「ほらアイリ口を開けろ」
「はい‼︎」
「ぐぬぬ…」
物凄い形相のダクネスを前にして全力でアイリを甘やかす。
これが愉悦というものだろうか?
昔気になっていた幼馴染がそこら辺の奴と仲良くしていた時の苦しみで脳が破壊されそうになったが、いざ自分がする側になったらそれはそれで悪くはない感覚だ。
「何だ?さっきからこっちばかり見て羨ましいのか?」
「何を言っているんだおま…いや、これはこれで焦らしプレイという奴なのか…」
悔しさの様な感情を必死に外に出さない様に荒ぶっていたダクネスが急に顎に手を置きながら悟りを開き始めたので、流石に不味いと思い煽る事をやめる事にする。
「いいかアイリ」
「何でしょうか?」
「この馬車には沢山のお菓子や食べ物が出されているだろう?」
「そうですね?」
流石は天下のダスティネス家の馬車。
俺達がいつも乗っている馬車とは違って広く、真ん中にテーブルが置かれ上につまめる様に今まで見た事のない様々な菓子や料理などが置かれている。
「こういう奴は普段食べれないから、今回みたいな時になるべく食べておくんだ」
「成る程、流石お兄様です‼︎」
ふざけた事を言いながらテーブルに出されている菓子類に手を伸ばしては口に運んでいく。
この世界には日本ほど宅配サービスが充実しているわけでは無いので、例え金が沢山あってもアクセルまで運ぶ経路がないのだ。
なので貴族が持つ入手経路でしか手に入らないお菓子はこういった機会でしか食す事が出来ないのだ。
「貴様、あまりアイリス様に卑しい事を教えるんじゃない…」
流石に遠慮しているのか少しずつ上品に食べているアイリを横目に見ているとダクネスが耳打ちしてくる。
「ダメなのか?」
「当たり前だ‼︎記憶が戻った時に変な癖が残ったらどうするんだ⁉︎」
「そん時はそん時だよ、人間と言うのは必要な事を覚えてそれが大切だと思ったら使う生き物だからな、アイリスが必要だと思ったらそうなるだけどよ」
「お前…綺麗な事を言えば誤魔化せると思っているのか?」
流石は貴族の令嬢、俺の屁理屈など意に介さずに辺な事を教えない様に凄んでくる。やはりゆんゆんの様に丸め込めるわけではない様だ。
「けどなぁ、記憶を失ったとはいえアイリスは結構遠慮して自分の意見が言えない奴だったぞ?もしかして元々引っ込み思案で悩みを溜め込む様な感じじゃ無かったのか?」
「それは…確かにそうだな。アイリス様は昔からお淑やかであまり我儘を言わない方だったな」
「だろ?そんな子が国を継いでみろ悩みを溜めまくって爆発するぞ」
「確かに…アイリス様なら辛い事を全て背負われて気を病んでしまわれるかも知れない」
「これはきっと神がくれたチャンスかも知れないんだよ、記憶を失ってまっさらな状態で他人に甘える事を学べば記憶が戻った時にその時の事を思い出して応用するかも知れないだろ?」
「それも…そうだな‼︎」
自分自身何を言っているのか分からないが、勢いで押し切ってみたら案外納得してくれたのでこれこれと言う事でよしとしよう。
「お兄様‼︎椅子の後ろの箱から珍しそうな物を見つけました‼︎」
「良くやったぞアイリ‼︎隠しているって事は普段人に出さない珍しい物って事だ‼︎」
「待て‼︎それは後で父上に献上する特別な…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
「これ凄く美味しいですよお兄様‼︎」
流石は俺の教育を受けたアイリ…俺の予想を超えてしたたかに育ったようだ。
本当に食べてはいけなさそうだったが、相手がアイリなので多分大丈夫だろう。記憶がないとはいえ次期国王なのでこれ位の暴虐は許されるだろう。
このまま暴君にならないか心配ではあるが、それはそれで面白そうだ。今の立場なら責任を問われてもトンズラできそうなので何も言わないでおこうと思う。
それからぎこちないダクネスと談笑しながら話していると兵を集めている街に辿り着く。
窓から見るに規模はアクセル程は無く、良くて半分かそこらだろう。アクセルが一番小さい街だと思っていた分狭い事には驚きだが、初心者の受け皿である分規模が大きいのだろうとと思い納得する。
「着いたぞ、2人には部屋を用意してあるから最初に案内する」
「おう、頼んだぞ」
街の中に入り、安全を確認出来るとダクネスが立ち上がり外に出る様に促される。
「贅沢な旅もこれで終わりか、楽しかったか?」
「はい‼︎貴重な食べ物が沢山あって楽しかったです」
「よかった、よっかった」
「私は良くなかったのだが…」
菓子の空箱を見ながらどう言い訳しようか考えているダクネスを尻目に馬車から降りる。
街は沢山の兵士が集まっており、街の規模的に全ての兵に宿舎を用意する事が出来ないので各々がテントを用意して街の道路や街周辺に構えて野営を組み来るべき時に備えているようだ。
そんな中領主の屋敷に泊まれるのは中々に嬉しい事だが、それと同じくらい後ろめたさのようなものも感じる。
貴族の私兵を見るのは初めてなので装備や雰囲気を確認する。
やはり私兵だから冒険者より劣るといった事はなく、むしろ戦闘のみに特化している分そこらの冒険者よりも強者揃いなのだろう。適当に眺めた感じ目付きが据わった奴ばかりだ。
「こっちだ、アイリス様を1人にするなよ」
「ああ、悪い。アイリ手繋ぐぞ」
「分かりました」
ここではアイリは記憶が無い以上王女として振る舞えないので俺の義妹として扱う事になっている。
こんな殺伐としたところに子供がいるというのも不自然だが、俺の妹で情報伝達やサポートに長けているという事で今回補助的に参加したという感じだ。
「お前とアイリさんはこの部屋を使ってくれ。いいかくれぐれも余計なことをしてくれるなよ」
「分かってるよ」
ダクネスの忠告に手をヒラヒラーとさせながら応え、ドアノブを捻り中へと入る。
「やっぱり豪華だな」
「ですね」
やはり貴族の家ということもあって客室も豪華だ。
基本的に承認欲求が強い貴族ほど客間に力を入れると聞くが、ここまで豪華だと何ともいえない不安でソワソワしてくる。
「これから何をどうするかの会議の準備があるから私はもう行くぞ。それが終わり次第お前も呼ばれるだろうからあまり遠くに行くなよ」
「はいはい、分かってるよ」
「…全くお前は肝が据わってるのか緊張感が無いのかよく分からんな」
ダクネスに呆れられながらこの後の予定を確認すると、そのまま彼女は屋敷の奥へときえていってしまった
「さて…」
部屋に入り荷物を降ろす。
アイリは既に部屋に併設されている簡易キッチンで俺の分を含めた紅茶を沸かしている。
俺も荷物を部屋の隅におろし、周囲を感知スキルで探る。
この世界には盗聴器なんてものはないが、それに近い魔法は存在する。
術式自体は目では見えないが、感知スキルによりその存在を知る事ができるので環境が変わり次第行っている。
…まあ発見できた事は無いのだが…。
だが、アイリが居る以上何かしらの情報を引き出そうとしている連中らが居てもおかしくは無い。
ダクネスは信用出来るのだが、その周囲の人物はまた別で何かの拍子にアイリの正体を知ってしまったり、そもそも変装したアイリを見てダクネスのようにアイリスだと気付く人が居てもおかしくは無い。
ここに連れてきてしまった以上は最後まで気を抜いては行けないのだ。
「お兄様、お茶が入りましたよ」
「おう、ありがとうな」
ソファーに座り周囲を探っているとアイリが紅茶を注ぎ終わったのか高そうなティーカップと共にやってくる。
「一々怖いんだよな…」
「何がでしょうか?」
「いや、何でもない」
貴族の屋敷では家具から食器まで何でもかんでも高級品なので扱いに困る。うちの屋敷では装飾よりも耐久性を重視しているので多少雑に扱っても大丈夫なのだが、今手元にある食器などは繊細に扱わないとすぐ割れてしまいそうだ。
「それでこの後お兄様は会議というものに出られるんですよね?」
「ああ、その間アイリには留守番させちまうけど大丈夫か?」
「はい、私は大丈夫ですけど」
流石に貴族の集まる場でアイリの姿を見せるわけにはいかないので今回はこの部屋で留守番してもらうことにする。
「それとこれからはこれを上に羽織ってくれ」
「これは?」
カバンの中からフードの深いポンチョのようなマントを渡す。
さっきも考えた様に髪と目の色は変わっているが彼女の顔自体は変化していないので他の連中にバレてしまう危険があるので、これでしばらく顔を隠して欲しいのだ。
「新しい防具みたいなものかな?」
「ありがとうございますお兄様‼︎早速着てみますね」
あまり不安にさせたくは無いので街の装飾店でエンチャントと上品な刺繍をしてもらい、ぱっと見はファッションアイテムとなっている。
これであれば何の抵抗もなく彼女も羽織れるだろう。
「どうでしょうか?」
「おう、似合ってるぞ」
喜びながら鏡を見る彼女をみて、色を落ち着いた色にして良かったと思う。色を赤にしていたら元の髪色に戻った時の色と合わさって赤ずきんちゃん見たいになってしまうので、一気にコスプレになってしまいファンタジー感が出てしまう。
「ここに居る間は暑いかもしれないけどそのフードをかぶっていてくれ」
「はい‼︎分かりました」
軽快な声で返事を返しながら彼女はフードをかぶる。
それにより何処ぞの13機関的な強者オーラが出てしまっているが、まあそれに関しては言わぬが花だろう。
「後、剣を必ず腰に下げていつでも抜ける様にしておけよ。俺以外の人間がこの部屋に入ったら切り捨ててもいいからな」
「わ、分かりました。ですがお兄様が手が離せなくて伝言があった時はどうすればいいのでしょうか?」
「そうだな…その時のために合言葉を作って置こうか」
いざという時がないわけでは無いので、それ様に適当な合言葉のような言葉を彼女に伝える。
これから何かあった時様に使えるのでもしかしたら重大な場面で役に立つもしれない。
「それじゃあそろそろ俺は行くからな、絶対に俺以外の奴が来ても扉を開けるなよ」
「分かっています‼︎このアイリお兄様が戻ってくるまでこの部屋で一生を過ごす所存です‼︎」
「いや、それは不味い」
あの後少しばかり談笑しているとダクネスが時間だと言いながら迎えにやって来たので、それに着いて行くことにした。
もしかしたらこれがアイリを攫う計画だとしたら厄介なので部屋には出来るだけ罠を張り、アイリには最大武装をさせているので俺が迎えに行くまでは大丈夫だろう。
「じゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃいませお兄様」
アイリに背を向けダクネスの向かっている方向に着いていく。
案内された部屋は元々こうなる事を見越していたかの様な作りをしており、何処ぞのアニメに出てくる円卓を要人が囲むように座り奥の日本でいう上座のような席にダクネスが座った。
俺は特別枠なのか、それとも何かあった時にダクネスが俺を制御できる様にか、俺の席はダクネスの隣の席だった。
「皆様大変お待たせしました」
ダクネスが席に座る前に集まった要人達に向かって挨拶を始める。形式的な事で無意味に思えるが、談笑していて緩んでいた場の空気を締めるのには最もコストの低い方法だろう。
「今回の件に関してこの場を任されたダスティネス・フォード・ララティーナです。皆共に王国を奪還するために集まった物同士、既に互いの身分は把握されていると存じます」
「ララ…ぶふ…ララティーナ…」
まさかドM騎士の本名がこんな可愛い名前だとは思っていなかったので思わず吹き出してしまう。
「貴様⁉︎この場くらい抑えろ‼︎」
小声で笑ったつもりだったが、どうやら聞こえていたらしく思いっきり肘打ちをくらい言葉を失う。
「す、すまん」
流石に場を弁えないほど馬鹿では無いので、すぐさま顔の力を抜き真面目な表情を作る。
「失礼いたしました。それで今回の作戦に当たって指揮を務める者が生憎城に捕縛されている状態ですので、今回は代役として隣に居るサトウ・カズマを代役に当てる所存です」
「サトウカズマです、よろしくお願いします」
急に紹介されたので気の利いた挨拶などを即興で作るなんてリスクは取らずに無難でシンプルな挨拶をして場をつなげる。
「彼は魔王軍幹部のベルディア討伐の作戦考案・指揮を担った事や、その他に幹部数名を討ち取るなどの功績を加味し、私の勝手な独断で今作戦の指揮を任せた次第となります」
肩書きだけ見れば中々凄い事してんな俺と思ったが、蓋を開ければ殆どゆんゆん達が何とかしていた結果と思うとあまり誇れはしない。
「意見が無いという事は賛成という事でよろしいですね。では会議を始めていきます」
どうやら何かあれば挙手して意見を言うシステムのようで、発言が無かった事から俺が指揮権を握る事に関して反対はなかったようだ。
とにかくダクネスが座った事を確認し俺も続いて着席する。
「それではまずこの資料を確認ください」
円卓の上に前に貰った関所の図面が展開され場所の説明等々の議論が広げられた。
「…それで唯一の生き残りであるアイリス様の捜索はどのような感じで?もし見つからない場合誰が責任を取られるのかな?」
作戦がある程度決まり、後は現場に行って俺が微調整をすればおおよそが完了という形になった。
もう少し難航するかと思ったが、表面上俺が割りを食い自身には何も被害がない形に説明すると皆呆気なく納得してくれた。
皆自己保身に走っているので、そこを逆手に取れば子供を説得するよりも簡単だ。
しかし、話が決まると要人のうちの誰かがアイリス様の存在に言及を始めた。
確かに今回の作戦におけるリターンを与えてくれるのは仕切っているダスティネス家ではなく、王女であるアイリスという形になっている。
もしアイリスが見つかっていなければ、この作戦が全て成功したとしても空いた王座に座る人が居らず結果として周囲がバタバタして今回の功績が無かったことになりかねない。
「アイリス様は既に保護しております。ただ避難の際に受けた傷が思ったよりも深く現在療養中です、命に別状はありませんがこの場に参加させるにはまだ危険な状況かと」
この質問に関しては既に来るものだと思っていたようでダクネスが準備していた答えを説明する。
流石に記憶を失って町娘をしています等と言おうものならこの集まりは即刻解散となり、俺たちの目標はアイリの記憶を無理矢理にでも戻すというものに切り替わるだろう。
「仮にアイリス様がしばらく身動きが取れない状況だとしてもダスティネス・シンフォニア家が一時的ですが国政を担える法があります。なので報酬の件に関しては問題ないかと」
「いや…私は別に報酬が欲しいのではなくただアイリス様の容態が気になってだな…」
やはりアイリスや国政よりも報酬や名誉欲しさの貴族も混じっている様だが、この場合仕方がないだろう。それほどまでに今の戦力は心許ない。
「関所よりも王都側の勢力ともウィザードを通じてコンタクトを取っている。現時点での説明は省くが、まずは関所を突破することに専念して頂きたい」
他の不安から来るであろう質問を先んじて潰し、会議の舵を握り直す。
「作戦会議は以上だ。決行時間は先程説明したように夜の更けた辺りを狙う。これにて解散‼︎」
これ以上アイリスの事を責められるとボロが出かねないので半ば強引であるが会議を切り上げる。
無駄に引き伸ばせばダクネスどころか、アイリスの立場まで危うくなってしまう。
「お疲れ様だなダクネス」
会議室から要人が全て退出した事を確認し、気難しい顔をしているダクネスに話しかけた。
「ああ…中々ああいう場は慣れないな」
「そうか?上手く仕切れていたと思うけど」
「お前にそう思われていたなら悪くはないな。それでこの作戦お前から見て勝算はどれくらいだ?」
「勝算か…今の所五分五分だな。相手の戦力を俺は知らない、最悪関所を使えるようにする事は出来るけど伝令を見逃してしまう可能性もある」
例え関所を攻略したとして伝令を出されてしまえば追加の戦力や、王都の守りの強化などの対抗策を組まれてしまう危険性があるのだ。
「それに関しては申し訳ないとしか言いようがないな。何せ王兄は元々何も持たない様に常に制約を受けていたはずなんだ、それが戦力を持つという事は我々が知らない何かしらの戦力があるという事だ」
「そうか…それで騎士団の連中が寝返るとかあるのか?」
「それは私にも分からない。彼らはあくまで王国に使える存在だからな、反旗を翻したとはいえ今の王座に座って居るのがあいつであるなら名目上は奴に仕える様に決まっているんだ」
「つまり寝返っている連中らも居る訳だ…その中で目立った実力を持った奴はいるのか?」
「…すまない、それに関しては分からないんだ。ただ王都一実力を持っていると言われている一番隊は魔王軍討伐の際に隊長を残して全滅したと聞いたな。まあ詳しく確認をする前に王兄に攻められたのだが…」
魔王軍幹部討伐の部隊か…そう言えば前にも同じ事を言っていた気がするが…
「となるとその隊長はバルターというやつか?」
「知っているのか?まあアクセルの領主の息子だからな名前位は知っているだろう」
やはりあのいけ好かない隊長はあいつだったようだ。
「ああ、一度会ったことがある」
「何?…そうか、確かその幹部を討伐したのはお前だったな。それでそれがどうかしたのか?」
「いや、そいつが今何かしているのか気になってな…」
「そうだな…確か部隊が1人を残して全滅し冒険者の協力が必要なほど苛烈な戦いを行なったので休みが欲しいと言っていたのが耳に入ったな」
「成る程、つまりそいつは家で休んでいるって訳か」
「そうだな、だが協力は得られないと思ったほうがいい」
「どうしてだ?」
「奴の家…アレクセイ家はその当主の性格が悪いと有名なのだ。そいつをこの作戦に組み込もう者なら全ての戦いが終わった後に面倒なことになる。それに作戦の途中でアイリス様の正体を見抜き命を狙いかねん」
「お前にそこまで言わせる程性格が悪いのか…」
「ああ、息子の方は逆に素晴らしい性格をしていると聞いたのだが、やはり家の関係的に難しいだろう」
あいつとは一度話をしたかったが、どうやらその願いは叶わないようだ。
まあタダでさえ面倒な貴族のゴタゴタを増やしたくは無いのでこれ以上の追求は避けるが、もう少し戦力が欲しいところだ。
「まあ何にせよ、関所を落とさなければ話にならない。私が言うのも無責任かも知れないがアイリス様の件も含めて頼むだぞ」
「ああ、任せてくれ」
ポンと俺の肩に手を置きながら彼女は会議室を後にした。
「…はぁ」
平穏な日々は過ぎ去り、命を天秤にかける戦いが始まる。
今となっては何も感じないが、これが全て終わった後に楽しかった思い出として残るのだろうか。
「あー疲れた」
「お疲れ様ですお兄様」
ただでさえ集まって話し合いするのが嫌なのにさらに堅苦しい貴族達と合わさって行うとなると俺の心労も限界を超えてくるのだ。
「それで会議とは結局何を決めたのでしょうか?」
「ああ、そうだったな。明日の作戦に関しての話し合いをしていたからアイリにも説明するよ」
アイリに会議で決まった事を説明する。
全てを説明すると面倒なので作戦に関しての内容だけ絞って説明する。
「成る程、お兄様が先行して関所を落とすのですね…これではお兄様が捨て駒にされているだけでは無いでしょうか?」
流石俺が教えただけあって一番の問題点を指摘してくる。
「まあそうなるんだけど、それの作戦を考案したのは俺なんだよ」
「どうしてでしょうか?」
「それを話すには会議の最初の流れから説明しなくちゃいけないから省略するけど、この作戦が終わったら城に攻め込まなくちゃいけなんだよ。だからここで下手に戦力を減らすよりも潜伏スキルを使える俺が先に侵入して暗躍した方が効率がいいんだ」
「…そうでしたか、お兄様がそう決めたのでしたらいいのですが…」
「まあそう言う事だからな」
「…分かりました」
側から見れば自己犠牲な作戦にアイリは反対しているが、身分の低い人間が出来るのは精々自己犠牲が関の山だ。
「それはそうと今日のご馳走は豪華らしいぞ」
「…そうですか」
「そう気を落とすなよ、周囲の仲間が少ないほどゲスな…多芸に富んだ技が使えるってもんなんだよ。それに言ってなかったけどアイリも参加してもらうからな」
「本当ですか⁉︎」
「ああ、俺の隣に必要なのは俺の行動を理解できる人間だけだかな。だから俺の命運はアイリに掛かっていると言っても過言じゃないんだ」
「分かりました、このアイリお兄様の助手を精一杯努めさせて頂きます」
「おう、任せたぞ」
本当は作戦に無くダクネスの元で待機だったが、まあなんとかなるだろう。事前に決めていたことが現場で覆るのは良くあることだ。
作戦の決行は日本時間にしておよそ3時位だろう。大体が眠りに就いた時間だが、全員が全員眠っているわけではなく起きている連中も当たり前だが居る。
俺はその中に侵入し内門を開け兵を全て中に通さなくてはいけない。
「豪華な夕食だったな。取り敢えず作戦まで時間があるから寝ておくぞ」
「分かりました」
昨日の疲れが完全に抜けきっているわけでは無いのでなるべく睡眠をとり鋭気を養っておかなくてはいけない。
「アイリは目が見えなくても最悪大丈夫だよな?」
「ある程度でしたら」
「暗闇で俺に着いて来れるか?」
念の為確認しておく。
俺は千里眼や感知スキルで視覚を補えるが、今の彼女のスキルは未知数なのでパッシブ系のスキルしか使用することが出来ない。
「あの山くらいの暗さでしたら音と気配である程度は何とかなります」
「そうか…まあ大丈夫そうかな?」
夜の関所に潜入するのである程度の暗闇に慣れておかなければいけないと思ったが、山の夜の暗闇に慣れていれば大丈夫だろう。
文明のない山の暗さの恐ろしさは身をもって学んでいる。
「それじゃあ寝るか」
「はい‼︎」
着替えるのが面倒なので防具だけ外してベットの中に潜る。
やはり高級なだけあってかなりの柔らかさだが、枕の高さが合わなそうなのでアイリに譲りタオルを丸めた物で代用する。
「準備はいいか?」
「ああ、仮眠もとったし問題ない」
あの後眠った俺達は予定よりも早く目が覚めてしまい、色々と準備をしている所をダクネスに呼ばれて馬車に案内される。
「兵士の皆も馬車に乗ってくるのか?」
「いや、兵の皆は私達よりも先に関所に向かっている」
「成る程な…後から参加する形か」
「ああ、皆を馬車に乗せられる程馬車が余っているわけでは無い。それにお前は作戦の要だからな、なるべく疲れさせたくは無いと皆が判断したようだ」
「へーあいつらも考えてはくれているんだな」
「悪いイメージが先行するのは分かるが、貴族も悪い人ばかりでは無いんだ」
「ああ、それはダクネスを見てれば分かるよ」
「…ふっ嬉しい事を言ってくれるな」
作戦開始までおおよそ一時間前、俺達は馬車に乗り込み再びテーブルを挟んで向かい合わせの形になっている。
流石にこれから動かないといけないので豪華なお菓子はないが、その代わりバナナの様な消化によくエネルギー効率が良いものが置かれていた。
「そう言えば兵はどこに隠れているんだ?作戦会議では関所前で待機と言われていたけど」
そう言えばと今更な質問をダクネスにぶつける。兵を隠すのはいいが関所のあたりは見晴らしを良くするために木を切り倒されて平地になっているのだ。
これで仮に何も考えがなければこの作戦は崩壊してしまうという悲しい事になってしまう。
「それは問題ない。感知スキルの達人が感知できる範囲ギリギリで姿を暗ます魔法を使い気づかれない様にして待機する手筈になっている」
「え…それって大丈夫なの?」
思わず言葉が漏れる。
そんな小学生でも考えつきそうな作戦を決行してしまって大丈夫なのだろうか?
「問題ない。この魔法は継承が必要なスキルでな一部の貴族しか使えないのだ」
「何その伝説の魔法」
「…まあ大掛かりな準備が必要な上に、大人数のウィザードの運用と発動中は誰も範囲から動けないという制約があるんだがな…」
「なんて局所的な需要にしか答えられない魔法なんだ…」
因みに範囲の中に入られたらすぐバレるという穴もあるそうだ。
一見すごい魔法かと思ったら普通の冒険者に使う機会のない、言わば爆裂魔法のような魔法だな。
「まあ、今回に関しては役に立つからよしとするか…」
「ああ、我々も使う時が来るとは思わなかったな」
姿くらましの結界と勝手に名付けたが、兵士を潜伏させるにはうってつけの魔法だろう。
ただ後方支援のウィザードに制限がかかるのはいただけないが…。
「取り敢えず作戦としては俺が関所の内門を開いてアクションするから、それを合図に兵士総出で関所を攻る感じだな」
「ああ、お前に任せる感じになってしまったな」
「それは前も聞いたよ」
最終確認を終え、後は関所に突撃を掛けるのみだ。
緊張していないと言えば嘘になるが、それでもやらなくては状況は変わらない。
「着いたぞ」
「ああ、行くぞアイリ‼︎」
「はいお兄様‼︎」
今月どこか休むかも知れないです…