この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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ノーリッチ・リッチー

彼女に連れられ街にある教会に向かう。

このアクセルの街には教会が数箇所存在する。これは宗教毎に教会や寺があるように、どの女神を崇拝するかによって場所が変わってくる。

彼女が案内するのはエリス教の教会。実際に彼女がどの宗教に属すのかは分からないが、国教であるエリス教は基本的に困った人にはどこに属そうと応じなければいけない応酬義務とやらがあるらしい。

「着きましたよ、此処が教会ですね。他にも教会はありますけど…私の中ではここエリス教が一番ですね」

門前に着くと、コホンと軽く咳き込み得意げに説明を始める。他の宗教と比べ規模が違うらしく、炊き出しやイベントなども、このエリス教が主催で行われこの街に大きく貢献しているらしい。

 

「此処だと病院は無くて怪我は教会で見てもらうんだな」

「病院が何なのかは分かりませんけど、怪我とかは教会で治して貰えますよ。多少お金は取られますけど」

「えっ?神の使いが金取るのか?」

「当たり前じゃないですか、向こうの人達にも生活があるんですから」

 

教会にて治療を受けると寄付と称していくらかお金を払わないといけないらしい、しかしそこまで高いものではなくほんの少し気持ち程度らしい。

ゴブリンの報酬もあるし多少の出費なら大丈夫だろう、それにお金でこの腕が治るなら安い物だ。

門の入り口に立ち扉を開く。教会の内装は想像通りのもので、奥の祭壇から手前に向けて椅子が並べられ真ん中にレッドカーペットが敷かれている。

 

「貴方は…いえ、ようこそエリス教へ。洗礼ですか?それとも入信ですか?」

 

教会に入ると入り口に案内人なのかシスターが立っており話しかけられる。少し驚かれた様だが俺の不本意な悪名がここまで広がってきているのだろうか?

 

「あの、この人の腕の治療をお願いしたいんですけど」

 

彼女は俺の前から一歩前に出ると、俺の腕を指差し説明する。それを聞いたシスターに奥の部屋に案内される。

 

「まずそこに座って下さい」

 

案内された部屋の真ん中に椅子がポツンと置かれており、奥に設置されているテーブルには治療に使うのか色々な材料が置かれている。

 

「は、はい!」

 

案内されるがまま真ん中の椅子に座らされ、左腕の固定具を丁寧に外されていく。その動きは実に手馴れている言うかとても綺麗で見惚れてしまう位だった。

 

「ふむふむ、特に切傷や出血はないみたいですので消毒は必要ないですね。成る程、これは上腕骨の骨幹部の骨折ですね」

 

固定具を外し、患部が剥き出しになる。俺の腕は昨日まで綺麗だったものとは違い赤黒い痣と盛り上がった腫れによってグロテスクなものになっていた。

それをシスターは患部を指でなぞり触診し診断する。

因みにこの世界の回復魔法はただ魔法をかければいいのでは無く事前にどの様な状況を術者が知らないといけないらしく、細かく治癒しようとすればするほど知識が必要らしい。なので事前にこうして患部を触って色々確かめる必要があるのだ。

 

「では、いきますよ、ヒール」

 

腕の患部に手を当て魔法を唱える、魔法が発動し淡く優しい光が俺の腕を包むと腫れが徐々に引いていき最後には怪我する前の状態に戻る。

 

「おぉ、凄いですね」

 

思わず声が漏れる、骨折といえば昔骨を折ってしまい治るのに2、3ヶ月掛かって随分と苦労した思い出がある。それが目の前で数秒足らずで治ったのだ凄い感動と、俺の世界にもあったらなと行き場の無い悲しみに挟まれる。

 

「サトウさんは冒険者でしたっけ?」

 

ええ、そうですが?と答えると

 

「でしたら今回の一連の説明と流れを見ていたので、取得出来ると思いますよ」

 

マジすか⁉︎と冒険者カードを取り出し確認すると、そこにヒールの文字が書かれていた。

 

「え、良いんですか?治してもらった上に教えて頂いて?」

 

教会もお金を受け取っているし今財政に困っていないのだろうか?など色々考えていると。

 

「えぇ、本当は駄目です。なので私のお願いを一つ聞いて貰って良いですか?」

「後出し過ぎるだろ⁉︎」

 

どうやら俺は外れクジを引いてしまったらしい。そして俺が文句を言わないのを確認したのか、シスターはイタズラっぽく笑うと説明を始める。

 

「いやいや、サトウさんが礼に尽くす方で助かりました」

「実はここアクセルの共同墓地にゾンビメーカーが現れたみたいで、最近埋葬されていた遺体がアンデッドになって蘇ってウロついているんですよ。本来なら私達が行かないといけないんですけど、今忙しいのでちょっと狩ってきて貰えますか?」

 

シスターはちょっと買い物に行ってきてもらえますかと言う位のノリでとんでもない難題を叩きつけてきた。

 

「えぇ…」

「ん?安心してください、もし受けて頂けるなら退魔魔法をお教えしますので」

 

呆然としてるのを肯定と受け取ったのだろう、話がどんどん進んでいく。

 

「受けて頂けるって、俺が断れない状況にあるのを知ってて言っただろう‼︎」

 

シスターはふふふふと不敵に笑い

 

「そうでしたね、あと報酬は教会の方から出ますので」

 

そう言う問題じゃねえよ‼︎と言いたい所だが、これ以上は疲れるのでやめておいた。

 

 

 

 

 

その後初級の退魔魔法を教わり何とか習得し教会の部屋を後にする。

 

「では、任せましたよ。因みにギルドには私から伝えておきますので、夜遅く…深夜になったらお願いしますよ」

 

部屋から出る際に彼女に伝えられる、なんて女だ…まあでも色々スキルも教わったし悪い事ばかりじゃないか…。

 

「待たせたな」

 

部屋を出て大広間に出ると、ゆんゆんがベンチに座って待っているので声をかける。

 

「あ、カズマさん大丈夫ですよ、それで腕の調子はどうでしょうか?」

 

俺が来たのを確認し彼女は立ち上がり俺の前まで進むと、まず俺の左腕をまじまじと眺める。どうやら本当に治ったのか気になるようだ。

 

「あぁ、お陰でこの通りバッチシだ、色々ありがとな」

 

左肩をグルグル回し、安全な旨を表す。しかしこの世界に来て魔法と言うものには本当に驚かされる。

 

「治すもんも治したし、酒場に行こうか。話したいことがある」

 

キリッとした表情で彼女に話しかける。その表情に彼女は何かを察したのか、えぇ…という表情をしながらも酒場に向かう俺の後ろについてくる。

 

「さて、ではゆんゆん君は何故ここに呼ばれたか分かるかね」

 

教会から酒場までは若干距離はあるが道が平坦なので案外早めに着く。中に入り受付に確認すると既にクエストは受諾されており、受付嬢も面倒事に巻き込まれましたねと同情される。

もう逃げられない事を悟りつつも、空いてるテーブルへ先に彼女を案内し夕食を事前に注文して座る。

 

「えっと…何ででしょうか?」

 

突然な質問に彼女は戸惑いながら苦笑いを浮かべる。無理もないこれから俺がされた事をしようと言うのだから。

 

「まぁ、その何だ取り敢えず料理冷めるから食べようぜ」

 

ちょうど良いタイミングに料理が運び込まれ、俺たちの前に並べられる。

 

「あの、私注文してないんですけど、これって私の分ですか?」

 

並べられたのはこの酒場では高めのメニューで皆何かのお祝いなどでしか食べれない位に高い贅沢な料理である。

 

「そうだよ、ゆんゆんにはクエストで頑張ってもらったからね」

「本当ですか⁉︎」

 

それを聞いた彼女は嬉しそうに料理に手を付け出す。幸せそうに料理を頬張る彼女を見ていると自然とこちらも笑顔になる。彼女も俺も美味しい料理を食べ幸せな時間に浸る。

 

「食べたね」

 

幸せの時間も束の間、俺のこの一言により彼女の表情が凍りつく。

 

「ななな何ですか⁉︎これってカズマさんの奢りじゃないんですか?」

 

彼女はあたふたしながらも必死に逃げ道を探すかのように色々な言い訳を並べるも俺がそれを満面の笑みで眺めていると観念したのか。

 

「いきなりご馳走を並べられたのでそんな事だろうと思ってましたけど…それで何が目的なんですか?」

 

流石ゆんゆんだ、この少ない期間で俺の行動を読み既に諦めの境地に達している。

 

 

 

 

「えぇ…今日の夜ですか…今日はもう疲れましたし休もうと思ったんですけど…」

 

話を聞き終えた彼女はより一層疲れたような表情を浮かべ残りの料理に手をつける。

確かに時系列で見ると昨日ゴブリンを倒し今日馬車で帰宅したばかりだ、精神的にも肉体的にも辛いはずだろう。だがしかし、このクエストというか殆どのクエストは彼女なしには悔しいが達成出来ない。

 

「分かった、じゃあこれが終わったら次の日から暫く休もう。あと色々買い物に付き合って欲しいんだ、俺ここら辺の店をあまり知らないし、終わったらお礼に何か奢るよ」

 

取り敢えず困ったら餌を撒く、今まででの交流関係上大体はこれで何とかなる。しかし使い過ぎれば何かある度に色々要求され大変になるので使い過ぎは禁物だ。

 

「本当ですか⁉︎私と一緒にお買い物ですか?」

「お…おう」

 

渋々受けてくれるだろうと思っていたが。予想以上に嬉しかったのだろうか、彼女はガタっと立ち上がりこちらに距離を詰める。

 

「お買い物なら任せてください‼︎私、誰かと一緒に行きたい店を見つけてはノートにまとめているんです。」

 

もう三冊目になるんです、と彼女は付け足しながら胸を張る。そこは威張る所なのか?と思ったが彼女の機嫌が良くなったので黙ってる事にした。

 

「じゃあ宜しく頼むなゆんゆん」

「はい、任せて下さい‼︎アンデッドだろうが上級魔法で一発です!」

 

お酒は注文して無い筈なのだが、先程までの態度から一変した様子を見るに買い物とは恐ろしい力を秘めているんだな…。

彼女を説得する手札を手に入れ、何とか彼女の協力を取り付ける事に成功した。後は夜まで待つだけなので残りの料理に手を出し…って⁉︎

 

「おいゆんゆん‼︎俺の料理食ったろ⁉︎」

 

俺の楽しみにしていた唐揚げが皿ごと無くなり彼女の手前に唐揚げが乗っていたのと同じデザインの皿が重ねられている。

 

「えぇ⁉︎食べないのでいらないと思いました‼︎」

 

ふふふ、としてやった顔をしながら彼女は箸を進める。

人が楽しみ取っておいた物を…しかし今は我慢だ…無事ゾンビメーカーを倒したらスティールの刑にしてやる。

俺は仇を討つことを心に誓い、残りの料理に手を付ける。

 

「共同墓地に向かうんでしたっけ?それで何時頃に向かうんですか?」

 

ふと思ったのか、唐突に聞いてくる。

 

「アンデッドってお化けみたいなもんだろ?だから丑三つ刻じゃ無いのか?」

「お化けとは違うと思いますが…それと丑三つ刻って何ですか?」

 

キョトンと彼女は首を傾げる、どうやらこの世界には丑三つ刻の概念は無いようだ。

因みに丑三つ刻は延熹法による分類で子、丑、寅、辰、巳、未、申、酉、戌、亥に分かれる。

子は23時から1時の2時間を表し、その2時間を4等分して区切る。なので丑刻は1時から3時までの2時間を指し、三つ刻はそれの4等分の3なので合わせると2時から2時半になる。

 

「まあ何だ、2時ごろかな」

 

元の世界の常識が通じない事に若干面倒くささを感じながら伝えると、彼女は微妙な表情を浮かべ。

 

「2時頃って…まだ午後7時ですよ、後7時間位有りますけど…」

 

確かに彼女の言う通り目当ての時間までかなりの時間が空いてしまう。前の世界ならゲームでもしてればこの時間程度潰す事に大したことは無かったが、それは出来ない話だ。

物理的に考えて仕方あるまい。

 

「そこら辺はあれだ、暫くゆんゆんの遊びに付き合って、それが飽きてやること無くなったら仮眠を取ろう」

 

このギルドは夜行性のモンスター討伐する冒険者の為に無料で仮眠室が貸し出される。勿論それに対象するパーティーに限定されるがそれでも申し分ないだろう。それに時間が来たら起こしに来てくれるサービス付きである、まあ受付の人が起きてればの場合だが。

 

「本当ですか⁉︎じゃこの間見つけたUNOというゲームなんてどうでしょうか?ルールはよく分かりませんけどきっと面白い筈ですよ」

「いやそれ2人でやるやつじゃ無いから、こういうのはもっと人数が多い時にだな…」

 

なんだかんだ言いながらも結局は2人UNOをしながら時間を過ごす、このUNOのルールブックには俺の知らないローカルルールがだいぶ組み込まれており、俺達がルールを把握するのにだいぶ時間がかかった。

 

 

「それじゃ暫く寝るわ、もし俺が起きてこなかったら起こしてくれ」

「分かりました、逆に私が起きてこなかったら起こして下さい」

 

暫く2人だけでUNOを行っていたが、やはり2人だとすぐ飽きてしまったので他のゲームを引っ張り出し先程まで時間を潰していた。

彼女と別れ、男子専用の仮眠室に向かう。部屋は思ったより広く、左右に簡易ベットが二段ベットの様に段々と積まれる様に設置されており、それぞれのベットに簡易的な照明が設置されている。

部屋には俺以外誰もいない様で閑散としている。元々そんなに利用されていないのか、余り使用された様な感じはなく山小屋と比べると幾分か小綺麗である。

ヨッコイセっと布団を棚から引きずり出し寝そべる、そしてふとしたタイミングで眠っても良い様に目覚ましをセットする。この目覚ましのベルは何かの魔道具なのか仕掛けた人間にしか聞こえないという優れものだそうだ。

まあ指向性があっても今この部屋に俺しか居ないけど…

目覚ましをセットし安心したのか薄っすらと眠気が出てくる、そう言えば布団で眠るのも随分と久し振りだと思い、ゴロゴロと寝返りを打ちながら全身で布団の有難さを感じる。

そういえば、教わった呪文をまだ試していなかったと思い折角なので試す事にした。

 

「ターンアンデッド」

 

その呪文に反応してか部屋に円形の光が出現し、そこから淡い光の柱が立った。

これが今回教わった魔法、カテゴリーは退魔魔法に分類され悪しきもの以外は効果がないらしい、なので今回みたいに部屋で放っても特に問題はない。魔法自体のランクは低位だがゾンビメーカーを倒す分には問題ないらしい。それにアンデッドと言っても一度死んだ生命なだけなので最悪ゆんゆんの魔法でゴリ押そうと思えばいけるらしい。

まあ何とかなるだろう。それにこれが終われば暫く休みだ、これを機にゆっくりこの世界を探索するのも良いだろう。

そうこうしているうちに眠気が強くなり気が付けば寝ていた。

 

 

 

 

ピピピピピピッ‼︎

アラームの音と共に飛び起きる。どうやら大分深く眠っていたらしく少し頭がクラクラする。

念のため少し余裕を持たせておいたのが功を奏したのか時間まで少し微睡み、意識がはっきりしたので布団を使用済みの棚に入れ上着を羽織り酒場に向かう。

 

「お待たせゆんゆん」

 

酒場に着くと既に彼女がおり、残っていた職員に入れてもらったのだろうか、多分ホットミルクなる飲み物が入ったコップが前に二つ置かれていた。

 

「い、いえ私も先程戻った所です、あっこれ職員の方が私とカズマさんにって下さいました」

 

俺がテーブルに座ると、彼女の前に置かれているカップのうちの一つをこちらに寄越す。

 

「何これ?ホットミルク?」

「そうですね、ベースはそうなんですけど他に色々な薬草をブレンドして入ってる優れた飲み物、だそうです」

 

へーと思いながらコップを受け取り口につける。

 

「後すごく苦いので気をつけてください」

 

それを聞いたと同時に口の中に物凄い雑草を噛んだ様な苦味が広がり、思わず内容物を吐き出す。

 

「それを早く言え‼︎」

 

吐き出した物を雑巾で拭き取りながら抗議すると、彼女はえぇ…と気まずそうにした。

 

「はぁ…まあいいや、そろそろ二時だから向おう。失敗してまた明日なんて嫌だぜ」

「わ、分かりました」

 

残りの薬草ミルクを気合いで飲み干し、暫く苦さに悶絶する。彼女はよくこんなものが飲めるなと思い彼女のコップを見ると。

 

「ってゆんゆん全然飲んでねえじゃん⁉︎」

 

彼女のコップに入っている量は俺に渡された時の物と同じ位だった、つまり一口も飲んでない事になる。

 

「だってこれ苦いじゃないですか」

 

しれっと彼女はそう言った。

 

「自分が飲めない物を勧めんな‼︎」

 

 

 

 

彼女に軽く八つ当たりと言う名のお仕置き(内容は伏せておく)を済ませ、共同墓地に向かう。

共同墓地は街の外れにあり、言われなければ気付かないであろう位置に存在する。

この世界での埋葬法は土葬で、亡くなった人間の遺体をそのまま地面の中に未処理の状態で埋める。なのでゾンビメーカーなどによってその遺体がアンデッドに昇華され、こうして生きている人間に襲いかかることがあるらしい。

 

「なんか肌寒くなってきましたね、一枚多く着てくればよかったです。」

 

体をさすりながら彼女は震えている。この世界にも四季はあるみたいで、今は丁度冬寄りの秋になる。

 

「そうか?俺は普通だけど」

 

確かにこの時間は少し寒いが先程の薬草ミルクの効果なのか、薄ら寒く感じるこの時間帯になっても寒く感じず寧ろ丁度いい位だ。成る程、良薬苦しとはこの事か。

 

「そろそろ見えて来るぞ…やっぱり何かいるな敵感知が反応している」

 

あの丘から反応が一つ引っかかる。が、しかし何故か違和感を感じる。

 

「なあ、ゆんゆんゾンビメーカーって俺みたいな駆け出し冒険者でも倒せるくらい弱い奴なんだよな…」

「はい、一応そうなんですが…」

 

彼女も俺と同じ違和感を感じたのか、自信なさげに答える。この敵感知には凄く大雑把だがある程度相手の実力というか何かの存在力的な物を測ることができる。

今回感じたのは、前回のでかいゴブリン、ナイトゴブリンとか言った奴の物とは比べられない程大きな物だった。

 

「なんか嫌な気がするが、取り敢えず様子を見よう。それで駄目そうだったら一旦引き返そう」

「そうですね、取り合えず様子だけ見て今日は帰りましょう」

 

潜伏を使い、気配を立ちながら共同墓地に向かう。

墓地に着くと、青く発光した魔法陣が墓地の中心に敷かれ、そこに黒いローブを被った何者かが両手を挙げて佇み、その周りを魂なのか薄い光の玉がその者の周囲を漂っている。

 

「あれがゾンビメーカー?なんかやばい雰囲気がプンプンしているんだけど」

 

奴の雰囲気はもはやラスボスと言っても過言では無い空気が漂っている。

 

「カズマさん帰りませんか?教会の人には私も謝罪しに行きますから…」

 

彼女も不安なのか俺の襟を引っ張る。

しかし既に前金として半ば強引にだが、回復魔法を教わってしまっている。ここで引こうものなら後で悪評が立つかもしれない、冒険者としてただでさえ無名なのにその評判に傷がついてしまったらクエストを回して貰えないかもしれない。

彼女と打ち合わせ、取り敢えず1パターン打ち込んで駄目だったらすぐ逃げようと言う結論に至った。

 

「詠唱終わりました、後は放つだけです。カズマさんが定位置に着いたら開始しますね」

 

彼女は詠唱を済ませると、俺から手を離し暮石の後ろに身を隠す。

作戦は単純で、彼女が魔法を放ちそれで倒れれば良し、駄目なら魔法に気をとられている間に潜伏で気配の消えた俺が特攻しケリをつけるって言う作戦だ。

まあ駄目だったらそのまま各自逃走になる。

彼女と別れ、時計にして中心奴がいたら彼女は6時、俺は3時の位置に向かう。位置につき奴を確認すると未だに12時の方向を向き何か呟いており、こちらに気付いてはいないようだ。

手を挙げ彼女に合図する。コクっと頷き彼女は魔法を放つ。

 

「ライトニングストライク」

 

唱えると同時に奴の頭上に雷が轟音と共に飛来する。備えなしに落雷を落とされた奴は悲鳴をあげたが倒すまでには至らなかった。

 

「マジかよ…」

 

彼女は性格は控え目だが魔法使いとしての実力はこの街では右にいる者は居ないらしい。なんでそんな奴が俺のパーティーに居るのかは今は置いといて、そんな彼女の一撃を受けて尚立ち続けている事が驚きを隠せない。

だが、もしかしたら魔法に耐性を持っているだけ、とも受け取れる。ゲームにもよくある魔法無効みたいな効果モンスターも居る、このパターンがあるなら物理攻撃は通る可能性が大きい。

潜伏は未だに俺を隠している、それに奴は今魔法を放った彼女の方を見ている。

やるなら今しかない。剣を腰から抜き取り構え奴の首めがけて、走り突っ込む。

 

「貰った‼︎」

 

間合いは充分、奴は反撃する様子はなく寧ろ気づいていない様だ。右半身を右後方に半回転させ、左足でブレーキを掛けその反動を利用し右足を前に踏み込み、そして剣を持った上体を流れに任せ前に突き出す。

突き出された剣による突きは見事奴の首に位置する所にフード越しに当たる。

 

「何⁉︎」

 

思わず声が漏れる。

剣が当たる感覚はあったのだが、そこから先が無かった。ゴブリンの時を例に出せば肉を割く感覚なり骨を折る感覚などがあったが、今回はそれが無かった。それはそうコンクリートの壁に棒をぶつけた様なそんな感じだった。

しかし、それでも衝撃は伝わったのか奴は後方に仰け反り地面に着く。

 

「ターンアンデッド」

 

すぐさま体勢を立て直し、教わった退魔魔法を放つが奴には効かないのか身動ぎ一つ無い。

非常に不味い状況だ、魔法が効かない以上物理が効くはずだ、なら残る問題はレベル。彼女レベルは決して低く無いので俺のレベルが低い事が原因になる。

 

「ゆんゆん逃げろ‼︎俺が時間を稼ぐ‼︎」

 

尻餅をつき状況を読めずに混乱しているであろう奴に向かって、闇の炎を放とうとする。相手の実力が未知数な以上出し惜しみはできない、幸いこの辺りは街の外れにあるので焦土になっても多分大丈夫だろう。

 

「黒炎よ」

 

手の平の上に黒炎が球体状に生成されていく。

奴はそれに気付いたのか慌て始め。

 

「ちょちょっと!何ですか⁉︎いきなり襲ってきたと思ったら、それ地獄の炎じゃ無いですか⁉︎そんなの当てられたら私死んじゃいます‼︎」

「は?」

 

突然喋り始め、しかもフードを外すとその下は若い女性で、しかも下手に出てきたので拍子抜けし、思わず炎を消してしまった。

 

「カズマさんを置いてなんて行けません‼︎私も戦いますって、店員さん⁉︎」

 

遅れて彼女も追ってきたのか、息を切らしながら俺の後ろに立つ。命を投げ打って来てくれたのは嬉しいが俺の気持ちも考えて欲しい。

 

「ん?店員さん?何だそれは?」

 

突如出て来たワードに混乱する。どう言うことだ?

 

「あぁ先程のはゆんゆんさんでしたか。あの上級魔法、私だから大丈夫でしたけど普通の人に当てたらいけませんよ」

「は、はい。す、すいません…」

 

彼女も理解が追いついていないのか混乱した様で、素直に店員さんとやらの注意を受けている。

 

「で、あんた。何者なんだ?俺の攻撃が効かないのはともかく、ゆんゆんの魔法が効かない以上只者じゃ無いはずだ」

 

奴に敵意が無いことは分かったので取り敢えず質問する。

 

「ああ、私はウィズと申しましてリッチーをやってます。俗に言うノーライフキングやってます。ここに来たのは迷える魂を浄化する為に来ました」

 

リッチー、ゲームでしか聞いたことはないがかなり強かった記憶がある。

 

「そ、そうか…でもそれはプリーストの仕事じゃ無いのか?」

「はい、本来の仕事は教会の方々なんですけど、何せ拝金主義が…いえお金がない人たちは後回しになってしまい、ここみたいな寂れた場所なんかは魂で溢れかえってしまうんです。」

「成る程な要するにあのシスター達の尻拭いをさせられていた訳か」

「そう言う形になってしまいますかね」

 

事態はだいぶ把握出来た。どうやら彼女が魂を浄化している光景を誰かが見間違えてこんな事態になった、おおよそだがそんな所だろうか。

 

「でもなぁ俺たちはゾンビメーカーを退治しろって言われてここに来たから手ぶらで帰る訳にはいかないんだよな」

 

そう言いウィズに腕を向ける。先程の炎を思い出したのかウィズはヒィっと後ろに仰け反る。

その怯える様子に罪悪感を感じているとゆんゆんが

 

「流石にそれは可哀想じゃないですか…私店員さ…ウィズさんにはお世話になっていますので見逃してあげられませんか?」

 

俺のチートを知らない彼女は多分スティールをかますと思っているのだろうか、ウィズをかばう。

 

「いや…でもなぁ流石にここまで来て何の成果も得られませんでした、じゃメンツが立たないしな」

「分かりました‼︎お金は最近赤字続きでありませんが、教会には私から口添えしますし、カズマさんは冒険者でしたよね。でしたらリッチーのスキルなんてどうでしょうか?自分で言うのもなんですが大変珍しいと思いますよ」

「確かにそれならメンツも立つしスキルも貰えて良いかもな、でどこに行けばウィズに会えるんだ?」

「それなら、街で魔道具店を開いていますのでそちらに来て頂ければ」

「オッケー了解したよ」

 

スッと彼女に手を出すとウィズはその手を取った。クエストは失敗に終わったが得るものはあった、これにて取り引きは完了だ。

 

「あの、私は何の為に来たんですかね…」

 

ボソッと後ろで何か聞こえたが気にしないことにした。

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