ウルトラマンアバドン【完結】   作:りゅーど

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軍艦怪獣 ヤマトン
登場

ウルトラマンヴェラム
参戦


群青の戦士と赤い巨人

  勝ってくるぞと 勇ましく

  誓って故郷(くに)を 出たからは

  手柄立てずに 死なりょうか

  進軍喇叭(らっぱ) 聞くたびに

  瞼に浮かぶ 旗の波

 

 慎太郎は目を覚ました。今日は非番である。

 血の巡りを良くするために軽くストレッチ。そして軽くステップすると寝起きの珈琲を一杯飲む。あぁすっきりしたと目を瞬かせてキッチンへ。

「ツマはあるし汁もある。小鉢は量産済みだから……」

 そう言いながら慎太郎は網を持ち、水槽から鯛を取り出した。以前フキサが釣り上げたものを生かしておいたのだ。

 結構な大物である。しからば、と慎太郎は感覚を研ぎ澄ました。

 まずは包丁で〆ておく。そして、鱗を全て取る。意外と大きいので、既に使えなくなっている大根の頭でガリガリと飛ばしていく。

 エラごと内蔵を全て抜き、タワシで血合いを削り落とす。慎太郎は背鰭に沿わせ包丁を入れる。カリカリ、と刃先が背骨に当たる音はもう気が狂う程気持ちがいい。なお、一応言っておくが全て我流である。

 今度は腹部に刃を入れて、かりかりずぱーっ。しっぽの方を落として二枚卸しに。そして同じ手順でもう一度。

 鯛の三枚卸しだ。

 そして血合骨と腹骨をすく。頭や血合骨等はコンポストに入れてなんやかんやしたら肥料だ。

 あとは皮を引いて、柵取りすれば完成だ。

 柵にした鯛は全て刺身にする。薄く薄く切っていく。

 そうして盛り付ければ鯛のお刺身が出来たわけで。

「おっと忘れてた。煎り酒煎り酒っと」

 煎り酒を器に注ぐ。これは奏が慎太郎に作り方を教えてくれた物だ。なんでも江戸時代にはよく使われていたらしい。刺身には醤油もよく合うが煎り酒もよく合うのである。

「朝から鯛って、良いのか? ……ふっ」

 そう呟いた慎太郎であった。

 

 その日の朝はガレド星人たちはいなかった。なんでも小銭稼ぎしてくるとのこと。

 慎太郎は痩せの大食いだ。箸をつけるとしよう、とおもむろに一枚。

 ちょいちょい、と煎り酒に付けては、ひとくち。

 目を見開いた。

 酸味と塩味がまさに「いい塩梅」である。爽やかな味が刺身に適合し、旨い。さらに褒めるならば米によくあうことよ。米をかっくらえば旨味が倍増する。小鉢も、旨い。米に合うのがまた嬉しい事よ。刺身、米、小鉢、米、汁、米……と際限なく食える。慎太郎は一心不乱に食い続け、即座に飯は消滅した。

 奇しくも、釣り上げた場所は呉であった。それも鎮守府の跡地───

 

  土も草木も火と 燃える

  果てなき曠野(こうや) 踏み分けて

  進む日の丸 鉄兜

  馬の(たてがみ) なでながら

  明日の命を 誰か知る

 

 慎太郎は、まるで()()()()()()()()()()()()()()外に出た。慎太郎は既にバイクの免許を取っている。

 自分の愛車に跨ると、海へと向かった。

 バイク特有のエンジン音と風を切る感覚は非常に気持ちがいい。

「勝って来るぞと勇ましく……誓って故郷を出たからは……」

 慎太郎は、日本軍の軍歌である『露営の歌』を口ずさんだ。

 次第に潮の薫りがしてきた。海が近い事が嗅覚から感じられる。

 高揚する心と裏腹に、身体は震えていた。

 なんだろうか、嫌な予感がしたようだった。

 

  弾丸(たま)もタンクも 銃剣も

  しばし露営の 草枕

  夢に出てきた 父上に

  死んで還れと 励まされ

  覚めて(にら)むは 敵の空

 

 慎太郎は、バイクを停めるやいなや、勢いよく砂浜に降り立った。

 見渡す限り水平線。こんないい日には、と思いながらてくてくと歩く。

 ざふっ、ざふっ。

 砂を踏みしめた。

 先人はここで空手の稽古をしていたのか、と考えると少し胸が熱くなる。けして胸焼けではない。

 軽く回し蹴りをしてみた。

 そして背を向けた瞬間、海が僅かに盛り上がった。

「ッ!」

 慎太郎は後ろを向くと、目を丸くした。

 200メートルくらいの怪獣がいたのだ。

 奴の名はヤマトン。戦艦大和を複製し、そこに怪獣が住み着いた怪獣である。

 慎太郎は本部に通達した。

「こちら諸星。怪獣出現、至急出撃されたし」

 

C(CREATURE)E(EXTERMINATION)T(TEAM)にスクランブル要請、現場に急行せよ。CETにスクランブル要請、現場に急行せよ──』

 CET基地では、全員が構えていた。

 飛行メカニックの一つである空中空母『鳳翔』から二機の飛行機が躍り出た。二つとも銀と赤を主としている。

 小型機は「マッハストライカー」、大型機が「ジェットホエール」である。

 マッハストライカーに搭乗したのが基町と古橋だ。ジェットホエールには迫水と牧原、それに松本と宝星が乗っている。

 慎太郎は自分のバイクにアタッチメントパーツを附け、小型戦闘機として活用しているが、今回は非番だった。

 マッハストライカーがバルカン砲を放った。

 しかし、空中への備えがある。その結果、バルカン砲の弾は到達率は低かった。

 ジェットホエールが爆弾を落とした。

 ヤマトンにダメージが入る。その爆風に乗じ、慎太郎は変身し、宝星はバードンを召喚した。

 

  思えば今日の 戦いに

  (あけ)に染まって にっこりと

  笑って死んだ 戦友が

  天皇陛下万歳と

  残した声が 忘らりょか

 

 アバドンは構えた。その身体を同じくらいの大きさにして。

 バードンが空中から炎を降らせる。まるでそれは、焼夷弾のようだ。

 ヤマトンは怯んだ。そして無差別に砲を放った。

 迫り来る弾を弾き落とし、アバドンはヤマトンの頭を掴み膝蹴り。しかし硬さがあったためか、アバドンは膝を押えた。その隙に、ヤマトンがタックルをした。

 アバドンは飛ばされ、水中に沈む。

 水深が深く、どこまでも沈んでいく。死にたくはない。だが、浮いてくれない。

 アバドンは目を閉じた。

「見てられねぇよお前……」

 そんな声が聞こえた。

 松本は外に飛出た。その瞬間、松本は赤いベルトを装着。両側のボタンを両掌で押し込み、ウルトラマンヴェラムへと変身した。

 

【挿絵表示】

 

 

 その頃、アバドンは深海に落ちた。まだ生きているのは奇跡とも言える。死にたくない、そう思った瞬間、アバドンのカラータイマーが輝いた。

 アバドンの体が群青に染まり、頭部すら変形。

 アバドンは、グンジョウアクアの力を得た。

 

【挿絵表示】

 

 

 ヴェラムは構えた。

 口からペイル熱線を放ち、ヤマトンに牽制をした。

 赤い肉体から繰り出される重く素早い攻撃がヤマトンの体にダメージを与えた。

 膝蹴り、回し蹴り、肘打ち、頭突き。多様な技の雨である。

 ヤマトンも負けじと3基搭載された45口径46cm3連装砲を撃つ。

「ぐっ……!」

 ヴェラムは少し下がった。調子付いたヤマトンの背にバードンの火球が当たり、ヤマトンはそちらに意識が向いた。その瞬間を見逃すヴェラムではない。ヴェラムはヤマトンをいとも簡単にひっくり返し、直後にドロップキックをぶちかましてやった。

 ヤマトンは怯み、その直後ヤマトンが撃たれた。

 アバドン グンジョウアクアが超高圧水流を放ったのだ。

 ヴェラムが殴り、アバドンが撃ち、ラピスが操るバードンが燃やす。

 そのうち温度差が激しくなっていき、ヤマトンの体が脆くなる。

 そして、ヴェラムのカカト落としが炸裂した瞬間、ヤマトンの装甲が砕け散った。

「ゲァァア!?」

 脆性破壊である。

 バードンはボルヤニックファイヤを撃った。

 ヴェラムは、その右脚にエネルギーを溜め、空中に飛び上がり、ライダーキックの要領で「ヴェラミックキック」を浴びせた。

 そしてアバドンは、右手を掲げ、円を描くように動かし、そのまま振り下ろして「コンペキスマッシュ」を放った。

 ヤマトンは爆発四散した。

 バードンはバトルナイザーへと戻る。そしてアバドンは、ヴェラムの手を握ったのだった。

 

  戦争(いくさ)する身は かねてから

  捨てる覚悟で いるものを

  鳴いてくれるな 草の虫

  東洋平和の ためならば

  なんの命が 惜しかろう




一部、露営の歌より引用しております。
ご意見ご要望など宜しくお願い申し上げます。

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