「あー良く寝た」
肉料理をたくさん食べすぎたせいか若干の胸焼けがあるが、適度な運動をして睡眠を取ったのでそれなりに心地の良い眠りに付けたと思い目を覚ました。
布団から這い出ようとしたら腕に違和感を覚え、何事かと思いそこに目を向けると右腕にアイリが抱き付いていた。
「…」
結構心地良さそうに寝ているので流石に起こすのは可哀想だと思い、仕方なくもう一度寝ることにする。
流石の俺も早く帰りたいが為にこんないたいけな少女の睡眠を妨害するほど悪魔ではない。決して二度寝したいとかそんなつもりはないのだ。
くっ付いているアイリを起こさない様に再び布団に潜りそのまま目を瞑った。
「……きてください……お…てください」
「ん?」
誰かに呼ばれた様な気がした。
「起きてくださいお兄様‼︎もうそろそろお昼の時間になってしまいますよ!」
「えぇ‼︎」
心地の良かった2度目に睡眠は微睡む暇もなく隣に居た少女によって終了を迎えた。
旅先で二度寝するのも悪くは無いなと思いながら目を開くとアイリが覗き込む様に横に座っていた。
「ようやく起きましたか、お兄様はとてもお寝坊さんですね」
「あーそうだったな、起こしてくれてありがとうな」
俺が起きていた時に寝てたから本来は逆じゃ無いのかと思ったが、彼女の顔が若干赤かったので追求するのはまた今度にしようかと思う。
「どういたしましてです」
エヘンと胸を張りながら彼女はそう言いながら俺に昨日の残りで作ったであろう朝食を差し出すと部屋の片付けを始める。
全く良くできた妹だぜ。
そう思いながら朝食に手をつけながら服を着替え帰り支度を始める。
そう言えばゆんゆん達はいつ帰ってくるのだろうか?
シルビアの部下達の鬱憤は俺の想像を超えていた様で、奴らはその鬱憤を晴らすかの様に暴れ回り無人だった里は最早人が住めるのかと思うほどに破壊されていた。
そこからまたあの状態に戻そうと言うのだから、例えゴーレムを生成する魔法が使えたとしてもかなりの時間を要するだろう。
このままアイリを連れて復興の手伝いに行こうかと思ったが、俺が行ったところで意味が無さそうなのでやめておこうかと思う。
「考え事をしている様ですけど、そろそろ行かないとまた次の便になってしまいますよ」
「ああ悪い悪い、準備も済んでるしそろそろ行くか」
前回の様に何か起きるはずもなく俺達にクエスト旅行は幕を閉じるようだ。
まあ帰るまでがクエストなのでこんな事を考えてしまうとそれが伏線となって後々の事件に繋がってしまいそうで怖いのだが。
「薬草よし‼︎」
「はい‼︎」
「掃除よし‼︎」
「はい‼︎」
「干し肉よ…あれ?」
暇潰しに偏見に満ちた軍隊の点呼のように状況を確認していると、昨日残った猪の肉で作った干し肉が無くなっていることに気づく。
朝方食事として出てきたので幻覚では無いようだが、そこまでの量を食べた訳ではないので無くなっている訳は無いはずだが。
「はいお兄様‼︎」
「何だ、言ってみろ」
「昨日の干し肉でしたら今朝見た時に殆ど無くなってしまい、朝食にお兄様が食べたのが最後になります‼︎」
「え、マジか…」
どうやら寝ている間に野生の動物にでも食われてしまったのだろうか。
獣害とは良く言ったものだが、魔法が発達した代わりに文明が低いこの世界では仕方がないことなのかも知れない。
「どうしますかお兄様、取り戻しに山狩りなどいたしましょうか?」
「いやいやこえーよ。別に俺達に被害があった訳じゃないんだしそのままでいいんじゃねーの?」
「そうですか…お兄様がそう仰るのなら仕方ありませんね…」
特に干し肉で命を繋いでいる訳でも生計を立てている訳ではないので残念だったで済ませることにする。
まあアイリが少し残念そうにしているので今度何かしらの行動をしてやろうかと思う。
「取り敢えず今日は帰ろうか、アイリが言っていたように遅くなったら馬車に乗り遅れそうだ」
「はい」
薬草の詰まったバックを拾い上げ背中に背負うと、俺たちはそのまま馬車の停留所に向かった。
「この後はどうするのでしょうか?」
「ん?ああそうだな」
馬車に何とか乗り込み、荷物多いてリラックスしていると思い出したようにアイリが聞いてくる。
「この後は街に戻ってクエスト報告して、それで何もなければ今日はそのまま休みかな」
「分かりました、私も行ってみたいところがありまして…」
「そうなのか?まああまり無駄遣いしない様にな」
「はい、分かりました!」
どうやら前の買い物の際に気になる店を見つけたようで、そこに1人で行きたいようなそんな気がした。
普段遠慮気味な彼女がそう言うのが少し新鮮に感じたので、今回は好きにさせてあげようと思う。
「それではクエスト報酬ですね、今回は採取量が少し多かったので契約通り割増にいたしますね」
「ありがとうございます」
街に戻り寄り道せずにギルドに向かう。
家で栽培する分を含めて結構とった筈だが、それでも量が多かったらしく少しとりすぎたなとミイラ取りがミイラになった的なことわざを浴びせられた様な気がした。
「それじゃあこれを渡しておこう、今回はアイリも活躍したからな」
そう言いながら報酬の殆どを彼女に渡す。俺の資産は数億エリスとなっているので今回の報酬がなくても特に問題はない。アイリに有効活用してもらおうと言う話だ。
「こんなに頂いてよろしいのでしょうか?」
「ああ、正当な報酬だな。今日はこの金で遊んでくるといいぞ」
「ありがとうございます‼︎」
1人にして大丈夫かと言う不安はあったが、街の皆には既に俺の妹と言う印象を持たせているので何かあったら助けてくれるだろう。
後は俺が感知スキルを彼女に対して常に張っていれば大丈夫だろう。
「俺は何処かでぶらぶらしてるから何かあったら見つけてくれ」
「はい分かりました‼︎このアイリ何かあった際は誠心誠意探させていただきます」
「お、おう」
お金を丁寧に受けっとた彼女はどこか楽しそうにギルドを後にした。
「いいのですか?妹さんに報酬全てを渡してしまって」
アイリの後ろ姿を眺めていると後ろから話しかけられる。
「まあ、特に楽しい事はなかっただろうし今回はいい気晴らしになると思ってな」
「そうですか。あなたがそう思うのであればいいのですが」
「そういえばダクネスは来ているのか?最近姿が見えないけど」
アイリと一緒に居るせいでなかなか出来なかった彼女の身辺探索を始めることにする。
まずはダクネスを捕まえて話を聞いてみるのがいいと俺は判断した。
金髪碧眼で貴族とあれば何かしらの交流があると思うので、そこから話をそこはかとなく聞き出しアイリの家とその内情を割り出さないといけない。
「ダクネスさんですか?そうですね…最近姿は見ていないです、履歴を確認してもダクネスさんの名前は一週間前で途切れていますね」
「マジか…」
冒険者と言う職業上死の危険とは常に隣り合わせなので、こう言った様にしばらく姿を見せないと言う事は残念ながらそう言う事なのだ。
登山家もそう言われるが、冒険者はそれ以上に危険であり判断が求められる。ダクネスなら大丈夫だと心の奥底で思っていたがそれはあくまで俺の印象なのだ。
しかしベルディア・デストロイヤー討伐の死線を共に潜り抜けた仲間を失うと言うのは中々に心に来るなと思う。
「まあでもダクネスさんはよく月を跨いで休まれる事がありますので今回もそれだと思いますよ」
「何でだよ‼︎」
ズコっとずっこけるように腰が抜け掛ける。
どうやら彼女は風来坊的なやつなのだろうか?だとしたらとても迷惑な奴だと次会った時に糾弾しておこう。
「それでいつ帰って来るとか聞いてないですかね?」
「それは流石に分かりませんね…当ギルドではクエストを受けていない冒険者の方を拘束できる決まりはありませんから…」
「まあそうですよね…」
出来れば貴族関係の情報とか分かりませんかねと聞いてみたが、そこまでの情報が得られることはなく結局は無駄足となってしまい途方に暮れながら帰路に着く。
アイリの気配は健在で商店街の中に普段と違い気配がないので大丈夫だろう。
「おっ久しぶりだね、元気にしてた?」
「お前は…クリス‼︎久しぶりだなどこに行ってたんだよ、最近姿見なかったら心配してたんだぞ‼︎」
トボトボと屋敷に帰って掃除でもしようかと思っていたら上の方から声をかけられ思わずその方向に顔を向けると、そこには久しぶりに見るクリスの姿があった。
なんだかんだあったがしばらく会っていなかった記憶があるので思わずに大声を出してしまった。
「いやいや、君が紅魔の里に行っていたから会わなかっただけで私はずっとここに居たよ」
「確かに‼︎」
相手が居なくなっていたつもりでいたが気がつけば自分が居なくなっていたようだ。
「それで何か用なのか?今日は特にやる事ないから物運びでもやるぞ?」
「ありがとうね、でも今はその必要はないかな。それよりっと‼︎」
頭上で座っていた彼女は見事な跳躍と着地を見せ付けながら俺の元へと体を降ろす。
「折角だから腕試しと行こうじゃないか」
「えぇ…」
いきなりの発言に何言ってんだと思ったが、その手には木刀が握られていたので嘘ではなく本気なのだと分からされる。
「いやいやいきなりそれはないだろう、良く考えてくれ」
「いーや、これが良く考えた結果なんだな」
俺に向かって木刀を放り投げると一瞬の内にクリスの姿が消えた。
何の前触れもなく現れた彼女は何の説明もなく俺に遅い掛かってくる。一体俺が何したって言うんだろうか?
「待て待て待て⁉︎どう言う状況だこれは⁉︎」
木刀を受け取り、消えたクリスが来るであろう方向を感知スキルの情報で予測し構える。
「君はモンスターが一々待ってくれると思っているのかな?だとしたらそんな甘い考えは今日までだね‼︎」
やはり彼女は後方から来ると思い、踵を返し後ろに防御を回すとドンピシャでそこに攻撃が飛んでくる。
「ぐっ⁉︎」
重い剣圧を受けながらよろめかない様に重心を移動させクリスの攻撃を横に受け流し、その反動を利用して逆に彼女に奇襲をかける。
当たるとは思わないが、このまま防御に徹すれば間違いなく追撃を受け防御が解かれる、それだけは何としても回避しなくてはいけない。
俺の放った一撃はクリスの体に当たる事はなく、そのまま上体を逸らされ躱される。
しかし、さすがの俺もこのままで終わるわけもなく、今度は足を使い追撃をかます。
「中々しぶとくなってきたね。最初の時の事を考えたら何だか涙が出てきそうだよ」
「それはどーもありがとよ‼︎」
クリスは放たれた俺の足を掴むとそれを支点にして体を一回転させ俺の肩に蹴りを放ちながら距離をとった。
「相変わらず恐ろしいほどのアクロバティック性能だよ」
「人機械みたいに言うのやめてくれる?」
蹴られた肩をさすりながらクリスに話し掛け回復させる。
魔王軍幹部4人分の経験値を得てかなりレベルアップしている筈なのだが、相変わらず彼女に追いつけている気がしない。
一体彼女のレベルは幾つなのだろうか?
「肩は回復したかな?それじゃあ行くよ」
「マジか⁉︎」
俺の行動を読まれていたのか気づけば距離を詰められ彼女の間合いへと追い詰められる。
クリスの放つ剣術を受けては受け流しながら反撃の糸口を探る。途中あからさまな隙などが見えるがこれは明らかに俺を誘っているのだろう。
その誘いには乗らず、そのまま手数でクリスの剣撃を受け流しながら逆に迫られるように手を打つ。
剣戟と言えども相手は所詮人間、肉体での戦いの他に心理戦と言うものも混じっているのだ。こちらの反撃・受け流しによって相手の動きを少しずつ封じていき技を使う流れに行かないようにこちらで調整する。
つまり相手が追い詰めていると思ったが、気づけば相手が追い詰められている作戦だ。
「へぇ、中々面白い立ち回りをするんだね…」
どうやら気づかれた様だ。
なるべく気づかれないようにフェイントや意味のない攻撃など色々行っていたのだが、流石に彼女の目を誤魔化し続けることは出来なかった様だ。
「だったらこっちにも考えがあるんだけどさ‼︎」
そう言いながら彼女は木刀を振り上げ上段の構えを取る。
どうやら俺を一撃で沈めようとかそんな事を考えて居いるのだろうか?
そんなこんな考えているうちに彼女は俺を倒さんとしてこちらに向かって距離を詰めてくる。
動きは単純な上段切りのはずなのだが、彼女の独特な足運びによりその動きは異質なものへと変貌を遂げている。
「何だあれは…」
しかしここで焦れば彼女の思うツボなので逆に距離を詰め動きを阻害する。
空手・剣道は中間柔道は近間といった様にそれぞれの格闘技には流派があり独特の間合いが存在する。
その中での剣道は近間から中間と言われ、完全に近づいて終えば受ける攻撃の威力を抑えることができる。要するに攻撃の直撃するタイミングと場所をずらすことができるのだ。
木刀を離し、振り下ろされた彼女を躱しきれず少し受けてしまったが、何とかふところにはいり木刀を持つ手を掴みそのまま柔術で投げ飛ばそうとしたが、そんな事は分かっているといったように手首を返され気づけば俺が投げられている状態になる。
「へぇ、ここまでやるとはね」
投げられ背中を強打した事による痛みに悶えていると視界の上端から感心したようなクリスの顔が現れる。
「そんな怖い顔しないでよ。確かにいきなり相手してくれって言ったのは悪かったけど」
いきなり現れたと思ったら勝負をふっかけてきて俺をボコボコにして一体何が言いたいんだと思い軽く睨んでいると罰が悪そうに謝罪を始めた。
「それで?クリスは一体何がしたかったんだ?」
「そうだね…教える事はやぶさかじゃないんだけど詳しく説明するのは難しいかな…」
いつまでも地面に寝ているわけには行かないので体を起こし彼女の方を眺めるとうーんと腕を組みながら言葉を濁している。
「簡単に言うと、これからの事を考えて君に実力がついているかどうか確かめたかったんだよ」
苦し紛れの言い訳なのか、そんな適当そうな事を口にしているが余裕のなさから見るに嘘ではないようだ。
これが嘘でないとするなら文字通り俺の実力を試しているわけだが、もしかして何か良くない事に俺を巻き込もうとしているのかもしれない。
「まさか俺に神具を探す手伝いをしろとかそんなこと言うんじゃねーだろうな」
「ま…まさか、そんなわけないじゃん‼︎」
図星をついてしまったのか、彼女の動揺が激しくなる。
なるほど、今まで教えてくれていたのは善意ではなく単に仲間が欲しかっただけなのだろうか?
何処かわざとらしい動揺に本気でそう思っていいか分からないが、取り敢えずはそう言う事にしておいて彼女との話を続けようかと思う。
「まあ、今はやる事があるからそっち関係はまた今度付き合うとして、ダクネスを見なかったか?」
彼女には恩があるのでなるべく頼み事は無理のない範囲でだが聞いてあげたいと思っているが、今はアイリの用を第一に考えているので今回は後回しになのだ。
「ダクネス?ダクネスだったらそろそろこっちに来る頃だと思うけど何か用事でもあるの?」
「いや特にそれと言ったことは無いけど」
「あ、もしかしてダクネスのこと狙ってる?紅魔族の子2人に囲まれておいてまだ手を出そうって事かな?中々君も隅に置けないな」
「バカヤロウ‼︎そんな訳あるか‼︎」
「あははははは、まあ今回はそう言う事にしておくよ」
ダクネスに用があったことが余程面白かったのか腹を抱えながら笑っている。
人の恋路は面白いと言うが、クリスもそういうタチの人間なのだろうか?
「それで他に俺に用事はないのか?」
「あーゴメンって。まあダクネスは後に会えるとして他に私に聞きたい事とかない?」
「いや、無いけど?」
「即答⁉︎次はどの神具を運ぶんですとか無い訳⁉︎そんな意識の低さじゃこの先が思いやられるよ‼︎」
「いやいや、別に神具とか興味ないから」
「はぁ…君はそういう男だったね…まあいいか。君の抱えている女の子…妹だっけ?街で歩いている所を見たけどそろそろ気を付けた方がいいかもね」
「それはどう言う意味なんだ?」
やんわりしていた周囲に雰囲気から一転、彼女の周囲の空気が少し重苦しいものへと変化する。
「変装させて自分の妹にしたのはいいけど、それじゃ周りのみんなを騙せても本当に隠したい人達には騙せないよ」
「何を…言っているんだ?」
ニヤリとほくそ笑んでいる彼女の的を射た様な発言に背筋が凍りつくような感覚を味わう。
一体彼女はこの件に関して何処まで知っているのだろうか?
もしかしたら彼女が今回の件の実行犯なのかもしれない、アイリの気配は現在特に変化はないが、さっきまでのやり取りが時間稼ぎでその間に無防備のアイリを攫おうとか考えているのだろうか?
「クリス…お前は…」
「ごめんごめんって‼︎含みを持たせて悪役の様な雰囲気を出したかっただけで特に何かしようとか考えてないから‼︎」
思わず持っていた得物で構えてしまったようで、それを見た彼女はビックリして慌てながら誤解だと訴えてくる。
「は?」
頭の中で色々なパターンや可能性が渦巻いている状態での彼女の発言に思わず拍子抜けしてしまう。
「だからあの女の子髪と目の色を君に似せて変えているだけで君の妹じゃないよね?君の事だから何かに巻き込まれていると思ってカマをかけるついでに悪役みたいな事を言ってみたいかなーって」
「ややこしい事するなよ‼︎一瞬マジかと思って焦ったんだぞ‼︎」
「だからゴメンって‼︎」
掌を合わせて前に突き出した状態のまま彼女は俺に対して頭を下げる。
中々に器用な事をするなと思ったが流石に今回の一件は洒落にはならないのでもう少しとっちめる様に追求する。
「だったらクリスも手伝ってくれよ、どうせ暇だろ?」
「人を暇人みたいに…まあ一仕事終えた後だから今は特にやる事は無いけどさ」
俺の前に現れる時は基本暇な様な気がしていたので適当にカマをかけてみたが本当に暇だった様だ。
時折というが殆ど彼女の姿を見ないが本当にただの盗賊なのだろうか?いくら頑張っても追いつけない彼女の実力を考えると盗賊の姿は仮の姿で本来は別の何かなのかもしれない。
「それで君は私に何をして欲しい感じかな?これから忙しくなりそうだからなるべく簡単な奴にして欲しんだけど?」
「そうだな…まあクリスにはバレてるんだったらいいかな?」
あまりアイリの件に関して直接的な事を他人に伝えるのは良く無いと思っていたので少し憚れるが、既にアイリが俺の妹では無いことを見抜いている彼女であれば黙っていてもいずれは答えに辿り着くことは明白なので少しくらいなら大丈夫だろう。
「ここ最近で貴族の子供が行方不明になったかどうか調べて欲しんだ、出来れば俺の名前を伏せてくれると助かるんだけど」
「成る程ね、君の妹は貴族の子供という訳か…確かに君が調べようと動けば突発的に現れた君の妹とやらが疑われるのは言うまでも無いって事だよね」
「そうなるんだよな、だからこれはクリスに任せたいと思っているんだけど出来そうか?」
「まあ、出来なくは無いけどあまり期待しないでよね、貴族といってもこの世界にも色々居るからあの子が一体何処の子までかたどり着けないかもよ?それに嘘の情報もあるからその真偽を確かめるとなる事を考えるとあの子が思い出すのを待った方が早いんじゃないかな」
確かに相手が本当に探しているなら情報の中に偽の情報を流して匿っている俺みたいな奴を誘き出そうと考えるのは不自然ではない。それに行方不明になった貴族を探した時点で目をつけられる可能性もある。
もし俺が不用意に聞いてしまえば即バレてアイリを失う危険性もあったと言う事になる。
「こう言う言い方はあまり良くは無いけど、あまり期待し過ぎないで期待しておくよ」
「うわっ凄い酷い言い方だね、君じゃなかったらこの場で締め落とす所だったよ」
「怖えーよ‼︎」
どうやら俺の発言が彼女の神経を逆撫でした様でその証拠に笑顔で額に青筋が出来ていた。
「まあ、あまり期待されても困るからその位の認識でいいかな?分かり次第君に報告するよ」
「おう、ありがとうな」
礼を言い彼女と少し談笑した後そのまま別れる事となった。
相変わらず何を考えてるのか分からないが、彼女が居ることで得られる恩恵は小さく無い。
神具を集めている事や、わざわざ俺に戦闘指南してくれている事や鋭い勘といい彼女にはまだ謎なことが大きい、今回の件も何か知っている様な知っていない様なよく分からない言動が多く何かヒントを与えにきた様なそんな感じだ。
まあ今の所俺に対して害意は無いし、むしろ好意を感じている様な気がしなくもない、何を信念に行動しているかは分からないが現時点のことを考えれば信じてもいいだろう。
「あ、お兄様お帰りなさい、少し遅かったですね」
「おう、悪かったな途中知り合いに会って話してたら長引いちまった。今から夕食を作るからまっててくれ」
屋敷に帰ると既に帰ってきて居たアイリに迎えられる。
不安に思って感知スキルで探っていたが特に問題は無かった様で気づけばそのまま俺よりも先に屋敷にへと帰っていたのだ。
「そうなんですか、それよりも今日は私が夕食を作りました‼︎なのでお兄様はそのまま待って居てください」
「マジか…」
「マジです‼︎」
子供の成長というものは俺が思って居たよりも早く、こんなにも早く自身が実感するなんて思わなかった。
台所から流れてくる匂いからして肉料理だろうか?
料理はその人の性格が出ると聞く、特に焼き加減に出る事が多く酷い奴はなんでも強火で焼いてしまい雑味が強くなると聞く。他にも調味料を寸分狂わず入れようとして時間が掛かることもしばしばある。
さて彼女はどのように料理を作るのだろうか?
「それではご賞味ください、教わったばかりですのでそこまで美味しくは無いと思いますが…」
「いやいや、これは中々に美味しいよ正直俺なんかよりも上手いくらいだ」
処女作不出来とは良く言うが、元の何かのステータスが高いのか花嫁修行で料理スキルを取って居たのか分からないが料理の出来はかなりの物だった。
これなら料理屋が出来るとは言わないが少し練習を重ねて工夫すれば夢ではない。
「それでお兄様…明日のことなんですけど…」
「ん?何かあったか?」
仮とは言え妹が作ってくれた料理を味わっていると、その妹が少し申し訳なさそうに話を始めてきたが明日の予定なんて決めただろうか?
「いえ、特に何かあるわけでは無いのですが昨日簡単なものから討伐クエストを受けてもいいと仰っていたので」
「ああ、そうだったな」
昨日山に行って薬草を取っていたのだがその時に問題が無さそうだったのでそう言った様な気がする。
「どうでしょうか?」
「まあカエルくらいなら大丈夫かな…」
「カエルとは俗に言うジャイアントトードという奴ですね、確かヤギや迷子になった子供を食べると言うあいつですか?」
カエルなら何とか俺1人でも倒せるし鎖カタビラを装備しておけば食べられ難いと聞くし大丈夫だろう。
「それだったら明日金属のついた装備を探しに行こう、多分大丈夫だけど念の為な」
「それでしたら大丈夫です、バニルさんに言われてこれを購入してきましたから」
「いつの間に…」
そういいながら彼女は足元に置いてあった袋から鎖で編まれたシャツを取り出した。
その形は何処ぞのパンクファッションを彷彿とさせたが、普通の鎖カタビラと比べたら動きやすいし飲み込まれ対策としては十分役目を発揮してくれそうだ。
なるほど…何をしに行ったのかと思ったらウィズの店に行っていた様だ。多分売れ残った商品を押し付けられた気がしなくも無いが、今回は許してやろう。
「それじゃあ明日行こうか、この季節だしカエルはいくらでも沸いていると思うからクエストも出ているだろうし」
「分かりました、それでは明日に備えて準備をしてきますね‼︎」
ガタッと立ち上がると袋を拾い上げそのまま自身の部屋に向かって走って行った。
しっかりしているとは言えまだまだ子供みたいな所があるんだなと思いながら席を立ち、食器類の洗浄等々後片付けに勤しむ。
洗濯を終え、風呂に入った後そのままいつものルーティーンに従い布団の中に入る。
クリスに貴族関係を調べて貰い、その結果が出るまでに俺に何が出来るだろうか?
今はアイリが記憶を戻す事に期待したいが、今の所その兆しが見えるわけもなくかと言って戻す方法があるわけでも無い。
ダクネスは直にに会えるとは言われているが期限がわからない以上期待は禁物だ。
ゆんゆん達はどうしているだろうか?
手紙の返事は当たり前だが返ってきてはいない。3人集まれば文殊の知恵と言うがやはりいざと言う時はあの2人に助けられていた事が多かった事を改めて実感する。
こう言う時あの2人は何て言うだろうか?心の中の存在つまりイマジナリー紅魔族に聞いてみるのも良いかもしれないが、幻想も所詮は本人の知識の上に成り立つので答えは一緒だろう。
教養がない人間がトリップしても貧相な幻覚しか得られないと聞くがその通りなんだろうと思う。
しかし…
「ん?」
考え事をしていると近くに気配が迫っている事に気づく。
気配からして多分アイリだと思うが一体何の様だろうか?多分明日の事で打ち合わせでもするのか確認事でもあるのだろう。
気づけば気配は扉の前まで迫っており。
「お兄様起きていますか?」
「ん?ああ、まあな」
「開けますよ」
礼儀なのかノックをして俺の返答を待っていたので返事を返すと扉が開いてアイリの姿が見える。
服装は今日買ったのか少しデザインが大人めのシックな感じになっており、彼女の子供っぽい容姿と上手くギャップを生み出しているのかとても似合っていた。
「少しよろしいでしょうか?」
「いいけどどうした?」
「ありがとうございます、では失礼して」
「?」
何に対してよろしいのか聞かなかった俺も悪いのだが、気がつけば何故か彼女が俺のベッドの中に入ってくる。
「お兄様の体温であったかいですね…それで明日の事なんですけど」
「???…お、おう」
何故かベッドの中で向き合いながら会話が始まる。
何が起きてるか分からないと思うが安心してくれ、俺も何が何だか分からない。
「それでですね…」
まあいいやと思考を放棄しながらアイリが眠るまで話に付き合ってやる事にした。