ウルトラマンアバドン【完結】   作:りゅーど

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『黒い巨人』
メカゴモラ

登場


『道化師』の台頭

 CETの基地から少し離れた街で、一人の青年が暮らしていた。

 その青年の名は佐久間(さくま)優作(ゆうさく)

 ケィアンの宿主である。

「……はあ」

 佐久間はケィアンの力を失った。事件は加害者不明の事件として処理され、彼は平穏に暮らせている。

 否、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 佐久間優作は、ケィアンの力に溺れ、そして情状酌量の余地は非常にあったとはいえ、刑法199条に規定されている殺人罪を犯した身である。もっとも、彼は心神喪失状態。【心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律】によって減刑される可能性は大いにあるのだが。

 佐久間は一人、静かに空を見上げた、と、その時である。

 緑の光とともに声がした。

「佐久間優作……だな」

 その声の主は優作の目の前に現れた。

「……お前は誰だ」

 佐久間はそう呟くと、身構えた。

「俺はジェードだ。お前の……味方とでも言えるな」

 ジェードと名乗った青年は軽く笑みを見せながらそう言った。

「……ジェード、お前まさか」

 かつて佐久間には、唯一仲の良かった人がいたことを思い出した。

 同じクラスで、いつも朗らかに笑っているその少年を。

「……ジェード、だよな。俺だよ俺、佐久間。未来ヶ浜高校1-4の、佐久間だよ」

 ジェードと佐久間は知り合いの様子。クラスメイトであった。

「……久しぶりだな。佐久間……」

 そう言いながらその笑顔を見せた。

「ああ、本当に久しぶりだ」

「だがお前……昔と比べて随分と変わったようだな。思い出してくれたのは嬉しいが……」

「……色々あったからな」

 佐久間は、苦い過去を思い起こしていた。

「……無理には聞かない。お前がなにがあろうとも、俺は佐久間が無事ならいいさ」

 そういいながら笑い続けていた。

「……ジェード、お前は変わらないな。立ち話もなんだ、入れよ」

 佐久間は、自宅にジェードを招き入れた。

 

 佐久間の家は狭く窮屈で──といっても一人暮らしにとっては寧ろ手広いマンションの一室なのだが──いかに彼が鬱屈していたかがありありと見える。

「邪魔するな」

 快く受け入れて自宅に入った。

「お前、本当に変わったな。昔はあんなに明るかったのに……」

 昔を振り返りながら部屋中を見つめている。暗い雰囲気がして、鬱という感じがするのが分かる。

「……僕は、もう駄目なのさ。人間不信になっちまったし、それにどうせ誰からも愛されないに決まっている」

 そう自嘲すると、コーヒーを淹れ始めた。

「濃いめのコーヒー、好きだったろ? お前」

「いただく。ついでに、なにがあったのか知りたい。俺とお前の仲だ。人間不信になっても俺には、話せるだろ?」

「……ああ、お前には……な」

 そう言って、佐久間はジェードにコーヒーを渡した。

「毒物は入れていないからな」

「そんなことは疑ってないさ。俺は今でもお前を信じているんだ。だから……率直に言う。お前はどうしてそんなに変わってしまったんだ?」

 コーヒーを受け取ったその両手でも、目は真面目で鋭かった。

「……人間は、特に女というものは等しくクズ。そう学べたよ」

「……は? お前、いきなりどうしたんだよ」

 流石に心配になってきたのか目が不安な眼差しとなった。

「高校ではまだマシだったろ? なんせ男子校だったからな……」

「そうだったが……お前がそこまで言うほどとは思えなかったから。噂では大学では良い生活していたって聞いたが……」

「……そのいい生活ってのも、すぐ崩れたよ」

 そう言って、佐久間は辺りを見渡す。自宅だと言うのに。

「(じゃあ……あの噂は)……無理には言わないが、それでも教えてくれないか? 大事な友人がこんな風に暗くなったのなら、知っておかないとだしな。大学時代、なにがあったんだ?」

「……」

 途端に佐久間の顔が曇った。そして、こう呟いた。

「……同性愛者など、みな死ねばいい」

「……え?」

 つい、そう返答してしまった。

「……察しろ」

 数秒くらい考え込み、そしてその答えが出た。あえて口には出さないようにした。

「……はぁ、ったく。人には触れられたくない所があるってんだ」

 佐久間はそう言って、呆れたようにジェードを見据えた。

「……そう、か。悪かった……」

 顔色から反省したような雰囲気はしているが、それでも視線の鋭さは変わらなかった。

「……この星に優しさなんて無いのさ」

「……ならお前は……何故生きているんだ? 過ちを起こしたとしても、誰かに救われたのか? お前を許した人物がいたんじゃないのか?」

 何かを悟ったかのようにハッキリとそう告げた。

「……やっぱお前にゃバレるか」

「俺とお前の仲だ。なんとなくだが……そう感じた。それで、いたんだろ? お前を許した人が……」

「……ああ。本編前に、な」

 そう言った瞬間、『リーンゴーン』と呼び鈴が鳴った。

「悪い、行ってくる」

「メタいな」

 そういいながら笑って、コーヒーを一口飲んで待った。

「あ、このコーヒー美味っ」

「上がってくれ」

 そう聞こえたや否や、ある青年が来た。

 翠色の長髪が美しい青年だ。

「やぁ、ジェード」

 そう言って、彼は笑った。

 緑川(みどりかわ)龍治(りゅうじ)本人である。

「客か……って、お前か」

 そう言いながら微笑んだ。

「ああ、久々だなジェード」

「えっ知り合い?」

 佐久間はキョトンとしていた。

「まぁな。ちょっとした経緯でな」

「まぁ、そうなのだ」

「で? なんでここにいることが分かったんだ? ……まさかついてきたとかか?」

 ジェードは笑いながらそう言った。

「まさか、優作に誘われたのだ。一緒にコーヒーでも飲まないかって」

「ん? 優作、知り合ったのか?」

「……まあな。コイツだけは信頼出来るんだ」

「……そうなのか」

「……さて、なあ龍治。聞きたい事があるんだ」

「……なんだ?」

 佐久間は、コーヒーを淹れながらそう言い、龍治は疑問に思いながら返事をした。

「……龍治、もし僕が連続殺人犯だとしたら、君はどうする?」

「……は? お前、まさか……」

 ジェードは困惑をしながら返答をした。

「……過去を責めるつもりはないのだ」

 そう言って、龍治は佐久間からコーヒーを受け取った。

「……俺も似たようなものだ」

 龍治はポツリと呟いた。

「……そうか……」

 少し困惑しながらも落ち着くためにコーヒーを飲んだ。

「……すまない、佐久間」

「……あ、ごめん忘れてた。今カフェオレにするからちょっと待ってろ」

 ……龍治は甘党なのだ。甘党男子なのだ。コーヒーも飲めぬレベルでの甘党なのだ……。

「あははは……それでも飲もうとしたお前もお前だがな」

 そう言いながら笑っていた。

「そう言うなジェード……」

 龍治は笑いながら、カフェオレを受け取った。

「ハハハッ……すまん」

「ふー、ふー……あちち。……うまいな、また腕を上げたな佐久間」

「……おう、サンキュ」

「フッ……お前もお前でいい顔をするじゃないか」

「ふふッ」

 気兼ねなく笑い合える仲間、そんなものはないと思っていた佐久間の思考をこの二人は打ち破ってくれたのだ。

「お前とこうやって楽しく会話をするのは久々だな。楽しいな」

 そう言いながらコーヒーを飲み干した。

「俺もそう思うのだ」

 龍治もカフェオレを飲み干した。

「昔もよくこうやって話していたよな」

 過去を振り返りながらそう呟いた。

「ああ、懐かしいな」

 佐久間はそう言うと、麦茶を飲んだ。

「最近は新刊もよく売れてくれるようになった。印税も入ってるしな」

「そうか。それなら良かったな。俺、お前が書いた小説を全部買ってあるんだ」

「……ありがてえよ、ジェード」

「えっ、お前小説家だったのか……?」

「まぁな。これでもかってくらい闇を詰め込んだ文体がかなりファンを作ってくれてるらしい」

 もっとも、その主人公たちの闇というのが本人の実話だということはわからないだろうが……。

「まぁそういう内容も面白いからな。寝る前とかによく読んでいるんだ」

「……そうかい」

 ははは、と笑う佐久間。心の闇は未だ晴れぬが、過去を笑い飛ばせるくらいには快復したらしい。

 しかし……。

 

 そんな光も、閉ざされる。

「……大丈夫か?」

「……嫌な予感がするのだ」

 その予感は的中した。

 

「ギシャアアアアアオ!!」

 

 メカゴモラ。

 サロメ星人が作り上げた、ゴモラ型のロボットである。

 異変に気づいて慌てて外に出る。

「怪獣!? アレは……ロボか?」

「ま、まさか……! いかん、皆逃げるのだ!!」

「……ようやく、僕を殺しに来てくれたか」

「何を世迷言を言っている! さあ、早く逃げよう佐久間!!」

「……お前達は、先に行っていて欲しい。僕は、もう……」

「何をバカ言っている! 早く逃げるのだ!!」

「けど……」

「逃げるぞ! お前が死ぬ意味なんてないんだよ!! 逃げ道探しながら走るぞ!」

「……っ」

「俺はお前に死んでほしくねぇんだよ……!」

 ジェードは、そう言いながら佐久間の両肩を掴み、揺さぶった。

「と、とにかく。佐久間! 逃げよう、ほら!!」

「……龍治、お前足遅いってのに……お前が先に行けよ」

「いいや、お前が!!」

 そう言い合っているうちに、ロックオンされたようだ。

「……ッ、龍治! 狙われているぞ!」

「なんだと……!?」

 メカゴモラは、バルカン砲を放った。

「お前ら言いあってる場合かー!!」

 そう叫びながら2人を守るために魔法障壁を発動した。堅牢で、どんな技でも割れない結界のようだ。

「ナイスだ、ジェード!」

「とにかく逃げるぞ! お前ら逃げるぞ! 特に佐久間を守りながらな!」

 障壁で2人を守りながらそう言った。威力が強くなろうとも割れない。

 メカゴモラは業を煮やし、ビームバスターメガを放とうとした、次の瞬間。

「ハァッ!!」

 地獄の底の叫びのような声が響き渡り、メカゴモラは遥か2キロメートル先まで蹴り飛ばされた。

「あ、あれは!?」

 飛ばされた方向に目を向けた。

 アンバランスなカラーリングをしており、足の爪先も反るように尖っているその巨人は、拳を握り締めると、重ね合わせつつ伸ばし、必殺光線を照射。

 メカゴモラを破壊した。

「……なんだ……アレ?」

 ジェードはその巨人を見て、驚いていた。

「……ジュアッ」

 そう叫んで、黒い巨人は消えた。

「……なんだったんだ今の?」

 ジェードは、そう呟きながら障壁を消した。

「さぁ、どーだか……」

「ただ、巷をにぎわせている黒い巨人による自作自演の可能性も無きにしも非ずだからな……」

「……まぁ……とにかく。こっち側にはなにも問題はなかったから良かった。(アイツは……助けてくれたのか? いや……それはあり得ないか)」

「まあ、とにかく戻るのだ」

「そうだな……一度家に戻ろう」

 一同は、少し警戒をしながら家の中に入った。

 

「素直に言うと……俺は優作が『殺しにきた』という言葉に驚いた」

「……どういう事なのだ?」

「お前は……死にたいのか? 優作……そんなに精神が不安定なのか?」

「……死にたいのは確かさ」

 そう言うと、龍治達の方を向いて、口を開いた。

「……僕がここまで歪んだ理由、教えるよ」

「……教えてくれ。お前は……一体なにをしたんだ?」

「……ああ、全て話す」

 

 ……小一時間経った頃に、ようやく彼は話し終えた。

 ジェードは驚愕をしていたが、顔色からは困惑をしているようにみえる。

「……そう、だったのか」

 龍治はそう言うと、麦茶を飲み干した。

「……殺しとか闇の巨人……お前、なんで俺に言わなかったんだ?」

「……お前らには無縁であって欲しかったんだ。ケィアンという願望器が無くなった抜け殻の僕なんて、もう誰からも愛され───」

「大馬鹿者ッ!!」

 いきなり叫んだ龍治に驚いたジェードだが、龍治の言葉には共感していた。

「ここに居るさ、お前の友が……ッ」

 龍治はそう言うと、佐久間を抱き締めた。

「大切な友人を、失わせないでくれ……!!」

「そうだぞ優作! 俺とお前はお互いの道のために高校卒業した時に別れたけど、俺は今でもお前を信じているんだぞ! 俺とお前の昔からの仲だろ!? そんな仲を壊そうとしないでくれ……!」

「……でも」

「でももだってもあるか、お前は俺の大切な友人なんだ……!」

「これからはちゃんと俺たちに相談しろ! またその手を汚さないために! お前を許したヤツらもそう思って逮捕とかにしなかったんだろ……!? そうだろ!?」

 ジェードと龍治の叫びは、

「……」

 確かに(佐久間優作)の心に響いた。

「お前には俺たちがついているから大丈夫だ。俺はお前を許している。お前を許したヤツは……俺たち以外にいるんだろ?」

 俺たち以外というのはおそらく……例の彼女らのことだろう。

「……さあ、どうだか」

 途端に佐久間の顔が曇った。

「……とにかく、お前には俺たちが側についている。それだけは覚えておけよ?」

 そういいながら微笑んだ。

「……ああ」

 佐久間の目尻に、水滴が浮かんだ。

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