初期準備が終わったのなら最後によらないといけない場所があるのだ。

 

「お兄様これは一体誰のお墓なんでしょうか?もしかして昔お仲間だった冒険者の方ですか?」

「いや違うよ」

 

この屋敷の主だった、というか今も主みたいな少女が眠る墓石の前に彼女を案内する。

これは俺が勝手にしているこの屋敷に住むための通過儀礼というやつだが、一応住むという許可を取るというか事後報告をこの墓前に向かって掃除という形で行ってもらうのだ。

これはあの2人にもやらせていることで、多分ないとは思うのだがこれをしないと何か悪戯や嫌がらせを受けるかも知れないという不安があるのだ。

 

「これは昔住んでいたこの屋敷の持ち主女の子のお墓でね」

 

長くなるから話はだいぶ割愛するよとこの屋敷が建てられた経緯などを簡潔に説明する。

 

「…そんなお話があったのですね」

「まあ、かなり昔の話らしいから今はそんなことはないって聞いてるけど」

 

「それでこの子は幽霊となってこの屋敷にいるという訳でしょうか?」

「そうだな、時々気配を感じるんだけど俺もたまにしか会わないかな」

 

結局の所最後にコミュニケーションを取ったのは掃除をした日に眠ろうとした所で窓に礼を書かれた時だろう。

シャイなのか、それとも俺が浄化魔法を使えることを警戒しているのかその真意は分からないが、いつか腹を割って話がしたいものだ。

 

「そうなんですか、もし会えるのであれば私も一度挨拶をしてみたいですね」

 

そう言いながら彼女は汲んできた水を使いながら墓石を掃除する。

しばらく掃除をしていなかったせいもあるのだろうが、彼女の才能なのか洗い終えた墓石は今まで以上に綺麗に磨かれていた。

 

「よーし、掃除も終わったことだしアイリの買い物でも行くか」

「私の買い物ですか?」

「流石にその服だけでしばらく過ごすのは無理があるだろ?今回の商談でかなりの金が入ったから余裕で買えるぜ」

「そんな…ここまでしてもらって申し訳ありませんので…」

「そんな事気にすんなよ、そうだ!だったらこうしようぜ」

「どうされるのでしょうか?」

「一通りの事が終わったらアイリにクエストを手伝ってもらうことにしてもらう事にするよ」

 

取り敢えずそれっぽい事を提案する。手伝うと言ってもモンスターと戦わせるようなクエストではなく、採取クエストや雑用などの比較的安全性が高いクエストをメインに行こうかと思う。

それだったら危険に遭うこともなく安全にお金を稼ぐ事ができるので彼女も罪悪感を感じないだろう。

 

「それでしたら問題ありませんね。私もお役に立てるよう頑張りますね!」

「おう、その意気だ」

 

遠慮する彼女を適当に説得しながら商店街の方へと向かう事にする。流石に買い物だけではもったいなく折角なので彼女の正体というか、どこの貴族がどうとかの情報を仕入れられたら彼女の実家の特定ができるかも知れない。

 

 

 

 

 

「うーんどれがいいんでしょうか?」

 

商店街に着き、まず最初に目が入ったのは服屋だったので彼女を服屋に連れてきたのだが、意外にも拘りがあるのか長時間悩みに悩んでいた。

 

そういえば彼女の年齢は一体幾つなのだろうか?

めぐみんみたいに年齢の割には幼いケースもあれば、逆にゆんゆんみたいに成熟しているケースも存在する。どれも個性なのでどうこうしようとかは考えはしないが、ぱっと見はめぐみんと同じくらいに感じるが言動はゆんゆんよりも年上に感じる時が時折存在する。

まあどう考えても俺より年下なのは確定しているのでどうでもいいが、年齢という基準が曖昧だと服装などもどう扱っていいのか分からないので早急に割り出したいが、本人の記憶がない以上日本で読み耽った相手の年齢を探る方法も意味をなさない。

 

「お兄様これとこの服はどうでしょうか?」

 

彼女の服選びを眺めてはや数分、いくつか候補が出来たのか複数の組み合わせを俺の前に持って来て自分に重ねるように見せてくる。

本来の女の子とはこういう子の事を指すのだろう。めぐみんは同じ物しか着ないし、ゆんゆんは少しズレたものを好むし…いや紅魔族なのだからそこは俺が普通なだけだろう。

 

それはそうと彼女が選んだのはワンピースをベースにしたもので、基本は無地でシンプルな物が多いが、心無しか少しデザインが派手な感じなものが紛れ込んでいる様に見える。

やはり記憶を失う前は上品な服しか着させてもらえなかったのだろうか、詳しくは分からないが折角なので好きにさせてみる事にした。

 

「俺はこっちの方が好きだけど、結局着回すんだから両方買うよ」

「え?いいのですか⁉︎」

 

洗濯をしてローテンションする以上服が数着無いと雨が続いた時に着る服がなくなってしまう。流石にめぐみんの服を勝手に貸すわけにはいかないので残りの服もそのまま購入する。

 

「後、そうだな…これなんかどうだ?」

 

そこらへんにあった帽子を適当に取り彼女に被せる。

髪を染め目の色を変えたとして顔が変わるわけでは無いので、できる限りの変装をした方が良いだろう。

本当はマスクが欲しかったが、生憎この世界では病気がほとんど魔法で治ってしまうため予防という文化は根付いていないらしくマスクという物はあくまで工業用の物として存在するゴツい物しかないという事になっているらしい。

 

「これもいいんですか‼︎」

「おう、折角だからな。ここの店主とは結構仲が良いからおまけしてもらうよ」

 

ここの店主とは一度売り上げが落ち込んだ際にアイディア提供をした時から仲良くなっており、その時からよく利用するのでこれくらいは許してくれるだろう。

まあダメだったら買えばいい話だし、日本の知識様様だな。

 

 

 

「なんだ、それくらいの物だったら幾らでもおまけしてやるよ。それくらいお前さんには世話になっているからな」

「おう、それわよかったよ。それで売り上げはどうなんだ?昔みたいにこのままじゃ閉店だとかそう言う事はないんだろうな?」

「それはもう大丈夫よ‼︎お前さんの考えたデザインは意外と人気で今も店前に並んでるよ」

「そいつはよかった」

 

ファッションに詳しくなかったので、適当に記憶を呼び起こしロゴやテレビで見たデザインをそのまま流用したのだが、それが功を奏したのかこの店のの売り上げは元に戻るどころか上昇しているとのことだ。

 

「それで、あまり見かけねぇけどその子はどうしたんだ?見た感じお前さんと同じ様な感じだけど?」

「ああ、こいつは俺の妹でな。訳あって暫くこっちで面倒見る事になったんだよ。かわいいだろ?」

 

取り敢えずは怪しまれないように彼女の経歴を予定通り俺の妹ということで話を続ける。最初に紹介するのは信頼度が高い人にした方が広がるときの内容の印象が良い方へと進むのだ。

ここは初心者の街アクセルなので、基本冒険者志望の者が集まっている。人種等々は関係無くわざわざ議題になる事はなく、俺の出生に関して言及しているのはゆんゆん達だけなので、彼女がどこ出身かについて聞かれることはないだろう。

 

「アイリです、よろしくお願いします」

「これはこれは随分と丁寧に、こちらこそよろしくな」

 

ペコリと礼儀正しくお辞儀する彼女に対して、ガサツな俺の印象が先行していたのか分からないが驚いたように店主は挨拶を返す。

 

「おい本当にこの子はお前の妹か?ガサツなお前とは大違いだぞ⁉︎」

「うるせーよ‼︎アイリと俺の性格が一緒でなくて悪かったな‼︎」

 

一瞬バレたかと思ったが、あくまで俺と彼女との性格があまりにも似ていなすぎたので冗談として言っていたようだ。

確かに彼女は礼儀正しく俺とは大違いだが、やはり彼女の礼儀作法をもっと砕いた方が良いのだろうか?あまりやり過ぎて癖になってしまったら元の家での生活に支障が出てしまうので、もう少し様子を見て決めよう。

 

「改めてよろしくな、君のお兄さんには随分と世話になってな。何かあったら頼ってくれよ、まあお金がかかりそうだったらお兄さんに請求するから安心してくれ」

「おい⁉︎何言ってんの⁉︎」

「ありがとうございます。服の事で何かありましたらすぐ伺います」

 

俺のいない間にとんでもない契約が交わされてしまったようだが、アイリが馴染めたと言うことを考えればいい事なのだろう。

 

 

 

 

 

「次はどのお店に行くのでしょうか?なんだか楽しくなってきました」

「それはよかったよ、次は…あそこかな」

 

ウィズの服は若干サイズが大きかった為、先ほど買った服に着替えてもらい現在は年相応で少し華やかな格好になっている。

流石に下着類は不味いと思うので本人に金を渡し買いに行かせる、途中拐われないか心配だったがそれは杞憂だった様で店員と喋り込んでいたのか、どこか自信気に袋を提げながら帰ってきた。

そして俺は先ほど購入した服を袋に詰め手提げに収納しそれを肩にかけ店を後にする。

流れで格好つけて色々買ったのはよかったのだが、意外と量が多買ったので帰りによればよかったと若干後悔する。

 

次による店は武器防具等の冒険者に必要な装備を買いに行こうかと思い、いつもの店へと向かう。

 

「次はここですか?何だか暑い様な気がしますけど…」

「ここは俺たち冒険者の聖地みたいな所かな?何をするにもここで装備を整えるのが基本になっているんだよ、アイリもクエストに行くんだから一応一式揃えないとな」

 

建前だったが、一応行かなくては彼女に罪悪感を与えかねないし、彼女の家族が見つかるまで家に匿い続けると誰かに怪しまれそうなので一応は連れて行ってやるのも気分転換になって悪くは無いだろう。

この周辺もそこまで危険ではないし、俺もだいぶレベルが上がったので最悪いざとなったら彼女を逃すことぐらいはできるだろう。

 

「そうなんですね、それではどこから向かうのでしょうか?」

「そうだな、最初は武器だな。それでしっくりしたもので防具を選べば間違えは無いって俺の師匠みたいな人が言っていたぞ」

「そうでしたか、お兄様は物知りですね‼︎」

「おうよ」

 

そんなこんなで最初に武器屋に向かう事にする。

 

 

 

 

俺の持っている魔法剣をついでにメンテに出しながら、その待ち時間でアイリの武器を決める事にした。武器も磨耗していくので常に研ぐなどの調整を行わなくてはすぐにダメになってしまうのだ。

元々細剣を持ってはいたが、それだと身分がバレてしまうかも知れないので新しい武器を新調しようという算段だ。

 

「お兄様‼︎この武器はどうでしょうか?すごく長いので遠くの敵も一網打尽ですよ‼︎」

「おいおい⁉︎そんなもん使える訳ないだろ⁉︎」

 

武器売り場に来て早々彼女は自身の身長の1.数倍はあるだろう槍を掴んで俺に向ける。

流石にそこまで長いと技量とか関係なしに使いづらいだろう。と言うかそんなもん近くで振り回されたらたまったものではない。

 

「他のものにしようぜ、こんなに沢山あるんだからさ」

「そうでしたか…結構よかったと思ったのですが」

 

かなり気に入っていたのだろうか、何故かしょんぼりし始めた彼女を宥めながら色々な武器を手渡していく。

 

「まずはダガーだな、これはリーチが短い分軽いから沢山攻撃出来るし、小回りが効くぞ」

「確かにこれなら色々出来ると思いますが、何だか物足りないですね」

 

折角なので細剣に拘らずに色々持たせてみて可能性を確かめるのも悪くはないだろう。

某クリスに教わった内容を思い出しながら説明を始めていく。これが受け継がれていく伝統というものだろうか、俺も成長したなとどこか感傷的になっている自分が居る事に気づく。

しかし、しっくりこないと言う割にはいい動きをする様な気がする。

 

 

 

 

 

「成る程な…ならこれはどうだ?」

 

あれからたくさんの武器を渡したが、どれもしっくり来ないらしく結局俺と同じ片手剣を渡す。

できればあまり被らない方がよかったのだが、彼女がそれがいいというのならそれに従った方がいいだろう。

やはり武器選びは最初のフィーリングが重要だと彼女は言っていたが、やはりそういう事なのだろうか剣を持った彼女の構えは俺たち冒険者のとる片手剣スキル特有の構えをしていた。

 

多分だが、護身術で学んだのだろうか片手剣のスキルを持っている様な気がするのだ。やはりあの細剣は祭事や衣装の飾りではなく実際に使っていたものになるのだろう。

ならば冒険者カードを作れば詳しく分かるとの事だが、そこから足がついたら不味いので最終手段にしようかと思う。もしも貴族同士の内輪揉めの場合この子が生きていると分かった瞬間に刺客を向かわせて来そうだし。

 

「これが一番しっくり来ると思います、お兄様とお揃いですね」

「ああ、そうなるよな」

 

基本的に最初に習うのは片手剣で、そこから色々な武術に応用できると聞いていたので大体は片手剣が使えると昔ダクネスら辺が言っていた気がするが、結果を見るに彼女はそこから派生しなかったのだろうか、それとも全てを一通り使えるうえで片手剣がマストだと選んだのだろうか。

真相は闇の中だが、モンスターを倒しにいくのではないので護身用の意味で持ってくれれば十分だろう。

 

「それじゃあこの剣を買おうか」

 

そこから片手剣にカテゴリーを絞り色々な剣に触れさせた結果、結局細剣にたどり着いてしまう。

 

「折角だからいいやつにしようか」

 

流石に一番高い奴にすると後で2人と合流した時に文句を言われそうなので、値段ではなく性能で選ぶ事にする。

あくまで護身用な事を考え耐久値に特化したエンチャントが施された物を選びそれを購入し、一緒のタイミングで仕上がった魔法剣を受け取る。

 

「ありがとうございます、大切にしますね」

 

アイリは俺から剣を受け取ると早速腰にそれを装備する。

流石に洋服と戦闘用の剣となると合わないのか、剣が浮いてしまいどこかぎこちない感じになってしまう。

 

「次は防具屋に行こうか」

 

取り敢えずは残りの買い物を済ませようと思いながら別の店に向かう。

彼女にとって防具は剣よりも重要で、その身を守る為に妥協は許されないのだ。

 

 

 

 

 

 

「…あのお兄様…気持ちは嬉しいのですがこれだと動けないです…」

「そうだよサトウの旦那、妹さんの手前気持ちはわかりますけど、これだと何もできなくなっちまいまっせ‼︎」

「やっぱり駄目か…俺的にはこれ位でもまだ物足りないと思ったんだが…」

「これ以上は潰れてしまいます‼︎」

 

また出会った時みたいに傷ついたら嫌なので、一番防御性能が高い防具を値段を気にせずに着せていったのだが、結果として彼女の装備重量を超えてしまったみたいで、全身をフルメタルで覆われ直立不動から動けずに面部分のカバーを上に挙げた状態で顔を出しなんとか呼吸をしていた。

本来は必死になって止めなくてはいけない所で失礼なのだが、必死に息を吸う彼女の姿はどこか可愛かった。

 

「仕方ない…不本意だがアイリが動きやすい装備を買い揃えよう」

「そうです、そうですとも」

 

はぁ、とため息をつきながら女性用の軽装備が置かれている場所に入る。

普段は男子禁制が暗黙の了解だが、今回はこの子の保護者ということで入ることが許され、ついに俺は秘密の花園へと侵入を果たしたのだ。

 

「へぇ」

「なんか目がやらしいですよお兄様」

「いや、そんな事はないぞ、俺はちゃんと責任を果たそうと厳選していてなしてな…」

「はぁ…そういう事にしておきますね」

 

どうやらアイリは幼くして女の感が鋭いらしく、俺の邪な感情をすぐさま読み取り嗜めてくる。

 

「取り敢えず一度着てみないと分からないからな、どんどん試着してくれ」

「はい。分かりました‼︎」

 

ラジャーと先ほど適当に教えた敬礼を使いながら返事をすると、彼女は適当に見繕いながら気に入った装備を試着室へと持っていった。

多分性能よりもデザインで選んでいる気がするのだが、しっかり者の彼女の事だ多分大丈夫だろう。

 

「これにしました‼︎」

「おぉーっ‼︎」

 

バーンと試着室のカーテンが開かれると、中から軽装備を身に纏いそれを隠すようにマントに身を包んだアイリが現れた。

なんだろう…紅魔の里に帰って気がする。

 

装備は為本的に重要な場所を守るように頑丈な皮の素材をベースに鉱石のプレートをあしらった物になり、そこは流石と言いたい所だが、そのマントは一体どういう意図があるのだろうか?

俺みたいに腰までなら背中に隠した得物を相手に晒させないという意味があるが、足元まであるのは一体どういう意味があるのだろうか?

基本的に外敵や外部刺激から守る作用もあるのでなんとも言えないが…まあいいだろう、邪魔だったら外して捨てればいいだけだし。

 

「似合ってるぞアイリ」

「はい‼︎」

 

折角彼女が選んだことに水を差さずに、彼女の肩を叩くとそのまま会計へと向かい精算する。

 

「おおっ見違えましたぞ、あなたの妹もなかなかにいいセンスをお持ちだ」

「だろ」

 

途中なんか褒められたので自分ごとの様に誇っておく事にした。

 

 

 

 

 

 

買い物を終え、家財等等の消耗品も含め購入を済ませる。

初めて屋敷を借りてどうやって暮らそうかなど考えて購入した時の事を思い出して少し楽しかったが、結局荷物は持ちきれなくなりリアカーに乗せて運ぶ事になった。

 

「次はどこに行きますか?流石に外も暗くなって来ましたので残念なのですが今日は帰りますか?」

「ああ、そうだな。取り敢えず夕食の材料を買って帰ろうかな、何か食べたいものとかあるか?」

「いえ…料理はうっすら味が思い出せるのですがそれ以外は何も知りませんので、お兄様の好きなものでお願いします」

「成る程な…そこの記憶も無いってわけか、だったら俺の国の料理をご馳走してやるよ‼︎」

「本当ですか⁉︎」

 

わーいと無邪気に喜ぶ彼女を見ながら商店街の食材を吟味する。

この世界は基本的に日本と同じような素材はあるにはあるのだが、秋刀魚が地面から生えてくるみたいなよく分からない状況にあるので、代替品で誤魔化すことにして購入していく。

 

多分貴族なので舌が肥えていて、もしかしたら舌が合わないとか言われたらショックなので王道の炒飯的なもの作ろうかと思う。

本当は他の料理が良かったのだが、個人的に失敗がないかなと思うのはこの一品だろうと思う。

 

 

 

「なんでしょうこの料理は‼︎とても美味しいです‼︎」

「そう言ってくれると作った甲斐があるってもんよ」

 

そう言えば何も食べていなかったなとは思っていたが、予想以上にバクバクと食べる姿を見て何だか嬉しくなってしまう。

意外と食べるよりも美味しく食べてもらったほうが気分がいいのは俺だけだろうか?

 

「ご馳走様でした。何だか久しぶりに楽しい食事をした様な気がします」

「お粗末様。気に入ってもらって何よりだ」

 

いつもの癖なので忘れていたが、食事中に話しかけてしまい食事会というよりかは雑談パーティーみたいになってしまったので、行儀が悪いと遠回しに言われるかと思ったが、そう言う事にはならずにそのまま終了となった。

 

 

 

「今日は見ず知らずの私にここまでして頂きありがとうございました」

 

諸々を済ませ、最後に部屋に案内すると彼女は畏まったように俺にお礼を言った。

 

「そう畏まらないでくれよ、俺たちは兄弟なんだからもっとフランクに行こうぜ」

「フランクですか?」

「ああ…まあ家族みたいに気兼ねなく話そうってことだよ」

「ふふふ…お兄様は時々分からない事を言いますね」

 

照れ隠しなのかつい癖でこの世界には無い英語を言ってしまい時々聞き返される。

1日しか一緒にいなかったのに長い付き合いの様に感じるのは彼女のカリスマ性だろうかそれとも…

 

「全く、俺の揚げ足を取らないで早く寝ろ」

「そうですね、それでは私はもう寝ますお休みなさいお兄様」

「おう、お休み」

 

どこか安心したような彼女を寝かせると、そのままの足取りで自分の部屋に向かい眠った。




次回は休むかもしれません

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