登場
「佐久間ー」
「ん、はいはい」
龍治は甘めのココアを貰いたい、そう思って佐久間に声をかけた。佐久間はそれを察し、さっと動いた。
「察しが良いな」
そう言いながら隣でコーヒーを飲んでいた。
「たりめーだろ」
そう言って、佐久間は麦茶を飲んだ。
「俺もコーヒー頼もうとして呼んだらすぐ察したような。なんか心を読まれているみたいだな」
ハハッとそう笑いながらそう言った。
「はは……心が読めたらなぁ」
「……いや、そんなこと……言わない方がいいぞ。心を読むのは良いことではない」
「……そうかい」
「…………こんな湿っぽい話はやめよう。なんか最近の出来事でも話さないか?」
「おっ、そうだな」
「近頃、怪獣がよく現れるよな。俺、昨日見てちょっと危なかったな……」
「まぁな」
「最近は怖いのだ……」
「まぁ、アイツ曰く、この街の各区域で起きているみたいだ。CETでも一苦労しているみたいだ」
真剣な眼差しで話しながらコーヒーを一口飲んで落ち着く。
「……そうなのだな。あ、佐久間」
「はいよ」
その阿吽の呼吸は、まるで長年連れ添った熟年夫婦のようである。
「……お前ら俺より付き合い長いのか? 一言言っただけで分かるとか……逆に驚くぞ」
「まぁな……」
どうやら、佐久間はもう人を辞めたらしい。
「……(言っていいのか悩むな。昨日、戦いが終えた時……あの黒い巨人のことを)」
「……はぁ」
「! ……どうした?」
「……そろそろ眠くなってきた」
そういったきり、佐久間は自分の寝床にぽふんと横になり、そのまま眠りについた。
「あ、寝たか……休ませておくか」
「……そうだな、いままでほぼ寝てないらしいのだ」
「少しは安心したのかどうか分からないが……大丈夫だろうな」
「……きっと、そうなのだ」
「……アイツの側にちゃんと俺がいれば優作は傷つかず、こんなことにならなかったのだろうか……」
「……遅かれ早かれ、歪んでいたと思うのだよ」
「……そうか。それでも、俺たちがいるのに……ちゃんと何かあったんなら教えてほしかったな……1人で抱くほどの悩みじゃないだろ。あのことは……」
「……本当にそうか? 愛する人から引き剥がされたのだぞ。その苦しみ……本当に、わかっているのか?」
「ッ……それは……」
カップを持った手が少し震え始めた。
「……俺も、同じ思いをしたのだよ。お前もそうだろう……?」
「……あぁ……アイツのことをちゃんと分かってやれなかったのは……後悔することだ」
「……ジェード」
そう言って、龍治はジェードの方を向いた。
「大丈夫だ。なんとか落ち着いているからな……」
そう言いながらコーヒーを一気に飲み干した。
「……俺も、弟や友と離れ離れになったのだよ」
「……そうなのか?」
「ああ……」
「……無理には言わないが……何かあったのか?」
「……」
龍治は何も言わなかった。
「…………すまん、言いたくないよな。わりぃ……」
そう言いながら立ち上がって空になったカップに新しいコーヒーを入れる。
「……気にしないで欲しいのだ」
龍治はそう言って、チョコレートドリンクを飲み干した。
「……分かった」
ジェードの返事を聞き、龍治は優しく頷いた。
気まずい空気となってしまい、新しくコーヒーを入れたものの、口にするのが難しくなってしまった。
龍治は、少し悲しげな顔をしていた。
「……これ、食うか?」
ジェードの手には甘くて美味しそうな包まれたチョコがあった。
「……ありがとう、貰うのだよ」
龍治はそれを受け取り、口の中に放り込んだ。
「甘いもん食べれば気分も落ち着くだろ? 甘いもんは美味いからな」
「至言だな」
「……そうかい」
そう言いながら少し笑った。
口腔内に広がる柔らかい甘み、それは龍治の味覚にピッタリであった。
「家にあったからせっかくだから持ってきたんだ。これ食いながらお茶にしようかなと……」
「嬉しいのだ」
「そうか、良かった。ちゃんと優作のも残しておけよ?」
……まあ、二人ともさらりと佐久間の部屋に居座っているが、実際このマンションは佐久間が大家なのだ。
佐久間がこっそり家賃の融通を利かせてくれているのである。
「優作にも世話になってるからな。ちゃんと残しておけよ? これ、めっちゃコーヒーにも合うんだぞ?」
「当たり前だ、あと俺は珈琲は好かんのだ……」
龍治は……子供舌と言えばいいのか、なんと言えばいいのか。兎に角甘い物が好物なのである。
「お前、ちょっと子供っぽいよな……」
少し鼻で笑いながらコーヒーを飲んだ。
「うるさいのだ……」
みるみるうちに龍治は不機嫌になった。
「悪かった、悪かったからそんな不機嫌にならないでくれ。俺もよくコーヒーは飲むが、甘いもんは好きだからな」
なんとか機嫌を直そうと少し焦っている。
「むぅ……」
龍治の頬が膨れた。
「……(やべ、ちょっと可愛いと思っちまった)」
本音が多少丸見えだが顔は真顔である。
「……さすがに今のは、イラッときたのだよ」
そう言って、龍治はさも当然のように佐久間の眠るベッドに腰かけた。
「本当に悪かったって……今度高級スイーツ奢るから許してくれ。それと……寝るのか?」
「……」
龍治は何も言わなかった。
「……何かは言ってくれよ……」
反省してます、という言葉が顔に出ているのは本当のことだ。分かりやすい顔をしている。
「……反省してるか?」
「してる……本当に悪かった。すみませんでした」
「ならいいのだ……」
そう言うと、龍治は緊張の糸が切れたようにぱたりとベッドに倒れ込んだ。
丁度佐久間と向き合う形で、眠りについてしまった。
「……(夫婦か?)」
ジェードは起こさないように2人を見ながら心の中でそう思いこんだ。
「くぅ……くぅ……」
佐久間は眠っていた。それは、壮絶な過去があったとは思えぬほど純新無垢な寝顔であった。
「……お前の寝顔は変わらないな」
高校時代に見たことがあるようだ。起こさないように小声でそう呟いた。
「(さて……俺1人になってしまった。どうするか……)」
ジェードは一人、そう考えていた。
その時である。
「ここって龍治サマが住んでるマンションよね……?」
「そうだよ(便乗)」
「こ↑こ↓で間違いないわ!」
女性の金切り声が聞こえたかと思えば、佐久間は龍治を起こさないように起き上がり、外に出た。
「誰だ……!? 誰かいるのか?」
その直後、一瞬
「……今のは……一体……」
焦った表情が出ながら周りを見渡す。
それから三分後、佐久間が戻ってきた。
身体には、
「!? ……優作? 身体に付いてるそれはなんだ?」
「うーん……少し
佐久間は悪びれずに言った。その目には、
「……説教? 誰にだ? 龍舞にか? ……(なんだ? あの光がない目……嫌な予感がする)」
「龍舞って……いや、なぁに。あの本当に鬱陶しいクソメ……じゃなくて、人様に迷惑をかける害悪ファンのあの三馬鹿にちょいとばかし
そう言って、佐久間は笑った。
「ッ……」
その佐久間を見て、少し驚いたが、落ち着いて冷静を取り戻した。
「そ、そうなのか……(俺がいない数秒で? さっきの声の人物らか? 何が起きたんだ?)」
「……つか、ここ僕の部屋なんだけど」
そう言うと、佐久間は服を脱いだ。
「ちょっとこの塵落としてくる。シャワー浴びてくるから……もしも眠いなら、龍治起こさないようにして布団敷いて寝てくれ」
佐久間は着替えをカゴに入れ、そしてシャワー室に入った。
「……(何が……起きたんだ?)」
ジェードは今の状況が理解できなく、混乱状態となっている。
シャワー室の中で、佐久間は笑っていた。
「……龍治、お前は僕が守るから。お前の害になるような奴は、みぃんな消してあげる。だから、ずぅーっと、僕の友達でいてくれないか? 長い長い夜がやってきて、星の明かりすら見えなくても、太陽のような君がそばにいてくれたら、僕は寒くない。だからそばにいておくれ、龍治……」
彼の瞳孔はハート型に変化し、その虹彩は普段の翠色から赤色に変貌していた。
「お前だけは僕が絶対に守る。どうか、僕と……ずぅーっと、添い遂げてくれないか……? 龍治……くくく……。邪魔をする奴は、排除してあげるよ。家賃も減額しておくよ。龍治、龍治龍治龍治龍治龍治龍治龍治龍治龍治龍治龍治龍治龍治龍治龍治龍治龍治……」
彼から、僅かにドス黒い何かが出てきた気がした。
「……ああ、僕の愛しい龍治。どうか、どうか幸せになってくれ……」
「!!? (なんだこの気配!? 背筋がゾワッとしたぞ!?)」
ジェードは、バッと勢いよくシャワー室に顔を向けた。何かを察知したようだが、あえて何も言わないでおくことにした。
何故なら気配を感じた瞬間、背筋に悪寒が通ったからだ。気を取り戻すようにコーヒーを飲み干した。
カラカラカラ、と音がした。
「はーさっぱりした」
佐久間はシャワー室から出てきた。
その上半身は僅かに湿り濡れており、引き締まっているその筋肉質な肉体には無数の傷が刻み込まれていた。
「あ、そ、そうか……良かったな」
椅子に座りながらコーヒーを飲み続けた。
「……どうした?」
佐久間はキョトンとしていた。
「あ、あー……ちょっと考えてことをしていただけだ。気にするな」
「ふーん……」
そう言うと佐久間は、ジェードの空になったコーヒーカップを取り上げると新しいコーヒーを淹れた。
「あ、すまん。ありがとうな」
「良いってことよ」
そう言って、佐久間はにこりと笑った。
「俺、お前が淹れてくれたコーヒー、気に入っているんだよな。苦味とかがちょうど良いんだよな」
笑みを見せながらそう言った。
「お、そうかい。嬉しいよ」
誰かの役に立てて、そういう彼の言葉には、説得力があった。
「そうだ、チョコ持ってきたんだ。食べるか?」
持ってきたチョコを手にして見せた。
「お、ありがと」
佐久間はこう見えて甘い物好きである。他人には見せにくいのだが。
「龍治が食べてたらすげぇ喜びながら食ってたんだ。だからお前にも合うはずだ」
「ふぅん……あ、うめえ」
「なら、良かった……♪」
嬉しそうな満面な微笑みを見せた。
「……ふふ」
佐久間が笑ったその時である。
「グジョルグギィイイイイ!!」
大きな声がした。
「……! あれはッ」
佐久間は黒いパーカーをはおり、外に出た。
「……! ゆ、優作……!」
跡を追うように外へ飛び出た。
「グジョルグギィイイイイ!!」
外へ出ると、ガルベロスが現れていた。
佐久間はそれを見て、ズボンから変身アイテムの【
「……憎着」
「!? ……(なんだ、アレは……)」
その佐久間を見て驚いたが、撃ち抜いた理由はすぐに分かった。
「ズィーッ、セェアッ!!」
愛憎戦士ケィアンが、そこに居たのだ。ガルベロスを前に立ちはだかったのだ!
「グジョルグギィイイイイ!!」
ガルベロスは鳴き声を上げながらケィアンに襲いかかった。
そしてジェードは下からその戦いを観ていた。
「(あれがケィアン……闇の巨人が……戦っている)」
「デェリャッ!」
ケィアンの鋭い回し蹴りが、ガルベロスの腹部に深深と突き刺さった。
ガルベロスは苦しそうな鳴き声を上げながらもケィアンに攻撃をした。
「グァッ」
その技はケィアンの腹部に突き刺さった。
ケィアンは硬直した。
「グジョルグギィイイイイ!!」
ガルベロスはそのチャンスを狙ったかのように攻撃しようとした。
「……ケィアン?」
ジェードは嫌な予感を察知して即座に堅牢の障壁魔法を発動した。
その瞬間、ケィアンは胴回し回転蹴りを放った。
ジェードは咄嗟に魔法を解除をした。そしてケィアンの攻撃がガルベロスに直撃してもがき始めた。
そして、ケィアンは力を貯め、愛憎の獄炎を放とうとした。
その時である。
「撃てェーっ!」
砲撃が、ケィアンを襲った。
「……!?」
ジェードは砲撃を放たれた方向へ身体ごと向けて目撃した。
それはCETの誇る大型機、ジェットホエールであった。
「……!? マジかよ……(慎太郎のところか!? いや……そんなはずないよな?)」
ジェードは状況に混乱しながらもケィアンを守るように障壁魔法を発動した。
ジェットホエールの砲撃は、確かにケィアンの背中を撃ち抜いていた。
「フゥオァ……ッ」
その直後、遅れて障壁魔法が発動された。
「ッ、ヘェア」
ケィアンは、ジェードの方を向き、軽く頷いた。
「……ケィアン」
心配な眼差しでケィアンを見つめた。
「グジョルグギィイイイイ!!」
ケィアンの後ろでは、ガルベロスが鳴き叫んでいた。
「ヘェアッ!」
ケィアンは漸く立ち上がり、ガルベロス向けて構えた。
「(なんでCETの奴らは攻撃するんだ……! ……誰か止めてくれ)」
ジェードは砲撃からケィアンを守るように障壁をドーム型にしてガルベロスとの戦い場にして守った。
「グジョルグギィイイイイ!!」
ガルベロスは先ほどの攻撃のせいか少しへばってるいようにみえるが、それでも目の前のケィアンを倒すために攻撃をし続けた。
「デェリャッ!」
ケィアンはそれを回避し、そして何発もの蹴りを放った。
ガルベロスは攻撃を優先したせいかほとんどの攻撃を受けてしまっている。
それが原因か、多少フラついていたが攻撃を続けた。
それを見逃すケィアンでは無い。
流石の戦闘経験だ、アクロバットを交えつつ交戦した。
「グジョルグギィイイイイ!!」
ガルベロスは直撃してしまい、うめき声のように叫んだ。
ケィアンは両腕をクロスさせ、横一文字に開き、体を捻ってから必殺光線の【絶望の光波】をガルベロスに照射した。
ガルベロスはその光線に直撃し、爆散した。
ケィアンはガルベロスの死を確認し、飛び去ろうとした。
その時、CETが砲撃をした。
「しまった……!」
ジェードの障壁魔法の高さには限界があったが、ギリギリまでケィアンを守る。
ケィアンの頭部に、怪獣すらも倒す威力のメーサー砲である【アバディウムメーサー】が直撃。
ケィアンはその場にうずくまり、そして光の粒子になって消滅した。
「ケィ……優作!!」
障壁魔法を解除して佐久間のところへ向かう。
どうやら、CETの機体はそのまま基地に帰投したようだ。
そして佐久間は、地面に伏せっていた。
「……龍、治……」
そう呟き、彼は気絶した。
「優作……!」
佐久間を見つけたジェードは担いで急いで佐久間の部屋まで運んだ。
「……」
佐久間は完全に気絶してしまっていた。
「……ダメか。心臓は動いてるから問題はないが。俺があの時、ちゃんと守っておけば……」
ジェードは佐久間を治療しながら後悔をしていた。
「っ、どうした」
龍治は既に起きており、どうやら嫌な予感を感じ取り救急箱を持ってきていたようだ。
佐久間の傷はそれほど深くはないが、しかし身体には裂傷があった。
「龍治……! ちょうど良かった。手伝ってくれ……!」
「……まさか、佐久間、佐久間ッ」
「……」
龍治の問いかけに佐久間は答えなかった。
「……ッ、佐久間ぁっ……」
龍治の目尻に、水滴が浮かんだ。
「安心しろ。気絶しているだけだ。治療してしばらくしたら起きると思う……。優作を信じて治療を手伝ってくれ。この傷も……治してみせる」
「っ、わかったのだ」
「悪りぃ……俺の、せいだ。俺があの瞬間、砲撃から守るように発動させておけば……」
ジェードの顔には酷く後悔をしている表情が見えた。
「……っ、くそっ」
龍治にも後悔の念が浮かんでいた。
「……今はコイツを助けることを優先するぞ」
「……ああ、分かったのだ」
十数分後、漸く佐久間は目を覚ました。
だがジェードは、部屋にいなかった。
「……ジェード?」
佐久間は訝しんだ。
ジェードは椅子に座りながらコーヒーを片手に1人でいたみたいだが、もうコーヒーは飲まず、何もせずに1人でいた。
表情は……酷く落ち込んでいるように見えた。
佐久間は、足を引き摺りながらジェードの所に向かおうとした。しかし。
「……佐久間、今はやめておくのだ」
龍治の真摯な願いは、どうやら佐久間に届いたようだ。
ジェードは佐久間が起きたことに気づいていない。
1人で何もせず、カップの中に残ったコーヒーを見つめていた。呆然と1人で……。
「……ッ、ごめんな、ごめんな……龍治……」
「いいのだ、お前は悪くない」
「お前を心配させて……ごめんな、龍治。本当にごめんな……ッ」
「……っ」
「っ、本当に……本当に、ごめんな……」
「佐久間……」
「このマンションも、ジェードも、龍治……お前も、僕が、僕が守るからな……ッ」
「……そこまで、思い詰めなくともいいのだよ、佐久間」
「……龍治、本当に、ごめん」
気付けば、外は今にも泣き出しそうな、ぐずついた天気であった。