24歳独身女騎士副隊長。   作:西次

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 年齢をタイトルにしている作品にとって、年月の経過をどう表現するかは悩みどころだったりするのですが。

 原作二巻巻末のオマケを見て、『ヨシ! 解決したな!』と思いました。

 なので、今後はモリーの年齢については作中で言及しません。タイトルも変わりません。
 ご理解いただけると、幸いです。



地方勢力はめんどくさいってお話

 今後の予想できる敵方の動きとか、こちらの対応策については、オサナ王子はもとより護衛隊の皆も交えて話を通す必要があった。

 ぶっちゃけ、護衛隊への負担は半端ないものになるんで、ここで仕事だけを押し付けるような真似はしたくないんですね。

 だから私の方から促そうかと思ってたんだけど、幸いにもオサナ王子は自分で気づいて発言してくれました。

 

「このオサナの名において、皆の功績を粗略に扱うことはない、と明言する。今すぐに報いることは出来ずとも、確実にシルビア王女に伝えることは確約しよう。――かのお方であれば、今回の危機を乗り越えた功績について、決して無下にはなさらぬ」

 

 こうやって、立場のある人が報酬を保証するっていうのが、突発的な仕事を頼むときには重要だったりする。

 そういうわけで、色々話して計画したり覚悟を決めたりと、あれこれと事前にできる準備はやりました。地方貴族の領にたどり着いたら……後は、その時が来るのを待つだけだね。

 

 

 それから事態が動くのは、案外早かった。地方貴族の領地内では、そこまで怪しい動きは感じられなかったが、祭事の当日ともなれば一気に周辺が騒がしくなる。

 事を起こすとするなら、この手の忙しい頃合いに起こすのが常道というものだろう。ゆえに私はもとより、オサナ王子も護衛隊も警戒は怠らなかった。事前に防ぐことを選ばなかったのだから、せめて初動の遅れだけは防ぎたいというのが本音だった。

 

 ……果たして、その時はやってくる。祭事が進み、狩猟の後、焼き畑への作業に移る際。そこで不穏に動く影を感じ取った私は、護衛隊よりも早くに行動する。これはもうほぼ反射的な反応と言うべきもので、私自身も身体を動かしている自覚すらなかった。

 

「そこまで」

 

 焼き畑の班から、今にも王子の方へと飛び出そうとしていた刺客を叩き伏せ、地べたを舐めさせる。

 実行直前から、刺客の不穏な動きは多くの人の目に触れている。私が拘束するところを見ても、誰も不自然には思うまい。これは事前活動が実った結果とも言えるので、まんまとハマってくれた犯人には感謝すら覚えている。

 この手の輩が成功しようと失敗しようと、あちらの計画は進む。感情の処理に困る味方なんて、居るだけ邪魔だからね。鉄砲玉にでも使ってやるだけ、連中は情け深いとさえいえるかもしれない。

 とはいえ、こちらが手段を選ばずに動く名分として、この蛮行は充分な理由になるだろう。――なんて、そんな余計なことを考える余裕すら、私にはあった。

 

「オサナ王子、刺客を捕まえました。彼は明らかに、貴方に対して害意を抱いています。即刻、処断するのがよろしいでしょう」

 

 これは、相手から言葉を引き出すためのポーズである。実際、この場で首切りとかやりたくないからね。

 ありきたりのポーズでも、刺客は危機感を感じて、色々と漏らしてくれるかもしれない。

 これまた私の個人的な期待だから、応えてくれなくてもいいよ。貴方がこの場で口に出さなくても、後で勝手に出したことにすればいいんだからね。

 

「クロノワークの犬め! ソクオチは貴様らを許さぬ! オサナ王子とて、それは同じのはずだ!」

 

 尋問するまでもなく都合のいい発言をしてくれるだなんて、刺客殿はどこまでもご立派なお方だ。

 せっかくだから、もっと吠えてくれたまえよ。貴方が失言をすればするだけ、こちらは優位に立てるのだから。

 

「では、なぜ王子の前に飛び出した。人質にして、この場から連れ去ろうとしたのではないか」

「そうだとして、何が悪い! 説得する時間が惜しいゆえ、致し方ない行為だ! 貴様らは貴様らの都合で、オサナ王子を利用している。これを救出するのに、王子自身に協力願おうとしただけだ」

 

 馬鹿を引きずり出して、愉快な発言を吐き出させるのは、まったくもって楽な作業だった。

 オサナ王子の表情が曇っても、刺客の男はそれを知覚できなかったらしい。私でさえ、明らかに沈んでいる表情が確認できると言うのに、彼はさらに不穏な言葉を続けてくれる。

 

「そもそも前王が戦いのさなかで横死したのは、貴様らが暗殺したからではないのか! そんな殺人者の群れの中に、大切な王子を置いてはおけぬ! その危険を思えば、我が行為はむしろ義挙と言うべきだ!」

 

 シルビア王女がどんなに陰謀の手を伸ばしていたとしても、流石にそこまでは届いてないと思うんだよね。これはひどい邪推であり、そちらの被害妄想と言うべきだ。

 しかしこいつ、鉄砲玉にしては言い回しが古風だな。これで案外、良い所のおぼっちゃんかもしれない。適当な処断で終わらせるより、ある程度は生かして使うことを考えてもいいね。

 

「偏見に満ちた濡れ衣をかぶせに来るとは、流石に不穏分子は言うことが違いますね。――ソクオチの前王は、病死なされたのです。おそらくは、日々の心労に体が耐えきれなかったのでしょう。心中お察しいたしますが、我が国とは関係のないことであると申し上げておきますよ」

 

 まあまあ、この手の過激派が宣うことなど、おおよそ身勝手な偏見に満ちてるものだよ。

 とりあえず適当なことを言って、こちらを非難して、自分たちは悪くないって主張したいだけだ。

 こちらはこちらで、理路整然と論理の穴を突けばよい。それだけで、オサナ王子は私を支持してくれる。

 

「そもそも、この祭事で騒ぎを起こすことが、ソクオチにとってどれだけの損失を招くか、考えたこともないのですか? オサナ王子が、祭事にどれだけの価値を見出していたか。――貴方には、それすらもわからないのですか?」

「シルビア王女の肝いりで始めた政治ショーに、どれだけの価値があるという!」

 

 そうやって単純に怒りを示して、個人的な感情に終始しているから見放されるんだって、わかんないのかな。

 ありていに言って、感情的になり過ぎて、目が曇っている。この感情の激しさは、生来のものか、教育の結果としてあるものか? いずれにせよ、それが刺客としての行動に表れるほど、彼から冷静さを失わせている。

 

「それが、貴方の答えですか。それだけしか、言えないのですか?」

「我々は圧政に抵抗する! ソクオチの遺臣、忠臣として、他の答えなど必要ない!」

「……なるほど。貴方がそういうのであれば、それでいいのでしょう。貴方の心の中ではね」

 

 過程がどうあれ、動機がどうあれ、オサナ王子は実利を評価する方だ。どのような形でも、ソクオチへの貢献が認められるなら、あの子は受け入れる。

 そこに理解を示さない時点で――こいつの忠誠心など、たかが知れていようぞ。

 

「あえて指摘しますが、政治ショーだから価値があるのですよ? これが首尾よく、最後まで平穏に実行されたのであれば、それこそソクオチが問題なく国体を維持できる証明になったでしょう。貴方の軽率な行動が、それを台無しにしたのだと。せめて、罪の意識くらいは感じませんか?」

「戯れ言を――」

「ああ、はい。もう結構ですよ。ええ、ええ」

 

 言質さえ取れればそれでいい。自称ソクオチの忠臣殿が、いかに愚かな人間であるか。これを周知できたなら、もう充分だ。

 オサナ王子は、この馬鹿の発言を最後まで聞き続けてくれた。結果として、刺客の言葉を地方貴族の意思と捉えてくれるだろう。

 

「オサナ王子、聞いた通りです。……ただの刺客でさえ、ここまで頑なな態度を取る。地方貴族は、貴方を利用して、己の都合を押し付けようとしている。きっと、その為にどれだけの人が被害を受けようとかまわないのでしょう。もしかしたら、ソクオチという国家を維持する気持ちすら、持っていないかもしれません」

「そこまでひどいとは、信じたくない。――いや、何を信ずるべきかは、勝った後に考えるべきだとも思う。だから、今はとにかくこの場を切り抜けよう」

 

 劇的な状況下で、劇的なセリフを引き出す。これだけ環境を整えたら、どんな子供でも腹をくくる。オサナ王子が戦う気概さえ持ち続けてくれたなら、この戦いに負けはないのだ。

 

「見事なお覚悟です。ソクオチは今回の件で、さらに評判が落ちるでしょうが――オサナ王子が毅然とした態度を貫かれるなら、希望が残ります」

「前王の遺臣は馬鹿ばかりだが、次代の王は立派である、と。そう思ってくれるよう、僕は自らの立ち回りを考えねばならない。……そうだな?」

「はい。でなければ、ソクオチは上から下まで愚かで軟弱な者たちであると、諸外国から失笑を買いましょう。もちろん、クロノワークやゼニアルゼも同様に」

「そうはさせん。……僕が立たねば、誰もソクオチの国体に価値を認めてくれなくなる。だから、僕はここで戦わねばならないんだ」

 

 いい流れが来ている、と思う。刺客を適当にあしらいつつ、護衛隊に一時預けて、周辺の警戒を任せる。刺客の成果に関わらず、襲撃部隊はすぐにでもやってくるだろう。

 捕まえた刺客の扱いは考えねばならない。首都に護送して、きちんと背後関係を調査し、裁判にかけて判断を下す――なんて。

 そんな真っ当な扱いは、流石にしてあげられない。可能な限り恣意的な扱いをして、役に立っていただくとしよう。

 

「オサナ王子、捕らえた刺客はこちらで活用したいので、少し時間をいただけませんか?」

「今は忙しいだろ? とりあえず、拘束だけしておけばいいんじゃないのか」

 

 それは確かにそうなんだけど、忠義面した馬鹿って、無駄に口が堅いからね。痛み苦しみでは口を割らない可能性がある。時間を掛ければいいってもんじゃないんだ、これは。

 だから捕縛した直後、彼自身が興奮状態にある今であればこそ、意図せずにこぼしてしまう言葉もあると私は見る。

 

「まあ、お任せを。それより、護衛隊に防備を固めさせてください。簡易にでも陣地を作って、防衛の構えを取るようにと。事前に話し合った通りに、人員と陣形をそろえさせればいいでしょう」

「――うむ。皆にはそう伝えよう。だが、刺客の方はどうにかなるのか?」

「尋問の小道具は揃えてきましたので、数分くだされば充分ですよ。では、そのように」

 

 いかにして男から情報を引き出すか、引き出したか。その為の小道具と手段を並べて実行するのに、時間はさほど掛からなかった。

 語るまでもなく、私にとってはひどく退屈な仕事だったが、結果だけを述べるならば――必要なことは聞き出したと言える。たった一つの事柄を聞き出せたなら、もう用はない。

 そもそも刺客の男は下位の騎士であり、そこまで多くの情報は持っていなかった。施された教育も上辺だけの薄っぺらいもので、ここで失敗して死ぬことすら計算に入れられていると、すぐにわかった。

 ただ、生まれの不憫さだけは同情するよ。――この時代、弱い人間に世間はやさしくない。どうにもならぬことだと、哀れに思う。

 

 十数分ばかりで尋問を終えると、オサナ王子の元へと戻る。

 予想していた通りの凶報が入ったのは、私と彼が顔を合わせるのと、ほぼ同時期だった。

 

「――モリー先生、悪い報告が入ったところだが、聞いてくれるか」

「前にも言いましたが、人の目があるところで先生呼びはしないでくださいよ」

「この祭場は囲まれている。おとなしく僕の身柄を渡すならば、その他全員の安全な脱出は保証すると言うことだ。……祭事の最中に軍事行動とか、奴らは本気で、今のソクオチがどうなってもいいらしい」

「正当性は我にあり、ですか。我々の安全など、本気で守るかどうか疑問ですね」

 

 まあ、ここが虎口であることは、初めから分かっていた。飛び込んだのは、相手の行動を誘うためでもあったし、刺客も襲撃も覚悟はしていたことだ。

 

「それで、あの刺客から何か聞き出せたのか?」

「はい。――彼の『身元保証人』は、地方貴族です。正確に身分を言うなら、私兵ではなく下級官吏に過ぎませんが、妾腹の息子だそうで」

 

 都合のいい存在が、良い所で転がり込んで来てくれた、と思う。

 別段、そこらの木っ端でも問題はなかったんだけどね。証拠なんて捏造すればいいんだし。でも、偽物よりは本物を使う方が、リスクはより小さくなる。

 

「……地方貴族の、妾腹の息子。下級官吏でくすぶっている内に、歪んだ感情を持て余したか?」

 

 この状況で刺客なんて飛んで来たら、普通は有無を言わさず殺害する。私がいたから、そうはならなかったが。

 普通は、刺客の身元なんてすぐには割れない。時間を与えるつもりも、相手にはないだろう。だから、この時点で看破されたことは、あちらにとっても計算外のはずだ。

 今、この場でそれが優位に働くことはあるまいが、後々効いてくる。その時には、地方貴族には己のうかつさを後悔してもらおう。

 

「苦痛に強い相手でも、やりようはあるということで。言い訳する理由を与えて、尚且つプライドの源泉を刺激すれば、結構ポロっと漏らすことがあります。あの手の感情のコントロールが聞かない馬鹿は、余計に」

 

 本来ならば、地方貴族にとっても私兵にとっても、あの刺客は失って惜しくないカードだ。開戦の景気づけに、思い切って使う気になったのだろう。当人も志願したと言っていたから、成功報酬に何をねだったやら。

 詳細まで聞く気はなかったし、興味もない。重要なのは、戦後に地方貴族を追求する要素を増やせたこと。彼が言い逃れる余地を、一片でも少なくすることだ。

 この場を切り抜けたら、刺客殿には役に立ってもらう。首だけ引っこ抜いて活用するか、その下の身体まで必要になるかどうかは、状況次第だ。

 

「ともあれ、ここからは、いささか以上に派手に立ち回ることになります。よろしいですね?」

「否とは言うまい。――人死には、なるべく避けたいが」

 

 事ここに至った今、手段を躊躇う理由もない。――私と言う武力を用いることも、オサナ王子は容認するだろう。

 そして、おそらくはあらゆる謀を許してくれる。筆記用具と書簡を背嚢に詰めて持ち出すことも、許可をいただけた。

 ……文書の偽造とか、平時であれば結構な罪になるのだけど。これは戦だし、相手は地方貴族の私兵だからね。そして、戦とは騙し合いが基本だ。

 情報に優越することが、全てに優越することにつながる。私は、それを忠実に実行するつもりだった。

 

「そうですね。私も、なるべく殺したくはありません。今大事なのは生き残ることであって、敵を殺害することではありませんから」

 

 本心だった。暴力は、手段の一つに過ぎない。全てを殺して回るなど、労力がかかるばかりで効率を無視している。大事なのは生き残ること、そして勝つことだった。

 防衛陣地の選定は済ませてある。オサナ王子はそちらに向かってもらい、こちらはこちらで動くことにしよう。

 

「幸いにというべきか、ここは山地の狩猟場です。これを包囲するなら、ふもとを抑える形になっているでしょう。――頂上の辺りは、逆に安全と見えます。王子は、護衛隊やその他の人員を声を掛け、山を登ってください」

「わかった。それからは、護衛隊の指示に従えばいいんだな?」

「はい。全員で、籠城の構えを取ってください。私は単独でこの包囲を抜けて、方策を実行します。……護衛隊は優秀です。オサナ王子が指示を飛ばさずとも、細部はあちらで調整するでしょう」

 

 護衛隊の防備が固まっているなら、敵側も容易には抜けない。私単独ならば、包囲網の脱出だけならどうとでもなろう。

 そして敵情を視察しつつ、可能な限り勝ち筋を打っていく。あざむき、だまし、場合によっては指揮官の首を狙うのもいい。

 

「今しばし、時間をいただきますが、私が機会を作ったら打って出てください。上手くいけば、私兵どもの陣が乱れるはずです」

「状況の見極めと、取捨選択の全ては護衛隊に一任する、と。――ああ、わかっている」

「充分です。後はまあ、臨機応変に柔軟に、と行きましょう。本番は、ここを切り抜けてからです」

「理解しているとも。張り切り過ぎて、倒れたりはしない。体力はそれなりに付いたし、首都まで戻れば騎士団もいる。アテにするには弱い兵力だが、もし敗走しても戦うことは出来るだろう。……その時の為に、僕は強い指導者として振る舞わねばならない」

「――今から気負うようなことではありません。さしあたっては、私の成果をお待ちくださいね?」

 

 言うは易しだが、実際にどこまで敵を混乱させられるかは未知数だ。とにかく柔軟な判断と行動が求められるので、私は身軽な立場になりたかった。

 

「勝機があるなら最善を尽くすし、尽くさせる。だから……頼むぞ」

「はい。必ず、吉報を持ち帰りましょう」

「……わかっていたが、僕のせいで、この戦場が生まれた。これは、僕の責任だ」

「貴方だけの責任ではありません。責任を問うならば、私も無関係とは言えません」

「人が、死ぬな」

「はい。敵も、護衛隊も、あるいは私も」

「先生は死なないさ。死ぬ気がないのに、そんな風に言うものじゃない」

「――そうですね。意味のないことを申し上げました」

 

 なるべく早く事態を収めたいので、なんとも厳しい手段を取ることになる。いつもは戦場に出るたびに、己の死を幻視したものだが――。

 

 今回は不思議と、そうした感覚を覚えなかった。まるで、こんなところでは自分は死なぬと、わかっているかのように。

 この予感が、現実のものになってほしい。そんな都合のいい妄想を抱くくらいに、私は弱くなってしまったのか。

 

 そうだとしたら、原因は一つしか考えられない。

 待っている人がいる。

 愛する人、愛してくれる人たちがいる。

 その事実が今の私を支えていると思えば、この弱さも抱えて生きていくことが、私の義務なのだろう――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今の時間帯は昼間。これから夕方になり、暗くなっていくことを考えれば、防衛側とて安穏とはしていられない。

 しばらくは戦闘が起きなかったとしても、夜になれば敵も味方も夜間戦闘を案じねばならぬ。

 もし敵側に夜戦の心得があれば、かなり厳しいことになるだろうが――夜戦はどちら側にとっても賭けに近い。

 これにあえて挑むだけの背景が、相手にあるかどうか。答えは、数時間もすればわかるだろう。本当の問題はむしろ、夜が明けてからになる。

 防衛側は籠城戦に近い形になるが、当然ながら蓄えなどは知れている。三日四日と戦い続けられる備蓄など、祭事の際に必要になる訳もなく。もし長期戦になるとしたら、わずかな食料と替えの少ない武具をやりくりして戦わねばならない。

 これは、敵も味方も周知されていることだろう。これが理解できぬほど、相手も無能ではないはずだ。

 

 そして戦場は山地。木々の生い茂る森が近く、ふもとには広い平原がある。我々は山道の中にいた。

 ふもとから伸びる道は、そこそこ広く整備されていた。馬車と騎兵が並んで通れるくらいには広さも強度もあるのだが、この道を外れれば足場は一気に悪くなる。

 なので馬車と馬を使って山道を占拠、そこに簡易な陣地を作成し、こもって戦う体勢を整えれば、かなり防衛しやすくなるだろう。

 馬車は案外丈夫なもので、弓兵の雑な射撃なら防げるくらいの強度がある。馬は調練を積んだ軍馬であり、人の命令によく従ってくれるため、即席の遮蔽物になってくれる。これらを山地の高所で上手に用いれば、ちょっとした砦といってもよい防備が整うわけだ。

 

 流石に砲兵の砲撃に耐えられるほどではないが、敵はその手の大火力は持ち合わせていない。――砲兵は育成にも維持にも金がかかるからね。

 地方貴族がこれをそろえるのは、困難だったのだろう。……私とて連中が砲兵まで抱え込んでいたら、逃げる手段をもっと真剣に考慮した。そうせずにいられたのは、幸運だというべきか――。

 

「いや、シルビア王女が調べた時点で、地方貴族の元に砲兵がいないことはわかっていた。だからこその現状であると、そう言えるのでしょうね」

 

 重要なのは、オサナ王子が堅固な陣地におり、安易な力攻めを躊躇わせる状況だと言うこと。

 そして私が一人、遊撃戦力として存在していることだ。たった一人で出来ることなど、限られてはいるが――。

 打つ手があるからこうして単独行動しているのだし、勝ち筋があるから戦うのだ。

 

 まずは待つ、そして観察する。出来れば今、ここにいる戦力の詳細が知りたい。

 貴族の私兵連中か、傭兵化した盗賊どもか。いずれにせよ装備と練度のほどを知れば、つけ入る隙も見いだせよう。

 

 ……ふもとには、確かに兵どもが包囲網を敷いていた。姿を隠しながら様子をうかがうのも、山地の遮蔽物を利用すれば十分可能である。これで目耳も良い方なので、失敗する要素はない。

 おおよそ敵の状態は、小一時間も観察を続ければ把握できた。……今回上手くいったのは、私が不整地での諜報活動に慣れていたからだろう。クロノワークの厳しい訓練は、あらゆる意味で私を活かしてくれる。

 

 敵陣を改めて観察すると、敵兵は思ったより装備がしっかりしており、体格や顔つきも整っている。――要するに、良い環境で育ったことが見て取れた。

 命令の伝達も兵どもの動作も、即席の出来合いではない。何度も繰り返された訓練の賜物だと、はっきりわかるほど堂に入っていた。

 

 ……これは、貴族の私兵連中が相手だと思った方がいい。見栄えを気にするのは、それだけの余裕があるから。練度の高さは、それを可能とする環境が整っていたからだ。

 お抱えの私兵には、そこそこの待遇を用意するのが作法である。それに実戦を知らぬ若者特有の、甘い顔つきが見て取れれば間違いはないと思う。

 

 ひときわ大きい天幕は、人の出入りが多い。遠目から推察できることは多くないが、伝令らしき兵が度々入る様子を見るに、あれが指揮官の詰所と考えてもいいだろう。

 ならず者にはならず者の、お行儀の良い正規兵にはそれなりの対処方法と言うものがある。人間はテンプレートではないから、常時目を光らせて対応を考えねばなるまいが――。

 初見殺しと言うものは、悪辣で防ぎにくいから初見殺しと言うのだと、彼らに教育してあげよう。

 

 先の戦争で戦ったのは、中央の軍のみ。ソクオチの地方は、内戦にも外征にも十年以上は参加していない。

 古株の士官が残っているならともかく、そうでないなら相手は童女と童貞ばかりであろう。訓練を積み重ねようと、実戦の重圧を知らないのであれば、一度の混乱が致命的になることもある。

 そして、致命的な混乱を引き起こすには、未熟さの隙をつくのが一番いい。戦場の霧の深さと言うものを、初戦で実感させてやる。そして、慣れる前に殺すのだ。

 

 もしこれが手練れの盗賊であれば、容易に騙されてはくれないし――。そもそもこちらが防備を固めている間に、無為に待っていることなどありえないから、もっと事態はややこしくなったはずだ。

 火を投げ入れるなり捨て駒を突っかけるなり、何らかの妨害を行っていたであろう。護衛隊は精兵揃いなので、少々の工作で破られる防備など築くまいが――疲労の蓄積までは防げない。

 

 自領内で目標を取り囲み、待ちの姿勢に入っている現状。三日四日は時間をかけても問題にならない。

 ある程度は持久戦も許されるのだから、今は敵側に焦る理由はない――というのは理屈だけの話。理論は理論で別として、実践の場に出れば人間の身体は現実に対して正直になる。

 感情が揺れれば気力は萎えるし、気力が萎えれば迷いは大きくなる。迷いの大きさは初動の遅れにつながり、その遅れは相手に行動の自由を許すだろう。

 こうしたドツボにはまらせる手管を、私はいくつも持っている。この場で使える方法を思案するだけで、おそらくは事足りよう。

 

 正規装備でがっちり身を固め、真面目に隊列を作って隙一つ見せない有様は、私には緊張と不安の裏返しにも見えた。

 ……この様子なら、夜襲はあるまい、と判断できる。兵士どもの士気の低さと緊張の強さは、不安定な状況だと大抵悪い方向に現れるものだ。指揮官がそれを理解しているなら、待ちの体勢を崩すまい。

 そしてオサナ王子らを囲んで、こちらの出方を待つ――という手ぬるい手段に出た以上、彼らの行動にも予想が付いた。

 

 私兵どもの本陣から飛んできた伝令兵を刈り取り、伝令の内容を確認する。これまた予想通り、『援軍の要請』だった。

 敵陣をぐるっと回って見た所、その数はおおよそ800という所か。こちらは護衛隊が150、祭事に付き合わせている非戦闘員が200程度。

 こちらとしては、無為無策の突破は被害を拡大させるので遠慮したくなるところだし――。

 私兵側としても、囲むくらいならともかく、防備を破って叩き潰すつもりなら相当な被害を覚悟せねばならぬ。

 特に地方貴族側は、オサナ王子という玉を、無傷のまま確保したく思っている。ここで無理に攻めて、彼を失うことになれば、大義名分を失ってしまう。――なので、数で威圧するためにも、包囲網をより厚くするためにも、援軍は必須と考える。

 

 前提を知っている私からすれば笑える話だが、オサナ王子が決断を迷って引きこもっている内に、次の手を打ちたいんだろう。あちらの目線からだと、特に下手を打ったという自覚はないはずだ。

 実際には、オサナ王子はそこまで無力なお人ではないのだけどね。彼を見誤ったことが、敗因になると思えば、なんとも愉快な気分だった。

 

 ――私だったら、どうしたか? オサナ王子を確保するために、初手から全力で攻めるよ。手に入るのが玉体でも遺体でも使いようはあると割り切って。……敵がそうしないのは、まさに幸運だった。

 おそらく指揮官は行儀がよく、丁寧に教育を受けた真っ当な人間なのだろう。被害を厭って、定石どおりに降伏勧告をやってくるあたり、間違いあるまい。つけ入る隙を、私はそこに見た。

 

 伝令兵は、一人だけではない。援軍の重要性を考えれば、万一に備えて複数の伝達手段を用意するのが常道だ。

 なので、問題なく援軍はやってくるだろう。例の『傭兵集団』が、だけどね。地方貴族が養える私兵は、実際の所そこまで多くない。

 この場にいる連中が、おそらく無理のない範囲での限界だと思われる。……掻き集めれば、さらに数百はもってくれるかもしれないが、彼らはそれを選ばなかったわけだ。

 

 ――伝令には、確かに傭兵をこの場に呼び寄せる旨が書かれていた。盗賊どもを傭兵として雇用し、この場に呼んで使い潰す。そして、私兵の消耗を抑えてオサナ王子を確保する――というのが敵側の方針だろう。

 思いのほか、盗賊どもは近くにいるらしい。伝令の書簡には、『そこを通って、いつまでに、ここに来い』とまで詳細な指令が書いてあった。

 迅速な援軍の派遣のため、あらかじめ話を通していたルートなんだろうね。最初から呼び寄せなかったのは、ガラの悪い連中を近くにおいて、不穏な気配を悟られたくなかったからか。

 

 ともあれ、この最短ルートで駆けつけてくるとしたら、ほどなく援軍はやってくる。他の伝令が盗賊どもの元にたどり着いて、すぐに動いたとして――十二時間程度くらいは見てもいいか。

 全ての歯車が上手に噛み合って、全速力で来られたとしたら、さらに二三時間は短縮できよう。そうしたら、深夜から明け方には合流されるかもしれない。

 夜間行軍にはコツがいるが、事前に手配されていたならこの程度、クロノワークでは新兵でもこなしてのける。

 

 総合的に見て、悪くない手段だった。この場に私がいなければ、有効な手段になったと思うよ。こんな所に他国の特殊部隊員がいるなんて、想像する方が難しいから仕方ないけど、なればこそ意表もつけるというものだ。

 伝令が一人返ってこないことに、指揮官は不吉を覚えるだろう。しかし、これを深く考えて、敵への情報漏洩を考慮するところまでいけるかどうか。疑ったとして、対策を打ち出せる精神的余裕があるかは、怪しい所だった。

 

 ……じゃあ、仕込みに入りますか。伝令の内容は、きっちり書き取って筆跡を覚える。さっと覚えた後は、伝令を偽造しよう。

 ――あちらの筆跡を真似るのは、偽の伝令に真実味を持たせるためだ。完全に合わせるのは難しいが、この手の細かな努力を怠ってもいいことはないからね。

 

 それから始末した伝令君の装備をはぎまして、丁寧に磨いて、不審な所が無いように。これを着こめば、まぎれもないソクオチ兵に見えるようにしよう。

 以前からソクオチはクロノワークの仮想敵国だったから、ソクオチ兵の立ち振る舞い方は当然心得ている。特殊部隊員として、これは当然の心得だと言って良い。

 そして、ソクオチでも女騎士は珍しくない。私がその中にまぎれても、目立たないくらいには誤魔化せようさ。

 こうした自信があったから、私は手段を選ばないで行動できるのです。卑怯とか見苦しいとか、そんな概念は知りませんし聞こえません。

 何よりもまず、勝たなければ未来がないんですから。だから、これは仕方のない判断なのですよ。ええ、ええ。

 

 

 

 

 

 

 

 盗賊どもがやってくるのは、思ったより少しは早かった。本当に夜間行軍してきたようで、明け方近くには私兵どもの陣営が見える位置に来るだろう。

 わかりやすく、整備された街道を通ってきたので、夜間でも私の目なら間違えることはない。明らかに怪しい集団であるし、武装している。

 

 半端な位置で留まったのは、私兵どもを信頼していないためか。到着早々に無理を押し付けられると思えば、ギリギリの距離でまずは休息をとる――というのは、無難な手ではあるだろう。

 ここらで二時間ばかり時間を潰せば、夜明けはもうすぐだ。夜戦を避けて、体も少しは休める。そうでもしなければ、士気すら保てないのが賊軍と言うものだが、無茶をしてくれない相手と言うのも厄介だ。

 学がないなりに備えているし、ちゃんと考えている、との印象を私は受ける。こちらは、新兵の集団と思わない方がよさそうだ。

 

 盗賊稼業は大概嫌われ者だが、元をたどればただの村民であることが多い。土地の貧しさか、過程の問題か、何かしらの外的要因で臨まぬ道を歩まされてきたのだと思えば、同情の余地もあるだろう。

 だからといって、彼らを前にして感傷などは不要である。教育のない農民とて、考えつくせば知恵者を凌ぐことさえあるのだ。経験を積んだ盗賊は、時に精兵も驚く様な働きをする。

 私モリーも、それはわきまえていた。無学の狡猾さを知ればこそ、相応の態度を持って接しようじゃないか。

 

「伝令! 私兵指揮官よりの伝令です! 道をお空けください」

 

 私兵の伝令に扮すれば、近くまで寄っても盗賊ども(彼らは傭兵を自称しているが本質は変わりない)とて粗略には扱えぬ。地方貴族と私兵がどんなにいけ好かない相手でも、飯を提供してくれる存在ではあるのだから。

 ここで伝令を無視するようなら、そもそも来ていない。連中の頭目は、感情と実利は別にして、名目上の主とその周囲に配慮が出来る性格なのだろう。

 

「伝令兵。今度は何か」

「指揮官殿の命にて、次の指示をお持ちしました。ご確認ください」

 

 口頭での命令ではなく、書簡による意思伝達を行う。私兵の指揮官は几帳面な性格らしく、形に残る方法で意を伝えようとする。

 この辺りは育った組織の慣習とか文化が大きく出る部分だから、別に良いとか悪いとかの問題ではないだろう。

 盗賊の頭目には識字能力があるようで、黙って書簡を受け取ると中身に目を通した。流し読みではなく、きちんと文字を目で追っている。読めるふりをしている、という風でもなかった。

 

「――随分とぶしつけな命令だな、ええ?」

「返答を持ち帰れと命じられております。いかに?」

 

 相手がぶしつけ、とまで評した命令は、私が書簡に書いたものなので、偽造した命令である。

 この偽の書簡には、『休息が終わり次第、夜が明ける前に山頂の敵陣を攻めること。急ぎの仕事ゆえ、我々の陣を素通りして構わない』と記してある。

 挨拶無用、こきつかってやる――という意識が、露骨に表れている文面だ。頭目が顔をしかめても仕方がない。

 

「……お前、俺たちへの指示については聞いてないのか」

「重ねて申し上げます。返答を持ち帰れ、と命じられております。……よろしいですね?」

 

 白々しくも、私は答えない態度を貫く。答える必要性を感じない、という顔を見せて、返事だけをせっついた。

 お前はただ、返事だけを寄こせばいいという傲慢さ。その方が、こいつにとっては『らしく』見えるはずだ。

 

「私兵連中は、これだから好かん。……わかった」

「どのように、お伝えしましょう」

「素通りするにしても、ウチの部下は礼儀を知らん。とんだ無作法をするかもしれんが、そこは寛大な精神を持って見逃すように、と伝えろ。急な命令の変更を聞き入れてやるのだ。そちらの配慮に期待する」

「――では、そのように」

 

 期待していた返答は受け取れた。ボロが出る前に立ち去るのが無難だ――と思って、立ち去ろうとした、その直前に。

 

「待て」

「はい」

「……今回、伝令はお前だけか?」

 

 まさかの呼び止めが入りました。この盗賊の頭目、思ったより慎重な性質であるらしい。

 私の言動に不審を抱く余地はなかったはず。とすれば、気まぐれな問いである可能性が高い。

 

「はい。私のみで、他に伝令は飛んでおりません」

 

 余計な言葉は吐かない。ただ堂々と、やましい所はないと態度で示そう。あちらも、一伝令兵が詳しい情報を持っているとは思うまい。

 

「……そうか。いや、いい。行け」

 

 相手が何を感じたのか、私にはわからない。だが、こちらに害意がないことはわかっているのだろう。

 疑われたのなら、その時はその時で対応は考えていたが、見逃してくれるのなら幸いである。

 

「では、失礼します」

 

 こうして、私は虎口に入りながらも、目的を達して脱出する。盗賊の頭目が、あの伝令を真に受けてくれたのなら、両軍の間にちょっとした混乱が起きるはずだ。

 それを利用すれば、こちらの不利を覆すことも不可能ではない。可能性はまだ、潰えてはいない。今は、その程度の希望でも充分だった。

 

 そして盗賊と傭兵を兼ねた連中は、明け方に私兵どもと衝突する。明け方まで歩哨に立っている連中は、疲労が重なって判断力が鈍っているだろう。

 明かりはまだ充分ではなく、薄暗い視界の中、連絡もなしに近づいてくる傭兵の群れは、彼らにとって単なる賊とさして変わらぬように見えよう。

 陣を素通りすると言っても、私兵どもはそれを把握していない訳だから、当然の様に盗賊どもを押しとどめようとする。盗賊どもは、話が違うと文句をつける。

 

 そこに私が矢を射かけたり、裏切りを示唆する声を張り上げたり、あるいは指揮官の首を取ったりしたら、どうなるか。――運しだいだが、最悪でも派手に立ち回って、適当に被害をまき散らすことは出来る。

 この混乱に乗じて、どこまでの戦果を見込めるか。全てはそこにかかっていると言って、いいだろう。

 私にとっては、この戦の勝利を形を決めるための一手であり――。おそらくはオサナ王子にとって、今日と言う日は人生の節目にもなるのだと、そうも思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 ソクオチの既得権益層にとって、先の敗戦は痛恨事であったと言って差し支えない。

 地方貴族の私兵、その指揮官の彼にだってわかるほど、それは顕著であった。現在の心境はと言えば――なるべくしてなった、こうするしかなかったのだ、という自己弁護の論が全てである。

 指揮官の上司たる地方貴族には、王家に対する忠義も複雑な感情もあるだろう。シルビア王女に対する不信も、大きな割合を占めているのも間違いない。だがその下にいる者たちにとって、雲の上の事情などに興味はなかった。

 

「強硬手段も止む無し。子飼いの者としては、同調するのに苦労はなかったとも」

 

 クロノワークもゼニアルゼも、ソクオチに賠償金を求めることこそなかったものの、統治に関わる部分にはメスを入れて来た。

 それが一部の官僚と私兵たちにとって、はなはだ都合の悪いものであり――決起を支持させる理由になったのである。

 具体的には関税法の改正と、複数ある関所の廃止を求めてきたことが致命的だったと言える。

 地方貴族には、色々な出費がつきものだ。その中でも私兵を養うこと――すなわち、権威を保証するための武力を維持することは、何よりも優先するべきことである。

 高い地位に相応しい格と重み、発言力を確保するには、個人的に忠誠を捧げる武力集団の存在が不可欠。彼らを食わせていくためにも、あるいは機嫌を取るためにも、関税収入は妥協できない部分であった。

 

「交易が大事なのはわかるが、その為に飯の種を捨てよ――というのは道理が通るまいに」

 

 それを逆に廃止し、交易の交通量を増やそうとするシルビア王女の考えは、社会全体の利益を考えるなら正しい物であったろう。しかし地方貴族はもとより、その下にいる私兵どもには、まず理解不能な理論であった。

 関所を廃止し、流通の経費が安くなれば、交通量が増える。交易の機会が増えれば、結果として税収も増えるものだが――これを正確に理解しようとする者が、ソクオチ貴族の元には誰も存在しなかった。

 

 関所を廃すると言うことは、中間搾取の方法が減ることを意味する。全体的にはともかく、確実に廃止した分だけ自らの糧が減ると、官吏たちは考えた。

 そして今後の発展が未知数である以上、どのように楽観視したところで、私兵の規模は縮小してしまうと説かれれば――地方貴族とて、決断せざるを得ぬ。

 その意を受けた私兵たちも、現状が望ましくない方向に進んでいることはわかっていた。上司の都合はともかくとして、ワイロをもらう機会が減るのは、よろしくないと思ったから。

 それこそ、盗賊を用いて徴税を逃れようとするほどには、彼らは腹を立てていたのだ。

 

 貴族の私兵は、当然ながら親方の財布が豊かでないと養えない。その指揮官の家系ともなれば、責任ばかりが重くなるもので、なればこそ凋落を受け入れることは出来ぬ。

 流石にソクオチの正当な王位継承者に弓を引くのは気が引けるものの、命を狙うわけではなく、むしろ保護するために戦うのだと思えば誤魔化しも効いた。

 誤魔化しは誤魔化しに過ぎず、本音は己の待遇と地位を保ちたいという保身が全てであるのだが――。

 なまじ単純な欲望が動機であるだけに、妥協はできなかった。こうしてオサナ王子を囲んで脅すのも、自分の欲求に従った結果である。そこに後悔がないと言えるほどには、私兵指揮官も割り切っていたと言える。

 

「オサナ王子を確保することを考えれば、無作法に攻めるわけにもいかん。援軍のアテはあるゆえ、今日くらいは様子を見ても良かろう」

 

 指揮官の見解と言えばこの程度のもので、緊張はあっても危機感はない。相手は孤立無援の孤軍である。真面目に攻めれば――陣地にこもったところで、二日三日も耐えられれば上出来と言ったところか。

 盗賊崩れの傭兵どもは、ここからそう遠くない位置にいる。援軍として呼んでくれば、賑やかしの役割くらいは果たすだろう。数で威圧できれば、それだけでこちらの勝利が近くなる。

 被害を抑えて勝ちを得られるのだから、これだけは急ぎたかった。せっついて夜間行軍してでもやってこい、と伝令を飛ばしたので、深夜か早朝にでもここに来るだろう。

 

 お互いに良くない感情を抱いていたとしても、傭兵にとって貴族の私兵は上司に近い。特に今回の作戦は私兵側が全権を任されている。

 飯の種を握られている傭兵側としては、彼らの要望にはなるべく応えねばならなかった。もし私兵側が地方貴族に『傭兵の働きが悪かった』と告げ口すれば、待遇が悪くなるであろうことは容易に想像がつく。

 形としては傭兵、という枠に収まっている連中だが、元はと言えば脛に傷を持つゴロツキどもである。地方貴族の庇護を捨て、余所に向かったところで、まっとうな暮らしなどできるはずがないのだ。

 

「せいぜい急いで来いよ、弱卒ども。所詮余所者のお前たちに、他に生きる場所などないのだからな」

 

 夜陰に紛れての行動なら、お前たちの得意のするところだろう――と、指揮官は軽蔑するように吐き捨てた。それくらいしか取り柄がないのだから、こちらを待たせるんじゃないぞ、とでも言いたげに。

 

 ――非正規兵を使うのに利点があるとしたら、容易に使い潰せることと、無理をさせても周囲から非難が飛ばない部分にある。

 元が盗賊稼業の連中だと思えば、使ってやってるだけありがたく思え、とさえ指揮官は考えていた。

 報酬の額はすでに決められている。あちらだって、一人当たりの儲けが増えると思えば、多少は間引かれても文句は言うまい。

 

 オサナ王子の護衛隊が防備を固めるなら、そうすればいい。傭兵のならず者どもを仕掛けさせ、適度に消耗を強いれば遠からず降伏するであろう――とさえ、彼は考えている。

 指揮官はソクオチの生まれであるがゆえに、自国の国民性を知っていた。軟弱な王族の王子など、すぐに泣きが入るに決まっているのだ。

 

「命を奪うのではなく、正当な地位に持ち上げて、玉座に縛り付けてやるだけだ。子供だからと言って、我慢できないことではなかろうて」

 

 独り言を漏らし続ける程度には、指揮官も油断していた。だからダラダラと包囲を続けさせたし、策も錬らずに時間を潰し続けたのである。

 彼に思慮と言うものがあるとしたら、援軍要請の伝令を複数放った時点で、そんなものは使い果たしていたのだろう。そうでなくば、モリーの計略には容易く引っ掛からなかったはずだ。

 

 夜の帳が下りてしまえば、光源は松明の灯りが全てだった。明け方ともなれば少しはマシになるが、今度は疲労で視界がぼやけてくる。

 ソクオチに限らないことだが、西方では夜目がきく人間は少ない。クロノワークの特殊部隊員であれば、わずかな光源で目標を正しく捉えたであろうが、地方貴族の私兵などに、そこまで期待するのは酷であったろう。

 

「実戦は、訓練以上に疲れるものだな。……明るくなったら、仮眠をとるか。夜中に何もなかったのだから、まさか昼間の内に仕掛けてはくるまい」

 

 いかに油断があったとはいえ、夜討ち朝駆けを食らう可能性は、流石に指揮官とて考慮する。

 オサナ王子の護衛隊に、そこまで大胆な行為ができるかどうか、いささか疑問でもあったが、内部への警戒だけは厳重にさせていた。

 

「――しかし、怯えて守りに入るくらいなら、早々に下ればよいものを。こちらと違って、援軍のアテも無かろうに、防備ばかりを固めおって」

 

 山中の簡易砦は、無理攻めするには面倒な相手だった。しかし、相手は孤立無援であり、こちらには追加の捨て兵を持ってこられる。勝ち目がないことを理解してほしいものだと、この指揮官は考えていた。

 そして、アテにしていた捨て兵の補充――つまり傭兵の援軍がやってきたときも、素直にその事実を受け入れるばかりで、備えをしようとは欠片も思わなかったのだ。

 そう、敵襲に対する備えを。

 

「――なんだ?」

 

 騒がしい、と指揮官は思った。兵どもが騒いでいる。

 

「兵卒どもの喧嘩か? そこのお前、見てこい」

 

 従卒に向かわせ、確認させる。この大事な時に、援軍が問題を起こしに来るとは考えたくない、というのが本音であったろう。

 援軍は傭兵とはいえ、元は育ちの悪い村民であり、盗賊稼業を行っていたような連中である。

 貴族の私兵として、養われてきた自分たちとは、合わぬ部分もあるだろう。その辺りはわきまえていたから、多少の衝突で短気は起こさぬようにと前々から言い含めていたはずである。

 だから問題があるとしたら、あちらの方。盗賊どもの方から突っかけて来たのだと思わざるを得なかった。

 その想像性の欠如こそが、思わぬ敗北を呼び込むことになるのだと――。そこまで理解を深めるには、指揮官は若すぎたというべきであろう。むしろ、これは『仕掛けた』モリーの方が狡猾であったのだと、そう捉えるのが正しい。

 だから、戻ってきた従卒が伝えた言葉に惑い、隙を見せることになるのだ。

 

「申し上げます! 敵襲、敵襲です! 救援に呼んだはずの傭兵どもが、我らに仕掛けて来たとの由!」

「馬鹿な、誤報ではないのか」

「矢を射かけられたのは確かです。そして、気勢を上げてこちらに詰め寄る者どもがおり、それが例の傭兵どもであるのは事実だそうです!」

「ううむ……そうだ。兵どもには、むやみに騒ぐなと言ってやれ! 実際に斬りかかられるまでは、連中が本気で敵対しているかはわからん! 同士討ちなど馬鹿の極みではないか。――せっかく舞台を整えたというのに、何がどうなっている」

 

 指揮官の思考が止まる。対応する前に現実を疑うのは、指揮官の未熟さを示すものであったろう。

 悲しいことに、彼は身内の犠牲を厭う性質の男だった。犠牲を厭うからこそ、傭兵を捨て駒に使うという発想から逃れられなかった。

 

「……矢? 矢だけか。頻度はどの程度だ。多数による一斉射撃か、それとも単発のものが散発的に飛んできたのか」

「は、いえ、そこまでは――」

「まったく! 事は正確に報告しろ! ……ええい、今さら聞きに行かなくていい。襲撃が事実なら、どうせもう遅い。事実なら、だが……やはりわからん。何かの間違いであったと思う方が、よほど筋が通るぞ」

 

 事実、ありえてはならないことであった。この状況で、契約を結んでいた傭兵がこちらを切る理由などない。誤報を疑うのは当然の判断であるが――確かめようと行動する前に、余計な思案に時間を割いたのがまず第一の失策。

 

「お待ちください! 偵察の一隊を組織するまで、ご自重を――」

「まどろっこしい。俺が自ら、事実を確認せねば納得できん。誤解であってほしいが、だとしたら何の意趣返しだ、これは……」

 

 そうして彼は天幕を出て、単独での物見に出る。粗忽な行いだが、彼自身は腕に覚えもあったので、かえって窮地を窮地と捉えることが出来なかった。

 そもそも遠出をするつもりがなく、自陣の外側を軽く見回れば、いくらかでも事態を把握できるだろうと思ったのだ。

 味方の陣営に隙を作ったつもりはないし、本格的な衝突の前ならば大丈夫であろうと考える。それこそが油断であると批判するのは、若い指揮官に対して酷であったかもしれない。

 

 しかし、これが本物の敵襲であり、安全が脅かされる可能性を考慮しなかったのは、まぎれもない失策であり、二つ目の落ち度であった。

 彼は、これが敵の策である可能性まで、きちんと考えるべきだった。思考停止が雑な行動につながり、無防備な散策が惨事を呼ぶ。

 虚々実々。嘘と事実を交えながら、実情からかけ離れた誤解を招かせる。戦場の礼法として、これはまさに正道と言えよう。

 

「指揮官殿でありましょうか? 伝令にございます。偵察の成果をお伝えします」

「早いな。誰が組織して偵察したのだ」

「はい。では、申し上げます」

 

 用いたのは言うまでもなくモリーであるが、相手にそんなことはわからない。クロノワークの精兵であり、特殊部隊員であり、何より経験豊富な曲者がこの場にいることを、私兵の指揮官は知らなかったのだ。

 

「――!」

 

 伝令兵に扮したモリーが、警戒心を持たぬ指揮官に近づく。間合いに入れば、その首を刈り取るのは、ほぼ一瞬の出来事であった。

 

「無作法、お許しあれ」

 

 近寄って、抜き打ち気味に一閃。使い慣れた剣と鞘は、その持ち主に完璧に応えてくれた。

 首級を持ち帰る必要はない。遺体を捨て置いたまま、彼女は姿を消した。オサナ王子の見せ場を作るという仕事が、まだ残されていたからだ。

 包囲を破るくらいの隙は、今作った。だが、オサナ王子が逃げるだけでは、印象が弱い。

 敵の隙が大きくなれば、戦果も拡大できる。状況に合わせて、柔軟に動くように伝えているから、ここから最善の結果を求めるくらいは欲をかいてもいいだろう。

 

「とりあえず、偉そうにしている奴から斬っていきましょうか。混乱から立ち直るまでに、あと二、三人はいけるでしょう」

 

 きつい仕事だとは思っても、無理難題とは思わない。この場所を任されているのは、自分ならばできると、信頼されているからだ――なんて。

 そんな風に楽観的な考えが許されているのは、それだけの能力を、彼女が持っているからであった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モリーの仕事が何をもたらしたかと言えば、単純に言えば小規模の同士討ちである。

 それがもたらす混乱を、上手に処理する能力を私兵どもは欠いてしまった。それがまさに、この状況における最大の価値であった。

 オサナ王子も、寝ぼけ眼でモリーの戦果を確認することが出来ている。

 

「何やら、やかましい。モリーがやってくれたか?」

 

 山頂から見える範囲では、ふもとが何やら騒いでいる、くらいのことしかわからない。

 明け方はまだ暗さが残っているから、多少は明かりが揺れているのはわかる。ただ、それが何を意味しているかも不透明だった。

 しかし、職業軍人の護衛隊――その隊長にとっては、これが好機であることを理解した。

 そして打って出る、という判断を隊長がしたのであれば、オサナ王子はこれを支持するだけで良い。

 

「任せる。僕も、前に出よう」

「一応申し上げておきますが、危険です。オサナ王子に万一があれば――」

「万一の危険より、一片の勝機の方が大事だ。僕が前に出て呼びかければ、混乱した私兵たちに迷いが生まれるかもしれん。その迷いが、この場での勝敗を決定づけることになればいい、と思う」

 

 なにより、モリーばかりに活躍させて、オサナ王子が守られるばかりでは格好がつかぬ。

 護衛隊に、ここぞという場面で手柄を与える機会も欲しい。幸いモリーの方が上手くいっているのだから、多少は欲をかいてもいいだろう、とオサナ王子は判断する。

 

「今なら包囲を突っ切るのも難しくはあるまいが。……あわよくば私兵を投降させて、地方貴族の反抗の目をここで潰したい。可能と思うか?」

「王子がそれを望まれるのであれば、安全を保障する限りにおいて、支持いたします。なので、私どもが脇を固めることをお許し願いたく」

「すまんな、苦労を掛ける。――だが、僕の勘が『ここで命を賭けろ』と訴えるんだ。ここで失敗する器なら、どうせソクオチを繁栄させるなど夢のまた夢。そうだろう?」

 

 護衛隊長は答えなかった。もしもの時は、非戦闘員を盾にしてでも逃がそうと、ひそかに決心しつつも。

 成功を確信して、ただオサナ王子の想いに寄り添うこと。それ以外に、ソクオチの未来はないと信じたから。

 オサナ王子は、窮地において自らの資質を開花させたのだ。平穏なまま、ぬるま湯に浸ったままでは、覚醒しなかったかもしれぬ才を、ここ一番で発現させた。

 それがそのまま、彼の運気を示すものであり――ある意味では、モリーの運の強さを示すものでもあったろう。

 

 

 そして、両者はまさに才と運によって、ソクオチの動乱を収めることになるのだ。以後の結果について、子細を語るには及ぶまい。

 

 

 ただ、わかりやすく端的に述べるならば。私兵どもは指揮官を失ったことで、体勢を立て直すことが出来ず。盗賊どもは私兵らの混乱を見て、形勢不利を悟り退いた。

 そしてオサナ王子らの勇気ある行動によって、この場にいる全ての者が、地方貴族の趨勢をも理解する。

 

 私兵の大部分は、この場で投降。逃げ延びた少数も、地方貴族の元に不吉な報を運ぶ役目を負った。

 オサナ王子の確保に失敗しただけでなく、その頼みとする武力を大幅に減らしてしまった地方貴族は、己の敗北を自覚せねばならなかった。

 ほどなく、彼は他国への亡命の道をたどる。そして、オサナ王子と護衛隊は祭事を中断。首都へ戻ることとなった。

 祭事を取りやめて、またの機会を待つのが当たり前の判断であったろうが、ここでオサナ王子は継続を希望する。

 

「不穏分子はまとめて処理した、と考えてもいいんだろう? だったら、中断した祭事を継続することで、ソクオチの国威を示そう。ソクオチ貴族が亡命したことで、諸外国も我が国の危うさを知ったはずだ」

 

 そこで、オサナ王子が滞りなく祭事を済ませる様を見せれば、いくらかでも体裁を取り繕えるはずだ――というのが彼の主張。途中までは出来ていたのだから、継続する体で適当に済ませれば格好だけは付けられる、とも言う。

 

「もとより、私は同盟国の手伝いとして、貴方の近侍に選ばれてここにいるのです。――オサナ王子、貴方の決断を、私は尊重しましょう」

 

 モリーもまた、それを支持した。オサナ王子にその気概があるのなら、支援するのがクロノワーク士官の役割であろうと、弁えていたからだった。

 

「同盟国? 従属国の間違いだろう?」

「いずれ、正式に同盟国になるでしょう。オサナ王子の戴冠後は、クロノワークはソクオチをそうした扱いにするはずです。まあ、私の勝手な想像ではありますが」

 

 クロノワークは、武威の国だ。武を示した他国の王族に対して、非礼は働けない。

 武を重視するがゆえに、この場で示した実績をクロノワークは無視できないとモリーは語る。

 

「まあ、とにかく祭事を終わらせましょう。――今の貴方なら、それが出来ると信じていますよ」

「そう願いたいな。……先生には、随分と苦労を掛けてしまうが」

「私をねぎらうより、護衛隊他、付き合ってくれた方々を見舞ってあげてください。そして、感謝なさることです。彼らは、貴方がソクオチの王子であればこそ、ここまで付き合ってくれたのですから」

 

 それはある意味、個人的な友誼によるものより、はるかに重いものであると、モリーは説いた。

 

「そうだな。僕は、ソクオチの王位継承者なんだ。その義務を果たして、彼らを庇護することが、今も将来も僕の仕事であるはずだから――」

 

 流させた血に値するものを、オサナ王子は皆に与えねばならない。

 権威に従ったものに、せめて名誉と信頼を。手っ取り早く富を分配できない彼には、他に与えられるものがない。

 経済的な保証は、シルビア王女に任せねばならぬが、オサナ王子には功労者に名誉を与える権限がある。王族の役割を果たすというのは、こういうことなのだと、彼は経験によって理解を深めていた。

 

「それでいいのです。オサナ王子、貴方がそれで皆を信頼し、返礼に忠誠を受け取ることが出来たのならば。その時こそ、貴方は正しく王として成長することになるのです」

「ちょっと、照れくさいな。……いや、でも。そうか。これが、王族としての自覚を持つってことなんだな」

 

 モリーは、オサナ王子の成長を称賛し、純粋に喜んでいた。

 打算もある。謀の一種でもある。だが、単純に男の子が成長する物語は、誰にとっても快いものであると、モリーは心から信じていたのである――。

 

 





 色々悩みまくって、ごちゃごちゃ書いていたのですが、最後らへんはすっぱりと省略しました。

 書いていて楽しくなかったというのもありますが、とにかく話を先に進めたくなりました。
 終わりが見えてきたと思っているので、展開を進めたかったというのが本音です。

 もともと、時間つぶしにでもなれば上出来だと思っておりますので、多少の雑さは大目に見てくだされば幸いです。
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