この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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今回は途切れ途切れで書いたので誤字が多いかもしれないです…
誤字脱字の訂正ありがとうございます


銀狼の牙8

あの後、俺はマクスを地獄へと連れ帰るバニルを見送ると、屋敷の処理に奮闘した。まあ処理とは言っても何かしたわけでは無く、害のありそうなものを片っ端から破壊しただけなのだが…

幸いにもマクスが地獄へ帰った事で周囲に張り巡らされた魔物などは姿が消えたので、戦闘に関しては問題はなかったが全ての案内をクリスに任せていたので時々迷いながらも何とか屋敷の外へ出ることが出来る。

 

障害が何もない事を確認したので、後はテレポートのスクロールで王都へと帰還する。

王都に帰り城に向かう前に退廃区に向かい、酒場に残してきたシルフィーナに挨拶をする。

この酒場のマスターはこう言う事には慣れているのかシルフィーナはブラウンのエプロンを着けながら裏方の仕事をこなしていた。

仕込みの合間なのか休憩しているマスターにクリスの持っていた大太刀を戻ってきた時に代わりに返して貰う様に伝え預ける。

 

現在、俺の手元にはバルターがアルダープを殺した時にしようした神具らしき剣と元々持っている魔法剣の二つになる。

折角なのでしばらく神具の剣を使おうと思ったが、重さが軽く刀身が魔法剣よりも短いので俺が使用すると今までのギャップに苦労しそうなので一緒にマスターに預ける事にした。

 

「それじゃあまた戻ってくるからもう暫く待っててくれよ」

「…はいカズマ様」

 

背を屈め挨拶すると落ち着いてきたのか少しぎこちなく挨拶を返してくれたので、手を振ってそのまま酒場を後にする。

酒場の裏口から城に行こうかと思ったが、裏口の開け方はクリスしか知らないので別の入り口から行くことになった。

あれから色々彼女から話を聞いていたのだが、退廃区には色々と抜け道が存在するらしく上手く使えば城の近くまで行けるとの事で折角なので使わせて貰おうと、色々入り組んでいる建物の隙間を掻い潜って城に向かう事にした。

 

 

 

 

 

「成る程な…そういう事があったのか」

「ああ、今回の人工マナタイトの一件はアレクセイ家が裏で糸を引いていたんだよ」

 

結局また城に侵入した時の裏口を使う羽目になりかなり時間が掛かったのだが、俺が辿り着いた時間に丁度様子を見にきていたダクネスに遭遇できたのは不幸中の幸いだろう。

椅子に座りながらいままでの経緯を彼女に伝えると神妙な顔付きで彼女はそれを聞いた。

 

「それでバルターが姿を消したのか…まあ紅魔の里の一件から姿が見えなかったが」

「ああ、結局王族のクーデターも全てバルターが裏で糸を引いていたんだよ」

 

ここまで来れば黙っている理由もないのでバルターについての情報も伝えたが、そこら辺はやはりと言うか普通そうなるだろうと思った通り既に姿をくらませていたようだ。

 

「それでクリスは結局行方不明のままか…まああいつはいつも神出鬼没な所があるからな、そのうちフラっと姿を表すだろう」

「そうだな、何かあればすぐ現れそうな気がするしな」

「…よし分かった、これからそのアレクセイ家の工場に兵を送ろう」

「大丈夫か?個人の所有する別荘とはいえ中々に広いぞそんな一気に兵を動かしたらシンフォニア家にバレたりしないか?」

 

結局俺たちから大事かもしれない人工マナタイト生産工場もこの国の政治ゲームからすれば一つのイベントでしかないのだ。

そこでヘマを打てば試合に勝って勝負に負けるようなものでしか無い。

 

「安心しろ、この一件は私の中でも結構大きな分水領だと思っていてな、この時の為に兵を余らせて待機させてあるんだ」

「マジか…」

 

フッとイカした様な笑いを浮かべながら彼女はそう言うと腰掛けていた椅子から立ち上がり俺に着いてくる様に伝え、彼女が使用してきた道を使いながら城の外へと出る。

薄暗い道を進みながら辿り着いた先には大人数の兵士がいつでも行ける様に待機していた。

 

「それではその工場に向かおう、アレクセイ家の所有している資産は元々調べてはいたがお前の言っている工場とやらの情報は記載されていなかったので案内を頼めるか?」

「ああ、それは任せてくれ」

 

どうやらあの工場自体公には存在していなかったらしく、あのダクネスですら把握していなかった。

これも悪魔の力なのだろうか?

だとすればあのマクスという悪魔の真価が発揮した状態で俺たちが戦ったのなら、多分俺とクリスのどちらかは何かしらの被害が残ったのだろう。

 

「それで何でアレクセイ家を調べていたんだ?」

「ああ…それか」

 

前回乗っていた馬車に再び乗り、テーブルを挟んで向こう側に座っているダクネスに事情を尋ねる。

アレクセイ家は息子が騎士団のトップ1だが、そもそも元々大きな家では無いので名前を知っていても資産を把握しているなんてことは普通に考えてないだろう。

 

「あの家とは色々あってな、このゴタゴタが解決したらお前の知るバルターと見合いをする予定だったのだ」

「え?マジかよ悪かったな」

「いや、それに関しては助かっているんだ。まだ私は嫁ぐ予定ではないからな、結果としてお前によって阻止されたことは感謝している」

「ふーんまあそういう事ならいいか」

「それにアレクセイ家はシンフォニア家の派閥に属している家でな、やる事に手段を選ばない事で有名だったんだ」

「マジか…シンフォニア家の派閥なのにお前の家と見合いをするのか?」

「そういう事だ、決まった時はまだ今ほどダスティネスとシンフォニアの両家の影響力はそこまでなかったのだ、だから父はあちら側の派閥の橋渡しとなればなんて考えていたのだろう。お前の知っている通りバルターはあのゲスとは違って清廉潔白で有名だからな」

「貴族は貴族で色々大変なんだな…」

 

どうやらダクネスはダクネスで色々とアレクセイ家に対して因縁がある様だ。

しかし、アレクセイ家があちらサイドの人間であれば、シンフォニア家に上納金と言う名の賄賂を支払っている事はあの傲慢さが放置されてきた所を見ると火を見るより明らかだろう。

 

「ああ、それでお前はあの二人のどちらを狙っているんだ?」

「はぁ?」

 

どうやらアレクセイ家のお見合いの件でダクネスの乙女スイッチが入ってしまったのだろうか、先程とは打って変わって少し楽しそうに俺に聞いてくる。

 

「どっちでもいいだろう別に…」

「何?どっちもだと⁉︎」

「うるせえよ⁉︎」

 

暫く会っていない二人に合わせる顔が無くなりつつある現状に焦りが無いわけではないが、この状態のアイリを放っておいてアクセルに帰るわけにはいかない。

日にち的にそろそろ帰って来ている頃だろうとは思うが、後少しくらいなら彼女も許してくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

「着いたな、ここが人工マナタイト工場か。外から見ただけではそこら辺の屋敷と変わらんな」

「だろうな、俺もぱっと見最初はわからなかった」

 

着いて早々に全ての警備関係は解除済みである事は伝えてあるので、ダクネスは全ての兵を屋敷に向かわせ調査を始める。

まるで刑事ドラマの鑑識だなと思いながら作業を始めている兵士達の横を通りながらダクネスを地下へと案内する。

 

「これは…こんな事が許されて良いのか…」

 

工場の惨状を確認したダクネスは開口一番にそう言った。

周囲には既に機械から出された人間が敷物の上に並べられ、蘇生が出来るかどうか分からないが医療兵達から治療を受けている。気配を見ると一応灯火的な物は感じるが、肝心の魂が減っているので多分助からないだろう。

 

「これが人工マナタイトの原料だってよ」

 

人工マナタイトは人の魂を使用し、それをマナタイトになるまで凝縮した物を指すことをダクネスに伝えると、彼女は辛そうな顔をしながらそれを聞いた。

 

「クソッ‼︎こんな事が…こんな事が許されていい筈は無い」

「そうだな」

 

近場の機材を殴り彼女は涙を堪えながらそう言うと踵を返して屋敷の外へと向かう。

流石のダクネスもこの現場に居続ける事が辛かったのだろう。

 

「なあカズマ」

「何だよ?」

 

外で木にもたれ掛かっていた彼女を周囲の魔物に襲われない様に監視しながら警戒していると、何かを決意したのか俺に問いかける。

 

「シンフォニア家は、クレアはこれを知っていたのか?」

「さあな、俺が知っているのは裏でバルターが手を引いている事ぐらいかな」

「そうか…」

「だけど、一人の貴族の息子がここまで出来るとは考えずらいな」

 

バルターは性格も思考も破綻しているが、確かに有能で実力もある。しかし、それはあくまで個人的な話で大掛かりになるとまた話が変わってくる。

どんなに有能だとしてもただ一人の人間が大規模な行動を起こす事はほぼ不可能に近い。何処かで必ず巨大な力を持つ誰かか団体に出資を受けるなど頼らなければいけない部分が存在する。

出なければこれだけの規模の工場を秘匿にする事なんて不可能に近い。仮に出来たとしても何処かで綻びが出来てしまう。

 

「つまり誰か他に協力者がいるって事か?」

「かもしれないな、ただもう記憶は消されてしまっているかも知れないけど」

 

アルダープがそうだった様に奴の持つ神具の中に記憶を操作する物がある可能性がある。

それが消す物なのか捏造する物なのかは分からないが、あいつが協力者に自身が何かした記憶を残している可能性は低い。

 

俺と言う例外が存在するが、それはそれで何か別の意味があってそうしているだけだと思うので考慮しなくてもいいだろう。

 

「クレアが裏で手を回している可能性もなくは無いな、ただ記憶はもう無いのか…いやだが資金と兵の移動は必ず記録に残さないといけない決まりになっている」

「その考えは止めておいた方がいいぞダクネス、お前はシンフォニア家に憎悪を向けようとしているだけだ」

「…そうかもしれないな」

 

思考が偏り始めているダクネスを静止する。

所詮ダクネスもまだ若者で、こうあるべきだと思う正義感と政治的立場が混ざっている場面が見える。政治の場で正しくあろうと言う考えは相手を追求する事に関しては有効かもしれないが、相手に付け入る隙を与えてしまう。

正義のもとに行動する人間ほど行動が読みやすい人間はいない。

 

今回の一件はあくまでシンフォニア家の俗派が起こした事案で処理する程度で納め、大した証拠もないのに裏でシンフォニア家が糸を引いていたなんて事を追求しようなら足を掬われてしまうだろう。

 

「すまなかったな、少し感情的になり過ぎた様だ」

「ああ、俺も冷たい事言って悪いな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで調査した結果分かった事を報告しようかと思う」

「ああ、頼むよ」

 

その後屋敷の調査が終わる前に二人で引き上げ、城に戻り俺は体を休める為に睡眠の時間をもらう事になった。

なんだかんだ言って退廃区に来てからろくに睡眠を取っていなかったので、寝床についた瞬間に溺れる様に睡魔に身を任せた。

 

その後目を覚ませばアッっと言う間に朝を迎え、仕事を抜け出して来たダクネスが会いに来たと言うわけだ。

 

「まずは経緯について説明しようと言いたい所だが、やはりあの屋敷に関しての資料はあの時代ごと資料が無くなっていたよ」

「やっぱりそうだったか」

「ああ、あの王都争奪戦で資料室が火災になったらしくてな、その辺りの帳簿などは全て焼けてしまったらしい」

 

どうやらあの時バルターがこの城でやるべき事と言っていたのは、この戦いに乗じて自身が行った行為の痕跡を消す為だったのだろう。

であればこの城に奴が行った行為の痕跡は存在しないだろう。

 

「だから今はあの工場に関して分かった事を説明しようかと思う」

「ああ、頼むよ」

「あの工場に使用されたと言う表現は使いたくはないが、実験の被害者の大半は退廃区の住人で殆どが主人を失った奴隷らしい」

「そうか…」

「その様子だと退廃区に関してはクリスから説明を受けていた様だな」

「ああ、実際に行ったしな」

 

ダクネスはあまり驚かず説明を求めない俺を見て既に情報を持っていると推測したのか、説明が省けて助かると言いながら話を進める。

 

「奴隷の証拠に被害者の体には刻印が記されていて、その刻印の貴族は既に無くなっていたそうだ」

「だからあまり公にならなかったんだな」

 

結局事件が起きても被害者やその家族が訴えなかったら事件にはならないのだ。

つまり居るか居ないか分からない持ち主の居ない奴隷の掃き溜めの住人であれば連れていたっ所で誰も気がつかないのだろう。

 

「そう言う事になるな、それで機材だがこれは王都の資料に残っているデストロイヤーの時代の物と同じだと判断したそうだ」

「あの奇天烈な機械が作られた時代のものか…ならかなり進んだ文明のものだったんだな」

「そうだな、私達も使い方が全く分からなかった」

 

あの時代、多分俺達の世界の住人が持ち込んだ知識で造られたものだろう。

提示されたチートの種類に思い描いた物を作り出すものがあったのでそれを選択したのだろうとは思うが、ここまで時代を跨ぐとは製作者も思わなかっただろう。

 

「まあ話は以上だな。これ以上の話は機密の都合で伝えられないがアルダープの死体はこちらで回収したから安心してほしい」

「お…おう」

「それでカズマ、お前にはまだ行って欲しい仕事があるんだ」

「…そうか」

 

仕事を終えたのでアクセルに帰れると思っていたが、どうやらそうはいかない様だ。

 

「アレクセイ家の一件を持っても現状まだシンフォニア家の勢力は強まっている。お前の他にも情報を調べさせている奴が居るのだが、クレアがどうかは分からないが手段をらばない奴が多くなっているらしい」

「あいつらも手段を選んでいられないって感じか…」

「そうだな、アイリス様の戴冠式もそう遠くはない、シンフォニア家としてはなるべく息の掛かった家を組織に置きたい様だ」

 

この世界では人事は戴冠式を迎えた際に継承した王が決めるらしいが、そのアイリが全てを決めるわけでは無いのでその時までに自分の一派各家に力をつけさせ、人事の際にアイリに意見してコントロールしようと言う魂胆だろう。

 

「だから他の家の不正を暴いてくれって事か?」

「ああ、そうだ。悔しいが私の一派でお前ほど頭がキレて行動力があって動き易い立場にあるのはお前だけなんだ」

 

悔しいと言う時点で馬鹿にされている気がしなくもないが、彼女が俺をそう評価したのならそう言う事なのだろう。

 

「分かったよ、その代わり全てが終わったら俺の頼み事を聞いてくれよ」

「ああ、助かる。私個人ができる事なら何でもしよう」

 

今何でもするって言いましたよね、と漫画の様な事を言いたくなったがこの空気を破壊したくは無いので黙っておく事にする。

 

「それじゃあリストを渡そう。疑いがある行為を含めて纏めてあるが、どうするかはお前に任せる」

「ああ」

 

商談成立だと言わんばかりに起き上がると、その纏められた羊皮紙を俺に渡す。

中には彼女の言う様にシンフォニア家の派閥に属している貴族の家の名前とその家が起こしているであろう汚職が記されていた。

 

「何か掴み次第連絡を頼む。くれぐれも尾を掴まれないでくれよ」

「ああ、分かったよ」

 

彼女から貰った資料と記憶していた貴族の相関関係を照らし合わせ知識を更新していく。

 

「それじゃあ…あまり私の言えた事では無いがよろしく頼んだぞ」

 

内容を読み更けている俺を見て安心したのか、ダクネスはそう言い残して元の場所へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数日経ち、気づけばアイリの戴冠式が近くなっている事に気づきながらも、残り少ない時間で結果を残そうと奔走している。

 

「シルフィーナ現状はどうだ?」

「問題ありません、外には誰の気配もありません」

 

念話で彼女に確認をとりながら大きな屋敷の中を走り抜ける。

 

「よし、それじゃあ生きの良さそうなのを一人頼む」

「分かりました、カズマ様も無理はなさらないでください」

 

感知スキルで彼女の気配を管理しながらドアを開けては中にいるボディーガードを始末していく。

ダクネスから渡された書類の中から規模の大きま所から消し掛けていたが、上から順に始末している間に下の方で急成長を遂げていきなり上位に食い込む家を見つける。

シルフィーナに調べさせるとこの家は人身売買をメインに行い、他にも市場に残っている人工マナタイトを独占したり色々と悪さをしているのが判明し現在潜入という名のカチコミをしている訳だ。

 

「カズマ様奴隷を全て解放し、こちらで一人確保しました」

「分かった」

 

シルフィーナから返事が来たので走るペースを上げる。

 

「あの上半分の仮面の奴だ‼︎殺せ‼︎」

「遅いんだよ‼︎」

 

途中俺の姿を捉えて全体に向けて叫ぼうとするやつの眉間にナイフを投擲し始末する。

バニルとの契約で得た力は本当に微々たるもので、仮面をつけている間は相手相手一人の一手先を読めるというものと言葉の真偽の判定の二つで、対人戦では便利だが大人数を相手にすると処理が追いつかなくなるのであまり役に立たない。

なので顔を隠すために仮面を付けているだけにしかすぎないのだ。

 

「ようやく見つけた、全く貴族らしく逃げば良かったものを」

 

屋敷の中を進み用心棒を蹴散らし、奴隷を解放しようやく当主の元へ辿り着く。

部屋には当主の趣味なのか奴隷の刻印を付けられていない少女が裸でアザだらけの状態で吊るされている。

そしてこんな状況だというのに当の本人は何の焦りもなく、高そうな椅子に座りながらどっしりと構えている。

 

「やあ、君が最近流行りの暗殺仮面かな?」

「何だそのカッコ悪い名前は?」

「知らないのかい?意外に君は有名だよ、世直しなのか悪い事をしている貴族の悪事を暴いたり始末したり」

「そうだな、そこまで知っているなら何で逃げないんだ?まさか勝てると思っているのか?」

 

貴族相手に格好つけたくはないが、相手の気配からして普通の冒険屋よりも反応は低い。

それは実力があまり無いことを指すが、稀に技術で補う者がいる。しかし、その者と比べれば奴の肉体は体が幾分か細すぎる。

 

「そうだね、だけど逃げた所で君は追いかけるだろ?それに逃れたとしても君はこの屋敷を燃やすだろ?奴隷を逃されても回収できるけど今それをされると困るんだよね…」

「その通りだな」

 

結局貴族は全て家に資産を集めている傾向にある。まあたまに別荘に隠している奴もいるが…

金銭は銀行というシステムもあるが、それ以外の資産は全て自身の手で管理しないといけない為こうして家に用心棒を雇って管理させないといけないのだ。

 

「だから君と交渉しようと思ったんだ」

「成る程な」

 

どうやら悪どい事をしてここまで上り詰めただけあって頭がそこらへんの貴族よりかはキレる様だ。

 

「私から提示するものはなるべく君の要望に沿った物を出したくてね、何か要望はあるかな?神具でも美術品でも何でも提供しよう」

「特に無いな」

「そうか…それは残念だね…」

「残念だな」

 

剣を構えるが奴は何も臆する事なく、まるで決まっていた様に指を鳴らすと隣の部屋にあった気配がこちらに向かって移動しその姿が見える。

 

「…」

「おや、驚いたのかい?」

 

部屋に入って来た人は奴隷の刻印を首につけてナイフを構えた小さな奴隷だった。

 

「知っているよ、君はどの貴族相手でも必ず奴隷を解放させる様に図っているって事をね」

「そうだな、確かに俺は出来るだけ奴隷を解放しようと動いている」

「なら奴隷が君を殺そうとしたらどうするのかな?…殺せ‼︎出来なければお前が死ね‼︎」

 

奴隷への強制命令、これに逆らえる奴隷は存在しないと言われている。

しかも二重命令で俺を殺せなかった場合に今度は自身を殺さないといけないと言う俺も脅迫している様な命令を奴はしている。

 

「あ…あ…」

 

奴隷の子供の方も命令に逆らおうと抵抗している様だがそんな努力は虚しく体が勝手に動き俺を殺そうと動いている。

仮に抵抗出来たとしても今度は自身を殺す指令に抵抗しないといけないと言う終わりなき苦しみの連鎖が発生している。

 

「…ごめんな」

 

必死に俺を殺さまいと抵抗している奴隷の首を苦しまない様に一刀両断し、周囲には奴隷の血液が噴水の様に噴き出した。

 

「…君は人の心が無いのかい?」

「お前がそれを言うのか?」

 

そんな俺の行動にドン引きしながら問いかける当主に向き直る。

 

「それで?もう終わりか?」

「……っ⁉︎」

 

当主は打つ手なしなのか何か策は無いか考えている様だ。

まあ何をしようが俺の知った事では無いので吊るされている少女を解放する。

 

「え…」

 

少女は何処かで見た事があり、その整った顔立ちに澄んだ声からして多分モデルか何かだったのだろう。

これは勝手な妄想だが、奴は貴族なので枕営業を頼んで断られたとかそんなとこだったりしてこうして憂さ晴らしをしたのだろうか?

 

「おい‼︎そいつを手に入れるのにいくらしたと思ってやがる‼︎一千万エリスだぞ‼︎」

「そうか、それじゃこれをやるよ」

 

少女の拘束を解きながら奴に向かって物を投げる。

 

「これは⁉︎」

「正真正銘、高純度なアダマンタイトの異性体だよ」

 

これはどこかの貴族の家から拝借してきた言わば家宝の様な物で、それ一つで王都に大きな家を建てられる価値があると言われている。

 

「正気か⁉︎こんなガキの為にコレを…ゴフッ⁉︎」

「違ぇよ、お前の命だよ。お前にとって命は一千万エリスなんだろ?」

 

初めて見たアダマンタイトの異性体に興奮が隠せないのか突然立ち上がったので、いつもの癖の条件反射でナイフを投擲してしまい胸に刺さる。

 

「フーッフーッき…さま…」

「よかった、まだ生きてたか…」

 

思わず攻撃してしまい思わず近くまで駆け付けてしまったが、当主に近づき生きていた事うを確認すると安堵しながら動かないようにバインドをかけ猿轡をかける。

 

「遅くなりましたご主人様」

「おう、いいタイミングだ」

 

ちょうど拘束して応急処置をしたタイミングでシルフィーナが奴隷の子を連れて入ってくる。

 

「君がこいつの奴隷だね?」

「はい‼︎」

「これから君にはこの人を殺して貰うけど大丈夫?」

「大丈夫です、この人にはいつも酷い事をされましたから‼︎」

 

奴隷だと言うのにアグレッシブだなと思いながら話を進める。

生きのいいやつを連れてこいとは言ったが、ここまで生きがいいのを連れてくるとは中々に優秀だなと困惑する。

 

「よかった、はいナイフ。君は知らないと思うけど奴隷が持ち主を殺すと契約が無効化して刻印がただの刺青になるからね」

「…え?あ、はい」

 

奴隷の子は俺の説明を聞き理解したのか、返事をしながら俺が渡したナイフを受け取ると困惑した様子でシルフィーナを見る。

それを見たシルフィーナは困惑しながらも笑顔で頷く。多分彼女は奴隷が君を見た理由に気づいていないのだろう。

 

そして床に転がっている当主の首をナイフで切り裂き、恨みを晴らすように顔面を何回も突き刺すと契約が切れたことを感じたのか刻印を確認する。

 

「おめでとう、これで君は自由だ。王都には身寄りのない子を支援する場所があるからそこに行くといい、確か何処かの家が経営しているのかな?」

 

ダスティネスの名を出すと俺の正体に辿り着かれるかもしれないのであえて名前をぼかしながら支援施設の場所を記したメモを渡す。

 

「ありがとうございます名前の知らない仮面の人、お礼はまた今度会えたら‼︎」

 

本奴隷の子は奴隷の期間が短かったのかお礼を言うとそそくさとどこかへ消えていってしまった。

そのさっぱりした性格に興味が湧いたが、今はそれどころでは無いので地面に転がったアダマンタイトを拾い上げ少女に投げ渡す。

 

「…これは?」

「俺からの選別だ、売ればかなりの大金になるからそれでやり直せよ」

「あ…ありがとう…ございます…」

「こいつも施設まで連れて行ってやれ、多分歩けないだろうから」

「分かりました」

 

了解と彼女は少女を背負うと窓から外へ飛び出していった。

 

「後は神具を回収して燃やすだけだな」

 

クリスの姿が未だに見えない以上誰かがやらないと行けない思い神具を集めては泉に放り投げている。

神具を回収し、やる事が無くなった事を確認すると屋敷に火を付けて証拠を隠滅する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、あの家もやったのか…」

「ああ、これで目立った所は全て潰した事になるな、まあ調べている過程でダスティネス派の悪どい事をしている奴が居たからカモフラージュにやってしまったけど大丈夫か?」

「ああ、それは問題ない」

 

仕事を終え、いつもの報告書をダクネスに提出する。

彼女はそれに一通り目を通すと、白紙に自身の個性の出る文章でメモの様に書き写し、それが終わると俺の書いた報告書を燃やす。

俺の文章が何かの表紙にシンフォニア家に渡ってしまうとややこしい事になるので、あくまで自分の聞いた情報を纏めたメモの様にして保管すればバレても聞いた情報を纏めただけだと言い逃れができる。

 

「これだけあれば問題ない、お前が潰してくれたおかげでダスティネスに付く派閥の勢力が多くなっている。これなら戴冠式の人事も大丈夫だろう」

「ああ、そうだな」

 

俺の報告書を見ながらウキウキする彼女を見てようやく肩の荷が降り緊張が解ける。

そして今まで無意識に除外していたであろう疑問が俺の頭に浮かぶ。

 

シンフォニア家当主クレアはアイリを自身の理想となるようにあり方を決めるがダクネスはアイリをどの様に扱うのだろうか?

今まではダクネスがクレアに対して憎悪を抱き暴走しない様に抑えていたが、これはダクネスが俺がダスティネスに正義がある様に思わせる為にわざとそう演技していた可能性があるのだろうか?

クリスを信じてきたのでなんの疑いなくダクネスも信じていたが、クリスはダクネスの親友だと聞いている。

そしてクリスはアイリを何処となく邪険にしている節がある。

クリスの幸せはダクネスの幸せでアイリの幸せではない。

これは何の根拠もない推測。

 

 

「安心してくれ、全てが終わればお前にも必ず礼をしよう」

「…ああ」

 

全ての準備は整い後は行動に移すだけの状態になり、その安心から子供のように振る舞う彼女を見ながら俺は取り返しの付かない事をしてしまったのでは無いだろうかと、全て俺の勘違いであってくれと思いながら彼女の話に付き合うのだった。

 

 

 

 




シルフィーナの説明は次回に…
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