この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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誤字脱字の訂正ありがとうございます。



六花の少女9

「え?」

 

紅茶に口を付け何か見てはいけないものを見てしまったような表情でアイリを見つめながらダクネスは硬直している。

この紅茶はウィズの店にて購入したものなのでもしかしたら何か良からぬものでも混入しており、今回ダクネスはそれを引いてしまったのだろうか?

 

「どうした?何かあったのか?…ああ紹介するよこの子が俺の妹のアイリだよ」

「アイリです、よろしくお願いいたします」

 

俺の紹介に合わせてアイリはペコリとお辞儀をする。

どこかで覚えたのか、それとも記憶を失う前の習慣が残っているのか、たまに恐ろしいほどに礼節がしっかりしている時がある。

 

「カ…」

「か?」

「カ、カズマァァァァァァ‼︎貴様アイリス様に何て事をしているんだ⁉︎」

「うあぁぁっぁあぁっぁあっぁぁぁぁーーっ‼︎」

 

突然叫んだと思ったらテーブルを乗り越えていきなり俺の胸ぐらを掴み俺の半身を持ち上げた。

 

「え⁉︎ちょっと何⁉︎何が起きてるんだよ‼︎」

 

全くもって状況が読めないので慌てふためきながら彼女に状況を説明するように求める。

 

「よくもそんなことが言えたな‼︎一国の王女を自分の妹と呼び剰えエプロンドレスを着せ奉仕させるだと‼︎貴様それでも冒険者か‼︎こんな…こんな辱めアイリス様ではなく私で…」

「これ以上は言わせねーよ⁉︎」

 

暴走した彼女の口から発せられる言葉を何とか口を俺の手で何とか塞ぎ止める。

しかしというか、やはりアイリの正体はダクネスの言う王女だったようだ。

アイリを発見した小河、そして記憶を失うほどの傷だらけ姿からそうでは無いかと思っていたが、それでも見て見ぬ振りして何とか誤魔化そうと思ったが、彼女からダクネスの前に出てきてしまった以上バレるのは致し方ないので諦める他ないだろう。

 

何処かの貴族かと思っていたが、まさか王国の王女とは流石の俺でも考えつかない。まるでゲームのシナリオの様な偶然だ。

 

「むぐっ‼︎もがががっ‼︎口を塞ぐな‼︎」

「だったら首しめんなよ‼︎後そろそろ離してくれないか…いい加減…苦しいの…だが…」

「ああ、すま…」

 

「お兄様になんて事するんですか‼︎」

「え?ちょっと待⁉︎うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ‼︎」

 

ダクネスに胸ぐらを掴まれ首を絞められた状態でそろそろ息が苦しくなってきた所で、それを見かねたアイリがダクネスに向かって思いっきりタックルをかましてきた。

そしてそのタックルを受けたダクネスはそのまま壁の方まで吹き飛ばされてしまう。

あの屈強の脳筋クルセイダーが小さな少女に吹き飛ばされる光景は中々にシュールな光景だが、彼女を怒らせてそれをやられると思うと若干の冷や汗が出てくる。

 

幸いにも屋敷は広いためテーブルは吹き飛んだが壁にぶつかる事は無かったので屋敷自体に損傷はないようだ。

まあ相手はダスティネス家なので理屈を捏ねて増築させるので破壊されても良かったが、一応は借家なので何事もない方がいいだろう。

 

「大丈夫ですかお兄様‼︎お怪我はありませんか?」

「ああ、何とかな…全くこれだから脳筋クルセイダーは…」

「お怪我がなくてよかったです、ですがお兄様に害をなす存在はたとえ友人であろうとも許しはしません」

「ちょっと待て‼︎」

 

仕込んでいたのか分からないが何処からか小刀を取り出しダクネスに向けて構え始めたので、それを後ろから何とか止める。

 

「いいんですか?やられたら何があってもやり返すのがお兄様の信条だった筈ですが?」

「これとそれはまた別だ、原則があれば例外があるのが世の中のルールだろ?」

「…お兄様がそう仰るのであれば致し方ありません…」

 

俺の説明に納得?したのか分からないが取り敢えず小刀を鞘に戻して警戒を解いた。

色々仕込めるかと思い遊び半分で色々漫画みたいな事を教えていたが、いつの間にか俺の想像を超えるほどの番犬キャラに成長を遂げていたようだ。

 

「そうだ、今日はダクネスが居るから食事を豪華にしないとな、悪いんだけど食材の買い足しに行ってくれないか?」

「はい、分かりました‼︎何か要望とかありますか?」

「いや、アイリの料理は美味しいからな。一番自信のある奴で頼むよ」

「お兄様ったら…分かりましたこのアイリ腕によりを掛けて頑張ります‼︎」

 

アイリは俺からお金を受け取ると食材を調達する為そそくさと屋敷を後にした。

この状況下で1人にするのは危険かと思ったが、彼女の事なので多分大丈夫だろう。

 

「…大丈夫かダクネス?回復魔法かけようか?」

「いや…大丈夫だ、ダメージ自体は大した事はないんだ…」

 

どうやら自身の慕っていたかどうかは分からないが、使えていた主人が知り合いにこき使われ、その上タックルをかまされたとなればその精神的ダメージはかなりのものとなるだろう。

その元凶が俺なので何とも言えないが、傷だらけの女の子を保護すれば誰でもそうなってしまうで仕方ないのだ。

 

「すまいない取り乱した、もう大丈夫だ」

「お、おう」

 

あれから呆然としていたダクネスを眺めていたら気を取り戻したのか立ち上がると、そのまま先程まで座っていたソファーに再び腰を掛け何事もなかったかの様に振る舞い出した。

 

「テーブルは悪かったな、今度うちで使わなくなったいい素材の物があるからそれを送ろう」

「ああ、なんか悪いな」

「それで、あのアイリという少女の話だか」

「そうだな、幸いにも本人は自分の事だとは思ってはいないみたいで安心したよ」

 

いきなり自分が一国の王女様で、しかも一族の唯一の生き残りだなんて言われた日にはその重圧によって心を痛めてしまう可能性があるのだ。彼女がどうかは分からないが少なくとも俺がそうであったなら苦痛でしかない。

問題はこの件をどう伝えたらいいかだろう。

一番は記憶を取り戻した時が最高のタイミングになる。

その状態であれば少なくとも王女である自覚もあるし覚悟もできているだろう。しかし、今の状況下でそれを聞かされてしまえば記憶がなくて不安な状態に追い討ちをかけるという鬼の所業をする事になる。

 

今のアイリは力の強い町娘なのだ。

こんな政治のドロドロした状況下に晒すべきではない。

 

「まさかお前の元に居たとはな…探す手間が省けので助かるが、まさか記憶を失っているとはな」

「アイツは自分の名前すら完全に覚えて無かったからな、多分王都の事を言っても分からないと思うぞ」

「それは…そうだな。何か記憶を戻す手立てはないのか?」

「残念だけどそれは無いな…記憶を消すポーションならセイクリットを冠した回復魔法で回復すると聞いたけど、アイリの記憶喪失は心理的ショックによるものだろうから手詰まりなんだよ」

「そうか…」

 

前にウィズとバニルとで記憶を戻す薬品をしこたま飲ませて嘔吐させるまで追い込んでしまった話は彼女の逆鱗に触れそうなので今回はやめておこうと思う。

 

「無理に思い出さそうと説明して余計な心配させるよりかはこのまま自然に戻るのを待たないか?代わりと言っちゃあ何だけど王都に攻め込むのを手伝うからさ」

「それもそうか、アイリス様も王女とはいえまだまだ子供だ、たまには無邪気に遊びながら過ごすのも悪くは無いのかもしれないな。それと王都奪還に協力してくれるのは嬉しいが…」

 

どうやらアイリに事情を説明して記憶を取り戻そうという物騒な話になる様な事は無さそうだ。

 

「それでアイリス様を見つけた時の状況はどうだったんだ?」

「ああ、それだったら…」

 

紅魔の里の件を終えてアイリを小川の麓で見つけた時の状況をダクネスに伝える。

もちろん全て教えるなんて無謀な事はせず、あくまで話に齟齬が起きない程度に脚色を加え俺たちに不都合が起きないように説明をした。

 

 

 

 

 

「成る程な…それで髪の毛色と瞳の色が変わっているのか、お前も色々彼女のために頑張ってくれていたのだな」

 

俺の話した説明に一応納得してくれたのかふむふむと頷きながら感想という名の自身の考えを話し始めた。

 

「まあな、でも髪と目の色が違うのによく気がついたな」

 

人間というのは少し印象を変えるだけで簡単に誤魔化される聞く、これは髪を少し上に上げた俗に言うアップバングにした際周りの人の気付かれなかったと言う悲しき事例があったのだが、アイリのそれは髪型を変えるどころの話どころでは無い筈だ。

 

「それはまあ、ダスティネス家は長らく王族に仕えているからなあの程度の変装で欺けるほど思わない事だな」

「へー、流石ダスティネス家だな」

 

ドヤァっと効果音が出てきそうなほどのドヤ顔に若干引きそうになるが、変装を物ともせず見抜けるというその忠誠は尊敬に値するだろう。まあ偉そうなこと言っているがゆんゆんが変装した時に俺は見抜けるのだろうか?

 

「そう言えばその王女様は結構戦闘とか強いのか?」

「それはそうだな、私たち貴族は幼少の頃から経験値の高い食事を摂らされているからレベルが高いのだ、それにアイリス様は子供の頃から剣に関しての扱いを学んでいてな、単純な戦闘力であるなら私など当に超えている筈だ」

「へー成る程な、どうりでお前がぶっ飛んだはずだ」

「それは…あまり恥ずかしいから言わないでくれ」

 

どうやらアイリに吹き飛ばされた事は彼女にとってはトラウマのような恥ずかしいものになってしまったようだ。

 

「それで話は変わるけど、アイリ…アイリスの件についてはこのまま俺が様子を見るって事でいいか?」

 

一応念の為に認識を共有させる。

互いの認識に齟齬があった場合、何かトラブルがあった際に負けるのは冒険者である俺なのだ。

 

「そうだな、アイリス様が記憶を取り戻すまではこのままお前に預けておく事にしよう。私の元においておけばすぐ正体がバレてしまうからな」

「ああ、そう言ってくれると思ったよ」

「ただ流石にエプロンドレスを着せて奉仕させるのはどうかと思うぞ、初めて見た時は貴様がそういう趣味かと思ったぞ」

「あーこれは何にも言い返せない‼︎」

「まあ見た感じアイリス様が勝手に着たように見えたから文句は言わないが…」

 

どうやらあの服装に関しての誤解は勝手に解けていたようで説明する必要が省けて助かるが、そのまま解けなかったと思うと俺は一国の王女をメイド扱いしたとしてロリコン犯罪者の烙印を押される所だった様だ。

 

「それで王都を奪還する話だけど、ダクネスはどんな感じに考えているんだ?」

 

アイリの扱いに関しては俺に委任する形を継続してくれるそうなので、下手に話をして覆されないうちに話を変えた方が賢明だろう。

 

「そうだな、私自身先程まではアイリス様を何としてでも見つけなくてはと思って行動していたからな、そこまで緻密に計画を練っていた訳では無いのだ」

 

考えが甘いなと思ったが、元々ダクネスはアイリに仕えている家の人間なのでまずは主人の安全を確保するのが先決で何をするにも彼女の生き死を把握しなくては次に進めなかったのだろう。

仮にゆんゆんが同じ様な状況下にあった場合、俺だったら復讐をしている間に救えていた可能性が潰えてしまい亡くなってしまうという最悪のケースを想定してしまい捜索に時間をかけただろう。

…要するに考える事は一緒なのだ。

 

「考えは特に無いって感じか?」

「いや、何も考えていないと言う訳ではない、現にお前にアイリス様を捜索させてやろうと思っていたことがいくつかある」

「へーそれはどんな感じなんだ?」

 

流石に考えなしでは無かったようで、彼女なりに何かしらの計画を立てている様だった。

普段変態なところが印象として先行しているせいか、どうしてもダクネスが作戦を立てるなどの事を考える光景が思い浮かべ辛い。

しかし、それでも奴はダスティネス家の名を背負っているのだから俺よりも優れた作戦を考えているのだろう。

 

「まずは私と同じ王都を…アイリス様を支持している貴族に声を掛け、王都の状況を説明して私兵を出してもらえるように協力を要請する」

「成る程な、まずは兵力が無ければ数で負けるからな」

「そうだ、王都の騎士は既に牢に閉じ込められているだろうから、現時点での我々の兵力は私だけだと言っても過言ではない」

 

成る程な…てっきり私が1人で突っ込んで牢屋にいる騎士たちを解放させるとか言い出したらどうしようかと思ったが、そこまで脳筋では無かったようだ。

 

「その兵力はどれくらい確保できそうなんだ?」

「…分からない。基本的に貴族というのは自身の家を守る為、そういった情報を他の貴族に伝えたりはしないものなんだ」

「そうか、まあ考えてみればそうだよな、そう簡単に自分の戦力を他の貴族に提示してそれ以上の戦力で攻め込まれたらせわねーもんな」

「そうだな。流石に全ての戦力を差し出してはくれないだろうが、アイリス様が国政を担う以上何かしらの恩恵が得られると思い協力してくれる連中らがいる筈だ」

 

今回の件で王族の生き残りはアイリ1人となってしまった以上、これから王国を率いていくのはアイリとなるのは必然的だろう。まあ王兄がそのまま国を運営していくという手もあるが、正式に王を継承した訳でも国宝である聖剣を引き継いでいる訳でもないので必然的に独裁政権を行い俺たちは奴隷のように働かされるのだろう。

 

その事象が貴族間でも同じ事が起きるのは間違ってはいないのかもしれない。

既得権益の維持は長い目で見れば無能の生産を助長すると何処かの誰かが言っていたことを思い出す。

元々貴族は何かしらの功績の褒美として与えられる階位なので、初代がかなり有能だとしてもその子孫はその地位に胡座をかいて何もできずただ権利に縋って生きているだけの場合もあるのだ。

当然ダクネスのように有能…なのか?とりあえず国のためにこうして動いてくれるものもいれば、我関せずと現状維持を体として動かない連中らも居るのは変えられない事だろう。

 

そういう連中らを排斥する優性思想の考えというのは悪くは無いのかもしれないが、それにより何かしらの不和が生じてしまうのは火を見るよりも明らかだ。

ダクネスの王都奪還作戦に反対したところで利権争いで戦争が起きるのは避けられないので協力をしないとは考え辛く、むしろここで協力してアイリに媚を売っておこうという考えになるのが王道の考えだろう。

 

「それで、私はこれから他の貴族たちに声を掛けていくから、お前はその間アイリス様の護衛を頼んだぞ」

「ああ、それは構わないけどいいのか?」

「構わないさ、私も久しぶりにアイリス様が笑っている所を見たんだ、記憶を戻すまでの間位普通の女の子として過ごすのも悪くは無いだろう。悔しいがお前に懐いている事もあるしな」

 

どうやらアイリに関しての考え方は俺もダクネスも同じ様だった。

やはり同じ女性で家の後継となってしまった故の苦悩を知っているのだろう。その人の苦しみは同じ境遇のものにしか分からないというが、ダクネスとアイリは同じ苦しみを知っている様だ。

 

「そうだ、これを言い忘れていたよ。今回の作戦の立案と指揮はお前に任せようかと思っているんだ」

「え?何で俺に?指揮官なら他にも優秀な奴がいるだろ?」

「いや、現時点で使い物になる指揮官で信用できるものは既に王都に捉えられているんだ、それにお前は今までいくつもの魔王軍幹部を屠っている実績があるんだ、それを全面に出せば文句を言う奴などはいないさ」

「…まあ悪い気はしないけど、後悔すんなよ」

「ああ、その辺の責任は私も負うから安心してほしい」

「随分と太っ腹だな」

「元々今回の不祥事はダスティネス家とシンフォニア家の失態だ。その尻拭いをさせている以上責任を負うのは当たり前の話だろう?」

「まあそうだな」

 

どうやら腐った政治家の様にミスをした責任を指揮した俺に全て擦りつけて自分は高みの見物だなんて事はせずに、きちんと自身で落とし前をつけてくれるとの事だ。

てっきり冒険者という社会的立場が無い荒くれ者に責任を押し付け、その後に裏でこっそりと報酬を払う的な闇取引なんて事も考え、それはそれで面白そうだがそうはないらないらしい。

 

 

 

 

 

「それでは私はそろそろ失礼しようかな」

「早くないか?せっかくだから飯でも食っていかないないか?今日はアイリが当番だから結構美味いぞ」

「お前は王女様に…いや今はアイリだったか、私は遠慮しておくよ今のアイリス様を見ているとそのままでいいような気がしてしまうんだ」

「お前も大変だな」

「ああ、全くだ」

 

話が済みその後は軽く談笑していたのだが、3時を回ったあたりでダクネスが立ち上がり他の貴族との交渉に行くと言い始め帰り支度を始めた。

ダクネスも本当はこんな年端も行かない少女に国を負わせるのは酷だと思っているのだろう。

しかし、この世界も日本の様に残酷な面を持っており、貴族や王族など血筋に縛られ自分のやりたい事は一切行えず周囲に望まれた像を演じ、かけられた期待に答え続けなくてはいけないのだ。

 

「それではな、戦力が整い次第また声をかける。それまでアイリス様の警護をしっかり頼んだぞ」

「おう、任せろ」

「あとこれを渡しておこう」

 

玄関まで見送ると、忘れていたよとバックから紙を筒のように丸めた物を俺に渡した。

 

「何だこれは?」

「王都の構造図だ、本来であれば私とクレアしか閲覧が許されず、とても冒険者に見せてはいけない物なんだが今回は仕方が無いので例外的に見せることにした。今回の一件が終わったら返して貰うから大事にしておけよ」

「ああ、わかったよ」

 

筒状に固定している紐を解くと、不動屋でよく見るような間取り図をさらに細かくしたような感じで王都の城や城下町の構造が描かれていた。

ダスティネスとシンフォニア以外閲覧が許されない理由がよくわかる。これを悪用すれば王都へ盗みに入り放題になってしまい王都の治安は世紀末の様になってしまうだろう。

 

 

「それとあまりアイリス様に変な事を教えるなよ。お前は子供の扱いが得意そうに見えるが変な影響を受けそうで怖い」

「人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよ‼︎俺がしっかりとした大和撫子に育ててやるよ」

「やまとなで…?何だかよく分からんが頼んだぞ、それではな」

 

大和撫子なるものはこの世界には存在しないようで理解されなかったが、言わんとしている事は伝わったので多分大丈夫だろう。

 

 

 

 

しかし、これからどうするかだ。

アイリの記憶は未だに欠片すら戻っていない。手っ取り早く戻ってくれれば早いのかもしれないが、このまま全てが終わるまでは忘れていた方がいいのかもしれない。

アイリスがどの様な人格者なのかは分からないが、アイリを見ている以上は普通の女の子にしか見えない。きっと外側を頑張って取り繕って王女様を演じているだけなのだろう。

そんな女の子に無理やり記憶を戻して最前線に立たせようだなんてそんな酷な事があるだろうか?

 

ならばアイリの記憶を戻すのは全ての片が付き、アイリの王座を取り戻してからでいいだろう。

記憶が戻り家族の死を理解して悲しみに暮れても身の安全と仲間がいればじきに癒えるだろう。

 

ならば早々にこの件を片付けアイリには…

 

 

「お兄様戻りました‼︎あれ?ダクネスさんはお帰りになられたのでしょうか?靴が見当たりませんが…」

「ああ、買い物頼んで悪いんだけど用事があるとかで帰っちまった」

「そうでしたか…どこか懐かしい気がする方だったので一度お話をしてみたかったのですが…あ、でもお兄様に掴みかかった事は許していませんので‼︎」

「いやそれは許してやれよ…」

 

俺の周りにいる女の子は皆クセが強いなと思いながら、俺って女難の相でも出ているのだろうかと不安になる。

 

「折角だし俺も手伝うから今日は豪勢にやるか」

「分かりました‼︎共同作業ですね」

「おうよ」

 

パキパキと腕を鳴らしアイリから買い物袋を受け取るとそのまま台所に向かった。

 

「あの…」

「どうした?」

「まだお昼過ぎなので夕食の準備には早いのでは無いでしょうか?」

「ああ、そうだまだ3時だったな…」

 

自信満々に食材を台所で広げ何を作ろうか考えていたところ、突然アイリが申し訳無さそうに何か言っていると思い耳を傾けるといきなり現実を叩きつけられた。

そうまだ時間では無いのだ。

基本的に冒険者は夜遅くに食事をとるという共通認識があるので時間帯としては七時位なのだ。

こんな早くから準備した所で最後に温め直さなくてはいけない羽目になるので、とても面倒なことになるのは目に見えている。

 

「特にやることもないし何やるか…」

 

今日の午後はダクネスが来るので何だかんだ時間が潰れると思っていたが、開けて見れば要件を伝えるだけであっさりと返ってしまい残りの時間がぽっかり開いてしまったのだ。

既に暇潰しである畑仕事も終わっているので特にやる事が無い、いつもならめぐみんの爆裂か真っ昼間から昼寝をかましてしまうのだが、アイリがいる前で流石にそんな事は出来ない。

 

ならば何をしようか?

 

「そういえばさっきの服どこで買ったんだ?ここらで見た事はなかったぞ?」

 

うーんとこれからどうしようかと思いながら考えているとふと先程の記憶がフラッシュバックしてくる。

この世界にメイドという文化があるのかどうかは分からないが、少なくともこの街にメイド喫茶なる文化は存在せず、ましてはあのような服を服やで見かけた事はなかった。

 

「あの服装ですか?あの服装はバニルさんが家の手伝いをするのであればこの服を着ると良い、この服は小僧の住んでいた国で家事を行うものが着る勝負服というものであるぞ、と仰ってこの服を私にくださったのです」

「成る程犯人はあいつだったか」

 

突然あんな格好で現れたので何かしらのアクションがあったものと思っていたが、まさかバニルが一枚噛んでいたとは流石に想像できなかった。

まあ、商品を卸すときにポロっとメイド喫茶のことを説明していたので、そのときに構想を俺の思考から読み取っていたのだろう。

 

若い女の子にあんな格好させて最こ…けしからん奴だよあいつは、しかも初お披露目のタイミングがダクネスの前というよりにもよってなぜこのタイミングとつっこみたくなる様な時だったし、もしかして奴はこうなる事を見越してアイリにあの服を渡したのだろうか?

 

ここまでして奴は俺の悪感情を啜りたいのだろうか?

それとあいつの感情の読み取れる範囲はこの辺まで及ぶのだろうか?だとしたら町中の感情筒抜けでは無いのか?

 

恐ろしい考察は後にしてエプロンドレス事件の真相は分かったので今度バニルと会ったら新しい構想を伝えてみるのも良いのかもしれない。

まあ奴の目的は俺の悪感情なので、頼めばやらないのがアイツのモットーそうなので多分やらないだろう。

 

「あの服装はお兄様的にはよくなかったでしょうか?」

「いや、別にそういう事じゃ無いんだけどな…」

 

これで気を遣って好きだと言おうものなら、これから先必ずこの発言のしっぺ返しを喰らうのは目に見えている。

 

「まあアイリが好きなら着てみるのもいいかもな」

 

とりあえず無難な返しをして話を濁す。

 

「やる事もないし、時間も中途半端だし適当な事しながら時間でも潰すか」

「分かりました‼︎」

 

 

 

 

「とは言ったものの何をやるか…とりあえずシュワシュワとラムネ菓子買ってきたけど…」

 

とりあえず商店街にて炭酸系の飲料水とメントスの様な駄菓子を購入してきたのだ。

 

「これで一体何をするのでしょうか?」

 

他にも色々買ってきたが、その2つを庭のど真ん中に置き、それを挟み込む様な形で2人立っている状況だ。

この状況下で何をするかって?

 

「これの蓋を開けてだな…」

 

シュワシュワは基本的に瓶に入っているので蓋は王冠なのだが、何処かの日本人が持ってきたのか中にはアルミの様な素材でできた回転式のキャップの物も存在する。

今回はそのアルミもどきキャップの物を買ってきたのだ。

 

「開けてそれをどうするのでしょうか?」

「まあ見てろよ」

 

物珍しそうにシュワシュワの瓶を眺めている彼女の横で、メントスもどきを中に入れ素早くキャップを捻じ込み蓋をする。

 

「わあ!急に泡立ちはじまました‼︎」

「まだまだ続くから見てろって」

 

中で泡立ち始めるシュワシュワの瓶を何処ぞのバーテンダーの如く上下に振り回す。もちろん昔なってみたいと思い色々練習した為フォームも完璧だ。

 

「そして瓶の蓋を下にして地面に叩きつける‼︎」

「きゃぁ⁉︎」

 

掛け声の通りに狙撃スキルを使用しながら瓶を地面に叩きつける。

足元にガラスが割れる様な炸裂音が響いた後、首が砕けそこから高まった圧力が外に出る様に内容物が噴き出し、ロケットのように上空に打ち上げられた。

 

「これがサイエンスの力だ‼︎」

 

俗に言うメントスコーラロケットだ。

炭酸水という物は水に炭酸が物理的に溶けているものをいうのだが、そこにメントスを入れると水の表面張力が解け一気に二酸化炭素が沸き上がるという話だとどこかで聞いた気がする。

昔某動画サイトで流行った物をこの世界で再現出来るかと思いやってみたが、魔法以外の基本的物理法則はこの世界でも同じなので可能だった様だ。

 

「凄いですお兄様‼︎これは一体何と言うスキルでしょうか‼︎」

「フッ…これは魔法でもスキルでも何でもない、カズマ・マジックだ」

 

シュワシュワの炭酸力が予想以上に強かったのかシュワシュワの入った瓶は俺の予想を超えた遥か上空に登っていっている。

そして副産物というか辺りに内容物が飛び散り周囲に虹ができていたので、それをバックにアイリにカッコつけるのだった。

 

 

 




ようやく長い説明回が終わりました…
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