この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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誤字脱字の訂正ありがとうございます。


赤髪の悪魔3

「この大会も進みまして次は準決勝となります‼︎そのカードはシュガーvsオークです‼︎この私自身人間の参加者がここまで生き残るとは思っておりませんでした‼︎ですが今回の相手はメスのオーク‼︎今の所全ての対戦相手に余裕の勝利を掴み取ったその実力を前に一体どのような立ち回りをとるのか‼︎」

 

会場に上がり因縁のあったであろうオークと相対して相手の圧感さに足を引きそうになる。

負ければ死にの戦いを繰り広げながらその試合の合間に姐さんに稽古をつけてもらいようやくここまで来たが、あのオークと対面して見て今までの相手が如何に弱かったかを奴の纏っているオーラのような気配で察知する。

 

「ようやく貴方と戦える時が来たようね、あの子と先にやって坊やは最後に取っておきたかったのだけれどもこればかりはしょうがないわよね…」

「ああ、本当だよ。俺もできればあんたにあんたと当たりたくはなかったよ」

 

ここまで怪我をせずに来れたのは姐さんに受け身等々などの護身術を教わった教育の賜物だが、果たしてこの怪物相手にそれがどこまで通じるのか分かったものじゃない。

しかし、ここまで来た以上通じませんでしたと言って逃れれられるわけではなく、何もしなければそのまま奴に叩き潰されて終わりだ。

 

通じないからといって何もしなければ結果として殺される以上、俺にできるのは今の手札をどう組み合わせて奴に対応するかだ。

 

頬を叩き気合いを入れる。

これから始まるのは放ってもで間違えれば死んでしまう俗にいう死にゲーを防具なしで行う様なものである。

 

「いいわね…その目、記憶を無くして骨抜きされたチキンの様だったけどようやく覚悟を決めたのね」

「ああ、悪いけど記憶が戻るまで死にたく無いんでね‼︎」

「両者準備が済んだ様なので試合開始‼︎」

 

互いに言葉を交わし気合い十分だったところで審判が気を遣ったのか、その闘志が萎える前に口上を省略して試合開始の宣言をした。

 

「行くよ坊や‼︎」

 

試合開始の宣言がなされたところで待っていましとばかりにオークが勢いそのまま俺に向かって掴みかかってくる。

 

「そんな攻撃食らうかよ‼︎」

 

言葉そのままで初っ端から捕まって仕舞えば肉体のスペック的に死んでしまうので、初手の攻撃は無難に横に飛び回避しオークの腹に膝蹴りを放つ。

 

「おぐっ⁉︎」

「…マジか⁉︎」

 

腹を蹴り抜かれ、痛みが全身に走ったのかオークは鈍い悲鳴をあげる。

やったかと思ったが、脚に伝わってきた反動は今まで敵に同じ事をして戻ってきたそれとは違いまるで固い岩盤を蹴っている様だったので思わず後方へと退避する。

するとやはり俺の判断は正しかったのかオークの腕による払いが反射の様に俺のいた場所にはなたれ、後少し遅かったら足を折ってしまったと戦慄する。

 

「やるじゃ無い坊や、今のはいい蹴りだったわ」

「そりゃどうも、こんなんでよければいくらでもくれてやるぜ?」

「元気があっていいじゃない…けど記憶を失う前の貴方なら今の蹴りで私の肋を折れたわよ」

「…」

 

オークは俺の事を称賛した後に、嫌味なのか以前の俺ならもっと上手くやったと記憶にない俺と戦った時の思い出を披露し始めた。

確かに記憶がない俺と記憶があった俺なら経験の差に数年の差があるかもしれないが、それをここで言うということはきっと挑発なのだろう。

 

「だからどうした?昔の俺が今の俺より強いからって俺が諦めると思ったのか?」

 

だが、そんな事で自身のペースを乱してしまっては相手の思うツボで、自身の力が低いのであればそれを技術で補えばいい話である。結局試合で勝つ者は強い者ではなく最後まで冷静でいられた者なのだ。

 

「…面白いわね坊や‼︎ヤッパリここで殺すには惜しかったわね‼︎」

「ーっ‼︎」

 

俺の挑発の返しを合図にしたのか返事を言いながら奴は再び俺に向かって攻撃をする。

再び同じ攻撃とは芸を感じられないが奴の掴み攻撃を躱し、今度はそう腕を掴み肘を支点に膝蹴りを放ちながら前腕を伸ばす方向へと引きへし折りにかかるが、その魂胆は相手にバレた様ですぐに力を入れられ抵抗される。

このまま力の勝負になれば俺の負けは考えるまでもないので、そのまま身を翻して体勢を変え奴の顔面…眼帯をしていて死角になっている方に回し蹴りを放つ。

 

「まだまだ‼︎」

 

流石に顔面を蹴られて反応されない程の実力差はなかったようで、奴が怯んだ隙に今度は肩へと再び攻撃を叩き込む。

一撃で大打撃を与えることができない以上地道な攻撃を繰り返して相手を疲労させるしかないのだ。

 

「やるじゃない坊や‼︎」

 

肩・頭・背中出来る限り部位に攻撃を加えるとまるでタイマーでもしていたかの様に奴の体が駆動し俺を払い除ける。

幸いガードを取れたのと自身の体が宙に浮いていたので着地に小細工し衝撃を減らせた事でダメージを最低限へと抑えることに成功し再び体勢を整える。

 

「野郎…手を抜いているのか?」

「野郎だなんて失礼ね、私もれっきとした乙女よ」

 

敵状視察とでもいう様に奴が他の選手と戦っている所を見てきたが、その時のやつとの戦い方と今の戦い方を比べるととてもじゃ無いが本気を出しているとは思えない。

この殺し合いにおいて手加減をする理由なんてものは一つしか考えられない。

 

「俺をおちょくってんのか?」

 

要するに俺を殺さずに必死に抵抗している様を楽しんでいる事の他考えられない。

 

「違うわよ、戦いにおいて遊ぼうだなんてそんな失礼なことはしないわね」

「じゃあなんだよ?」

「そんなこと簡単よ‼︎貴方の記憶が戻るまでこうして待っているのよ」

「何…だと⁉︎」

「最初からこの大会に坊やが参加したって聞いた時はとても嬉しかったわ、もう会えないんじゃ無いかと思っていた坊やがわざわざ自分から私の前に来てくれるのだもの。けど私の前に現れたのは記憶を無くして弱くなってしまった坊や…まあそれはそれでよかったのだけれども、ここまで登ってくるに従って強くなっている坊やを見て思ったのよ…今の坊やが記憶を取り戻せば前の時とは比べ物にならなほどの力を魅せてくれんじゃないのかってね?」

「…」

 

長きにわたるオークの独白に唖然として返す言葉が浮かび上がらなくなる。

 

「だから私はこうして坊やが記憶を取り戻すまで頑張ることにしたの。そうでしょう?記憶を取り戻し強くなった坊やを蹂躙してできた子供なら一族の中で頂点に立てるかもしれないもの‼︎」

「へ…変態だ…」

 

こちらが喋らない事をいい事に頬を赤らめさらに恍惚とした表情でとんでもない事を語り出す。

試合前に姐さんからオークの特性については聞いた事があったが、まさかここまでとは流石に思わず。何故繁殖期であるオークが外に出ないでこんなところで油を売っている理由もわかった。

 

奴はここで交尾する番を探していたのだ。

全くもって恐ろしいが奴は自身の命という名の会費を払いここに婚活をしに来たのだろう。そして自身よりも強い相手を探しながら戦っているうちに強くなっていき気づけば戦闘狂の様にようになってしまったのだ。

なので自身より強い相手であった俺を屈服させ自身と交配させ最強のオークを産ませ自身の群れの長に就かせたかったのだろう。

 

「変態?心外ねぇ…そう感じるのならそうさせているのは坊やなのだから、坊やが責任を取ればいいんじゃないかしら?」

「うわぁ……ーーっ⁉︎」

 

あまりの暴論にドン引きしていると長い独白で気持ちが昂ったのか、今までに無い速度で一瞬にして距離を詰められ顎に手を当てられる。

 

「坊やは自分がいい男だって事にいい加減に気づいた方がいいわ」

「ーーくっ、触るな‼︎」

「あらやだ‼︎やっぱり生きがいいわね‼︎」

 

耳元でASMR配信の様に愛の様な歪んだものを囁かれるという、あまりにも視衝撃的な出来事に判断力が低下したのかフェイントもなしに顎を蹴り上げたが、そんな事は分かっていると言わんばかりにそれを躱し距離を詰めれる。

 

「クソが⁉︎」

 

顔全体にかいていた冷や汗を拭い払いながら暴言を吐き精神を落ち着かせる。

圧倒的変態な所業にSAN値が消え去りそうだったが、何とか踏みとどまれたようだ。

 

相手は依然として俺の記憶を戻す気でいる様だが、そんな簡単に記憶が戻る様ならとっくのとうに記憶が戻っている筈である。

 

 

死の淵まで追い詰められた危機感で戻るとでも言いたげに俺のことを痛ぶる様に奴は責め立てる。

実力の差は歴然だが、それでもただ負けるわけにはいかない。それに俺が降参しても奴はそれを許さないだろう。

 

そして俺が逃げ回ったところで俺の体力が減っていくだけでジリ貧でしかない。

普通に戦って勝てる見込みがない以上俺が出来ることは一つしかない。

 

攻め続けるオークの攻撃を捌きながら全身全霊の一撃を放つ。

 

「あら、鬼ごっこはもう終わりかしら?」

 

俺の放った一撃を手で払いながら拳を俺に突き立てる。

 

「ああ、逃げるのは終わりだ」

 

頭をフル回転させながら奴の攻撃を躱しながら次の攻撃を放ち、それを受けたオークが怯まないのは分かっているためそのまま続けて攻撃を放つ。

 

もはや止まっている暇はないのだ。

 

止まれば反撃が始まりまた防戦へと逆戻りになってしまう。

まあそれを続けるのもいいのだが、そのままではやがて俺の体力が尽きてしまうのが先だろう。

 

攻撃に次ぐ攻撃、本来であればその連撃に対応は出来ないのだが、オークの体は俺の想像以上に硬く少しでも場所を見誤れば反撃の機会を与えてしまう。

だが、それはもう仕方がないのだ。

人間がミスをしないなんて事は不可能に近い。

ならばミスを起こさないのではなくミスをどうカバーするのかに重きを置くかだ。

 

攻撃を外し、やってくる反撃の一撃を咄嗟に手を翳す様にして払い、その反動で体を翻して次の攻撃へと繋げる。

息は既に途切れ途切れでいつ酸欠で倒れてもおかしくはない。

 

だが、ここで止まれば全てが台無しになる。

この攻撃には本来必要である撤退がなく、たった一度の失敗に対応できなければ次にやってくるのは死だけなのだ。

 

「いいわね坊や‼︎記憶が…無くなっても…いい味…出すじゃ…ないの⁉︎」

 

奴は俺の蓮撃を受けながらも途切れ途切れに称賛の様な言葉を送る。

それが奴なりの礼儀なのかもしれないが、その行為自体が自身にはまだ余裕があると言っている様なものだ。

 

「貰った‼︎」

 

しかし、だからといってそれが俺が負ける理由にはならず。非力な人間には非力なりの闘い方があるのだ。

攻撃を当て続け奴の重心を一点に集まる様に誘導し、自身が思う最大のタイミングで奴の腕を足に絡ませ自爆のリスク覚悟でそのまま地面へと捻る下げる。

 

「あら?」

 

俺の捨て身覚悟の技は見事に決まり奴のでかい図体はすっとんきょうな言葉と共にそのまま地面に叩きつけられられ、俺の体には確かな手応えが残った。

たとえ打撃が効かなかったとしても投げ技であれば奴の体重が重ければ重いほどより大きなダメージを与えられるのだ。

 

「まだだ‼︎」

 

そして倒れた奴の顔面をここぞとばかりに踏みつけ、それを止めようと掴みかかってくる手を躱し反対にそれを掴み関節技を掛ける。

立位の状態であればこんなものは直ぐに振り払われるが、今はこちらがマウントを取っているため角度さえ間違えなければ非力の俺でも相手を関節技を掛けることができる。

これこそ人体構造学の神秘の一部を担うに相応しい柔術の技なのだろう。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ‼︎」

 

奴に関節技を決め、方向と共に力みながら関節を本来は動かない方向へと倒す。

本来であれば格闘家としてどうかと思うが、これは殺し合いである為しょうがないのだ。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ‼︎」

 

俺が全体重を掛けながら腕へし折る行為を奴も全力の咆哮を放ちながら力み阻止する。

 

だが、キメるものと逆らう者の条件では俺の方が勝っているので奴の関節は轟音を鳴らしながらその機構を崩壊させ、奴はその痛みで全身のリミッターが外れたのか物凄い剛力で俺の体を吹き飛ばした。

 

「はぁ…はぁ…やるじゃない坊や…記憶がないからって侮っていたわ」

「はっ‼︎油断大敵とはこれを言うんだよ‼︎大人しく降参して新しい相手を探しやがれ‼︎」

 

奴の腕は既に使い物にならなくなったの事を示すように左腕がダラリと下に垂れ下がり、対照的に何をしたのか知らないが太くなった右腕だけで構えている。

 

「逆よ‼︎むしろ好きになっちゃたわ‼︎記憶を失って味が落ちたと思ったら別の味を出していたのね…ようやく気づいたわ‼︎」

「うぇ…」

 

どうやら俺の腕と一緒に心を折る作戦は失敗に終わり、反対に闘志を燃やさせる結果となってしまった。

 

「御免なさいね、今まで手加減をして坊やを馬鹿にしていたけどここまでされたら私も本気を出させて貰うわ…ね」

「ああ、出してみろよ‼︎」

 

先程まで放っていたオーラが突然鎮まりだし、場には今までにない程の緊張が走り奴は突然左腕を掴み力み出すと垂れ下がっていた左腕を引っ張り本来の方向へと曲げる。

それによりガコリと機械音のような音が鳴り奴の肘は元通りになる。どうやら俺は奴の関節を破壊したと思っていたが、結果はただ外しただけにとどまっていた様だ。

 

そして両腕を腕を天上に挙げ肘を曲げ、俗にいう…まあ名前は忘れたがマッスルポーズを取る。

全身で力み出すと筋肉の膨張に服が耐えられなくなり軋轢音の様な音が続き最終的に破裂する。

 

「待たせたわね…見なさい坊やこれが私の全力よ」

 

服が爆ぜ、上半身裸になったわけだが最後の砦にチェストバンドが回っていて背中に一本の黒い線が見えるが、奴の背中はその発達した筋肉の肥大によりまるで鬼の形相を作り出していた。

それは奴の体が人を破壊している事に特化している事を指す。

 

「行くわよ坊や‼︎」

「なっ⁉︎」

 

そして筋肉の披露が終わったところで試合再開と言わんばかりに再び奴が向かってくるが、その速度は今までの比ではないほどに速く、あっという間に距離を詰められ俺の眼前には既に奴の拳が迫っていた。

 

「オラァ‼︎」

 

まるで巨大な鉄球が飛んでくるかのような轟音を放ちながら迫り来る奴の拳に成す術もなく、俺の体は後方にあるリングの壁まで飛ばされ衝突する事で停止した。

 

「あっ…あ」

 

あまりにも一瞬の出来事により理解が追いつかないまま俺の身体は壁に埋め込まれ、気づけば再び眼前に奴の姿があった。

 

「御免なさいね、この身体になると手加減ができないのよ…」

「この化け物が…」

 

全身に走る激痛に最早動く事ができず、自身の敗北が目前であることを自覚する。

 

「悪い事は言わないわ降参しなさい、今なら一回私と交わるだけで許してあげるわ。それでその子が大きくなったらもう一度強くなった坊やを倒して交わるけどね」

「恐ろしい…発想だクソ野郎…だったらここで死んだ方がマシだ…ブッ‼︎」

 

内臓をほとんど痛め、肋の数本は肺に刺さっているのか呼吸が苦しい、幸いに片方は折れているだけなので呼吸は出来るがこの状態では反撃どころではなくせめてもの抵抗に奴に血痰を吐き捨てる。

たかが一発でとも思うが、それ程までに体格差というものは残酷なのだ。

 

「あらそんな状態なのにまだ気力があるのね‼︎気に入ったわ‼︎降参しないし抵抗もできなそうだからここで致しちゃいましょう‼︎」

「…クソが」

 

どうやら俺はここまでらしく、こんな大衆の前で盛るなんてとんでも無いオークだなと思いながら必死に逃げようとするが、既に体が限界を迎えているのか動こうとすると動作の代わりに激痛が返ってくるばかりだった。

 

「他の雌の香りがするけどそこら辺は我慢するわ、けれども人の男を盗ると言うのも中々にいいとも聞くわね」

「あ…あ?」

 

俺の必死の抵抗も虚しく謎の評論を述べつつ、口に糸の引いた涎を垂らしながら雌の顔をしたオークの手が迫ってくる。

流石にこれ以上は無理だと思い降参を宣言しようとするが、痛みが長引いたせいか体が衰弱し始め口が震えて上手く言葉を発することが出来ず視界が徐々に歪み始めている。

 

徐々に迫り来る奴の手が俺に触れる瞬間だった。

 

「カズマ様‼︎」

「何よ⁉︎」

 

何処かで俺を呼ぶ声がした後に何かが横から乱入し伸びているであろう奴の手を弾き飛ばした。

 

「あら大会中は誰であろうと手出しできないはずだけれども?」

 

奴は弾かれた手を摩りながら突如現れた者に対して抗議の意をもって話しかけている。

突如起こった事態の驚きにより消えかけた意識に気付けが入ったのか少し意識が覚醒し、その乱入者へと目を向けるとそこには金髪碧眼の小さな女の子が両手に刃物を携えて居た。

 

ゆんゆんでも魔法使いの女の子でも無い彼女は一体俺の何だろうかと思っていると、その子はまるで身分を表すかのように自身の服の裾を捲り挙げその腹部に刻まれた刻印を奴に見せつけた。

 

「これは…貴女、坊やの奴隷だったのね」

 

奴隷?確か俺にも奴隷の擬似的な刻印が貼られているが彼女のそれは本物なのだろう。そしてそれは俺の奴隷である事を示している。

 

「はい、なのでそこのご主人を殺されてしまう事は看過出来ません」

「確かに奴隷の子はご主人が別の人に殺されるわけには行かないのだけれども、いいのかしら?このまま行くとお嬢ちゃん死ぬわよ?」

 

未だに全力化を解いていない奴が、今にも殺すぞと言わんばかりの殺気を飛ばしながら彼女に忠告する。

だが、そんな奴の脅しに屈する事はなくその女の子は据えた目で奴を見返しながら言葉を発する。

 

「構いません、元々死んだようなものですし」

「そう、なら仕方がないわね。けどそうね…最後の土産に私よりも先にそこの坊やと一度交わってもいいわよ?」

 

「え?それは…」

「ふ…ふふふふ…あははははははははははははははははははーーー‼︎面白いわね坊や‼︎可愛い顔して坊やはとんでもない女たらしだったのね‼︎いいわ今回はその子に免じて見逃してあげるわ」

 

まさかの展開に金髪の女の子は腑抜けた様な声をあげると、その反応を見て満足したのか奴は今までにない程の大声をあげながら笑った。

 

「よくよく考えたら記憶のない坊やと致しても物足りなかったし、今回は見逃してあげるから記憶を戻してからまた出直して来なさい」

「あ?」

「それに私は戦士である前に乙女でもあるのよ、こんな可愛い子をここまで思い詰めさせるなんて男失格よ坊や」

 

俺に謎の説教をかました後、まるで興が削がれたと言わんばかりに呆気ない幕引きで俺の大会が幕を引いた。

 

「カズマ様‼︎大丈夫ですか⁉︎今応急処置をしますから‼︎」

「あ…ああ」

 

訳がわからなかったがそれでも自身の命と貞操が守られた事に安堵しながらため息を吐くと、緊張が解けたのか急に視界が真っ黒になり意識が無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お…おきな…起きなさい‼︎」

「はぁ‼︎」

 

闇の中呼び声に反応する様に意識が覚醒する。

 

「あ…姐さん」

「意識が戻ったようね、取り敢えずあなた準決勝まで行ったから治療が受けられるの、だからそれまで意識を保って頂戴」

「あっはい…痛っ‼︎」

 

どうやら気づけば知らない天井だと言うわけではなく、今の現状は担架で運ばれながら横に付き添っている姐さんに声を掛けられている状態だった。

自身の無事に安心するが、心残りのあの子を探すために周囲を見渡すが、あの子の姿はなかった。

 

「安心して、あの子は先に治療室で待機しているわ、今頃あのゴリラを蹴った時の怪我を治している頃よ」

「…そうですか」

 

取り敢えず心配事がなくなった事に安堵しながら目を閉じようとすると。

 

「だから目を開けていなさい」

 

と無理やり目を開けられる。

どうやらそれ程までの俺の体は酷い有り様の様で、このやり取りが治療室に着くまで数回続いた。

 

「成る程…これは酷い状態ですな、むしろこれで生きていた事がふしぎですわぁ」

「いいから早く治しなさい」

 

治療室に着くと備え付けのアークプリーストの様な魔物が俺の体を面白そうに診察するとそう言い、姐さんはそんな事はいいから早くしろと治療を急かし、既に治療を終えた少女は俺の隣でことの成り行きを見守っている。

 

「へいへい…分かりましたよ。酷い怪我なのと準決勝まで勝ち残ったので最大級ので行きますわぁ」

 

ブツブツと、ったく人使いが荒いなと言いながら俺に治癒魔法を掛け、俺の体は淡い光に包まれる。

 

「安心しなさい、こんなのだけれども治癒の腕前は私の知ってるぶりっ子ダークプリーストより上よ」

「それ褒めているんですかね…」

「あぁ…傷が消えていきますね…これなら…え?」

 

謎のやり取りを繰り広げながら自身の怪我が癒えてきている事を確認していると、まるで泉から水が湧き出すように記憶が戻ってくる。

そう、それは俺が前の世界に居た記憶からゆんゆんの出会い、そしてめぐみんとの出会い…そしてアイリの凶行も。

 

「どうしたの?何かあったのかしら?」

 

記憶が戻った反動で呆然としていると何かが起きたのか思った姐さんに心配される。

 

「いえ…記憶が戻りました…」

「え…?はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーっ⁉︎」

 

俺が苦笑いでそう言うと、姐さんは今まで苦労は何だったと言わんばかりに叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやらカズマさんの記憶喪失とやらは状態異常の一種だったみたいですな、だから我輩の魔法で怪我と共に治ったと」

「はぁ…そうですか」

 

記憶喪失につての解説を聞きながら未だに実感の湧かない現状に呆然としながら対処する。

 

「はぁ…こんなことなら最初から治癒魔法掛ければ良かったわ」

「…なんかすいません姐さん」

「いいわよ、こんな事で怒っても仕方がない訳だし」

 

姐さんは呆れながら俺の頭を撫でると、続きはまた後でと言いながら準決勝へと向かっていった。

 

「シルフィーナ来てくれたんだな、と言うかよくこれたな」

 

姐さんが居なくなった所でシルフィーナに向き直る。

何だかんだ言って彼女がここに来てくれたことで俺の貞操と命が守られたわけで、彼女が居なければ今頃この闘技場はとんでも無いスプラッタ劇場が繰り広げられただろう。

 

「はい、カズマ様の気配は常に分かりますので」

「へーそうなのか、でもここまでよく来れたな?」

 

いくらシルフィーナが有能であっても所詮はただの奴隷で色々制限が掛かっている筈なので一人で来れたとは考え辛い。

 

「それに関してはバーのマスターに協力して頂きここまで来た所です、マスターはもう帰られましたが」

「へー意外な所で繋がっているんだな」

 

どうやらあのバーのマスターが気を回してくれた様だが、この場所を知っていると言う事はどう言う事なのだろうか?

王都の裏の顔である退廃区の住人であれば色々な事に精通してそうだが、何故かクリスの息が掛かっていそうな気がしてならない。

 

「それにしても…いや何でもない」

「何でしょうか?」

 

淡々と状況を報告する彼女を見てよく喋る様になった事に嬉しくなり、つい言いそうになったがそれを言ってしまうと恥ずかしがって喋らなくなりそうなのでここは敢えて口をつぐんだ。

多分バーのバーテンダー作業で人と話す事が多くなったからコミュニケーション能力が付いてきたのだろう。

 

「それでよくあの会場に入れたな?試合中は入れない様に警備員がいただろ?」

 

安心した所で疑問が湧いてくる。

本来であれば最初に思うはずの疑問だが、状況が状況なだけに問いかけるのが遅れてしまう。

 

「そうですね…あの時は必死でしたのでよく覚えていませんがお腹の模様を見せたら通して下さいました」

「へぇ…」

「そうだぞ坊主、そのお嬢ちゃんに感謝しておけ」

「うわっ」

 

謎の事態に頭が混乱しかけた所で先程の治癒魔法を使える魔物が話しかけてくる。

どうやら仕事を終えてやる事がないので持ち場を離れてこっちまで来ていたようだ。

 

「本来奴隷がいる者は参加出来ないはずなんだ、まあ基本この大会は一名しか残れないからな、だが坊主は記憶を失っていたから例外的に参加できたのだろう。だから坊主の奴隷であるその子が来てルール変更せざるを得なくなったんだよ。それで坊主は失格になったから降参を宣言しないでも試合が終わったんだ」

「はぇーそうだったんですか」

 

舞台の裏事情を教えられ、まるで映画を見た後に考察動画を見た感じのパズルのピースが合わさる様な感覚を味わう。

 

「まあでも助けに来てくれて助かったよ、ありがとうな」

「はい!」

 

色々あったがそれでも今回は彼女によって命が助かったのでお礼を言いながら彼女の頭を撫でると、彼女を嬉しそうに目を細めてそれを受け入れた。

 

 

 

 

 

シルフィーナに自分の状況を説明すると、彼女は俺に伝えたい事があるが機密なので何処か人の居ない場所で話したいと言われたので取り敢えずこの一件が終わったらと伝える。

ゆんゆん達の無事やアイリの事が気掛かりだが、姐さんに世話になった以上この結果がどうなるかまでは着いていきたいのだ。

 

「準決勝スカーレット選手の圧勝により終了しました。少し休憩を挟みまして決勝戦となります‼︎」

 

そんなこんなで準決勝が終わり、気づけば決勝戦間近となった。

 

 

 

 

 

 

 

 




すいません、終わりきらなかったです…
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