ウルトラマンアバドン【完結】   作:りゅーど

31 / 50
影法師怪獣 フルウツボ
ベムラー人ジュウキチ
登場


休息

 さて、カミカクシテレビも一旦収束したわけだ。

 紗和は自分の部屋で前回新たに手に入れた雷の力を人間体でも使えるようになり、少し有効活用するようになった。

 まさかの電力が弱くして電気マッサージに……

「あ゛ー……」

 オッサンのような声を出しているのは慎太郎である。

「……電力そんなに問題ない?」

 ただし、それ以来常に手袋を付けるようになった。元々付けてはいたが……

「あー……サイコー……」

「そっか、なら良かった。ちなみに次はどうする?」

 ちなみに今は腰にやっているそうです。

「……どうするって?」

 慎太郎は聞いた。

「いや、腰の次はどこをやってほしいかってこと……」

「あー……なら太腿頼むわ……」

「良いよ」

 腰を終えたようで、太腿に軽い電気マッサージをしてあげた。だが少し油断したのか……

「あ…………」

 少し電力のコントロールをミスったのか、最大までやってしまった。

「あ゛ッ!?! ん」

「…………ごめん……痛かったよね?」

 慌てて手袋をはめて抑えた。

「……もうちょいコントロールを学ばないと……」

 前回から紗和はあの後何故か上手く制御が出来ず周りを感電させてしまったため、少しずつコントロールは出来るようになったが……まだまだのようだ。

「いてぇ」

「ごめん……次は気をつける」

 手袋を外すと、少しずつ電力をあげた。

「これくらいなら良い?」

「……ああ」

「それなら良かった。……ただ君に電気マッサージをすると何故かヤバイ視線か気配を感じるのは気のせい?」

 おそらく愛が重たい彼女のことだろう。

「……」

 慎太郎の顔が青ざめた。

「…………き、気のせいという結論づけにしておくよ」

 どうやら察したようだ。

「……それにしてもさぁ、しばらくテレビが起動してないから暇だよね」

「……平和だな」

「平和なのはいいけど……多少暇だね。せっかくここに来たのにあまり周りを探索とかしたことないじゃん。ボクはこの力を手に入れてからいろんな人に電気を浴びせてマッサージをさせるようになったよ。医療担当兼電気マッサージ師かな?」

「だな、そうしy」

 その瞬間、慎太郎の姿が消えた。

「!? ……あ、あれ? 慎太郎?」

 奏が慎太郎を担いでいた。

「!!? か、奏さん……いつの間に」

「……渡すもんですか」

 奏の独占欲が発動した。

「…………へ?」

 マヌケな顔で返答した。どうやらこの人……無自覚のようだ。

「……絶対に貴女なんかには慎太郎さんは渡しませんからね」

「……え、えーと……はい。でもボクはただ慎太郎に頼まれて電気マッサージをしていただけだよ?」

「……チッ」

 奏は慎太郎を自室に連れていった。

「あ……な、なんだったの?」

 いや無自覚にも程があるでしょ。自分が今何したのか全く分かってないようだ。

「……また来るか分からないから雷のコントロールをまたしないと。また感電させちゃう……」

 その後出てきた慎太郎曰く、「技術的な意味合いでは奏の方が断然いい」との事だった。

 紗和は少しショックを受けたが……「そっか……仕方ないね」と、少し寂しそうな笑みを見せてそう返事をした。

 

 さて、その日彼らは高天原をうろつくために外に出た。

「…………地球では見ないものが沢山あるね。凄い……♪」

 多少興奮気味で楽しんでいる。

「お、飯屋もある」

 慎太郎は奏を呼んだ。

 みんなの後ろを歩きながら紗和は少し寂しげな感じだった。羨ましい……とかではなく『居場所、間違えたかな?』と心の奥底でそう思っているようだ。

 それでもなるべく平常心でいつもの笑顔を見せた。

「はぁ……」

 慎太郎は紗和に向くとこう言った。

「あんまし気にするな」

「! ……うん。分かった」

 いつもの笑顔を浮かばせた。少し違和感があるような感じが……

「……さて」

「そこで……少し休む?」

「丁度飯屋だしな」

「うん。そうしようか。高天原の食事は美味しいからここもきっと美味しいと思う」

 

 飯屋の中に一同は入った。

「良い雰囲気なお店だね……」

 店内の雰囲気を楽しみながら空いてる席を探す。

 空いた席にみんなが座る。

 当たり前のように慎太郎の隣に奏が座った。

 紗和は余った1番端っこの席に座った。

「……色々とメニューがあるみたいだね。どれも美味しそう……♪ (いつもどおりでいないと……心が弱くなる)」

 笑いながら場を楽しませるような雰囲気を作って色々と雑談に入る。

「所でさぁ、紗和って好きなやついるのか?」

 古橋が聞いてきた。

「!!? ……い、いきなりだね……ま、まぁ……いるけど」

「もしかして肇とかじゃね?」

「!? …………へ?」

「どうなのさ」

 数秒ぐらい沈黙が続いたが、紗和は首を横に振った。

「……教えてあげない。ボクだけの秘密だから」

「ずっりぃなあ」

「ズルくない。秘密は誰にもあることなんだから……言えない秘密だってあるでしょ? ……(どうせ……無理だし)」

「ちぇーっ」

 

 一同の元に料理が来た。

「というか松本君に関しては前回のことで少しピキッてるので」

『前回』というのがメタイが良い笑顔を作っているが多少ピキッてる。

「……どれも美味しそう」

「美味そう……」

 肇の顔が暗くなっている。

 紗和は怒らせない方が身のためだというのを知った方が良い。

「……色々あるからどれから食べようか悩む……」

「俺これにするわ」

 慎太郎は定食を手に取った。

「…………(余ったやつにしようか)」

 歳上の人達には遠慮気味なのか残りものを手にすることが多い。

 一同が飯を手に取った。

 紗和は最後に余ったのを手にして食べ始める。

「いただきます」

 慎太郎が手に取ったものは海鮮。

「いただきます」

 刺身を一切れ食べてみる。新鮮な白身魚である。

 一口食べて、鯛だと慎太郎は察した。それにしては甘みが強い。

 ……こりゃ甘鯛だな、と慎太郎は思った。

 もう一つ食べてみる。スッキリとした香しい香り。

 その味はどこかで食べた気がしたが、慎太郎は思い出せない。

 もう一切れ。

 慎太郎の頭は香りと魚の並列計算をしていた。その時、「香魚」という言葉が浮かんできた。

 そうか、鮎のあらいか。

 慎太郎はようやく察することが出来た。

 無言でずっと食べ続けている紗和。少し嬉しそうな感じもする。

「(こうやってみんなで食べることはあまりないからなんか新鮮かも……料理も美味し♪)」

 孤独というのを何万年も慣れているせいかほとんど自分の部屋で食事をすることが多い。それでもみんなといられるのが嬉しいようだ。

「わ、うめえわこの牡蠣!」

 古橋は焼き牡蠣を食べている。口の中が濃厚な旨味に包まれる。

「……美味しいぞ、この汁物」

 すまし汁を一口飲んだ迫水は、ほう、と一息ついた。

 迫水の方もカミカクシテレビの他でCETの活動を行っていた。

「美味しいわね、この煮付け!」

 基町は頬を弛めた。食べたのはカサゴの煮付けである。

「このカレイ、甘くて美味しい!」

 慎太郎の隣でカレイの唐揚げを食べている奏は、驚きながら言った。

「……美味しいです♪ 高天原の食事は地球とは違う美食を感じて美味しい♪」

 あまり食事をしない紗和も楽しそうに食べる手を止めずに食べ続けた。

 肇は涙を流していた。

「……うめぇ、うめぇよ……」

「……なんで松本君泣いてるの?」

「なんだろ、よく分からないけど美味くて泣けてくるんだ」

 紗和の問に返した肇は、その鱈の餡掛けを一切れ食べるとまた涙を流す。

「こんな美味いもん久々だ……」

 どうやら、最近は絶食状態だったらしい。

「ま、松本君。ボクと同じ……だね……」

 この人は自分から食べないだけだ。お金にはめっちゃ余裕があるのに。

「高天原にきてから、雑務やら向こうの神々に頭下げるやらで……」

 肇はしみじみとした思いで食べる。

 話を聞く紗和は多少ドン引きしていたが最後まで話を聞いて頷いた。

「こ、今度から……手伝おうか?」

「いいんや、これは俺の仕事なんだ」

「そ、そうか。分かった……」

 一同は食べ進めた。その時、ある言葉が聞こえてきた。

「そういえば、黄泉比良坂(よもつひらさか)の封印が緩くなってきてるらしいぜ」

「まさか、そんな訳ねーだろ」

「! ……ん?」

 食べながらその話を聞き始めた。

「黄泉比良坂開いたらヤバない?」

「ヤバいどころじゃねえだろ」

「はは、だって伊弉冉尊(いざなみのみこと)が封じられてるもんな」

「怖ぇなあ、戸締りはしておこうぜ」

「(黄泉比坂……? ……その封印が緩いけど伊弉冉尊……あぁ日本神話の女神だっけ? ……ヘェー……まさかボクらに関わっちゃうのかな?)」

「そういやさ、最近妙な噂聞くよな」

「ああ、巨人だっけ」

希臘(ギリシャ)から来たんじゃねえか?」

「いんや、俺はこの高天原を超えた先にある世界から来たとみるね」

「……(ギリシャ……もしかしてギリシャ神話? でもあほ化け物はクトゥルフ神話のはずだけど)」

「高天原を超えた先? じゃあなんなんだい」

「そうだな、神を超えたかもしれん存在だから……人を超えたもの、超人って事で……《ウルトラマン》とかどうだい?」

「!? イッ……ッ〜〜〜……」

 驚いた拍子に舌を噛んでしまったようだ。

「大丈夫か?」

 慎太郎は紗和を見た。

「う、うん……大丈夫。……まさかここまでウルトラマンとかの話が噂されているとは思わなくて……」

 小声でそう言った。

「……ウルトラマン、か」

 慎太郎はすこしイラついた。

「……俺はウルトラマンの名なんて捨てたっての」

「……その割には人助けしているじゃん……」

「うるせぇよ。俺はムカついたやつを独断で虐殺しただけだ」

 そう言うと、慎太郎は米を食べた。

「んぐ、むぐ。ふまひな」

「……そう……(でも君は……ウルトラマンらしいよ。ボクは結局……)……うん、美味しいね」

「んっぐ。ふぅ。つか、ウルトラマンらしいウルトラマンらしくないとかカンケーねえだろ」

 慎太郎は言った。そしてこう続けた。

「テメーが助けた奴もいんだろが。その時点でテメーはウルトラマンだっつーの」

「!? (どうやってボクの心の声分かったんだ!?)……う、うん」

「テメーが暗かったらよォ、この作品から癒しが消えんだよ。だからとっとと食って笑顔になってろ馬鹿野郎、シバキ回すぞ」

「メタい! でも、まぁ……うん……分かったよ」

「よし。すんませーん! お金払いますんでご飯三杯目頂けないでしょうか!!」

「勿論ですよ、お客人!」

 慎太郎のおかわり要求。

「いやあ、地上の飯よりうめえぞ。やっべえなここ……」

 どうやらどハマりした模様。

「どんだけ食べる気なのw」

 その時、ある店員が紗和に耳打ちした。

「料理長がね、あの右目を隠した青年があんまり美味そうに食うもんだからってんで張り切ってんだよ。彼ってあの巨人だろ? 多分。幸せそうに食べるんだね」

 その店員は、すぐさま店内を駆けて客の元に走った。

「! ……フフッ」

「やったァ! あ、店員さん。料理人に伝えて欲しいんだ。どの飯もめっっちゃ美味いって!」

 慎太郎の目が輝いた。

「! ……(慎太郎があんな目を輝かせてるの……初めて見た。とても……綺麗)」

 ずっと慎太郎のことを見つめ続けた。

「最っ高にうめぇ……!」

 慎太郎の食いっぷりに辺りの客、もちろん神々だ。彼らも触発された。

「こっちも追加オーダーお願いしまーす!」

「こっちもお願いします!」

「……(細くて筋肉質なのに沢山食べてる……楽しそうになりより……♪)……フフッ」

 自然と紗和も微笑んでいた。

 

 さて。

 一同完食。

「…………なんじゃこの器のタワーは……w」

「食ったぁ~」

「……めっちゃ食べたね。器のタワーが出来てるw

 でも確かに美味しいかったね。またここで食べに行こうかな?」

「それいいな!」

「また行こうか。久々にまともに食べた気がする……w」

 そうして彼らはふらふらと歩き出した。

 早足のみんなの後ろを歩いていく紗和。

 楽しそうに色々と見回りながら後ろを歩いていく。

「うはぁ、すげえな」

「地球だと見れないものが沢山見れて楽しい。貴重な時間が増えていくね」

「……! 慎太郎さん、あれ見て!」

 奏は慎太郎の手を引いた。

「包丁ですって!」

 紗和はその姿を見て少し身震いをした。

「(怖いよ奏さん……)」

 紗和は1人でフラフラと辺りを見渡している。

「……宝石、ここの宝石に関するお店があったら見てみたい……」

 そうやって独り言を呟きながら見渡し続けた。

 慎太郎の目が再度輝いた。

「この店に刺身包丁ってないか!?」

「この青い包丁だね」

「……! 刃の美しさもさることながらこの薄さと鋭さ、そして目でもわかるこの硬さ……! まるで日本刀を小さくして出来た包丁だなこりゃ!!」

「…………独りは慣れている……」

 ボソッと紗和はそう言った。そのまま1人になりたいのか……みんなに気づかれずにどこかへ行ってしまった。

 その紗和の後を、誰かが追いかけていることには誰も気づかなかった。

 そう、紗和自身も……

 1人でずっと辺りを見渡してる紗和。少し寂しげな背を感じる。

「…………歩き疲れた……」

 独りぼっちでずっと歩き回ったせいか、その場にあった椅子に腰を下ろした。

「…………(みんなと離れたけど……大丈夫、かな? ……いや、いっか。ボクは……元々孤独で生き続けた。だから……)…………1人でも平気……」

 少し泣きそうな目をしているが、泣かずにその場に座り続けた。

「……そこのお嬢さん」

 優しく威厳のある声がした。

「!? …………は、はい……」

「こんな所で何をしているのかな」

「……観光です。それで疲れたのでちょっと休憩していたんです」

 優しそうな微笑を浮かばせる。

「それにしては悲しそうな雰囲気だ」

「え? そ、そんなことありません。ちょっと……疲れているだけです」

「……嘘の香りがするよ」

「! …………そ、そうですか」

「……悲しげな涙の匂いも。涙を堪えていたのかい? 大丈夫、君は悪くないよ」

「ッ……と、というか……君は誰なんですか? 初対面に対して馴れ馴れしいです……」

 警戒をするようになった。

「私は……アミターバ、とでも名乗っておこう」

「で、では……アミターバさん……ボクに何かご用ですか? いきなり話しかけてきたかと思えば……『涙の匂い』とか……ボクは別に……問題ないです」

「嘘をつくのはよした方がいいよ。……想い人にその想いが伝わらない、のかい?」

「!!! …………だって……どうせ無理……ですから」

「……諦めるのはやめておきなさい」

「それでも……不可能なんです。彼にはもう……大切な人がいる……だから、無理なものは無理なんです。それに……こんなボクを好きになってくれる人なんて……いるわけがない。彼だけじゃない……みんな、ボクのことなんか……」

「……その邪念は怪物の元になるのだよ、少女よ。その思いをこっちに向けようとする努力はしたかい?」

「! ……ボクの気持ちなんか届くはずがない。だから……そんなにしてない」

「……それがダメなんだ」

「……だって……後ろを歩いていくうちに置いていかれそうで……結局は1人になる……だから……無理なんだよ。……でも、なんでだろう? そう言われると……泣くの耐えたいのに……耐えれないの」

 気づけば紗和は涙を流していた。

「……我慢しなくとも良いのですよ」

 アミターバは、紗和の事をカンダタのようだと思った。

「…………ボクは……やっぱ自分の声で伝わるのかどうか分からない。だから……今、こうやって一人でいても……来てくれないはずだから。一人は……生まれつき慣れていることだから。孤独で産まれ、孤独で成長して……そばにいてくれてもすぐに離れていく……ボクは……どうしたら良いの……ッ」

「……大丈夫。君は孤独なんかでは無いさ。耳をすましてご覧なさい、ほら聞こえてくるだろう」

「…………え?」

 たたた、と足音がした。

 足音がする方に涙を流しながら顔を向けた。

「……え?」

「おい! 何やってんだ馬鹿野郎が!!」

「……慎……太郎……?」

 慎太郎は紗和のもとに駆け寄った。

 アミターバはすっと後ろに下がった。

「…………なんで、いるの? 奏さんと一緒に行動してたんじゃないの?」

 まだ涙を流していた。

「奏には伝えてきたんだ。お前を回収する旨をな!」

「……回収……?」

「それより早く来い!」

 しかし、数秒くらいだけ紗和は顔を見つめながらその場から立とうとしない。

「……何やっているんだ」

 紗和は、自分のことが好きではない。それでも自分を思ってくれる人が側にいるだけで嬉しく、孤独なんかすぐに忘れられるが……紗和は孤独の呪いが解けないのだろう。それでも……自分の声でこう言った。

「…………大好き」

「なんか言ったか!? ったく、乗れ馬鹿野郎! ……あとそこのハゲ頭ァ!」

「ハゲ頭!?」

「……このメンヘラなメスガキの説得サンキューな! 助かったぜ、ハゲ頭……いや! 阿弥陀如来!!」

 慎太郎が走り去るのを、アミターバは……阿弥陀如来は見ていた。

「やれやれ、暇つぶしがてらに高天原に来て正解でしたな」

 

 さて、一同にしれっと混ざった訳であるが。

 コソッと後ろから現れる。少し気まずそうな顔をしている。

 そりゃそうだ。何も言わずに勝手に一人でどこかへ行ったのだから。

「……紗和」

 最初に気付いたのは古橋である。

「あ……も、戻り……ました」

「おかえり」

「! ……うん」

 一同は紗和を優しく出迎えた。

「ごめんなさい……勝手にどこかへ行って……」

「いいんだ」

 迫水は優しく迎えた。

「……はい……」

 何故かまた泣きだした。

 古橋はすっとハンカチを出した。

「あ……ありがとう……(孤独は慣れているけど……もう、大丈夫。……でも、この気持ちは……言いづらい)」

「……」

「……ん? どうかした?」

「……無理すんなよ、紗和」

 古橋は紗和の肩に手を置いた。

「!! ……う、うん……ありがとう。(……慎太郎に言ったあの言葉……まぁ、届いてくれないよね。慎太郎には奏さんがいる……ボクなんか……無理だ。別の……探さそう……)」

 ハンカチを古橋に返した。

 受け取った古橋は紗和に告げた。

「人ってのはさ、移ろうものなんだ。つーかあれ程歪んだ愛だ、慎太郎も辟易してると思うぞ?」

 バレている。

「うっ……! ……なんで分かるんだよもう……///」

 多少照れている。

「アイツがヤンデレ趣味だったら別だろうが、基本辟易するだろうな。まあ良いだろう」

 そう言って古橋は笑った。

「凄い趣味だね……w」

 つられて小さく笑った。

「恋慕に気付かれねえのって辛いよなぁ」

 古橋は自嘲気味に言う。

 そして、その場で立ち止まった。

「うん……そうだn……ん? どうしたの?」

「……伏せろ、紗和」

 古橋は即座に銃を抜いた。

 同時に慎太郎は奏を守る形で立った。

「え……う、うん」

 言われた通りに伏せた。

 その直後、紗和の頭のあった所を矢が襲った。

「ッ……?! 矢……?」

 古橋の鉄拳が影を殴り飛ばした。

「!? ……なにかいる?」

「……今の感触はなんだ!?」

 古橋が殴ったものは、(うつぼ)という矢を入れるものであった。

「……靭? なんでこんなものが? 矢羽を傷めたり、篦が狂ったりするのを防ぐための筒状の容器……」

「……まさか」

 慎太郎は念の為、テトラカーンとマカラカーンを貼っておいた。

 その靭から、ひとりでに矢が出てきた。

「!? ……また矢が……」

 影が撃っていたのである。古橋はその姿をベムラー人としての姿に変貌させて、向かった。

 その姿は、

「……妖怪を狩る、鴉天狗」

 慎太郎のこの言葉に集約されていた。

「…………矢を操る人がどこかにいるのは分かるけど……気配が薄いような……」

「敵は影だ! ここは俺がやる!」

 古橋、いやベムラー人ジュウキチはその影を殴りつけた。

「ドララララララララァッ!!」

 影は即座に影の弓を使って矢を射った。

「!! ……こっちに矢が飛んでくる……」

 ジュウキチは矢を掴みへし折る。

「……影。影、か……」

 その場で何か考え始めた。

「ドララララララララァッ」

 影を殴り続けるジュウキチ。その本体が靭であることに気づくに時間はかからなかった。

「影……影にも弱点があるはずだけど……彼ならそんなの関係なく倒すと思うけど……」

 1人でブツブツと独り言を呟いている。

「靭が本体か!」

 ジュウキチは靭を掴むと、膝蹴りで割った。

「! ……(やっぱ言わなくてよかった……光を当てればすぐに終わるかなと思ったけど……)」

 ジュウキチは疑った。

「こんなに呆気ないとは……」

 ジュウキチは紗和を庇うように立つ。その直後、紗和を狙うように光線が放たれた。

「ワッ!? どこから……光線が?」

「……あの影だ!」

「!? ……(なんでボクを狙ってくるの?)」

 ジュウキチは影を睨み付けた。

「…………ボクが狙いなら……囮になって……隙を作ろうか?」

 小声でそう言う。

 ジュウキチはそれを断ると、目を物理的に光らせた。

 影の動きを鈍らせたのである。

「! ……弱点、分かってたんだ」

「影には光って相場があるだろ?」

「……うん、その通りだよ」

 影の動きが鈍り、戦闘意欲すらも消えたように見えた。

「……やめた?」

 少し警戒しながら影の様子を見る。

 影は古橋の鉄拳を受けると、そのまま消え失せた。

「……殴った瞬間にわかったよ。ありゃ人の苦しみが実態化したものだってな」

「ッ……! ……そ、そうなんだ……」

 一瞬何か思いついたような紗和の顔に移ったが、なんとか平常心に戻る。

「……そうか、そうだよな」

 古橋は悲しそうに笑う。

「……(ボクが……いや、考えないでおこう……)」

「……オレ自身だもんな」

「!? ……え?」

「呵呵、そりゃそーよ。通じねえって想いがこうなるとかよ……」

 無言で何故か頭を撫で始めた。

「……ん?」

「……苦しかったねって思って」

 優しそうに撫で続ける。

「そうか、そりゃそーだよな。恋愛対象には振り向いてもらえねーし……」

「……あのー……今言うことじゃないんだけど……顔が近いよ?」

 めっちゃ近距離である。

「……すまん」

「……大丈夫。でも下手したら口付け寸前だったよ?」

 真顔でそう言った。

「……すまんかった」

「大丈夫。気にしないで♪」

 古橋は直ぐに心をどうにかした。

 紗和は首を傾げている。

「あ、怪我とかしてない? 怪我してるなら治すけど……」

「……大丈夫だ」

「そっか。それならよかった♪」

 めっちゃ純粋で何かに目覚めさせてしまいそうな笑みを見せた。

「……おう」

 古橋は悲しげに笑った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。