この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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何とか間に合いました…年末年始はかけないかもしれません…


銀狼の牙3

「それじゃ行こうか」

 

支度を終えクリスに促されるまま外に出ると、久しぶりの日の光に当てられ若干の懐かしさと共に眩しさを感じる。

 

「それでどこに行くんだ?」

 

外回りとは言っていたが、結局の所どこに行くかは聞かされていない。

違法薬物みたいな物ということで警察の所にでも行くのかと思っていたが、話の流れ的にその様な気配を感じない。

 

「そうだね…百聞は一見に如かずと言うし、まずは実際の場所へ行こうか」

 

頬を掻きながら少し悩んだ後彼女は考えるのが面相になった様で、そのままその現場に行こうと提案してきた。

まあ提案と言っても俺に断る権利がない以上、命令になってしまう訳だが。

 

 

軽快な雰囲気の中に少し神妙な気配を交えながら彼女は俺を何処かへと案内する為歩き始める。

王都の滞在時間は短くはないが、その殆どを城の中で過ごしていた為こうして実際に城下町を見るのは初めてになり、目の前に広がる光景を初めて東京に訪れた時と重ねて若干の感動を覚える。

 

「城下町にも色々地区があってそれぞれ役割見たいな物があるんだよ」

「へぇ、その地区毎に施設を集めるみたいな感じか?」

「そうそう」

 

日本にも地目というものがあり、農地や道路などなどおおよそ23種程存在すると聞いている。

その地目の種類の中から第何種等さらに細かい分類があるが、それと合わせて用途地区がありそれぞれの土地の上に建てられる建物の種類が決まっているのだ。

まあ原則あれば例外有りというように、手続きによりある程度の融通が効くこともある。

 

「基本的には居住区や工業区とか他にも色々あるね、ここは住宅区だね。基本的に民家が多いでしょ?」

「まあそうだな」

 

周囲を見渡すと、時代毎の流行の影響を受けて年代毎の個性を発揮しているが見渡す限りはどれも民家ばかりだった。

アクセルでは基本的に許可さえ降りれば好き放題できると聞いているが、王都では建物一つ一つ徹底的に管理されているようだ。

 

「お年寄りとかが多い場所は小さな店が点在しているけど、基本的にはそんな感じかな。まあそれぞれ役割があるんだけどとりわけ王都では珍しい所があるんだ」

「珍しい場所?賭博場か?」

 

この国以外ではカジノで国の生計を立てている所があるとダストが言っていた事を思い出したが、もしかしたらこの国にも小規模サイズの賭け事ができる場所があるのかもしれない。

 

「そんなものは無いよ。全く君はすぐそう言う事を考えるね…」

「そうなのか…あってもおかしくは無いとおもたんだけどな」

「まあ似た様なものはあるけど、公にカジノみたいな賭博場は無いね」

 

どうやら王都にカジノは存在しないようだ。

観光客用に向けて作ったが実際には国民がハマってしまい破産者が続出した例があると聞いたので、しょうがないと言えばしょうがないのだが幸運値が高い俺が唯一輝ける場所が無いのはキツイ。

 

 

 

 

「この辺だね」

 

王都に相応しい煌びやかな商店街を進み最奥の行き止まりの様な場所に着くと彼女は唐突に止まった。

煌びやかと言う表現を使ったが、それはあくまで俺が感じたままの感想でありクリス曰く過大評価らしい。

この商店街は王都の階級では市民の下層が扱うものらしく、貴族や中流階級の使う場所は城に近いとされているそうで実際この商店街は王都の外れの方に位置している。

田舎から来ている俺からすれば綺麗な光景だが、貴族から見れば薄暗い地味な商店街なのだろう。

 

「行き方は他にも色々あるんだけど、ここから行くのが一番近いかな」

「ここからどこかに行けるのか?」

「そうだよ、いいから見てなよ」

 

彼女は意気揚々とそう言いながら行き止まりの隅にあるスペースの体を滑り込ませ、細い通路を器用に進んでいった。

 

「ほら君も来なよ、早くしないと置いていくよ?」

「マジか…」

 

まるで地元の悪ガキの逃走経路かよと突っ込みたく成ったが、なんだかアングラを覗いている様な気がするのでこう言うのも悪くは無いかと思いながら彼女の後に続くように路地の隙間に体を滑り込ませる。

 

「なあクリス…こんな事しないで普通に回って行けばいいんじゃ無いか?」

「ん?そうだった、勿体ぶって説明を全然していなかったよゴメンゴメン」

 

細い通路を抜けるとそこから少し道が広がり、少し余裕を持ちながら歩く程度の事ができる様になった。

 

「基本的にアクセルにしか居なかった君には分からないと思うけど、王都の面積はかなり広いんだ。だからこそ犯罪者を管理するなんて事は理論的には可能かもしれないけど難しいんだ」

「どうしたんだいきなり?」

「いいから聞きなよ」

「ああ、分かったよ」

「それで話を変えるけど、さっき言った様に王都では基本的に見えない階級みたいなものがあるんだよ。ダクネスみたいな上級貴族もいるしアレクセイ家みたいな田舎の下級貴族みたいな感じかな?まああの人達はあの人達で色々あるんだけど、その階級みたいなのが見えない形で市民にも存在するんだよね」

「どの地区に住んでいるかって事か?」

「うーん…間違ってはいないけどそれが完全って感じじゃ無いんだよね…」

 

今でこそ聞かなくなったが、昔は部落出身者の差別がよく問題になっている。

何故部落?と思うがその歴史は古く昔の身分制度の名残とも言われており、その見えない差別意識が偏見を産み出し、当人は何もしていないのに周囲の人間に卑下され差別されると言ったものだ。

 

「その考えを使わせて貰えば城に近ければ近い程身分が上がるみたいな感じかな?まあそんな感じで話を戻すけど、この辺りは王都の端っこでね」

「そうだな」

「昔の王族はこの地域の建物群と壁で陽の目を浴びない地区を作ったんだよ」

「スラム街的なものか?」

「そうそう、下級市民にもなれない人間が暮らす退廃区と言われている場所だね」

「そんな場所があるのか…」

「区の中心はここだけど他にも建物の隙間…路地裏みたいな場所もその一種として存在して複雑な迷路みたいになっている感じかな」

 

光があれば必ず影が出来ると言うが、やはり異世界だとしても人間の生々しさと言うのは変わらないようだ。

 

「下手に捕まえても捉え続けるのにコストが掛かるからね、ならいっその事軽犯罪者を分かりやすい所に1箇所に集めた方が何かあった時に分かりやすいよね、と言う考えだと言われているけど本当の所は分からないかな」

「色々あるんだな…」

 

結局の所犯罪者を収容し、その囚人の生命を維持すると言うのにもコストが掛かるのだ。

いくら国民から税金を受け取っているとは言っても、予算には限度というものが存在する。囚人が増えれば国に収められる税金が無くなるどころかマイナスになってしまうで、色々圧をかけてここに集めておけば命の責任を取らなくても済むと言うことだ。

 

「だから何かがあった時の答えは大体ここに収束するんだよね」

「人工マナタイトを購入できるルートって」

「そうだよ、この退廃区に居る売人から買うのが今の所最も簡易的に手に入れる方法だね」

 

まさに漫画で見るようなスラム街がこの王都に存在するらしい。

 

「退廃区では基本的に取り締まる人が居ないから法はあってないような物だし、倫理も道徳も存在しないから気をつけてね」

「マジか、そんな恐ろしい所に行くのかよ…」

「そうだよ。いいかな、例え冒険者だとしても君が今まで居た場所は雛壇の上の方の段に位置していたんだよ。そしてこれから向かう場所は雛壇の下の段にも乗らないようなそんな場所だからね」

「油断はするなって事だろ?分かっているって」

 

過程がどうであれこれでも魔王軍幹部を何体も屠っている実績を持っているのだ。例え何かあっても毅然と対応すればなんとかなるだろ。

 

「…まあ行けば君も分かるよ」

 

意味深げに彼女はそう言うと止めていた歩みを進め、退廃区画へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここから退廃区だね」

 

 

あれから少し進むと昼だと言うのに道が薄暗くなっていき、まるで荒廃したSF世界のような雰囲気を感じ始めたと思ったら漫画でよく見た本棚をどかしたら別世界の入り口だった的な感じで退廃区の姿が現れた。

 

「ここは…」

 

クリスに案内された場所はまるで田舎の商店街のような場所で、建物の下は店を開いておりその上に居住スペースがあったり、テントを張っている者などまるで子供が作った楽園のような場所だったが、そこで暮らしている住民の目は何処か死んでいる様だった。

 

ようこそ退廃区へ

 

右を見ると、まるで俺たちを新しい住民として受け入れているような錆びた古い看板が立て掛けられていた。

 

「すごい場所だな、本当にスラム街みたいだ」

「さっきからそう言ってるでしょ、ここからは法律が無いから気をつけてね」

「何してもいいのか?」

 

法律がなければ物事に対する自制が効かなくなり殺し奪い合いが日常になりそうだが、俺の見た感じその様な殺伐とした雰囲気はなかった。

 

「法律は無いけど掟みたいなのはあるよ、まあ君からしたらあってない様なもんだけど…そうだね弱肉強食的な感じかな」

「あるにはあるのか」

「まあここの人が勝手に作っているだけだからわざわざ言ったりしないけどね」

「暗黙の了解みたいな感じなのか」

 

どうやらここにはここの流儀があるようだ。

そのうち義理だの仁義など言い出しそうだが、それはそれで悪く無いと思っているので今度詳しく聞いてみようかと思う。

 

「おう嬢ちゃん久しぶりだな‼︎また来たのか?」

「あ、おじさん‼︎久しぶりってこないだ来たじゃん」

 

クリスにこの街のルールを聞きながら道を歩いていると、見知った顔なのか昔からあるようなタバコ屋みたいなカウンター形式の店の窓からオッサンが話しかけてきた。

 

分かってはいたがクリスもこの地区の住民とは仲が良さそうだった。

もしかしてクリスはこの退廃区出身でダクネスに雇われて表に出てきた感じなのだろうか?であればダクネスもクリスの素性について何も知らない筈だしその事を態々俺に説明したりしないだろう。

 

「その男の子はもしかしてお嬢ちゃんのコレか?サバサバしていてやるときゃやるんだねぇ」

「違うよ〜この子は私の助手だよ。依頼主に頼まれてしばらく面倒見ることになったんだ、ほら挨拶して」

「…ウッスカズマです」

「何だそうだったのか‼︎てっきり男作って戻ってきたのかと思ったよ」

「なにそれ⁉︎」

 

どうやら既に俺達の設定ごっこは始まっていたようで、俺は彼女の助手としてここで振る舞うように挨拶する。

俺の正体を知って安心したのかどうかは分からないが、おっさんの俺を見る目から警戒が消えそのまま俺を抜いてクリスと孫と接するような感じの会話が聞こえてくる。

彼女も慣れているのか、それとも本当に楽しそうに話しているだけなのかいきなり本題に入る事はせずに世間話をしている。

 

話を盗み聞いていると聞いたことがある貴族の名前がいくつか聞こえてくる。

やはりこういった通りにある店は情報が流れ込んでくるのだろう。

 

「ー⁉︎スマン」

 

通りに突っ立ていたので子供に激突されてしまう。

本来であれば嫌がらせをするのだが、流石に今回は相手が子供で道の真ん中に突っ立ていた俺が悪いので素直に謝罪して見逃すことにした。

 

だが

 

「…はぁ」

 

ぶつかられ俺がどうしようか考えている一瞬の間にため息が聞こえたかと思うと、クリスが瞬く間に距離を詰めその子供の手を掴んだと思うと柔術に近い技で地面に叩きつけ、そのまま背中を足で踏み腕を後ろに回した状態で関節技をキメる。

 

「何やってんだよ、まだ子供だろ?」

「…助手君、君は私が言った事を全く理解してなかったの?」

 

流石にやり過ぎだろうと思って彼女を咎めようとしたが、反対に呆れた様に彼女は俺を咎めた。

 

「クソ‼︎離しやがれ‼︎」

 

子供は抑えられた状態から抜けようと暴れたが、完全に逃げられないと分かるとせめての抵抗なのかクリスに対して暴言を吐きながら睨みつけた。

その相貌からまだ小学生位だと思うが、表情の険から今までマトモな生活ができていなかった事が窺えた。

 

「助手君、私があげたバッジは何処にやったのかな?」

「え…あ⁉︎」

 

足元で騒ぐ子供なんてお構いなしにいつものトーンで彼女は俺に持ち物を確認する様促し、そんな馬鹿なと思いながらも胸元を見てみるとクリスから貰った認識阻害のバッジが無くなっていた。

 

「分かったでしょ?ここはそう言う所なんだって」

「ああ、悪い」

 

少しこの区画を舐めていた所があるかもしれない。

日本は治安が良かった為、日常生活で特に警戒しなくても問題なく。アクセルでは冒険者が集まる場所なのでなんだかんだ言って街全体で仲間意識があるので何かあればみんな協力や援助をしてくれた。

なので心のどこかで自分なら大丈夫だろうと思っていた所があったのだ。

 

ここは退廃区、俺達が当たり前のように享受していた生きる事ですらままならない様な人間達が、何とか必死にその日を生き抜く為にもがき続ける場所なのだ。

この光景自体は何処にでも見れたのだ。そう日本でも。

 

しかし、それを自分には関係ないと見て見ぬふりをして今まで生きてきた俺にとって、小さな子供がそんな表情をしながら盗みを働いた光景は俺に衝撃を与えた。

 

「ほら盗った物を返しなよ」

「ーーーー痛っ⁉︎」

 

クリスは掴んでいた子供の手を捻り子供の手を無理やり開く。

子供の方は必死に抵抗しようとしたが、関節の構造上耐えることは不可能で必死に掴んでいたバッジを離し地面に落としてしまう。

 

「はい、今度は無くさない様にね。流石の私でも何度も取り返せるわけじゃないんだから」

「ああ、悪い」

 

関節技をキメ続けながら地面に落下したバッジを拾い上げると、それを俺に向けて放り投げる。

認識阻害のバッジは付け続けなくては効果が切れてしまうので今度は盗まれにくいように服の内側につける。

 

「それでその子供はどうするんだ?警察に突き出すのか?」

「ははっ!若いね坊ちゃん、ここで警察なんて外で余程の罪を犯さない限り来やしねーぞ」

 

まるで俺の話を笑うように横から店のオッサンが話しかけてくる。

坊ちゃんと呼ぶ辺りやはり俺がこの区画に慣れてない事がバレバレになってしまっているのだが、まあそんな事に見栄を張ってもしょうがないのだろう。

 

「逆に助手君はどうしたい?ここで盗みとかそういった行為を行って捕まった場合何されても文句は言えないんだよ」

「クソ‼︎離しやがれ‼︎外の人間がここに何の用だ‼︎」

「うるさいな、私は今君に話しかけているんじゃないんだよ」

「何しやが…ゴフッ‼︎」

 

足元で騒がれるのが彼女の気に触れたのか、背中を踏んでいた足で少年の顔面を踏みつけまた一瞬の内に元の背中に戻した。

 

「ここまでやれば充分だし見逃してやらないか?」

 

流石に退廃区とはいえ相手は子供なのでここまでやれば流石に分かるだろう。

 

「助手君、君はその考えが優しさだと思っているかも知れないけど、ここでその考えはただの甘さだよ」

 

彼女はまるで俺を諭す様にそう言うと背中を押さえていた足を肩の付近にズラし、一瞬の内に子供の腕を引き抜いた。

 

「うっ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ‼︎」

 

腕を引かれた子供の体からベニア板が折れる様な何とも言えない音が周囲に響いた後、遅れて少年の絶叫が周囲に響き渡った。

 

「はぁ…全く煩いな、良かったねそこのお兄さんが甘くて。君は結構綺麗な目をしているから他の人に捕まっていたら目玉の一つは持っていかれたかもね」

 

叫ぶ子供などお構いなしに彼女は掴んでいた腕ごとその子供を建物の隙間に放り投げる。

投げられた子供は隅に寄せられたゴミに受け止められ特に怪我はしなかった様だったが、負傷した肩を押さえながらコチラを睨み建物の隙間の路地の闇へと姿を消していった。

 

「悪いクリス、助かった」

「いいんだよ、それよりも」

「ーっ⁉︎」

 

子供の気配が無くなったのを確認した後クリスの元に向かい彼女に謝罪する。

彼女はそれを笑いながら許し俺の顔面へと一発打ち込み、俺はなす術なく地面に倒れ込んだ。

 

「何…を?」

「助手君やっぱり君は甘いね、まあ慣れていないからしょうがないと思うけどもう少し他人に警戒した方がいいんじゃない?もしもあの子が盗みじゃ無くて君を殺そうとしてたら君は死んでいたよ?」

「…悪い」

 

彼女に言われてハッとする。

今回は盗まれたが、もしあれが俺を殺そうとする意図があったのなら間違いなく致命傷を受けていた。

しかもここでまともな治療を受けられる筈はなく、いくら回復魔法使えるからと言っても俺のレベルでは限界があるのだ。

 

「坊ちゃんその子が言う様に気をつけな、あんたが思っているよりここは甘くはないぞ」

「ああ、分かった」

 

彼女の差し出された手を受け取り立ち上がる。

 

「あと、捕まえた人を何もしないで逃そうなんて事しない方がいいよ。ここの住民にもここの住民なりの意地があるからね、何もせずにただ逃される事ほど屈辱な事は無いんだよ」

「そうなのか?」

「そうだよ」

 

何故そうなのかは彼女の口から語られることは無く、きっと何か言えない事情でもあるのだろうか?

 

「やっぱり遠回りしてもここから入って良かった、一番近いところから入ってたら君は今頃連れ去られてたよ」

「マジか…」

「成る程‼︎わざわざあんな狭い所から入ってきたのか、通りで何も知らないわけだ」

「何か関係あるのか?」

「そうだよ、ここは退廃区の中でも治安がいい方だからな、もしも他所で坊ちゃんみたいな無警戒な甘ちゃんを見つけたら…なあ?」

 

どうやら退廃区の中も色々種類があるらしい。

それぞれ縄張りみたいなものもありそうだが、一番危険そうな所に俺が言ったらどうなるかをオッサンは最後まで説明しなかった。

 

退廃区…華やかな王都の裏側と言われている場所だが、もしかしたら俺はとんでも無いところに来てしまったのかもしれない。

 

 

 

「聞きたいことも聞けたことだし、次の場所へ行こうか」

「…ああ」

 

談笑を終えた後謝礼なのか数枚のエリス札を店のオッサンに渡しお礼を言いながら彼女は次の場所へと俺を案内する。

彼女に言われたので俺も警戒心持つつもりで感知スキルを人間を含み周囲へ発動させる。

 

「…何だこれ⁉︎」

 

感知スキルを発動させ周囲の気配を探り分かった事は、この道を取り囲むように色々な感情を有した気配が感じ取れた事だ。

一見周囲には誰一人歩いている者はおらず皆昼なだけあってどこかに出掛けているのかと思っていたが、それは単純に俺が気づいていなかっただけで例えるならまるで知らない大衆居酒屋に入って注目を浴びるあの感覚が永遠に続いている様だった。

 

「ようやく気づいた?」

 

思わず声を出してしまい、それを見たクリスがもしかして気づいていなかったのかと言いたそうな顔をしながらそう言った。

 

「この区の人間から見れば私達は他所者だからね、こうして自分達に害があるかどうかを安全な場所で眺めながら見定めているんだよ」

「そうなのか?てっきり襲ってくるのかと思ったよ」

「そうだね。さっきのあれを見ればそう思うかもしれないけど、ここの住民は基本的に臆病者なのさ」

「臆病者?自分で言うのも何だけど俺さっきいきなり盗まれたんだが?」

「あれはあれだよ、まあ一つの洗礼みたいなものだね?まあ少なくともここ人達は精々盗むのが精一杯って事」

「へーじゃあ何だここは退廃区の中でも弱い者が集まる場所ってことか?」

「そうだね。退廃区にも色々場所があるけど、ここに来るのは基本的に争いに参加できない弱者ばかりだね」

「こことは退廃区の人達にとってのセーフティーネットみたいなものなんだな」

「みんな安寧を求めてここに来るんだよ、この退廃区の住民が区の外に出た所を殺してしまってもちゃんと申請すれば罪にならないからね」

「恐ろしいシステムだな…」

 

色々あったんだよと少し遠い目をしながら彼女はそう言った。

日本では仕事を失い生活がままならなけえば生活保護を貰って最低限の生活をすることが出来ると言うが、この世界ではそんなシステムは無く税金を払えずに社会から溢れた人間はそのまま放って置かれ朽ち果てるしか無いらしい。

ならばこの様に溢れた者達が集まりコミュニティーを形成し歪な形で共生するのも一つも生活手段と言えるのでは無いだろうか?

 

「だから何かあった時はここに来れば大抵の情報は手に入るって訳か…」

「そうだね、何かあった時に潜伏先を決めるとなれば、ここ程打って付けな場所は無いからね。私も初めてここにきた時はビックリしたよ」

「街の外に出るって選択肢はないのか?腕に自信があるならここから逃げる事も可能だろ?」

「はははっ冒険者らしい発想だね、君はこの世界に来た時カエルすら倒せなかったの忘れたの?」

「いや…そうだけどってか何で知ってんだよ?」

「ん?ああそうそうゆんゆんに聞いたんだよ。いつだったかわもう忘れたけど君に会いに行ったら留守でね、やる事も無かったから丁度出てきたゆんゆんとしばらく談笑したんだ」

「あのゆんゆんと談笑だと…クリスのコミュニケーション能力は怖いな」

「いやいや、逃げ場を塞いであげれたら普通に話してくれたよ」

「それが恐ろしいんだよな…」

 

「それで話を戻すけど、結局ここの人達は対人能力に関してはトップクラスかもしれないけどモンスターに対してはそんなでもないんだ。何せ一般人は下級魔法を使えればそれだけで職業が貰えるからね」

「そうなのか?俺は普通に使えるからいまいち分からないけど…」

 

下級魔法は冒険者が何の努力もなしに取れるスキルで、俺も教えてもらったその日に習得する事が出来るくらいだ。

 

「君達冒険者からすればそうだね、けど冒険者になる事自体才能が必要なんだ」

「俺みたいな底辺冒険者でも、なるのにはそれなりに才能が必要だってことか?」

「君は最初からアクセルに居るから分からないだろうけど、普通は小さな村から冒険者になれる素質がある人が居れば村中でお祝いをして送り出す程だからね」

「そうか…俺も意外に才能を持っていたわけか、冒険者にしかなれ無いから才能なしかと思ってたよ」

「そういう事、冒険者に囲まれて暮らしているから分からないと思うけど、冒険者になるには素質が必要でなりたければなれる訳じゃ無いんだよ」

 

自身とその周囲が恵まれていると自分の中ではそれが当たり前となり、恵まれていない人の気持ちが分からなくなるというが、この退廃区というシステムの存在がその意味を肯定しているかもしれない。

 

「成る程な…けど何で冒険者に素質が必要なんだ?」

「前にも言ったけど冒険者の使うスキルは昔に人が習得した技術を移す事を指すんだよ。それで、そのスキルを移すには他人の経験を受け取れる素質が必要になるんだ、まあ素質がなくても自ら学べば魔法を使える様にはなれるんだけど、スキルとして習得しない形で魔法一つを習得するには人一人分の人生が必要とされているんだ。実際今みんなが使っているスキルを集めるのにかなりの人数から協力して貰ったって話だしね」

 

「スキルで習得した方が効率がいいってことか…それで受け付けなかった場合は拒絶反応を起こす人がいるって感じなのか?」

「全員が全員そうなる訳じゃ無いけどね、基本的に自己の情報じゃ無いから素質のない人に移しても何も起きないんだ。だから基本的に技術をスキルとして登録は出来ても他人の技術をスキルとして継承するのは難しいって話だよ」

「そうか…」

 

まあスキルとして登録できたのなら莫大な登録料が貰えるんだけどね、と彼女は付け足した。

冒険者として生きるのであれば俺は底辺かもしれないが、冒険者以外で生きて行く人たちの中ではそれなりに上位に存在するという事になる。一体何のために存在するのかと思っていた料理スキルなどの戦闘に関係ないスキルも俺たち冒険者が前線から退いた時のために用意された再就職の資格なのかもしれない。

 

「ここには俺達みたいな冒険者が居ないってことか?」

「そうだね、ただ魔法の習得には人生単位で時間がかかるけど、それ以外は素質とは別の才能があれば技術として出来る事もできるんだよ、君だってスキルなしでもそれなりに色々武器が使えるでしょ?」

「まあ確かに型が固定されるから覚えないでって言われて武器のスキルは取らなかったけど、言われてみれば習得しなくても使用できたな」

「だから職業の盗賊よりも技術力の高い人も居るかもしれないって事だよ。ただスティールとか物理現象を魔力で捻じ曲げている奴は使えないけどね」

「確かにあれを物理的に再現しろって言われたら出来ないな…」

 

結局物理的に出来るものであればスキルがなくても同じ結果を起こせるということになる。

 

「要するに気をつけろって事だな」

「そうだね…何でこんな話になったんだっけ」

「何でだっけ?」

 

すっとぼけていると歩いていた道の雰囲気が少しずつだが変わってきているのを感じ、感知スキルで感じ取れる危険度というか嫌な感じが濃くなってきていることに気づく。

 

「そろそろ場所とやらが変わるのか?」

「よく気づいたね、さっきまでいた場所はゲームで言う練習みたいな者だからね。ここから先でさっきと同じ様な考えでいたら例え君でもただでは済まないと思った方がいいよ」

「ああ、分かってるよ…」

「本当に?さっきは分かって貰うためにワザと大袈裟にやったけど、これから先はあの程度子供のおままごとだからね」

「マジか…」

 

アイリの事を考えると早く事を終わらせたいが、これからの事を考えると中々に大変な事になりそうだ。

彼女のいう本当の退廃区とやらに戦慄しながらも気を引き締め、俺は彼女の後を着いて行った。

 

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