この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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誤字脱字の訂正ありがとう御座いますm(_ _)m


銀狼の牙2

「久しぶりだね」

 

本棚が動いた事により発生した埃煙の中から現れたのはいつもの如くクリスだった。

正直言って何故このタイミングなんだと言いたくなったが、ダクネスが何の柵もなく頼れるのはクリスくらいだったのだろう。その他の人と言えば貴族関係の人になってしまうので最後に裏切られてしまったり貸を作ってしまうとか面倒な事になりかねない。

 

「よく来てくれた、ここで間に合わなかったらどうしようかと思ったぞ」

「ごめんごめんって、私も色々忙しくってね」

 

もし訳なさそうに謝るクリスに、内心何処かで安心しながらも怒っているダクネスの構図が出来上がる。

クリスが通ってきた経路もまたダスティネス家の地図に載っていなかったのできっと王族専用の通路なのだろう。

 

しかし、こうも秘密のルートを頻発に使われている現状を見ると、何だかこの城のセキュリティが甘いのでは無いのかと錯覚してしまいそうだ。

 

「それでは私は元の場所に戻ろう。後はクリスに一任するからくれぐれも余計なことはするなよ、いいな?」

「はいはい、分かってるって」

 

クリスが現れた事により場の緊張感が解けてしまったので、それを引き締めるためかダクネスが念を押しながら俺に勧告する。

そしてまた俺の知らない通路を開いて何処かへ行ってしまう。

 

ダスティネス家の渡されていたであろう図面を見るに、この城に禁書庫の記述は無かった為、元々この城には禁書庫自体の存在が隠されていたのだろう。

 

「さて、ダクネスも居なくなった事だし本題に入ろうか?既に貴族関係の話はダクネスから聞いたでしょ?」

「ああ、詳しく聞かせて貰ったぞ」

「了解了解、これから話すと朝になっちゃうからね」

 

彼女は机にひかれていた相関図を見ると、自身にバトンが渡される時の条件が完遂されていた事を確認する。

 

「それじゃ次はこの赤いマナタイトについてだね。これに関しての情報はダクネスから詳しく受けていないでしょ?」

「ああ、でも触りは分かったぞ」

「そうなの?まあいいか。ダクネスには詳しく教えていないからね…とりあえず最初から説明しようか」

「お…おう」

 

どうやらダクネスが俺に説明した内容は本当に触りだけで、それとはまた別に話があるようだ。

話を聞いただけなのでよくは分からないが、あの話をこれ以上膨らませるほどの情報があるとは思わなかった。

 

「コホン…では始めようか」

 

彼女は咳払いをし一旦場の空気を整えると、真剣な顔をしながら話を始める。

 

「人工マナタイトの話はもう聞いたよね」

「ああ、この国で認可を出している方法では作れないほどの高純度な物が出回ってその出所が分からないって話だよな?」

「そうそう、元々マナタイトができる仕組みというのは簡単で空間に漂っているマナが時間をかけて凝縮して結晶化した物を言うんだよ」

「へぇ、やっぱそんな感じなんだ」

 

簡単に例えるのなら塩だろうか?

あれは単純に塩化ナトリウム溶液を蒸発させ、残った成分が結晶化し出来上がった物だとどこかで聞いた気がする。

 

「元々マナと言って空気中に魔力が漂っているんだけど、私たちが魔法を使ったときに出る魔力の残滓もそれの一部かな?それが別の物質を核にして時間をかけて凝縮されたって感じかな?」

「まるで理科の授業だな」

「りか?」

「悪い、こっちの話だ」

 

間違えて日本でしか通じない内輪ノリのツッコミをしてしまう。

 

「それに対して人工マナタイトは空気中のマナを魔道具で無理やり集めて凝縮させるんだよ」

「へー、どう言う事なのかは分かったけど、魔道具って事は動力に魔力を使うんだよな?マナタイトを作るのに魔力を消費したら本末転倒じゃ無いのか?」

 

魔道具を産業に使用する際の動力源は基本的にマナタイトになっているとバニルが言っていたことを思い出す。しかし、小型の物なら持ち主が直接魔力を流せば使用できるものがあるとも言っていた。

結局電池を作るのに電池を消費してしまえば、それは一種のイタチごっこでは無いのだろか?

 

「それに関してはまた別の理論があるんだ。まあ人工マナタイトと言っても厳密に言えば完全に人口ってわけでも無いし」

「何か混ぜてあるのか?」

 

「そう言う事だね、本来の天然のマナタイトの小さなカケラを核にして周囲のマナ濃度を高め集めて固めたのが人口マナタイトだね」

「そ言う事か」

 

結局のところ何を言っているのかは分からないが、とにかく普通の方法では人工マナタイトを生成するのは難しいと言う訳だ。

 

「それで…もうこんな時間だね。続きは明日にしようか」

「ああ、それでしばらく俺はどこで過ごせばいいんだ?一応牢屋で過ごしている事になっているんだろ?」

「そうだったね、それに関してはこれを使いなよ、テッテレテッテテー」

 

ここを抜け出すのは秘密の通路を使えばなんとかなるのだが、外に出れば俺の存在が巡回中の騎士なり貴族に見つかってクレアに報告が伝わってしまうのは避けられないだろう。

それを考えると俺は外に出ずこのままこの禁書庫で過ごす事になるのだが、ダクネスがそこまで考えていなかったとは流石に考えられない。

 

それを指摘するとクリスは何処ぞの猫型ロボットを彷彿させるように何かを俺に差し出してきた。

多分知らない筈のモノマネは意外にも似ていたので何処かの日本人から聞いたのだろう、その差し出されたものは勲章のようなピンで留めるバッジだった。

 

「これは一体なんだ?身分証明証か?」

「違うよ、これは人の認識阻害する神具だね。元は任意で他人に気づかれなくなる物なんだけど機能が制限されて君をサトウカズマでは無いサトウカズマとして認識する様にするバッジになっているんだよ」

「へーなんだか物語に出てくる便利キャラだな…」

 

要するに俺は俺だけど牢屋に閉じ込められている俺とはまた別の俺と言う訳になるのだろう。

これを使えば何か悪いことをしてもバッジを外せば被害者は俺を犯罪を犯した俺とは認識しないと言う恐ろしい結末になるわけだ。

 

「まあ、私とダクネスには通じないから悪用しないようにね」

「しねーよ、俺をなんだと思ってるんだよ」

 

俺の悪しき心を読み取ったのかクリスが牽制をする。

 

「とりあえず君は一旦休みなよ。回復魔法を使って傷は治っても体力は回復しないんだからね」

「ああ、分かったよ」

 

どうやら疲労が溜まっている事を彼女に見抜かれていたようだ。

 

「それじゃまた明日お昼頃に集合しようか」

 

それから彼女はある程度仕掛けを施すとそのまま部屋を後にしてしまう。

 

さて俺も外に出ようかと思い壁まで歩いて重要な事に気付く。

 

そう、俺はこの部屋の仕組みを全く知らなかった事に。

 

皆王族御用達のルートを使ってこの部屋にアクセスしていたが、俺の知っている経路はダスティネス家の所有している物のみで、この部屋の存在自体知らない俺からすれば使えるのは自身が行き来した牢屋からこの部屋までの一本道のみという事になる。

要するにバッジなどの準備があっても、結局外に出られないのである。

 

「ちっっくしょぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

ガタガタクリスの入っていった通路を塞いでいる本棚を動かそうとしているが、絡繰か何かで頑丈に固定されているためか俺の力では全然びくともしない。

何処かにスイッチがあるのではないかと思ったが、そんな物はなく本の配置を変えるとか何かしないと出入りできないとかそんな仕掛けがありそうだ。

 

もう、こうなってはもう仕方がないので今日はここで寝泊まりす事にする。

シャワーを浴びたいが、本がある部屋にシャワーなんて物を置いて仕舞えば瞬く間に本が傷んでしまうので置かれていることはまずないだろう。

 

一応調べ物をした際に仮眠を取れる様にと簡易ベッドが作られているのでそこに腰を下ろす。

ここを抜け出してアイリの様子を確かめたいが、ダクネス達が色々工作をしている最中なので今は余計な事をしない方が良いだろう。

 

「あーあ」

 

ベッドに体を倒し、周囲に埃が舞う光景を眺めながら今回の件に関して考えを巡らす事にする。

 

 

 

 

そう言えば人工マナタイトに関して資料があるって前にダクネスが言っていた事を思い出す。

その時は特に関係ないだろうと思い聞き流していたが、彼女の言う書庫がこの禁書庫であったのならここにその書物がここに存在している筈である。

 

倒していた体を起こしダクネスが持ってきたカンテラに再び明かりを灯し周囲の本棚を探す。

ダクネス曰く使われている言語が古代文字で読めなかったので話だけ伝承しているとの事だが、俺にはこの世界の国々の言語がインプットされているのでもしかしたら解読できるかもしれない。

 

「あったのか?」

 

目的の本を見つけたが、思わず疑念を抱いてしまう。

ここにある本棚に収容されている本は基本的にこの世界の文字を使用して書かれていることが多いのだが、この本に限っては使用されている言語に日本語を使用しているのであっけなく見つけてしまったのだ。

 

一度紅魔族関係の古代文字に日本語が使われており、それは昔に転生した日本人が書いた物だからと思っていたが、これを見てもしかしたら昔の言語は日本語では無かったのではないだろうかと思ってしまう。

だが、この本以外の本は基本的にこの世界の言語を使用している様なので、この考えは参考程度にした方が良いだろう。

 

まあそんな事はさて置き内容を確かめるために本を開き内容に目を通す。

もしかしたら事前準備が必要でそれをしなければ本が崩れ落ちるとかの仕掛けがあったら嫌だったが、そんな事は無く古書独特のインクの酸化した臭いが周囲に広がるだけだった。

 

内容はそこまで難しくはなく、タイトルは人工マナタイトによる中毒症状と書かれている。

この国を建国するにあたって必要な資金を回収する際何、処かの貴族が高純度の人工マナタイトを生成しそれを他国に売り出す事で高額な利益を生みその税を納める事で重要な基盤を作ったとされている。

ある時、そのマナタイトの破片を飴と勘違いした子供がそれを経口摂取した事で通常では得られないほどの快楽を味わい、それを友人と共有し始めた事がことの発端だと言われているらしい。

 

その快楽は文字通り心をも溶かす程のもので、その使用方法は大人にも広がりマナタイト乱用は一時期の流行とまで昇華した。

扱いとしては葉巻の様な嗜好品として扱われ、酷い者はシュワシュワにその粉末を混ぜる事でよりトリップできると言っているものもいた。

 

だが、常軌を逸した使用方法で得られたものがいつまでも続く事はなく、そのツケの精算の時が訪れる事になった。

最初は一gもしない位の量で得られた快楽が、耐性を得たのかそれとも肉体が馴化したのか徐々にその快楽が得られなくなり、その適応量が増していき本来の目的よりも摂取される使用量が逆転した頃にその人工マナタイトの供給が何かの理由で止められてしまう。

 

人々は国に抗議し、国はその供給元の場所へ訪ねたがその場所には何もなく。

人々は代わりに天然のマナタイトを使用したが、人工マナタイト同様の快楽を得られる事はなく、市場に出回っていた人工マナタイトは値段を釣り上げられ高級品へと変化した。

 

それによりこの騒動は貴族達の趣味へと落ち着いていくのかと思われたが、事態はこれで終わりではなかった。

 

その人工マナタイトを摂取していた人々は、その人工マナタイトの供給がない事を嘆きまるで悪魔に取り憑かれたかのように人工マナタイトを求め暴動を起こしたのだ。

最初は皆悲しみから来ている者や酔っ払っているのだろうかと思ったが、そんな事は無く。取り押さえた暴徒を牢へ捉え正気に戻るまで三日ほど待ったが、精神に異常をきたした状況が継続し流石にまずいと思い教会のプリーストに依頼し悪魔祓いをしたが、その者達が正気に戻る事はなく、ただひたすら人工マナタイトを求めるだけだった。

 

それでは何か状態異常を起こしているのかと思い異常回復の魔法を行ったが、それも効果はなく結果的に教会のプリーストですら匙を投げるに至った。

やがて時間が経ち、ついに市場にある人工マナタイトは底をつき国は瞬く間にその異常者が蔓延る事になった。

 

その様はまるでアンデットの集団とまで言われた頃に国から一番優秀だと言われているプリーストが派遣され、その者が診察した結果原因は魂に異常をきたしていると診断し見たことのない魔法を使用し、時間をかけながらその者達を正気へ戻していった。

 

事態はそれにより収束に向かっていき、それと同時に進めていた製造者の貴族とその関係者を見つけ出すことに成功する。

届出に書かれ当ていた場所は何もない偽物で、本来の工場は上手く隠され今尚製造されていた様だった。

 

事の顛末としては貴族全てその場で打首にし、工場は爆裂魔法で破壊されたとのことだ。

 

そしてそのマナタイトの製造法だが…

 

 

 

そこから先のページは切り取られ、残ったページには後書きが描かれていた。

 

「…え?何この物語的展開漫画かよ」

 

呆気ない幕引きに思わず言葉が漏れる。

切り取られた頁は一体何処にあるのだろうかと思ったが、この本自体昔から存在するのでタイムマシンでもなければ不可能だろう。

 

しかし、何かしらの違法薬物が存在しても不思議はないと思っていたが、人工マナタイトがそのように扱われているとは流石の俺も思わなかった。

しかも国随一のプリーストでしか治せないとなるとこれから起きるのは昔の歴史の再現だろうか?

 

他にも書物がないか探してみて日本語で書かれた書籍はいくつかあったが、人工マナタイトに関する書籍は先ほど見つけた一冊のみだった。

圧倒的情報の少なさに溜息が出そうになるが、昔の情報なんてそんなもんだろうと思い自身を宥める。

 

とりあえず今日はもう寝よう。

時間は分からないが昼になればクリスが起こしに来るだろう。

 

再び埃まみれのベットに横たわり瞼を閉じると、先ほどクリスが言っていたように疲れが溜まっていたのか溺れる様な感覚と共に眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

「おーい起きなよ助手君‼︎」

「うぉ⁉︎」

 

深い眠りはクリスの声により妨害される。

元々彼女には色々と扱かれているので急に呼びかけられると心臓が恐怖で爆発しそうになり、思わず飛び起きそうになる。

 

「どうしたの?昨日は街で過ごさなかったの?」

「いやいや、街でって…この部屋からの出方俺知らないんだけど」

「え、そうだったの?知らなかったよごめんごめん」

 

どうやらダクネスとクリス、互いが互いにこの城の秘密通路を教えていると思っていたようで俺には一切説明をしなかったようだ。

 

「それでこれから俺たちはどうすんだ?」

「そうだね、これから行動する前に…その本を読んだんだね」

 

これからどうするかを聞いている途中クリスは俺の手元に昨日読んだ本が置かれている事に気づいたのか指摘する。

 

「そうだけど、ダメだったか?」

「いや、手間が省けたってところかな」

「ただ最後のページが破れて読めなかったんだよ」

「へーそうなんだ。まあ製造法は難しいから説明しても分からないだろうし、今回の物も同じ製造法とは限らないからね。歴史は省いて他の事を話すよ」

 

言われてみれば製造法を知ったところでその方法を理解できないし、その方法を今回使用しているとは限らない。ならばそれよりも新しい知識を頭に入れた方が効率的だ。

 

「それじゃあまずは入手経路だね」

「それは不明だってダクネスが言ってたぞ?」

「それは出所だよ。今でも入手しようとしたら簡単に手に入るんだよ」

「へーでもなんでそれを野放しにしているんだ?放っておいたらどんどん中毒者を増やしちまうんじゃないのか?」

「確かにそうかもしれないけど、経路を規制しても出所が分からない以上闇雲に押さえても逆に複雑化するだけだから、変に刺激するよりも出所がわかるまでかえって分かりやすくした方が管理しやすいんだよ」

「成る程な」

 

現状で分かっている入手経路に起用されている人間は所詮トカゲの尻尾切りなので、捕まえても情報を持っていないしそいつが捕まった事で大元がこちらに対して対策を立ててくる可能性がある。

ならば入手経路を影で監視し購入者をこちらでどうにかすれば結果として問題はないのだろう。

 

「今は比較的に安い値段で売られているけど、これが冒険者の間で浸透したら価値が釣り上がると踏んでいるよ」

「やっぱりそうだよな」

 

依存症状がある以上、人工マナタイトの中毒から抜け出せずに再び購入しようとする人が現れ出すのはそう遠い未来の話ではない。

この王都が昔の様な現状になる前になんとかケリをつけなくていけない。

 

「取り敢えず外に行こうか、話すよりも実際に見た方が早いからね」

「そうだな、そっちの方が手っ取り早いな」

 

百聞は一見にしかずと言う様に、結局のところ難しい話をされるよりも実際の光景を見た方が早いのだ。

 

「取り敢えず私の使っている通路の説明をするから少し離れてて」

 

彼女は俺に向かって手を払いながら本棚から離れるように手振りし、俺が離れた事を確認すると本棚の本を1箇所抜いては刺しを数回繰り返す。

すると仕掛けが作動したのか本棚が昨日の様に動き出し通路が出現した。

 

「この橋の製造方法について書かれた本を3回入れては出してを繰り返すと仕掛けが作動するから覚えておいてね」

「お…おう」

 

まさか昨日適当に考えた方法に酷似していたので俺が作ったんじゃね?と錯覚してしまいそうな感じだが、ともかく今日から宿で泊まれると思えば昨日試しておけばよかったという後悔も問題ないだろう。

 

「それじゃあ行こうか。それと街に出るまでは潜伏スキルを使う様にね、もしバレたら最悪打首かもしれないから」

「怖いこと言うなよ…」

 

目が笑っていないクリスの脅しに軽口を返しながら薄暗い通路を下っていく。

 

「そう言えば君に渡す物があったんだ」

 

通路を進んでいる途中彼女は何かを思い出したように鞄から物を取り出し俺に渡す。

 

「これは…俺の魔法剣じゃねーか」

 

布で巻かれていて最初は気づかなかったが、その姿が完全に出てくる前に感覚でそれが自身の愛剣である事に気づく。

いつか取り戻そうと思っていたがまさかクリスが持っているとは思わなかった。

 

「昨日ダクネスから渡すように言われていたんだけど忘れちゃった」

「全く…まあいいけどさ」

 

受け取った剣の鞘をベルトに固定する。

この世界に来て常につけていた物なので、久しぶりに装着しても腰にかかる重さは悪い物ではなく何処か安心する物だった。

 

 

 

「それじゃ開けるよ」

 

歩くこと数分ようやく辿り着いたのか出口に仕掛けを解除し、行き止まりとなっている扉を開く。

通路の先はどこかの建物の中の様で、所々に酒瓶などが転がっていた。

 

「ここは夜にバーをやっている建物だね。一応ダスティネス家の経営するお店だから安心して」

「ああ、けど何でこんなに散らかっているんだ?」

「さぁ?」

 

まあまあ夜までは空いてるからゆっくりしていきなよ、と彼女はそう言いながら落ちている酒瓶を片付けていった。

 

「ここで夜情報を集めているのか?」

「御名答、これでもたまにウエイトレスをやっているんだよ」

「へー」

「何その反応?」

「いや何でもない」

 

何か地雷を踏みそうなので話を流そうとしたが、その反応自体が彼女にとっての地雷だったようでとても冷たい視線が俺に突き刺さる。

まあそれは置いて置いてやはり人はアルコールを摂取すると本音が漏れてしまう様だ。

 

「ここがクリスの拠点なのか?」

「まあ仮って所だね。ダクネスが私に頼み事をする時は基本的にここを活動拠点にして行動する感じかな?」

 

どうやら彼女は昔からダクネスに頼まれてはこうして事件を解決しているようだ。

ダクネスも彼女の消息が掴めないとか言いながらこうしている所を見るに、彼女との関係は今迄秘匿されていたのだろう。

 

「ここを王族の経路を使って城とつなげるなんてダクネスも随分と思い切ったな」

 

よくよく考えればここはダスティネス家の通路ではなく、王族つまりアイリ達の使う経路になっている為これがバレれば問題になりかねない。

 

「大丈夫だよ、この通路は王族のものじゃなくて国の立ち上げに携わった勇者が隠していた通路だよ」

「へーそれってサトウってやつか?」

「それも知っているんだ?意外だね」

「いや有名だろ?最初に魔王を倒したのが勇者サトウで、そいつが王族と結婚してアイリスの先祖が生まれたんだろ?」

「んーまあそうなるかな?何かごちゃごちゃしたって聞いたけど?」

「何で疑問系なんだ?」

「いや、その辺は私あんまり詳しく知らないからハッキリ言えなんだよね」

「へー意外だな‼︎」

「何それ?さっきのお返しなの?」

 

まるで知人の結婚話をしている女子会の一員みたいな感じで勇者サトウの話を片付けられる。

 

「まあ勇者サトウの話は魔王討伐に多少は関係するけど、そこまで重要じゃないからまた今度ね」

「今度ってクリスが話したんだろ?」

「いやいや君だからね?」

 

アハハと頬を掻きながら話を逸らす彼女を見ると、何か裏がありそうなので今度調べてみるのもいいかもしれない。

 

「まあ、その話は置いておいてだね。これを君に渡そうか?」

「何だそれ?」

 

彼女はそう言いながら棚の下の扉を開き、酒瓶を何本か取り出すと黒い箱を取り出し中を開く。

中には刃物や短めのロープなど様々な道具が所狭しと詰め込まれていた。

 

「これは道具箱か?」

「そうそう、君がこれから使う道具かな?君、剣は取り戻せたけど他の道具は全部没取されたでしょ?」

「ああ、そうだけどいいのか?」

 

そう言えばナイフやらバイド用のロープを全てクレア達に奪われていた事を思い出す。

多分ダクネスでも剣を取り戻すので精一杯だったのだろう。出なければクリスがわざわざ準備したりしない。

 

「予算は貰っているからね。なるべく君の痕跡が出ない様な仕様になっているから無くしたとしても多少は大丈夫だけど気を付けてね」

「おう、ありがとうな」

 

彼女に礼を言いながら箱に収められている小道具達を全て懐にしまっていく。

基本的に小道具は鍛治スキルで自身に合った物を作っていたが、既製品にも色々な技術が入っているため、何かの際に使用するとこういう機能もあるのかと新たな発見があるのだ。

 

クリスが用意した小道具はどれも黒く、しかも某黒何とか無双みたいに光を吸収し小道具の影だけが浮いている様な見掛けになっている。

意外にも進んでいる技術があるんだなと思いながらしまい終えると、いつもの安心感で包まれているのを感じる。

 

「うんうんいい感じだね、ようやく君らしくなってきたね。けど武器がないだけで弱腰になるのはいけないかな…」

「その話はまた今度にして今はダクネスに頼まれた話をしようぜ」

 

何か嫌な予感がしたので話を逸らしながら本筋に戻す。

 

「そうだった。これから色々な場所に行くけど、君は私に助手という事でお願いね」

「色々ってどういう事だ?売人の所に行くんじゃないのか?」

「行かないよ、さっきも言ったでしょ?いきなり売人を捕まえてもトカゲの尻尾切りになるって」

「そうだった、忘れてたよ」

 

何かドラマみたいで楽しそうだと思うあまり失言してしまう。

さっきから俺のことを弟子では無く助手君と呼んでいたのは間違えていたのではなく単純に慣らしておきたかったからだろう。

俺からしたらどちらも変わらないのだが…まあそれは本人の気持ちの問題だろう。

 

「いいかい?私は一応アクセルでは盗賊の冒険者かもしれないけど、ここではバーで働いている探偵みたいなフワフワした感じのお姉さんだから、くれぐれもアクセルの話はしないでね」

「お…おう。了解した」

 

謎の設定をいままで聞いたことのないほどの早口で捲し立てられ言葉に詰まる。

どうやらクリスもそういう事を夢見る歳なのだろうか?

 

「それで俺はそんなクリスの助手に成ったってわけか?」

「そういう事だね、収入源はバーでのアルバイトがメインって事になっているから宜しくね」

「何か話が一気に面倒に成ったな」

 

まるで子供のごっこ遊びに付き合っているかのように設定が増えていくので、何かあった時にボロが出てしまいそうで怖い。

 

「そうだ、折角返したんだけどその剣はここに置いていってね、あと服も着替えてもらおうかな…」

「え?何で?別に持っていても大丈夫だろ?」

「いやいや、一応もどきとは言え探偵を名乗るんだからそんな格好してイカついの持ってたら直ぐに冒険者だってバレるでしょ?」

「確かに…」

 

言われてみると確かに違和感を覚えるので、仕方がないと返ってきたばかりの剣を彼女に渡し反対に渡された服に着替える。サイズは意外にも俺のサイズ丁度でクリスくらいになると相手の体格も押し測れるのかと感心する。

剣が盗まれないか心配だが、アクセルで高い剣だとしても王都では普通の剣かもしれないので案外盗まれないかもしれない。

結局物というのは持ち主が愛着を持って価値が増すが、それを他人が見てもただの物でしかない場合がよくある。思い出や思い入れはあくまでその人だけの物でプライスレスなのだ。

まあ何かあってもクリスが隠してくれるので多分大丈夫だろう。

 

「それじゃ気を取り直して外回りに行こうか」

「おー‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から話が進みます…
年末年始は忙しくなりますのでしばらく投稿出来無くなるかもしれません…
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