馬車を飛び降り既に集まっている兵士達の中を抜けていく。
ウィザード達の張っている大規模結界の中では気圧の変化でもあるのか少し重苦しい感覚に囚われるが、逆にそれが結界の庇護下にある事の証明になるので我慢するしかない。
「しかし、すごい人数集まったな。流石の俺もこれにはびっくりだぞ」
「だろう、お前に大役を任せたからな私もこれくらいしなくてはダスティネス家の泥を塗る事になってしまう」
いつの間にか…というか着いてきていたのかダクネスが後ろから自信あり気にそういった。
兵士は軽く見積もって100を超えているだろう、ドラマや映画からしたらしょぼいかもしれないがベルディア討伐の徒党と比べれば天と地程の差がある。
これだけの兵士が居たならば魔王軍幹部討伐も苦労はしなかっただろう…いやそう言うわけではないだろう。
「それでお兄様、飛び出たのはいいのですがこれからどうするのでしょうか?」
アイリの手を引き、ダクネスを引き連れながらながら兵士の波を進んでいると疑問に思ったのかアイリが聞いてくる。
「これから作戦開始にあたって演説みたいなものがあるんだよ」
「つまり作戦開始の掛け声みたいな物でしょうか?」
「そうだな、みんなそれを聞いて覚悟を決めるみたいな、一種の暗示みたいな物だよ」
「おい、アイリス様に変な事を教えるのは止めろ」
アイリに質問に屁理屈で答えようかと思ったがダクネスはそれを事前に察知したのか小声でそれを制止にかかる。
流石は教育担当、次期国王であるアイリの教育に関して隙がない。
「…まあそんなもんだ。それで俺達はここで待機だな」
兵士の集まる前列、ちょうど関所を背景にした場所にダクネスが1人進みこちらに向かって振り返る。
俺は今回の作戦の要なのでその最前列に立ち、ダクネスとは向かい合う形となる。
「諸君‼︎今回は我ダスティネス家の要請に応えて頂き感謝する‼︎今作戦は橋を取り戻し王都への道を確保するという簡単な内容だが、この作戦が成功しない限りは王都へは行けないものと思ってくれ‼︎」
「…いいかアイリ、こういった人前で話す台詞とかの形式を覚えておくんだぞ。いつか役に立つからな」
「?分かりましたお兄様」
ダクネスの演説を聞き流しながらアイリに話し方を覚えるように伝える。
よく結婚式の友人代表のスピーチで両者の親族相手にその主役の1人である友人に関してのエピソードなどを語らなくてはいけない場合になった時、そのスピーチの内容を他の式で他人が言っていた事を参考に文章を構成したと知り合いが言っていた事を思い出した。
結局考えるよりかは最初は真似した方がいい結果を生み出すのだ。
「…諸君健闘を祈る‼︎」
思考が一通りの考えを終えた辺りでちょうどダクネスの演説が終わったのか、兵士たちの歓声が周囲から響き渡った。
いくら結界を張っているからといってここまでの大声を出して大丈夫なのだろうかと心配になるが、あの心配性のダクネスが演説をつつがなく終えた事で少し悦に入っている所を見るに多分大丈夫だろう。
「一通りは終わったぞ、後のタイミングはお前に任せる」
作戦自体はすでに始まっているが、俺以外は橋が下ろされてから本場となるので視線が俺に向かって集中している。
「なあダクネス、アイリスも連れて行っていいか?」
「はぁ⁉︎」
小声でボソッと言うとダクネスが素っ頓狂な声をあげると俺を少しアイリから離れるように引っ張った。
まあ、流石に王女を危険な目に遭わせようとしているのでこの反応をする事はおかしくないのだが。
「貴様正気か⁉︎何故よりによってアイリス様を連れて行こうなど考えつくのだ‼︎」
「いやなんか行きたそうな顔してたからさ…」
「確かにアイリス様は好奇心旺盛なところがあるが…だからといって連れて行っていいわけないだろ。これでアイリス様に何かあってみろ全てが台無しになるぞ‼︎」
「まあ、そうなんだけどさ。それでも連れてくって言っちゃったしな…」
何とか食い下がりながら上手い落とし所を探る。
流石のダクネスとはいえどアイリの事になったらどんな屁理屈も通じないだろう。
「なら伝令役を頼むのはどうだ?俺が合図を出しても伝わらない時があったら困るだろ?その時アイリスが中継を行うみたいな」
「まあそれならいいかも知れないが…アイリス様に危険が及ぶリスクはどれくらいだ?」
「殆どないと言っても過言ではないな」
「…ならいいだろう」
あまり意味はないかも知れないが、作戦に携わると言う点では嘘にはならないので何とかなるだろう。
「…と言うわけで悪いんだけど関所までは連れて行けなくなった」
「そうですか…でもお仕事はありますのでそれを全力で全ういたします」
「おう、助かる」
アイリの頭を撫で、支度を整えると結界の外へと歩みを進める。
「すまないな、1人で殆ど任せてしまうような形になってしまって」
「そのセリフ何回も聞いたよ、それに大丈夫だってこれでも死線はいくつも超えてきてるからいつもの事だよ」
「そうか、そう言ってもらえると私も肩の荷が降りる」
結界の境界線手前でダクネスと言葉を交わす。
俺がヘマをすればこれがダクネスとの今生の別れとなるので、言葉を掛けたかったのだろう。
「いくぞアイリ」
「はいお兄様」
アイリの手を引き結界の外へ出る。
結界特有の嫌な感覚は消え去り、鈴虫や小さい方のカエルが泣いているいつもの平原に少し戸惑い後ろを振り向くと、先ほどまでいた兵やダクネスの姿はなく薄暗い平原が続いているだけだった。
「それじゃあアイリは近くの草むらに隠れて俺が合図を打ち上げたらすぐ結界の中に入って皆に伝えてくれ」
「分かりました‼︎」
潜伏スキルをかけた状態でアイリを姿を隠せそうな草むらに隠す。平原なので大人を隠せるものは無かったが、アイリくらいならギリギリ隠せそうな場所を何とか見つけ出せたのだ。
場所は結界の真ん前なのでダクネスも見張れるだろう。
「それじゃあ行ってくるな」
「行ってらっしゃいませお兄様、怪我には気をつけてくださいね」
アイリの見送りを一身に受けながら関所に向かう。
何だか死亡フラグのような気がしなくは無いが、多分大丈だろう。
「すごく…大きいな…」
関所に相対してその大きさに気づく。こんな片田舎に設置されている物と考えればその規模は過剰としか言いようがない。
イメージとしてはロンドンのタワーブリッジに近いものだろうか?昔まだ小さかった時の事だった気がするが、イギリス旅行に行った時にこんな感じのものを見た事を思い出す
その建設物だが、川を挟んで手前と奥の2箇所に建物が存在し、その二つを繋ぐように二つに分けられた橋がロープによって吊るされており、建物の最上階から左右に小さな連絡橋がそれぞれ掛けられている。
何かあった時にエンジニアが行き来できるように作られているのかわからないが、今回の橋の構造がこの型で良かったとつくづく思う。
日本の勝関橋の様な構造だったら、泳いで向こう岸まで行かないといけない必要があったからだ。
今回の作戦は橋を降ろすことだけなのでそこまで難しい訳ではないが、一度気づかれようものなら巡回している警備の連中が総出で残った反対方向の橋の起動を阻止してくるだろう。
潜伏スキルで忍び込んで誰にも気づかれず出来るのはどちらか片方で、残りは緊急体制の状態での警備隊を潜り抜けなくては行けない。
潜伏スキル自体はなるべくスキルポイントを振り、王都直属ならともかく辺境の関所を任される程度のレベルであれば完全に撒ける自信がある。
これは前にクリスと地獄の様な特訓をした時にお墨付きをもらったので間違いはないだろう。もしそうでなければあの時の訓練が全て台無しになってしまう。
幸いにも橋を降ろす方法は建物にあるレバーを倒せばよく、日本のように電子機械でコントロールされている事はなく殆どが絡繰仕立てなので遠くの方から遠隔で動きを抑えられるという事はないだろう。
まあそれだったらコンピューターに詳しい日本人を捕まえて何とかするだけだが。
「よし‼︎」
頬を叩き自身に喝を入れ、全力疾走で関所に向かって走る。
どんな建物にも必ず外部との入り口が存在する。
しかし、ここは関所である以上入り口の扉が常に空いているなんて事はないので窓が開いていないか確認したところ、外部を観察するための覗き穴のようなスペースが所々外壁に見られたので、そこに鍵爪の付いたロープを投擲し引っ掛ける。
潜伏スキルの応用で、装備している物に関しても潜伏スキルを使用することができるので今回の様な小さい音であれば完全に中にいる警備兵に気取られる事はない。
「…これでよしっと」
覗き穴というか展望台の様な部屋にたどり着き体を乗り上げる。
中では警備兵がだるそうに周囲を確認していたが、俺の存在には気づいていない様だった。
…取り敢えず吸っておくか。
ボーと無気力に外を眺めている警備員の首根っこを掴みドレインタッチを行い生命力を吸い取る。
ドレインタッチは基本的に生命力を吸い取る物なので、気を失ったところで外部から見れば疲れて眠っているのと大差ないのだ。
「オーライオーライ」
情けない声を上げながらフラついている兵士を椅子へと引っ張り込み、そのまま座らせる。
昔ゆんゆんで実験したが、ギリギリまで吸われた人間は一日何をしても起きる事はなかった。もちろんその時の俺は紳士だったのでゆんゆんに手を出す事はない。
何持ってんだろう?
いざというときに何か役に立つものはないかと兵士のポケットを漁っていると、予想外にも色々細かなものが出て来る。
昔見た赤いマナタイトの小さな結晶もあったが。その中で目を引いたのがクシャクシャになった紙の塊で、中を覗くとそこには俺の似顔絵が描かれこの国でのwantedと書かれ下にはdeadの文字が書かれていた。
何処ぞの海賊漫画かな?と思ったが、あれはdead or aliveと書かれていたのに対して今回はdeadのみなので、このままでは俺は殺されてしまうらしい。
しかも報酬が金額ではなく騎士団への昇級ときた…恐ろしい現実だが俺の討伐が昇級条件だという事はこれは緊急クエストなのだろうか。
まあ俺を付け狙う存在は山籠りしている時に知ってはいたので驚きは無いのだが、アイリを狙わず俺を狙うとなると一体これを作ったやつの目的は何なのだろうか?
報酬が騎士団への昇級なのでこれを依頼した人間は騎士団の関係者という事になるのだが、それはあくまで前の体制で今の事情を考えると王兄の関係者という事だろう。
…まあ何にせよ、このまま進んでいけばいずれ答えには辿りつけるだろう事は明白なので、下手な事は考えずに今出来る事を考えた方がいいだろう。
紙をクシャクシャに丸めそこら辺に放り投げる。
設計図から見ればこの部屋を出てすぐに上の階へと続く階段がある。
感知スキルで周囲を探ると部屋の近くに気配が複数あったが、幸いにも部屋の扉は開いていたのでそこから建築物内部へと侵入する。
警備兵をかき分け階段を登っていく。
この建設物はテレビ局の様に複雑な作りではないようであっという間に最上階へと辿り着く。
やはりアクセルのような田舎方面に対してあまり警戒していないのか、警備兵の数は俺の予想よりも随分少ない。
これなら行けるかもしれないと思ったが、それはあくまでこの建物だけの話で対面側の建物の人数を入れると殆ど勝ち目はないだろう。
階段を登りきり、橋を下げる装置のある部屋に辿り着く。
仕組みとしてはレバーを下げる物だが、これを引いてしまえば俺の存在がこの建設物中の警備兵にバレてしまうだろう。
レバーを放置し一通りのルートを確認したのち仮眠室の部屋の扉を固定して出れない様に加工する。
他にも伝令室にある装置に細工を施し、王都へ連絡が行かないように細工を施す。
この世界での機械は基本的にマナタイトを原料にしているので、マナタイトの配線を少し残して切ってしまえば多少の機能を残しながら通信という、かなり魔力を消費するシステムは作動しないと前にクリスが言っていた。
クリスから教わった知識は広汎に富んでいる様に見えて、盗賊の性なのか今回みたいな侵入して色々悪さすることに関しての情報に特化していたのだろう、今回の行動全てに彼女の知識が役立っている。
彼女が居なければこの作戦の成功は無かっただろう事は明白だが、故に彼女がなぜ俺に色々技術を教えるのかに関してある種答えのようなものが感じ取れる。
…まあそれも全てが終わったら考えればいいか…
建設物最上階に登り、双方に掛かっている小さな橋を眺める。
やはり外部からの侵入を防ぐためか橋の幅は狭く作られており、大人数で攻めるには無理がある。
ダクネスはこの橋を兵士達を投入して押し切ろうなどと言っていたが、こんな狭い道を大人数で押し掛けたら渋滞して向こう側の建築物からのいい的にしかならないだろう。
やはり俺一人で来た方が良かったのだ。
話は変わるが、潜伏スキルを作った人間は天才だろう。
あくまで同じレベル以上の感知スキル持ちが居なかったらの話になるが、敵であるこの俺にここまで侵入を許してしまう程のアドバンテージを与えてくれるのだ。
このスキルがあればどんなゲームもクソゲーと化してしまい、難易度という概念は無くなってしまうだろう。
さて…
小さな橋を渡りながら対側の建築物へと移動する。
手前の方で橋を降ろせば間違いなく警備兵達に俺たちの陣営が手前にあるとバレてしまう。
ならば最初に反対方向の装置を降ろせば、反対方向へ関心がいくのである程度は敵を欺くことが出来るのだ。
対側の建築物も構造だけ見れば手前の物と同じ構造をしているが、それはあくまで設計図通りであればという話なので実際に自分の目で確かめに回る。
よく漫画や何かでは色々華やかな装置だったり敵だったり居るのだが、ここは所詮片田舎を繋ぐ橋で、作られた時はまだこの辺りがベルセルク王国の領地で無かった時で敵軍が攻めてきた時に侵攻させない為とダクネスが言っていた事を思い出す。
要するに今現在では簡易的な橋でよく、ただ作り替えるのが面倒なだけしかない建物なので警備も賊の溜まり場になる事を阻止する為の抑止力程度しか配置されていないのだろう。
ダクネス曰く国境付近の警備はこんな物ではないとのことだ。
つまり、施設だけ立派なだけなので、予測だがミスしたり上官に逆らった騎士達の左遷先か何かなのだろう。
対側の建物にも手前の建設物同様細工を施し、警備兵の巡回コースから外れた位置にいる警備兵をドレインタッチで眠らせる。
そしてついに対側の橋を降ろすレバーの前に立つ。
これを降ろせばこの作戦全ての歯車が動き出すだろう。
深呼吸をして精神を落ち着かせレバーを握る。
…行くぞ‼︎
気合を入れてレバーを引く。
ガコリと歯車が合わさり機会が始動する音が鳴り響いたのち、対側であるこちらの建物の橋が降ろされていく音が遠くから聞こえる。
ここから時間との勝負だ。
レバーを戻されない様に破壊し、入口を高純度マナタイト一つをふんだんに使った氷魔法で凍らせていき部屋自体になかなか入れない様にする。
「何事だ‼︎何故橋が降りているんだ‼︎」
扉の細工が終わったあたりで誰かが気づいたのか此方に向かって走ってくる。
数はそれなりに大人数なので水を撒きながら氷魔法で足元を凍らせ、滑っている隙にドレインタッチで体力を吸い取りながら小さい橋の方へと向かう。
「何処だ‼︎敵は潜伏スキルを使っているかもしれん、視覚に頼らず隈なく探せ‼︎」
小橋を渡りながら、対側に向かって兵が集まり出している光景を見て唖然とする。
まあ、橋だけに端を渡れば橋自体は渡れるのだが、普通は降ろされていない方の橋を守らないか?と疑問に思ったが、対側の橋が降ろされたらそちら側に敵が待機して居るだろうと思うのは仕方がない事だろう。
小橋を渡りきり、手前側の建物に侵入する。
先程までしていた配慮など全くせず、ドアを破壊し警備兵をドレインタッチで沈めながらレバーの元へ向かう。
「これで終いだ‼︎」
最後のレバーを引き、手前側の橋を降ろす。
これで俺の作戦は殆ど完了だろう。
最後に建物の最上階の高台へと向かい、弓矢で何処にいるのか分からない俺を狙撃しようとしていた狙撃兵を眠らせ、安全を確認次第信号弾を打ち上げアイリに合図を出す。
暫くして結界があるであろう草原から先程まで待機していた兵士達が一斉に此方に向かって来る。
感知スキルでそれを確認次第急いで高台の上に登る。
千里眼スキルを使い、他の高台にいる狙撃兵を弓矢と狙撃スキルで無力化していく。この橋での戦いはあくまで前哨戦なので出来るだけこちらの兵を減らす訳にはいかないのだ。
「狙撃…狙撃‼︎」
ついでに対側の警備兵もと狙撃により腕を貫き無力化する。
両方の橋を降ろしたことによりこちら側の兵士が瞬く間に攻め込み建設物を占拠していった。
「これにて作戦成功か…」
対側の建設物の頂上にこちら側の兵士が現れダスティネス家の紋章を象った旗を立てた事を確認し、安堵する。
「お疲れ様ですサトウカズマ様、両建造物のおおよそを占拠いたしました」
「おう、お疲れ様」
こちら側にも旗を立てようと現れた兵士に状況報告を受け、旗が立てられるところを見届ける。
旗を立てた事を確認した後、特にやる事が無いので建設物から降りると、ダクネスが俺の事を待ち受けていた。
「お疲れ様だな、お前が失敗しらと思うと冷や汗が止まらなかったが無事完了して良かったよ」
「ああ、もう疲れちまったよ。まあでも敵の数が少なくて助かったよ、もし数が倍以上居たら流石の俺も危なかったよ」
「ふ、随分と余裕ではないか」
「まあな、それでこの後の予定はどうすんだ?」
周囲で連行されていく兵士を眺めながら今後の予定をダクネスに確認する。
できればこのまま王都の方角へ向かいたいが、兵士の疲れを考えればもう少し休んでもいいだろう。
「それはだな…」
「お兄様‼︎」
「うおっ⁉︎」
ダクネスが何か言いそうになったところで何処かで待機していたであろうアイリが俺に向かって飛びついてくる。
「お疲れ様ですお兄様‼︎怪我はしていませんか?無事に終わって安心しました‼︎」
「おう、心配ありがとうな。この通り俺はぴんぴんしてるぜ」
特に無い力瘤を作り健康アピールをする。
「アイリも無事で良かったよ」
なんだかんだ結界の外にいたので狙撃手に見つかって撃たれでもしたら一大事だったので心配だったが、それは杞憂だったようだ。
「はい‼︎お兄様が橋を二つ降ろした事を報告したら皆さんが一斉に走り出してビックリしましたけど、この通り怪我はありません」
「よかったよかった」
アイリを誉め殺しながら頭を撫でてやる。
「それでこの後はどうすんだ?」
抱きついてきたアイリを撫でながらダクネスに再び問いかける。
「この後は休憩を挟んで夕方までに新しい拠点に移るつもりだ、お前は疲れているだろうから休憩したら馬車で運んでやろう」
「そうだな…勝利の余韻で浮き足立っているけど、なんだかんだ疲れているのかもな」
ドレインタッチでエネルギーを吸っているのでむしろグッドコンディションだとは口が裂けても言えないが、これだけ働いたので少しくらい休んでもいいだろう。
「アイリも先まで居た街で休むけどそれでいいか?」
「はい‼︎」
むしろそれ以外の選択肢があるのか?と聞かれたら無いとしか言いようがない質問を彼女にぶつけるとパッとした笑顔で肯定の返事が返ってきた。
「それじゃそろそろ行く…危ない⁉︎」
「きゃっ⁉︎」
感知スキルに殺気を感じ取り、勢いよくアイリを突き飛ばす。
感知できたのは小さな反応、多分仕込みナイフか何かだろうか?この距離からして俺と同じで高い潜伏スキルか何かで得物の気配を隠していた様だが、感知スキルは俺の方が上なので直前になったがその気配を感じ取る事に成功した。
後は躱すだけ…
「ゴハッ⁉︎」
作戦が終わり、皆の無事を確認し、次の作戦を考えようだなんて俺からしたら随分と気が緩んでいたなと後悔するが、そんな事を考えている場合ではない。
「……⁉︎」
受け身を取り体勢を立て直し皆逃げろと言おうとしたが言葉が出ない。
何事かと思っていると痛みが後から追いつく様にやってきて何が起きたのかを痛みを持って俺に知らせる。
そう、放たれた暗器は見事俺の喉を貫き、俺から声を奪ったのだ。
この程度の傷オークに肉を引きちぎられかけた時のものと比べれば特に足らない傷だが、今回に限っては場所が悪かった。
この小さな傷は俺から魔法を一時的に奪ったのだ。
この世界の魔法は、スキルによる現実世界のマクロで行われるためスキルを習得すれば理論をすっ飛ばして魔法の名前と魔力を消費すれば、どんなに複雑な魔法も使いこなすことができるのだ。
だが、それは逆に魔力と魔法の名前を唱える二つの作業がなければ発動し得ないという事になる。
攻撃魔法、ゆんゆん達が使う属性などの魔法は自然の流れを利用しているのでスキルを利用すれば初級なら魔法名の発言を省略することが出来ると前に聞いたことがあるが、回復魔法はこの世界において異端の扱いらしく生命の流れに反する事からどう足掻いても名前の呼称が必要になると前にシスターが言っていた事を思い出す。
つまり、この状況は非常に不味いことになる。
回復魔法に頼って自身の怪我を軽く見過ぎていたバチがあったのだろうか、言葉を発しようとすれば喉から風が漏れるだけで声を発することが出来ない。
首には頸動脈を含めて血管が沢山集まっているので、これほどの怪我でも致命傷になりかねない。
今出来ることは首を押さえて血液の損失を防ぐ事…。
「カズマ‼︎無事…ではない様だな。至急だ‼︎早く救護班を呼べ‼︎ここでこいつを失ったら全てが台無しになると思え‼︎」
意識が遠退く中ダクネスが珍しく血相を変えながら周囲にいる兵士たちに伝令を出し、俺の治療に当たらせ始めた。
「嫌です‼︎お兄様‼︎死なないでください‼︎そんな…こんな‼︎私はお兄様が居てさえくれればいいんです‼︎お兄様‼︎」
突き飛ばしたアイリはどうやら無事だったようで、彼女もまた血相を変えて俺の元に向かい俺を揺すりながら俺の意識を途絶えさせまいと話しかけ続けている。
こんな小さな子に人が死ぬ瞬間を見せるというのは中々に酷い事をするなと思ったが、死にかけているのは俺なので勘弁して欲しいところだ。
…不味い、そろそろ意識が…
「お兄…様?」
体に力が入らなくなったので思わず横に倒れ込む。
ドレインタッチで無駄に生命力があふれていた流石の俺もそろそろ不味いかもしれない…
「お兄様…嘘ですよね…うそ…うそうそうそうそ…いったじゃないですか‼︎どんな時も俺がいると‼︎」
アイリが俺を揺すりながら項垂れる。
「…やった‼︎あのサトウカズマを殺ったぞ‼︎これで王都に戻れる‼︎」
やはり俺の存在を疎ましく思っている存在がいたようで、声のした方向に意識を向けると何処かに潜んでいたのか、それとも敵兵が連行されている列に紛れ込んでいたのかいかにもアサシンの様な格好していた敵兵が立っていた。
こんな場所で俺を殺したところで、その見返りが返って来る前に自身の安全が侵されている事に気が付けない所を見るに誰かがそうせざるを得ないと思わせる程に奴を追い込んだのだろう。それかこいつが底なしのバカなのかは知らないが。
「あなたですか…」
ピタリとアイリの動きが止まったと思うと、今度はいきなり立ち上がった。
彼女は腰に差していた細剣を引き抜きそいつに向かって刃を向ける。
「アイリスさ…アイリさん一体何を⁉︎」
突然立ち上がったアイリに何事かとダクネスが声をかける。
「貴方達はお父様や兄様を奪い…その上、お兄様まで奪うというのですか‼︎」
彼女の発言に世界が呼応したのか風が吹き大地が振動する。そして彼女の力なのか折角染めた黒髪が干上がるように金髪へと戻り、彼女の気配と言うか戦闘力がいつもの物とは桁外れに上昇した。
これが本来の彼女の力というわけなのだろうか?
「これは‼︎お待ちくださいアイリス様‼︎ええい誰でもいいからそこのやつを押さえろ‼︎」
ダクネスは何が起こったのかを即座に判断し周囲にいる兵士達に指示を出した。
「はい‼︎」
「あーやった‼︎これで元の生活に戻れる‼︎いえぇぇぇぇえ‼︎騎士団の連中見ていやがれ‼︎」
「ララティーナ⁉︎離してください‼︎お兄様の仇を討つのです‼︎」
荒れ狂うアイリをダクネスが抑えながら、俺を殺そうとした奴は逃げもせずに薬でもキメているのかイカれた様に自分の功績を自慢しており、存外呆気なく兵士に取り押さえられたがそいつはそのまま抵抗などはせずに不気味に笑っているだけだった。
自身の首から流れ出る血の量が酷いが、それでも結末ががどうになるか最後まで確認したかったが、そこで俺の意識は途絶えたのだった。