24歳独身女騎士副隊長。   作:西次

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 毎回ギリギリで、本当にこれで十分なのかと疑うことも、もう癖のように感じてしまいます。

 とにかく色んなことを事前に準備して、備えている。そういうお話になりました。
 まだまだ不安な部分はありますが、どうにかこうにか話を畳もうと、努力しています。

 ここまで付き合ってくれている読者の皆様には、感謝しかありません。よろしければ、今少しお付き合いください。



東方に向かうまでの準備的なお話

 モリーは語るべきことを語ったつもりだったし、彼女たちも理解を示してくれた。それだけで終わったのなら、物語はきれいに収まっていたことだろう。

 けれど、現実は厳しいもので。モリー自身もそうだが、妻たちの方も不安を共有せずにはいられなかった。

 少なくとも、ありきたりな行動だけでは済まされない。夫の考えは別にして、彼女らは彼女らなりに考えていたのである。

 

「もう寝たのか。いや、無理もない。モリーはモリーで、今後のことで頭がいっぱいだろう。――今はそっとしてやるのが、妻の務めだろうさ」

「そうね。私もそれは同感。私達では想像もつかないような、遠い未来のことを考えているんでしょうよ。……割り切ってしまえば楽なのに、不器用な事ね」

「メイルも私も、そんなモリーに惚れたんだ。不器用で良いじゃないか。これ以上、競争相手が増えても困るし、何より私たちが補助できる分野がなくては、こちらだって気後れするじゃないか」

 

 モリーの家では、当人は一番早く眠りに入る。誰かが同衾する時は別だが、そうでないときは妻たちが集って良からぬ企みをしたり、愚痴をこぼし合ったりするのが日常だった。

 この場には、モリー以外の全員が残っている。誰もが彼女を『寝かしつけて』やりたかったが、モリーもまた深い悩みの中にいる。

 それを察して、今夜ばかりは一人にしてやるだけの情けを、この場の誰もが持ち合わせていた。

 

「あるいは、これは我々の試練と取るべきなのかな。モリーと人生を共にするだけの価値が、私達にあるのか? という――」

「ザラ。貴女はモリーの妻になってから、ちょっと変わったのかしら。そんな詩的なことを言う性格じゃなかった気がするんだけど」

「変りもするさ、お互いにな? メイルも教官も、たぶんクミンだってそうだろ? 皆が皆、モリーと言う唯一の個性に触れて、変化したんだ。……いい方向に変わったと、そう言ってもいいだろう。誰も彼もが、彼女に感謝している。違うかよ?」

 

 違わない、とメイルは肯定した。肯定を当然のものと受け入れたうえで、ザラは付け加えるように言う。

 

「それはそれとして、メイルの方こそ東方への出向を本気で検討するほど、上昇志向は強くなかったはずだな? 賭けても良いが、東方から帰ってきたとき、私達の政治的立場は強化される。……望むなら、部隊長どころか市長や支部長くらいは任せてくれるかもしれんぞ?」

 

 今でもモリー家は、クロノワークの軍隊内では相当に顔が利く面子がそろっている。

 しかし、今回の任務が本当に東方出向であり、それを首尾よくこなして帰ってこれた場合にどうなるか。

 ――状況次第だが、一つの派閥として、国家中枢で幅を利かせることすら可能になるかもしれない。

 ザラには、その将来の風景が微かながらに見えていた。メイルもまた同様であったから、軽い口調で笑い飛ばすように言う。

 

「冗談! モリーがそうしてくれって言うならともかく、自分から面倒な仕事に関わりたくはないのよね。――軍官僚ならまだしも、文官として政治に直接かかわりたいとは、あんまり思ってないのよ。私個人をいうなら、教官職への転属がせいぜいでしょ。これでも、武の方に偏っているっていう自覚くらいはあるしね」

「本当にそうかな? 私なら、メイルにはもっと複雑な仕事を与えて、こき使ってやりたいと思うぞ」

「それが嫌だから、適当なところでお茶を濁したいのよねぇ……。出向して、ここに帰ってこられたら。いっそ退役してしまおうかしら?」

「我が家の専業主婦になるわけか。――あのメイルが、と思うと感慨深いな」

「それはお互い様よ。ザラだって、いずれは軍をやめる時が来る。その時は、貴女だってモリー個人を拠り所にするでしょう? 私も、貴女も、きっと本質は変わらないわ」

「まさに。……いや、冗談抜きで、本当にそうだな。まったく、罪な奴だよ、モリーは」

 

 まだまだ語り足りないとばかりに、ザラとメイルは言葉を交わし合った。

 モリーを寝かしつけたら、妻たちの暗闘の時間である。夫に無用の心労をかけまいとする気遣いがある一方で、詰めるべきところは詰める。

 その必要性を感じ取ったなら、とことん追求するくらいには、彼女らは強かであった。

 

「まあ、なんだ。メイルは書類仕事もそこそこできるが、一番注目すべきは動物的本能というか、直観力だからな。実戦ではもっとも頼りにしたいし、我が家の生き残りのためにも、その才能は活用してほしいと思う」

「頼りにされるのは嬉しいから、期待には応えたいところだけど――。口で言うほど、モリーは心配してないんじゃないかしら。きっと何とかなるって信じているし、個人的な感想を言うなら、今回の件は悪い流れではない――とも思うの」

「理論的に説明できることか? だとしたら、この場で語ってほしい所だが」

 

 メイルとザラ、それにクミンとクッコ・ローセもこの場にそろっている。

 モリーの家庭内で大事なことがあるなら、一人として除け者にしていいわけはない。それくらいには、皆が皆を尊重していた。あるいは、その事実こそがモリーの人徳を表しているのかもしれない。

 

「クッコ・ローセ教官。それに、クミンだっけ? ……私の結論を言う前に、意見を求めてもいいかしら」

「いいぞ。どんな意見が入用だ? 私に応えられることなら、率直に答えてやるぞ」

「私も大丈夫です。……ただのハーレム嬢が、的確に答えられることなんて、そんなに多くないと思いますけど」

 

 クッコ・ローセは不敵に、クミンは苦笑しつつメイルに応えた。クミンは最初こそぎこちなかったが、今では普通に会話に混ざれるくらいには、打ち解けていた。

 

「ハーレム嬢という経歴は、必ずしも悪いものじゃないさ。ザラもメイルも喪女に片足突っ込んでいた身だし、私だって褒められた身の上じゃない。お前は私達にはない視点を持っている、という意味でも重要だ。是非その知見を活かして、モリーの力になってやってくれ」

「クロノワークでは普通なんでしょうが、他国では風俗嬢なんて、あんまり歓迎されない立ち位置なんですけどね。皮肉に聞こえない辺り、本気でおっしゃってるんでしょう。……それを素直に受け入れる程度には、私も毒されている、と。皆さんがおっしゃる通り、まったくもって、モリー殿は罪な人です。どれだけ多くの人の運命を変えれば気が済むのでしょうね?」

 

 クミンは呆れたような口調だが、クッコ・ローセはそれを彼女なりの賞賛と理解した。

 ならば共存は容易だと見て、話しを進める。

 

「とりあえず、協力する意志があると見なそう。状況は複雑だが、モリーだけに注視するなら我々がやるべきことは単純だ。――あいつに付き従って、あらゆる厄介事を処理していけばいい。四人がかりでやれるなら、出来ないことは何もないだろう」

「元ハーレム嬢の私にできるのは、人脈を弄ることくらいのものですけどね。皆さんほど、直接的な助けにはなれないでしょう」

「それが大事な場面も出てくるかもしれん。直接的ではなく、間接的なやり取りが大事になる状況は、軍事的にも政治的にも珍しくないことだ。……私は教官職を務める中で、それなりの経験を積んでいる。お前にも、お前の所属する組織にも、モリーに投資すべき理由はあるだろう? 出来る範囲で良い。協力してくれ」

「望まれるなら、もちろん。私なりに、可能な限りの協力を約束させていただきますよ。……個人的に、モリーさんに情も感じていることですしね」

 

 肯定的な反応が返ってきたなら、次は具体的な問題に話し合えばいい。諸々の意見が出そろったところで、メイルは、ザラに目配せしつつ、己の見解を述べることにした。

 目配せした時点で、意図は伝わったと見る。――ここで大事なのは、クミンがどこまで信用できるかだ。

 クッコ・ローセもシルビア妃殿下とのつながりは深いが、明確にこちら側であることは疑いない。クミンだけは、その所属組織からしてシルビア妃殿下とのつながりを否定できない。

 よくよく観察して、動向を把握しておくべきだった。微妙な話題を振って、その反応を見ることで、意図を図る。

 そうした感情の読み取りに関しては、ザラの方が得手とするところだ。メイルには、それがわかっていた。ザラがここで口を挟まないということは、当面は信用できるということ。

 ならば、正直な見解を述べても良い頃合いだろうと、メイルは判断した。

 

「率直に意見を述べてくれたこと、感謝するわ。誰も過剰な不安は持っていないし、必要とあらば出来る限りのことはするっていう覚悟もある。だったら、ここはモリーの作った流れに沿って、そのまま上手に乗りこなすのが一番でしょう」

「根拠のない直感でモノを言っているなら、かえって不安になってしまうぞ、メイル。もう少し、言葉で補強してもらいたいんだが」

「ザラは何時だって慎重だし、退路を確保する癖がついてるんでしょうね。――だから、私もそれには配慮しましょうか。率直に言うなら、モリーの力量を私は信じているし、これまでの実績も本物だと思っている。それは王妃様も、シルビア妃殿下も同じだっていうこと! お二人の志向を考慮に入れるなら、これ以上の保険はないと思うのよね」

「お二方が、もしもの時はモリーの為に動いてくれるって? だから心配ないんだって言うなら、お前は王家と言うものに幻想を持ちすぎだぞ」

 

 結局は人任せか、とザラは厳しく指摘する。期待をかけるのは良いが、常に相手が答えてくれるとは限らぬ。

 楽観的に受け入れるには、状況は不透明に過ぎるではないか。そう言われれば、メイルとしてもさらに言葉を尽くさねばならない。

 

「勘、っていうのは言語化が難しいものだけれど……。なんていうか、東方がきな臭いっていう感覚は、ずっとあったのよ。だから、ここで早めに対処するのは間違ってないはず。――実際に王妃様とモリーが動いているんなら、私の勘の裏付けにもなっていると思うの。人任せにしたまま、モヤモヤを抱えていくのも気持ちが悪いし、皆も一緒なら大きな失敗はないと思う。後、これは単純な事実として――私たち以外に、東方派遣の仕事を全うできそうな人材はいないでしょ」

「五年後、十年後ならばともかく、現時点では確かにそうだな。メイルの意見は分かった。……おおよそ希望的観測だが、かえってそんな曖昧な楽観で望むほうが、余計な力が抜けていいかもしれん」

 

 それなりに論理的ではあるが、やはり先行きが不透明であることに変わりはない。とはいえ皆が皆緊張して、気を張り詰めるのもよろしくないだろう。

 メイルくらいは楽観的でいてくれた方が、家庭内の空気も良くなる。そうした意味で、ザラは彼女を信頼していた。

 もちろん、信頼の度合いで言うならモリーが一番ではあるのだが。

 

「そうそう、モリーはこの流れをどこまで想定していたと思う? 私個人としては、なくはない、程度には考えていたと思うんだけど」

「同感だな。そうでなければ、あれこれと余計な献策などするまい。あいつは、無駄なことは嫌うし、いらん面倒は避けるやつだろう。――あえて厄介事を引き受けに行くとしたら、よほど大事な理由があると見るべきだ」

 

 メイルの言葉に、ザラがまず共感を示した。これにクミンと教官が、所感を述べる形で補足する。

 

「メイル殿と、ザラ殿に賛成します。一介の風俗嬢として応えるなら、モリーさんは献身的な男性に近い感性をお持ちです。気遣いの仕方が男性的なんですよね。――きっと、未来のこととか、大局的な観点から、ここで大きく動くべきだと判断されたんでしょう。果断なのは結構ですが、行動してから私たちを気遣う辺りが、とても男らしいと思いますよ」

「ついでに言うなら、モリーは私たちを巻き込むことを避けなかった。躊躇があったにせよ、共に行くことを決断した。その部分は真面目に評価してやりたいな。……だからといって、今すぐできることは多くないがね」

 

 クッコ・ローセは、政治事情に疎い。軍事方面からなら考察も出来るが、状況を把握してもモリーが抱くような懸念について、共感することは難しかった。

 

「ザラ、この中ではお前が一番の情報通だ。今回の件について、何か知っていることがあるなら、ここで共有しておくべきだろう? モリーが悩むほど、東方と西方の関係は難しいのか? 私にはピンとこない話だし、全てが杞憂であると信じたいところだが」

「……この件に関しては、モリーこそが一番の専門家ですよ、教官。正直、彼女が言ったことの裏付けは、取れていません。言っていることには、それなりに筋が通っているとは思いますが――」

「結局、全ては王妃様の決断次第、か。私たちにできるのは、そなえることだけ、と」

 

 ザラとクッコ・ローセがそう言って、結論が終わりそうなところに、クミンが口を挟む。

 

「皆さん、東方に出向することは、ほぼ確定って見込んでるんですよね。まあ、個人的にはどっちでもいいんですけど、行くなら行くで一つ、問題が出てきませんか?」

「後任については、各自でどうにかする目算がついているし、あちらでの生活に不安はあるけど、そこは適応できる自信はあるし――。どんな問題かしら?」

 

 言語と文化、さらに職場や生活環境の変化は、確かに大きな問題である。ただ、そこは周囲のサポートもあるだろうし、自分たちだけが辛いわけではない。

 そのようにメイルらは感じていたが、クミンだけは別の視点から指摘できることがある。

 

「私たちの家庭の特異性って、自覚ありますよね? 女だけの家って、西方でもかなり珍しいほうですけど、東方ではどうでしょう。――たぶん、いろんな意味で注目されるんじゃないでしょうか」

 

 クミンの言い方は穏やかだったが、それが意味するところを、他の三人も気づいた。

 女性のみで構成されるモリー家は、直系の子孫を残せない。他でもない東方会社の重役が、そうした家庭であるとしたら、外部の者はこれを見過ごすであろうか?

 それはありえないことだ、とクミンは指摘する。だから、心構えくらいはしておくべきなのだ。

 

「……要するに、我が家には付け入る隙があると見なされ、他国者がそこを突いてくる、と。その恐れがあるということかな?」

「まさに。――人によっては、理解が難しいでしょうからね。実際、モリーという特異な個性がなければ、この家庭は成立し得ない。自覚はあるでしょう? お互いに」

「それはそうだ。私もメイルも教官も、あいつだからこそ嫁ぐ覚悟ができたんだぞ。……まあ、他国者に理解が及ぶことではあるまいがね」

 

 話はわかったが、これを弱点とみなすのも馬鹿らしい話だ、とザラは言う。モリー以上に魅力的な男がそこらにいるなら、誰も苦労などしていない。

 ――家庭内なら、それで決着がつく話である。だが、クミンはそれだけは済まない、と警告を発した。

 

「モリー自身に婚姻話を持っていったり、男の存在をほのめかしてくるようなことは、まあないでしょう。……そういう話ではなく、誰がこの家を継ぐのか、という問題です。無理にでも養子をねじ込みに来られた場合、拒むのが難しくなるかもしれません」

「そこまでするような価値のある家かしら? クロノワークの重役って言っても、今限りの話よ? 引退すればそれまでだし、所詮はモリーだけで持っているような家。存続させる意義も薄いんじゃない?」

「メイルさんの意見ももっともですが、そうは見ない人。見ようとしない、無理解な人もこの世には多いだろうってことですね。……まあ、これはモリーさんが将来をどう考えているか、それ次第でもあるんですが」

 

 モリーが己一代だけで終わらせるならば、何も問題はないのだが。それはそれで、彼女が一家で成し遂げた業績を、後世に引き継がせるのが面倒になる。

 モリーに息子、あるいは娘がいるならば、彼女の残した仕事を片付けるにも都合がよく、残した財産をもって新たな事業を立ち上げることも出来るのだ。その可能性を潰すのは、はた目にはとてももったいないことに見えてしまう。

 

「……思うところはあるけど、その対応は後回しで。時が来たら、モリーの方から話を振るでしょ。それから相談してもいいんじゃない?」

「同感だな。というか、そんな後世のことなんて、いちいち考えていられるか。――付け入る隙があると思うなら、突っ込んでみればいい。やけどで済めば運がいいほうだと、相手に思い知らせてやろう」

 

 メイルとザラがそう言えば、この場はまとまった。後のことは後のことだと結論付けて、妻たちは夫の決断を信じる。

 モリーへの信頼が、そうさせた。そうさせるだけのものを、彼女は持っているのだと、妻たちは理解していたのだ。

 それが正しい認識であったかどうかは、未来の歴史が語ってくれることだろう――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんというか、展開の速さに目を回しそうになってます。モリーです。

 ホーストの外交官は、ほとんど時間を置かずにクロノワークにまで飛んできた。意外な話ではあるけれど、ここで時計の針を進められるのならこちらにとっても好都合な話である。

 

 王妃様と、外交官。それに私の三人を加えての話し合いの場は、そのままクロノワークとホーストが、外交的実績を作る場になる。

 記録を取るための書記官は当然用意するが、実際に言葉を交わすのは三人だけ。

 外交と聞けばお堅い話し合いを想像しそうなものだが、実際クロノワークとホーストの関係は良好だ。遠い分だけ上手にやっているともいえるが、気軽に言葉を交わせる土壌はすでに整っていた。

 

 今回は商業的な分野での話だし、あちらは王妃様に媚びを売る形になる。私が参加しても違和感がない程度には、ゆるやかな形式になるだろう。

 外交文書を作成する所まで持ち込めるかどうかは、話のはかどり具合にもよるが――これは急がなくてもいい。

 とにかく今は、草案程度でも構わない。お互いに乗り気になれるくらい順調に進めば、全ては好転するはずだ。それくらいの気合をもって、望むべき場であることは間違いない。

 国家間の条約に近い、拘束力を持つ外交交渉。それだけの権限を任された人物が、正式な辞令をもってクロノワークにやってくる。

 環境が整ったなら話を進めねば損と言うもの。あちらとて、事前に仕込んでおかなければ、ここまで迅速に動けなかったろう。それがわかるから、初めから私と王妃様は作為を疑っていなかった。

 

 つまり、ホースト側もクロノワークの支持が欲しいこと、疑いない。頼りにされているのなら、応えることで信頼も買えるだろう。――利用価値があるうちは、裏切らないくらいの信義も、期待していいはず。

 実際に顔を合わせることになった『外交官』が、よりにもよって見覚えのある相手だったからこそ、余計にそう思った。

 

「随分と早い再会になりましたね、モリー殿」

「そうですね、タラシー殿。何がどうして、護衛隊長が外交官になれたのか。あの時の会話は何だったのか。私には、何とも理解しがたい所ですね」

 

 呆れ気味に、私は言った。この感情に配慮するように、タラシーとやらは優し気な口調で言葉を続ける。

 

「そこは、私どもの不手際であると、率直に認めましょう。――本当に申し訳ない。ちょうど間が悪く、本国から正規の外交官を引っ張ってくる時間がなかったのです。それでもクロノワーク王妃が、今すぐに話し合いたい、と強く迫られるものですから、こちらとしても柔軟に動く余地がなかったという次第でして――」

「自らの不徳を許してほしいのか、責任をこちらに擦り付けたいのか。意見ははっきりさせるべきじゃぞ、タラシーとやら」

 

 この場の主導権を握っているのは、王妃様である。話を進めたい彼女にとって、タラシーの弁明にもならぬ言い訳に、ケチを付けたくなるのも当然であろう。

 私としては、彼の発言の真意を探りたかったが、あんまり出しゃばるのも良くない。王妃様の意見は正当なのだから、ここは話をそのまま続けるのが無難だと考える。

 

「では、責任を果たすためにも、具体的な内容を早急に検討した方がよろしいでしょう。とにもかくにも、私が権限を得てこの場に居ること。大事なのは、それだけではありませんか?」

「道理ではあるがな。……忌々しいが、そなたを責めることに意味がないのも確かじゃ。タラシーとやら、さっそく話を進めていこうではないか」

「はい、ではそのように。こちらとしても、何かしらの成果なしには帰れません。クロノワークの意をくみつつも、ホーストはホーストなりの要望を通しておきたいのです」

 

 我が意を得たり、とばかりにタラシーは笑顔で言葉を続けた。笑顔の裏に何があるのか、私が見極めるべきはそこだろうと、よくよく注視して耳を傾ける。

 

「具体的に申し上げるなら、ホースト・ヘツライ・クロノワークの商業的東方進出について。各国の商人をまとめて、東方で企業を立ち上げること。その企業を通じて、東方交易の利益を参加者全員に公平に分配すること。――それが、我々の目的になります。今回はお互いの認識をすり合わせ、協力し合うための土台を作っておきたいのですね」

「……失礼。私の方から訂正を入れさせていただきます。タラシー殿、その『我々』はホースト・ヘツライを意味するものであって、クロノワークはまだその枠内にないこと。それを明言してください」

 

 おや、と思って口を開く。この時点で一緒くたにされてはたまらない。こちらはホーストの下風に立つつもりは全くないのだから、些細な言葉であっても聞き逃したくはなかった。

 王妃様が積極的に関わるとしても、それは今回の話が終わってからだ。クロノワークの騎士として、外交の場においてもヘツライにおもねるようなことはしない。それを示すための指摘である。

 

「……そうですね。配慮に欠ける発言でした。クロノワークの方々には、これから仲間になっていただくため、手順を踏んでいくと致しましょう。今はまだ、まとめて大枠に入れる段階ではないことを、ここに明言いたします」

 

 内心の舌打ちが聞こえるような、苦渋の含まれた声だった。

 なし崩し的に言葉をまくしたてて、こちらから主導権を奪えれば最上だった。そんな本心が聞こえるようでもある。たしかに先導しているのはあちらなのだから、多少は折れる必要もあろう。

 

「結構です。こちらこそ、ぶしつけに口を挟んだこと、お詫びします」

「……いえいえ、お気になさらず。同じ西方の国家とはいえ、お互いに国民性の違い、文化の違いと言うものもございます。多少の無礼は気にせずいきましょう」

 

 タラシーのもって回った言い方は、自らの責任を回避するためのものだろう。それを許すくらいの度量は、王妃様にも私にもある。お互いに、とまで言ったのだから、有言実行してくれるならば文句はないとも。

 とにかく私は、適当なタイミングで横から口を挟む。それくらいの役割はできるつもりだった。そして王妃様も、私に続いて意見する。

 

「しかし、なんともまあ、随分と分厚い資料を持ち込んでくれたものだ。これでは、目を通すだけでも一苦労じゃぞ」

「長く厚い情報の量は、そのままこちらの誠意であるとご理解ください。――もちろん、目にするだけの価値がないとおっしゃられるなら、無視するのも王妃様の自由であります」

 

 一言いいたくなる程度には、彼が持ち込んだ書類の束は大きい。時間がなかったとはいえ、せめて対面前に提出しておけよ、とケチを付けたくもなろう。

 しかし、タラシーは平然と誠意である、とまで言い切った。強気に過ぎるが、それもまたホーストなりの外交態度なのだろうと、王妃様は受け入れる。

 

「馬鹿を言え。そちらの誠意を無下にするほど、わらわは愚かではない。……ぶしつけな言い方になったが、今すぐ許せよ」

「はい、許しましょう。繰り返しますが、私はホーストの外交官として、相応の権限をもってこの場に立ち入らせていただいています。お互いに歩み寄ることで、より多い収穫を得たい。私が望んでいるのは、それだけですから」

 

 王妃様が、苦い表情を隠さぬまま、分厚い資料を次々にめくって確認している。私ほど読むペースは早くないが、向き不向きの差もあれば事前知識の差異もある。タラシーがこちらの誠意を疑うことはないだろう。

 

 ――さて肝心の資料の内容と言えば、私が想定していたものばかり。参加する商人たちの名簿と、実際の投資部門と投資額について。それから商館を建設する候補地と、企業を立ち上げた後の商業的な利権等に関してのものだった。

 新しい情報もあるが、そちらは後で精査する形でもいいだろう。現地入りの具体的な時期や、現地の協力者などについては、この場で真偽を確認したところで意味はあるまい。

 そこは、外交官に扮したタラシー自身ではなく、参加者である商人たちと話し合うべきだ。

 

「資料を読み込む時間なら、いくらでも差し上げましょう。私の滞在期間は七日もありますので、今は挨拶のみで終わらせて、また明日にでも話し合うという形でも結構です」

「いえ、タラシー殿。何度かに分けて話し合う、という点には同意します。が、王妃様が割ける時間にも限度がありますし、この場で話せることは話しておきましょう。……そうですね、たしかタラシー殿は、先日私にこう言われました。今ならば、クロノワーク商人とそちらの商人を、同等に扱う用意がある、と」

 

 資料の方でも、確かにそれらしい記述がある。まずはここから進めていこうという私の言葉に、タラシーは応えた。

 

「確かに、それに類することは言った覚えがありますな。ただし、それにはそちらの協力が必要であると、ご理解いただいていると思いますが」

「この場で明確にしておきたいのです。お互いを対等に扱うために、そちらはどのような協力を求めるのか。――正式な立場と環境で、言質を取っておきたいのです」

 

 王妃様に宣伝してほしい、とだけタラシーは言っていた。だが本音を言うならば、もっと大々的に協力してほしい所だろう。

 王妃様の権限は、王への直訴だけではない。王様は王妃様の才覚を知っているだろうから、よほどのことがなければ文句はつけないはず。

 王妃様がその気になれば、クロノワーク商人たちから大きな投資を取り付けることも出来よう。彼がそれを狙っていないとは、私には思えなかった。

 

「ホーストとしては、王妃様が東方への進出に前向きであること。それを国内の商人に宣伝して、我々に同調する同士を増やしていただきたいと考えております」

「それだけではないでしょう? せっかくですから、言うだけ言ってみてはいかがです? ――王妃様は、過剰な要求をしても気分を害する方ではありません。それに見合うだけの見返りがあるならば、あるいは乗り気になってくれるかもしれませんよ?」

 

 タラシーの言は、以前に私が聞いていたものとほぼ変わりない。ただ、それだけが望みではあるまい、と思う。

 その辺りを突いたときに、いかなる言葉が飛び出してくるのか。気になっているのは、私だけではない。王妃様もまた、彼が本音で話してくれることを望んでいるはずだ。

 

「――うむ。モリーの言は正しい。わらわのやる気を刺激してくれるなら、期待に応えてやっても良いな。……タラシーとやらよ、ここが正念場であると思え。半端な物言いをすれば、それがホーストの意思であると受け取るぞ。さて、返答やいかに?」

 

 ここまで焚きつければ、タラシーも後には引けなくなる。それだけのリスクを冒す価値があると、彼も理解しているはずだった。

 王妃様がここまで踏み込んだ発言をする以上、今更冗談では済まない。お互いに言質の取り合いになる。

 21世紀の価値観からすれば前時代的だろうが、今私たちがしている外交とは、そういうものなのだ。

 

「正直に申してよいのであれば、そうですね。ゼニアルゼを除いた東方交易、西方における新たな経済圏の創出こそ、ホーストの狙いであるとご理解ください。そのために、王妃様には国内の資本をなるべく交易方面に投資するように――。率直に言えば、投資を躊躇っている商人たちの為に、まずはクロノワーク王家が身銭を切って、我々を支援してほしいのです」

 

 身銭を切るやり方については、クロノワーク王家が私財で出資金を出すか、来年度の国家予算の中から工面するか、王家につながりのある人物を通じて出資させるか。

 いずれの形でも構わない、とタラシーは言った。そこまですれば、商人たちも王家が本気であると理解し、出資への抵抗も少なくなるだろう――とも。

 しかし、これには流石の王妃様も難色を示す。

 

「これはまた大きく出たな! ええ? お前、自分の言っていることの意味を理解しておるのか。わらわの退路を断つのみならず、あのシルビアに対して、真っ向から喧嘩を売るつもりかよ」

「まさかまさか、そのような恐れ多いことは考えるだけでも恐ろしいことです。――我々は、我々の利益を追求したいだけ。ゼニアルゼを除外するのは、彼らは彼らでやっていけるだけの力があるのだから、あえて仲間に入れる必要性がないという、ただそれだけの理由なのですから!」

 

 芝居がかった言い方で、タラシーは思うが儘に語ってくれた。その事実に誠意を感じないでもないが、彼個人の見解が全てではあるまい。

 こいつが道化を演じる裏で、利益を誘導する存在がいても不思議はない。私としては、その危険性について追及せざるを得ないのだ。

 

「新たな経済圏の確立は、紐帯の成立も意味する。――武力ではなく、物流と交易を主軸にした新しい西方秩序。ゼニアルゼに先んじて、ホーストが狙っているのは、そういうことなのですね?」

「……モリー殿が何をおっしゃっているか、私にはわかりかねるのですが。王妃様は、ご理解なされているのでしょうか?」

「いいや、初耳だな。――おい、モリー。ここは公式な外交の場ではあるが、ここで聞き逃すとよろしくない展開が待っているような気もする。おぬしの意見について、まずは追求させてもらおうか」

 

 この辺り、きちんと定義しないとクロノワークとしての協力は難しいかもしれない。

 私の解釈が正しいかどうかは、タラシーが答え合わせしてくれるだろう。すっとぼける余地を残さないくらいには、明確に言語化してやるつもりだ。

 

「ゼニアルゼをなぜホーストが除外したのかと言えば、それはあちらの狙いに乗りたくないからでしょう。ゼニアルゼはシルビア妃殿下指導の下、あの方らしいやり方で西方での地位を確立しようとしている。ホーストはそれを警戒し、別方面に手を伸ばして、独自の勢力圏を確保しようとしているのでしょう。少なくとも、私にはそう見えて仕方ないのですね」

 

 シルビア妃殿下が、いかにして西方支配を図っているのか。私に話してくれた部分も含めて、詳細をこんなところで公開するつもりはないが――。

 外から見ていて、彼女は色々と疑われても仕方ないところがある。西方支配を受け入れさせる方法についても、そろそろ他国が感づいても良い頃合いだ。

 妃殿下であれば、相手の思惑など関係なしに、乗らざるを得ない環境を整えていくはずだ。今回のホーストの動きは、そこから脱却するための悪あがきであると、言い方は悪いがそう言っても間違いではあるまい。

 

「自国の国力向上、勢力拡大を望むのは、国家の性と言っても良い。だから、それ自体を責めるべきではありません。問題は、それをいかにして成し遂げるか、ということ。ホーストは、ゼニアルゼの後追いではありますが、東方交易に食い込むことで、どうにかこれに対抗しようとしている」

「わが国だけではありません。それ自体は、悪いことではありますまい」

「はい。悪いことではない。だから、この場で語っております。――東方交易をホーストが開拓し、その利益を恣意的に分配できるなら、結果として独自の経済圏を創出することになる。新しい交易路と、大規模な物流の維持がホーストの主導によって叶うなら、立派にゼニアルゼの対抗勢力となり得るでしょう」

「ゼニアルゼに対抗するつもりで、東方に向かうのではありません。需要と供給を満たすには、かの一国だけでは手が足りないことでしょう。我々は、結果としてゼニアルゼのお手伝いをすることになる。私タラシーは、そのように認識しておりますよ」

 

 タラシーはうまくこちらの言葉をかわしてきたが、強く否定することも出来ない。

 彼は、経済圏の創出それ自体には言及しなかった。これを肯定も否定もしない態度こそが、ホーストの姿勢を示していると私はみる。

 

「交易を差配することで、ホーストはその影響力が及ぶ範囲において、強大な政治力を持つことになります。東方の企業がどこまで成功するか、それ次第ではさらに勢力を伸ばすことも出来るでしょう。……逆に言えば、新たな経済圏の中では、ホーストに逆らうものは生き残れなくなる。ホーストから利益を受け取っているつもりが、首枷をはめられる結果となる。そうした効果を狙っているのではと、私などは懸念しているのですね」

「モリー、言葉が過ぎるぞ。タラシー殿とて、そこまで政策には関わっておるまい。――我が国の騎士が失礼したな」

 

 ここまで話せば、王妃様とて私を放置しない。遠慮なく言いすぎたかもしれないが、そこは想定内。

 王妃様からのストップがかかったのは、脅しはもう十分、という合図でもある。とりあえずの役目を果たせた以上、とどめは王妃様に譲るべきだろう。

 

「モリー殿はそうおっしゃいますが、国家が独自に生き残りの道を探るのは、そこまで可笑しな話ではないでしょう。……私は、クロノワークとホーストの友好のため、ここにいるつもりです。それに、嘘はありません」

「そうかそうか。ありがたい話よ。――友好には確かな実績が必要じゃ。言葉だけでは心もとない。おぬしが友好の形を明確にしてしてくれるなら、ありがたいのじゃが」

「……その友好のために、今回の件を進めようというのではないですか。王妃様とモリー殿に異存がないのであれば、そろそろ実務的な部分を詰めていきたいですね」

 

 こちらの懸念は横にうっちゃって、とにかく友好が目的なんだということで押し通す。王妃様は、よく相手の言葉を引き出した、と言っていいだろう。

 その手で来られるなら、まあ構わない。こんな話を掘り下げたって、どうせ不毛な会話が続くだけだ。

 

「実務の話か。宣伝をすることも、身銭を切ることも、最終的な決断はまだ引き延ばしてもよかろう。今は、疑問を解消していく段階ではないかな? ――では、モリーよ。そなたから口火を切っていくがいい。わらわは、それを見守るとしよう」

 

 王妃様と目を合わせて、その意向を伺う。鋭い眼光はそのままに、微笑は崩れていなかった。

 私は、このまま攻めていって構わないらしい。――ええ、ええ。私としては、そちらの方がやりやすい。

 タラシー殿、お互いに事情があることはわかっている。後は、お互いへの理解を深めていけばいいんだよ。

 胸襟を開いていこうじゃないか。こちらだって、ただで利用されてやるつもりはないのだからね。

 

「はい。ではタラシー殿。誤解してほしくないので申し上げますが、私もお互いに上手く付き合っていきたいと思っています。王妃様もそうでしょう。……話を進めますが、この資料に署名している商人たちについてお聞きします。彼らが東方で起業するとして、それをいかに統制するのか。具体的な方法について、これには書かれていません。資料の不備でないなら、タラシー殿の方からご説明いただきたい」

 

 統制、というのは言葉が強すぎるかもしれないが、商人たちを野放図に東方に解き放つのはよろしくない。こまごまな理由については、タラシーの前で語りたくはないので省く。

 いざと言うとき、手綱を握ることで回避できる争いもあるだろう。その分、動きが遅くなったり単調になったりするかもしれないが、長い目で見ればその方が安定するはずだ。

 対策を打つつもりがあるなら、ぜひ意見を聞いておきたかったのだが――。

 

「統制とは驚きました。クロノワークでは、商業を武力で押さえつけるのが当然なのですね? ホーストでもヘツライでも、法的に拘束することは出来ても、流石にそこまで思い切った政策は取れませんよ」

 

 わざとらしい言い方をして、質問に答えない。やっぱりこいつ嫌いだ、と思いつつも私は言葉を重ねた。

 

「誤解なさらぬように。経済活動を制限しようというのではありません。――東方で商人たちが武力を持つことは避けられない、と貴方は以前に言いました。持たせた武力を放置するのではなく、こちらで制御する術を持つべきなのです。そうでなくては、商人どもは自己の利益のために、好き勝手に血を流し続けるかもしれない。そうした危機感をもって、私は提案しているのです」

 

 勝手にゼニアルゼに喧嘩を売る真似をされてはたまらない。それだけは避けねばならぬと考えるから、手綱をこちらで握るべきなのだ。だからこそ、クロノワークは武官の派遣まで考えているというのに。

 具体的には、傭兵を統率する部隊をこちらで掌握し、統率できれば一番いい。現場指揮官くらいなら、私でも務めることだと思うから、ここは強く押してもいい場面だろう。

 

「ご懸念はわかりましたが、基本的にこちらから命令を強制する権限はありません。クロノワークから協力を仰いでいる時点で、ホーストにはそこまでの余裕はないとご理解いただきたい。商人どもには、交易に関しては色々と便宜を図っていただきますが、現時点ではそれくらいが限度。現地に出向ける役人も多くはありませんし、我々が手を尽くしても、統制は緩いものになります」

 

 緩いけれども、一応は統制を取る気はあるわけだ。タラシーの言い方は曖昧で、真面目に信じるのが難しい。

 交易への便宜とは、言い方を変えるとホースト国内での商業利用、ということになる。ホースト側が本気になれば、国内での活動を制限することも選択肢に入る、と見てもいいはず。

 交渉材料としてはやや弱いが、一定の統制は取れる可能性があった。タラシーが保証できるのがそこまで、というならば、やはりこちらが主導するべきだろう。

 

「そちらでは、やろうとしてもできない――とおっしゃられる。ならば、クロノワークから出向する武官の格によっては、可能な限り自由に動いて、企業内で権力を振りかざしてよいわけだ。……そうですね?」

 

 そちらにやる気がないなら、こちらが徹底的に切り回してやろう。否定するなら、それなりのリスクを負うが良い。私はそのつもりで、あえて過激にものを言った。

 しかし、タラシーはこれをあっさりと受け入れる態度を示す。

 

「つまり東方での商業活動は、クロノワークが責任をもって、西方社会の利を代表し、彼らを統制していただける――ということですか? ならば、それはそれで願ってもない話ではあります。できるものなら、ぜひお願いしたい」

「……タラシー殿。ホーストは東方進出に対して、懸念事項があっても具体的に対策するつもりがない、というつもりなのでしょうか。だとしたら、この案件そのものに対し、あまりに不誠実ではありませんか」

 

 言質を取りに来た辺り、あちらの手が思うほど長くないことも同時に示している。

 明確な弱点に見えるが、言質を取られて首輪をはめられれば、私個人の恥では済まない。ここは外交の場であり、全ての発言は記録されている。

 多少の無礼やユーモアは許されても、それ以上のことはうかつに口にできるものではないが――。

 限界さえ見切れるなら、ギリギリの線を攻めることができる。果たして、これはホーストが意図的に残した弱点なのか否か? 私は、それを見極めたい。

 

「モリー殿はそうおっしゃいますが、今から講じることのできる対策は、そう多くありません。監視を付けて、必要に応じて手を加える。それではいけませんか?」

「いけないとは申しませんが、土壇場になってからでは遅い場面もあります。事前に仕込めるなら、それに越したことはないでしょう」

「――では、やはりクロノワークにお任せしたい。武名のある貴女にその部分を担っていただけるなら、我らとしても商人どもから利益を巻き上げることだけに集中できる。正式に合意が得られるなら、その方向で調整していきましょう」

 

 いかがです? なんてタラシーは笑って提案してきた。どうも、あちらとしてはそれを当てにして、ここに来ているらしい。

 弱点どころか、それを理由にしてこちらを引きずり込む。ホーストの外交官として、彼は充分に辣腕をふるっているつもりなのだろうね。

 

「モリー殿がこの場に居る時点で、正直貴女が出向してくることは確定的、と思っておりました。クロノワークが誇る特殊部隊、その副隊長の貴女が来てくださるならば、商人どもへの抑えとしては十分すぎる位でしょう」

 

 行くのが私だけではない、ということを知ったら、どんな反応をするだろう。これは出来る限り、奇襲するような形で教えてやろうと思いました。

 その持ち上げるような言い方も気に食わない。へつらうならもっと上手くやりたまえよ。

 

「……武名など、気にしたこともありませんが。そんなに私は有名なのでしょうか」

「知る人ぞ知る、くらいには。――商人の情報網は、あれで侮れぬものです。盗賊討伐からソクオチの反乱騒ぎまで、調べようと思えばそれなりの話は出てきますよ。特にモリー殿は、最近になって名が売れてきたところですからね」

「それは、どうも」

 

 最初からクロノワークの参加と、大きな介入を前提とした外交。相手の方が楽観的過ぎて怖くなるくらいだ。

 共存共栄こそが最大の利益を生み出す――というのは、理想論にすぎない。私はそう思っているのだが、あちらは違うというのだろうか。

 

「とにかく、東方に進出する商人たちとも、できれば協議を重ねたいところですね。王妃様、とりあえずは前向きに検討するということでよろしいでしょうか? ここに至っては、私自身、自分が出張ることを嫌とは言いません」

「そうよな。実際に現地に行く者たちを無視して、実際的な組織構造を語るのはよろしくない。タラシーよ、そういう訳ゆえ、モリーのことはまだ外部協力者くらいに考えておくがよい。現段階で、そこまで詳細に詰める必要もあるまいよ」

「結構です。ただ、私もそれなりの成果を求められる身です。――王妃様の協力について、確かな発言を引き出しておきたいと思います」

「よろしい。宣伝については任せよ。わらわが直々に、国内の商人どもとの話を付けよう。――望む者がいれば、参加を促しても良い。クロノワーク王家が正式に、東方交易を推し進めていくこと。それを明言するだけで、ホーストがこちらの要望を聞いてくれるなら、安い買い物ではないか」

「クロノワーク王家からの出資はありませんか?」

「すぐには答えられぬ。七日間の滞在中に、結論は出せぬ話であると――それくらいは察してくれよ、タラシー殿。おぬしが稼ぐ功績としては、これくらいでも充分ではないか」

 

 私が東方に出向する話は、ここで正式に確定した。もはや受け入れる以外の道はないとわかっていたが、いざその時が来てしまうと、色々と気が重くなった。

 そんな勝手な感慨に浸っている間にも、話は進む。ここまでくると、私も口を挟む余地も少なくなってきていた。

 

「……わかりました。王妃様、モリー殿。我々はよく話し合って、よい成果を出せたと思います。ただし、詳細を詰めることを後日に回した以上、要望をそのまま通すかどうかは、この場で約束することができません。――それ以外の部分でなら、誠実に対応させていただきますとも。我々の誠意を認めてくださるならば、お互いに実のある決定ができるでしょう。私が滞在している間に、建設的な議論をして、外交実績を作り上げることができるなら、それに勝るものはありません」

 

 ……なるほど、誠意か。分厚い資料も、早い対応も、ホーストが本気であればこそ。王妃様も、ここまでされれば無下にするのは難しい。

 あちらはあちらで結果を求めているのだろうが、クロノワークとて外交実績を欲しているのは同じ。ここで雑な態度は取れなかった。

 

「モリー」

「はい」

「東方会社の一件に関しては、全てをおぬしに任せる。タラシーが滞在している間の交渉も、おぬしが主導せよ。わらわは、特別に問題がない限りは口を出さぬ」

 

 これは『東方会社』という概念が、公式の場で使われた最初の例になるだろう。

 王妃様がここまでのことを口にする以上、事態はすでに後に引けぬところまで来たと言っていい。

 私は、息を整えねばならなかった。ここから任される事業は、東方と西方の歴史において、ひどく重要なものになる。その自覚をもって、事に当たらねばならないのだ。

 

「……私にフリーハンドを与えてくださる、と」

「どうやら、おぬしはタラシーに気に入られたようじゃ。ここからはオフレコで頼むぞ、よいなタラシー」

「はい。では、そのように」

 

 私の想いなど一切関知せず、王妃様は自らの都合を優先する。

 タラシーはそれを素通しする形で、書記官たちに目配せをした。彼らが手を止め、直前の発言を記録せずにいること。それを確認してから、王妃様は言葉を続けた。

 

「協力感謝する。――正直に言うならな、東方で会社を立ち上げるくらい、そちらで勝手にやれと言ってやりたいくらいの気持ちだったのじゃよ。それを覆して、わらわをこの場に引っ張り出したのは、モリーの働きが大きい。……わかるか、事前の働きで、モリーはすでにおぬしらに益する行動をしていた。それを理解してもらいたいのよ」

「それは――はい。認めましょう。王妃様がおっしゃられるならば、私としても、その働きを無視することは致しません」

 

 無視をしない、つまり実際的な行動をしてくれるのだと明言したに等しい。

 言質を与えないようでいて、解釈の余地を残す。その隙を、王妃様は見逃さなかった。

 

「では、モリー個人に対しても便宜を図ってくれるであろうな? 『東方会社』の組織において、モリーを要人として受け入れるように。ただの番犬として使い潰すことは、わらわが許さぬ。それを心して、商人どもと向かい合うことじゃ」

「……クロノワークが本気で入れ込む以上、ホーストも楽をせず、運営に口を出せとおっしゃられる。私などがどこまでできるかはわかりませんが、最大限に努力させていただきます。約束できるのは、それくらいですが」

「大変結構! おぬしの実績が、ホーストの実績に直結することをよく考えろよ。おぬしをこの場に送り出した者とて、事業の中途で不祥事など起こされたくあるまい。――せいぜい気張れ、良いな」

「……私は、ホーストの代弁者に過ぎません。具体的な待遇については、持ち帰って検討することも、お許しください」

「良いとも。じゃが、心せよ。くどいようじゃが、そちらから持ち込んだ話であるからには、半端な対応は許さぬ。それこそ、ホーストの信用問題になる故な。――ゆえ、一層の尽力を期待する。タラシー殿も、よくよく上司と協議を重ねることじゃな」

 

 タラシーが滞在している間、毎日こまごまとした話し合いはあったけれど、結局は私の後ろにいる王妃様が終始主導権を握り続けていたと言っていいだろう。……私が王妃様の意を汲んで動くことはわかっているんだから、あの方も人が悪いというか。

 

 しかし、王妃様の威光を利用して、クロノワークの権益確保に努めたのは私の功績だって、胸を張ってもいいだろう。

 七日間で出来る限りの話は詰められたと思うけれど、やはり商人たちを抜きにして語れる部分は限られてしまう。

 本番は、もう少し後になるか。そう思えばこそ、準備だけは万全にしておきたいと思う。

 

『東方派遣は決定事項ゆえ、モリーには出来る限りの支援と、帰国後の昇進を約束する。結果だけを出せ。それ以外は些事と割り切る』

 

 王妃様からは、そんなありがたい言葉もいただきました。王族がここまでの言質を与えることなんて、滅多にないことだからね!

 凄いことだよ。我ながら胃が痛くなるほど光栄で、まったくもって愉快な話だ――と思うことにしました。

 割り切らないと、精神がすりつぶされてしまうからね。仕方ないね。

 

 ――それはそれとして、妻たちから多くの苦言と警告を頂く結果になって、いっそう頭が上がらなくなったことは、後日譚としてはどうなんだろうか。

 西方に帰ってきたら、一生をかけて奉仕しよう。そう思うくらいには、借りを作ることになる。そうした確信が、私にはあった。

 別段負担とも思わないから、全然いいんだけどね。奉仕させてくれるのがご褒美、なんて思うことも出来るよ。

 ……だから、どうか東方が私が思うような、最悪でも中国とインドが混じり合ったような社会であってほしいと願う。

 

 単純に色分けできない情勢であるのは、承知の上。それでも、私の前世知識が役立てられる環境であるならば、主導権を握ることはできるはずだ。

 今生において、私の天運が試されるとしたら、今を置いて他にはない。そう信ずればこそ、願わずにはいられないのだ。

 どうか、幸せな家庭でいられますようにと。いるかどうかもわからない神様にも、祈ってしまうのでした――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 外交なんてものに関わっても、仕事が劇的に変わるわけでもない。もろもろの事案をこなしつつ、日々は無情にも過ぎていく。

 ……とかなんとか言って、この世の無常を痛感するフリをしたところで、私自身は極めてクレバーに未来を見据えたいと思っている。思っているだけで、適切な行動ができるかどうかは別の話なんだけど、なればこそ打てる手はすべて打っておきたいんだよね。

 

 東方派遣が決定した以上、私は取捨選択を迫られている。現状の流れは想定できたことでもあるけど、実際に向き合うことになれば、時間と労力もは馬鹿にならない。

 

 耐えてくれる妻たちには、感謝しかないよ、本当に。

 理解ある我が家の妻たちの献身について。私はちょっと、どころではないくらいに後ろ髪を引かれてしまうのですが。

 ともあれ、承認してくれたのなら、私は私なりに動かねばなりません。日常業務はもちろんのこと、旅立つことを想定して、後継者の育成なり特殊部隊の練度の上昇なり、やるべきことは多くあるわけですねー。

 

 中でも、手っ取り早く処理できることは、早いうちに済ませておきたいものだからね。一日で終わるようなことはすぐに片付けて、少しでも心を軽くしておきたかったんだよ。

 確保していた駒と向き合う機会としては、今くらいの時期がちょうどよかったと思う。

 

「――とまあ、そういうわけで頭目殿。貴殿の扱いは、私に一任されているのですね。念願叶って、懲役も罰金もなしに社会復帰が叶うのだから、少しは感謝してくださいな」

「よく言う。名目を盾にこき使う気だろう? だとしたら、こっちからも要望は聞き入れてほしいものだ」

「希望があるなら聞きますとも。こき使うこと自体は、本当ですから。なるべく気持ちよく働いてもらうためにも、環境は整えさせてください」

「なるほど、俺にお前の下で働け、というのか。いや、もちろん嫌とは言えん。――よほど理不尽な仕事でなければ、真面目にやってやるさ。俺は長生きしたいんだ、これでもな」

「生存欲求が旺盛なのは、いいことです。人間、追い詰められるとあっさり諦めますからね。……貴方がそうでないのは、私にとっても朗報です」

「御託はいい。俺に何をさせたいのか、率直に話せ。死なない範囲でなら、協力してやろう」

 

 そうして率直に経緯を説明すると、盗賊の頭目だった男はすぐに理解を示した。

 東方会社に出向くことも、納得してくれた。彼を個人的な部下として使える体制は、ここで整えられたと言える。

 書類を見せるようなことはせず、全て口頭による説明だったが、一度聞けばおおよそ事態を把握したらしい。

 ……証拠になりえるものは、残せない。そうした裏事情まで、きっとお察しされてるんだろうね、これは。

 

「貴方はクロノワーク商人の一人として東方へと向かい、割り振られた仕事をこなしてください。余裕があるなら、個人的な取引も許しましょう。――倉庫に専用のスペースと、信用できる貨幣商を紹介できると思います。商人として稼いだ分については、税金を除けばそのまま懐に入れてくれて構いません。後は、時々こちらの要望にしたがって、仕事をしてくれるだけでよろしい。……私個人の意向としては、貴方を雑に使い捨てるようなことはしたくないのですね。それだけは、確約いたしましょう」

「ありがたい話だが、確約してくれるんなら誓紙が欲しいな。使い捨てない、なんて言葉だけで信用するのは、ちと難しい話じゃないか。おい」

 

 挑戦的な笑みで、彼は私と向かい合った。男を拘束はしていない。そんなものは意味がないと、お互いにわかっている。

 彼我の実力差を理解するくらいには、頭目の男は察しが良い。私ならば、素手であろうと彼を殺せる。この場で不意を打たれても、適切に処分できるだけの自信が、私にはあった。

 

「書面で身分の保証をしろというなら、そうしましょうとも。――後日、貴方の身分証明書が届きます。犯罪の経歴のない、一般的な商人としての立場が与えられます。それでは不満ですか?」

「それは結構なことだな! ……ふん。これ以上を求めるのは、上手くない手だと俺にもわかる。ああ、受け入れてやろうさ」

 

 誓紙を渡す、とは言わない。無罪の証明はする、とだけ答える。私は誠実に彼と向かい合っているつもりだった。だから、決して嘘は言わない。

 論点をちょっとだけずらした言い方は、意図的なものだ。そこを突っ込まれると、お互いに不幸なことになると思うので、そっとしてくれると嬉しいんだ。受け入れてくれるのなら、その賢明さは評価するよ。

 

「ところで……お前さん、どこかで盗賊団を潰さなかったか? たった一人の金髪の女騎士が、数十人の盗賊どもを殺し回った話を、少し前に聞いた覚えがある」

 

 私の内心に気づいてか、あるいは別の方向に興味が行ったのか、頭目の男は話題を変えてきた。

 あちらの意図はわからないが、ここで嘘をつく意味もないだろう。正直に答える。

 

「どうでしょう? あいにく、盗賊の生き死になど覚えておく価値もないことなので。排除した障害のことなど、すぐに忘れるようにしています。……クロノワークの女騎士、それも隊長格であれば、それくらいは当たり前に出来ますから、別段自慢にもなりません。誰かと混同していたとしても、可笑しくないと思いますよ」

 

 数十人の賊相手なら、環境さえ選べるなら、ザラでもメイルさんでも出来るだろう。

 クッコ・ローセは教官職で現役兵じゃないし、昔何かあったらしいから、難しいかもしれないが。まあ当人はもう気にしてないみたいだし、今更話題にすることでもあるまい。

 

 私は――どうだったかな。そのうち思い出すかもしれないけど、真面目に考えることはない。どうせ、こいつも場を和ませる軽口として、言っているに過ぎないんだから。

 

「いずれにせよ些事である、と答えておきましょう。とにかく細かいことはすぐに忘れるので、やったかどうか聞かれても、覚えがないというのが本音ですかね」

「……ああ、そうかい。そりゃ悪かったな。馬鹿なことを聞いた。有象無象を殺すことに、何の理由も感慨も覚えない。その手の奴に、これは愚問だったな」

 

 私にとっては、男の寸評など、どうでもいいことだった。男としてはこれでも挑発しているつもりなんだろうが、私は別段どうとも思わないよ。

 覚えていないことをあれこれ言われたところで、気分を害す理由もないし、勝手に納得する分には好きにしてくれたまえ、って感じだ。

 

「いえいえ、お気になさらず。――私は、貴方の直属の上司になるのです。ある程度なら、部下の粗相を許すのも、上司の度量と言うものでしょう」

「元犯罪者の部下に、何をさせるつもりだ? まさか、本当に真っ当に商人をやらせるわけじゃないんだろう?」

「一応は、そのつもりですが。……信用されていないんですね。人を素直に信じられないとは、よほどつらい目にあってきたのでしょう。心中お察しいたします」

「――まあ、いい。今更馬鹿にされたところで腹も立たん。強者が弱者を嬲るのは、当然の摂理だ」

 

 此の程度の諧謔は、軽くいなして見せるか。それくらいの図太さがなければ、商人を偽装することも難しかろう。

 ただ、本音としても、彼には本物の商人になってほしい。彼自身の為ではなく、私の意図する未来のためにも。

 

「では、商いの道で強者となっていただきましょう。――無理なら無理で別の使い道がある、というのは本当ですが、真面目に成功してほしい、と思っているのも本音です」

「その理由と、俺の使い道について、詳しく聞いておこう。……元犯罪者にだって、それくらいの権利はあるだろうよ」

「ええ、もちろん」

 

 私が東方に行った際、使い勝手のいい駒として、こいつを自由に扱いたい。

 伏せ札として、自由に動かせる駒があれば、私は相当幅広い活動ができるのだから。……そして、万が一不祥事が起こった際には、使い捨てても心が痛まずに済む存在。

 そんな都合のいい相手として、この頭目の男を求めた。理由としては、そんなものである。

 もっとも、率直に口出したりはしないが。――表向きの理由だけでも、私が彼を必要としていることは、理解してもらえるだろう。

 

「東方会社――と単純に言ってもわからないでしょうが、先ほど言ったように、貴方には私と共に東方に出向いてもらいます。言葉も文化も違う土地で商業に関わってもらうのですから、私としては、今から勉学に励んでもらおうと思うのですね」

「……俺は貧農の出だ。読み書きは死ぬほど努力して身に着けたつもりだが、貴族的な教養とは無縁の人間だぞ」

「問題ありません。私が翻訳した書物を使います。それを教材にして勉強すれば、当座は取り繕えるくらいの格好はつくでしょう。――そうして東方文化になじめてから、次の段階に入ることになります。肝心の商売については、まあ今は何を売り買いしても失敗はないでしょう。不安なら、周囲の商人仲間に相談しても良いですよ」

「……本気で使い潰すつもりがないなら、いい。俺としても、豊かに長生きできるなら、努力を惜しんだりはせん」

 

 後は、いかにして長く上手に使うか。駒の成果については、私のやり方次第と言ったところだろう。

 手綱を締める手段は、常時確保しておかねばなるまい。それくらいの曲者でなくては、わざわざ手間をかけて使う価値もない。

 クロノワーク商人に紛れさせ、適度に収益を上げていく手腕については心配していなかった。荒くれを統率し、必要に応じて切り捨てるだけの決断力もあるならば、商才を身に着けることも難しくなかろう。

 稼ぎ時と、ねらい目の投資先、損きりのタイミングをある程度指定してやれば、勝手に成功するに違いない。

 私が現地にいち早く溶け込んで、情報の優位を確立することができたなら、それくらいの便宜は図れる。

 

 ここで重要なのは、私が個人的に動かせる、クロノワーク出身の商人が会社に参加することだ。ミンロン女史は、気軽に使えるような立場じゃないからね。

 

「今後の計画について、詳細に詰めていきましょうか。行き当たりばったりで行動せねばならぬ事態だって、想定される環境です。――直通の連絡網を整備して、いつでも動向を確認できるだけの環境は、維持するようにしましょう」

「俺の監視は外さないぞ、と。率直に脅しにかかったらどうだ。わざわざ遠回しに言わなくとも、こちらに抵抗の術はないんだぞ」

「あいにくですが、私は他人を過小評価する癖は持っていないんですよ。……どうか、目の届くところに居てください。そうであればこそ、お互いに支援し合えるというものでしょう?」

 

 出自ゆえに、政治工作、あるいは荒事に用いることを考えてもいい。頭目の男には、使いようがいくらでもある。

 だからこそ支援は続けたいし、手綱は放したくない。そうした雰囲気を男も感じ取った様子だった。

 

「なるほど、なるほど。――少なくとも、俺に最低限の投資はするつもりらしい。継続してくれるかどうかは、あんたからの恩情次第ってところかね」

「……否定はしませんが、私以外の人員には、取り繕うことを覚えるように。誰も彼もが、嘘偽りなくふるまってくれるわけではないんですからね」

「わかっているとも! ビジネスパートナーとしては、あんたは善良な部類だろう。――まあ、俺が商人として成功できるかどうかは、保証できんがね」

「心配ないと言っても、たやすく信じてはもらえませんか。……とにかく、まずは挑戦してみることです。何事も、行動しなければ結果はついてきませんよ」

 

 そこらへんはこちらでサポートするし、最悪損失はクロノワークが負担する。私から必要経費だと王妃様に直接申し入れれば、拒否されることはあるまい。

 せっかく取り寄せた駒なんだ。たやすく使いつぶれてしまっては、そちらの方が拍子抜けというもの。

 

 私は、こいつを長く利用したい。こいつは、私を都合よく踏み台にしたい。

 とりあえず短期的には、相互互恵の関係が成り立つ。それくらいの目算は、お互いに見定めているのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっと前のオサナ王子とエメラ王女の巡行は、政治的な事業である以上に、商業的な意味合いを持っていた。

 たとえ成人前であろうと、王族と言うものは、常に義務を背負っているものである。そろそろ外遊も許されていく年頃であるし、これからはどんどん外向けの仕事も任されるようになるだろう。

 

 特にオサナ王子は、誇り高く自覚も強い。自らに課せられた義務を、疲れるから、嫌だから、なんて感情で拒否したりはしない。

 しないが、それでもストレスはたまる。巡行そのものが負担と言うよりは、それに伴う他国人との交流が、慣れないお二人には辛いらしい。

 エメラ王女は楽観的な性質だが、仕事も含まれる外遊行事は、自由が利かない分不満が多いらしい。オサナ王子に絡みたがるのは、その退屈を埋めるためでもあるのだろう。

 そして平時においても、お二人は互いを意識している節があった。この辺り、言葉にするのは難しい所だが、仲が良くて結構なことだと個人的には思う。

 

 だから自分に何かできることがあるのなら、出来る範囲で協力してやりたくなる。

 何を言いたいかと言えば、お二人が息抜きの為に、是非にもと希望したのが、私の授業であり――。

 私がオサナ王子にエメラ王女、両者と久しぶりに向かい合ったのは、そうした教育の場であったわけですね。

 最近はお互いに忙しくて、特別に時間を取ることも出来なかったからね。思っていたよりも、自分が好かれているという事実にまずは驚きましたが。 

 

「せっかくだ。後の授業は、僕の希望に沿った形にしてくれないか?」

 

 一通りの義務的な講義を終わらせると、オサナ王子はそんなことを言い出した。

 義務的って言っても、彼はそれなりに私の授業に興味を示してくれている。積極的に質問したり考察を求めたりと、やる気は充分。

 他の先生が絶対やらない分野――シルビア妃殿下の業績とか、その事後の政策についての評価とか。

 割と政治的に微妙な部分も恐れずにやっているからね! 刺激に満ちているのは、確かだった。

 

「お望みとあらば、是非もございませんが……御題は何を?」

 

 だから、ここでさらにオサナ王子が踏み込んでくるのも、それはそれでわかる話である。

 実際的な政治の話なんて、まともな教師は扱いたがらないはずだ。自らの地位や進退について、私は気にせずにいられる立場にある。

 それがわかっているから、彼も遠慮なく自分の要望を通しに来るんだろう。

 

「現状に関係のある話をしよう。――ホーストが何やら怪しい動きをしていることは、僕も知っている。ヘツライなども関わっているらしいが、東方交易はよっぽど儲かるらしいな。モリーには、この東方交易が西方社会にいかなる影響を及ぼすか、是非講義してもらいたい」

「あ、私も興味ある。東方交易は、お姉さまも関わっているのよね? オサナ君もそのうち関わっていくなら、私も知っていて損はないと思うの」

 

 僕の将来にも、大きく関わりそうだからな――と、オサナ王子は言いました。

 それに乗っかる形で、エメラ王女も強く肯定する。……仲がよろしいことで、結構なことだとは思うけれど。

 今このタイミングで、東方交易に関わる授業をする。そこに実務的な内容を入れ込んでしまうと、王妃様の不興を買いかねない。今は微妙な時期だから、情報漏洩に繋がることは避けるべきだ。

 私の態度も、自然と慎重なものになる。とりあえず、今回は基本的な部分を、ほんのさわりだけを伝えるだけにしておこう。

 

「でしたら、まずはホーストとヘツライの関係について。これをざっと解説しましょうか。どちらが主で、どちらが従なのか。これを明確にしておけば、東方交易の外交折衝についても、理解しやすくなります」

「……僕が言うのもなんだが、いきなり複雑な話になりそうだ。エメラ王女は僕ほど勤勉ではない、という部分には、充分な配慮を求めたいな」

「ご安心を。そうは複雑な話になりません。――エメラ王女にお尋ねします。ヘツライの歴史について、何かしらご存じでしょうか?」

「ええと……その、ごめんなさい。何も知らないの。勉強熱心じゃないから、っていうのは、言い訳にならないのよね……?」

「いいえ、大丈夫ですとも。ヘツライに関しては、影が薄い国家ですし、クロノワークとの関わりも薄い。第二王女の立場では、知識がなくとも無理はありません」

 

 エメラ王女が率直に話してくれたから、こちらとしても授業に入りやすい。まあ、この年頃の子であれば、そう責められるものではないだろう。

 それに、知らないことを教える。こういう形であれば、私も気遣いなく率直な授業ができる。

 私としても、政治的な立ち回りを求められているという現実について、多少なりとも適応してきているんだからね。――下手なことはしませんよ、ええ。

 

「ヘツライは、言葉を飾らずに言うならホーストの属国ですね。隣接していて、文化的にも商業的にもホーストに頭が上がらない。養える兵は少なく質も悪いので、軍事的にも小国と言って差し支えないでしょう。――併合されてないのは、労力に見合うだけの価値がない上、緩衝地帯としての意味があるから。単純に、それだけの理由で独立を保っているのですね」

 

 クロノワークとはまた別の意味で、ヘツライは独立国家の地位を保っている。その内情について語るなら、どうしても悲しい事実に触れねばならぬ。

 オサナ王子が疑問を自ら述べなければ、私とて残酷な現実について、余計な言葉を重ねたかもしれない。それくらい、ヘツライの立ち位置は難しかった。

 

「もっと直接的な表現をしてもいいんだぞ。時間はあるんだし、詳しく聞いておきたい。――とりあえず、ホーストに頭が上がらない理由について聞こうか」

「はい。では、ヘツライの経済事情について触れていきましょうか。ヘツライの商人どもが、ホーストが主導する東方会社に参加する理由についても、まとめて語ることができます」

 

 ヘツライって、本当に悲しい立場にあるんだね。どれくらい悲しいかって言えば、外国と通じている貴族のお情けで、王家が生き残らされているってくらい。

 ヘツライ王家に生まれるのは、人生かけて罰ゲームをやらされるのと同じなんじゃないかって、私なんかは思うよ。……それでも諦めてないから、エメラ王女に粉をかけたりするんだろうけど。

 

「ヘツライがホーストの経済的属国であると言えば、驚きますか?」

「驚く以前に、そこまでヘツライとホーストについて知らないからな。……ソクオチが、そこまで両国を注目していなかったこともあるが、純粋に興味を持ったことがないんだ」

「聞いたことはあるけど、あんまり覚えてないかな。……驚くようなことかしら。何が問題かも、ちょっとわかんない」

 

 悲しいくらいに存在感のない国だってことは、共通的な認識としてあるわけだ。

 けれども、これから関わることもある国なんだから、ちょっとは改めてもらわねばならない。

 私が知っている情報だって、特殊部隊に所属しているから得られた部分が大きい。散漫な情報の中から必要な部分だけ抜け出して、簡潔に伝えよう。

 現状としては、経済的な要点を伝えるだけでも、危機感は共有できるはずだ。

 

「ヘツライは強い隣国に囲まれているせいで、低成長社会を強要されてきた。その歴史をかんがみれば、わが国も学ぶべき点が多い国ですよ」

 

 社会的にも商業的にも、ヘツライはホーストをはじめとする周辺国家の都合に振り回されている。

 現在もそれは変わらず、先日のタラシーの件でも体のいい口実にされているあたり、本当に哀れに思う。お二人にはせめて、多少なりとも理解を示してほしいところだった。

 

「どう学べというのだ? ヘツライはクロノワークやソクオチを比較して、なお小さい弱国だろう。今更僕らが弱者に媚びる必要もないと思うが」

「弱者には弱者の理由があります。そこに至るまでの過程を無視してさげすむのは、良い傾向とは言えませんね。――エメラ王女は、どうお考えですか?」

「うーん、そうね。気にしたこともないっていうのが本音かなぁ……」

「正直で結構。……かの国の轍を踏まないよう、ヘツライの現状に理解を示すだけでも充分ですとも」

 

 ヘツライの悲しい所は、物流のための交通網と、国内の主要な商人たち、そのほぼ全てが隣国との取引に依存していることだ。

 国内の商業が発展していないので、いまだに物々交換がまかり通っていたりする。自前で充分な貨幣を製造する技術も資源もないから、他国の貨幣を使って取引せざるを得ない。

 

 特にホースト方面は街道が整備されているため、そちらを利用することが多いらしい。ホーストが東方交易に乗り出すなら、ヘツライ商人もまたこれに乗りたがる。単純に、その方が楽だからだ。

 商人たちは国内の余剰生産物を、他国の贅沢品との取引に使って、自らの財を増やすことしか考えていない。

 ヘツライ王家は、まさに他国におもねることでしか存続できないのだ。そこまで言えば、エメラ王女はともかく、オサナ王子の方は簡単に理解を示してくれた。

 

「するとヘツライは、交易に関わることについては、他国の意向に従わざるを得ないのだな。国内の産業を発達させるより、余剰を持ち出して贅沢品に交換する方が、簡単に儲けられる。……そんな環境が続いていたなら、なるほど。国内に投資して商業を発展させる余地など、そうそう残るわけもないか」

 

 ヘツライでは、工業化に置いて必須とすら言える、分業体制すら確立していない。

 昔ながらの家内制手工業が幅を利かせている現状では、余剰生産物もそこまで備蓄があるわけでもなかったりする。

 なけなしの備蓄をかき出してでも、他国の贅沢品を仕入れるのは、国内に需要があるからだ。

 

 ホーストは、このヘツライからの需要を見越して、ゼニアルゼから高品質の工業製品や宝飾品を買い入れていると言っていい。

 ホーストはこれらを輸入して、高値でヘツライに売りつける。余剰を使い尽くす勢いで、ヘツライはそれを買い入れ、舶来の品で権威を示すのだ。

 なにしろヘツライは低開発地帯であり、高品質の工業製品すら満足に調達できない。見栄えのいい軍隊を用意したいなら、交易に頼るほかはなく、ホーストはここに付け込んで依存させているのだった。

 

「まさにその通りです。国内の産業を育てるには、気の長い投資が必要になります。本来ならば、公共の組織がそれを担うはずなのですが――。王家は統制できるほどの力がなく、地方の貴族は商人の賄賂によって懐柔されている。ホーストもこれを支援する形でヘツライの力を削ぎにかかっていますから、商業が発達する余地すら残っていない有様だったりしますね」

「名実ともにホーストの属国じゃないか! ……ああ、そうか。弱いっていうのは、それだけで抑圧されて、搾取されてしまう理由にされてしまうんだな」

 

 近代以前の社会では、国家が弱いと国民が不幸になる傾向が強い。

 絶対にそうなる、と言うほどではないけれど――武力、経済、あるいは政治力。いずれかで優越する大国が、周囲を食い物にするのは当たり前のことだった。

 これからのゼニアルゼは、少し事情が違うにせよ――大枠では、自国の為に他国を利用するという構図に変わりはない。

 オサナ王子がソクオチの今後を考えるなら、いかにして自らの力を蓄えるか、よくよく考える必要があろう。

 

「悲しいことに、その通りです。――この世の真理と言うものを、ご理解されましたね」

「僕がしっかりしていなければ、ソクオチはヘツライの轍を踏むことになる。……より深く学び、より強くならなければ、我が祖国の未来は暗い。それが、よくわかったとも」

「エメラ王女、これはクロノワークも他人ごとではありません。まだ理解できない部分もあるでしょうが、勉強は続けましょう。……強くなるにも、弱みを隠すにも、知恵と知識がなくては始まりません。悪い男に騙されないためにも、身体だけではなく頭も鍛えておかねばなりませんよ」

「……理屈は分かったけど。でもね、うん。それは、大丈夫だと思う。皆がいる間は、悪い人に騙されることはないんじゃないかな?」

 

 エメラ王女がおっしゃるように、出来る範囲で補助するのが臣下の役割だ。

 ただし、それが成立には前提条件がある。そこは、最低限ご理解していただかねば。

 

「周囲を頼るのは、いいことです。ただし、エメラ王女。これだけは確実に、覚えておいてください」

「何?」

「自分とは異なる意見や、嫌な言葉を聞いたからと言って、発言した人を排除してはいけません。落ち着いてから自分が間違ったとわかったら、訂正することをためらわないように。……これは、本当に大切な事なのです」

 

 簡単にできるように思えるかもしれないが、実際にはとても難しいことだ。

 誰にでもできることではない。素質がなければ、ひどく苦痛なことである。だからこそ、なるべく未熟なうちに、早いうちからくどいくらいに説いておきたかった。

 今の私は、王族に対して合法的に説教臭いことを言える立場なのだ。利用しておいて、悪いことはあるまい。

 

「大丈夫、知ってるから。――モリーのことも、嫌っちゃダメってことよね?」

「嫌うのは構いません。ただ、聞きたくないからと言って無視したり、都合の悪いことから目を背けて、向かい合うことを忘れてしまったら……いずれ、もっと悪い形で自分にのしかかってきます。それをお忘れなきよう」

「宿題を忘れたままにしていると、後で苦しくなるってことかしら。――なら、わかる。私はちゃんとやるから、そこは安心してね」

「はい。エメラ王女は、王族です。多くの人々に影響を及ぼす立場になるのです。ですから、余計に強く意識しておいてください」

 

 これからは、お二人の教育に関わる機会も劇的に少なくなるだろう。

 東方派遣の為の準備を思えば、そこはどうしても削れてしまう部分だ。帰ってきたときのことを考えるなら、もう少し布石を打っておいても良いのだが――。

 何事もやりすぎは良くないし、優先順位と言うものがある。特に政治関係は、要人だけではなく周囲の人間関係にも気を遣うものだ。

 讒言、悪口の類を吹き込まれないよう、王族周りの工作が先。そう思えば、これ以上踏み込むのはリスクの方が大きいように思えた。

 

「東方に向かうとなれば、モリーの授業も受けられなくなるな。そこは、少し残念だ」

「オサナ王子には、熟練した教師陣がついております。私などが抜けたところで、そこまで大きな影響はないでしょう。――王子は、立派な王になれますよ」

「そうだな! 必要なことは教えてもらったし、何より武勲を与えてくれた。……モリーが傍にいてくれたのは、政治的な部分が大きい。これ以上は過剰であるとして、もう役割を終えた――と判断されても、仕方のない所ではあるな」

 

 とはいえ、今はまだ時間も残されているのだから、無粋なことはここまでにしておこう。

 授業を続けられるのなら、私の価値観を伝達することも、将来を見据えた布石を打つことも可能になる。

 なるべく誰の為にもなる形を整えるから、個人的な保身を狙うことくらいは許してくれたまえよ。

 

 ……単純な死に狂いでいられた昔が懐かしい、なんて。

 そんな風に思うくらいには、自分の変化を自覚してしまっている。それが悪くないと思えるほどに、今の家庭環境を受け入れている。

 自分にそんな真っ当な感性が残っていたこと。それ自体が新鮮な驚きであったけれども、わかっているならやるべきことも単純だ。

 

 モリー家というものが成立した時点で、私の命は私だけのものではない。妻たちの命も、同時に背負っている。そう思えばこそ、なりふり構わぬ態度で未来に備えるのだ。

 これもまた、一種の死に狂いの形だろう。単純に、己の命の使い方を変えるだけのことだと思えば、心理的な抵抗もない。

 

 男が女を得ただけで、こんなに俗っぽくなるものなのか。いや、それでも国益と言う最後の一線だけは守っているのだから、許してほしい、だなんて。

 そんなことを考えながら、未来に向けてあらゆる手段を考慮し、備えるのでした――。

 

 




 まだまだ描写する余地はあると思いますが、準備段階の話はここらで一旦打ち切って、話を進めます。

 次回は実際に、東方会社が設立するところまで書いていけるでしょう。いくらかのトラブルが、彼女たちを待ち受けていたりもするのですが、きっとどうにかしてくれるはずです。

 最初から最後まで、その場しのぎのノリと勢いで突き進んできた本作ではありますが。

 少しでも読者の暇つぶしの役に立てたのなら、それだけでも嬉しく思います。

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