「お兄様‼︎何処にいかれるのでしょうか?」
「ああ、ちょっとな」
「でしたら御一緒しますね」
「いやいやトイレだから…流石にちょっとな」
「…そうですか」
あれから何をするにも一緒に着いてきたがるアイリを何とか撒きながらトイレへと逃げ込む。
まるで親戚の子に気に入られたみたいな感じで微笑ましいが、流石にトイレまで着いてこられるのは勘弁して欲しい所だ。
明日の昼、正確にはその前に出発になるのだがこのままでは些か準備不足になってしまうのではないだろうか?
いやベットに入って何を考えているのだろうか俺は…
「えへへ…お兄様…ずっと一緒ですよ…」
隣で当たり前に眠っている彼女の寝顔を眺める、こうして一緒に寝るのも最後かもしれないなと哀愁を感じながら瞼を閉じ深い眠りに意識を落とす。
「はっ⁉︎」
目が覚める。
部屋の明るさは朝の様な弱い光ではなくしっかりとした強い光で照らされており、それは予定していた時刻よりも大分過ぎていることを示していた。
何か口周りがベタネタするが涎でも溢したのだろう、今はそんな事を気にしている場合ではなく早く準備をしなくてはいけない。
「アイリ起きろ‼︎」
「…ふぇぇ」
普段ならキッチリと起きては…いなかったな…とりあえず寝ぼけている彼女を叩き起こし着替えるように指示を指す。
「うむ、時間通りだな準備はいいか?」
「ああ、大丈夫だ」
そこから急いで準備を済ませ関所の前に馬車を停めているダクネスに合流する。
やはり最終決戦なだけあって彼女の装備もいつもの鎧に何かしらの細工を施されているようで少し異質な雰囲気を漂わせていた。
「ではアイリス様を連れて馬車に乗ってくれ、私は御者席で周囲の監視をする」
「ああ、任せたよ」
どうやら間に合った様で寝坊した事を悟られた様な感じはなかったが、どうもあの雰囲気を纏ったダクネスはやりずらい。
人間にはその時々の場面場面に人格を変えるとは言うが、今まで生きてきてあそこまで変わる人間を見たのは初めてだ。
「お兄様、お兄様」
「どうしたアイリ?何か忘れ物でもしたか?今ならダクネスに言えば間に合うけど」
馬車の中に設置された椅子に俺が腰を掛け広い室内だと言うのにわざわざ俺の隣に陣取ったかと思うと少し控えめな当たりで話しかけてくる。
「このままアクセルに戻ると言うのはどうでしょうか?」
「は?」
無邪気に笑いながらそう言った彼女の真意が分からず思考が停止する。
彼女は一体何を何を言っているのだろうか?
「ですからこれからの戦いはララティーナに任せて、私達はアクセルに戻りましょうと言っているのですが?」
「…あぁ」
どうやら発言は俺の聞き間違えではなかったようだ。
やはり彼女に一国を背負わせるには無理があったのだろうか?
ここまできて変更などは出来ない…いや出来るはずがない。
既に兵士は進軍を開始し既に王都に着く時間になっている。今までやってきた事もこれから起きる事も全て責任はダクネスが担いここまで何とかやってきたのだ。これをいきなり放り投げてしまえば最悪ダクネスの身分どころか命すら危うくなってしまい、ここまできた兵士や貴族達をに無駄骨を踏ませ欺いたことになる。
そしてそれがどのような結末を示すのが分からないほど俺も馬鹿ではない。
「お兄様は潜伏スキルと気配を残すスキルがあると前に言っていたのでそれを使えば難なくいけると思います」
「あのなアイリ」
「何でしょうか?」
「ここまでみんなアイリの為に身を粉にして頑張ってきたんだぞ?それをアイリの我儘で全部台無しにするつもりか?」
あくまで傷つけないように優しく諭す様に伝える。もしかしたらアイリも決戦を前に緊張しているのかもしれない。
「どういう事でしょうか?それは皆さんが勝手にやった事です。それよりも私はお兄様と…ーっ⁉︎」
「…ごめんな」
彼女の発言に思わず手が出てしまう。
彼女からすれば今起きている物事の全て自分の関与しないまま進んでいるので結局の所自身が中心に居る自覚はなく他人事に映っているのだ。
記憶を失っている彼女の人格からしてそんな事を言う筈は無いのだろう、やはりまだ家族の死と言うものを理解しきれていないのだろう。
手を出してしまった事は申し訳無いと思うが、それ以上の言葉を彼女に言わせる訳にはいかなかったのだ。
「…………そうですか」
頬を叩かれた彼女は信じられないものを見るような目で俺を見つめた後に何かに気づいたのか表情が消え、そのまま馬車の外に顔を向け景色を眺めていた。
彼女も単独行動をする俺の安否を気遣っての事かもしれなかったのかもと思い反省しそれも含めて謝ろうかと思ったが、今はまだ距離をおこうと思い席を少し離そうとするが俺の腕は彼女に抱きつかれたまま動く事はなかった。
あれから沈黙に耐えながら待っていると目的地に到着したのか馬車の揺れが止まり、扉が開かれダクネスに迎えられアイリに掴まれたまま降車する。
場所は王都の手前で関所の様に結界が張られ周囲の兵士達を隠している様だった。
「数が増えたのか?」
「ああ、念のため少し少なく申告していたのだが今回はそれが裏目に出た様だ」
「まあ今回の作戦なら戦士が多くても問題ないからな」
どうやら作戦を立てる際に俺に伝えていた兵士の数は本当に最低揃う数だったようで、今回は集まれるだけ集まってしまったようだ。
「終わった後の褒賞とか大変だな…」
これだけの人員を動かすとなると、それなりに人件費が発生してしまうのではないかと無駄な心配をしてしまう。いくら名家といえどもその私財には限りがあるだろう。
「その辺りは気にするな、今回の戦いはそれぞれの貴族の身分を賭けた戦いだ。兵士の報酬はそれぞれの私兵としての給料として家が払ってくれるだろう」
「成る程な、それで奴らには既得権益の維持を与えるのか?」
「そうだな功績を残せば王兄に着いていた貴族の身分が空くから陞爵も出来ると言う訳だ」
「へー中々考えてるんだな」
「当たり前だ、何の餌も無しに貴族が動く訳ないだろう」
「確かにな」
ついでに俺も何か褒賞でも貰おうかと思ったが、流石に冗談を言える空気では無かったので喉元で留めておく。
「お兄様は位が欲しいのですか?」
「ん?ああ、そうだな貰えるんだったら欲しいかな」
やっと口を開いたかと思ったら何やら不穏な事を言い出した。
「アイリス様、そろそろ作戦開始時刻になりますのでその男から離れて私の元へ」
「…」
「アイリ?」
「…いえ、何でもありません。お兄様無事に作戦を終えてくださいね」
余裕を持って出発したつもりだったが以外にも時間が掛かってしまい作戦開始時間がギリギリに迫っているので、ダクネスは急いで皆を作戦の通りに配置されているかの確認をしてアイリを連れて行こうとしたが彼女は俺の腕から離れようとしなかったので不審に思い問い掛けたが彼女は何かを決心した様に背筋を伸ばし俺に声を掛けるダクネスの元へと離れていった。
「カズマ、任せたぞ」
「おう、任せておけ。関所のようにスムーズに終わらせてやるぜ」
ダクネスにそう言い残し兵士の集団から離れ一人王都へと向かう。
これから決戦前の号令等々やアイリの演説があるので残りたかったが、そんな事をしていると作戦に支障が出てしまうので諦めざるを得ない。
アイリの態度が気にかかるが、彼女と向き合うのは全てが終わってからでも遅くはないと自分に言い聞かせながら不安を払拭させる。
ポケットに入れていた図面と実際の景色を見比べながら現実と脳内イメージの差を埋めていく。
旅行などを例にすればわかりやすいだろうか?旅行前にそれをまとめた雑誌に掲載されている地図を必死に暗記したが、当日はその知識が役に立たず道路を一本間違えたり目印にしていた建物が変わったりして迷ったりなど色々苦労したものだ。
「ここか…」
王都の外壁の裏側から少し離れた今は誰も住んでいない遺跡のような廃村に辿り着く。他にも経路があるのだが、城以前に王都の街自体の門もしまっているのでかなり迂回する流れになったのだ。
既に色々なトレジャーハンターに荒らすだけ荒らされて何もないかの様に見えるが、ダクネスが言うには設計図に描かれた隠し通路と繋がっているとの事だ。
しかし一体何処から繋がっているかは流石のダクネスにも分からないようだったので現地で直接探して欲しいと伝えられたが、一体何処から入れば良いのやら…
漫画では何かしらのヒントがあるのだが俺が居るのは異世界だとしても現実なのでそう都合よく答えがわかるなんてことは無い。
ならば逆に俺だったらどうするかと考える。
心理戦においてよく使う手であくまで選択肢の一つにしておかなければ裏をかかれてしまうが、上手くいけば仕組みの一部を見抜く手段になり得るのだ。
廃村の中心に立ち感知スキルを広げる。
俺がこの村に隠し通路を作るとしたらどうするか?
一つは村長の家の地下だろう、そこであればセキュリティもしっかりしているし人が簡単に出入りしたりもしないだろう。
しかし、それ故に何かあった際に最も探されてしまう場所でもある。ダクネス曰く侵入経路不明の侵入者は今までいた事は無かったそうだ。
捉えた侵入者に対してどう口を割らせたかは聞かなかったが、彼女の表情からするにただ聞いたわけではなさそうだった。
取り敢えず村長の家のような大きな建物を捜索するが、隠し通路のようなものは出てこなかった。
ついでに何か良さそうな物もないか確認したがそういった物も出てくることも無かった。
であれば後は村の中心か外れの方に何か分からない様な細工を施す可能性を信じることにして、村中心に設置されている噴水の方へ足を運ぶ。
一見なんて事ない噴水の様だが、本当になんて事なかったらそれはそれで嫌なので何か仕掛けがないかとクマなく探す。
「これか?」
何やら日本語と英語の混ぜられた文章が模様の中に細かく隠されている事に気づく。
よく見ないと気づかない様に細工されており、何の仕掛けか色々な感知スキル全てに反応しないという難易度が高くワードのセンスからして俺以外に見つられないし解けないのではないだろうかという程の難解さだった。
そういえば俺達転生者の時間軸は同じ時間帯なのだろうか?
今の所遭遇したのはミツルギだけだが、結局のところ俺と同じ時代を生きていたのかどうかを聞いていない。もしかしたら過去の人物かもしれないし俺のいた時代よりも未来の人間かもしれない可能性がある。
もし俺達の時間軸がバラバラであったのなら多分俺と同じ時代の人間が王都設立に関わったのだろう、言葉のセンスや文法の使い方などはその時代に左右されるので俺が理解できるのも頷ける。
つまり魔王討伐のために日本から人員が送られてくるのはこの世界の運営にシステムとして組み込まれていると言う話になる。
この噴水に仕掛けをするなんて発想はRPGゲームによく使われる手法なので日本での80年代から先の人間の説が高い。もしかしたらこれから先もゲームを参考にすればいけるかもしれない。
噴水のデザインに紛れ込んでいる言葉をまとめ、隠されている仕組みを作動させる。
経年劣化や砂が間に挟まっていたりして苦戦したが、風の魔法などで上手く立ち回ることができた。やはりレトロな仕掛けの方が最新技術よりも持ちがいいとはよく言ったものだ。
作動した事により地震の様な地響きが起き、その後噴水の器の底に階段の様な入り口が現れる。
「中々趣味に凝ってるな…」
当時は財政も潤っていたのか中の洞窟の壁面には様々な絵が描かれていた。
日本であれば新しい歴史的財産だといってニュースになるが、この世界において古い物は貴族にとってのコレクションやステータスにしかならないのでこれはただの壁画でしかないのだ。
しかし、当時の歴史というものにも若干興味がなくはない。
ダクネスには発見を含めて時間がかかると伝えているのでまだ時間には余裕ある、これから国の展望を左右する戦いがあるという緊張感がなくはないのだが折角なので見ていく事にする。
…まあ気になって作戦に身が入らない可能性もなくは無いのだ。
「へーどれどれ…」
壁画を眺めると右側には前に見たエリス神が大勢の人間から羨望の眼差しを受けている絵や、女の子供を従えながら作業員に指示を出しているものや当時の国王らしき人物と対談している絵が描かれてる。
反対に左側には王家の一族の歴史だろうか、アイリっぽい女性の絵などが描かれこの国の成り立ちのような歴史が描かれている。簡単にいえば国王がどう成り上がっているかというものだった。
面白いのはそのどれにも一人の日本人らしき人物の絵が描かれている所だ。
デストロイヤーといい昔の日本人はこの世界の歴史を変えてきたのだなと思い、やはり国などの仕組みや文化などが漫画で見た様なものを含め人間臭さを放っていたのがようやく納得できた。
やはり土台を作ったのは俺達の世界の住民だというわけか…
出来ればあって話をしてみたいがそんな事は時間を超える何かが無ければ不可能だろう。
壁画を眺めながら進んでいるとようやく目的の場所に着いたのか行き止まりにあたる。
どうやって侵入するのかと思ったが、壁が陥凹して梯子の様になっていたのでそこに手足を掛けて登っていき、徐々に幅が狭くなりながらやがて天井につくと頭上に取手の様な物がついていたのでそれを押し込み上蓋を開ける。
意外にスムーズに開くんだなと思いながら這い上がると設計図通りに地下の部屋に辿り着く。
この城を設計した人間はあらゆる危険を想定したのかそれとも元々こうなる事を予測していたのか、この部屋自体も隠し部屋となっており大人数を匿える広さや、城の正面の門などの開城を遠隔に行える仕様になっているらしい。
この部屋に設置されている設備で門を時間通りに開き、それを合図に兵が城に流れ込んでいくという算段になっている。
時間を測るのが腰からぶら下げた砂時計と言うのが忍びないが、機械が絡繰しかないこの世界においては最も信頼できる物だろう。
砂時計を見るとやはり壁画を見るのに時間を取っていたのか上の砂の量が大分少なくなっていた。
ここまでやっといて自分が時間通りに行きませんでしただなんてアイリに顔が立たなくなってしまうところだった。
「ーーっ⁉︎」
危ない危ないと思いながら蓋を閉じ視線を前に向けるとそこには
「やあ、久しぶりだね」
アイリ達の言っていた深いフードを被ったローブ姿の人間が立っていた。
「お前は…誰だ?何故あんな奴についてこの国をひっくり返そうとするんだ?」
高級感というか異質なオーラを放つローブに腰には装飾の施された剣が携えられている。
感知スキルに鑑定スキルを混ぜると二つとも高い魔力が感じられ、それらの他にも全身には様々な神具を感じさせる気配が見受けられた。
こいつが一人で全てをひっくり返した敵の主力という事になる。
出会うには正直早過ぎるが、これでアイリ達が奴と合流して全滅する可能性が無くなったと思えれば好機なのだろう。
問題は門を開く前にそいつに出会ってしまったという事だ。
奴の実力はアイリから言えば自身よりも倍は強いとの事で、記憶を取り戻したアイリと手合わせした感じからして俺が正攻法で勝てる確率はほぼ無いだろう。
そうなれば必然的に搦手などを使う事になるのだが、その手を使えば例え勝てたとしても時間が間に合わなくなってしまう。
門を開いたのちこいつと遭遇して時間を稼ぐのがベストだったのだが、やはり現実は上手くいかずに厄介な事になってしまう。
「誰だって?何を今更…ってそうかこれじゃあ分からなかったね。認識阻害のローブを付けながら分かれと言うのも無理な話だったね」
そう言いながら奴はローブを降ろし素顔を明らかにした。
「改めて言うよ、久しぶりだねサトウカズマ。紅魔の里で蛇みたいな女を殺して以来だね」
「お前はバルターか…」
やはりローブの正体は貴族だった様だ。
紅魔の里の一件で休みを貰っていると言っていたので貴族らしくバカンスにでもいっているのかと思ったが、まさか国家転覆に加担しているだなんて流石の俺でも確信を持てる余地はなかっただろう。
「驚いたかい?」
「いや、驚いたと言うより納得したって感じだな。むしろ厄介な奴が一人に纏ってくれて助かった感じだな」
「そうかい、それはよかったね。それで何か僕に聞きたいこととか無いかい?」
余程自分に自信があるのかバルターはいつも浮かべている笑みを少しも崩さずこんな状況にも関わらず爽やかのままの好青年キャラを維持している。
「そんなものは無ぇよ、悪いけど時間が押しているんでな。お前をここで倒して門を開かせて貰うぞ‼︎」
腰に携えた剣を抜いていない事をいい事に無拍子でナイフを投擲したのち剣を抜き奴との距離を詰める。
「ーーー何⁉︎」
これで奴を仕留め切ることは出来ないとしてもダメージを与えられる事は出来ると確信できる状況であったのに、奴は俺の投げたナイフを全て掴みあまつさえそのナイフで俺の切り掛かりを片手間の如く受け止めたのだ。
「ああ、そうだったそうだった。折角君に会えたのだから話をしたくてつい君の事情を忘れていたよ」
「何…ごはっ⁉︎」
感知スキルを振り切る速度で膝蹴りが放たれ俺の鳩尾を蹴り抜き俺の肺から全ての空気が抜け、その隙を突くかのように回し蹴りが続いて放たれ部屋の隅まで飛ばされる。
圧倒的実力…これ程の手練れとは今まで出会った事がない。
身体的ステータスにおいては魔王軍団幹部に劣るが、動きや技のキレにおいては今まで会った幹部の実力を有に上回っている。
「くっ…」
どうする?
奴には勝てないと思ってはいたが、時間は稼げる事もできないほど実力が開いているなんて思ってもいなかった。
支援魔法を最低限しか使っていないという言い訳はあるが、ここで全力を出せばレバーを作動させるため注意を奴と戦いつつ行い、尚且つ老朽化したレバーを壊さないように加減もしなくてはいけないという三重苦にみまわれる。
「そう睨むなよ。ほら、これで君の目標も完了しただろ?」
「え?」
そう言いながら奴は苦しみながら地面に横たわっている俺に目もくれず、壁に仕掛けられた装置をなんの躊躇いもなく発動させる。
レバーが引かれた事による絡繰独特の動作音とともに上の階にあるであろう城門等々が開かれる音が俺のいる部屋に鳴り響く。
感知スキルの幅を全開に開くと大分精度は落ちるが、俺が作戦を成功させたと判断してダクネス達が兵を出動させた様で沢山の気配群が迫っているのを感じる。
奴の言う通り、これにより開門とフードの足止めの二つの目標が完了された。
「これから君は僕とお話をして足止めをしなくてはいけない筈だろ?ほらこれで君と言葉を交わす事ができるな」
「狂っているのか?それとも俺たちの仲間なのか?」
俺の手助けをした為か、本来ならあり得ない質問を相手にしてしまう。
「違うね、ただ僕の目的が君達が考えている物とは違うと言うわけさ」
「へぇ、お前にとっては王兄もこの国家転覆も全ては手段でしかないと言う訳か」
ほう、とまるで確信を突かれた様な驚いた表情をしながらどこかで分かってはいた感じの表情を浮かべた。
相手が大切にしてきた様に見えるものを自身で簡単に捨てたり踏み躙ったりする場合は大抵それはどうでもいいもので、本当の狙いや物は他にある事が多い。それが予想外のタイミングで発現すると人間は狂っていると断定してしまうが、これはただの認識の相違なのだ。
「流石だね。わざわざここまでした甲斐があったってわけだ」
「ふざけんじゃねぞ‼︎人の命は…」
「オモチャじゃないって感じかな?」
「なっ⁉︎」
まるで俺がそう言う事が分かっていたかの様に言葉を被せてきた。
「僕はね、君とそんな話をする為にここにきた訳じゃないんだよ」
「じゃあ何だって言うんだよ、お友達にでもなりたいってか⁉︎」
「そうとも」
「はあ?頭でもイカれているのか?」
堂々と友達宣言を始める奴に対して再び頭が混乱する。
上層ではすでに開戦がしたのか、魔法が放たれることや剣がぶつかり合う音や罵声がこちらまで響いてくる。
「なんて言ったらいいのだろうね?話を戻すけど今日は軽い挨拶の続きのような感じかな」
「挨拶の為にこの国を滅茶苦茶にしたのか?国王まで殺して」
「ああ、それは違うよ。今回の騒動はあくまでついでだね、まあ今となってはどっちがついでになったのかは分からないけど」
「そうかよ、けどいいのか?この戦いで王兄が負ければアレクセイ家の地位はガタ落ちだぞ?」
「それに関してはどうでもいいかな?今回は僕のプライベートでね、アレクセイ家は全く関わりが無いんだ、多分君が敵視している王も僕がアレクセイ家の人間である事を知らないと思うよ」
つまり勝って国家を掌握しても奴の家格が上がることが無い代わりに負けて没落する危険もないと言う事か。
奴は本当にこの戦いをただ楽しんでいるだけになる。
「それに例え僕が僕だってバレても気にしはしないかな。君には分からないけど貴族の生活は結構つまらないんだ、寝ても覚めてもみんな金と自身の地位の話しかしないし貴族は失敗したなって感じかな?」
「何だそれは裕福な生活よりも刺激が欲しいのかよ」
やはりアイリの様に貴族故の地位に縛られ、自身のやりたい事が周囲の目によって制限されている息苦しさに耐えられなくなったと言う事なのか。
「それだね、貴族になれば色々悪い事が出来ると思ったけど、結局どれも地味でね…貴族としてやる準備は全て完了したし最後に面白い事をしようと思ってね」
「娯楽という事かよ、だとしたら俺はお前の脚本のショーを見せられているという訳か」
つまり奴は次の段階に進んだ記念として国をひっくり返したと言う事になる。
アレクセイ家である以上財産はあるので準備となるとかなりのものを用意していると考えた方がいい、それに奴は魔術師殺しをほぼ無傷の状態で回収している。
「まあ城の警備が全て無くなった状態でやりたい事もあったから完全に娯楽というわけはないんだけどね」
そう言えば色々したなと思い当たる事があったのか言葉を訂正する。
「それでお前の最終目的なんなんだよ?」
抜いた剣の柄を握る力を強めいつでも切り掛かれる様に準備する。
「それを言ったら面白くないだろ?自分で考えるといい」
「それじゃ何故俺を殺さない、俺を生かして話をする意味を教えろ‼︎」
最初は日本の情報か魔王軍幹部についてかクリスに関連する情報を聞き出そうとしているのかと思ったが、遠回しにもそれらに触れるような質問が飛んでくる事はなく単純に自分の悪事を聞いてほしい悪ガキと話している気分なのだ。
「そうだね、これは君には理解出来ないかと思うけど…そうだね全部話すと長くなるから掻い摘んで話すと僕はね全てが上手くいくと飽きてしまうんだ」
「飽き…何だって?」
「例えるなら子供と戦っても簡単に倒せるから張り合いがないだろ?それと一緒さ全てが上手くいき過ぎると飽きてしまったりいつでも出来ると思って計画を後回しにしてしまってね…今回の計画も本来の予定よりも随分と遅れていたんだよ」
はははと自身の部屋の散らかっている様を見られて開き直るかのように奴は少し恥ずかしそうに笑った。
「その邪魔役に選ばれたという訳か、光栄だよ」
「そうさ、だが君はまだ弱い。この程度では私の邪魔をするどころか道端の石ころにもなれはしない」
計画が上手くいき過ぎるからその対抗馬のような存在が欲しいという事だが、本当にそうなのだろうか?逆にそうでなかった場合奴が俺を生かす理由は一体何なのだろうか?
ここまで用意周到な奴が、そんなくだらない理由で俺を利用するのか?本当に抑止力が欲しいのであればこんな回りくどい事はせずに最初から国王に喧嘩を売ればいいだけの話だ。
疑問が疑問を呼ぶが、今はそんな事を考えている場合ではない。
例えこいつをここに留めておいたから全てが滞りなくいくとは限らない。
いくら一度追い詰めているとはいえ王兄もただの馬鹿ではないはず、再び自身を狙う連中らが来ると予想して迎撃する準備をしているはずだ。
ダクネス達にはフード男…バルターの対策を行わせていたが、それ故に他の対策が万全ではなくなっている。それ故に俺が色々対応出来る様に先行する事になっていたのだ。
剣を構え支援魔法を身体が自壊するギリギリまで上昇させる。
奴の真の目的は分からないが現時点の奴の目標が俺を生かした状態での足止めだった場合を想定すると、今の状況は俺達にとっては危険になる。
「だから君は………成る程、やはり君は面白いなサトウカズマ」
剣を向け闘志を滾らせる俺を見て奴は今までの爽やかな笑みを変え、本当に心から笑っているような何とも言えない笑みを浮かべながら腰に携えた刀を引き抜く。
「魔王軍幹部と渡りあった君の実力を見せてもらおう…あまり僕を失望させないでくれよ」
全身強化し、少し強化酔いが残る最中俺は再び奴に斬りかかった。