「さて、これからは気をつけて行動してね。下手踏むと厄介なことになるから」
「分かってるって」
区が変わり、危険度が増したのだろうか周囲から受けている視線の濃度が濃くなる。
先程までの区では不安や警戒の色が多かったのだが、ここでは殺意に近いピリピリとした緊張感が漂ってきている。
潜伏スキルを使っているためか、周囲の注目を集めている様な事は無いので安心だが、何の備えなしにここに踏み込もうものならどうなってしまったかなんて想像できない。
場所は変わり、流石にずっと歩きっぱなしでは疲れると言い近くのバーで休憩する事になった。
こんな時間にやっているのかと思っていたが、どうやらここでは勝手が違うらしく昼間どころか朝から通しでやっている様だった。
店内は昼間のギルドの酒場を彷彿とさせたが、ここはそれ以上のうるさく卓によってはその場でギャンブルを始めている所もあった。
あまりの場違い感に圧倒されかけたが、何も気にしていない彼女に促されるまま中に入り空いていたテーブルに勝手に座り近くの店員らしき人に飲み物を注文する。
入る時にクリスが潜伏スキルを俺でもギリギリ認識出来ないくらいの精度で纏いながら色々確認していたので多分問題ないだろう。
法外な飲み物が出てくるかと思ったが、メニューを見る限り意外にもよく見る物が多く案外そんな物なのかと安心してしまう。
「ここはよく私も行くから気を抜いてても良いよ。まあ抜き過ぎれば死んじゃうんだけどね」
「ははは…それで、これから何処に行くんだ?」
「そうだね、時期も時期だし君もいるからそろそろ行動に移そうかと思うんだ」
「どういう事だ?しばらく様子を見ながら泳がそうって言っていたじゃないか?」
ここに来る前に聞いた話では今回は情報収集で、行動に移すのは全ての下準備が整ってからだと言っていた事を思い出す。
「最初はそのつもりだったんだけどね。あの商店の人と話していて思ったよりも状況が悪化しているって気づいてね、少し事情が変わったのさ」
「そう言うもんなのか?まあ俺は着いていくだけだから良いんだけどさ」
結局の所、俺は彼女に着いていく事しか出来ないので下手に意見は出来ない。
「まあ何をやるかって言っても人工マナタイトの取引を抑えようとしか言いようがないんだけね」
「おい」
そんな事をここで言ってもいいのかよ、と彼女に言いそうになった所で彼女の後頭部に向かってボウガンを向けている男がいることに気がつく。
「急に見た事がない奴を連れて来たかと思えば、今度は一体何を考えてやがる」
「久しぶりだね,最後に会ったのは何年前だっけ?」
彼女は背後にいるにも関わらず誰が居るのか分かっている様で、命を脅かされているにも関わらず冷静にそいつに話しかけている。
その様はまるで反抗期の子供をあやす親の様だった。
「チッ、質問に答えやがれ」
「単刀直入に言おうか?君達の取引している人工マナタイトの出所が知りたいんだよ」
彼女の言葉で場の空気が凍りつく。
どうやら前彼女が言っていた人工マナタイトの取引場はここの様で、先に言ってくれれば俺も言葉を考えたのだが流石にそこまで気は回らない。
いきなり人様にボウガンを向けるのはどうかと思ったが、流石に敵陣のど真ん中でお前達を取り押さえるなんて言われれば用心棒の一人や二人は出てくるだろう。
そんな事を考えていると酒場にいた連中らが各々得物を取り出しながらこちらに睨みを効かせる。
どうやらここに居る面子らは客ではなく皆同じ組織の属している仲間達のようだ。
「そうかよ、それじゃあの世で閻魔様にでも聞くんだな‼︎」
あの世には閻魔様じゃなくて変な女神達なんだけど…と伝えてやりたかったが、今そんな事を言った所で彼らは聞く耳を持たないだろう。
クリスの煮え切らない態度に限界が来たのか、彼女曰くの用心棒はボウガンの引き金を引いた。
「危なっ⁉︎」
ボウガンは何の支障もなく放たれその矢は彼女に当たり致命傷を与えるはずだったが、現実にその矢は彼女に当たる事なくテーブルの俺の手前に刺さった形となる。
身の危険を感じ椅子から横に飛ぶと、丁度その辺りに大きめのハンマーが振り下ろされ椅子もろとも周囲が破棄される。
やはりというか当たり前だが、俺もただでは済まない様だ。
当のクリスは用心棒の男の矢を躱して早々顔面に回し蹴りを放ち、店の壁まで彼を吹き飛ばす。
「兄貴⁉︎」
それに激昂した部下の様な面子が我を忘れてクリスに飛び掛かるが、彼女はそんな事はお構いなしと片方には顔面ストレートもう片方に肘打ちそして残った足で3人目の首を挟んで締め上げ捻り倒す。
まるで漫画を見ている様な光景に唖然としながらこちらもやられない様に応戦する。
相手は多勢に無勢だが、今まで倒してきたモンスターと比べればそこまで驚異的では無いが、それでも相手が人間である以上は油断はしないほうがいいだろう。
相手の攻撃を躱しながらその隙を突き首の裏に手刀を当て気絶させ、隣にいた細いやつの顔面を掴みそのまま強化した筋力で放り投げる。
なんだかんだ言って俺も成長しているんだなと思いながら酒場の連中らをのしていく。
「クソッ‼︎これだから他所の人間は嫌なんだ。お前ら奥に居るボスを連れて先に会場に行ってろ、ここは俺が引き受ける‼︎」
先程壁に吹き飛ばされていた用心棒の男が起き上がり、部下から煌びやかな刀を受け取りその刀身を鞘から丁寧に抜き出した。
「へぇ、それ君が持ってたんだ。てっきり他のグループが持っているかと思ったよ」
「チッ、だから使いたくなかったんだよ」
刀を抜きその刀身をクリスに向けながら男は相対する。
彼女の言葉から察するにその刀は神具で昔その用心棒を含めたメンバーと何かいざこざがあった様だ。
「コイツを出しちまった以上お互い引くに引けなくなっちまったが、大人しくここから出て行くってんならこの刀を再び鞘に収める事を考えよう」
「へぇ、随分と言う様になったね。昔は何かある度にボスに泣き付いていたのに」
「一体何年前の話をしてやがる」
刀を出した事で用心棒サイドは場を制した様な雰囲気になっているが、クリスはこの状況を何処か楽しんでいるようだ。
「兄貴‼︎変な事言っていないでガキ二人くらい早くやっちまいましょう」
この膠着状況に危険を感じたのか部下の一人が異を唱える。
「黙っていろ。見た目に騙されるな、コイツは俺が尻の青いガキの頃から何も変わっちゃいねぇんだよ」
「酷いな…確かに姿は変わってないけど貫禄は出てるでしょ?」
「相変わらず調子狂うぜ…一体どんな手品使ってやがるが知らないが」
姿が変わっていない?
確かに彼の言う通りであればクリスは少なくとも40は超えていることになるが、彼女の姿は依然として俺より少し上か下のどちらか位でそこまで歳が離れているような感じはしない。
まあ神具を回収している過程で永遠の若さを維持する的な物があればそう言うことはあるだろう。だがそれだと彼女の実年齢は一体幾つなのだろうか?
「それで?私はただ君達が取り扱っている人工マナタイトの出所が知りたいだけなんだよ」
「それを教えたくねぇからこうしてるんだろうが‼︎」
あまりにも話を聞かないというか聞く気がないのだろうか、交渉において最も苦労する相手とは話を聞かないよりも話が通じないやつとはよく言ったものだ。
わざとなのか天然なのかはわからないが、相手が求めている答えや対話を全く取り合わず、明後日の方向から攻めている様にしか見えない。
「もう、しょうがないな…君じゃ話にならないからボスを出してよ、外に逃すって事はいつもみたいに奥の部屋でくつろいでたんでしょ?」
「断る、お前みたいなやつをボスに合わせたら碌な事にならねぇ」
「酷いな…」
まるで子供が泣く様な嘘泣きをしながら相手の様子を伺うが相手はもう茶番に付き合う気はないようで、こちらをただ静かに睨みつけるだけだった。
「何だ、つまんないな」
「早く出ていくか切られるか選べ」
「仮に斬られる方って私が言ったら君は私を斬れるの?」
「当たり前だ、こっちとらボスの命を預かってるんだ例え見た目が小娘だろうが楯突けば斬り捨てるだけだ」
「違う違う言い方が悪かったね、私に刀を当てる事が出来るのかって事だよ」
「なっ⁉︎」
人を斬れるかという倫理的な質問に聞こえたが、彼女からしたら物理的に私を斬るに至れるのかという質問だったようで、用心棒の男がその真意に気づいた時には既にクリスに距離を詰められ刀を掴んでいた側の手首を掴まれそのまま技を掛けられ地面に一回転し叩き付けられ、ついでに刀を奪われていた。
「がはっ‼︎」
まるでいつもの自分を見させられている様でいい気分ではないが、兄貴と呼ばれ慕われている奴が俺と同じように簡単にやられるところを見ると何だか安心してしまうのは何故だろうか?
「全く、いつも思うんだけどみんなその自信は何処から湧いてくるのさ?」
「兄貴⁉︎」
「来るんじゃね‼︎」
一回転し地面に叩きつけられた用心棒はそのままクリスに押さえつけられ関節を決められ、その光景を見た部下が助けに入ろうとするが彼はそれを止める。
「俺の事は構うな‼︎それよりもボスはどうなんだ?」
「それが…ボスがそちらの方に会いたいと仰っておりまして…」
「何だと?」
用心棒の男は部下が言ったことに対して驚きながらクリスの方に向き直り何かを言おうとしていたが、それを遮る様に奥の部屋から車椅子のような道具に乗せられた初老のくらいの男性が現れる。
「ほほほ…相変わらずやる事が大胆じゃのう…」
「久しぶりだね、最近見ないと思っていたからてっきり足を洗ったのかと思ったよ」
「貴様‼︎」
ボスは車椅子の様な物に座っては居るがその眼からは見た目にそぐわない恐ろしい程の威圧感を放っており、ボスと呼ばれる程の人物ではあるようだ。
「良いんじゃ、それより今回来た目的とは?」
「外で…いや中だけど、これだけ暴れていたのに誰にも聞かなかったの?」
丁寧に話すボスに対してまるで昔の友達の様に話しかけるクリス。その対比を見せつけられると流石に大丈夫なのかと思うがクリスの事だから大丈夫だろう。
「まあいいか、君達が卸している人工マナタイトの出所が知りたくてね、教えてもらえるかな?」
「成る程…そういう事じゃったか…いつかは来ると思っておったがまさか今日とは」
流石はボスと呼ばれるだけあって既にクリスが来る事は予感していた様だが、知っているならあらかじめ迎え入れて欲しいものだ。
「良いじゃろう、ただしただとは言わんぞ」
「いいね、そう来なくちゃ。安心しなよちゃんと報酬は用意しているからさ」
「ほう…」
基本的に麻薬や覚醒剤などは組織の貴重な収入源になっているのが世の理だがこの世界でもそれは変わらないようで、その収入源をクリスに教えれば潰されてしまうのは必然だろう、ならばそれに相当する何かを差し出すのは当然だろう。
まあ、それはあくまで二人が対等な関係だった場合だが。
「それで君はアレを何処から仕入れているのかな?」
「それは簡単じゃよ、オークションじゃ」
「へぇ…」
ボスの答えを聞いたクリスは不敵に笑うのだった。
「それじゃあオークションに行ってみようか、置物の助手君」
「やかましいわ」
全ての話を終えると、クリスが背伸びをしながら疲れたと言わんばかりに気の抜けた声でそう言った。
あの後色々あったが、奪い取った神具の刀と部下の命を引き換えにオークションの枠に入れて貰える事になった。
ボスの様子から普通に頼めば問題なく行けそうだったが、部下たちの面子を考えれば強引ではあったがあれがいちばんよかったのだろう。
「取り敢えず着替えようか」
「ああ」
オークション会場はまた区が違うので移動する事になったのだが、あんな事で許可を貰ったので中々顔を合わせづらいので現地集合となったのだ。
場所には場所に見合った服装が求められると聞くが、今回のオークション会場では下手な服装では入れさせてもらえないようだ。
彼女に案内されるがまま適当な建物に入りチップを払い場所を変えながら着替えを済ませる。
区が変われば危険度が増すと言われていたが、そこまで危険かと言われればそうでは無いのだろうか?
「これからオークションに行くけど覚悟はいいかな?」
「いいかなって俺はただついて行くだけだろ?また置物みたいにじっとしているよ」
先程言われた嫌味をネタにして返す。
つまらないプライドだが言われっぱなしは性に合わない。
「はははっ何それさっき言った事気にしてるの?ゴメンって。それでオークションだけど気をつけてね参加するのは退廃区の人達だけじゃ無いからね」
「どういう事だよ?」
「そのままだよ、まあそうだね。ダクネスが君に教えた貴族が紛れ込んでいるって話だよ」
「マジか…」
やはり闇オークションみたいな形式をしている以上、金を持っている貴族が通常ルートで得られない物を手に入れる為にこのオークションを利用していても不思議ではない。
「まあ貴族と言ってもダクネスみたいな大物は来ないよ、来たとしても精々小物の貴族くらいかな。大物になれば欲しいと言えば誰かが用意してくれるからね」
「へ、へぇ…」
まあそんな事はないと思ってはいたがアイリやダクネス達は来ない様だ。
俺はアイリの過去を知らないので何とも言えないが、もしこのオークション会場に居たらどうしようかと思った所だ。
「このオークション会場は表の色々な所と癒着していてね、なんと銀行と連携しているんだよ」
「何…だと⁉︎」
「折角だから何か買ってみたら?ここで買っても足跡は残らないから私以外にはバレないよ」
「なんでだよ、怖えーよ」
どうやら闇の事情によりこのオークションに俺も参加できる様だが、果たして違法商品を購入したいと思うのだろうか?
「それでクリスは今回出品される人工マナタイトを購入するのか?」
結局の所、このオークションに参加できたのはいいのだがそこから先の展望を聞かされてはいないのだ。
「私は出品者の所在を掴むために色々やらないといけないからね、名目上ボスの知人として入っているから君はオークションに参加してボスと一緒に楽しんで怪しまれない様にしてね。
「そんな、無茶苦茶だろ‼︎」
今日初めて出会ってしかも話したことも無い人といきなり一緒にオークションに参加して知人の様に過ごせ、とはクリスもなかなかに難しいことを言ってくれる。
「無理でも何でもしてくれないと困るんだけどな…」
「分かったよ」
やれと言われた以上はやらないといけないのだが、まあ悪い人では無いのだろうし大丈夫だろう。
無茶な指示が最近多いのでパーテンションの向こう側で着替えている彼女に悪戯してやろうかと思ったが、倍にしてやり返されそうなのでやめておくことにした。
「それじゃあ行ってみようか、この区は退廃区の中でも危険だけど何もしなければ安全なな所だからね肩の力を抜いてもいいよ」
「なんか意味深だな、危険にさらされる条件でもあるのか?」
先程までザ・スラム街みたいな場所だったが、今いる区間は文明が発達しているのかまるでネオン街の様に華やかだった。
そんな場所である意味危険だと言われれば何かと勘繰ってしまうほどだ。
「そうだね、基本的にこの区は貴族が表沙汰にしたく無いことを依頼したり取引する場所として使われているからね、周りの風潮としては金を持つものが強いみたいな場所だから…ほらあそこで」
「え?」
クリスが指を刺す場所を見ると、そこには煌びやかな服装した多分貴族の一人だろう誰かが建物から出てくる所だった。
「あれがどうしたんだよ?」
「はぁ…油断しすぎだよ…てそうか君にはまだ他人が他人に向ける殺気を読む事を教えてなかったね」
ありのままの光景を伝えると何故か飽きられられ、その後無理難題な教鞭を打たれそうになる。
「周囲から無数の殺気が彼に向かって放たれているんだ、この状況下で起きるのは説明するまでもないよね」
「おい…まさか⁉︎」
貴族が屋敷から出て護衛が扉を閉めるタイミングだった。
建物の影から無数の人影が現れるとボウガンやそれに近い武器を展開し、守りに入る護衛ごとターゲットである貴族を何ども繰り返して毒でもついているのであろう矢で撃ち抜き、致命傷を与えた事を確認するとそのまま人混みにまみれて消えていった。
「あれは暗殺か?」
正確には違うが、それ以外の言葉が思い出せなかった。
「まあそんな感じだね。ここでは色々な要人が集まるから他の貴族とかに狙われるんだよ」
「ここでは暗殺が日常茶飯事って事かよ」
「そうだよ。周囲を見てごらん、事が起きている時はみんな避けていたけど済めばこの通りいつも通りさ」
彼女に言われて周囲を見るとまるで何事もなかったように活気が戻り談笑やら何やら聞こえてきた。
まるであの事件なんて無かったかのように振る舞う人達を見て奴等にとって人の死は取るに足らない日常なのだろう。
「この区では貴族が金を落とすから基本的に裕福な人達が多いから盗みとかは起きないけど代わりに政治的な暗殺や殺しが多いかな」
「ははっマジかよ…」
どうやら退廃区の中の細かい区分けの中でそれぞれに特色があるなんて誰が思うだろうか?
だが俺が命を狙われる事が無いとわかればそれはそれで気が楽なものだ、と考えたいがここで気を抜けばまた酷い目に遭いそうな気がするので気を抜かないでおこう。
「そろそろ約束の時間だし会場に向かおうか」
「おう」
人が目の前で死んでいくことに耐性が出来たら嫌だなと思いながらクリスの後をついて行った。
「ほほほっしばらく振りじゃのう、小僧なは何というのじゃ?」
「サトウです」
「サトウか、何処かで聞いた名前じゃな?」
「確か勇者が同じ名前だったと思います」
なんだかんだオークション会場に入ると先程の用心棒が待っており、彼に案内されるがまま銀行などの手続きを済ませると本会場に連れて行かれたが、その途中でクリスの姿が見当たらなくなる。
彼女の言う作戦が開始されたのだろう。
この作戦では本来秘匿されている出品者の情報をどんな手段かは知りたくはないが掴むと言うものだ。
オークションが開始しその途中で席を立てば目をつけられてしまう以上、今の段階で姿を眩ますのが賢明だろう。
…まあその結果俺は護衛とボスに挟まれている状況にあるのだが…
「サトウ…うむ言いづらいな…よし小僧!オークションは初めてか?」
「そうですね、こう言った事は経験がありませんね」
「じゃろうな、だが口座には沢山のエリスがあると聞いたぞ」
「そうですね」
「流石クリス嬢が見込んだ事はあるわい」
クリス嬢とは一体?
まあ今度何かあったら呼んでやろうと思う。
しかし、システムの都合上口座を押さえられていると聞くとあまりいい気はしない。まあ俺の財産はポートフォリオの様な感じで分散してあるので一つ乗っ取られても問題は無いがそれはそれなのだ。
「ほら始まるぞ、小僧も何か欲しい物があったら買うといい」
「そうですね…」
ボスがそういうと会場が暗転し奥の段上にスポットライトが当てられ司会者が現れる。
「さあ始まって参りました第XX回退廃区オークション‼︎」
もう既に何度も繰り返されたであろう挨拶を終えると第一の商品が横から運ばれてくる。
「まず最初の出品です。最初を飾るのはこの商品です‼︎」
ビックリする様な効果音と共に運ばれてきた物に掛かっていた布が剥がされ商品の姿が現れる。
「第一の商品は紅の眼です‼︎紅の瞳といえばその紅色の輝き‼︎その輝きはどの宝石よりも美しく輝くと言われている事で有名です‼︎私このオークションの司会を何年もやらせて頂いていますが最近中々見ない商品です。もしかしたら何処かのコレクターが買い占めているのかもしれません、ならば今回がラストチャンスの可能性があります‼︎さあ開始は一千万エリスです‼︎」
「ほう…これは…」
「あっ…あ」
その眼は…
シリンダーに浮かんでいる二つの目は何処かで見たと言うか俺がよく見ていた彼女たちが興奮した時に見せる眼そのものだった。
正確にはゆんゆん・めぐみんの眼では無いが、あの目が紅魔族の眼である事は間違いない。
「何だ小僧あのくらいでビックリしてはこの先は耐えられんぞ…」
「あ…はいすいません、ついビックリして…」
「まあ、若さゆえのリアクションじゃな昔の若造を思い出すわ…」
「ボス、その話は恥ずかしいのでやめて下さい」
「ほほほっ」
どうやら護衛のオッサンも昔に俺と同じ反応したようでそれを懐かしんでいるようだ。
「あの眼を持つのは紅魔族という小さな村に住んでいる珍しい一族でな、何でも興奮すると目が赤く光る特徴を持っていてな、稀に死んでも尚光続けるその輝きに魅せられる者がマナタイトの入った溶液につけて保存する者がおるらしいぞ」
「そうなんですか…」
「その紅魔族は極めて魔力が高く並みの冒険者では返り討ちに遭うのじゃ。それに里の結束力が高いから個別で狙う事も難しいとの事だ」
結束力が高いと言うかみんな引きこもっているだけだと思うが、何も知らない人から見ればそう言う評価になるのだろう。
「それでボスは購入されるのでしょうか?」
「そうじゃのう…まあいつになるかわからんが暫くしたら大量に市場に流れてくるという噂があるから今回は見送るかのう」
「当てになるんですかその噂?」
「ほほほっ噂なんてものは所詮噂でしか無いからのう。外れ無い方が稀じゃわい」
「駄目だこの爺さん…早く何とかしないと…」
紅魔族の眼にそんな価値がある事分かった以上、めぐみんが爆裂魔法で動けなく無くなった所を狙われかねないので今度から着いて行こうかと思う。
「最初に紅の眼が出るとはのう…今回は面白いのが出るかもしれんのう」
ボスは長い髭を手で撫でながら眼を細めながらまるで嵐を予測する漁師の様にそういった。
その後紅の眼が霞むくらいの様々な物が出品され、目当てだった大量の人工マナタイトの競りを隣で見届ける。
このオークションでは神具はおろか人身売買もされているらしく見た目の美しい美女や美少年なども出品されており、紅の眼程の価値は持たないがアークウィザードの髄液やらドラゴンの心臓など様々な物が出品されていた。
「そろそろ大詰めとなりました、後二品でこのオークションを終わりになります‼︎」
司会の挨拶に合わせて大きな籠が運ばれてくる。
こういった時は基本的に生物が出てくるのが今の俺の定石である。
サイズからして大きめの絶滅が近い動物か、それともアルビノ体か色違いの亜種当たりだろう。
結局最後まで何も買わなかったが、本来ならそれが当たり前なのでそのまま終わりにしよう。
俺の目的はあくまでこのボスと話して知人である様に振る舞うだけなのだから。
「今回は何と珍しい貴族の子供ダスティネス・フォード・シルフィーナ‼︎彼女はなんとあの有名なダスティネス家の当主代理の従姉妹にあたる少女でございます。本来であれば貴族の子供なんてものはお目にはかかれませんが、今回王族の方でゴタがあったらしくその隙に入手したとの事‼︎管理の都合上調教は既に済んでいるためそっちの趣味の方は楽しめませんが、新品未使用となっていますのでそちらは楽しめます‼︎こちら二千万エリスからとなります‼︎」
「こ…これは…」
「ダスティネス…」
ダスティネスと言えばダクネスの実家になる訳だが、従兄弟ということは親父さんの兄弟の子供ということになる。
ダクネスがそんなミスをするとは思えないが、あの王都の惨劇に対応していたとなるとそこまで手が回らなかったと考えてしまう。
感知スキルでは貴族の放つ独特な気配を放っているので少なくとも一般人では無い事は確かだ。
であれば俺はこの競りを落とさなくてはいけない。
ダクネスにはそれなりの恩があるので此処で競り勝って譲り渡せば、この競りに使った金額プラスαの金額を貰えるだろう。
しかし、これがダクネスによる策略の一部だった場合どうだろうか?考えたくはないがダクネスが王都襲撃の隙を見て邪魔な関係者である従姉妹を抹殺しようなんて事はなくは無い。
誰しも皆人には見せない仮面を被っている、ダクネスもその一人かもしれないのだ。
そうすれば俺は余計な事をしてしまった事になる。だが、仮にそうだったとしたら俺はそんなダクネスを許せるのだろうか?
ならやる事は一つだ。
「その少女は俺が貰ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ‼︎」
そうこれは俺の理想とするクリーンなダクネスのためであり、俺がロリコンである訳では決して無いのだ。
もう一度繰り返そう、俺はロリコンでは無い‼︎
何とか競に買ったが、一億数千万エリスを失うと言う結果となった。
まあ資産はまだ沢山あるが、それでも一度の買い物にこれ程までの金額をかけてしまった事の罪悪感は拭えない。
そんな事を考えている間に最後の商品に神具が出品され会場はさらに沸き立ったが、そんな事などどうでも良いくらいに俺の心は達成感に満ち溢れていた。
その後、俺はボスに付き添われながらダクネスの従姉妹であるシルフィーナの受け取りに向かう。
人工マナタイトの回収は部下が行うらしく、何故か俺のサポートをしてくれるらしい。
「サトウ・カズマ様こちらが今回購入された少女ダスティネス・フォード・シルフィーナでございます」
個室に案内されると係員が檻の中に仕舞われていた少女を俺の元に出す。
檻の外に出された少女は調教の後だろうか、顔以外には所々アザが見受けられその姿は痛々しかった。
「ほら、このお方がお前のご主人様だ」
少女には首輪がつけられ逃げない様にそこから鎖が伸びており、その姿はまるでリードに繋がれた子犬を連想させた。
「よろしくお願いします、ご主人様…」
ボロボロで満身創痍な状態で自分は一体どうなってしまうのかと不安で仕方がないであろう彼女は、俺の顔を見るとそう仕込まれたのか弱々しい笑顔でそう言った。