「おはようございます、お兄様‼︎」
就寝し、何だか不思議な夢を見ていたかなと思いながら微睡んでいると、誰かに意識の表層の方から呼ばれている様な気がした。
まあ、要するに起こされていると言う訳だが。
「あと5分頼む…」
早く俺を起こさんとゆさゆさと体を揺動させている彼女に対して、取り敢えず睡眠を延長を申し出てみる。
ゆんゆんの時はバリケードを敷いても突破され容赦なく起こされたが、アイリは心優しい少女なのできっと俺が寝続ける事を許してくれるだろう。
「駄目です‼︎今日も何処かに連れて行って頂けるとお兄様は昨日仰ったじゃないですか‼︎」
「えぇー」
どうやら昨日の一件で大分砕けて来たのか、休日に父親を起こして何処かに連れて行って貰おうとする子供の様な感じに追撃を受ける。
実際受けてみれば分かるが、夜勤明けで眠たい所に遊びに来た親戚の子供に叩き起こされ遊び相手をするみたいな事をされ、結構しんどかったことがあった。
遊び相手をしている最中、当時自分も自身の父親に同じ事をしていたなと思い出し、これが因果応報なのかと微睡の中で実感する。
「分かったから退いてくれ、このままだと動けないからさ」
「はい、分かりました」
なんとなく駄々をこねていたら限界を超えたのかとうとう馬乗りになって起こしにかかったで、ほとんど乗っている彼女に退いてもらえるようにお願いすると観念したと思ったのかそのままベットから退いた。
まあ観念したんだけど。
「お兄様はしっかりしているかと思ったのですが意外とお寝坊さんなのですね」
「いやいや、俺がしっかりしている訳ないだろ」
期待させればさせる程、期待通りにいかなかった時の失望が大きいので早い段階で彼女に自分がそこまですごい存在では無いと伝える。
何をするとしても取り敢えず色々準備が必要だなと思いながら服に手をかけた段階であることに気づく。
「…悪いんだけど出てってくれないか?」
「え?…その…ごめんなさい、少し調子に乗りすぎてしまいました…」
「あ⁉︎いや違う‼︎」
寝起きだったせいで言葉足らずだったのが災いしたのか、文字通りに俺の言葉を受け取ってしまいシュンと彼女が落ち込んでしまう。
「着替える所は流石に恥ずかしいから俺の部屋から少し出てくれないか?」
「あ、はい、そうでしたか…私としたことが勘違いしてしまいました」
朝早くに無理やり起こした事を本気で責められていたと勘違いしていたのだろう顔面を蒼白にしていた彼女は、俺の指摘を受け誤解だと気づき羞恥心と安堵の入り混じった感情を出しながらそそくさと部屋から出て行った。
「ふぅ…」
言葉って難しいなと思いながら普段着る服に着替える。
その後アイリとともに朝食を終えると昨日購入した装備に着替えるように伝える。
「分かりました、今日から私も冒険者ですね!」
よほど嬉しかったのだろうか、彼女は喜びながら部屋に戻っていった。
さて、彼女が着替えるまでの間にゆんゆん達に手紙を書いておこうかと思う。
この世界にも手紙という概念はあるらしく、郵便局がありそこから荷物を運び売ったりする商業団の馬車に乗せて貰い各地方へと運ばれるらしい。
SNSが浸透してしまった俺からしたら伝達スピードは遅いが、それでも文書という情報を伝えられるというのは中々に便利だ。
内容としては簡単にトラブルがあったから行けない可能性が出てきた、と簡潔に書いて後は前文句を適当に書き連ねておけば大丈夫だろう。
これなら相手が何があったと返事が来てもSNSと違ってすぐには届かないので時間稼ぎができるし、あえて情報を曖昧にしておくことで問題が早く解決できた時に戻っても文句は言われないのだ。
いや文句は言われるかもな…。
そんな事はさておき、善は急げと便箋を取り出し文章を書き綴る。
この世界の言葉文字が頭にインストールされているとはいえ、急いで文字を書こうとするとやはり日本語を間違えて書いてしまいそうになる。
いや、いっその事こと全て日本語で書いて暗号文にしてやるのはどうだろうか?それはそれで面白いことになりそうだが、怒ったゆんゆんが乗り込んで来かけないのでやめておこう。
「準備完了です‼︎」
適当に文章をまとめ、それを封筒に入れた所でタイミングよくアイリが戻ってくる。
もう少しかかると思っていたが、もともと準備していた為か以外にも早く戻ってくる。
「準備も済んだことだし、そろそろいくか」
「はい‼︎」
手紙をポケットにしまい、椅子にかけてあったマントを羽織り、忘れ物がないか確認した後ギルドに向かう。
変装したアイリであればギルドで目立つことは無いだろうし、仲良く打ち解けたとしても貴族に売るやつは冒険者にいないだろう、それに顔を覚えて貰えば困った時に助けてくれる可能性もある。
甘いことを考えているかもしれないが、俺が行動不能になった時の事を考えてリスクを取ってでも保険をかけておいた方がいいだろう。
「久しぶりだな、紅魔の里の旅行はどうだったんだ?」
「ああ、色々あって面白かったよ。今度お前も言ってみたらいいじゃないか?ここらじゃ早々に出来ない体験が味わえるぜ」
「…いや止めとく。ゆんゆんならともかくあのちっこいのがデフォルトの里だろ?想像しただけで鳥肌が立つぞ」
「違いねえな」
「「ははははははははははっは‼︎」」
ギルドに入って早々に金髪でチンピラのダストに遭遇する、しかも酒臭くこんな昼間から酒盛りとは中々に冒険者らしいと思う。
そういえば何かあった時用に念の為と伝えていた事を思い出す。
「それで?あの2人が見えないけど今日はお休みかよ?」
「いや、色々あって今回は俺だけ戻って来た感じだな。2人はあっちで里の再建中だよ」
「へー面白そうだけど聞くのは落ち着いてからにしとくよ。何か嫌な予感するし」
冷たいように感じるが、奴は普段から巻き込まれる体質らしいのであまり関わりたくない事にはあまり口を出さない事にしているらしい。
「それで?さっきからこっちを見ているその子は何なんだ?流石にもう子供が出来たとか言うなよな?」
「当たり前だろ⁉︎…全く、この子が俺の子供だったら俺は一桁の時に仕込んだ事になるだろうが‼︎」
あまりそっちの話をアイリに聞かせたくはないのでコソコソとダストに物申す。
年齢一桁で子供を作るとかどんなプレイボーイだよ。
「こいつは俺の妹だよ。なんていうか家庭の都合でしばらくこっちで預かる事になった感じかな。まあよろしく頼むよ」
「アイリです。よろしくお願いします」
「おお、何だかカズマの妹とは思えないくらいのべっぴんが出てきたな。俺はダストって言うんだよろしくな」
「分かっていると思うけど手を出すなよ?」
「当たり前だろ?お前は俺をなんだと思ってるんだよ?」
おいおいと俺が悪いみたいに嗜められる。
まあ少し前にゆんゆんが守備範囲外と言っていた事を考えれば同じ位の年齢と考えるアイリは必然的に手を出す候補から外れるだろう。
これはあくまで趣味の主義主張みたいなもので決して俺がロリコンとかそう言う事では無いのだ。
「あの…ダストさん」
「ああん?どうしたよ」
「その針金みたいなもですが…」
ダストとの話を切り上げ、そろそろクエストの受付を済ませようと思った所でアイリは俺が昔ダストにあげた知恵の輪に興味を示した。
というかまだ持っていたのかそれ。
「ああ、これか?これはお前のお兄様に貰ったもんでな、なんでも賢さが高くないと解けないとか言う伝説の神具だよ」
「えぇ‼︎そのような物があるのですか⁉︎」
ただ余った廃材の針金を昔見た知恵の輪を思い出して適当に捻じ曲げただけの物だが、ダストはそれを親戚の子供を騙すように話を盛りながらアイリに伝える。
当のアイリもあまり人を疑うことを知らないのかすんなり騙されダストのペースに乗せられている。
「お前もやってみろよ、まあこのギルド内で挑戦してクリア出来るものはいなかったけどな。もし出来ればお兄様に箔がつくってもんだ」
いや、みんなお前に関わるとろくな事がないって行ってやらなかっただけじゃん。とうか箔がつくって何の箔だよアルミ箔か?
もう特許は無いけどな。
「分かりました、このアイリお兄様の名誉にかけてこの謎に挑んでみせます‼︎」
「おう、お前の力を見せてやれ‼︎」
そう言いながら知恵の輪の攻略に勤しむ
あまりにも元気よく返事をするもんなので近くにいた冒険者が何だなんだと集まって来てしまい、一種の見世物となってしまっている。
「ふん‼︎ううううううーっ‼︎」
「おっ、いい調子だ‼︎」
カチャカチャと知恵の輪を動かしているがその絡んだ輪っかが解ける事はなく、最初は嬉々としていた表情は徐々に曇り始めている。
一方外野の方ではアイリの事を俺の妹だという事が伝播し始めていた。
「アイリそれは…」
それはダストを馬鹿にするために最高難易度のやつを複製したやつだからコツを掴まないと上手くいかないぞ、と伝えようとしたところ。
「うっああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ‼︎」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇー‼︎」
何をやっても駄目だったのでとうとう力づくて解こうと思ったのか、彼女の可愛い咆哮と共に無理やり引き伸ばされた知恵の輪が音を立てて千切れた。
そしてはじけん飛んだ知恵の輪の欠片がダストの頬を掠めてどこかへ飛んでいった。
「危ねぇ…危うく知恵に殺される所だった」
「何上手くいってるんだよ」
頬を抑え、自分の命が繋がっていることを確認しながらダストは自身の命の尊さを改めて認識した。
「やりました‼︎これでお兄様に箔がつきますね‼︎」
いやいや、何やってんだよと言いたかったが、少し照れ臭そうに笑う彼女を見てその様な気持ちは無くなった。
それにしてもこの知恵の輪はバニルに売りに出す商品の制作中に余った材料で適当に作った物だが、その素材はアダマンタイトには及ばないがそれなりに硬度は高く、防具に使われる素材の中ではそれなりに上位に入るほどのものであった。
まあ、作ったのは大分前の試作の段階だったし、ダストも物使いが荒いので経年劣化によって脆くなっていた所たまたまアイリが引っ張って壊してしまったのだろう。
取り敢えず褒めて欲しそうなので褒めておくことにする。
「あの…知恵の輪を解いた際に壊れてしまったみたいで…申し訳ありません」
ひとしきり俺に褒められた後、我に帰ったのか自分の手元にあった壊れた知恵の輪をダストに渡し謝罪する。
「あー気にすんなよ。そこのお兄様からちょろまかした奴だからよ」
「そういえば勝手に俺から取ってた奴だよな」
なんで渡したのかと思っていたが、言われてみれば作ってたところからヒョイっと勝手に取られた事を思い出す。
確かその時にかなりエグい報復をしたので気が済んで忘れていたが、今となっては何でそこまでしていたかはよく覚えていない。
まあいいやとアイリを連れて受付の方へ行く。
ギルドの登録をすると過去ログか何かで正体がバレてしまい面倒な事になる可能性があるので今はやめておこうかと思う。これはあくまで最終手段なのだ。
「あれ、サトウさんじゃないですか?お久しぶりです」
「お久しぶりです、無事戻ってきました」
先程もダストに聞かれたので受付のお姉さんに先んじて全て説明する。
もしここが電子の世界だったらコピーアンドペーストやショートカットで纏めたやつを渡せば最速なんだけどなとため息を吐く。
「そうでしたか…2人は紅魔の里に残られたのでしたか。それでそちらの子がサトウさんの妹さんですね」
「はい、アイリと言いますよろしくお願いします」
事情を説明し、アイリのことを紹介すると2人とも丁寧にお辞儀を返していた。
「それでこの子を登録すればいいのでしょうか?まだ小さいのであまりお勧めはしませんが…」
「ああ、それなら心配しないでください。この子はあくまで連れて行くだけですので特に登録とかは考えていません」
「そうなんですか?てっきり意地でも行いそうな気がしましたが?」
「あくまで預かるのは一時的ですので…帰った時のことを考えるとちょっと」
「意外です、サトウさんも家族のこととなると優しいところがあるのですね」
「まあ、そういう感じです」
受付のお姉さんが勝手に勘違いした事に乗りながら、適当にはぐらかす。
このままではロリコンプラスシスコンになってしまいかねないのでこれからは注意しなくてはいけない。
「それでお兄様、クエストなのですがこれなんかどうでしょうか?」
「お、早速何か見つけてきたのか…できるか⁉︎」
受付のお姉さんと話している最中に姿が見えないと思ったが、どうやらクエストの書かれた依頼書が貼られた掲示板を見ていたようで、彼女自身何か気に入ったのか目をキラキラさせながら俺の元へと運んで来る。
そしてその持ってきた内容は、昨日の段階で伝えてい物ではなく、ドラゴンの討伐という中々にレベルの高い内容だった。
「冒険に出てドラゴン退治は鉄板だと私は思います!お兄様は実力者と聞いたので是非横で見たいと思いまして‼︎」
「流石に無理だろ‼︎というかなんでこんな街にこんなクエストがあるんだよ‼︎ここは初心者の集う街アクセルだろ⁉︎完全にラスボス前の街にあるクエストじゃねえか‼︎」
「それでしたら、この間ミツルギさんがエンシェントドラゴンを倒されたと聞いて流れてきた奴ですね」
前例があればそれが功績となりそこから名が売れ仕事が舞い込むというが、ここまで他人に迷惑を変えるのはどうかと思う。
しかしドラゴンか…
魔王軍幹部を屠っているので一応レベルは高レベルと言われるまでに上がっているが、果たして俺がドラゴンを倒すに至るのだろうか?
今度2人が帰ってきたら挑戦してみるのもいいだろう。最悪テレポートのスクロールで帰れば命だけは助かるだろう。
「へーすごいですね‼︎その様な方がこの街いるのですね」
「そうだな、モンスター相手ならあいつの力は本物だからな」
魔剣グラム、奴の持つ神具はその剣自体もそうだが持ち主に与えられる膂力がしゅだろう。あれは流石の俺も嫉妬する程のステータス向上をもたらす。
まあ賢さが相対的に下がっているので残念だが…要するに奴は脳みそまで筋肉になってしまったのだ。
…まあそんな冗談はさておき、俺もいい加減この黒炎と向き合わなくてはいけないなと嫌な気持ちを抱きつつ考える。
「まあそういうクエストは追々やるとして今回はこのクエストにしようぜ、何をするにもまずは小さなことからだ」
そう言いながら掲示板の下へ行くと、そこから簡単そうな採取クエストを見つける。
基本的にアクセル周辺の魔物は駆逐されているので採取クエストは早々お目に掛からない。仮にあるとしたら珍しいものか危険なところにしか生息しない薬草など様々な種類が存在する。
そして今回は後者の珍しい物を探し出すといった内容の物だ。
できればキールのダンジョンくらいのレベルのダンジョンがあれば彼女の求める冒険ぽくって良かったのだが、残っていたのはどれも危険なので近くの山に生息している薬草を探すという内容に決定した。
先程も説明したようにアクセル周辺に採取場所はないためその場所へ移動するには馬車を使わなくてはいけないのだ。
「と言うことで、これから時間をかけて移動する事になるけどいいか?」
「もちろんです。私はお兄様について行きます‼︎」
なんかよく分からないが全肯定されると言うものは悪くはない気がする。
取り敢えず商店街に向かい一通りの準備を済ませて馬車の停留場に向かう。
予約というか席を取るために依頼書に書かれている薬草の生息地域とされている場所を見ると、どこか見たことがあるなと思いながらしばらく考え、数分かかったがゆんゆんと昔に一回来たことがあるなと思い出し少し懐かしい気持ちになる。
「それで、お兄様はこれから何を探すのでしょうか?」
「ああ、それはだな」
馬車の席を取り、中に乗り込みしばらく揺らされていると移り変わりゆく景色が広い草原に入って入って一定になった事で飽きたのか俺に質問を飛ばしてくる。
「今回探すのは薬草の中でも危険なところにしか生息しないと言われている物で見た目はこんな感じかな?」
植物と言う比較的似た様な種が存在する事を説明する事はかなり面倒なので下手な事はせず依頼書に書かれたスケッチをそのまま彼女に見せる。
危険なところにしか生息しないと言ってもそれはあくまで一般市民にとっての危険であって俺達冒険者からすればそこまで危険というわけではないのだ。
「これが今回の目的なのですね、あまり役には立てないと思いますが、この薬草が見えましたらすぐお伝えしますね」
てっきりトレジャーハンティング的な物が楽しみだと思っていたが、この子は意外となんでも楽しめるのかもしれない。
危険と言っても出てくるモンスターと言えば小鬼やゴブリン程度しか居なかったし…そういえばゴブリンナイトとか出てきたな…
まあ、あのくらいのモンスターはそうそう出てこないってあの後ゆんゆんが言っていたし多分大丈夫だろう。
馬車に揺られて数時間、アイリに対してこの街の事を説明していたらあっという間に目的の場所へと辿り着く。
馬車を降りて最初に見た光景は俺が最初にこの山に来た時と同じで、変わらない光景に若干の懐かしさを覚えながら後にいたアイリを誘導し馬車からおろす。
「ここは意外に植物が生い茂っていますね…」
「いや、意外にそこまでじゃなかった気がするぞ?」
「お兄様は一度いらした事があるのですか?」
「ああ、言ってなかったけ?前回はゴブリン狩りでここに来たんだよ。その時は全然草なんて生えている印象はなかったんだけどな」
馬車を降り、俺たちは山の中腹部で捜索を開始した。
ギルドには報告書を提出することが出来る。今回みたいな採取クエストに関してはどこで取れたなどや気候時期など様々な考察も書くことができるので後から続く俺たちみたいな冒険者にはかなり役に立つのだ。
書く方にはメリットがないと思うが、それは違い学術の論文みたいなものだろうか?記録には記述した冒険者の名前が刻まれ全ギルド間で共有される為、有用な報告書を書くだけで名前が売れるのだ。
特にこういった薬草などの記述は周囲の生息状況から栽培しようという農家的な方々からとても支持されており、今回俺が見た報告書を描いた人は今ではそれなりに有名で王都で研究職についているらしい。
まあ、それはそれとして現状俺はその報告書に書かれた場所を捜索しているわけだが…
前回のゴブリン討伐とは違い、大きさが天と地ほどの違いがあり花が咲いているわけではないので色も緑色という中々にハードな感じになっている。
流石の感知スキルも見たことがない物まで感知出来るほど便利では無く、こうして手探りで探している訳だが。
「中々見つかりませんね。お兄様の方はどうでしょうか?」
「いや、全く見つからない。これ本当に時期合ってるのか?」
植物の形態も季節によって色々と姿が変わるのはこの世界でも同じようだ。しかもこの世界にも四季があり気候は日本に酷似している。
「仕方ありません…生態系という物が崩れてしまいますが、目的で無い草木を全て刈り取って虱潰しにするのはどうでしょうか?」
「恐えーよ⁉︎」
純粋さゆえの行動に猟奇さを感じてしまい戦慄する。こんなことゆんゆんでも考えないぞ。
見つからないのなら考え方を変えたらどうだろうか?
このクエストは季節にもよるが恒常的に依頼されるとあるので皆が借り尽くして種自体が減っているのかもしれない。
ならばこの様などこにでもありそうな場所を探さないでもう少し外れの方を探すのもいいだろう。
「アイリ、場所を変えるぞ」
「分かりました、また同じところを探さないように目印を付けておきますね」
山の中腹から山頂の方へと場所を変えようと話したところ彼女は剣を鞘から抜き近くの木に傷跡をつけた。
何処かで見たようなと言うかモンスターの縄張りを示す的な感じな行為に意外と野生的なのでは?と疑いたくなるが実際につけた少し控えめな痕跡に根はお嬢様だなと内心安心する。
山頂目指して登山していくと何時ぞや見た小屋が昔と同じように設置されていた。
「お、やっぱり残っていたか」
「あれは誰かのお家ですか?」
小屋を指差すと彼女には物珍しいのか誰かが住んでいると思ったようだ。
「この小屋は…正式な名前は忘れたけど簡易宿泊所みたいなもんだよ」
取り敢えずと彼女に小屋の事を説明する。
「へーそうなんですね。誰も住んでいらっしゃらないとは言え家をよその冒険者に解放するなんて素晴らしい方なのですね!」
慈善行動のような行いをするこの屋敷の持ち主に感動しているが、要するに日本と同じような固定資産税的な物が掛かるので貸し出しという名目で冒険者に使わせることで税対策しその上、冒険者に貸すということで街から何かしらのリターンを受け取っているのだろう。
中々に狡猾な持ち主に一度会ってみたいが、好奇心は猫を殺すと言ったように下手に関わると危険な感じがするのでやめておく。
「取り敢えず荷物を置いて身軽にしてから作業に戻ろう」
小屋にいつもの要領で色々と手続きを済ませ、荷物を置く。
片付けは…また後でいいだろう。
準備を住ませた後はそのまま山頂へと向かう。
取り敢えずはそこから千里眼を使い景色を眺めながら目的の薬草を探せば問題はないだろう。
あまりに地味な作業になるのでアイリはがっかりするかもしれないが、何も収穫が得られずに帰るというのはそれはそれで可哀想というものだ。
「へーここが山頂なんですね‼︎」
「ああ、まあこの周辺で一番高いという訳じゃないからそこまで景色はよくないけど」
「いえいえ、このような景色はそう見られる物ではありません‼︎」
「それはそうと…」
山頂の景色をひとしきり眺めた後、改めて周囲を千里眼で探る。
やはり薬草は狩り尽くされているのか、周囲を探ってもその姿が拝めることはない。ならばと普段なら探さない様な所を探ると自分の居る場所の崖の下が微妙な足場になっており、そこにその薬草が生えていた。
うわぁ…やっぱりあんな所にあったのか。
薄々そんな事だろうと思っていたが、実際にその光景を目の当たりにするとそれはそれで面倒で嫌なのだ。
「見つかりました?」
ため息を吐きながら視界を元に戻すと、ちょうど後ろにいたアイリが心配そうにこちらを訪ねてきた。
「ああ、見つかったと言えば見つかった感じかな」
「どういう事でしょうか?」
「ここの下の岩壁みたいなところに少しだけ足場みたいな場所があるのは分かるか?」
「はい…もしかしてあの様な場所にあるのでしょうか?」
「そのまさかだよ」
えーと驚く彼女をさしおきバインド用に持ってきたロープを繋ぎ合わせて長くする。
「おれはここから降りるからアイリはそこで待っていてくれ」
「え?それは大丈夫なのでしょうか?」
「いや、これくらい冒険者は普通だから安心してくれ」
「冒険者と言うものは中々に危険なものなのですね…」
やはり冒険者と言うものに対して良いところしか思い浮かんでいなかったようだ。これからクエストは2人に預けて1人で行くことにした方がいいだろうか?
「まあ、気にすんなよ。アイリもまだ子ど…」
「ですが、命の危険を伴ってでもクエストを熟すと言うのも冒険者らしくていい事だと思います‼︎」
どうやら冒険者の魅力は危険も込みで彼女の理想となっていたようだ。
意外に根性というか図太い神経してるなと思いながら伸長したロープを近くの木に巻きつけそのまま下へ下降していく。
途中ロープの長さが足りなかったが、そこは持ち前のスキルを応用して何とかその場にたどり着く。
「ふぅ…何とかなったか」
最悪足場ごと崩れ落ちるかと思っていたが、意外にもしっかりしていたようで俺が乗っていたところで揺れ動くなんてことはなかった。
意外な群生地だったのか、千里眼では見れなかった場所にまで所狭しと薬草がびっしりと生えている。
沢山生えていることは良いことだが、多分ここの薬草を全て取ってしまうともしかしたら来年の収穫は不作となってしまうかもしれない。
ならば追加報酬は求めずここに生えていた残りのほとんどの薬草はそのままにして、少しだけ空きのある場所に移動させた方が良いだろう。
そう思いながら周囲の薬草をなるべく根ごと引き抜き腰に着いている巾着へと収納する。
大体半分くらい収穫したところで引き抜くのを止め、アイリのいる場所へと戻るため崖をよじ登っていく。
まさかここに来てリアルボルダリングをするだなんて思わなかったが、これはこれで良い経験なので支援魔法で体幹等々を強化しながら上へとよじ登りロープを掴みそのまま上へ駆け上る。
そう言えば友人が前ボルダリングをボルタレンとか言って鎮痛成分になっていた事は記憶に新しいな。
「お帰りなさいお兄様」
「おう、待たせたな良い子にしていたか?」
心配そうに下を眺めていた彼女に適当に話しかける。
「薬草は無事に見つかりましたのでしょうか?」
「ああ、それはもうバッチリだ。ただ、もう少しだけやりたいことがあってな」
そう言いながら先ほど考えた事を彼女に説明する。
「成る程‼︎お兄様は素晴らしいお方ですね‼︎」
彼女からの了承を得たので思う存分引き抜いてきた薬草を植えていく事にした。
まあ、そこらから引き抜いた薬草を何の知識もなくそこら辺に植えたところですぐ枯れるかもしれないが、何もしないよりかはマシだろうし何もしなくてもこのまま売られるので山からしたら変わらないだろう。
そう思い自己満足に浸っているとある事に気づく。
「やべ…馬車の時間忘れてた…」
そう時間は過ぎさり、空は暗くなっていたのだった。
来週も休むかもしれません…