話の都合上六花の少女の後半はこの話が終わった後になります…
「一度行った特別な行動は知らぬ間に繰り返し行われ、やがてその特別が失われ恒常的な手段へと墜落する。覚えておいてね」
「どういう事だよ?」
「そのままの意味だよ。物語を使って簡単に説明すると一度限界を超えた力を使った人はその力を乱用して気付けば上位互換の技を使っているって感じかな?」
「成る程な…一度手を染めたらタガが外れちまうって感じか?」
「そうそう、だから自分が引いた一線を越える時はよく考えてからにした方がいいからね」
クリスの訓練が佳境に入り、シスターによって欠損した肉体をいつでも回復出来る事をいい事に、全ての反則技が使用可能になるというとんでもないルールの元行われた手合わせの休憩中に彼女はそう語り出した。
笑いながら目玉をくり抜いてこようとするサイコパス・クリスを見て冷や汗が止まらなかったが、彼女はその行為に関して抵抗がなくなってしまっているのだろう。
一度行った行為は恒常化する。
それは今まで取捨選択してきていた選択肢に今まで存在しなかったものが紛れ込む事を指す。
今回の件を例に例えるのであれば、人を殺してしまったと言う行為だ。
「いいかい?君がもし嫌だなと思う人に出会って嫌な行為をされたとする。その時に君が行う行為といえば精々嫌がらせが関の山だ…まあ私からしたらそれはそれで嫌だったんだけどね…」
暗闇の宙に浮かぶクリスは苦虫を噛んだような渋い表情を浮かべながらそう語る。
「今まで君が考えると言えば、どうやって嫌がらせをしようかとしか考えていなかったよね。けれどこれからは違う、これからの君の頭の中にはどのように殺して証拠隠滅を計るかを意識をしなくても頭にチラついてくる筈だよ」
「結局クリスは何が言いたいんだ?」
まるで宇宙ステーションの無重力空間にいるような動きをしている彼女に問いを返す。
「…そうだね。君は既に超えてはいけないラインを超えてしまったって事だよ。その理由が例えどんなに仕方がなかったとしてもね」
「そうだな、確かに俺は王兄を殺しちまった。けどそれでなんで俺の意識が変わるんだ?もう殺さなきゃいいだけじゃ無いのか?」
「違うよ、君は私の話を聞いていなかったの?」
はぁと呆れる様な表情を浮かべながら彼女は胡座を描きながら横に回転している。
「そうだね…この例えをするのは私としてもどうかと思うけど…些か元の意味と違ってくるけど食わず嫌いってあるでしょ?あれと一緒だよ。今までやったことの無い作業や普通はやらない手段を使った作業があるとするでしょ、最初は従来通りの方法を使うけど、ある時普段とは違う特殊な方法を使わざるを得なかった場合にそれを経験すると頭にその方法がインプットされるわけだね、それでまた別の日に新しい作業をするとき従来の方法よりの前回知った特殊な方法の方が効率がいいと分かったら君はその手段を使ってしまうわけだよ」
「成る程な…つまり人を殺した方が効率がいいと分かったらそうしてしまうという、効率主義に落ちいる切符を手にしてしまったって事か?」
「そうだね、極論一度殺してしまったしもう一人殺しても変わらないって思う危険性があるって事」
集団的行動が必要とされる人間社会で人とは違う感性を会得した個体は、遅かれ早かれその個性により群れから孤立し淘汰されると聞く。
「分かってくれて嬉しいよ、まあこれも夢だから君は殆ど覚えていないんだけどね」
「何だよそれ」
ふざけていると思ったが、そもそも黒い空間で彼女が浮かんでいる時点で夢以外あり得ないと気づくべきなのだが…そもそも何かイレギュラーが存在してもそれを当たり前の様に受け入れて話が進むのが夢というものだが…いや夢の住民である彼女がこれは夢だと話す事はあるのだろうか?
まあ夢である以上は話の内容もクリスも全て俺が用意した台本と人形に過ぎず、彼女の口する言葉も全て俺が自分自身に言いたい事を代弁させているに過ぎない。
夢のリソースとして俺自身の記憶を利用している以上、仕方がないとしか言えないが俺自身人を殺めた事に動揺しているのだろう。だからこそ人を殺めた事を責めるよりもその先の警戒に意識を向けて罪の意識を誤魔化そうとしているのだろう。
都合の良い内容は欲求不満の解消・悪夢は良心の呵責や罪の意識、悩みの具現化・何でも無い内容の夢は退屈を指すと聞いた事はあるが、この夢は一体何にカテゴライズされるのだろうか?
「それじゃまた後で会おうか…助手くん」
考えているとイマジナリークリスは別れの挨拶をすると何処からか現れたのか謎の光に包まれていった。
どうせだったらゆんゆんがよかったなと、久しく会っていないパートナーに思いを馳せてみたが結局彼女が現れる事はなかった。
「……」
やはり夢だったのか気付けば見覚えのある部屋に寝かされていた様で、目の前には鉄格子が聳え立っていた。
王兄を殺めた後、俺はクレアが率いるシンフォニア家の兵士に囲まれたと思ったら瞬く間に身柄を拘束されてしまった。
バルターのダメージと王兄との戦闘や人の膿の中に潜った時の疲労が強く、結局何の抵抗も出来ずに取り押さえられ気付けば気を失わされていた。
拘束の最中、アイリは俺の様にぞんざい扱われる様な事は無く、状況に頭が追いつかないのか、それとも俺に対しての罪悪感で思考を放棄しているのか放心状態で座っておりそれを見たクレアは自ら上着を彼女掛けると何処かに連れて行ってしまった。
過激派とはいえ、その原動力がアイリである以上は彼女に何かしらの直接的被害が起こることは無いとは思うが、もし彼女がクレアに反抗すればそれはそれで面倒な事になりそうだ。
しかし牢屋に入れられるとは流石に思わなかったな…
周囲を見れば掃除がまだ終わっていないのだろう、所々に血飛沫などの血痕が目に入る。気絶させられたとは言え我ながらよくこんな所で一晩過ごせたと思う。
現状としては両手足をバインドで拘束され宝剣はもちろん魔法剣も没収されている様だ。
まあ剣が無くてもある程度は戦えるが、それなりに時を共にしたので愛着が無いとは言い切れない。できれば回収したいものだが…
俺がこんな状況にあればアイリが黙ってはいないだろうが、あの女の事だどうせ俺の事は治療中なので隔離しましたとでも言っているのだろう。
ここで抜け出すと皆に迷惑が掛かりそうなのでやめたいが、このままでは俺に迷惑がかかってしまうので脱出しようかと思う。
幸いにもクレアには冒険者と侮られているのか、俺が収容されている牢屋は魔法を封じる対ウィザード用の部屋では無い様で、ここから抜け出す際に障害となるであろう殆どの制限はあってないようなものだ。
それで抜け出した時の算段だが、取り敢えずはダクネスを見つけ協力させてアイリと合流しよう。それからクレアの対策を考えて行動に移せば問題ないだろう。
まずはダクネスを…
「ん?」
まずはダクネスを感知スキルで探りそこを目指そうと思ったのだが、そのダクネスの気配は遠くの部屋では無く意外にもすぐ側で反応を示したのだ。
まあどうせ真下とか上の階とか反対側の部屋とかだろうと思っていたが、そんな事は無く、そんなこんなで気付けば後ろの壁から凄く小さいが何か音が聞こえてくる。
後ろの壁はレンガを積んで作られるデザインになっており、その一番下のレンガから少しずつ反対側から引き抜かれていき、その行動を起こした人間の顔が見えるあたりでその動きは止まった。
「ダクネス⁉︎何でこんな所に?」
「シッ静かにしてくれ、クレアに見つかるとそれはそれで厄介なんだ」
レンガが抜けたことで現れたのはダクネスだった。
その様は某ピエロが子供を襲う映画に酷似しているので冷や汗ものだが、現時点の自分の現状を考えれば頼もしいものだ。
「それで、今の状況はどうなってるんだ?」
「それは後で話す。ロープを切るからじっとしていてくれ」
自分でも解けるのだが、ここはダクネスの面子を立てるために彼女に結ばれているロープを差し出しそれを小刀で切ってもらい拘束を解除する。
結び目が意外とキツく絞められていた様で、拘束されていた掌は阻血により気持ち悪いくらいに蒼白していた。
「それで俺はこれからどうしたら良いんだ?と言うか抜け出したらクレアにバレるんじゃないか?」
「それに関しては安心してくれ、この牢屋を監督しているシンフォニア家の私兵は私が紛れ込ませたスパイみたいなものだからな、堂々と外には出せないがこれくらいの事なら揉み消せるのだ」
「成る程…意外にやるじゃねーか」
「ふっあまり褒めるなよ」
なんだかんだ言って当主代理を務められるだけあってか頭が回る様だ。これは少し評価を改めなくてはいけないが、ダスティネス家の私兵が紛れ込んでいるのであればその逆が存在するのは至極当然になる、その点に関しては大丈夫だろうか?
「お前の事はここにいる事にする、当然影武者を配置するからこれからの行動時に気をつけろよ?」
「ああ、分かってるよ。サトウカズマはここに居るって事だな」
「そうだな、気をつけてくれよ」
今まで同じ体勢でいたので体が固まってしまった様で動きに違和感を覚えるのでストレッチをしながら体をほぐす。
「そう言えばこの部屋に隠し通路とかあったんだな、あの地図に載っていなかったから気づかなかったよ」
この城に侵入する前にダクネスから貰った地図に目を通したが、この牢屋に繋がるであろう隠し通路の記載は無かった。
「あれはダスティネス家が所有する隠し通路でな、この隠し通路は多分王族の所有する隠し通路なのだろう」
「え、そう言う事なの?」
どうやら貴族毎に隠し通路が設定されているようで、今回のものはアイリス達王族が使用する物らしい。
まあ捉えた者とコミュニケーションを取るためにはこの通路からのパスを繋いだ方が秘匿性を保てそうだ。
結局裏切り者が現れた際に隠し通路を全て共有していると、有事の時にその通路を抑えられてしまい簡単に逃げ場を失ってしまうので、この方法はいいのだろうと思うが、それだとこの城結構抜け道多く無いかと耐震性に不安を感じなくはない。
まあこの世界は日本の様に地震が多発する事は無いのだろうけど。
「拘束も解けたことだ、早くお前もこっちに来い」
「ああ、分かったよ」
壁に空いた穴からダクネスの姿が消えたので、お邪魔しますと身を屈めながら穴の中に入る。
中に入ると、やはり隠し通路の中だけあって狭くここで何かあったらどうしようも無いなと危機感に襲われる。
「よし、入ったな。それでは壁を塞ぐぞ」
俺が何とか通路に入った事を確認すると、下に積んであった煉瓦を再び壁に埋めていき最後に外れない様にロックを掛けると光が入らなくなり周囲が真っ暗になる。
「すまない灯をつける」
彼女が配慮が出来ていなかったと謝罪しながら手に持っていたカンテラに灯を灯す。
正直言って千里眼スキルがあるので問題なかったが折角なので彼女の行為に甘える事にした。
「時間がないわけでは無いが、ここで今外がどうなっているか説明する」
「ああ、頼むよ」
薄暗く狭い通路を進んでいると沈黙が気まずくなったのかダクネスが口を開いた。
話は後ですると言われてはいたが、やはり事の顛末がどうなったのかは気になる所なので助かった。
「まず王兄だ。彼はお前が首を斬り下ろした為すぐ亡くなったそうだ」
「そうだな、あれで生きてたら鳥肌もんだぞ」
「それで次にアイリス様だ。あの方は今クレアによって教育という名の拘束を受けている」
「おいおいそれって大丈夫なのかよ?」
「大丈夫と胸を張っては言えないが今は問題ないだろう。前にも言ったがクレアはあれでもアイリス様の事を心酔している。彼女はアイリス様を従えるというよりかは従いたいタイプなのだろう事は誰が見てもわかるから危害を加える気はないだろう」
「成る程な…でも性格が歪みそうだな…」
「それは否めない…」
はぁ…互いにため息を吐く。
身体的危害は無いが、精神的被害が大きそうな気がする。
「国政はアイリス様が即位するまで一旦シンフォニア家とダスティネス家の両家が肩代わりする事になった」
「まあ妥当だろうな」
結局今のアイリが即位した所で結局のところ何も知らないので、運営をする事すら出来ないのは火を見るよりも明らかだ。
ならば一旦信頼をおける二人に任せて帝王学なり法律なり学ぶのがいいのだろう。
「そしてお前の背負う王兄殺しの罪は有耶無耶になるだろう」
「へー何でだ?」
「当たり前だ、そもそも王家の人間は王家の者が処理するのが通例になっているんだぞ。それをお前が殺してしまったんだ、本来ならお前も国家反逆罪に問われてもおかしくは無いのだぞ」
「マジかよ⁉︎」
まあそんな事だろうと思っていたが、いざダクネスの口から言われると事の大きさを実感する。
「だがアイリス様を心酔するクレアの事だ、お前に王兄を殺されたのが悔しくて堪らなかったのだろう、王兄は我々に追い詰められ自ら命を絶ったと国民に伝える気だそうだ。まあその方がお前を庇う上で都合が良かったから反対はしなかったが」
「そんな事があったのか」
では何で牢屋に収監されていたのか分からないが、アイリの手柄を奪ったと考えればそれもしょうがないだろう。
とにかく俺の法律的な罪はもみ消された様だが、このままだとまた変に因縁をつかられかねない。
「着いたぞ」
「意外と遠かったな」
途中階段やら水路やら色々あって楽しくは無かったが一時的に避難する場所にしては些か遠すぎる気がする。
「私は今気分が悪くて寝ていることになっているから大声を出すのは勘弁してくれ」
「成る程な…この部屋には今誰もいない事になっているのか」
「そうだ」
秘密の通路の行き止まりには何かの細工が施されており、その絡繰を解除すると行き止まりの壁が静かに動きだしある部屋へと繋がった。
「それでここは…書斎か?」
灯りは消えているので小さな灯りを持っているダクネスの周囲以外は真っ暗だが、周囲の気配を探れば一面に本棚の様なものがびっしり詰まっているのが確認できる。
「ここは城の中でも最も機密性の高い書類が集まった禁書庫に当たる場所だな」
「マジかよ…何でそんな場所に俺を案内したんだ?まあそれだけ機密性が高いのなら他人が入れないのは分かるけど」
こればかりは純粋に理由が分からなかった。
いくら今回の件で信用を勝ち取ったとは言え国の機密というパンドラの箱の様な場所に案内するのは俺にとっては一つの恐怖に感じるのだ。
「ここにお前を呼んだのには色々と理由があってのことだから心配するな」
「お…おう」
まあ座ってくれと書斎に備え付けられているテーブルに付属する椅子へと案内される。
椅子は埃を被っておりしばらく誰もその椅子に座って居なかった事を指していたが、埃を払って座るとやはり王族の使用するものなのか座り心地は今まで座ったどの椅子よりも良かった。
「今まで話したのがお前が寝ていた時に起こった事のまとめだな、それでこれから話すのはこの後の話だ」
ダクネスも椅子に座ると元々用意していたのか一枚の大きい紙を取り出してテーブルに広げる。
「これが現在の王都を取り巻く貴族達の環境だな」
彼女の広げた紙には貴族の爵位や派閥や何で生計を立てているかが記載されており、いきなり某海賊漫画のキャラクター相関図を見せられた様に面を喰らってしまう。
それは古参が蠢く界隈に入ってきて布教を受ける新人の気分だ。
「これだけ居るのか…」
「いやこれでも減った方だ。これは今現在の一時的な勢力図でな、今回の一件で家を畳む事になった貴族などは省いてあるんだ」
それでこれは今回の一件が起きる前のものだと言いながら先程の物よりもサイズアップした用紙を引っ張り出す。
「うわっ…どんだけいたんだよ」
新しく差し出された用紙には色の違う文字で他の貴族の家の名前が書かれていた。
これが王兄についた貴族の家なのだろうか、それにしては名前毎に色分けがされているのはなぜだろうか?
「この用紙だが、赤色が今回の件で当主が亡くなったかつ後継者が居ない家だ、それで橙色が王兄側について取り潰しになった家だな」
他にも色々あるぞと追加で色々説明を始める。
「ん?このレインという名前は何だ?シンフォニア家の真下に書いてあるが?」
「それはだな…」
クレアが当主を務めるシンフォニア家の下に赤文字でレインの名前が連なって書かれているが、そこだけ少し書き方に違和感を覚える。
「レインは王兄が襲撃を掛けた段階で亡くなってしまったのだ」
「…そうか」
俺の指摘を受けるとダクネスは申し訳なさそうにそう言った。
多分彼女の前でバルターに殺されたのだろう、流石の俺もこれ以上は彼女について聞かなかった。
「クレアの行動が過激になってしまったのは、それが原因かもしれないな…」
「そうなのか?」
「ああ、あの二人はまるで家族の様に何時も一緒にいてな、よくクレアが暴走した時にレインが諌めていたのだが、今回の件で彼女が居なくなってからはそれを行える代わりが居なくてな…」
「成る程な…アイツはアイツなりに色々あったんだな」
「そうだな、レインが居なくなった事で余計に肩に力が入って暴走してしまったのかもしれないな」
この話はこれで終わりだと言い、残りの貴族の家に関しての説明を始める。
彼女にも彼女なりの理由がある様だが、俺たちにも俺達なりの理由があるのだ。
「以上が貴族関係だな。何か質問はあるか?」
彼女から一通りの説明を受ける。
俺をここに連れていく前にかなりの準備をしていた事が伺えるほどに丁寧に細かく、時間が掛からない様に上手く要約出来ていた。
「なあ、ここまで説明してもらって何だけどダクネスは結局俺に何をさせたいんだ?」
リスクを負いながら俺を脱獄させ、その上時間をかけた資料を使っての貴族の説明、これらを何の意味も無く行ったとしたらそれは狂人の域に達しているとしか言えない。
「流されていたけどクレアは過激だけどアイリを思って行っているんだろ?行き過ぎたらダクネスが止めればいい話じゃないのか?」
結局の所クレアの手綱をダクネスが握ればいいだけの話である。
アイリを失落させ王座を奪おうなどと考えているのであれば即座に殺さなくてはいけないが、今クレアが行っているのはかなり強引だがアイリを王にしようと政治の仕組みなどを説明しているだけでしかないのだ。
ダクネスの話だけしか聞いていないので推測でしかないが、この情報だけではダクネスがクレアを過剰に警戒しているだけにしか見えない。
「そうだな…それが出来れば問題は無いんだ」
「何か問題があるのか?」
「ああ、大有りだ。クレア…シンフォニア家とダスティネス家は2家がナンバー2に君臨し表向きは拮抗することで下の貴族の派閥に緊張を図らせていたのだ」
「成る程な」
トップを二つ置く事で互いを監視させ、それぞれに与する下の爵位の家々が力を持ち過ぎないようにしていたらしい。
あえて上を戦わせることで勢力を明確にさせコントロールするという発想には感服するが、そのバランスを保つには中々苦労するだろう。
「クレアはそれを撤廃して自身の家であるシンフォニア家をナンバー2にしようと動いているのだ」
「成る程な…自身を二番にしてアイリから注目を独占したいというわけか…」
「ああ、そうなるな。その証拠に今回の件でバラバラになった貴族を自身の側に着く様に集めたり、取り潰しになった家の資産を回収しようと手を回しているそうだ」
「そういう事か…」
アイリは大事だが、その他はどうでもいいタイプだった様だ。
この思考はやがて国を滅ぼしかねないが、今の彼女からすればそんな事はどうでもいいのだろう。大方親友を殺され理性のタガが外れてしまったのか。
「無論私としてはそれを野放しにする訳にはいかない。私は私なりに手を回してシンフォニア家に権力が集中しない様に手を回すつもりだ」
「シンフォニアvsダスティネス家というわけか、それでアイリスはどうなんだ?これでシンフォニアに傾倒するように仕向けられたら終わりだぞ?」
結局の所この国は民主主義では無く王政を取っている以上 アイリの考え方を抑えらえてしまえばどんなに頑張った所でアイリがクレアを優先すると言えば全てがひっくり返ってしまう。
「それに関しても手を打ってある、クレアがいくらアイリス様に心酔しているかと言っても付き切りでいれるわけでは無い。だから代わりに入る教育者は両家から選出し平等に教える事になったのだが、その両者とも全て私の息がかかっていると言っても過言ではない」
「何…だと⁉︎」
何だこの圧倒的万能感は、わりかしポンコツかと思っていたダクネスがここまで周到に準備をしているとなると尊敬を通り越して恐怖さえ覚える。
もしかして今まで一緒に居たのは影武者だったのでは無いかと疑ってしまう程である。
「それで、それだけ用意周到に準備しておいて俺を使う必要があるんだ?優秀な部下に任せればいいんじゃないか?」
「それがそういう訳にはいかないんだ」
確かになと言いたげに彼女は目を逸らしながらそう言った。
説明した通りの作戦が行われれば問題は無い様だが、それでは駄目だと彼女は続きを話し始める。
「これではまだ足りないんだ、クレアが起こした行動に追い掛けているだけにしか過ぎない」
「つまり攻勢に出る為に何処にも属さない融通の効く駒が欲しいわけか」
「言い方が悪いのは気のせいか?…まあ否定は出来ないな。そうだお前には私達とは別の行動をして貰いたんだ」
彼女は少し開き直ったのか少し悪の様な表情をしながら話を進める。
そのうちお主も悪よのぉ(ネットリ)とか言いそうで怖い。
「それでその内容は?」
「そうだな、一から説明するよりもこれを見て欲しい」
そう言い彼女はテーブルの上に一つの物を乗せた。
「これは…あの時の石?」
「そうだ、お前を殺そうとした兵士が持っていた赤い石だ」
コロコロと何処かに転がっていきそうな小さな石をダクネスは俺に提示し、その説明を始める。
「あの後時間を作ってこの石について調べたんだ。そしたらなんて事は無い物だったよ」
「何だよ、勿体ぶんなよ」
「ああ、これは人工マナタイトだ」
「ああ、あれか」
いつだったかめぐみんが採掘場か何かのバイトで魔力切れを起こした時に貰ったので仕方なく使った事を思い出した。
「既に知っていたのか?流石だな、それでこのマナタイトは純度がかなり高い物になっているそうだ」
「へーそうなのか、それくらい何処にでも売っているんじゃないのか?」
「いや、私の知っている方法ではこれ程の物は作れない筈なんだ」
「つまりこれを製造する方法を探してこいって事か?」
何をするにもまずは資産と聞くが、ダクネスはマナタイト事業に手を出すつもりだろうか?
確かにこれ程までの高密度かつ高い純度の物を大量に生産出来るのなら億万長者も夢では無いだろう。
「いや、間違ってはいないが違うな」
「どういう事だよ?」
「この話にはまだ続きが有るんだ」
「へー何だよ」
「このマナタイトは普通のマナタイトとして使うのであれば問題無いが、これを経口・粘膜摂取すると気持ち良くなって止められなくなるらしい」
「何だか卑猥な表現だな…」
「やめろ‼︎真面目に話してるんだぞ⁉︎」
どうやらこのマナタイトは使い方を間違えると危険なドラックになってしまう様だ。
俺は危うくめぐみんを薬中にしてしまう所だったんだなと思うと背筋が凍りそうになる。
「それでだ、この人工マナタイトが王都は勿論他でも出回っているそうだ。私も事情を調べているうちに国の抱えている大きな問題だと気づいたよ」
「そんなもの出荷元を辿れば分かるだろ?」
「いや、それが分からないんだ。人工マナタイト自体は既に市場にあるのだが、それでは濃度が低く同じ症状が出ないそうだ」
「つまり公式のものは安全ってことか」
「そうだ、しかもこの人工マナタイトを摂取した人間は頭が可笑しくなるらしくてな、並のプリーストでは元に戻せないらしい」
まるで脱法マナタイトだなと言いたくなったがこの世界の住人であるダクネスには伝わらないだろう。
「だからその出所をお前に押さえて欲しい」
「そういう事か…その功績が欲しいわけだな」
「そういう事になるな、私の作戦ではどう足掻いても後手に回ってしまう。であれば国で大きな問題を解決しこの功績を持ってシンフォニア家の抑止力になろうと思っているのだ」
貴族間でどの派閥に付くのかは一種の株のようなギャンブルである。
ダスティネス家に功績があるのであれば、それに期待してダスティネス家に転向する家も出てくるという算段なのだろう。
貴族が名声を得るというのは一種のパワーアップの様なものだ。
「それで貴族に関して説明をしていたって訳か」
「そうだ、流石は自称智将だな」
「うるせぇ」
結局何をするにも最初に莫大な初期投資が必要になる。
それほどの資源を持っているのは貴族の可能性が多いという話だ。仮に貴族が脱法マナタイトに直接的に手を出していなくても何かしらの形で資金援助をしている可能性が高い。
「それで任せてもいいのか?」
「ああ、アイリの為だからな」
「ありがとうカズマ、お前を信じてよかったよ。そうだ、それと今回の件に関して協力者を呼んでいる、流石に一人では荷が重いと思ってな」
「え?誰か来るのか?」
「ああ、安心してくれ、昔から裏の事は何かと頼っているからその辺の事情は私よりも詳しい筈だし顔も効くだろう」
どうやら俺に新しい相棒が出来るらしい。
新しく構築される人間関係に恐怖がない訳ではないが、ダクネスがそれ程までに頼るなら優秀な人なのだろう。
「そろそろ来る時か…来たな」
ダクネスが時計を見たタイミングで壁に置かれていた本棚が動き出し協力者が顔を出すのだが、しばらくその通路を使用していなかったのか埃が舞い上がり協力者の姿が見えない。
「ふっ…何を隠そう私が行った工作は全て彼女から教えても立ったものでな」
「そんな事だろうと思ったよ‼︎」
どうやら天才的な工作は全てその協力者が考えたようだ。
一時だが彼女を尊敬してしまった自分を恥じたい。
「ケホッ!ケホッ‼︎掃除くらいしなよ、埃まみれになっちゃうじゃん」
「あんたは…」
埃煙の中から出てきたのは俺のよく知る人物だった。
「やぁ‼︎久しぶりだね弟子…助手君‼︎」
ダクネスが信用している時点そうじゃ無いかと思っていたがやはり協力者は彼女の様だった。
アイリス達はしばらく熟成させます…