この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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銀狼の牙9

話を済ませダクネスと別れると、そのまま裏通路を使って退廃区の酒場向かう。

使用方法はダクネスから確認し、酒場からこの部屋への行き方をマスターしたのでいちいち城の外から侵入しなくても問題はなくなった。

 

「お帰りなさいませカズマ様」

「おう」

 

裏通路を使い酒場に戻ると先に予感していたのかシルフィーナに迎えられる。

アルダープの一件の後クリスが戻ってくる事を待ちながら彼女に色々教えようと思って教育していたが、結局クリスが戻って来ることは無く戦闘面はアレだが、彼女に教えた盗賊系のスキルは既にアイリを超えつつあり、折角なので俺の頼まれた仕事に協力させる事にしたのだ。

 

車を例に出すのは気がひけるが、奴隷にも金を積めば色々とスキルを付与できるとの事でそれを生業としている者に頼んで簡易的だが色々と仕込んでみた。

 

それから色々貴族の偵察やら監視を任せてみたが、やはり貴族の娘なのでいい遺伝子を受け継いだのかかなり優秀な結果を出してくれたので、それからは彼女も作戦の軸に入れながら行動している。

 

「それでダクネス様と話されてこれからの流れはどの様な方向になられましたか?」

「それなんだけどな」

 

シルフィーナは最初ダクネスの事をママと呼んでおり、それは母を幼い頃に亡くしたためダクネスが代わりに母親を替わりに努めていた事の名残らしいが、最近では悲しい事にダクネス様と呼ぶ様になってしまっている。

奴隷になった子供には暗示が施され自身の境遇を受け入れ奴隷として務めると言うものが存在し、その影響か彼女は俺と接する度に徐々にダスティネス分家の令嬢としての何かが希薄になってきている様な感じがする。

 

「おおよそは完了したから王女様の戴冠式までお休みだって、まあそれまでやる事が無いから何かやりたい事あるなら付き合うぞ」

「ありがとうございます、ですが現在やりたい事がございませんので…」

「そうか…」

 

それでは仕事の時間になりますのでと彼女は表のバーのウエイトレス作業に戻って行ってしまったので、俺も客として表に出て彼女の働きを眺める事にした。

 

奴隷になってしまった以上もう元の華やかな生活には戻れないので、仕方なく彼女には普段ここで働いて貰う事にしている。

ここはクリスの息がかかっているし、マスターの性格も信頼できる。もし何かの拍子に俺が死んでしまっても大丈夫な様に色々と計らってはいるが、それでも他人と関われる職と居場所は必要なのだ。

 

いきなり攫われてオークションに掛けられ気づけば奴隷にされているという波瀾万丈な人生だが、それでも生きている彼女にはそれなりに人生を楽しんで欲しいと言う俺の勝手な要望でしかない。

唯一の救いは、何だかんだこのバーで働きながら色々な人の話を楽しそうに聞いている所くらいだ。

 

「それでクリスから何も連絡はないのか?」

「いえ、貴方と出られてからは一度も」

「そうか…」

 

グラスに注がれたシュワシュワの原液に口をつけながらマスターから情報を受け取るがクリスの情報に関しては全く持って無かった。

 

「貴族関係は今度戴冠式に関しての会議があるそうですよ。それによって国の仕組みが変わるそうなので他の貴族達は気が気では無いみたいです」

「そうらしいな、結局どういう仕組みで決まるんだ?」

「さあ、そこまでは分かりませんが、国の要人達が集まって話し合うみたいですよ。クリス様が言うには今回は王女様がまだ幼いのでダクティネス家とシンフォニア家の両者での勢力争いで勝った方に忖度された内容になるだとか…」

「だよな…」

 

結局どの様に事が進んでもアイリがお飾りの王女様である事に変わりは無く、結局はどちらかの意見に引っ張られる形で国政が進んでいく形になるのだろう。

避けられない運命とはいえ、あの小さな女の子に国を背負わせるのはどうだろうと思ったが、ここで一時的に権利を誰かに移譲したらそのまま返ってこなくなるだろう。

そうなれば彼女はただの少女に…いやそうなればアイリもただの一般人になれるかもしれない。

 

だが、それをダクネス達が許すのだろうか?

二人の言い分を聞いてはいたが、二人とも彼女を王女にする事を主として計画を立ててしまっているのでここでどんでん返しとはいかないだろう。

 

なら戴冠式の場でアイリを回収して城もろとも黒炎で焼き払って皆殺しにしてしまおうか…いや、そんな事をしても状況が悪化するだけだしアイリもそれを望まないだろう。

 

「根詰めすぎですよ、少しリラックスしてください」

「ああ、ありがとう」

 

どうやら考えに行き詰まっている事を気づかれたのか、マスターに指摘される。

 

「はぁ…」

 

ため息を吐きながら気を落ち着かせ、滅入った気を回復させる為にシルフィーナの方に視線を向ける。

どうやらカクテルの作り方を教わったのか先輩に見守られながらシェーカーを振り回していた。

 

他にも貴族達が買い物を済ませた帰りなのか奴隷を引き連れて他の貴族達と情報交換やマウンティングをしており、読唇術で会話を盗み見たがやはり彼らのあいだでは今回の戴冠式後の話ばかりだった。

彼らは椅子に座り、奴隷は基本地べたで隅の方で荷物番をし一人は直ぐに対応できるように足元に座り待機しているのが常識の様だ。

 

やはり奴隷と名をうたれている為か、彼女らの扱いはとても同じ人間を扱うとは到底思えないもので酷いものでは椅子に座る貴族の足置きにされている者まで見える。

その奴隷達は当然人権なんてモノは存在せず最悪物よりも酷い扱いを受けている訳だが、その奴隷達のシルフィーナを見る目はまるでこの世の物では無いものを見る目をしていた。

 

基本奴隷は奴隷なので店番を任されたりするものだが、外の店などで受ける扱いとこの店での彼女の扱いでは天と地程の差が生じている。

それを気に食わない貴族もいる様だが、ここはクリスの息がかかった店で話を聞く限りでは昔から色々とヤンチャをしていた為この店で何かを起こせば彼女に報復されると噂になっており、それ故なのかこのバーは治安が良いと言う事で有名でこうして賑わっているそうだ。

 

それで話は戻るが、時折その状況に耐えきれなくなった奴隷がシルフィーナに八つ当たりする事件があり、その度に破棄される奴隷が増えるので彼女を表に出すのは止めようかと思ったがマスター曰くそんな事は日常茶飯事だから気にしなくても良いとの事らしい。

 

「そろそろ時間か…」

 

そんなこんなで夜は更けていき、気づけば寝る時間になってしまっていたのでマスターに任せて仮眠スペースという名の寝室に足を運ぶ。

最初は書斎のベッドで寝ていたが、最近は面倒なのでマスターに許可を取り酒場の裏にあった物置を改造してそこで寝ている。

 

最初は落ち着かなかったが、慣れればこんな寝床も悪くはない。

 

「カズマ様…失礼いたします」

「ああ」

 

ボーと天井を眺めているとシフトが終わったのかシルフィーナが布団の中に入ってくる。

最初は別の場所で睡眠を取る様にしていたのだが、最近は一緒の布団でアイリの様に眠る事が多い。

 

理由を聞くと寝ている際に誰かに殺され無いようにとの事だったが、隙を見て俺の首を捕りに来ているのでは無いのかと内心ヒヤヒヤしている俺が居る事は否定できない。

仮に俺がシルフィーナ以外の人間に殺されたり病気などで命を失えば彼女は野良奴隷となってしまい、いつか見た奴隷の墓場へと堕とされてしまう。俺を現時点で殺さない以上彼女の最優先事項は俺が殺されない様に守る事なんだろう。

 

まあ、そうならない様に色々と手は回してはいるが、野良奴隷の為に動いてくれる人間はそう多くは無い。出来れば何か別の方法で彼女を奴隷から解放出来れば良いのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして運命の戴冠式の日となった。

 

 

シルフィーナを隠し通路に待機させ、最初に入られたであろう牢屋に戻り看守に感謝と挨拶を済ませると、やはり戴冠式の為城の職員達は慌ただしく通路を行き来している様子が気配でわかる。

アイリは今日をもってこの国の王となる訳だが、やはり幼い少女を王にすると言う事で色々と不都合が存在しそれを誤魔化すために色々とある様だ。

 

「…」

 

動くにはまだ早いので牢屋でゴロゴロしながら看守にアクネスから預かっていた書類を受け取る。

まあ戴冠式のプログラムの様なものだろう、それと資料が数枚添えられている。

アレからダクネスとは連絡を取ってはいないが、彼女は上手く行ったのだろうか?答えは戴冠式の後にアイリの口から発表という形で表明されるが、それまでに何が起きるのかは誰にも分からない。

 

時間が経ち周囲が落ち着き、戴冠式が始まった事を確認すると牢屋を後にして裏通路を使いながら戴冠式の会場へ向かう。

 

会場は玉座を利用するらしく、天井に身動きは取りずらいが様子を見ることくらいしか出来ない狭いスペースがあったのでそこに体を滑り込ませ内部を観察する。

久しぶりに見た玉座は王兄との戦闘を繰り広げていた場所とは到底思えないほど綺麗に修繕されており、煌びやかな雰囲気に圧倒される。

玉座の中央にアイリなどの主要貴族が集まり、壁際には他の重鎮が並んでアイリの戴冠式を見ている様だ。

 

まあ戴冠式とは言っても皆が興味を持っているのはアイリの王位継承ではなくその後の人事に関してだろう事は見ている目を見れば一目瞭然だが、自身の地位が変わってしまう事を考えれば気が気では無いのだろう。

始業式の校長の話よりもクラス替えの方が気になる様なそんな感じだろう、結局誰が王になろうと自分の既得権益さえ守れればそれで良いのだ。

 

そんなこんなで特に乱入者が出る事なく王冠はアイリの頭上に被せられ、戴冠式自体の目的は達せられせアイリはめでたくこの国の主となった。

それからダクネスがアイリに何か書かれた紙を渡し、彼女はそれを周囲に集まっている貴族に向けて読み上げ周囲の貴族達はそれを聞き一喜一憂している。

今回の人事は先に資料に目を通して知ってはいたがダクネス一派に忖度された内容なので、俺が行っていた汚れ仕事が功を奏した様でクレアからはダクネスから一本取られた事が効いたのか負の感情が滲み出ていた。

 

人事が発表され、周囲のどよめきが落ち着いた頃戴冠式はお開きとなり、次は広間にて立食パーティーが始まるとの事で皆ゾロゾロとしたの会場へと移動していった。

アイリ達は結婚式でいうお色直しをするのか他の貴族達とは別の部屋に向かっていった。

 

流石に着替える場所を除くのはダメだろうと思いながら代わりにシルフィーナを向かわせ、俺は先にパーティーの会場へと向かう。

会場では既に準備が済んでいたので主役なしでパーティーが開かれ、貴族達は各々が与えあられた役職を自慢しながら情報交換をしている。中には俺が色々制裁したきた奴も居たが、やはり胆力が強いのかまた持ち返してきた様だ。

 

周囲の情報交換を盗み聞きながら待機しているとシルフィーナからこちらに王女が向かうとの情報が入り、貴族達が静まり返ったところで堅い衣装から着替えたアイリ達が会場に入ってくる。

新たな主人が決まったので皆アイリに覚えてもらおうとまるで餌を見つけた蟻の様に彼女の周りに群がり飛び込み営業の様に媚び諂っている。

 

群がる貴族に対して一人一人丁寧に返事を返す彼女を見て、問題は無いなと思いながらシルフィーナに監視を任せ会場を後にする。

会場では余興が始まり旅芸人などが芸を披露しては会場を盛り上げており、俺はその隙にアイリの部屋に忍び込み彼女に当てて書いた手紙を机の上に置く。

 

「…ん?」

 

彼女の年相応な部屋に置かれたテーブルの上には彼女が書いていたのか日記が置かれていた。

正直言って彼女がこの状況をどう思っているのか興味がないと言えば嘘になるが、流石に年頃の女の子の日記を読むのは駄目だろう…。

そう思い手紙を置き会場に戻ろうと思ったが、何故かその日記が気になってしまい部屋を後にする事に躊躇してしまう。

 

落ち着け…思春期の日記なんて黒歴史みたいなものだ、俺がアイリ頃の歳に書いた日記を誰かに読まれたと思うと死にたくなってくる事間違いなしだ…って一緒にするのは流石に可哀想か…。

 

結局悩んだ挙句、まあ少しくらいなら大丈夫だろうと魔が差し彼女の日記に目を通してしまう。

 

時系列的に日記の初めの方が城奪還の後の頃だろうか。

 

XX.XX

今日から日記を再開しようと思います。

叔父様が亡くなりお城はボロボロになりましたが、なんとか皆さんが協力して何とかしてくれているみたいです。

 

XX.XX

お父様と本当のお兄様が亡くなってしまい、これからは私がこの国の主になるとクレアから言われました。

仕方が無いとは言えこれから大変になりそうです。

 

XX.XX

クレアが王に成るためには知識が必要だと言って授業が始まりました。昔から王女なので必要最低限でいいとそこまで教わっていなかったのですが、これからは秘密にされていた事まで教えてくれるそうです。

そこでクレアにお兄様の事を聞いたら困惑されてしまいました。

 

XX.XX

授業を聴いていて昨日何故クレアが困惑していたか分かりました。お兄様はお兄様でも新しいお兄様なのでクレアにはわからなかった見たいです。今度ララティーナに確認しましょう。

 

XX.XX

今日の授業が丁度ララティーナでしたのでお兄様の事を尋ねてみると、あの時に怪我負ってしまい現在治療中の事みたいです。

心配なのでお見舞いに行きたいと伝えたのですが、強い呪いの類なので迂闊には近づかせられないみたいです。ただララティーナは時間が掛かるだけでそこまで強い物では無いと担当の方から聞いたのでので安心してほしいと言っていたのでそこまで私もお兄様に負けない様に頑張ろうかと思います。

 

XX.XX

クレアからこの国がどの様な仕組みで運用されているのかを聞かされました、皆んなが頑張ってこの国が回っていたのですね…。

 

(ここから暫く日付が飛ぶ)

 

XX.XX

忙しく暫く日記を書けませんでしたが、ヤマを越えたのでまた書けそうです。

最近クレアとララティーナ仲が悪いみたいなのか私の教育に関して言い合いをしている様です。

あまり私の事で喧嘩をして欲しくなかったので止めてもらおうとしたのですが、私の目の前でしなくなっただけで他の場所でしているみたいです。

 

XX.XX

私がこの国の王様になる日が決まった様です。

女性が王座に就くのは異例の事で色々時間が掛かったみたいですが、私を王にする時は皆さん仲良く行動されていたので良かったです。

 

XX.XX

何だかお城の皆さんの空気が悪いと言いますか…お兄様はこの時は空気がヒリついていると表現していましたが、これがそうなのでしょうか?

 

XX.XX

あの事件から暫くしましたが、お兄様は一向に私の前に現れてくれません。

やはり叔父様から受けた怪我が治らないのでしょうか…

 

XX.XX

ララティーナに意を決してお兄様の事を聞きましたが、あの男の事は忘れて欲しいと言われました。

…どういう事でしょうか?

 

XX.XX

最近勉強やら礼儀作法ばかりで面白くありません。お兄様といた頃は息抜きで色々遊んで面白かったのですが…

 

XX.XX

つまらないのでララティーナに悪戯したらキツく怒られました、王女としての自覚がなんとか言っていましたがよく分かりませんでした。

お兄様なら笑ってやり返してきたのですが…

 

XX.XX

最近みんなに色々ああしろこうしろ等色々言われる様になりました。

みんな私の気持ちなんてどうでもいいんですね…

 

XX.XX

授業を抜け出してお城の中を駆け回って居ましたが、何とお兄様の気配を感じました‼︎

そこまで強くは無かったので気配の残滓みたいでしたが、お兄様が無事で居て無いよりです。

…ですが何故私に会いにきてくれなかったのでしょうか?

 

XX.XX

授業の開始早々昨日の事を怒られました。

ですが、今日の当番はララティーナでしたのでお兄様の気配がした事を訪ねましたが、お兄様は現在治療中でそんな事は無いとはぐらかされました。

 

XX.XX

前の一件のせいでしょうかお城の警備が厳しくなった様な気がします。

私は私でお兄様の事を辿ろうと思い出来る範囲で聞き込みをしましたが、お城のみんなは最初からお兄様なんて居なかった様に振る舞い始めました。

 

(ここでページが破られている)

 

XX.XX

お兄様…アイリはもう限界です。

今まで見て見ぬ振りをして来ましたが、みんなが必要としているのは王女としての私でこの私を必要としている訳では無かったみたいです。

早く迎えに来てください…

綺麗な服も豪勢な食事も快適な生活も要らないです…全てが不自由で生きる為に泥に塗れても楽しかったあの生活に戻りたいです。

 

XX.XX

お兄様怪我の具合はどうでしょうか?

なんだかんだ言って私の味方をしてくれていたララティーナも最近私の事よりも大切な事が出来たのか冷たいです。

 

XX.XX

お兄様、もう私の事はどうでもいいのでしょうか…

お兄様会いたいです。

 

XX.XX

最近何だか眠れなくなる日が多くなりました…

 

XX.XX

お兄様今どこで何をされているのでしょうか?

私はこんなにもお兄様と会いたいのにお兄様は会いに来てくれないのでしょうか…

お兄様…会いたいです…

お兄様…

お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様…

 

「怖いわ⁉︎」

 

思わず日記帳を机に叩きつけてしまう。

何だかんだ理由をつけてアイリに会いに行けないと思ったが、それは仕方が無い事ではなくダクネスが手を回していたという事になる。

まあ、王の自覚を持たせる為には俺みたいな庶民と合わせてはいけないとは思うが、流石にこうなる前にアイリのメンタルケアくらいして欲しい。

 

やはりクレアに対して対抗意識を持ち過ぎていたせいか、アイリの扱いがおざなりになっていた事は予想していたがここまで酷くなるとは思わなかった。

今まで王族に仕えていたせいか、王族というものに幻想を抱き、彼女もまた一人の少女である事を忘れてしまっていたのだろう。

 

家督は兄ジャディスが継ぐものと考えられて居たのでアイリはのびのびと育てられており、急に帝王学を学ばせようものなら両者の意識に軋轢が生じるのは仕方が無い事だろう。

 

全てが終わったら一度アイリにあって彼女の気持ちを聞こう。

そして彼女が望むのであれば彼女をアクセルに連れてゆんゆん達と何処か違う国に行こう。俺の幸運スキルがあればカジノ大国エルロードでそれなりの生活ができるだろう。

 

 

 

叩きつけた日記を元の位置に直し、手紙を回収する。

もはやあの二人にアイリを任せるのは危険かもしれない。クリスには悪いが彼女も事情を話せば許してはくれなくても納得はしてくれるだろう。

 

アイリの部屋を後にして裏通路に戻り会場の様子を確認しに行く。

シルフィーナから特に連絡を受けていない所を見ると特に問題はなかったのだろうと判断し特に焦らずに向かうと、余興が好評なのか歓声がこちらまで聞こえてきた。

 

やはり一国の戴冠式となると呼ばれる芸者も一級なのだろう。

他の貴族達と同じように眺めてみたい気はあるが、俺があの中に紛れ込めば俺の正体に誰かが勘付いて折角ダクネスが築き上げたものを壊してしまう危険性がある。

 

先程は感情に流されたが、ひと段落すればダクネスも肩の荷が降りていつもの穏やかな感じに戻るかもしれないのだ。そうなればアイリも少しはやり易いだろう。

会場の熱気に当てられ少し胸焼けしてきたのか喉元がモヤモヤしてきたので再びシルフィーナに任せて外に出る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

城の屋上に設置されているテラスに出て夜風に当たる。

普段なら避けたい所だが、現在の警備は会場に集中しているので俺一人いても大丈夫だろう。

 

「夜風が気持ちいな」

 

広々としたテラスを独占した為に心も広くなったのか声が漏れる。

日は既に暮れあたりはもう真っ暗になっている。戴冠式の後は盛大に祝うらしくその時間は深夜にまで及ぶらしい。

 

折角なので城の周囲の景色を眺めるとアイリが流されたであろう河が直ぐそばに流れている事に気づく。

最初アイリを河まで飛ばすとかどんだけ凄い力だよと思っていたが、この距離ならここから上手く飛び込めば着水出来るなとどうでもいい想定をしてしまう。

 

(カズマ様そちらに大人数が向かっております‼︎)

(マジか)

 

「そこに居たのか下衆が、探すのに苦労したぞ‼︎」

 

これからどうアイリと接触しようかと算段を立てているところでシルフィーナから連絡が入り、いきなり現れた客人と対面する。

シルフィーナだけ分かるという事は俺に対して指向的に気配感知を妨害する何かがある様だ。

 

「クレアか一体俺に何のようだ?牢屋の件に関してはこの時くらい外の空気を吸えって出してもらっただけですぐ戻るぞ」

 

現れたのは俺の悩みの種の一つであるクレアで、俺が彼女に咎められる理由としては牢屋から脱獄した事くらいだろう。

 

「はっ‼︎ここまで白々しいとかえって清々しいな。貴様が図った事は既に調べが付いている」

「何の事だ?俺はずっと牢屋にいたんだぜ?何をされたか分からないけど八つ当たりもいいところだぜ」

 

証拠がない時点で相手の推測の域を出ないので出来るだけ知らないふりをして場を切り抜ける。

 

「嘘を吐いている事は既にわかっている」

「お前は…」

 

彼女は淡々とそう言いながら俺の目の前に傷だらけになった一人の兵士を転がす。

 

「獄長…」

「すいません…娘を人質に取られまして…」

 

どうやら俺が抜け出していた事がバレたのは確定の様でここから切り抜けるのは難しい様だ。

 

「流石だよ、貴様が行った行為で結果として我がシンフォニア家の勢力の大半がダスティネス家に飲み込まれてしまった。最初は他の国勢力がアイツに加担していると思って調べていたが、まさか貴様一人にここまでされるとはな…」

「そりゃあどういたしまして」

 

頭に血が登っているのか、まるで漫画のように額に青筋が浮かび上がっている彼女を見てつい煽ってしまう。

 

「それで、お抱えの兵士を連れてどうしようって言うんだ?」

「お前を殺した所で状況が変わる訳ではない」

「だろうな」

「だが、このままお前が生きているのが私としては許し難い‼︎」

「はっ‼︎八つ当たりかよ‼︎天下のシンフォニア家も随分と落ちぶれたものだな‼︎」

「くっ…言わせておけば言いたい様に…殺せ‼︎」

 

とうとう堪忍袋の緒が切れたのかクレアは侍らせていた兵士をこちらに向け、完全武装された兵士が得物を携えながらこちらに向かって突撃してくる。

 

「こんな事で俺が殺せると思うなよ‼︎この程度の修羅場飽きるほど潜ってんだ‼︎」

 

腰の剣を抜き、突撃してきた兵士の攻撃を捌きながら手刀やドレインタッチなどで相手の意識を奪っていく。

貴族へ襲撃を掛ける過程で警備兵に囲まれるなんて事はザラだったので、この程度の人数なら時間さえかければ問題なく捌き切れる。

 

「お前あれを出せ‼︎」

「はい」

 

こちらに向けられた兵士を捌いていく過程でクレアは側近兵に何かを持ってくる様に指示を出すと、神具なのか見たことも無い形をした剣を受け取った。

その刀身を見て何か悍ましい気配を感じ警戒する。

 

「ほう、下衆な貴様にもこの剣の素晴らしさが分かるか」

 

俺の全ての本能があの剣を振るわせては行けないと警告を出し、近くにいる兵士を退けクレアの剣を弾き飛ばそうとしたが相手の兵士の数は無尽蔵なのか数人飛ばした所で数の暴力にやられ進行を止められる。

 

「我が一族に伝わる神剣フラガラッハ、貴様相手に使いたくは無かったが光栄に思うんだな‼︎」

 

クレアはそう言いながら手に持っていた剣を空に向かって切りつける。

 

「はぁ?」

 

最初斬撃が真空派となって飛んでくると警戒したが、そんな事は無く何も起きないので不発したのかと思っていたが答えはそんな事を考え切る前に訪れる。

 

…そう。

 

彼女の放った剣は俺の構えた剣よりも内側を切りつけたようで、突如胸に衝撃が走り俺の体は後方へと飛ばされていった。

何を言っているか分からないと思うが俺も分からない。

 

「フラガラッハ、その剣に狙われた者は私の視界に入る限り例えどこに居ようが最大出力で切る事が可能だ。精々あの世で学ぶのだな」

 

神剣に切りつけらて吹き飛ばされる様、彼女は俺をゴミを見るような目で見つめた後に冥土の土産なのか独り言のようにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ、貴方も大概ですね少しは学んだ方が良いのではないでしょうか?」

「…ん?」

 

クレアに切りつけられ気が付けば目の前に某嫌味しか言わないシスターが俺の顔を覗き込んでいた。

 

「ここは何処だ?俺は謎の剣に斬られたんじゃ無いのか?」

「そうみたいですね、服の胸の部分が裂けていますし」

 

現状が分からず混乱しながらも自身の身体を確認する。

全身は水浴びしたのか服は水浸しで重くなり、彼女のいう様に胸元が思いっきり切り開かれている。

 

「それでここは…河か?」

「そうですね、ここはアクセルの近くにある河ですよ。時間はかかりますが歩けばすぐ街に着きますね」

「そうか、それで胸の傷はあんたが治してくれたのか?」

 

切られった時の衝撃からして重症を負ったかと思ったが、目線をやると服が思いっきり引き裂かれただけで体は綺麗なままだった。

 

「ええ、けどそこまでの事はしてはいませんよ。あなたの怪我は少しの切り傷と擦過傷だけでしたので」

「そうなのか?」

「ええ、服の中に何か隠していたのでは無いでしょうか?」

「ああ、そう言えば」

 

彼女に促されるまま胸元にしまっていた物を取り出す。

 

「うわ…なんて悍ましいものを…遂に邪教に入ったのですね…不潔‼︎」

「いやいや…って否定は出来ないな」

 

俺をフラガラッハの斬撃から守ったのはバニルの仮面で、その仮面は俺を守った証として表面が抉れており、後数回使ったら壊れそうな気配がした。

後でバニルに感謝しないとな…

 

「それでなんで俺がここに居るってわかったんだ?たまたまここを通ったにしては偶然がすぎるしな」

 

身の安全と自身の位置も掴めたところでシスターに質問する。

俺自身偶然河に打ち上げられたアイリを救出ている為、あまり強くは言えないがあれはあくまで旅行の帰りでその時はアイリとはまだ他人だった頃の話なので偶然と説明がつく。

しかし、シスターの格好や深夜の時間帯を考えると、どの様に曲解しても俺がここに来る事が分かっていたとしか思えない。

 

「それですか?それでしたら簡単ですよ。クリス様から今日貴方がここに来るとここを出る前に仰っていたのです、なので私はその指示に従ったまでです」

「そうなのか…」

 

クリス…お前は一体何者なのだろうか。

 

「では戻りますよ」

「ああ、そうだな」

 

俺の安全を確認したのかシスターは早く帰りたいばかりにアクセルの方へと歩き出した。

 

「まあクリスに頼まれたとしても助けてくれてありがとうな」

「ふふっそうですね、感謝してください」

 

一応とお礼を言うとシスターは何が面白かったのか笑いながらそう返事して先に進んでいった。

 

一体何なんだと思いながらも、結局アイリの事を含め全て投げ出した形になってしまったと思いながらも、これから屋敷に帰るのかという嬉しい様な怖い様な何とも言えない感情が俺を支配する。

まだ時間が無い訳ではない、相手は国きっての貴族なのだから準備をしなくては…

 

そう思いながら俺はシスターの後を追った。

 

 

 

 




次回から六花の少女後半ですが、来週から休むかもしれません。
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