夏の象徴とも言えるであろう、蝉。
そんな蝉のお話…
ーーーーー季節は夏ーーーーー
誰もが暑いと感じ、川へ遊びに行く者。家の中に居続ける者。自分の好きなことに打ち込む者。
色々な人が居る。
そして、花火、風鈴、川、海、プールなど、夏を象徴するものもたくさんある。
だが、その中である意味夏を象徴する蝉はどうなのだろうか。
僕は蝉だ。他大多数となんら変わりなく鳴き続ける。
他の蝉に合わせ、みんなで鳴く。「ここに我あり」と、主張するかの様に。
だが、他の蝉達を見ていると、一匹変わった蝉が居た。
その蝉は、みんなと一緒に鳴かず蝉時雨が止まると、一匹だけで鳴きだしていた。
僕は三日前に成虫となった、まだまだ若い蝉だ。若いとは言っても、蝉の一生、成虫として生きれるのは精々一ヶ月が限界。更には鳥や人間達の恐怖もあり、一ヶ月生きれる蝉は数少ない。
更に一日経ち様子を見ても、やはり一匹で鳴いている。
僕は知りたかった。あの蝉について。
先輩蝉に尋ねてみた。「何故あの蝉は一匹で鳴き続けるのか」と。
先輩蝉は「さぁな、俺らにも分からん。アイツは一週間ぐらい前に成虫になって、それからずっとああだ」と答えた。
分からなかった。あの蝉が何故一匹で鳴き続けるのか。成虫になったばかりからああだという。
更に一日経っても、頭の中から疑問符が消えることは無かった。
蝉の一日は貴重だ。短い一生の中で一日がどれ程大きなものか。何十年も生き続ける人間には分かるまい。
このままあの蝉が息絶えるのを待ち、自分もその後に続き、魂の中に疑問符を抱いたままで良いのか?
そう思った僕は、本蝉に聞いてみることにした。
「なんであなたは一人で鳴き続けるんですか?」
まずあの蝉は、とても驚いていた。知らない蝉からいきなり話しかけられたら当然驚くだろうが、比較しようがない程驚いていた。
まるで、生まれてこのかた話しかけられたことがない、という様な反応だった。
少し呆然としていた蝉だったが、我に返ったようで答えてくれた。
「何故あいつらも、お前も鳴いてるか考えたことあるか?」
ぶっきらぼうに答えた。疑問を疑問で返すなと言いたくなったが、そこはグッと抑える。
「さあ…けど、鳴かない蝉なんて見たことないですよ。だから、惰性か何かでしょう。」
正直分からなかったが、何となく感じていた事を答えた。
「分かってないな。お前らは、無意識のうちに慟哭してるんだよ。何年か土の中に居て、それだけ時間を掛けても太陽の下に居られるのは長くて一ヶ月。自分達の境遇に他の生物と比較して勝手に傷ついて、勝手に悲しんでるだけだ。」
むっとした。初めて喋った人の言葉をそのまま鵜呑みにするほど馬鹿ではない。けど、それでも完全に否定できないとも思っていた。何かと説得力が感じられた。何故説得力があるのか。その場では全く思いつかなかった。
けど、黙っている訳にもいかないので、
「仮に僕らは泣いていて、慟哭だったとして、あなたは何をしているんです?」
と尋ねた。
すると、当たり前のことを聞いて何言ってるんだ?とでも言いたげにこう話した。
「お前らは悲しんでいるんだよ。折角の太陽の下で暮らせる貴重な時間に。だから、俺はそんな貴重な時間を悲しむだけで終わりたくない。俺が鳴いてるのは慟哭じゃない、この世界を少しでも楽しむ為に叫んでるんだ。そして、ありきたりな蝉じゃなく、自分らしさが欲しいだろ?」
感銘を受けた。
単なる反骨精神だけで鳴いてるのかと思っていた。
土の中に居る間にこれだけ考え、そしてそれを実行する勇気は、自分には無いものだった。
けど、それでもやっぱり、僕は真似しない、出来ない。
ただ、決して失望はしていなかった。そして、憶測だが唯一の理由を知る蝉である自分が、あの蝉の行く末を見るべきだと思った。
時が経ち、あの蝉は亡くなった。
珍しい、寿命を迎えた死だった。
あの蝉は決してみんなと同じ時には鳴かなかった。
あの蝉の鳴き声は、他とは違う、生きる事を楽しんでいる声だった。
誰かが死んでも、何もなかったかのように時間は過ぎ去っていく。
そろそろ僕も寿命を迎えるだろう。
何も残せなかった僕だが、もし、来世があるならばーーーーーーーーーーーー