この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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誤字脱字の訂正ありがとうございます。
書ききれなかったので中途半端になってます…


六花の少女10

あの後、色々な検証動画の真似事をしながら残った時間を過ごし、暗くなってきたのでダクネスが帰った時に言った言葉通り一緒に夕飯を調理した。

 

ダクネスは準備をすると言ったが、それがいつまで掛かるとは言ってはいなかった事からかなり時間を要する事が考えられる。

ならばそれまでに俺ができる事は何だろうか?彼女の記憶を取り戻させる事だろうか?

 

彼女の記憶は今も戻らず仕舞いだが、それでも逞しくこの世界を生き抜こうとしている。そんな彼女に記憶を取り戻させると言うのは今を生き抜こうとしている彼女への冒涜でしかないのかもしれない。

ならばこのまま記憶を戻さない事が彼女にとってはいいのだろう。

 

問題は彼女が一国の王女で唯一の生き残りということだ。

王族が一番重要視するのはその血の連続性にあると言われていると昔誰かが言っていた記憶がある。

 

国宝である聖剣など、ゲームでよくある伝説の装備アイテムのような強力な武器防具を使用するには王族の血筋の者でなければいけないという制約が存在するとダクネスが言っていた。

アイリが王位を継がないのであれば、その武防具らはそこら辺の鉄屑同然の扱いになってしまい国宝もクソもないのだ。

 

かといって記憶がないまま、あの地獄の様な政界の中に彼女を放り込んだ場合最悪ダクネスが付きっきりで補助してくれる可能性があるかもしれないが、決定権は彼女にある以上国政の決め事の際に負う責任の重さを1人で背負わなくてはいけなくなる。

 

頭が固くずる賢い貴族の連中だ、奴らはアイリを王女に仕立て上げ彼女の幼さないが故の無知に付け込んで自分らの都合の良いように法律などを作り変えるのだろう。

そして王位を継がせようと自身か倅を彼女に充てがい自分の一族を王族の中に組み込もうと考える輩も現れるかもしれない。

この戦いが10年単位で行われる戦争であったなら彼女の精神も成長し国を担うに相応しいものになるが、実際は時間がかかったとしても半年が良いところだ。

 

 

残りの猶予は俺の考えている時間よりも短いだろう。それまでに彼女をどうにかしないといけない。

一介の冒険者である俺が貴族の連中らに関与する事はほとんど不可能だろう。

魔王軍の幹部を数人屠り結果を残したが、それはあくまで冒険者として箔がついたのみで貴族の連中らからすればアスリートが世界大会で優勝した様な別の世界での話として映るのだろう。

 

「この問題をどう解決すればいいのか…」

 

いつもの如く隣で眠っているアイリに視線を移すと、何の不安も感じさせない様な安心した寝顔をこちらに向け熟睡していた。

 

「俺は…」

 

彼女の寝顔を見て俺は一つの決心をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイリ準備はいいか‼︎」

「はいお兄様‼︎」

 

アイリより早く目を覚まし、家の玄関に細工を施す。

細工の内容は簡単でダクネスが屋敷に近づけば俺に知らせが入るといったものだ。

 

原理は屋敷のドアノッカーにセンサーの様な物を設置し、マナタイトで出来たコードをかなり弄ったテレポートのスクロールに繋ぎ、インターホンの反応がテレポートのスクロールを介して俺の小型ダイナマイトに届くようになっている。

小型ダイナマイトは俺に害が出ない様に成分を少量に絞られており、爆発したとしても音が鳴るくらいになっており、それを強化ガラスの様な素材で出来た小瓶に詰めペンダントにしてぶら下げる。

これで誰かが屋敷を尋ねれば分かる仕組みになっており、ペンダントの爆薬が爆発したらテレポートのスクロールで屋敷に飛んで行くという算段だ。

 

最悪2人が帰って来るかもしれないが、あの2人にとって屋敷は我が家なのでわざわざドアノッカーを鳴らさないだろう。

 

「しばらくこっちには帰ってこないからな、何か思い残すことがあったら今のうちにやっておくんだぞ‼︎」

「ありません大丈夫ですお兄様‼︎」

 

何処ぞの軍隊の如く大声でよくあるフィールド移動するイベント前の様なやりとりする。

 

「それじゃ行くぞ‼︎」

「おー‼︎」

 

アイリに冒険者用の装備を着させ、俺はゆんゆんの初旅行を彷彿とさせる程の荷物を背負いながら馬車の停留場に向かう。

王都が無茶苦茶な状況になっている筈だが、こんな片田舎の街には関係のない事なのかアクセルの街並みはいつもの様にゆったりとしていた。

 

「それで今日はどの様な事をされるのでしょうか?」

「ああ、それはだな」

 

急いで準備したため何をするのかアイリに説明をする事を忘れていた事に気づく。

流石に何をするのか伝えられない状態でここまで連れてこられたら不安だろうと思い彼女の方を向くと、その表情は俺の予想していた物とは違い何故かノリノリのウキウキ状態だった。

 

「これからアイリにはサバイバル生活を送って貰います」

「な、何だって⁉︎」

 

何処ぞのデスゲームの導入の如くこれからやる事を説明すると、アイリはアイリで何処ぞのサイエンス漫画の様な表情をしながらそれに答えた。

どうやらアイリも俺の知らない間に成長したようだ。

 

「それでサバイバル生活とは一体どの様な事をするのでしょうか?」

「簡単に言えばキャンプ生活かな?一応道具は持ってきたけど基本は自給自足のキツイ生活だよ」

 

昔クリスにさせられたどの環境でも生きて行ける様にしようか、というぶっ飛んだ理由で山に置いて行かれた事があるが流石に女の子1人にそれは重たいので俺も出来る限りサポートする事にする。

 

「分かりました…お兄様の期待に何処まで応えられるかは分かりませんが、この不詳アイリ全力で遂行するつもりで行います‼︎」

「おぉ…」

 

ビシッと敬礼しながら高らかに宣言されると、何だかこっちが悪いことをしているみたいで憚れるのだがそれは気にしない事にしておく。

 

 

 

 

 

「着いたぞ」

 

馬車に揺られること数時間、馬車自体を貸し切っていたので特に何かトラブルが起こる事はなくいつもと比べれば呆気なく目的地へと着いたのだ。

 

「…ふぁ…もう着いたのですか?」

「ああ」

 

出発した時間が早かった為か、途中でウトウトし始めたので着くまで寝ているように言ったのでぐっすりと眠っていたようだ。

 

「ここは…何処かの山なのでしょうか?」

「まあそうなるな、俺には少し因縁が強すぎるけど既に終わった事だし特に危険はないと思うんだよね」

 

眠っているアイリを起こし、眠気覚ましに水を飲ませ荷物をまとめて降りるように指示を出すとやはり力が強いのか全ての荷物を背負いながら馬車を降りて行き、降りたところであたり一面木で覆われていたことに気づき唖然とする。

 

この場所に因縁があると言ったが、ここはキールのダンジョンがある山であのバニルとであったそれはそれは恐ろしい場所である。

モンスターのレベルはそこそこあるが、アイリくらいのレベルがあれば多分問題はないだろう。

 

「それでこれからここでキャンプをするんですね‼︎」

「まあ間違っちゃいなんだけどな…」

 

このような場所に来てはしゃぐ光景を見るとまるで小学校の遠足だなと思ってしまう。

やはりアイリもまだまだ子供なのだろう。俺だったらどうやってアクセルの街に帰えれるかを考えてしまう。

 

「まずは開けたところを探すぞ」

「はい、分かりました」

 

流石にアイリを置いて自分はしらばっくれるなんて鬼畜な事はしないので、キールのダンジョン周辺に案内する。

あのダンジョン周辺はバニルが自身のダンジョンにしようとモンスターを駆逐した為、今は何も近寄らなくなったと前にクリスが言っていたので、そこを拠点にすればある程度の安全は確保できるだろう。

 

「案外早く着いたな…」

「案外って事は昔は時間が掛かったのですか?」

「ああ、昔はもっと入り組んでいて進み辛かったんだけど、今は一本道になってるから簡単なんだよね…」

 

何だかんだバニル事件の際に木を引っこ抜いたりして丸太を作ったりなど、色々と木々を引っこ抜いたせいで森にムラができてしまっていたのでキールのダンジョンまでの道のりの木を引き抜き植林したと言っていたことも思い出した。

 

意外に行政が機能しているんだなと思いながら周囲を観察する。

日本では予算が減らないように各省が余った資金を減らさないように下らないポスターなどを印刷して予算を消費していると言っていたが、この世界ではそのような無駄遣いをせずに機能しているようだ。

まあアクセルの街は初心者冒険者が集まる場所なので基本的に税金を取られることは無いのだが…

これは初心者が故にまだ生活が安定していない事を考慮したとの事だが、他所に行くと報酬から幾らか天引きされると言っていた。

 

「よし、ここでテントを張るぞ」

「テント…とは何でしょうか?」

「マジか」

 

どうやらアイリはテントという概念を知らないようだ。

流石王都の王女様だと言いたいところだが、そもそもある程度の生活に必要な記憶意外がが吹っ飛んでいるので知らなくて当然だろうし、仮に記憶があっても問題ない事だろう。

 

「テントっていうのはだな…まあいいや取り敢えず組み立てるから手伝ってくれ‼︎」

「分かりました‼︎」

 

テントに関してどう説明していいのかよく分からなかったので、取り敢えず組み立て見せた方が良いと判断して行動に移す。

流石に女の子と同じテントに入って寝るのは不味いと最初は思ったが、いつも布団に勝手に入って来るのでなんか行けそうだなと勝手に判断して強行する事にした。

 

「この骨組みを組み立てて周囲に布を張るんだ」

「成る程」

「それでこのペグって言うピンを端の輪っかを通しながら地面に刺して固定すれば完成だ」

「分かりました‼︎こうですね」

 

組み立ては流石に危ないので俺が骨組みを合わせ防水シートを張り合わせる。

アイリはその光景を見て手持ち無沙汰でウズウズとしていたのでペグを地面に刺す手伝いをさせる。何でもかんでも俺がしてしまったら今回のサバイバル生活の意味がなくなってしまうのだ。

 

「流石に素手で刺すのはキツイからトンカチを…えぇ…」

「地盤が緩いのでしょうか?簡単に刺さりますね」

 

流石に道具無しでは可哀想なのでトンカチをバックから取り出し渡そうとしたが、彼女はそんなものはお構いなしとペグを掴みそのまま地面深くまで自力で差し込んでいたのだ。

彼女は地面が柔らかいと言っていたが、足で地面を踏みしめている感じからそんなに柔らかい方ではないと思うし、むしろ固い方だと思う。

 

「何だろうな…」

「お兄様次は何をするのでしょうか‼︎」

 

困難な状況を与えて打破する的な感じにしようとしたが、そんな俺の考えを嘲笑う様に彼女はそれを軽々しくこなしてしまうのだ。

まあ、何でもできるのは良い事だろう。

 

「次は火の確保だな」

「火ですか?それでしたらお兄様が魔法を使えば解決ではないでしょうか?」

「いや、今回は魔法禁止だ。もちろんスキルもな…ってアイリはスキル使えないんだった。まあ俺はあくまで手伝いって事で」

「成る程そう言う趣旨なのですね」

「まあそうなるな」

 

やはり賢いのか俺の発言で俺がやろうとしている事の大凡を見抜かれてしまったようだ。

 

今回の目的は簡単で、このサバイバル生活を持って彼女に出来るだけ知識や経験を教え込もうと思う。

記憶が戻ろうと戻らなかろうと、彼女は一国の王女であることから逃げられない運命にあるので、せめてその状況下でもある程度は立ち回れるようにしてあげようと画策しているのだ。

まあ当人からしたら大きなお世話かも知れないが、俺と出会ったのも何かの縁なので王都では教わらない様な事や人間関係の汚い立ち回りなどについても教えてやろうかと思う。

 

「まずは薪を集めようか、時期的に枝はそんなに落ちてないから木を数本位切り倒してそれを分割しよう」

「分かりました、けどどの木を切ればよろしいのでしょう?」

「…んーそうだな、そこら辺の木でいいかもな」

 

整備されている以上何処かの街か村が管理しているので勝手に切り倒してしまっては申し訳ないのだが、切り株に隣の木の枝を接木して置けば誤魔化せるだろう。

成功するかどうかはまだ分からないが、何もしないよりかはマシだと何とか許して欲しい。

 

「では近くの木を切り倒しますね」

 

切りやすい様に斧を出してやろうかと思ったが、流石の俺も馬鹿では無いのでここはあえて何もしない事にする。

何でもかんでもこちらが準備すればいいわけではないのだ。

 

「てや‼︎」

 

腕を組み、何処ぞの強豪校の監督の様な趣でアイリを眺めていると、彼女は居合斬りの構えを取り一歩踏み出したかと思うと一瞬の間に目の前の木を切り倒した。

そして、木が倒れ切る前にもう一歩足を踏み出し残りに木々を細かく薪の大きさに切り刻んでいった。

 

何という職人技だろうか?

これなら俺が教えることなんて無いんじゃないかと思うほどである。

 

「出来ました‼︎これで大丈夫でしょうか?」

「ああ、完璧だよ」

 

両手に薪を抱えながら喜ぶ彼女に親指を立てながら対応する。

これには木コリもびっくりだろう。

 

「これを集めて昼食の時と夜になったら火をつけて燃料にするんだ…ってこれはもう前に教えたな」

 

そう言えば薬草取りの時に色々教えていた事を思い出す。何処か分かった様な雰囲気を出していたのでおかしいと思っていたが、単に俺が二度手間を踏んでいただけのようだ。

 

「今度は何をするんでしょうか?」

 

薪をテントの周りに並べた後次のお題を出せと言わんばかりにアイリが聞いてくる。

その光景を見て何だかゲームのチュートリアルをしている様な気分になるが、よくよく考えたら殆ど同じだなと思いこれ以上考えるのを止める。

 

 

 

 

「よし、次は昼食の確保だな。まだ明るいし火を焚くのはまた後にしよう」

「それでお昼ご飯は何になさるのでしょうか?」

「それは簡単さ」

 

アイリに説明するよりも早くカバンの中から弓矢やなど様々な道具を放り出しながら彼女の前に並べる。

 

「これは…沢山の道具を並べて…もしやこれで動物を狩れということでしょうか?」

「EXACTLY‼︎」

「え?何でしょうか?」

「スマン…その通りだ」

 

ジェネレーションギャップを超えてワールドギャップをくらい若干心にダメージを負ったが、そんな事はいいだろう。そもそも日本でも最近通じる奴もいなかったし。

 

「とにかくその得物で動物ないしモンスターを狩るんだよ」

「成る程、剣を使っては行けないのですね‼︎」

「いや、剣を使っても良いけどそう簡単に捕まえられると思わない方がいいぜ」

 

アイリは自給自足という新しい状況下に喜んでいるが、楽しいのはここまでなのだ。

これから彼女が相手をするのは人間でもモンスターでも無く自然という大いなる大地なのだ。

 

「取り敢えず俺はここに居るから何でも狩ってきな。何でもとはいかないけどある程度なら食べられる様に調理するから」

「分かりました‼︎何かを捕まえ次第お兄様の前にお持ちしますね‼︎」

「おうよ」

 

そう言いながらアイリは取り敢えず初日はこの剣で行きますねと言いながら俺の用意した道具に手を着けずに森の中に入っていった。

流石に女の子1人を山に入れるのは危険では無いのかと思うが、彼女の事なので大丈夫だろう。

 

最悪王兄の関係者が現れる事も考えられるのでこの山一体に感知スキルを発動させているが、今の所不自然な気配は一切感じられない。

しかし何も起きないとは考えられないので念のため色々と周囲に細工を施しておく。

 

 

しかし、ダクネスの徴兵は一体いつまでかかるのだろうか?胸元のペンダントを見るが反応する気配はいまだにない。

もしかしたら壊れているんじゃないのかと思うが、屋敷を出る前に試した実験は3回中3回とも全て成功しているのを確認しているのでその辺りの問題はないだろう。

万が一に備えテレポートのスクロールも買いだめしてあるし、たまに様子を見に行ってもいいだろう。

 

とにかく今は自分にできる事をしようと思い色々と細工をしていると、遠くで何か大きな物が木にぶつかった様な音が響き鳥の羽ばたきが聞こえた。

もしかして大きな猪でもでたのだろうか?

 

少し不安になって感知スキルをアイリ周辺で絞ってみると特に問題は見られなかった。

 

 

 

 

 

「お…お兄様…」

「おぉ…って随分派手にやらかしたな…」

 

大きな音が響いた後しばらくしてボロボロのアイリが大きな木の枝を杖にしながらテントの方へ戻っていた。

 

「猪を追っていたらそのまま木に激突してしました…」

「やっぱりそうだったか…」

 

取り敢えず回復魔法を彼女に浴びせながら事情を探る。

 

「お兄様をビックリさせようと前程の大きさはありませんが猪を狙って追いかけていたのですが、それに気を囚われて木に衝突してしまいました…」

「成る程な…まあ最初はそんなもんだよ」

 

デコに出来たタンコブを回復魔法で治すと、重たい腰を持ち上げアイリに向き合う。

 

「最初で自然の厳しさも分かった事だし、これからこのカズマ様が自然との向き合い方を教えてやろう」

「おぉー!」

 

パチパチ待ってましたー‼︎と言わんばかりに拍手する彼女を横目にカバンの中から道具を幾つか取り出す。

あのまま素手と剣で動物を狩ってきたらどうしようかと思ったが、何とか腕の見せ所ができたようだ。

 

「まずは森に入って草むらに隠れるだろ?」

「はい…」

 

流石に潜伏スキルを使うのはフェアではないのでここはあえて使わず、素の状態で草むらに身を隠す。

 

そのまま数分が経つと一頭のウサギが現れる。

基本的にうさぎは日本では愛玩動物として扱われるが、山で暮らす人間からすれば野うさぎは肉が少ないが柔らかく癖が少ないので美味しいとされている。

狩ろうとした場合における最悪のケースは逃げられるだけであり、猪のように襲われ返り討ちに遭う様なことは無いのだ。

 

「いいかアイリ。弓を引くコツは息を止める事だ、最初はこれをしなくちゃ手元がぶれて矢の方向がズレちまうんだ」

「分かりました」

 

小声で会話しながら矢を構え弓を引き矢を放つ。

放たれた矢は俺の狙い通りの放物線を描きながら兎の額に突き刺さり、苦しむ間も無く息の根を止めた。

 

「可哀想なんて思わ無い方がいいぞ。自然界は食うか食われるかの世界だからな、躊躇した方がやられるんだ」

「成る程…参考になります」

 

流石にショックを受けていたかと思ったが、相変わらずケロッとしていたので意外にしたたかなんだなと感心する。

 

「後は付け合わせの山菜だな、これはアイリが選んでくれ」

「わ、分かりました」

 

彼女は返事をするとその辺りの草を観察しながら前採取したものと同じ物を選別し出した。

まさかあの時に採取した物を全て覚えているのだろうか?

 

「お兄様‼︎このキノコはどうでしょうか?キラキラしていて何やら良さそうな気がします‼︎」

「こ…これは」

 

アイリが嬉しそうに選んできたのは物凄く派手派手なパリピキノコだった。

まあそんな名前のキノコは無いのだが…

 

まあでも美味しい可能性もあるので鑑定スキルを使用すると、思いっきり危険な赤判定が下された。

 

「毒キノコじゃねーかよ‼︎」

「お、お兄様⁉︎」

 

そんなものをアイリが持って万が一なことがあったら危険なのですぐさま奪い取り地面に叩きつける。

いや…これはこれで使えるかもしれないと思い、再びそれを拾い上げる。

 

「その…なんだ。基本的キノコは食べない様にしよう。毒キノコを引いてしまうリスクを負うほど高い栄養が得られる訳じゃ無いんだ」

「成る程、キノコはなしという事ですね」

「ああ、植物に関してはこの本に目を通してくれ」

 

テントに戻り、カバンの中から一冊の本を彼女に渡す。

簡易的な図鑑ではあるが、基本的な情報が乗っているのでここでの生活で困ることはないだろう。

 

「昼食まで時間があるから次は罠の仕掛け方を教えるから覚悟しておけ」

「はい‼︎」

 

 

 

 

 

昼食を終え、少し昼寝をした後水浴びを終えたアイリを呼び出す。

 

「次はカズマ流姑息戦術を教えてやろう」

「あの性格が悪いと街の皆から言われていたお兄様の戦い方を教えてくださるのですか‼︎」

「…何それ褒めてるの?それとも貶してるの?と言うか街のみんながそう言っているのかよ‼︎」

 

いきなり明かされた真実に驚愕するが、こんな事で俺を動揺させようだなんて中々いい根性しているじゃないか…

 

「まず戦闘において相手が嫌がる事を思いつく限り考えるんだ」

 

昔学校の道徳の授業で先生に人の嫌がる事を進んでやりましょうと言われ、言葉通り嫌がらせをしていたら職員室に呼ばれてこっ酷く怒られたのも今ではいい思い出だ。

 

「相手の嫌がる事でしょうか?」

「ああ、まあ分からなかったら自分がされて嫌な事をすればいいんだ、試しに俺にやってみなよ」

「成る程…」

 

やはり綺麗な世界で生きて来たアイリにとって人に嫌がらせをすると言うのも無理な話だろう。

人間インプットされた事しかアウトプットできないのだ。

 

よくイケメンや美人の性格が良いのは自分が他人に優しくされているので、どうすれば相手を思いやられるかを身を持って知っているのだ。なので他人に優しくされている為心に余裕が出来、別の他人に優しくする事ができるのだ。

逆にイケメンとや美女とは正反対な人間は他人に優しくされる事があまりなく、むしろ蔑まされる事が多いので、心に余裕がなく尚且つ優しくされた経験がないので優しさという物を理解できずに別の他人に酷い事を平気でしてしまうのだ。

 

まあ例外は色々と沢山あるんだが、基本的に人間は他人にされた事を平気で別の他人にしてしまう生き物なのだ。なので俺の性格が悪いのはみんなが俺に優しくないからであって…って何を考えているのだろうか?

 

 

…まあ話はズレてしまったが、結局のところアイリに嫌がらせをさせようだなんて事自体が間違っていたのだ。

 

「考えつかないなら…」

「お兄様のクズ‼︎お兄様なんて大っ嫌いです‼︎」

「…え?」

 

なんだって?

 

「あっ‼︎違いますお兄様‼︎これは自分がされたら嫌な事をやってみただけで決してお兄様が嫌いとかそう言った事ではないです‼︎」

「…お、おうそうか…そうだよな」

 

突然放たれた罵詈雑言にショックを受けて硬直していたら、流石に不味いと思ったのか後から訂正される。

成る程…確かに人から嫌いって言われたら嫌だよな…

 

てっきり嫌な行動をされると思って構えていたら言葉の暴力が飛んでくるとは流石の俺でも予測がつかなかった。

 

「まあいいか、これからやるのは戦闘であって言葉の応酬じゃないからな」

「分かりました‼︎」

 

先程までのやり取りは一旦忘れてアイリに木刀を差し出す。

クリスにはこれで良くボコボコにされていたが、今回はアイリをボコボコにする事はなどはせずに普通にどのくらいの実力なのか見てみたいと思ったのだ。

 

「ルールは簡単で、とにかく相手から一本取るか降参させれば勝ちだ」

「要するにお兄様と戦えばいいのですね?」

「ああ、そうなるなそれと手加減しなくてもいいからな」

「分かりました、では行きます‼︎」

 

キリッと表情をかえると物凄い速度でこちらに向かって踏み込んでくる。

やはり王族なだけあってステータスは今まで出会った冒険者の中でもトップクラスだ。

 

しかし、ここで負ければ俺の威厳に関わるので何としても負ける訳にはいかない。

 

アイリの戦術は片手剣スキルで使われる動きにどこかの流派だろうか、少し変わったテイストを混ぜた少し特殊な動きをしながら踏み込んでは斬りかかる動きをしてくる。

記憶がなので若干のぎこちなさがあるが、それでもゆんゆんを除いたこの世界のアクセルの冒険者を軽く凌駕していることは確かだ。

 

恐ろしい程の実力だが、クリスと比べればまだ可愛いほうだ。

 

アイリの剣を捌き、油断したところで彼女の手を掴かみ、そのまま後ろに投げ飛ばした。

 

「ずるいです‼︎お兄様‼︎」

 

投げ飛ばしたが俺とは違い地面に地面に叩きつけられる事は無く、綺麗に着地した後俺に文句を言う。

 

「俺が剣術勝負なんて言ったか?」

「言っては…いませんが…」

「そう言う事だ、冒険者の真似事をする以上そこにルールなんて物はないんだ。だからこれはやっちゃダメなんだなんて事は考えないで、勝つ事だけを考えて戦わなくちゃ生きていけないんだ」

 

俺の屁理屈に狼狽えるアイリに畳み掛ける。

ここは王都の稽古の様な綺麗なものではなく、泥に塗れながらそれでも生きようともがき続けなくてはいけない汚い世界なのだ。

 

「それは…」

「冒険者の真似事でもクエストを受けたんだ。悪いけどこの先に進みたいなら今までの甘い考えじゃ通用しない」

「…これが冒険者として生きると言う事ですね」

「ああ、そうだ」

 

軽く教えて終わりにしようかと思ったが、これからの事を考えるとやはり甘やかしてはいけないのだと思いあえて少し厳しめに行く事にした。

事情を知らない彼女からしたら意味のわからずいきなり理不尽な目に遭うという可哀想な展開だが、もし彼女が弱音を吐いたならそこで止めようかとも思っている。

 

「分かりました…正直お兄様の考えはよく分かりませんがお兄様がそうしろと言うのならそれについて行くまでです‼︎」

 

全く恐ろしい王女だよ、と感心しながら全力でアイリに姑息な技を身を持って教える。

 

 

 

その後軽く擦り傷をしてしまったアイリを治療して罠に掛かった動物を調理して夕食となった。

意外にもアイリの根性は凄く、あれだけやっても終わった今となっては何事もなかったかのようにケロっとしながら妹ムーブをかましていた。

 

「食事が終わったら次は勉強の時間だ」

「勉強ですか?」

「ああ、そうだ。これから俺とこのボードゲームで戦ってもらう」

 

夕食を済ませた所で彼女の前に昔ゆんゆんと遊んだ戦争を題材にしたボードゲームを出す。

ゲーム自体は簡単だが、ゆんゆんが一人遊びを極めやる事が無くなり、他人と遊ぶ事を考え辿り着いたルールが中々に実戦に向いていたので、さらにそこに俺が手を加え完成した究極の軍師ゲームなのだ。

 

「実際に戦う事を想定して軍を操るゲームなのですね」

「そうそう、けど油断するなよ。俺は勝ち過ぎて2人から2度とカズマとこのゲームをするもんですかと言われるくらい強いからな」

「成る程、お兄様が得意そうなゲームだと思いますが、負ける訳には行きません‼︎」

 

2人でボードゲームの箱を展開しながら長い夜が始まった。




アイリ「成る程…」

次回から話が動きます…
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