この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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誤字脱字の訂正ありがとうございます。


六花の少女12

「この生活も遂に終わりか…」

 

楽しかった夏休みのキャンプの様な山生活も終了の条件を達成した事により終焉の兆しを見せる。

ペンダントにしていた感知装置の中身が爆ぜ、何者かが屋敷に訪問してきた事を知らたのだ。

遂にダクネスが準備を終えたのだろう。狙った様なタイミングですごく怪しいが、今回の件に対しては多分ただの偶然だろう。

 

「お兄様?どうかされましたか?」

「ん?ああ、そうだな。そろそろここの生活も終わりにして屋敷に戻るぞ」

 

いつかは来ると思っていたが、心の何処かで来て欲しく無かったのだろう。すぐに撤収出が出来る様に準備していなかったので慌てて準備していると水浴びを終えたアイリスが髪を拭きながらテントの方へと戻ってきた。

もしかしたらこのままその時が来ないんじゃ無いかと思っていたが、こうなってしまった以上なる様になると流れに身を任せた方がいいだろう。

 

「お兄様にしてはいきなりですね?」

「ああ、少し予定が変わってな」

 

これから起こる事をどう説明したらいいだろうかと考えながらテントを折り畳みながら考えに耽る。

 

「それでこの毒キノココレクションはどうしますか?」

 

片付けをしているとどうでもいいものに目がいってしまい中々作業が進まないというイベントが起きるというが、やはりこの世界でもそれは変わらないようだ。

 

「ああ…そういえば何かに使えるなとは思ったんだけどな…」

 

狩ってきた動物の肉に毒キノコを仕込み大型動物を狩ろうかと思ったのだが、結局その動物を食べるの俺たちなので生体濃縮の理屈で俺たちが酷い目に遭うんじゃ無いかと思い、何だかんだ手を付けていなかった毒キノコがアイリによって発掘されてしまった。

 

「結局使いませんでしたね…これは捨ててしまいますか?」

「いや、何かに使えそうだから袋に詰めておいてくれ。入り切らないやつは捨てていいからさ」

 

俗にいう勿体無いの精神というやつだろうか、手元にあった所でどうでもいいものをいざ手放すとなると後ろ髪を引かれるように気になってしまうというアレだ。

片付けられない人間に多いと言われている考えというか思想だが、こればっかりはどうにもできない。

ただただ断捨離大好きマンと遭遇しない様にコソコソと生きていくしか無いのだ。

 

「分かりました」

 

アイリは優柔不断な俺の判断に文句一つ言わずに毒キノコを袋に詰め始めていった。

これをウィズの元に持っていけば何かしらのポーションに調合してくれるとか、そういった都合のいい展開にならないだろうか?

よく毒を薄めた物が薬になる事もあると聞くがこのキノコにもその可能性を秘めているとかあったりするかもしれない。

 

「何とか全部入り切りました…」

「こっちも全ての道具をしまい終わったな。後は帰るだけだけどやり残したこととかないか?」

「はい、特にそう言った事はありません」

「オッケー」

 

行きは馬車で来たが、帰りはテレポートのスクロールで帰れば一瞬なので何か思い出した時には全てが間に合わなくなってしまうのだ。

この世界は科学が発達していないので文明が異常に低いが魔法があるせいで中途半端に日本よりも便利なところが目立つ。両者共に合わせれば最高なのだが、互いが相反しているからこそバランスが保たれているのだろう。

 

重たい鞄を背負い、アイリと手を繋ぎテレポートのスクロールを発動させる。

訪問者の正体がゆんゆんだったら開幕殺されかねないが、あの2人が戦線に参加してくれればこれ以上ない程に心強いだろう。

 

スクロールから放たれた光が俺たちの体を包み、世界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程、反応がなくて留守かと思っていたがこういう仕組みだったのだな」

「ああ、待たせたな…」

「いや、構わないが」

 

テレポートの光が消えると、景色が屋敷の前へと切り替わりいつもの光景とダクネスが視界に映った。

やはり訪問者の正体はダクネスだったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで準備は済んだのか?」

 

人通りの少ない街の外れとはいえ流石に外でこの様な話をするわけにもいかず、アイリを部屋で寝かせた後ダクネスを前回と同じラウンジのソファーに案内する。

テーブルに関しては破壊されてそのままなので、代わりに少し小さいものを他の部屋から持ってきて代用する。

 

「それに関してはおおよその人数を確保することができた」

「おお、さすがだな」

「ああ、貴族を説得するのにはかなり骨を折らされたがな…」

 

ふう…と今まで行ってきた事を思い出して体に力が入ってしまっていたらしくため息をしながら力を抜く。

貴族といえば自身の利権ばかり優先するイメージが強いが、もしもこの世界の貴族がその通りな感じであったのならその心労は計り知れないだろう。

 

「その兵は街の外に待機しているのか?それともダクネスの家の方に集まっているのか?」

 

この場に来ているのはダクネス1人なのでその兵は何処にいるのだろうが、感知スキルでは周辺に大人数集まっている気配が感じられない。

ダクネスの事だから私1人で全兵力を賄おうなんて事はふざけたら言うかもしれないだろうが、この状況下で言うほど馬鹿ではないだろう。

 

「いや、兵は既に向かわせているんだ」

「いいのか?こんなに早く向かわせて、時間はないのは分かるけどさ…」

 

いきなり進軍させる事は構わないが、作戦も何もない状況下でいきなり兵を動かすのは時期尚早ではないだろうか?

不用意に兵を動かし感づかれてしまえば相手に反撃させる準備の時間を与えかねない。

 

「ああ、特に問題はない。向かったとは言っても目的地に近い領主の街に向かわせているだけで城に向かっている訳ではないんだ」

「成る程な…そこで全兵力を揃えようって算段か」

「そうなるな、色々な場所から兵を集める以上一度何処かで集合させないと統率が取れないからな」

 

流石にそこまで考えなしでは無かった様で安心する。

拠点が遠ければ遠いほど移動距離が長く伝令班に見つかる可能性が高い。何処の領主の街に行くかは分からないが一つの街に兵を集めたら警戒されている可能がある事を頭の片隅に入れてかなくてはいけない。

 

「これからその兵を連れて城に突撃をかける感じだな」

「いや、それがそうではないんだ」

 

どうやら全ての問題が解決していたわけでは無かったようで城の侵入経路に関して話を始めようと思ったが、話を最後まで聞いてくれとダクネスに遮られる。

人間1聞いて10を知るみたいなことわざがあった様な気がするが、コミュニケーションに必要なのは10を全て聞き取ることにあるのではないかと俺は考える。

 

「何か問題でもあるのか?実は兵士の数が揃ったけど実力が伴ってないとかか?」

「そうではないんだ…城を落とす前に橋の関所を越えなくてはいけなんだ」

「それくらい越えられえるだろ?」

 

橋の関所というのは、簡単に説明すると橋を管理する場所になる。

王都は周囲を色々な川で囲まれている珍しい国なのだが、それを逆手に取って橋を作り他所の国の人間が攻めてきた時にそれを越えないように2分割された橋を持ち上げ外部の人間が侵入してこない様にする物である。

ダクネスの考えていることがその程度ならわざわざ俺に言うまででもないだろう事はわかるが、そこで俺に言ったのであったなら何かしらの意味があるのだろう。

 

「…もしかしてそこの関所を既に押さえられていた感じか」

「ああ、御名答だよ。私達が城の状況を知りたくて偵察を向かわせていたんだが、けっきょくここで皆足止めを食らってどうしようもない状況らしい」

「成る程な…奴らも警戒して王都自体に入れる人間を絞っているわけだ」

 

先手を打たれたというか、普通の人間だったらそうするのが普通だろう。

やはりゲームのように戦力が揃ったらそこから全面戦争というわけにはいかず、本格的な戦いになる前にいくつかの戦いを挟まなくてはいけない様だ。

 

「それでその街から関所までの距離はどれくらいあるんだ?」

「数字で説明するとややこしくなるから省くが、そこまでは遠い距離ではないはずだ。ちょうど地図を持ってきたから見てくれ」

 

百聞は一見にしかずと少し意味合いが違うんじゃないかと思いながらダクネスが懐から出した地図を広げる。

地図はスケールによって実際の幅と距離感が変わるが、それでも関所からの距離はそれほど遠くは無かった。

 

「成る程な、この関所を通ったら次は王都になる感じか?」

「ああ、そうなるな。だがここを突破した時点で相手には気づかれると思った方がいいかもしれない」

「だよな…となると王都の警戒もだいぶ上がるって感じか、けど都の住民は王兄が成り代わって居る事を知らないんだろ?」

「現状ではな、だがいつまでそのままでいるかは流石の私でも読めん。多分だが態勢が整いしだい政権交代を発表する腹づもりだろう」

 

政権交代が発表され次第王都自体の体制が変わってしまうので、警戒網の抜け穴など隙が少なくなってしまう事は避けられないだろう。

それの期限がわからないうちは時期を読むなんて高等な事は考えず、手を打てるうちに打っておいた方が良いのだ。

 

「大体の事は分かったけどその兵はいつ頃全員揃うんだ?」

「すまない、それに関しては私にも計りかねているんだ。ただ今日の夜には王都に侵攻するのに充分な兵数が集まる事になっている筈だ」

「夜か…それまでに準備を済ませておけってことか?」

「そうだ。それでこれが関所の見取り図だ」

 

既に敷かれていた地図の上に関所の見取り図を上から重ねる様に広げる。

 

「何でもあるんだな」

 

まるでゲームのまとめサイトかよ、と突っ込みたくなったが多分ダクネスには通じないだろうと思い喉元で留めておく。

ここまでお膳立て出来るのであれば俺なんか必要ないだろうと思うのだが、逆にこれだけ揃っても俺に頼らなければいけないほど切羽詰まってるのだろう。

信用され頼られるは嬉しい事だが、そのプレッシャーを背負わされる身にもなってほしいものだ。

 

「ああ、これでも一応私はダスティネス家の当主だからな。これくらいの資料は集めようと思えばいくらでも集められるんだ」

「それは頼もしいな」

 

やはり権力は素晴らしいというか便利な力だ。当然それに見合った不自由があるのだが、得られる利権を考えればそんなもの微々たるものだろう。

まあ、それは俺が男だから思うのであって女性がどう思うかは分からないが。

実際アイリに関しての悩みはそれがメインなので、全然微々たる物でないと先程の思想と矛盾するという意味分からない事になるな…

 

「それで、その街に行く方法はどうすればいいんだ?」

 

結局の所その街とやらに行かなくては兵と合流する事は叶わない。この世界にもZOOMとかあれば安全な所から指示を出せるかもしれないが、この世界にそんなニッチでピンポイントな魔法がある訳はないだろう。

 

「それに関してはこれから家の馬車で向かう事になっているから気にしないでほしい」

「時間はどれ位なんだ?」

「昼頃を予定している感じだな。ある程度までずらせるがどうする?」

「昼頃なら特に問題ないかな、それまでに準備をしておくよ。それか何かやっておくべき事みたいなものはあるのか?」

「特にはないな。しばらく家を空ける事になるだろうからその準備をしていてくれ」

「分かったよ」

 

流石に今から行くぞとなると上で寝ているアイリを起こす必要が出てくるので断ろうと思ったが、昼頃であるなら問題ないだろう。

俺もあれから寝ていないので何処かで仮眠を取りたかった事もあるので丁度いい時間帯だ。

 

「その地図もお前に託すから大切に扱ってくれよ。あと王都の地図はちゃんと持っているか?」

「ああ、それならここにあるよ」

 

流石に国家機密なので心配なのだろう。事ある毎にその所在を確認してくるが流石の俺もそんな物をどうにかしようなんてリスクの高いことはせずに、いかに記憶に叩き込んでこの後のことに有効活用しようと必死なのだ。

 

「偽物にすり替えた様子は…ない様だな」

「この後に及んで疑うなよ⁉︎」

「すまんすまん、ついいつもの癖でな。本気で疑っているわけではないんだ」

「まあいいけどよ、これもまだ俺が持っていていいのか?」

「ああ、構わない、むしろ何度も見て頭に頭に叩き込んでほしい」

「当たり前だろ?」

 

ここまで話を進めておいて疑うとは何事かと思ったが、今までの非人道的な行動を考えると疑われてもしょうがないんじゃないかと思えてきたのでそれ以上の追求は避ける事にした。

 

「それで話は変わるんだが、アイリス様の状況はどんな感じだ?先程会った感じでは戻った様子では無かった様だが」

「そうだな、色々経験させれば戻るかと思ったけど何だかんだ結局戻ることは無かったよ」

「そうか…まあこの状況下で戻ったところで混乱されるだけだろう、今はそれで良いのかもしれないな」

 

やはり自身の主君の記憶が戻らない事は、今まで自分が忠誠を誓って行ってきた行動全てを否定される事になる。

ダクネス自身アイリの事を考えれば記憶が戻らない方がいいだろうと思って居るのだろうが、ダスティネス家当主としては記憶を取り戻して貰わなくては自身の家や立場が危うくなってしまうのだろう。

ダクネスはダクネスで辛い立場に立たされて居る事はわかる。

 

俺も何だかんだアイリが記憶を取り戻さなくてはこの国が傾いてしまう事は承知して居るのだ。

 

「ああ、そうかもしれないな。それでアイリスの記憶が戻らなかったらダクネスはどうするつもりなんだ?」

 

これはこの作戦を遂行する上で必ず何処かで聞こうと思っていた質問になる。

これの答えによってはここまで積み重ねてきた信頼と時間全てを切り捨てででもアイリを何処かに逃すと決意する程である。

 

「アイリス様の記憶が戻られなかった場合か…そんな事は考えたくは無かったが、そうだな…私とクレアの2人でサポートしながら王座についてもらう事になるな」

「そうなるとお前はもう冒険者としてこの街に来る事ができなくなるがいいのか?」

「ああ、何の記憶もない王女様を王にするのだ、その位の覚悟はできているとも」

「そうか…」

 

ダスティネス家のダクネスとシンフォニア家のクレアの2人でサポートすれば記憶がないアイリスでも国政を回せると思っているのだろう。

まあ分家の人間をアイリが成人するまで王に仕立てあげるという案もがあるが、アイリと交代する時になっていざこざになるのが目に見えているのでこれが一番いい考えなのだろう。

しかし、今はそれで良いのかもしれないが、自身がアイリの無知に漬け込んで国政の舵を間接的に操れると知ればいつか自身の関係者が有利な方向に舵を切ってしまう可能性がある。

仮に悪意がなかったとしても無意識のうちにそのようにアイリに助言をしてしまう可能性もある。人間の誠実さなど所詮はその程度の薄っぺらい物なのだ。

 

特に上下関係はそんな事が多く。今までの信頼や敬いは自身より上だという所から出ている事が多く。いざ自分がその立場の人間をどうにか出来ると知れば徐々に徐々にと自身の欲望を抑えられなくなってしまうのだ。

普通の人間なら自身が幸せなら良いと思うかも知れないが、子供ができて仕舞えばその子供の為という大義名分を得てしまい自分の行いを正義の名のもとに行うのでタチが悪い。

俺はそんな光景を嫌と言うほど見てきたのだ。

 

「そこまで考えているんだな」

「当たり前だろ、なんて言ったってアイリス様は私が小さい時から一緒に過ごしてきたなかだからな、少なからず愛着が湧く言うものだ」

 

フッと昔を思い出すような笑みを浮かべながら恥ずかしそうに思い出話を始める。

この状況ではダクネスに賛成の様に振る舞わなくてはいけないが、ことの決着がつくまでに記憶が戻ろなかった時の事を考えておかなくてはいけない。

 

 

 

 

「それではまた昼に会おう。朝早くから失礼したな」

「ああ、準備が出来次第向かうよ…って俺は何処に向かえば良いんだ?」

「ああ、すまないうっかり説明するのを忘れていた。馬車の停留場にカモフラージュされている物があるからそれに乗ってくれ、券の販売所に合言葉を伝えてくれればその馬車のチケットを貰える筈だ」

「分かったよ。それじゃダクネスも気をつけろよ」

「お前も気をつけろよ」

 

これからの行動を伝えるとダクネスは何処かへと歩いていった。

多分これからに関しての準備があるのだろう。

 

…俺も寝るか。

先程も考えていたが、やはり徹夜明けな事もあってか考えが上手くまとまらない。

 

屋敷の中に入り鍵を閉め、自身の部屋に向かう。

しばらく帰っていなかったので屋敷自体若干埃っぽいが、今はそんな事を気にしている場合では無く仮にアレルギーになったところでこの世界では回復魔法で治せるので大丈夫だろう。

 

「マジか…」

 

ここは一旦寝て体力を回復させようと思い自分の部屋に入ると既に先客がいたのか布団が少し膨らんでいた。

感知スキルではこの屋敷の気配は俺を含めて2人と一体?なので誰が居るかなんてことは考えるまでも無く。

 

掛け布団を捲るとそこにはいつもの様にアイリが眠って居たのだ。

俺の布団は他の部屋よりも良いものを使っているのでそこに目をつけたのだろうか?それとも自分の部屋の布団はしばらく使って居なかったので俺の布団よりも埃ぽかったのだろうか真相は藪の中だが、もはや日常と化した光景なので俺も容赦なくその布団に体を潜り込ませる。

 

なんか負けた様な気がしなくもないが、俺自身何も感じなくなってしまったのでもうどうでも良いだろう。

目を瞑り意識の深層へと思考を落していった。

 

 

 

 

 

「…ふぁーあ」

 

目を覚ますと時間は昼少し前になっていた。

 

「起きろアイリ、また出かけるぞ」

「…?」

 

半分微睡んでいたのか俺が起こそうと揺すると彼女は少し眠そうにしていたがすんなりと目を覚まし目を擦りながら眠そうにこちらを向いた。

 

「何でしょうかお兄様?」

「これから暫く出かける事になった。今度は少し血生臭い事になるが大丈夫か?」

「またお泊まりですか?」

「ああ」

 

流石のアイリも山籠りの生活の疲れが残っているのか少し辛そうに言っていたが、それでも好奇心が勝っているのか内心は嬉しそうだった。

しかし、今回はそんな面白いわけではなく正真正銘の戦争なのだ。

 

「これから向かうのは戦争になる。人が目の前で殺される殺伐とした世界になるがそれでも大丈夫か?」

 

アイリをバニルの所に預けるという選択肢もある。

アイリがただの迷子でこの戦いとは無関係の少女であったならそれが一番いい方法なのだが、この戦いは言わばアイリの為の戦いになる。

その戦いを安全な場所で何も知らずにただ過ごす事はこれから命を落とす人達に対しての冒涜でしかない。

辛い戦いになるかも知れないが、これが彼女が出来る唯一の贖罪だろう。

 

「それはいったいどう言う事でしょうか?状況がよく分からないのですが…」

「そうだった、アイリには何も説明してなかったんだった。いいかこれから話すことは誰にも言っちゃいけないぞ」

「え?あ、はい」

 

「まず最初に王都って言えば分かるか?この国を管理している王様の居る国があるんだけどその国が乗っ取られたんだ」

「そうでしたか…と言うことはお兄様はその王国を取り戻しに行かれるのですね‼︎」

 

子供からしたら漫画の世界の内容が現実になったと言う胸が躍ると言う展開だろう。俺自身この世界に来たてであったらそう思う。

 

「そうなるな。それで俺はこれからその王都に攻め込む為に関所という場所を落としに行かないといけないんだ」

「そうなんですか…それで私はここでお留守番ですか?」

「いや、アイリには来てもらう事になっている」

「本当ですか‼︎」

「ああ、その代わりあんまり危険な事はさせられないし基本的に俺と一緒に行動してもらうけど約束できるか?」

「はい‼︎」

 

危険な戦いだかからこそ自分は連れて行ってもらえないのだろうと思って居た様だが、すんなりと連れて行ってもらえることになったので喜んでくれている様だ…。

指揮官としての采配・アイリの警護、この二つの行為を同時に遂行しないといけないとなると中々に骨が折れるだろう。

 

その後俺達は再び泊まりがけの準備をする事になったのだが、流石に山に持っていった服は全て擦れてきてしまっていたので服を買いに商店街に向かい新しく何着か購入した。

その後昼食を終えるとそのまま目的地の馬車停留所まで向かう。

 

「荷物は大丈夫か?一応テレポートを使える奴が居るらしいけどしょうもない理由で使わせてはくれないからな」

「大丈夫ですよお兄様、ちゃんとワイヤーや物凄く光るなんちゃらタイトとかも思ってきています」

「お…おう」

 

俺が山で教えた姑息な技をアイリはとても気に入った様で、最後の方は最初の時みたいな剣でタイマン張るみたいな事はせず罠や飛び道具で効率良く獲物を狩っていた。

教えたのは俺なので、指導した内容を買いたてのスポンジの如く吸収して自分のものにして行く様は見ていて面白かったが、流石にここまで来ると少しやりすぎたな感は否めない。

 

「大丈夫そうだしそろそろ向かうか…」

 

なんか違う方面で逞しくなったアイリを連れながら馬車の停留場へと向かう。

 

 

バスの停留場にてチケットカウンターの人に声を掛けダクネスから教わった合言葉を伝えると、普段チケットが置かれている場所とは違う所から同じような装飾が施された券を渡される。

こんな回りくどいやり方なんかせず普通に馬車の場所を教えてくれればいいと思うのだが、物事には自分の知らない裏の事情というものが存在するのでダクネスが何かしらの危険を避けるようにしているのかも知れないので、ここは何も思わずにただ指示に従っておこうかと思う。

 

「今回はどの馬車で行かれるのでしょうか?」

「そうだな…え、えぇ…」

 

券を受け取り停留所の地面に書かれている数字を目で追いながら数えること数秒、券に書かれていた場所に停まっていた馬車を見て俺の時間が止まった。

 

「どうかしましたかお兄様?馬車ですか?えーと券の通りですとあの馬車ですね‼︎うわー凄く綺麗ですね‼︎」

「何でだよ⁉︎」

 

そう、ダクネスがわざわざこんな面倒な小細工を要してまでコソコソと俺たちを街まで運ぶ作戦だったのだが、指定された場所にあったのはいかにも貴族が使いそうな煌びやかな馬車だった。

 

「行くぞアイリ‼︎文句の一つでも言わんと気が済まない‼︎」

「え、ちょっとお兄様⁉︎そんなに急ぐと転びますよ‼︎」

 

アイリの手を引っ張りながら馬車に設置された小屋の中に向かう。

 

「おらダクネス‼︎何だこの外装は‼︎喧嘩売ってんのかよ‼︎」

 

馬車の近くには使用人らしき人が警護していたが、俺の顔を見て何も言わなかったので大丈だと思いそのまま小屋の中へと突入する。

中ではダクネスが優雅に飲み物をわざわざ高そうなグラスで飲んでいたので思わず叫んでしまった。

 

「あんな面倒な二度手間踏ませて外装がこれだったら何の意味がねーじゃねえか‼︎」

「なっ‼︎これでも我が家では一番落ち着いた物を選んだのだぞ‼︎」

 

どうやらこの煌びやかな外装は抑えられていた様だ。

確かに国のナンバー2の家が庶民と同じ様なデザインの馬車を持っていたらそれはそれで他の貴族達に示しがつかないだろう。

だが、それはそれでこれはこれなのだ。

 

「まあ、そんな事は今はどうでも良いだろう。この馬車は一応お忍びで遠くに外出する時の物で色々と機能があるんだ。街を出る前に潜伏スキルを使うからデザインはあまり関係ない筈だ」

「成る程な…色々考えられているんだな」

「だろう?クリスとの約束をギリギリで思い出した時はこの馬車を全力で飛ばして来たものだ」

「いや約束を忘れるなよ」

 

出る前から目を付けられたら終わりだと思うんだけど、と言いたかったが話がややこしくなるだけなのでもう何も言わない事にした。

 

「貴方がお兄様の言っていたダクネスさんですね、兄がお世話になっています」

「あ、あぁ…ダクネスだよろしくなアイリさん…」

 

俺との話が終わった事を確認したアイリがダクネスに挨拶と自己紹介を始める。

さすが社交的だなと思ったのとお世話してるのはこっちだぞと突っ込みたくなったが、ダクネスが物凄くギクシャクして面白そうだったので辞めておいた。

 

「ダクネスさんはとても偉い貴族のお方と聞いていますが、お兄様があまり失礼な事をしていないか心配でして…」

「あ、あぁ…き、君のお兄様にはいつも助けられていてね…」

 

暴走していない時はしっかりしているいつもあのダクネスが子供相手にたじろいてやがる。

 

「おいアイリ、そろそろ馬車が動くから座らないと危険だぞ」

「はい、失礼しましたダクネスさん」

「構わないさ…」

 

ペコリと頭を下げながら後ろに下がるアイリを見てダクネスは何とも言えないような表情を浮かべながらグラスの飲み物を口に運んでているが、その手は表情以上に動揺を隠せないのかカタカタと震えていた。

 

「…揺れると危ないからこっち来いよ」

「わかりましたお兄様?」

 

なんか面白そうなので適当な理由をつけて隣に座っているアイリの肩に腕を回しこちらに引き寄せる。

 

「お前なんて事を‼︎」

 

それに釣られてかダクネスが顔を真っ赤にしながら俺の事を批判してくる。

 

「どうしたんだダクネス?俺は可愛い妹が危険な目に遭わない様にしてるだけだぞ」

「えへへへ…そんな可愛いだなんて…」

「あっいや…それはそうなのだが…」

 

なんか回した手を掴まれ引き寄せられて固定されたけど、ダクネスの焦った顔が見れて俺は満足だ。

 

 

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