この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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誤字脱字の訂正ありがとうございます。
今回は少し文脈が崩れているかもしれません…


六花の少女7

「おい‼︎大丈夫かしっかりしろ‼︎」

 

傷だらけでボロボロになっているダクネスを抱き上げる。

幸いにも呼吸はしている様なので息絶えた訳では無い様だが、だからといってこのままにしていい理由にはならないので取り敢えずだが回復魔法をかける。

回復魔法を受け彼女の体の傷口は徐々に塞がっていくが、やはり俺如きが掛ける魔法では体力の多い彼女の体力を回復させるにはかなり効率が悪い。

 

ゲームで例えるのであるなら最大ヒットポイントの量の違いだろうか?

俺が10ならこの体力お化けの体力は100を優に超えている。

この世界の回復魔法の回復量は持ち主の体力に依存するので、体力の低い自身の体を回復させる分には少量の魔力でいいのだが、彼女の様な高体力のクルセイダーとなると自身を10回以上全回復させる程の魔力量を必要とする。

 

悲しい事に俺の四肢がもがれたとしてそれを俺自身が回復させるのに必要な魔力量よりも、彼女の切創を治すのに必要な魔力量の方が多いのだ。

なのでプリーストはスキルによりその差を補うか、自身の体力を上げるのがセオリーとなっている。

それでも凄腕のプリーストとなると医学の知識を覚え少ない魔力で人体の組織に干渉し代謝などを細かく調整して素早く尚且つ正確に治すと言われている。スキルと言っても所詮は先人たちの知識を纏めて一定の効果を出せるようにしたものなので、それをどう解釈してどう発展させるかによって天と地程の差が出てしまうのだ。

なので最上級回復魔法であるセイクリットの冠を習得したアークプリーストは人体の構造について学ぶらしい。

 

まあ言い訳に聞こえるかもしれないが、俺の魔力量や知識では彼女の傷を回復させるには些か少ない。

 

「悪いな、埒が明かないから回復が得意な奴の元へ運んでいくぞ‼︎」

 

このまま街の入り口付近で回復魔法を掛け続けるのもどうかと思うので、回復魔法が使えるようになるまでよく世話になった場所に連れていく事にする。

確かダクネスもエリス教だといつだったか言っていた気がするので、いくら性格がキツイ彼女でも断ることはないだろう。

 

支援魔法をかけ筋力を強化して彼女を持ち上げる。

やはりクルセイダーなだけあってボロボロにはなってしまっているが重厚な鎧を着ており、その為かなりの重さを持っているので持ち上げるときに油断すると腰をいわしそうになる。

 

「待っていろよ、必ずお前を助けてアイリの情報を聞き出してやるからな」

 

一応応急処置の範囲で回復魔法を掛けたがそれでも出血量が多く、ここが日本であったなら命を失ってもおかしくはない状況にある。

周りの目が気になるので潜伏スキルを使用しながらよく使用する裏道を辿りながら目的の場所に向かう。

 

 

 

 

 

「はぁ…久しぶりに顔を出したかと思えばまた新しい女の子ですか…あら?このお方は…ダクネス様⁉︎一体どうしてこの様な状態に‼︎」

 

俺がダクネスを回復させるために向かったのは何時ぞやの教会だった。

ここに在籍するシスターは性格がキツイが、その腕前はこのアクセルの街で一番腕を持つと言われており、殆どの冒険者はギルドが抱えるプリーストの手に余る事態があった場合に彼女の元へ流れる仕組みとなってる。

 

そんな彼女に最後に会ったのはバニル討伐の後に様子を見に行って以来だった様な気がする。

殆ど後衛で構成されるパーティーなので怪我をするのは基本的に前衛を務める俺だけなので、おおよその事態は自身の回復魔法で事足りてしまう。だからこの場所にお世話になる機会が無かったのだ。

 

「正直理由は俺が聞きたいくらいだよ、こいつに話を聞こうかと思って待ってたら傷だらけになったコイツがやってきて今に至るって感じだ」

 

教会に入るとたまたま入り口にいたのか前の様に俺に皮肉を言ったが、すぐに俺がダクネスを抱えている事に気づくや否や物凄い速度で彼女を俺の腕からひったくり奥のに設置されているベッドの方へと進んでいった。

やはり互いにクリスの知り合いなのでそれを経由して友好関係があるのだろうか?

しかし、俺が結構苦労してここまで運んできたダクネスをここまで軽々しく持ち上げられると如何に自分のステータスが低いか思い知らされるので勘弁して欲しい所だ。

 

我を忘れたように奥の部屋に連れて行ったが、取り敢えずダクネスの様子が気になるので彼女が向かっていた部屋に向かう事にする。もし着替え中だったら怖いので一応潜伏スキルを使いながら大丈夫だったら解除する方向で足を進める。

 

 

部屋に入ると鎧を脱がされ軽装備となったダクネスがいつものベッドで寝かされ、横でシスターが全身全霊で回復魔法を彼女に掛けている状態になっていた。

完全に同じではないが回復魔法を使う身としては彼女の回復魔法捌きは、俺の大雑把なものと比べて緻密かつ繊細で一切の無駄を感じさせない程だった。やはり同じ回復魔法でも術者の技術でここまでの差が出てしまう様だ。

 

「ふぅ…どうやら峠は越えたみたいですね。あの歩くアダマンタイトと言われたダクネス様に此処までの怪我を負わせるとは、相手は一体どの様な方だったのですか?」

「いや、だから俺には分からないって」

 

彼女の手腕を後ろから眺めて数十分、基本的に殆どの怪我をすぐ直してしまう彼女がこれ程までに時間をかけるとなるとやはりダクネスの怪我は相当なものだった様で、あのままアクセルの入り口でチマチマ回復魔法を掛けなくて正解だった様だ。

まるで倍速の映像を見せられているかの様な体の修復を眺め、それがつつがなく終了し最後にバイタルの確認を取ると後ろにいる俺に状況の確認を取り始めた。

 

 

「全く、相変わらず使えませんね…ですが事前に的確な応急処置をして頂いた事は感謝いたします。致命傷は避けれていましたがそれに近しい部位に切創等がありました、応急処置がなければもう少し時間が掛かってしまうところでした」

「まあな、一応はパーティーでヒーラーも兼しているからな」

「ですが、処置自体の精度がまだまだ甘いです。ヒーラーを名乗るならもう少し体の仕組みを理解した方が良いかと」

「へいへい」

 

はぁ…と深い溜息を吐きながらまるで昔誰かに言われた言葉を伝統の様に俺に浴びせる。きっとシスターの師匠の性格はとんでもない奴だったに違いないだろう。

先輩に扱かれた後輩は自身が先輩になったら自分がされた事を新しく入った新人にすると言った伝統があるが、その行為を俺に浴びせるのは勘弁してほしい。他にもパワハラ教育してきた上司と立場が逆転して新規導入されたプログラミング事業に必要な知識を自分が受けた教育と同じようにパワハラしながら行うという報復行為もあると聞く。

 

「…本当にダクネス様に何かあったか分からないのですか?」

「ああ、むしろ俺が聞きたいくらいだ」

 

余程ダクネスがやられた事が意外だったのか、2度目の質問を俺に問い掛けるが答えられる事は何もないので同じ答えを返す。

しかし、何も話さないというのもどうかと思うのでダクネスに関しての簡単な経緯を説明する。

 

「成る程…相談があったからダクネス様を待っていらっしゃったのですね…」

「そうなるな、このタイミングこんなこと言うのもアレだけどダクネスはあとどれくらいで目を覚ますんだ?」

「そうですね…怪我は殆ど治しましたので後は体力が戻れば目を覚ましますね、普通の方があそこまで衰弱されたのであれば五日は掛かりますが、ダクネス様なら明日の昼頃には目を覚ますでしょう」

「へー成る程な」

 

やはり彼女の生命力は恐ろしい程高いらしい。

 

「そうですね…それでしたらダクネス様が目を覚まし次第貴方が探していましたと伝えておきます。ダクネス様も貴方を探していたと言いますし」

「ああ、それは助かる」

 

どうやらダクネスが俺を探していたと言う事を伝えたのが功を奏したのか、彼女が目覚め次第伝言を伝えてくれるらしい。

 

 

 

 

 

その後シスターにレベル等を聞かれるなど様々な談笑をして気づけば暗くなって来たので屋敷に帰ることした。

アイリを1人にするのは気が引けるが、あのダクネスをあのまま放置するわけにもいかなかったのでしかたがない事だろう。幸いにも彼女の気配が俺の屋敷に居ることが確認できるので最悪の事態に陥っている事ないようだ。

 

「帰ったぞー。色々あって遅くなっちまったごめんな」

「お帰りなさいませお兄様、少しくらい遅くなる事は構いませんが…それと何だか疲れている様ですが大丈夫ですか?」

「ん?ああ大丈夫だよ、意外にカエル狩りが疲れたのかな?アイリは大丈夫か?」

「はい、私は別段疲れるといったことは無いですね」

 

流石にダクネスの事は言えないので黙ってく事にする。

なるべくアイリの事に関しては彼女に特に気を負わせたくないので、詮索している事はなるべく本人に知られないようにコッソリ行いたいのだ。

 

「ん?何かいい匂いがするんだけど…」

「それでしたらお兄様の帰りが遅いと思ったので先に準備させて頂きました!」

「マジか、ありがとうな」

 

今日の夕食の当番は俺だったのでというか基本的に家事をやるのは俺なので感謝の意味を込めて彼女の頭を撫ででながら礼を言う。

 

「ふふっえへへへ…」

 

俺自身撫でられる事の何が良いのかわからないが、本人が気持ちよさそうなのでやっていたらいつの間にか習慣化してきている様な気がする。

ちなみにインドか何処か忘れたが頭の上に神が座るとされている宗教があって、そこでは頭を撫でる事は失礼を通り越して侮辱とされていると何処かで聞いたことがある。

エリス教もアクシズ教もその様な因習は無いので多分大丈夫だろうとは思うが記憶を取り戻して復讐されてたりしないか心配ではある。

 

「風呂は入って来たし飯から行こうかな」

「はい!」

 

荷物を玄関に置いておきラウンジの食卓へと座る。

 

「マジか…もしかしてアイリは料亭の一族の子供だったのか」

「そんな事はありません、これも全てウィズさんに教わったものです。私は言われた通りに調理しただけで…」

 

並べられた豪勢な食事に呆気をとられる。

もしかしてこれは冗談抜きに王族に食事を提供する一族の子孫なのかもしれない。

であれば彼女が怪我だらけになったのは王族を毒殺しようとする組織がいてそれを拒んだか、それとも逆に毒殺をする側の組織でそれがバレたからか?

 

…いやどう考えても違うか。

 

「あの…お口に合わなかったでしょうか?」

「ん?ああ違う違う、ちょっと考え事していただけだから」

 

くだらない推測に妄想を働かせているとアイリが少し困ったように様子を伺って来たのでそれを否定しながら彼女の用意した食事に手をつける。

 

「やっぱりアイリの料理は美味いな‼︎魔王討伐が終わったら料理屋でも開くか」

「それは言い過ぎですよ‼︎」

 

嬉しそうに謙遜する彼女尻目に考える事をやめて食事を再開させる。

 

「それでウィズに教わっていたのか?」

「はい、長年やる事がなかった時期があってその時料理をある程度嗜んだと聞いています」

「へー」

 

そう言えばどこで教わったか聞いていなかったが、ウィズの所で学んでいたようだ。ニッチな品ばかり売っているのでそこまで集客がよく無く暇なのだろうか?

それにリッチーは砂糖水があれば食事を取らないと聞いていたが、嗜好品の類で愉しんではいる感じなのだろう。

 

「ウィズが教えている間はバニルが店番をしている感じか」

「そうですね。私がウィズさんの時間をお借りしてバニルさんの仕事を増やしてしまって申し訳ないのですが、何故かバニルさんはとても感謝してまた来て欲しいと食材のお土産まで持たせて下さいました」

「へーそれは珍し…ああ成る程な…ともかく感謝されているんだからまた遊びに行ってやれよ、あそこなら安心だからな」

「はい‼︎」

 

多分バニルはアイリの面倒を見てもらえる事によりウィズが余計な発注や行動を起こさないのでそれが良いのだろう。

悪魔とは損得勘定が強いので店でアイリに何かあったら助けてもらえる可能性が上がるので、何か用事があって俺が空いていない日はあのお店に預けておくのが良いのかもしれない。

 

 

 

 

食事を済ませて軽くシャワーを浴びて汗を流しそのままベットに寝転ぶ。

もはや当然の如くアイリが隣でゴロゴロしているのはもう考えず自然現象の一つという事にしている。

 

しかしボロボロのダクネスに同じ様にボロボロだったアイリ、2人には何かしらの共通点があってもおかしくはないのかもしれない。

もしかしてアイリはダクネスの妹だったりするのだろうか?

いや、どう考えても似ていないしダクネスも一人っ子だと言っていたのでその可能性はほぼ無いと言っても過言ではないが、妾の子と言うこともあり得るので確実ではなさそうだ。

 

まあ何にせよダクネスが目を覚ませば何かしらの進展があるので今は我慢するべきだろう。焦れば焦るほどに墓穴を掘りかねないのでここで下手に先手を打つのは危険だ。

 

だが、逆にダクネスが何の役に立たなかった場合と逆にアイリを追う組織だった場合のことも考えて慎重に行わなければいけない事も肝に銘じないといけない。

一番気を付けなくてはいけないのは信用していた味方に裏切り者が混ざっていた場合の対処法だ、アイリが俺の妹で無い事を知っているものは何よりも注意が必要だ。

 

…まあ考え事もここまでにしてそろそろ寝るか。

良くも悪くも隣にアイリがいる事で朝起きたら連れ去られていたなんて事が起きる危険が低減されているので、不安で寝れないなんて事は無いのだ。

知将を気取っている以上は睡眠不足は思考を鈍らせる原因となりうるので、ありもしない事に悩んでいないで早く寝たほうがいいだろう。

 

シスター曰くダクネスは明日の昼頃には目が覚めると聞くのでそれまでにどう話を進めないといけないか考えないといけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

カーテンから木漏れ日のように朝日が漏れ暗かった室内を若干明るくしている中ふと目が覚める。

昔クリスに睡眠中に襲撃かけるから私が近づいたらすぐ起きて対応するようにと言われて訓練した為、何かあれば目が覚めてしまうようだ。

そして目覚めた理由は簡単で。

 

「カズマさん…」

「ん?えぇ⁉︎」

 

寝起きというのもあるが目の前に光景に驚愕してしまい時間が止まったように思考が出来なくなる。なんといつの間にかゆんゆんが帰って来ていたのだ。

確かに彼女とめぐみん2人は住んでいるので鍵を持っているので中に入れるのでいきなり俺の部屋にいても問題はない。

 

「ああゆんゆん戻っていたのか…悪かったな里に戻れなくて理由は話せば長くなるんだが」

「大丈夫ですよ、理由はもう分かりましたから」

 

状況としてはベットにの正面にゆんゆんがいて俺はそのまま横になっている状態だ。

めぐみんの話では出る前に手紙を出すとか言っていた様な気がしたが、多分手紙よりも早くアクセルの街に着いてしまったのだろう。

 

「え?」

「だから理由は分かっていますから説明しなくても大丈夫ですよ」

「うわっ‼︎」

 

彼女はニッコリと虚な目を釣り上げて笑顔を作るとそのまま俺の掛け布団をめくりあげ俺とアイリの姿が浮き彫りになってしまう。

あまりにも彼女らしからぬ光景に思考が追いつかず彼女にされるがままになる。

 

「カズマさんの事だから街で何か事件があってそれを解決するために色々立ち回っているものだと思っていたのに…」

「待て‼︎落ち着け‼︎これには深い訳があるんだ‼︎」

 

「これじゃあ必死に頑張っていた私が馬鹿みたいじゃ無いですか‼︎」

「待て待て‼︎」

 

彼女の叫びと共に腕に魔力が集中し始める。

これは不味いと思い周囲を探すと、久しぶりに見るもう一つの影を見つける。

 

「めぐみん‼︎見てないで助けてくれ‼︎このままじゃ死ぬ‼︎」

 

めぐみんは我関せずを貫きながらも事の顛末が気になるので一応見に来たみたいなそんな感じだった。

 

「カズマ…気持ちは分からなくはありませんが流石に今回はやりすぎです」

 

どうやらめぐみんが助けてくれる様なことはなく、俺はこのままやられてしまう運びとなるようだ。

しかし、人間の感情は一時のものでこの場を抜け出して頃合いを見て話し合いの機会を設ければ彼女も理解してくれる筈、そう思いながら潜伏・逃走スキルなどの盗賊のスキルを発動させながら逃げようとするが体が動かない。

 

「しまっ‼︎」

 

…そう、俺の体は今だに眠りに落ちても尚離さない万力の力を持つアイリによって拘束されているのだ。

 

「起きろアイリ‼︎ここは戦術的撤退だ‼︎」

「…私よりこんな小さい子が良いんですか‼︎やっぱりカズマさんはロ◯コンだったんですね‼︎」

「違う‼︎これは誤か…」

 

何とかアイリの腕を解こうとする俺に対してゆんゆんは悲しみの感情と怒りの感情の入り混じった複雑な感情を出しながら俺に向かって魔法を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

「うぁぁぁぁぁあぁっぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁlーーっ‼︎」

 

バサッと腕に絡まっているアイリごと布団を捲りながら起き上がる。

 

「……⁉︎」

 

そして周囲の状況を確認して部屋のどこにも損傷がなく屋敷の気配も俺とアイリのものしかないので、先程までの光景が夢だったと気づく。

それは恐ろしくリアルで俺の恐れていた光景が鮮明に再現されていたので、一種の予知能力を得てしまい未来予知を夢という形で発動したのではないかと思う程の恐怖を俺に植え付けたのだった。

 

「ーーはぁ…危ねぇ…」

 

しかし、現実では何事も無かったので良かったが朝に突撃されたら言い訳出来ないので、今度から俺の起きている時間にしか鍵で入れないように細工するのも良いかもしれない。

もし2人が帰ってきてこの状況をどう説明したら良いだろうか?

 

「ん…お兄様?こんな朝早くにどうされましたか?」

「いや、ちょっと悪夢を見てな」

「そうですか…それで今日は何をなさるのですか?」

 

思いっきり起き上がったのでアイリが目を覚ましてしまう。

普段は二度寝をかましていたが、今回は目が覚めてしまったのでこのまま起きて活動しないといけない流れのようだ。

 

「そうだな…昼頃にもしかしたら客人が来るからそれまでは屋敷の近くで作業でもするか」

「分かりました‼︎それでは朝食の準備をいたしますね」

 

まるで家政婦の如く働く彼女を見てもう少し子供らしくしても良いのではないかと思ったが、家事を行う事が彼女なりのここに居てもいい理由なのかもしれないのでやりたい事はやらせてあげる事にしている。

決して面倒だとかそう言う事は無いのだ。

 

「お兄様宛に手紙が届いていますよ、送り主はゆんゆんさんですね」

「おう、ありがとうな」

 

家事の片手間か俺が降りてくる間に手紙を取ってきてくれたようだ。

 

「このゆんゆんという方がお兄様の仲間でしょうか?」

「ん?まあそうだな。2人とも年は近いだろうから仲良くできるんじゃないか?」

「そうだといいのですが…」

「大丈夫だって、いざとなったら俺が敵役になってでも間を持つからさ」

「そこまでして頂かなくても大丈夫です‼︎」

 

キッパリと断られてしまったので追求はせず、仕方なしに手紙を読む事にした。

手紙の内容は簡単で里の復興状況が綴られていた。

 

サトウカズマ様

拝啓

古の戦いからはや数年、あの時の怪我は大丈夫でしょうか…私は(以下略)

 

里の復興の工程は半分程ですが完了致しました。

本当であればそこまでかからないのですが、地面が爆発等でへっこんでしまいそこを埋める作業に大分時間を取られていましてまだお家を建て直すまでに至っていません。

アクセルで何かトラブルがあったと手紙にありましたが何かありましたらすぐ呼んでください。里の復興は皆んなに押しつ…(黒く塗りつぶされ読み取れない)協力して頂き早々に切り上げて向かいます。

 

PS

ねりまきが酔っ払った時にカズマさんが酒場に来たと聞きましたが、それは一体どう言う事でしょうか?後で詳しく説明お願いいたします。

 

 

「終わった…」

 

読み終わった手紙から目線を外しそっと手を降ろす。

どうやら彼女達が帰って来るのはまだ先の様だが、それよりもとんでもない事がバレてしまったようだ。

酒でねりまきが情報を漏らすとは考え辛いが、全てを話した様ではなさそうなので適当に言い訳を考えておけば大丈夫だろう。

 

「お兄様、食事が出来ましたよ」

「おう、ありがとうな」

 

手紙の事は置いておいて今は朝食をとる事を考えよう。

 

 

 

 

 

 

朝食を終えアイリが食器を洗っている間に再び便箋を取り出して返事の手紙を書く事にする。

 

 

拝啓

世界全土を巻き込んだ戦争から(以下略)

 

復興が無事に進んでよかった。

こっちのドタバタはまだ終わりそうに無いけど今の所は戦闘にならなそうだから大丈夫だ、けど何かあったらまた連絡するからその時は頼む。

 

ps

ねりまきの酒場に行ったのは情報が必要だから行っただけでそれだけだよ。

あと温泉券を同封しておくから帰りにアルカンレティアに寄って体でも休めてくれ。

 

「…これで大丈夫か?」

 

取り敢えずポストに入れる前に旅行会社的な場所で券を買って同封すれば大丈夫だろう。

相手がどこまで情報を掴んでいるか分からない以上、下手な言い訳は墓穴を掘ってしまい落語でいう語るに落ちると言う結末になりかねない。

 

「悪い少しだけ出かけて来るわ、すぐ戻るから待っててくれ」

「分かりました」

 

一体なんの為に待たせるのか分からないが、取り敢えず屋敷にいれば大丈夫だろう。

 

街の商店街に向かい、アルカンレティアの旅行券を買いそれを封筒に入れポストにシュートする。

これで幾らかは時間が稼げるだろう、それまでにアイリの件を解決できれば何事もなくゆんゆん達を迎え入れられる。決して夢がトラウマになりかけたとかそんな事は無いのだ。

 

せっかく来たので他にも何か買うものが無いか探していると、とある店が見つける。

特に理由はないが、面白そうだったので中に入る。何を売っているかというと植物の種を取り扱っているお店で野菜や果物・魚など数々の種類の種を取り扱っているらしい。

 

「…やっぱり魚って種から出来るのかよ」

 

この世界は魚は畑から出来ると聞いているが、こうして種で見るとやはり農作物なんだなと認めざるを得ない。

ちなみに水の中を泳ぐ魚も居るので一概に全ての魚が畑で取れるわけでもないらしい。

 

そういえば薬草を植えた場所に少しあまりがあった事と、いつだったかめぐみんがここで家庭菜園をしようとか言い出していた事を思い出す。

ダクネスがくるまでやることが無いので家庭菜園を進めておくのもいいかと思いながらいくつかの種を購入した。

 

 

 

 

 

 

「と言う事で今回は家庭菜園をしていきたいと思いま〜す」

「おーーっ‼︎」

 

帰ってき俺はアイリを着替えを済ませる様に指示を出した後に庭に呼んで座る様に命令したのち、選手宣誓の如く家庭菜園をやる事をここに宣言した。

現在アイリは汚れてもいいように買ったプチプラの服に麦わら帽子をかぶっており、その姿は完全に夏休みに両親の実家にに帰省した子供の様だった。

 

「それで私は何をすればよろしいのでしょうか?」

「よくぞ聞いてくれた、庭の畑はすでに耕されているから今日は種を植えてもらおうかな」

 

そう言いながらアイリの前に買ってきた種の袋を差し出すと彼女は不思議そうにその袋を覗き込んだ。

 

「これが植えれば植物がなると言われている種というやつですね」

「そうかアイリはこう言うの見るのは初めてか?」

「そうですね、多分見た事がないんじゃないかと思います」

 

たとえ記憶を失っていても物の使い方などの記憶はまた別の領域にあるらしく、一度に全ての記憶が消えることはないと聞いたことがあるが、今回の件は種とはまた別で単純に見たことがないだけだろう。

 

「これを土に植えて水をやれば見事に野菜とかが育つ訳だ」

「成る程!ですが食事とかはどうすれば良いのでしょうか?」

「それは必要ないかな、植物は光合…そういえばこの世界だとどう言う仕組みなんだろうな?」

 

畑からサンマが生えるくらいなので、もしかしたら日本とは別の法則が働いて居る可能性があるかもしれないのでここで変に博識ぶって嘘を教えるのはまずい気がする。

 

「なんでだろうな…今度聞いておくよ。まあそれはそれとして昼までに作業を進めておこうか」

「分かりました‼︎」

 

彼女のある程度の種を渡して等間隔で種を土の中に沈めてもらう。

種類は簡単で美味しい物を店員に聞いて選んで貰ったので俺が適当に育てても大丈夫だろう。

 

それと一つだけ植木鉢を用意しており、畑の土を入れそこに彼女には渡していない一つの種を入れる。

俺がこの世界に来てからずっと疑問だったサンマの生育である。本来卵から稚魚が生まれてそこから成長していくのだが、この世界のサンマは畑で収穫され八百屋ではなく魚屋で売られるというよく分からない構造になっている。

人に聞いても要領を得ないのでいつかは作ってみたいと思っていたが、今回ようやくそのチャンスが回ってきたと言うわけだ。

 

「ぱっと見は完全に乾燥した魚卵なんだよな…」

 

種はどうなっているんだと思い種を取り出すと、その姿は完全に魚の卵で土の中に入れるより水槽に入れたほうが良いのではないかと思えるほどだった。

 

まあ物は試しだろうと魚卵…もとい魚種を植木鉢の土の中にシュートし上に土を被せる。栄養剤的なものも買ってきたのでそれを土に差し込み準備完了だ。

後はこいつを日の当たる場所において、アイリの補助をすれば完了だ。

 

 

 

 




シスターがカズマに対して毒を吐くのには理由があったりします…
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