ウルトラマンアバドン【完結】   作:りゅーど

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殺戮宇宙人 ヒュプナス
闇の獣
イマージュリフレクト星人
登場


BLOOD TIME

 雷鳴轟く裏路地に、ぴちゃぴちゃ音を鳴らしながら逃げ惑う男が二人。ジュラルミンケースを互いに持っていた。

 それを追いかける赤いレインコートの人型の物体が、三体。

 男たちはずぶ濡れになりつつも逃げ惑う。

 レインコートたちは三又にわかれ追いかける。

 ひとりの男は鉄パイプを振りかぶり……

 呆気なく、その四肢を切り裂かれ死亡した。

 ひとりは行き止まりに追い詰められ、歯をガチガチとならせながら恐怖心に脅え、呆気なく死んだ。

 そして、ひとりは腹部を殴られ蹴られ、顔面を爪で切り裂かれ、そして内臓を引きずり出されて死んだ。

 ざんざかと降り注ぐ大雨である。

 アスファルトに出来た水溜まりの中に赤い水彩が、どろり。

 眼窩からは眼球が飛び出、手には明らかに危ないクスリと銃の入ったジュラルミンケース。ヤクの売人だ。

 

「生命活動停止を確認」

「任務完了だ、帰還するぞ」

「はい」

 

 レインコートの二人組は、瞬く間に消え失せた。

 

 翌日。

 そんな事は露知らずこちらはアバドン、いや諸星慎太郎の家。

 こっちも、血で染っていた。主にキッチンが。

「ゲェーッハッハッハッハッハ!! 食材どもよ、俺の調理で美味しくなるがよい!!」

「血抜き鱗取り三枚おろし腹骨すき中骨取り皮引き柵取りああああああああああああああああああああ!!」

 ミュローの誕生日を祝い、慎太郎は腕によりをかけて料理を作っている。ザックも傷が完治し、調理に参加しているらしい。

 目出度い、という事で食材は『鯛』を選択。

 またミュローのリクエストで鯨肉もふんだんに使用するとのこと。

 慎太郎は鯨肉の美味さがわかる。獣臭いだの言われているが、うまいものはうまい! そう叫びたかった。

 ただ、この料理風景は、まさに『隻眼の魔王』である。

 ゲェーッハッハッハッハッハ!! と気味の悪い笑い声を上げ、2kgの鯨肉を手早く調理していく。しかも正確に。

 ザックもザックで作業工程を言いながら「ああああああああああ!」と絶叫しながら鯛をさばいているからタチが悪い。

 傍から見たら確実にキチガイ扱いされる。

 もちろん他のガレド星人達も参加しているのだが、若干冷めた目であった。

 

「ハッピーバースデー!」

 クラッカーがパパン、パン。

 照れ臭そうに笑うミュローを見て笑顔になるガレド星人たち。

 慎太郎は目を逸らす。どこかのスカーフ男(スゴイ ジダイ ミライ)のように「祝え!」とは叫ぶ気は無いが、なんだか嬉しげだ。

 まァ、初めてできた友達だし仕方ない。そう考える事にした。

 その日はみな、心から笑顔になったと言う。

 

 翌日。

 慎太郎は基地に着く。宝星がいた。

「おー、おはよう!」

「はよっす」

 それだけ。そのあとは慎太郎のデスクに座り、そこで気づく。

 机の上に、武器がある。

 手に取ってみた。

 不思議と、慎太郎の手に馴染んでいた。

「あー、これね。技術班がアバディウム使ってようやく出来たらしいよ!」

「うちの優秀な技術班が俺のアバディウムを解析したからな。提供してよかった」

 そう。

 このチーム、CETは宇宙人も多数所属している。

 優秀な技術班のうち、解析特化のエキスパートが慎太郎のアバディウム光線を解析、研究している。

 アバディウム、それはアバドンのみが放てる特殊な元素。融点が114514度、沸点が364364度。

 アバドンの放つアバディウム光線が85万度のため、ゆうに沸点を越えているわけで。

 その熱量はえげつない。

 それを武器にし、さらに航空機の武装にするには四徹したとのこと。お疲れさんです、と心の中で呟いた。

 どうやら、その方々に合った武器らしい。宝星は脇差しとカードと南部大型自動拳銃、諸星は九四式拳銃と大太刀である。

「おはよう」

 松本が到着。どうやら松本はナイフとFN ブローニングM1910、そしてタロットカードらしい。

「多分これ、戦闘用の武器とイマージュ召喚用だね」

 松本が言った。

 ウルトラの国では数少ないイマージュ使い。だが、この世界では使い手は多いらしい。

 アバドンもイマージュ使いである。ラピスのカードはおそらくバトルナイザーに読み込ませるためだ。ヴェラムはイマージュ使いの中でも更に少ない、イマージュを多数操れる『ザ・ジョーカーズ・ワイルド』である。それらは現在も使えるらしい。諸星は、今度イマージュを使って戦おうと思った。

 

『CETにスクランブル要請、現場に急行せよ』

 アバディウムを詰めた新兵器とともに出動である。

 今回の敵は赤いコートの殺人鬼たち。巷を賑わす殺し屋だ。

 ただ、どうも狙われているのはヤクの売人だったり、カルト宗教だったりと悪の団体のみだ。

「隊長、これ捕縛した方がいいんすかね?」

「現場で判断して欲しいかな」

 今回の現場は極真空手の道場のひとつ、新極道場。強いと有名だが、その傲岸不遜な態度と、敗者を口撃する様から一部からは悪と見なされていた。

 また、高校生のエースである佐野正平という選手は、確かに実力自体は強いが空手道精神は備わっていないとも噂されている。

 なお、新極真会さんとは関係はない。作者の友達が新極真会の選手にいじめられていたが。

 

「ひっ、来るな! 来るなぁっ!」

 間桐という師範が追い詰められた。得意の技も効かず、新極道場の名折れ、と理性は思いつつ、本能は生存を求めた。

「悪党は殺す。すでに各支部の生徒は殺害済み。あとはこの道場のみだ」

「も、目的はなんだ! 金か!? クスリか!?」

「どっちでもない。我々はただ依頼されている」

「ひっ、ひぃいい!! 厭ぁぁあっ!」

 腹部への正拳突きが光る。

 いつもなら、これでプロを何人も吹き飛ばしているが、赤いコートの殺人鬼のうち、最も背が高いものには効かなかった。

「いい腹パンだ、戦闘向きだな、だが無意味だ」

 顔面を引っ掴み、ぐしゃりと握り潰す。脳漿が飛び散り、道場が血で汚れる。その時点で死んでいるにもかかわらず、身体を爪で切り刻んだ。

 一方、佐野正平は赤いコートの殺人鬼のうち、一人の顔を見て余裕そうに笑った。

「誰かと思えば、あの時のてめえか」

「やってみろよ、屋根裏部屋に住むゴミクズが」

「サンドバッグがえらい口聞いてんじゃねぇよ!!」

「黙れ、発達障害」

 即座に右目を潰す。それから、佐野正平の顔面を容赦なくぶん殴る。

 更にはラッシュ。試合では負けたが、殺し合いにおいては赤いコートの彼が有利だった。

「サンドバッグはてめえの方だったな、佐野正平!」

「ひっ」

「空手道精神なんてハナっから存在しない喧嘩野郎が! てめぇは空手家じゃねえ、喧嘩師だ! 空手辞めろ!」

「日本が素晴らしいって信じるお前の方が気狂いだろうが!」

「愛国心はねぇのかよお前は! 日本人として愛国心は居るだろうが! だから三流止まりなんだよ屋根裏部屋のゴミが!!」

 佐野正平は確かに強い。

 だが、それは実力のみ。心は他者を見下し、誹謗中傷を平気でする悪党なのだ。

 それは新極道場もそうである。

 敗者をいたぶり、罵る。同じ空手の同業者からも嫌われる始末である。

 既に佐野正平を除いた生徒、師範が死亡していた。

 新極道場の生徒は佐野正平しか居なくなり、その佐野正平はどこかからか出したナイフを構えている。そして、ナイフを三人のレインコートにぶん投げたのである。

 青年たちは、青い血を流した。

「は、はは! ざまぁみろ! お前ら如きが、勝てるはずがないの……に」

『オマエラ如キガ、ナンダッテ?』

「え……」

『本当ニ貴様ハ、紛ウコトナキ人間ノ屑ダナ』

 赤いコートを脱ぎ捨て、先程から佐野正平を殴り続けた男が本性を晒す。

 殺戮宇宙人 ヒュプナス。

 しかもそれが三名。

『ヨウコソ、煉獄ヘトオイデクダサイマシタ! 申シ訳ゴザイマセン、地獄ヘノ片道切符デ』

 先程から無差別に腹パンで内蔵をえぐり出している個体が叫んだ。

『アハ、ハハハ!! 私、君ガ嫌イナノ! 強イト思イ込ンデイル馬鹿ガ、イッチバン嫌イナノ!!』

 女性的な声を持つ、蹴りの得意な個体はそう嗤った。

「ひい……」

『サァテ、佐野正平。地獄デ燃エル覚悟ハイイカ?』

 高校生らしい声の個体が、佐野正平を圧倒する。

 試合ではこの個体が負けた。しかし、事殺し合いにおいては別である。

 なん本もの骨が折れ、佐野正平は痛みに踞る。

 そのヒュプナスは無慈悲に近寄り、幾度となく踏み付ける。

「試合じゃねえ。ロボでも、ましてやAIでもねぇ。幻影じゃないぜ。貴様の前にいるのが証明だ」

 態と顔を戻す。無論体はそのままだ。

「俺なりの正義、力が合わさってく。予告状は送った」

 肋骨を丁寧にへし折る。

「この力でお前を殺す。止めれるもんなら止めてみろ」

 佐野正平の関節が折れてはならない方向へと折れた。

「常識内にはいねぇ。粛正を始めよう。間違いは壊せ! 人生変えるため」

 膝蹴りで睾丸を潰すとともに、爪で目を抉り出す。

「叛逆の意志が鳴る。仮面なんざ剥いだ。もがいてやっとわかったんだ、人生は変わるってな……もっとも、てめえの人生は終わるけども」

 そして、佐野正平の身体を爪で切裂き、殺害した。

「ふー……っ、アは、あァアアっハはハハはハハ!!!』

 哄笑。

『トコロデサァ、相談ガアルンダケド……』

 ごにょごにょ……

『……後悔ハナイノカ?』

『モウナイネ。俺ハココデ果テタイ。アバドンノ手で、ネ』

「突入ッ!」

 同時に迫水が突入命令を下す。

 丁度、佐野正平が死んだ瞬間である。

「う、なん、こ、れ……うぷ……」

 死屍累々の状況に、牧原はえずいた。

「止まれ!」

『アア、CETサン。ココカラ離レタホウガイイヨ』

「黙れ! 貴様らが殺したことはわかっている!」

『ンニャ、怪物ガ来ルヨ?』

「話を聞け!」

 威嚇射撃をする。それでもヒュプナスは飄々としていた。

『ダカラ、怪物ガ来ルカラ、ソッチニ向カッテ、ッテ事』

 そのうえで、そこのメカクレの青年は置いてってね、と告げた。

 慎太郎は、意図を汲み取り軽く頷くと、あとは任せましたと言って武装したままヒュプナスの群れに吶喊した。

 

 慎太郎を除いたCETメンバーは、ジェットホエールに搭乗。その瞬間、街が燃え盛る。

 闇の獣である。

 ジェットホエールから新兵器のアバディウムミサイルが撃たれ、いつの間にか宝星はバードンを呼び出している。

 ボルヤニックファイヤが闇の獣を焼き払い、アバディウムミサイルが穿った。

 

 一方慎太郎は、ヒュプナスと対話をしていた。

「何故人を殺す?」

『依頼ダカラ』

「そこに私情はあるのか?」

『俺タチハタダタダ依頼ヲ遂行スルノミ、私情ナド挟マナイ』

「……わかった。とりあえず、殺すのはさすがに色々と不味いんで、CETで働いてくれ」

『ソウカ』

「ただし!」

 慎太郎はヒュプナスの襟首を掴み、

「許可なしに殺してみろ。てめえらの母星を滅ぼしてやる」

 と恫喝した。

「ところで、なぜ分かったんだ? 怪獣がいると」

『アイツハ人ノ暗黒面ヲ糧トスル。ソノ元凶ガコノ道場ダ』

「暗黒面だと?」

 ぴく、とした。自分の兄を言われているようで、どす黒いコールタールのような感情が湧いた。気づけば、アバディウムの篭った大太刀を抜き払い、ひとりのヒュプナスに斬りかかっていた。

『……ダロウネ。アイツヲ殺シタノハ俺ノ私怨カラダシ、何モ全滅サセル必要ナんテなかった……』

 青い血が流れる。二人のヒュプナスを見る。どうやら打ち合わせ済だったらしく、ヒュプナス達は仇討ちをしない。

『あガタと、ハスミを宜しく、ね……』

「……」

 慎太郎は目を見開き、そのまま動かなかった。

『……アレハ、モウ最初カラキメテイタ。任務ニ反シタ罰トシテ、ドッチミチ死ぬ予定ダッタワケダ…………だけど』

 そういうと、ヒュプナス……アガタは一筋の涙を流した。

『悲しいや』

 二人のヒュプナスから、エコーが……心の仮面が消えた。

 慎太郎は、呆然としていた。

 放浪していた時と何も変わっていない自分が憎かった。

 心に暗い影を落としていく……

 だが、慎太郎は空元気を作り出し、

「あの闇は殺す。……弔ってやってくれ」

 そう言い残すとウルトラマンアバドンに変身した。

 

 既に闇の獣とヴェラムは交戦していた。膝蹴り、回し蹴りなどのスピーディなキックが闇の獣を襲う。しかし闇の獣もしっぽを振り、ヴェラムをぶっ飛ばした。

 その直後、闇の獣はふきとんだ。

 前蹴り一閃、アバドンである。

 バードンは炎を纏い突進し、バトルナイザーに強制送還。スマートフォンを認証させ、ラピスも舞い降りる。

 アバドンは怒りに任せた戦いに興ずる。

 急所を的確に狙い、殺しにかかる。

 ラピスも非力ながら念力を浴びせ、額に手を組み『アストロビーム』を照射。

 闇の獣にダメージを与えた。

 ヴェラムは蹴り、そしてタックル。そのまま押し倒すや否や殴りつける。

 闇の獣は闇の焔を吐き出した。だが……

「『イマージュ』! リフレクト星人! 【マカラカーン】!」

 ヴェラムがイマージュを発動。イマージュリフレクト星人のスキル、【マカラカーン】がそのまま弾き返した。そこに追撃するCET。

 アバディウムミサイルと、レーザー砲を全弾ぶちかました。

 闇の獣は頭を振り、耐える。その一瞬をついて、三人は光線を照射した。

 

 慎太郎は、昨日殺してしまったヒュプナスの事を気に病んでいた。

 その日は、一切なにも食べたくなかった。

 その翌日も、そのさらに翌日も、何も口にすることは無かった。

 

「俺は、隻眼の魔王だ……誰かに死をもたらす、悪魔だ」

 慎太郎は、深く闇に落ちていき始める。




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