24歳独身女騎士副隊長。   作:西次

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 今回のお話は、単行本未収録の61話の内容を含みます。
 作品のサンプルだけでも把握できる部分ですが、ネタバレには違いないのでご注意ください。

 それから、原作では描写されていない部分に踏み込んでいるところもあります。
 もしかしたら、原作から逸脱して矛盾している部分があるかもしれませんが、ご理解いただければ幸いです。




他国のお客さんと絡んでいくお話

 モリーは今日も仕事に追われています。執務室で書類をさばくのも、ザラ隊長と一緒なら気分も晴れるよ。

 でも下着ドロの話とか聞いて、割とげんなりしました。下着に興奮するとかよくわかりません。大事なのは中身でしょ? 中身のない布切れを盗んでまで、何をしたいのやら。童貞にはわからぬ、深淵なる真理が、そこには潜んでいるとでもいうのか……?

 あ、でもザラ隊長の下着姿なら見たいよ。遠征中に体洗う時に全裸とか見てるけど、それとは別に興奮する。した。

 

 なんて、余計なことに気を回している余裕はない。今、この国には諜報員というべきか、調査員と言った方がいいのか。

 ともかく、他国からのお客さんがたくさん入り込んでいる。おおよそは泳がせることにしているけど、情勢次第では多少はテコ入れも必要なので、こちら側の対応も大事だ。私の方でも、気を付けておく必要があるね。

 

 きっかけはたぶん、シルビア王女の懐妊。これで我がクロノワーク王国と、王女が輿入れしたゼニアルゼ王国の結びつきが強固なものとなった。少なくとも当面の間は、同盟国と見なしてよい。

 土地にも交易にも旨味がなかった我が国も、ようやく外交的に注目される時期が来たという訳だ。なにしろ、あちらの王子様は二度も婚姻を反故にしている。

 裕福な他国の姫を蹴り出して、貧しい我が国の姫様を選んだのだから、これは何かあるのではないか、と。周辺各国が、クロノワーク王国の利用価値を見直そうと思っても、納得できる状況である。

 ……ゼニアルゼが、それだけ注目の的であったと見るべきかもしれないが。

 

 探りを入れてくる理由は、とりあえずこれで納得できる。他国の連中が、我が国とどう付き合うべきか、それを探るための調査活動だろうから、積極的に排除するのも考えものだ。

 実際、よその諜報員とは、排除するよりお近づきになりたいものです。これで意外と美人が多くて、目の保養になるからね。

 

 まあ何事も、知らない賊より知ってる悪党。理解と共感が成り立つなら、共存もできるというものだよ。そして立派な悪党は賊と違って、約束を守ることくらいは知っているんだ。外交ってのは結局、約束を守ったり守らせたりするための行動なんだって、私は大雑把にとらえている。

 あとは勢力均衡? その辺はあんまりわかんない。でも雰囲気で何となくわかることはある。経験と感覚頼りの、ふわっとしたものだけれど、私の立場なら、それくらいで充分だろう。

 だから、他国の諜報頼りの外交にも、理解を示してあげようじゃないか。それはそれとして、入り込んでいる連中の素性くらいは調べるけど。

 

「こちらから探りを入れる際、具体的な対応は任せる。わかっているとは思うが、深くまで踏み込ませるなよ。ほどほどで済ませないと、あちらも引っ込みがつかなくなるからな」

「理解しております、ザラ隊長。――これまでにない規模の諜報合戦ですが、どうにか泳ぎ切って見せましょう」

「お前自身も現場に出ねばならんほど、お客の入りが激しいからな。こんな状態、あんまり長期になっても困るんだが。――ああ、そうだ。一応言っておくが、許容できる範囲でなら、情報を流して構わん」

「具体的には、どこまで?」

「公開情報は惜しまずに与えていい。防衛に関わること、王家の深い内情に関しては探らせるな。わかっているだろうが、改めて言っておく。……せいぜい今のうちに、内外問わず顔を売っておけ。忌々しいことに、おそらく今が一番の売り時だ」

 

 あ、これは『他国の諜報員とツナギを作れ』って、暗に言ってくれてる。

 特殊部隊の仕事は多岐にわたる。柔軟な対応も求められるし、場合によってはある程度の独断行動も認められる。『個人的な知り合い』を作るのも、そこに含まれるだろう。

 諜報戦に限らないが、いちいち上司の承諾を求めていては、機を逃してしまうものだ。とはいえ事前に了解を得られているなら、より柔軟な動き方が出来ると言うもの。この点、やっぱりザラ隊長はやり手だと思うよ。

 

「わかりました。上手くやりましょう」

「……その手管で、上手に口説けばいいさ。よそで食い散らかす分には、私も厳しくは言うまい」

 

 食い散らかす? ……カニバリズムの趣味はないんだけど、なんか酷い誤解を受けているのかもしれない。

 

「手管とやらはよくわかりませんが、隊長の言質をいただけたのですから、期待にはお応えしますよ。――では、外回りに行ってきます。今日はそのまま直帰ということで」

 

 これもザラ隊長なりのユーモアなんだろうかと思うと、なかなかツッコミも入れにくい。適当に受け流すように言いながら、ともかく仕事への意欲だけは言葉にしてみる。

 

「いつもながら、仕事も早ければ行動も早いな」

「書類仕事は、もう一区切りつきましたので。命令通り、都合のいい情報を流してきますよ。ついでに可能な限り、探りを入れてきます」

「――ああ、期待している。これも一応釘を刺しておくが、あまり大事にはするなよ。遊びで済む範囲でやるように」

 

 遊びで仕事をやるほど、不真面目でもないつもりだけど――ああ。こちらの裁量で、始末のつく所までなら、好きにしろって意味かな。

 ほどほどにしておかないと、後味の悪い想いをするかもしれない。心しておく必要があると、改めて思う。

 

「男の格好をして、意識して声を抑えれば、私は案外いい男に見えるらしいですね。――釣りに出かける立場としては、これほど都合のいいこともありませんが、ザラ隊長のご意見はいかがでしょう?」

 

 格好を工夫するのは難しくない(髪型をいじるとか、女らしい体格を偽装するとか)けど、声は苦労したよ。今はどうにか、中性的な感じになるまでは整えられたから、不信感は与えずに済むはず。

 

「これで、外面ばかりは良いんだからな。……道を踏み外す女子が出ても、私は責任なぞ取らんぞ。ほどほどにしろ。いいな?」

「もちろんです。では、明日の報告にご期待ください」

 

 わかっていますよ。……これは仕事だから、相手に入れ込んだりしません。入れ込ませる手管については、駆使させていただきますが、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんかウチの護衛隊隊長を見て、ゴリラゴリラとか言ってる奴らがいるんだけど。

 偶然、メイル隊長が市井で暴れ牛を取り押さえたところを目撃したらしい。どこの馬鹿だ牛を放ちやがった奴は。てめーのせいで、ウチの女騎士にひどい評判が付くとか、絶許案件なんですけど? ――情状酌量の余地があるかどうかは、また後でな。

 

 そもそもアレだ、メイル隊長そんなに毛深くないやろ! ……いや、別部署の人だし、あんまりまじまじと見たことはないけど、たぶん女らしくムダ毛の処理くらいはしてると思うよ! たぶん!

 ……腕力に関しては、匹敵するかもしれません。割とウワサくらいは耳に入るし、バカみたいに固いオニグルミの殻を指先で割って見せるとか、人間離れしていると思うんだ。

 いや待て、こっちの世界のオニグルミは、殻が薄いのかもしれない。今度試そう。

 

 とりあえず、そこのちょっと愉快な女の子二人。面白発言が目についたので声を掛けてみようか。――あの、街中で唐突に書きものとか、それもメモに『ゴリラ』なんて書き込むとか、不審者にしか見えないんですがそれは。

 

 ともあれ、声を掛けよう。ちゃんと相手の視界に入り、歩み寄る姿勢を見せながら、近づきすぎないところで口を開こう。パーソナルスペースは守ってあげるのが作法(おおよそ2~3mくらいの間隔)。

 

「やあ、君たち。この国に来て、日が浅いのかな?」

「あ、えぇ?」

「うぇーい! なんでばれましたか!」

 

 返ってきた二人の反応は、思っていたより面白い。外面は整っているが、精神面では未熟さが目立つね。

 ――あれで隠密行動のつもりだったんだろうか。新兵かよ。色んな発言も含めて怪しさバリバリだったから、諜報とは無縁の一般市民ってことはないと思うが。

 

 でも、外見は評価できる。女性として重要な部分は抑えているね。そこは高評価だ。

 よくよく見れば、ショートカットで地味な格好している子は、整えれば映えるような気がするし。ロングヘアにリボンで飾っている子は、つぶらな瞳がチャーミング。あえて目立たないように野暮ったく演出しているが、私にはわかるよ。

 しかし、可愛いさはアドバンテージになるが、決定的ではない。その能力のほどは、さていかがか?

 

「別段、怪しいものじゃないよ。私の名はモリー。生まれも育ちもクロノワーク王国で、公務員をやっている」

 

 男性らしく、形式に添った一礼を行う。そこそこの礼儀をわきまえた人物であると、まずは認識してもらわねば、話にならないからだ。

 

「ごていねいにどうも。私たちは、この国に来て、だいたい三日くらいですかね」

「だから、慣れてないのは仕方ありませんけれど。そんなにわかりやすかったですか?」

 

 一応、お話に付き合ってくれる程度には、警戒を解いてくれたようだ。諜報を行うならば、任務の性質上、初見の相手を邪険に出来ないというのもあるだろうが。

 しかし、なんとも。ああ全く、わかりやすかったよ、実にね。これで彼女らが諜報員でなかったら、私の眼も曇ったというべきかもしれないが。

 

 本当なら、こんなにすぐには声を掛けずに、初見は顔を合わせるだけで済ませるのが常道ではある。そうして顔を覚えてもらってから、なんだかんだと時間をかけて距離を詰めるのが、他国のお客さんに対する作法である。

 今回、それを崩したのは、性欲を持て余したから――ではなく。

 せっかくザラ隊長から許可が下りたんだし、少しくらい羽目を外すのもいいかと思ったからだ。理屈ではなく、直感的に今、突っ込むべきだと判断した。

 もちろん、ギリギリの一線は見極めるつもり。わきまえてさえいれば、失敗してもカバーの利く分野であるから、なおさら遠慮する必要もないしね。

 

「あの隊長殿を見て、今さらゴリラなんて言うのは、慣れていない他国の人に決まっているよ。――驚いたかい?」

「それはもう驚きましたね」

「ていうか? あれはもう本当にゴリラですね。ゴリラでしょう」

 

 名誉棄損も甚だしいが、付き合いのない他国の間諜に、本気で諭すのも滑稽だろう。

 メイル隊長は、たぶん深く付き合えば、その力強さが可愛らしく見えるタイプだと思うの。いや、あんまり接点はないんだけど、個人的に甘やかしたくなる系統の人だって、会ったときから見定めていたよ! 男だったら即口説いてました案件です。やたら多い案件なのは気にしない方向で。相当チャラい奴だったのかなー、私。

 でもその内、お付き合いする機会でもやってこないかなぁ、なんて。他の女の子を前にして、考えるべきことではないね。切り替えよう。

 

「まあまあ、彼女とて、好きで屈強に生まれついたわけでもないでしょう。むしろ、あそこまで自分を鍛え上げたことを称賛するべきではないかな」

「限度ってものがあるんじゃないですかね」

「しかりしかり。あれはまさにゴリラです。ゴリラ」

 

 リボンの子は、ゴリラに何かこだわりでもあるんだろうか……? いや、別に悪いとまで言わないけど、はしたないとは思います。淑女は同じ言葉を連呼するより、言い方を工夫するものですよ! でなきゃ学がないって怒られるんですからね?

 

「ではお二人さん。実績も名声もある護衛隊隊長のお話を肴に、私と一杯付き合ってくださいますか? もちろん、私のおごりですよ」

「……もしかして口説かれてますかね? 私たち。ナンパですよ、あなた」

「そうですね。ただ酒は魅力的なんで、ほいほい付き合っていきましょう。さ、おにーさん。行きつけの酒場にでも案内してくださいね」

「モリーと呼んで欲しいな。気兼ねなく、ね。こんなに可愛らしい女の子がいるんだから、言葉にするくらいは許してくれるかな。――ああ、節度は守るから、必要以上に近づいたりはしない。そこは約束するよ」

 

 男装して、男らしい口調で口説いてみれば、ほいほい付いてきてくれる相手は結構いる。

 これについては、あちらさんが『誘いには乗ってみるのが作法』ってくらいに、軽い気持ちで仕事をしている部分が大きいだろう。場末の諜報員は、大胆な奴が少なくない。猜疑心も相応だが、好奇心の強さも特徴だ。

 

 彼女らも、その例に漏れなかったわけだが、ちょっと心配にもなる。年若い女性だし、たぶん未婚ではあるまいか。……うちが言えるようなことじゃないけど、もうちょっと自分を大切にしてくれませんか。未婚の女性は、もっとつつしみを持つべき。何よりも本人のために、なんて。私が言っても空しいだけか。

 

 まあ、せっかく乗ってきてくれたんだから、こちらが配慮してあげよう。せめて余計な虫がつかないように、飲んだ後は宿までエスコートしてあげようじゃないか。

 

 行きつけの酒場に案内してから、一杯ずつ奢ってみる。酒が入ると、口が軽くなることもある。

 といっても、彼女らはそこまで甘くはあるまい。相応の訓練を積んで、ここにいるはず。

 つまり、全て私次第。楽しくなってきた。

 

「なんか悪いですね、おにーさん。催促したみたいで」

「でも、どうなんでしょう。そちらのご期待に添えられるかどうかは、わかんないですけど」

「別に構わないさ。――仕事終わりの一杯くらい、楽しく飲みたい。女の子たちを誘えたなら、おごって見せるくらいは男の甲斐性と言うものだろう?」

 

 別段、酒場での飲み食いをおごるくらいはどうとでもなる。給料の使い道はあんまりないから、こうして女の子に奢るために使われるなら、本望というものだよ。

 現代日本の娯楽に慣れた記憶があると、どうしてもねー。お金を払いたくなるようなアレとかソレとか。要するに薄い本とか。

 その手の文化に対する期待値が大きすぎて、こっちではほとんど手を出してないんだよなー。実際、読むに値する本を探すにも苦労するので、もうあきらめてるよ。

 だから、ここで私費の投入を躊躇う場面ではない。趣味と実益が両立するなら、気分的にも納得できると言うものだし、何より。

 

「それに、期待なら充分に応えてくれているよ」

「ええー、ほんとですかー?」

「飲んだくれてるだけなのに、それでいいとか。これはダメ女に引っ掛かる素質がありますね……」

 

 諜報員は大胆なのもそうだが、付き合いの良い明るい性格の者が、結構な割合で存在する。彼女らもそうした類の人種らしく、その表情に気負いはない。

 言ってみれば一種の傲慢だが、健全だとも言える。己に自信がある証拠だ。前向きな女の子は好きだよ。

 

「いいじゃないか。酒を飲むなら、可愛い女の子はいたほうがいい。男なら、これは誰でも同意するところだろう」

 

 いやー、いいね。久々に、楽しく仕事が出来そうだ。……あちらもあちらで、私を値踏みしている。ここまで誘導してきたことの意味を探りたいだろうが――まずは、ここで一歩詰めよう。

 

「改めて聞くけど、この国に来たのは初めて?」

「そうですね。初めてですね」

「あ、怪しいものじゃないですよ。入国のチェックはちゃんと受けてきてますので」

 

 だろうね。そこを外す無能なら、話す甲斐もない。

 滞在の理由も、観光とか商談とか、親戚の用事とか。理由はいくらでも後付けできるものだから、彼女らも堂々とこの場にいられるわけで、ちゃんとその自覚もある。

 だからこそ、後ろめたさがない。ごく自然に酒を飲み、歓談する余裕がある。――それはつまり、つけ入る隙も充分あるということだ。

 

「お近づきのしるしに、何か知りたいことがあったら答えるよ。……これでも、それなりに都には詳しい。付け加えるなら、困った人は放っておけない性質なんだ」

「それはどーも。で、おにーさん。仕事は何してるんですか?」

「公務員とは聞きましたが具体的に。ちょっと気になったんで、お気軽に答えてくださいね」

 

 女性二人は充分に姦しい。不快な姦しさではないから、努めて明るく答えられる。

 

「これでも騎士だよ。まあ、あんまり誇れる地位でもないけど、立派な公務員だ。嘘をついたり危害を加えたりは、名誉にかかわるからしないし、できない。他国の人とは、好意的にやっていきたいと、個人的には考えてもいるから。まあ親切の押し売りというか、お節介を焼こうと思ったわけだね」

 

 しれっとした顔で、そう宣ってみた。我ながら厚顔だとは思うが、それはそれ。武士の嘘は武略だって、どっかの偉い人も言ってた気がする。

 あれ? でも今の私は騎士だから、武士ではないわけで……。

 まあいいか! 武士道も騎士道も似たようなもんじゃろ。全然わからない。私は雰囲気で騎士をやっている……。

 

「そうなんですかぁ。まあ、ぺーぺーでも騎士は騎士です。すごいですねー」

「この国の騎士の水準は、極めて高いと評判です。どんな訓練をしたら、あんなに強くなれるんでしょうね?」

 

 メイル隊長の強さは有名だ。割と本気で、ゴリラとか言われても納得したくなる。

 でも、女の子に言っていい言葉じゃないよね。そこは自重しようね。

 

「別段、変わった訓練をしてるわけじゃないと思うよ。ただ、他国に比べると鍛え方が厳しいのかなーってくらい。地道に長く、深く鍛錬をする。強くなることに、裏技はないんだよ」

「ははー。模範的な回答ですね」

「花丸百点です」

 

 本気の意見です。いや、マジで。ズルして楽して強くなれるなら、苦労はないんですよ!

 立木を打つ稽古を朝から夕方までやるんじゃ……倒れたら叩き起こしてでもやらせるんじゃ……。

 安物の木刀だとすぐ壊れちゃうから、ちょっと長めに切った木材を握りこんで、打つべし。

 一日一万回以上のノルマは、慣れるまで地獄を見ました……。打っているうちに気を失うとかあったけど、なんとかやりきれてしまうんだから、すごいね人体。

 この稽古を、一呼吸で三十回くらい打てるようになるまで繰り返す。安定して出来るまで慣れたら慣れたで、今度は別の訓練が待ってたりするんだから、本当にね、もうね。

 

「でもなー。それじゃ面白い話にならないんですよ。奢ってもらってなんですけど」

「一杯、ありがとうございましたって感じで、もういいですかね。楽しくなりそうにないなら、これで失礼しますけど」

 

 んもう。交渉上手なんだから――って、言うと思ったか? 期待しているんだって、君たちの『足』が応えているよ。

 足を組んで、ぶらぶらしているのはリラックスをしているサイン。酒のジョッキを取るにも、机に置いた手を動かすにも、親指を上げて見せている。これは前向きな態度を示すサインで、本心から期待していることが見て取れるよ。

 そして、こちらの出方をうかがっている様子で、即座に席を立とうとしない。値踏みの態度を維持している。

 

 私だったら、引き留めてくれると確信して、まずは勘定を済ませようとするだろう。奢らせない、という態度を見せて焦りを誘う所だが、彼女らはそうしない。若者にありがちな未熟さと言えば、そこまでの話だが。

 

 誘いの手管は訓練で身に付くし、顔も言葉も嘘をつける。けれど、手と足は案外正直なんだよ? この点、自覚していても偽るのは難しい部分だ。

 だから、うちの特殊部隊では、ここを徹底的にしごく。残念ながら君たちの国では、そこまで訓練していないみたいだね?

 わざとやっていないことは、顔を見ればわかるよ。顔と身体で同時に嘘を吐くのは、私にだって難しい。高等技術を駆使できるほど、錬れている態度でもないからね。

 

「待った待った。じゃあ、もう少し踏み込んだ話をしようか。具体的には、騎士団の訓練について」

「大丈夫ですかぁ? 機密に関わること話されても困るんですけど?」

「いやー、きついっす。私たち、仕事でここまで来てるんで。支障がある話をされても困りますねー」

 

 うん。ちょっと踏み込むと下がる気性は、大事にした方がいい。きっと、それが君たちの命を保証することになるよ。

 でも大丈夫! 私はちゃんとわかってるからね。君たちが危なくなる手前の話に限るから、安心してくれていい。

 だから、そのしぐさと言葉から推察できる部分で、君たちを理解させてくれると嬉しいな。出来れば、これから良い友達になれるといいと思うよ。

 

「機密じゃないさ。訓練は城内が主だけど、市内や郊外で行われることもある。眼にした市民の数も多いから、わざわざ秘密にする価値は薄いと思うね」

 

 事実だ。だからこれは公開情報のうちに含まれる。

 本当に隠しておきたい訓練なんて、たぶんウチの特殊部隊くらいじゃないかな。後ろ暗い任務もあるから、それに対応させるとなると、どうしてもね。

 

「実戦に勝る訓練はない、って言葉がある」

「もっともらしいですね。異論はありませんけど」

「実戦は実戦、訓練は訓練でしょう。具体的に話してくれないとわかりませんよー?」

 

 言いたいことはわかる。実戦のための訓練なんだから、失敗しないようにあらかじめ鍛えておけって話だ。

 それでも、実戦を重ねれば自然と肝も据わるし、戦闘経験を重ねれば行動も最適化していく。だから、あの言葉は正しい。

 で、それを踏まえたうえで、有効に訓練を行おうとするなら、アレだよ。

 

「つまり、実戦形式の訓練が一番有効だという訳だね。もちろん、一番多いのは城内で行う型通りの訓練だけれど――たまに市街戦を想定した実戦訓練とか、数をそろえて模擬合戦とかがあるんだよ」

 

 年に数回くらいの頻度だし、滅多にあることではないけど、派手に訓練することはある。

 他国の事情は知らないが、ここまで(女騎士も含めて!)徹底して鍛え上げるのは、この国だけなんじゃないだろうか。

 まあ、死人が出かねないくらいの訓練じゃないと、本物の強兵は生まれないし、理解はできるよね。

 でも実際に死者を出しちゃったらシャレにならないので、教官はその線を見極める責任がある。そして、この国の教官たちは有能揃いであり、この手の失敗は聞いた事がないんだ。

 それで、ちょっと本格的にそれら訓練にまつわる出来事なんかを色々話してみたんだけど、なんか反応がいまいち。

 

「ははぁ……そうですか。この国の騎士様は大変なんですね」

「ドン引きでございます。言葉が真に迫っているのが、逆に嘘くさいと言いますか、何と言いますか、非常にアレです」

 

 なんでや! そう酷い話でもないやろ! ……あれ? もしかして他国の騎士って、そこまで訓練しないの? 叩けるだけ叩きのめして死域(脳内麻薬でハイになるけど、長く動き続けると死ぬやつ)を体感させるとか、そこから死ぬ半歩手前まで追い詰めるとか、精鋭を作ろうと思ったら必須体験だと思うんだけど。

 またまたー、どうせアレでしょ? 君たちが世間知らずなだけでしょ?

 諜報とは畑違いだから、正規兵の訓練を知らないのかもしれない。経験の少ない子たちにとっては、あんまり面白い話ではないかもしれないね。

 

「楽しい話にできなくて悪いね。他に聞きたいことがあればどうぞ。今度こそ期待に応えられるよう努力するよ」

「じゃあ、アレですアレです。ゴリ……メイル隊長って知ってます? いや、さっきのアレを見た感じ、強いのはわかりますけど」

「話のタネにですね。この国の女騎士隊長について、面白い話があればいいなぁと」

 

 ほほー、そっちに来ますか。話せるけれど、微妙に際どいところを突いてきたな……有能。

 でも、ゴリラとか言うのはやめておきなさい。どこで本人の耳に入るかわからんから。

 どうにも、細かいところで隙のある子たちだと思う。おねーさんは君たちの将来が心配だよ。……うん。あればいいね! 将来。

 

「メイル隊長については、護衛隊の隊長だってことと、色々と残念な話を聞いているくらいだね。直接関わりがあるわけじゃないし、言葉を交わしたのは一度だけ、それも短時間だった」

「ほほう。それでは、有益な話はないと?」

「有益っていうか、楽しい話題になりそうなアレコレですね。誹謗中傷まで聞きたいわけじゃないです」

 

 まあまあ聞きたまえ。許可されている範囲内で語ろうじゃないか。

 もちろん、ただじゃない。お代は後程頂くつもりで、話を進める。

 

「誹謗でも中傷でもないよ。33歳で独身、男性経験のない貞淑な女騎士」

「アラサーで処女とか不名誉ですよ。攻略する価値のない砦は、どんなに堅牢でも意味はないんですよ」

「やめてください。しんでしまいます」

 

 ええい失礼な連中だな。でもこっちがホストだから、あえて不快な表情は見せないよ。むしろ快活な微笑みを維持しつつ、気分を盛り上げてあげよう。

 誘導するにも、手順があるからね。――利用する前に、利用されてやる。稲は丹念に面倒を見て、こうべを垂れるのを見てから収穫するものだ。それでこそ、数十倍の利益を見込めると言うものではないかね。

 

「私生活は自堕落だけれど、不意打ち闇討ち騙し討ち。あらゆる形での暗殺を撃退し、ついに多くの殺し屋から依頼を拒否される事態になったらしいよ?」

「ひかえめにいって、ゴリラでは?」

「ゴリラでも死ぬんじゃないですかね……。まあ、武人としてすごい人だってのはわかります」

 

 気配を消して床下に潜む暗殺者とか、私でも感知するのは難しいと思うの。たぶん、私だったら死んでいるような窮地を、メイル隊長はいくつも乗り越えている。

 修羅場を乗り越えてきた自信と言うものが、普段の言動に現れているんだろう。私から見ても、彼女はやっぱり特別だよ。だてにシルビア王女の腹心をやっていない、という訳だ。

 

「剣に対するこだわりも強く、愛剣の柄だけでも、なじむまで何度も作り直させたと聞く」

「柄は重要ですからね。剣士にとって」

「それだけを聞くと、全然残念に聞こえないから不思議です」

 

 別に不思議じゃないでしょ? 私だって、柄が手になじまない剣とか、割と遠慮したい案件である。いざ実戦となれば、融通は利かせるけど。

 

「あと、酒豪らしいってことかな。何件も酒場をはしごするのも、珍しくはないらしい」

「えぇー? もしかしたら、ここにまでやってくる可能性があるんですか?」

「だとしたらちょっとまずいですね。ここらでやめておきましょう」

 

 さて、自然に話を打ち切れる流れが出来たところで。

 そろそろ、そちらの話に移りましょうね。――勝ち逃げなんて許さないよ? 聞かせた情報に値するものを、君たちには吐き出してもらいたい。

 

「そうだね、そうしよう。――でも、そうだね。私から話題を振ってもいいかな。せっかく知り合えたんだし、お互いに分かり合うのも大事だと思うんだ」

「本格的にナンパっぽくなりましたね。あんまりがっつくと、退いちゃいますよ」

「まあまあ、楽しい話を聞かせてくれたんだから。個人的な話をするくらいは問題ないでしょう」

 

 そう、個人的な話。まさにそこが分析の対象になり得る。

 だから、こちらの方に自然に話題を持っていきたかったんだ。私の語ったことは、そのための前振りに過ぎない。

 

「そうだね。じゃあ、出身地から。できれば、家族構成とか食事の好みとかも知りたいな」

「出身はソクオチ王国です。家族は両親ともに普通に健在です。普通の家庭なんで、食事の好みは、まあ家庭料理なら何でもって感じですねー。別に贅沢でなくてもいいです。外食は偶にできればいいかなってくらい」

「ゼニアルゼみたいに豊かな国でもないので、そこまで食事に変化とかないですからね。あえて言うなら、味付けは濃い目が好みです」

 

 だろうね。酒のつまみにも、塩気が強いものばかり選んでいるから、そこは予想していたよ。

 これで、ソクオチ王国の一般兵の待遇が透けて見えた。あちらの兵隊は、たぶん我が国と同じか、それ以下の生活水準だと思われる。

 それでいて、家族が困窮するほどには飢えさせていない。両親が健在だって言うことは、たぶん兄弟がいたとしても、そこそこに育てられたんだろう。

 親は子を優先するもの。自らが飢えても、子を食わせることを願うもの。それでも気軽に贅沢できる環境ではない、と。この程度なら、情報としての価値はあまりない。だから、もっと話を続ける必要がある。

 

「最近はゼニアルゼからの交易で、塩の値段も随分下がったからね。この国の滞在が長くなるなら、美味いツマミを存分に堪能できるよ」

「塩だけに限らないですよね、それ。ゼニアルゼは海に面してますから、海の乾物も流れ込んでくるでしょう。魚介の珍味とか、気軽に楽しめるといいですね」

「うちにも魚介の類はありますけど、安くはないですからね。むしろ肉の方が安いんじゃないでしょうか。どっちも手軽とは言えませんけど」

 

 あー、あー、なるほどね。豚や鶏は牛と比べれば効率が良い方だけれど、それでも育てるとなるとコストはかかるから。毎日食卓に出せるほどではない、と。

 少なくとも、下級の兵士に対して、そこまでの富は分配していない訳だね。これで上官が贅沢しているなら、反感もあろうというものだけれど。

 

「じゃあ、この国が羨ましくなった?」

「いえ、別に? そのうち、わが国の食習慣も改善していくでしょうし、うらやむほどではないですねー」

「希望的観測ですけどね。とりあえず今のところは、この国でささやかな美食を堪能したいと思います。帰ったら、海産物なんて気軽にツマミにできませんからね」

 

 わかった。だいたいの予測はつくよ。裏を取るのは後日の話になるがね。

 君たちは、自分たちの食習慣を改善できる余地が多分にあって、そのうちになんとかなる見通しがあるわけだ。軍事的行為か、外交努力かはわからないけど、それを末端にまで伝えていると。

 とりあえず今のところは、って言い回しから考えるに、早急な行動をとるつもりはない。でも希望的観測だから、確証もない。たぶん下っ端だから、報告をあげて判断を乞う立場だから、明言できないんだろう。

 付け加えるなら、美食を楽しめるのはこちらに滞在している間だけと、割り切ってもいる。そこから考えるに、改善の具合には期待していないようにも見えるけど、その理由は何だろうね?

 

「まあまあ、多少でも改善できるならそれでいいじゃないか。希望を持つことは大事だよ。明るい将来が期待できるから、本気で仕事もできると言うもの。そうだろう?」

「本当にそうですね。ついでに給料が上がると、もっと良いんですけど」

「どうでしょうねぇ。私たちの上司も、そこまで温情を与えてくれる方かどうか、ちょっと自信ないですし。仮に待遇が良くなるとしても、余剰分をポッケナイナイせずにいられるかどうか、割と不安です」

 

 ああ、うん。軍隊内では、横流しとか横領とか割とフツーだよね。ウチではそれっぽいのがあればザラ隊長が摘発するから絶対許さないけど、他国はだいたいこの点がガバガバだってことは知ってる。

 その不安を口にするあたり、色々と不満もたまってるんだろうなぁ。――せっかくだから、ここで吐き出していこうぜ。

 

「愚痴があるなら、言ってみればいい。ここなら、聞かれて困る相手はいないよ」

「ソクオチの人とか、まあ珍しいでしょうしね」

「あー、もうちょっと頼んでもいいですか? おごりで」

「いいよ。今日はとことんまで付き合おうじゃないか」

 

 酒とツマミくらいなら、必要経費と言うものだろう。……わざわざ申告なんてしないけど、そんなノリで注文する。

 君たちは気兼ねせず悪口が言えてハッピー、私は他国の情報を抜けてハッピー。win-winの関係だから、遠慮なんてしないよ。

 

「ぷはー、生き返りますねー」

「おにーさんも飲んでくださいよ。私たちだけじゃあ話も弾まないでしょう?」

「そうだね。そうしよう。――この出会いに乾杯、ということで」

 

 飲み比べも戦と思えば、手は抜けない。

 自らの酒量はわきまえている。そちらはどうかな。お互い、酔っぱらった風にした方が話しやすいと思っているなら、付き合ってあげてもいい。

 

 

 

 結論から言えば、これ以上は有益な情報は得られなかった。送り狼にもならず、無事に宿まで送ってあげたよ。翌日の朝はちょっと気だるかったが、まあ許容範囲内。

 

 次回への布石は打った。最後まで名を聞かずに済ませたのは、その一つ。今度会ったら、名前を聞く体で、もう一歩踏み込んだ話ができるだろう。

 その次は、またもう一歩。気安い関係にまで持ち込める自信はあった。情報を精査する時間がいるから、たびたび会いに行くことは出来ないけれど。

 もし彼女らの仕事が本当に諜報で、軍事目的のための情報収集を命じられていたとすれば。

 きっと、二三度は会う機会を作れるだろう。それはきっと、我が国にとっても、ザラ隊長にとっても都合のいいことであるはずだ。

 彼女たちに不幸になってほしいわけではない。むしろ全ての女性は幸福になるべきだと、私の中の男性的なものが叫ぶけれど、やっぱり優先順位と言うものは付けないとね。

 

 身内と他人を同等に見ることなんて、私にはできない。博愛主義は趣味じゃない。兼愛? 知らない子ですね……。

 私にとっては身近の人の幸せが一番、次にこの国の人々が幸福になってくれることを願う。他国の人への配慮は、その次なんだ。だから必要なら、あの可愛らしい二人も、使い潰す覚悟はできているよ。

 

 私はきっと、地獄に落ちるに違いない。

 一度死んでいながら、生まれ変わった身で、他愛のないことを考える。自虐もまた贅沢だと思い直して、仕事に向かった。

 

 どうか、世界が優しくなりますように。そう祈る権利くらいは、私にだってあるだろう。

 そう信じて、私は今日も生きています。まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝、訓練が始まる前の時間帯。

 クッコ・ローセ教官は、教え子の墓を回っていた。久々に、死者を悼む気持ちを思い出したからでもある。

 モリーから受けた影響が、彼女を行動に移させた。きっかけがなければ動けぬほど、教官の心中では触れがたい出来事でもあったから。

 すべて回った後、訓練場へ向かおうと思ったのだが、まだ勤務時間には早い。もう少し、散歩するのもいいだろうと思う。

 墓参りをして、少しだけ気分も晴れた気がした。少なくとも、今後は後ろめたい気持ちを覚えずにいられるだろう。いい機会を与えてくれたモリーに、感謝の気持ちくらいは伝えてやってもいい。それくらいには、彼女も考えていたのだが。

 

「なんだ。今日は早いな」

「クッコ・ローセ教官こそ、今日は妙に早いですね。墓地の近くで出会うなんて、割と意外性ありますよ」

 

 クッコ・ローセと顔を合わせたのは、まさにそのモリー本人だった。

 勤務時間にはまだ早いが、このワーカーホリックには時間帯など関係ないか、とクッコ・ローセは思い直す。

 

「しかし、訓練場に用事があるってわけでもないだろう。どこに用事だ?」

「いえ、たいしたことではありません。少し確認を。ちょうどいい機会ですから、この場で話しておきますか。――訓練中、小鳥の鳴き声がうるさいかもしれませんが、叩かないであげてくださいね」

「へえ、小鳥がいるのか」

「はい。ウチの庭師から、そのように聞きました。かわいそうですから、見逃してあげてください。木の枝で適当に休んだら、また飛び立ちましょうから」

 

 そうかそうか、とクッコ・ローセはうなずいて、了承した。むやみに追い立てては、小鳥がかわいそうだろうと、彼女も同意する。

 『小鳥』『庭師』『見逃す』――ありきたりな符丁ではあるが、この場ではそれで十分。どこの誰が訓練を拝見していたとしても、どうでもいいという話だ。

 

「わざわざ小鳥を追い回すほど暇でもないから、別に構わんさ」

「ありがとうございます」

「気にするな。私は鳥獣の狩猟免許も持っていないからな。言われなくても無視してやるよ」

 

 探りを入れてくるであろう、あの二人も。これで、安全は確保できたことになる。

 見知った顔に容易く消えられては、流石に目覚めが悪いものだと、モリーは内心そう思っていた。

 

「用件はそれだけか?」

「はい。教官の散策の邪魔をしてしまい、申し訳ございません」

「そう気を使ってくれるな。勤務時間前だぞ。友人として接してくれていい」

「……友人。ですか」

「嫌かな?」

「まさか。――ええ、はい。貴女がそう望むのなら、そのようにしましょう」 

 

 まだ少し態度が硬いな、とクッコ・ローセは思うが、指摘したところでどうにもなるまい。

 付き合いを続けていくうちに、変えていけばいいことである。その程度の手間を許容してやるくらいには、彼女はモリーを得難い存在だと認識していた。

 

「なあ、モリー」

「はい」

「ありがとな。前の、酒の席での話なんだが。……なんかさ、ようやく吹っ切れてた気がしてな。勤務時間まで少し時間があるし、一緒に歩かないか?」

「はい。よろこんで」

 

 この齢になって、年下の友人ができるとは思っていなかった。だから、クッコ・ローセは柄にもなく、ただの散歩だというのに、いちいちモリーを意識してしまうことになる。

 あるいは、昨夜の酒でも残っていたのか。特異なシチュエーションに、高揚でもしたのか――と。己の感情を理解するのにも、時が必要であった。

 

 対するモリーはと言えば、ただひたすらに喜んでいただけだが。

 気にかけている相手から、正式に友人扱いされ、傍にいられる。同じ環境を共にしてくれていると思えば、モリーは天上にも上る様な感覚を覚えていた。

 

「いいですね。こういうのも」

「何だ、いきなり」

「今生の幸せを、存分に享受しているということです。やっぱり、私は貴女が好きですよ、教官殿」

 

 馬鹿を言うな、と。

 わずかに頬を染めながら言うクッコ・ローセを、残念ながらモリーは目にすることができなかった。

 あまりの尊さに、モリーは彼女の顔を見ることさえ、躊躇っていたからである――。

 

 

 

 




 おかしい。どうして私は、こんなに頭を使っているのか……?

 頭からっぽにして、ちのうしすうをさげながら書くことを覚えたはずなのに、いつもの調子に戻っている……?

 次こそは、バカ話をしてみたいものです。あんまり真面目な展開ばっかりでは、原作の持ち味を活かせないと思いますので。

 色々悩ましいですが、もうちょっと続きます。では、また次の投稿でお会いしましょう。



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