この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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遅くなりました、色々あってしばらく投稿できたりしなかったりします。


銀狼の牙6

「それでこの子を回収したのはいいけど、どうするか…」

 

その場の流れでシルフィーナを購入した訳だが、これからアレクセイ家にカチコミを掛けるとなる事を考えると流石に連れていくわけにはいかない。

奴隷なので自由にしていいとこの界隈では言われているが、俺のホームはあくまでアクセルなのでなるべく普通の女の子として扱いたいのだ。

 

「そうだね…この区で預けるには安心できないからね、一度君の仲間に預けたらどうかな?」

「いや流石にこの子を連れてアクセルには帰れないな…」

 

ただでさえ帰って居ないのに、いきなり小さな女の子を連れて帰ってきてしばらく預かってくれなんてとてもじゃないが言えない。

 

「それじゃあ酒場に預かって貰おうか、あそこならアレクセイをとっちめている間くらいは安全だからさ」

「大丈夫なのか?というかそこまで行くんならダクネスに渡したほうがいいんじゃ無いのか?」

 

結局のところ出来るのであればそれが一番いい考えなのだろう。

この子にとっての俺は持ち主でしか無いが、ダクネスは親族で従兄弟にあたり本家の当主代理を務める程なので彼女に渡せば何かしらの人脈や知識でこの刻印についても解決してくれるだろう。

 

「それは止めておいた方がいいよ」

「どうしてだよ」

 

話としては確定していないが、一応暫定として酒場のマスターに預かってもらうという話になったので最初の場所に向かいながらクリスと作戦会議をしていたわけだが、俺の提案を彼女は快く思って居なかった様でまるで諭すように否定した。

 

「ただでさえダクネスは今回の件で頭がいっぱいだからね。まあ状況を見るにその子の親御さんも個人的には探して居たみたいだけど結局本家には連絡はしてなかったみたいだね」

「…詳しいんだな」

「ダクネスの反応を見ればわかるよ。あの子は優しいからね、もし親族の一人に何かあれば心配せずにはいられないそんな子だから、もしあの子がこの子の事を知って居たなら君には人工マナタイトの捜索じゃなくて子の子を探す事を第一に伝えたはずだよ」

「確かにそうだな」

 

確かにダクネスが自身の親族の事を優先しないとは考え辛い。

人工マナタイトの出所の捜索だけであるならクリス一人で十分なはずだ。それをわざわざ俺もメンバーに加えた事を考慮したのであれば他に憂う事が無かった事の証明になる。

 

「それに奴隷の証のついたこの子ををダクネスが見たらどうなると思う?例え君が所有権を持っていたとしても刻印のついた貴族の人間が社交の場に出る事は出来ないのが貴族社会の定めだって事を誰よりも知っている筈だからね。もしダクネスがそれを知ればこの子の刻印を消す事に気を取られるんだよ」

「だったら刻印を…」

 

刻印を消してから渡せばいいじゃねかと言おうとした所で言葉に詰まる。

 

「そうだね、その言葉の続きを言おうとしたら流石の私でも君を引っ叩こうと思ったよ」

「…悪い、忘れてた」

「そうだね、彼女を解放する方法は彼女自身の手で君を殺す事だよ。それをすれば君は死んじゃうし、この子にもトラウマが残るだろうね」

「他の方法は無いのか?」

「無いよ、奴隷の刻印は全身の奥深くに刻まれているからね。出来ないけど何かしらの手段で勝手に外そうとすれば刻印のセーフティーが発動するすし、ほぼ無理だね」

「…そうか」

 

俺の足元で静かに止まっている彼女を見下ろしながらこれからどうしたものかと考える。

 

「取り敢えず酒場の人に預けて一通り終わったら迎えにいけばいいか」

「そうだね、それがいいと思うよ」

 

取り敢えずは彼女の事は置いておいて俺達はアレクセイ家に行き事件を解決しないといけないのだ。

 

「それじゃあこっちの道から行こうか」

「ああ、そうだな」

 

シルフィーナの手を引きながらクリスの指差す道へと方向転換する。

 

「この道は近道だけど気をつけてね」

 

彼女は少し不安げにそう言いながら華やかな場所から寂れた道へ向かう。

華やかな場所だとしても道が一つずれればこんな寂れた所へと変貌してしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 

彼女に案内されるがまま進んでいくと、まるで廃れて誰も手入れをしないまま数十年経ち心霊スポットの様な雰囲気を醸し出している商店街跡の様な道に辿り着く。

そこでは正気を無くした人達が空虚を見詰めながら死を待っている様だった。

 

「ここは何なんだ?」

「ここかな?」

 

その異質な雰囲気に圧倒され思わずクリスに訪ねると、彼女はあまり答えたくなさそうな雰囲気でここがどう言った所なのかを語り始めた。

 

「ここは奴隷の掃き溜めだよ」

「掃き溜め?」

「そうだよ。さっきは詳しく言って居なかったけど、奴隷の持ち主が奴隷の子に殺される事なく亡くなった場合はその刻印消えずに永久的に残り続けるんだよ」

「そうなったらもう一生その刻印を消す事は出来なくなるのか?」

「そうだね。ただ血縁者なら契約を引き継げる事があるけど、それは事前に儀式みたいな事をしないといけないからあまり見ないかな?」

「それでご主人がいなくなった奴隷はこうしてここに捨てられるってわけか…」

「他者の刻印が入った子はもう他の人の刻印を入れる事ができないからね、そんな子をわざわざ引き取るよりも新しい子を迎えた方がいいってさっき言ったよね。だから行き場を失った奴隷の子はこうしてここに辿り着くって事だよ」

「そうなのか…」

 

日本で言う戸籍を作らないまま育てられ両親を事故で失った子供に近いのだろうか?

戸籍がない以上義務教育を受けられないまま大人になり、無教養のまま社会に放り出され戸籍が無いので働く事も出来ず社会から居ない者の様に扱われるそれだろうか?

 

周囲を見渡すと辺りにはまるでシルフィーナに嫉妬の様な感情とお前も同じようになってしまえという怨嗟の入り混じった視線が向けられていた。

例え服を着替えさせ刻印を見えないようにしても奴隷同士何か感じるものでもあるのだろうか?

 

震えるシルフィーナに大丈夫だと言い聞かせながら道を進んでいくと、捨てられた奴隷の一人が先頭を歩くクリスの足元に縋りついた。

 

「…スリ…」

「?」

 

縋りついた奴隷は何やら聞き取りずらい音量で何か言っているようで、流石にこっちまで来るとは思って居なかったのかクリスもポカンとした表情でその奴隷を見つめる。

 

「ねぇ…持っているんでしょう?赤い石を…」

「………っ⁉︎」

 

その言葉が聞き取れたと思った瞬間、クリスはその奴隷を咄嗟の判断だったのかそれとも状況を理解できずに出た反射なのか思いっきり建物の外壁まで蹴り飛ばした。

 

「クリス?」

「…ごめん…らしくなかったね」

 

奴隷の子は壁に激突した痛みで呻いてはいるが特に大怪我をしたわけでは無いようで転がった場所でうずくまっており、それを見た彼女は目線を再び前に戻し酒場に向かう道へと足取りを戻す。

 

「…気をつけなさいそこの小さなお嬢さん…早くそこの男を殺さないと貴女も私達の…仲間入りになってしまうわよ…」

 

クリスが奴隷の子を無視するスタンスを取った為、その矛先がシルフィーナに向く。

正直言ってその発言を参考にされてしまうと俺が死んでしまうので止めてほしいが、今の現状を生きている彼女からすれば自身の手で飼い主を殺せなかったのが悔いになっているのだろう。

 

何だか可哀想になってきたのでサンプルとして渡された人工マナタイトを奴隷の子へと投げる。

それを見てクリスは何か言いたげだったが、言っても意味がないし言うのであればもっと重要な事があるから言うまいといった空気を感じ取る。

 

「ありがとう…意外といい人なのですね…」

 

奴隷の子はそう礼を言いながら俺の放り投げた人工マナタイトを拾い上げるとそれを何の躊躇いもなく口の中に放り投げ飴玉のように転がす。

 

「折角だから見ておくといいよ、人工マナタイトを摂取した人間がどうなるのか」

 

いつの間に後ろにいるクリスが俺の耳元でそう言うと、視線を奴隷の子に向けるように指をさす。

その視線の先では人工マナタイトが口内で溶解し粘膜から吸収されたのか、奴隷の眼が上を向き狂った呻きの様な声を上げながら痙攣し出し最終的にその子は気絶し周囲に水溜りが広がり出した。

 

「これがマナタイトをキメるってやつか…」

「そうだね、本当ならもっと細かくした物を少しずつ使うんだけど、ここだとすぐ他の子に取られちゃうからね一度に使い切るしかなかったんだよ」

 

どうやらいきなり基準量をを超えた量を摂取した為に得られる刺激が度を越してしまったようだ。

クリス曰く少ない量でシュワシュワと比べ物にならない程の快楽得られるらしく、種類によっては楽しかった思い出をリフレイン出来る物もあるらしい。

 

この退廃区では奴隷を捨てる時は基本的にマナタイト漬けにして正気を奪う風習があるようで、今こうして周囲に居る奴隷はある意味薬物ジャンキーの成れの果てなのかも知れない。

 

「ここの人達にとっての救いは偶に誰かが投げ込む人工マナタイトだけなんだよ」

 

どうやら商品にならない程純度の低い人工マナタイトを処分する事が意外にも面倒らしく、卸業者の下っ端が処分と託けてここに人工マナタイトを廃棄しているようだ。

奴らからすればこの退廃区の治安を守っている気でいるかも知れないが、この奴隷の子達からすれば下手に希望を植えつけその希望に苦しめられるだけでしか無いのだ。

 

「取り敢えず、これ以上はこの子の教育によく無いから早く行こうぜ」

「そうだね」

 

一人の奴隷に人工マナタイトをあげた事により周囲に居たであろう他の奴隷達が自分にも貰えるのでは無いだろうかとゾロゾロと近づいてきたので、シルフィーナを理由にして先に進むことにした。

 

 

 

 

その後は特に何かが起きる事は無く、そのまま裏道のような場所を通りながら城への隠し通路が繋がっている酒場へと辿り着く。

嬉しい事に所有者である俺の元を離れる事に対して不安があるのか、掴んでいた俺の服を離してくれないアクシデントがあったりしたがそこは何とか説得し事なきを得る。

 

「それじゃ行こうか、近くの場所まではテレポートのスクロールがあるから、後剣も返しておこうかな」

 

何処からか持ってきた俺の魔法剣を渡した後、ゴソゴソと倉庫の中から古びたスクロールを二つ取り出しそのうちの一つを俺に差し出す。

ここまで古くなったら使えないのでは無いだろうかと持ったが、どうやらそんな事は無いらしく現行のものと同等に動くようだ。

 

「何だこれは?」

「私は少し取りに行くものがあるから君は先に行って周囲の様子を見てくれないかな」

「それで大丈夫なのか?急がないと行けないとか言ってなかったけ?」

「それは…そうだけどさ、物には色々手順があってね。まあその話は置いておいてそうだ帰りの分も渡しておくよ、私に何かあったり嫌な予感を感じたらそれで帰ってきなよ」

「えぇ…」

 

彼女は軽快に笑いながら手に持っていたもう一つの方のスクロールも俺に託し、生産工場がある場所を俺に耳打ちした。

 

「それじゃまた後で合流しようか」

 

そう彼女は言い残しながら懐に隠していたのだろうか、新たに出てきたスクロールで何処かへ旅立ってしまった。

 

「マジか…」

 

まるでどっちかへ向けられた死亡フラグとしか思えない展開に戦慄しながら行きのスクロールを起動させると、見慣れた光に包まれいつもの浮遊感に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

そして気がつけば何処かの貴族の住んで居るであろう屋敷の近くに辿り着く。

正直言って誰にも見つからないであろう場所を見つけ、そこに工場を作り密かに人工マナタイトを作っている様な印象を持っていたが実際は違った様で、実際は自身の住んでいるであろう屋敷の中に併設して居たようだ。

 

「こんな場所にあるのか…」

 

一人ポツリと呟きながら潜伏スキルで気配を隠し周囲を探りながら周囲の構造を探っていく。

しかし何か魔法的な処理を施しているのか、俺の千里眼では周囲の状況を探る事は出来なかった。

単に俺のスキルの熟練度的なものの不足かもしれないが、底知れない程の禍々しい何かを屋敷の奥底から感じるのでもしかしたら俺の想像しているものとはまた別に何か違うものが動いている様な危機感に襲われる。

 

だが、このまま俺一人で突撃するわけでは無く今回はクリスが後から合流するので最悪何とかなるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ、待たせたみたいだね」

 

しばらく木々の影で待っていると潜伏中である筈の俺をあっさりと見つけて約束の合流を果たした。

何故だろうか、ここに来て潜伏・感知スキルに関しての自信が悉くへし折られている気がする。

 

「何かと思ったらその背中の奴を取りに行ったのかよ」

「そうだよ、これからこれが必要になるからね」

 

彼女と合流し真っ先に彼女の背中に前に見た大太刀が携えられている事に気づく、この大太刀は女神の祈りか何かを凝縮させて出来た物で悪魔やアンデット系の相手には有利に働くと前に言っており、ゆんゆんがバニルに乗っ取られた時に大層世話になったのだ。

 

つまりこの先に待っているのはアレクセイ家当主だけではなく、バニルの様な悪魔かウィズのようなリッチーなどのアンデット系の何かが居る事になる。

 

「なあクリス、もしかしてこの屋敷の中にやばい奴がいるとか無いよな…」

「え?居るよ?」

「マジか…」

 

最早と当然と言わんばかりの彼女の発言に、最近は慣れてきたと思っていた俺も驚愕を隠せなかった。

 

「なんて説明したらいいか分からないけど、この屋敷からはどうも嫌な予感がするんだよね」

「確かに禍々しい気配はあるけど悪魔から感じる物とは違う気がするんだけど」

「そうだね、この屋敷には特別な結界か何かが貼られていて認識阻害が発生しているんだよ。だからここまでこないと違和感を感じないんだ、それと悪魔の気配を感じさせないようにも細工があるみたいだね」

「難しいな…」

 

どうやら俺の知らないところで情報戦が繰り広げられているようで、最早俺は要らないんじゃ無いかと思う様な場面が多い気がする。

 

「取り敢えず行こうか、多分入れば相手に気付かれると思うから急いで奥に進んでいくよ」

「ああ、任せてくれ。ここらで名誉挽回しておかないと俺の立場が無くなっちまうからな」

「おっ調子いいこと言うね」

 

取り敢えず口から出まかせで勢い付けて自身を鼓舞した後、先に進んでいく彼女の後についていく。

退廃区とはまた違った切り裂かれるような空気に意識を張り詰める。彼女がわざわざあの大太刀を取りにいく程の相手なのでもしかしたら無傷で戻ってこれる可能性が低いかもしれない。

 

「ここからが結界だね」

 

ある程度屋敷に近づいた辺りで彼女から止まる様に指示を受けて止まると、いきなり何も無い筈の空間に指を差してそう言った。

言われてみると彼女の指差した辺りの空間に違和感の様なものを感じる。例えるなら久しぶりに入る知り合いの家の玄関と外の境界のようなものだ。

 

「確かに変な感じがあるけど…それでどうすんだ?止まった以上は何かするんだろう?」

「…全く君は変なところだけ知恵が回る様になったね…いや、いつも通りかな」

 

どうやら彼女の期待に添えたようで自身を褒め称える。

 

「それで何すんだよ?」

「まあ見てなよ」

 

彼女はそう言うと先程指を差した方向に向かって、大太刀を抜くと同時に空間を何度も切り裂いた。

まさに一つの芸術と言わんばかりの彼女の太刀筋に見惚れていると、その視線を感じたのか少し照れたような雰囲気を出しながら彼女は大太刀を鞘に戻した。

 

「君も気をつけた方がいいよ、結界にはいろいろ種類があってね。今回のは入る際に相手に状態異常をかける奴だからね」

「そうなのか…結構難しいな」

「まあ初めはそんな物だからね、君もそのうち慣れるよ」

 

先程ので気をよくしたのか少し優しい口調で指導される。

 

「それじゃあ行こうか、結界を破壊した事は多分向こうに気づかれていると思うからここからは警戒を怠らないでね」

「ああ、わかってる」

 

彼女は大太刀とは別に腰に下げているダガーを抜き、それを構えながらそう言うといつぞやのダンジョンに行った時を彷彿とさせる様に先に進んで行ってしまった。

 

「早過ぎだろ⁉︎」

 

その後彼女の後をついて行っているのだが、彼女の速度はあまりにも早くあの時のあれは手加減されていたのだと思い知らされる。

しかし、俺も何時もの俺では無いので全力で彼女の後に続いていく。

 

「警備の何かが来るから気をつけて‼︎」

 

全力で走っていると彼女が突然叫び出し、その言葉を理解する前に状況でその意味を理解する。

結界から屋敷までの距離を守っている警備兵なのか無数の歪な形をしたコウモリの様な生き物と狼の様な生物がこちらに向かって集まってきている。

 

彼女はその集団をいつもの手捌きで処理しながら先に進んでいき、俺は彼女が仕留めきれずそのまま後ろに流れてきた生物の処理に追われる事になる。

生物自体の戦闘力はあくまで見せしめのものなのか気配がそこまで大きくなかったので、彼女同様持って居た仕込みナイフで目玉や足先を切り捨て処理しながらそのまま彼女の後を追う。

 

相手の戦闘性能が低いのは助かるが、流石に走りながら相手を捌き目の前に立ちはだかる木々や構造物を避けると言うのは中々に至難の業だ。

 

「いちいち相手にしないで‼︎そんなんじゃ本命の前に体力が尽きちゃうよ‼︎」

「悪い‼︎そこまで考えが回らなかった‼︎」

 

走りながら向かってくる生物を処理していると見るに堪えかねなくなったのか前方から叱責が飛んでくる。

どうやら無傷の生物が向かってきたのはクリスが仕留め損ねたものでは無く彼女が敢えて処理しなかったものだった様だ。

 

相手の本陣に突入する以上、何処で何が起こるか分からない為なるべく体力は温存しておかなければならないのだ。そうしなければ俺たちがアレクセイの前に辿り着けたとしても、疲労困憊で立ちはだかるであろう悪魔と戦闘をしなくては行けなくなってしまう。

必要最低限の防衛を心がけるよう飛んできた生物を完全に仕留めるのではなく、自身に害をなす位置にいる個体のみを選別し後方に弾くようにナイフを振るった。

 

 

そして木々の隙間から屋敷の姿が現れ開けたところに出たところで屋敷に雇われているであろう悪魔の使い魔だろうか、この世のものとは思えないほどに歪で大きな生物が姿を現した。

 

「こんな使い魔を隠して居たなんて…」

 

使い魔の姿は大きく、感知スキルの反応ではそのでかい図体の中に無数の命の様な反応が内包されていた。

外面は完全に獣だが、皮膚には模様なのか沸騰した水の泡の様に無数の人間が苦悶の表情を浮かべながら出ては消えていた。

 

「何だこれは…これが悪魔のやる事なのか?」

 

あまりに現実離れしている光景に唖然としながら腰の剣に手を伸ばす。

気配からしてあの生物が沢山の命を持っているわけではなく、あの気配一つ一つが人間の命そのもので今尚あの中で生きている事になる。

 

「確かにあれは悪魔の仕業だね。でも悪魔が自分からそれをやるとは思わない、多分誰かが命令したんだろうね」

 

彼女はそう言いながら走りを止め、背中に背負っていた大太刀を抜いて構えようとすると怪物は刀が放つ神々しい気配に気づいたのか怪物は雄叫びをあげなら彼女に向かって腕を振り下ろす。

クリスもすぐ攻撃に転じてくるのは分かっていた様で、その場で跳躍し怪物の一振りを回避し空中で大太刀を鞘から完全に抜くと勢いそのまま怪物の腕を切り落した。

 

「…くっ」

 

腕を切り落とされた事に痛みを感じたのか残った上半分を掴みながら怪物は咆哮を上げ、そのつんざく音に耳を塞ぐ。

クリスが相手にしている間に周囲の生物が邪魔しないように排除しつつ、怪物の様子を確認すると奴の腕から人の血液が流れているのが匂いでわかる。切り落とされた腕は苦しそうに蠢いた後灰燼と化して消えていった。

 

「まったく厄介なものばかり作るな本当に‼︎」

 

クリスはそう言いながら怪物の咆哮をものともせず大太刀を構え直しつつ怪物の胴体を蹴り上げ再び高く跳躍し、払い除ける手を躱しながら怪物の脳天から股下までを大太刀で切り裂いた。

やはり怪物の中には色々と詰まっていたのか、クリスに切られた断面から夥しい量の血液が噴水となって周囲に飛び散り俺達を含め周囲が赤褐色に染まる。

 

返り血とはいえ流石に血塗れは嫌だったので浄化魔法で俺とクリスの二人の返り血を浄化する。

 

「ありがとう、それじゃ行こうか」

「ああ」

 

クリスは先程の怪物に対して何か言いたげだったが、それよりも作戦を遂行させる事を重視したのかそのまま屋敷へと走り出す。

 

「屋敷のたどり着いたな、入り口はどっちなんだ?」

「そんな事に構ってる暇はないよ」

 

屋敷の壁まで辿り着いたが、建物自体が大きく入り口が分からなかったので彼女に問いかけると、彼女はそんなものに気を取られている暇はないと速度緩めずに突撃するように窓を蹴り破って屋敷内に突入した。

 

「え…マジか」

 

彼女の突拍子のない行動に唖然としたが、俺だけ正面に回るわけにはいかないので俺もそのまま彼女の空けた穴に身を突っ込ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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