あの後アイリの話を聞いて過ごしていたのだが、気がつけば寝ていたので俺もその流れで眠る事にした。
クリスのせいで全身に痛みが走るが、仕方ないと割り切り我慢しながら耐える事にする。
何かと回復魔法に頼っているが今回みたいな大した怪我でない軽症で使用すると、何かよく分からないが感覚が鈍りそうな事と何かしらの副作用の様なあるかもしれない事を危惧している自分がいるのだ。
まあ、それはそうとして明日はアイリを討伐クエストに連れて行かなくてはいけない予定になっているので、何かあっても良いように今のうちに予測できる事態を考えておき対策を考えなくてはいけない。
相手はカエルだとして、対するアイリはまだ小さい子供なので向こうからすれば恰好の獲物であることは間違いないので注意しなくては最悪の事態が起こるだろう。
「あー」
子供は平日の朝は起きないくせに、日曜の朝は早く起きて朝食をせがむという事がある。全くもって意味不明だが、やはり何か楽しみがある事で若干の興奮状態になり眠りが浅くなるのだろうか?
疑問は尽きないが、生憎この世界に専門家なんてものは居らず、科学や化学、物理も含めて全てが曖昧になっている。しかし、それらが曖昧なので意味の分からない理屈で動く魔法の恩恵を受けられているのかもしれない。
話が逸れたが、子供というのは何かのイベントがあるとわりかし早起きになって俺たち保護者を叩き起こすものだと思っていた。
しかし、現実はそんな事は無く。
今日もアイリは俺の隣の布団で呑気に睡眠を貪っていた。
この光景をゆんゆんに見られたら一体どんな目に遭うのかと思い頭で軽く想像しようかと思ったが、やはりやめておいた方が良いだろうと思い俺は考える事をやめた。
昨日みたいに二度寝するのもどうかと思い、仕方ないと自分に言い聞かせながら俺の腕に絡みついているアイリの手を解こうとする。
「…嘘だろ?」
最初は軽く空いている方の手で腕を解こうとしたのだが、アイリの腕は俺の想像以上に上手く絡みついているのか解ける気配はなかった。
おかしいと思い本格的に解こうかと思い手に力を込めて解こうとしたが、これが意外にも固く絡みついているというか万力に挟まれているような強い力で固定されている気がした。
やはり貴族の子供だけあって昔から経験値の高い食材を食べて育つことでレベルを上げ、俺みたいなちっぽけな冒険者よりステータスが高くなっているのだろう。
悔しいが、人生のおおよそは親によって決まるのは至極当然の事実なので、コレばかりはもはやひとつの災害みたいなものでどうしようもない。結局金持ちの子供は金持ちになるのと同じ理屈だ。
あの知恵の輪事件は劣化した針金が音をあげて壊れたのでは無く純粋にアイリの握力によって破壊されたという事になる。
しかし、まあ適当な事を色々と考えたが結局のところ動くにはアイリが起きて絡んだ腕を解く以外の方法はないので起こそうかと思うが、隣でスヤスヤと気持ち良さそうに眠られると何だか起こすのもかわいそうになってしまう。
「スゥースゥー…お兄様…」
「うぉっ!マジか」
可愛い寝顔だなっと思っていたが、半身起き上がったことで俺との距離が出来たので、反射的な行動だろうか物凄い力で絡んだ腕を思いっきり引っ張られ俺は再び布団へと引きずり込まれたのだ。
「可愛い顔して恐ろしい握力だな全く…」
力では全く敵わないことを分からされたが、かといって支援魔法を使ってまで抵抗するのも何だか大人気ないのでここは大人の対応で黙っておく事にする。
決して二度寝するとかそういうわけではないのだ。
「さあ行きますよお兄様‼︎今日は念願のカエルを狩る日です、遅くなると地面に潜って見えなくなってしまいます」
正午の手前頃だろうか?日が大分昇って来たあたりでいつもの様にアイリに起こされる。
全くもって不本意極まりないが、かといって離してくれなかったと言えばそれはそれで気まずくなってしまうので今回も黙っておく事にする。
「悪いな、今から準備するから下で待っていてくれるか?」
「はい‼︎」
ビシッと敬礼をしながら彼女は下のラウンジに降りて行った。
若者は元気だなと思いながらこないだおっさんに同じ事をいったらガキが生言ってんじゃねぇと怒られたのも記憶に新しい。
寝間着からいつもの服へと着替え小道具をまとめたカバンと剣を装備するとそのままアイリを連れて外へと駆け出す。
「カエルと言いましたが、結局どのあたりに居るのでしょうか?」
ギルドでクエストの受注を済ませ、アクセルの街から外に出た辺りで彼女が聞いてくる。
どうやらジャイアントトードに関しての知識は調べたが実際にどの辺りに居るなどの現地の情報までは聞き込んではいなかった様だ。
この世界に来る前に山に関しては俺に任せろと豪語しており、山にキャンプに行く計画を立て向かった所でそいつの知識は結局の所、所詮漫画や小説で読んだものや図鑑を齧った程度の知識で、中途半端には役立に立ったのだが肝心な所では役に立たず色々と苦労した記憶があるので、何かするなら最初に実際の経験者に聞いた方が情報の精度が上がるのだ。
…まあ、あまり人と関わらない様に言ってあるので聞き込みなどの情報収集は出来ないとは思うが。
「ジャイアントトードは基本的に牧場の近くとか子供のいそうな場所とかかな?」
我ながら何を言っているんだろうなと、モンスターの生態に関して特に考えていなかったなと気づく。
「つまり街の近くの草原でしょうか?」
「そうなるな、小さい個体は木々の間で虫とか小動物を食べるけど、成熟体になるとそれだと足りないからこうして家畜とか子供を襲ったりするために人里に近づいてくるんだよ」
「へーそうなんですか?」
フマフムと興味深げに聞いているアイリに続きを説明する。結局はゆんゆんの受け売りだがこの場に彼女が居ないのでまるで自分が調べたかのように知識をひけらかす。
「だからジャイアントトードを狩るときはこうして街の裏側にある牧場に行けば大抵何とかなるもんだ」
「へー」
そう言いながら歩くこと数分、何の考えなく街の正面から出てしまったので遠回りに向かった目的地である牧場へと到着する。
アクセルの街でも畜産業は存在する。
食事で出される肉類は基本的にクエストで狩られたモンスターだが、季節によっては皆冬眠になってしまい誰も何も狩れないみたいな事態が続いた為か俺みたいな転移者がこの街に入れ知恵をしたらしく、それからこのアクセルでは牧場と言う名前の畜産関係の施設ができたらしい。
なので、そこの子牛や子山羊を狙いにカエルがやって来るためにいつもこの時期になるとクエストが張り出されるのだ。
「着きましたけど…カエルの姿は見えませんね…」
目的地である牧場周辺に着いたが、目的であるカエルの姿が見えることはなくそこは家畜の楽園となっていた。
「取り敢えず管理人に話を聞いてみるか、もしかしたら何かあるかもしれないし」
どの世界にも共通だが、何かが起きた場合何もなかったなんて事は無いのだ。もしそうなっているのであれば何かあった事に気づけていないか、気づきたくなくて目と耳を塞いでいるのかどっちかだろう。
「分かりました、私はお兄様に着いていきます」
てっきりカエルが居なかった事で不機嫌になること思ったが、意外にもそんな事は無くむしろ楽しそうに俺の後とに着いてきた。
「成る程そう言う事だったんですね…だったら先にそう記して下さいよ…」
申し訳なさそうに謝る管理人を前に俺は、はぁ…とため息を吐く。
管理人と話してみたところあのクエストは季節が来れば自動的に張り出されるもので、今回はたまたまカエルの被害が出る前に早く張り出されてしまい俺たちは無駄骨を折らされたと言う事になる。
カエルも人間も皆それぞれの生活リズムがあり、カエルには周囲の気温によって冬眠から目覚める習性があるので奴らが発生して居ないと言うことは今年はまだその気温に達して居ないと言うわけだ。
結局その年の気候の変異を予測する術は無いので仕方がないと言えば仕方ないのでこの管理人を責めるわけにはいかない。
だが、それではいそうですかと引き下がる訳にはいかないのだ。何せ今回はアイリが居るのでカッコ悪いところは見せられない。
「まあ、でも帰り道たまたまカエルとバッタリ遭遇して退治したら報酬は貰えますよね?」
管理人は女の子を前に見栄を張っているように見えたのか、その真意を確認する事なくそうですね…と了承をした。
この管理人は悪い人ではなく対応もしっかりしているのであまり迷惑をかけたくは無いのだが、それはそれでコレはコレなのだ。
「お兄様残念ですけど今日は他のクエストに変え…」
「戻るぞアイリ、俺たちのクエストはまだ終わっちゃ居ない」
「え?あっはい‼︎」
アイリの話を遮りながら踵を返し管理人のいる事務所を後にして俺たちは再び牧場の前の草原に立つ。
「お兄様?これから一体どうしようと言うのですか?」
「まあ見てろって」
少しテンションが落ちているアイリの前に持っていたカバンを丁寧に降ろす。
目的地に行って獲物が居ないことなんてよくある事だ。三流の冒険者はそこで終わりだが、俺は一流の冒険者を目指している故しっかり対策を練っているのだ。
「あの…お兄様コレは一体?」
「コレはだな…俺特製の爆裂魔法だ」
「爆裂魔法?あの威力が高いと言われている最強の魔法ですか?」
「まあ本物には敵わないどころか足元にも及ばないけどな」
丁寧に下された鞄から筒を取り出した。
コレはまだバニルには売ってはいないので著作権は俺の元にある為使いたい放題だが、あまり使うと環境破壊になりかねないし、何よりめぐみんがあまりいい顔をしないので使わなかったが、今回の事態にはピッタリの代物だろう。
簡単に言えばダイナマイトだ。
原理はウィズの倉庫の肥やしになっていた爆発するポーションを元にしたもので、コレは強い衝撃か火に触れるかの条件で量に見合った爆発を起こす代物なので、これを吸収性の高いおが屑をベースにした土に滲みこませ筒に詰め込んで蓋を閉めたものになる。
作るときは繊細な動きと集中力を要求され中々に苦労したが、単純作業なので慣れれば簡単でこうして大量とまではいかないが結構な量を作る事に成功している。
「この筒の上の方に紐が出てるだろ?」
「はい、そうですね」
「これに火をつけて投げればドーンといくんだよ」
「ドーンですか?」
「そうだドーンだ!」
身振り手振りを加えて狂言の如く爆発を表現する。
鞄の側面にポケットに入っていた蝋燭に着火魔法で火をつけアイリに渡す。コレがあれば魔法が使えないアイリでもダイナマイトに火をつけることができるだろう。
「それえこれを…まさかお兄様⁉︎」
「そうだ、そのまさかだ‼︎」
俺の意図している事に気づいたのか驚愕の声を発するが時既に遅し、俺は開かれた鞄の口から特製ダイナマイトを取り出すとそれを牧場から少し離れた草原へと放り投げる。
「そーれエクスプロージョォォォォォォォォン‼︎」
ポーイと可愛げな効果音が聞こえそうな程柔らかく投げられたそれは綺麗な放物線を描きながら草原に落下し、導火線の火が本体に辿り着いたのかそれとも衝撃か物凄い轟音を立てて爆発した。
「ほら‼︎アイリも早く投げろ、時間が無くなっちまうぞ‼︎」
「え?あっはい‼︎」
目の前に起こった状況を理解出来ずに呆然としているアイリに状況を理解する前にダイナマイトを握らせ俺に続くように指示を出す。
「え…えくすぷろーじょん‼︎」
蝋燭の火を導火線に移し、その火が本体にたどり着く前に彼女は俺が投げた方向から少しずれた方向へとダイナマイトを投擲した。
「中々の精度だな。狙撃スキルなしでコレなら合格だ」
何処ぞの監督のように評価を下しながらアイリの投げたダイナマイトを目で追う。
やはり筋がいいのか彼女の投げたダイナマイトは俺の時同様綺麗な放物線を描き少し遠くで爆発した。
「オラオラ‼︎まだ終わりじゃねーぞ‼︎」
アイリのコントロールの精度に問題がないことを確認した所で、第二波第三波と続くようにダイナマイトを投擲する。
隣に居るアイリも最初の一投でタガが外れたのか少し楽しそうにダイナマイトを投げ始めている。
「アッハハハッーハァ‼︎汚ねぇ花火だぜ‼︎」
「汚い花火ですね‼︎」
取り敢えず決めていた場所全域にダイナマイトを投げ終わり、何処ぞの戦闘民族の言っていた決め台詞を吐くとアイリもそれに続いた。
このままだと元の生活に戻った時ふと言ってしまいそうで怖いが、元々真面目すぎるくらいなのでコレくらいいいだろう。
「それでお兄様は結局何がしたっかったのですか?単純に憂さ晴らしをしたかったのでしょうか?」
周辺を焼け野原にして思う存分環境破壊の限りを尽くし、その状況を眺めていると興奮が冷めたのか不思議そうに聞いてきた。
この行為を責めて来ないのは多分自分自身が楽しくて我を忘れてしまった事もあるんだと思うが、単純に気になるのだろう。
俺も立場が逆なら理由が知りたくてしょうがないと思うのでここは教えておかないといけないと思う。
「アイリがカエルだったらどこで冬眠する?」
「そうですね…外敵に見つからないように山の奥で眠りますね」
「確かにそれは正しいな、けどその外敵が周辺に居なかったらどうする?」
「そうですね…」
この辺に生息する危険な肉食動物やモンスターは昔にあらかた討伐され絶滅したと聞く。なので現在ジャイアントトードを狩れる野生の生物はアクセルの街周辺には居ないと言う事になる。
まあそういう事なのでこうして俺たちが金を受け取って狩りをしている訳だが。
「やはり食事が取れる所でしょうか?冬の間食事が取れないのでお腹が空いていると思うので…」
「正解だ、流石俺の妹だ」
100点の回答に思わず頭を撫でてしまう。
コレが日本だとセクハラになってしまうの注意だが、ここは異世界なのでギリギリセーフだろう。
「…へへ、えへへ…」
俺のクイズに正解したのが嬉しいのか嬉しそうに目を細めるアイリを尻目に焼け焦げた草原を見ると少しずつ地面が盛り上がり始めていた。
やはり俺の勘は間違って居なかったようだ。
「これは一体何でしょうか⁉︎」
「いやいや、さっき自分で答え言ってただろう」
「まさか、あの爆発行為は怒ったお兄様が周囲のヤギが草を食べられない様に八つ当たりしたのではなく、冬眠したカエルを起こすものだったんですね‼︎」
「お前そんな事思ってたのかよ‼︎」
純粋そうに見えて意外と毒を隠し持っている事が判明したが、それはさておき地面から続々とカエルが湧き出てくる。
何だろうモグラ叩きを彷彿とするんだけど…
「すごい数が出てきて居ますけど大丈夫でしょうか?」
「いや…これは流石の俺も予想外だったな…」
よくて三体くらいだと思って居たが、湧き出てきた数は俺の想像以上で軽く五体を越していた。
「アイリは鎖帷子を着ているんだよな?」
「はい‼︎それはもちろんです」
「よっしゃ、奴の舌の攻撃だけは気を付けろよ。もし捕まったら大声で俺を呼べよ」
「わ、分かりました‼︎」
カエルは金属を消化できないのでジャイアントトードを相手にするときは金属系の防具を装備すると良いと聞くが、それがどう効果を発揮するのは俺も確認したことが無いので念のためアイリが食べられる事を想定しないといけない。
「これでもくらいやがれ‼︎」
地面から湧き上がってきたカエルのうち一体が俺達の存在に気づき舌を伸ばして来たので、それを瞬時に躱してそこにダイナマイトを乗せる。
本来のダイナマイトであれば舌についた時点で唾液で火が消えてしまうが、今回の導線はウィズの店で買った特注品なのでこの程度の水気では消えず俺の代わりにつかまされたダイナマイトは見事にカエルの口の中に吸い込まれていった。
ダイナマイトは奴の体内で爆発したのか、ゲコッというカエル独特の鳴き声が歪んだ加工を受けたエフェクト音声の様に周囲に響き渡った。
「それ見たか‼︎お前なんか怖くねーよ‼︎」
見事な一撃を決めその爽快感に身を委ねながら勝利の美酒に酔う。まあ他のカエルは沢山居るから手放しでは喜べないが。
「お兄様‼︎私はどうすればいいでしょうか⁉︎私もダイナマイトで爆発させればいいでしょうか?」
「それもいいけど、折角だから腰の剣で戦ってみるのもいいぞ」
「そうですね、折角買って頂いたのですから使わないとですね‼︎」
そう言いながらアイリは腰の細剣を鞘から引き抜きそのままカエルの方へと突っ走って行った。
心配そうに見てみたが、やはり記憶がなくても戦い方は体が覚えているのか軽い身のこなしでカエルの舌の攻撃を躱しカエルの腹に剣を挿し込むとそのまま両手で柄を持って振り上げカエルの体を両断する。
恐ろしく鮮やかな手付きに、もしかしたら俺よりも強いんじゃないのかという疑問を覚えるが、今は考えるのを止めてカエル討伐に集中しないといけない。
折角ダイナマイトがあるので、それを腰のベルトに数本差し込みながら湧いて出てくるカエルの群れへと突っ込んでいく。
潜伏スキルが使えるとは言えこんな障害物のない草原で爆発ポーションの染み込んだブツを持って近付けばカエルに見つかるのは必然で、寝起きの朝食だと言わんばかりに我先に舌を俺目掛けて飛ばしてくる。
走りながら舌を躱し、時には舌を切り下ろしたり脇差感覚で持っていた返しのついた短剣を地面に縫い付けるように上から刺し込んだりして動きを止めるなどの牽制を行いながらカエルに近づいては一体ずつ丁寧に屠っていく。
最初にこの街に来たときはこのカエル一体に手を焼かされたが、今では冷静になれば多数相手でも少しの余裕を持ちながら捌けるまでに至っている。
やはりクリスの訓練の賜物だろうか、彼女の目的は見えないがこの事に関しては感謝しなくてはいけない。
ダイナマイトが底をついたと同時に俺の周辺に居たカエル達は全て息を引き取った。
後はアイリの方だが、あっちの方にもかなり数が行っていたなと思い感知スキルの範囲を広げるとアイリの方ではまだ数体居る様だった。
「仕方ない、助けに行くか」
あの動きであれば問題ないと思っていたが、やはり小さな女の子なのは代わりないので助けに行く事にしようそう思った時だった。
「おっお兄様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーっ‼︎」
油断したのだろうか、俺が助けに行こうとした所でアイリはカエルに囲まれものの見事に舌に包まれ一体のカエルの口へと吸い込まれていった。
「えっアイリ⁉︎嘘だろ⁉︎」
アイリはそれはもう鮮やかな手付きでカエルを屠っていたが、カエルも馬鹿ではないので一体の腹に細剣が刺さったタイミングでアイリの体をしっかりホールドして捕食したのだ。
やはり体が戦い方を覚えていたとしても記憶を失っているので戦術の組み立て方等の戦術が出来ない事をすっかり失念していた。
しかし、鉄の装備があれば子供でも倒せるとダストが豪語していたがあれは嘘だったのだろうか?
後でどう報復してやろうか考えようと思ったが今はアイリの救出が優先だろう、また土の中に潜られたら助ける事ができなくなってしまう。
とにかくアイリを食べたカエルに辿り着く為に周囲のカエルを屠り、アイリを食べたであろうカエルと相対する。
結局の所食事中のカエルが一番無防備で屠りやすいので初心者冒険者はわざと仲間を食わせて戦うと言う戦法があると聞く。
「アイリーーっ‼︎今助けるから…な?…えぇ…」
相対した所でカエルが観念した…訳ではないのだろうがアイリを吐き出したのだ。
「成る程、鉄装備をしていけば大丈夫とはこの事か…」
鉄装備をしていけと言うのは狙われなくするのでは無く、万が一食べられたとしても消化されずに吐き出されるというものだったらしい。
我ながら酷い勘違いだったが、その事を説明しなかったダストも悪いので今度制裁しようかと思う。
取り敢えずカエルを一刀両断して屠ったのち急いでアイリの元へと向かう。
幸い外傷はない様だがその代わり彼女の体はカエルの粘液でドロドロのデロデロになっていた。
「あー何処かで見た光景…」
よくめぐみんがベタベタになって居たなぁと思いながら横になっているアイリに声をかける。
「お…お兄様…私…汚されてしまいました…」
「…だろうな」
ベタベタの消化液プールに浸かりながら先ほどまで食道の中で詰まっていた恐怖に身を震わせていた。
流石に何回も飲み込まれた人を介抱しなれているので、事前に水を魔法で生成してそれをアイリに浴びせて洗浄して粘液を落とした後近くにある湖に彼女を転がす。
「大丈夫か?」
流石に衣服全て脱がす訳には行かないので防具だけ外して水浴びをしてもらっている。
「はい…迷惑をかけてごめんなさい…」
「気にすんな、みんな通る道だ。それに俺もやりすぎた感は否めないし…」
まさかあれだけの数のカエルが牧場周辺で冬眠しているなんて流石の俺でも想像できなかった。
「どうする?もうクエストは止めておくか?」
流石にカエルに飲み込まれてそれがトラウマにならない奴はいな…居るけどアイリは貴族出身のお嬢様なのだ、戦闘なんて出来ればしないほうがいい。
「いえ、この借りは必ずお返しします」
「えぇ…」
どうやら今回の一件は逆に彼女に火をつけた様だ。
借りを返すと言ったが、その相手は俺が既に屠っているんだけど、これはどうなるんだろうか?
「それで服を脱いで体を流したいので席を外して頂けませんか?」
「ああ悪い悪い、それじゃ俺はカエルを回収してもらう様に伝令を出すから終わったら呼んでくれ」
「はい」
アイリに背中を向け、ギルドに信号を飛ばす。
場所と時間帯を伝えておけば信号を送るだけで近場ならギルドの職員が討伐したモンスターを運んでくれるのだ。
手数料は取られるが…
「へぇ…このカエル全てギルドの方が買い取ってくれるんですね」
「そうだよ、これがしばらく酒場の食材として調理されて並ぶのさ」
大量に討伐したカエルに職員はビックリしながら大人数で運び出している光景をアイリと2人で眺めている。
あの後服がずぶ濡れになったので焚き火をしながら服を乾かしたのだ。やはり動物の唾液塗れになったので洗剤で洗わないと匂いは完全には消えないが幾分かマシになっている。
「なあ、なんで距離を取るんだ?カエルの唾液の匂いは嫌と言うほど慣れてるから気にならないって言ったんだけど俺なんかした?」
それからと言うもののアイリに物理的に少し距離を取られているのを感じる。
「いえ…お兄様が嫌いという訳ではなくてですね…」
まあ女子というものはそういうものなのだろうと思い彼女の意見を尊重することにする。
何処かのめぐみんは逆に抱きついて来たことがあったが、それと比べれば可愛いものだ。
「それでは私は銭湯に行って来ますので屋敷で待っていてください‼︎」
流石に早くから風呂を沸かす事に遠慮したのか、彼女は街に着いた瞬間銭湯に行きたいと言い出した。
特に断る必要性もないので満喫できるようにオプションを全て付けられるだけの額を渡し送り出す。あそこには高性能の洗浄機があるのでカエル汚れもすぐ落ちるだろう。
…俺も汗をかいたしシャワーでも浴びるか。
汗臭いのもどうかと思い物凄い速度で消えたアイリの後に続いた。
「おーカズマじゃん、妹の調子はどうって何すんだよ‼︎」
銭湯に入って早々ダストが居たので思わず蹴りをかましてしまった。
「カエルは金属装備を付ければ大丈夫だって言ったのはお前だったよな?」
「そうだけど…あのカエルもしかしてお前の仕業か?」
「そうだよ」
「それでお前は汚れていないと言うことは…まさか⁉︎」
「そのまさかだよ‼︎」
「待て、嘘はついていないだろ‼︎結果としては大丈夫だったんだからいいじゃねえか‼︎」
その後銭湯にはダストに悲鳴が響いたと言う。
あいつ的には俺がカエルに喰われると言う考えだったらしいがそんな事で許すほど俺は甘くはないのだ。
そんなこんなで制裁を加えたのち一風呂浴びて互いに冷たい飲み物を飲んでいつもの意見交換をした。
何かあっても落とし前さえつければ俺たちは再び親友へと戻るのだ。
そしてダストと別れ、気づけば街の入り口でボーとしていた。この時期のこの時間になると街の入り口にはまるで人払をかけた様に人が見えなくなる。
それはそれとしてダクネスがくるだろうという、よく分からない確信めいた何かを感じたので来てみたはいいが、周囲には弱々しい気配はあるがダクネスのような強い生命力を感知できなかったので他人かと思い諦めたが、街の外からやってくる人を見て俺の勘も捨てたもんでは無いなと思い鎧を纏った金髪の人に向かって歩みを進める。
しかし何故俺の感知スキルに反応しなかったのだろうか?
クルセイダーにはそんなスキルは無かったと思うが一体どんなカラクリがあるのだろう、それも含めて聞いてみるのも…
「嘘だろ…」
近づき彼女の全貌がハッキリと見えた瞬間全てを理解した。
弱った気配という時点で気付いて千里眼スキルを使って確認しておくべきだったという事に気づく。
「カズマか…良かった。丁度お前に…会いたいと思っていた…所…だ…」
「ダクネス‼︎」
俺の前に現れたダクネスはいつもの様に生命力に溢れたものではなく、鎧は所々破壊され全身血塗れでの状態で命かながら逃げて来た、そんな様だった。
あのダクネスがここら辺のモンスターにやられたとは考えづらい。
ダクネスは俺の姿を確認すると緊張の糸が切れたのか杖代わりにしていた剣ごと地面に倒れ込んだ。
「どういう事だよ…」
そのうち忙しくなるかもしれません…