「……ねぇ」
おそらくボクに声を掛けているピンクブロンドの少女・江ノ島盾子。
ここにはボクと彼女しかいないのだから、それも当然なんだけれど。
考え事をしていて、答えるのが遅れてしまう。
再び彼女が問いかける。
「ねぇ、苗木。」
「ん……?」
ようやくボクが答えた頃には、彼女は少し不機嫌なような。もしくは少し満足気な。
どちらともつかないような顔をしていた。
「ねぇ、どうしてこうなったんだっけ。」
ああ、またその話か。
それでもボクは、彼女の問い掛けに毎回同じように答える。
「それは――ボクのせいだよ。」
そう言うとボクは安心する。彼女は無表情で肯定する。
「ボクは、希望は絶望なんかに屈しないって信じてる。
人は絶望なんかに屈しない。誰でも必ず希望を持てるはずなんだ!」
だから、絶望の為に人を殺すことなんて許す事は出来ないし、
絶望の為に自分を殺す事も、絶対に許さない。
「気持ち悪い……。」
心底嫌悪するような、侮蔑するような目で江ノ島さんはボクを見る。
「アンタみたいな気味の悪い希望とずっと一緒にいると、絶望も枯れ果てそうだわ……。」
「じゃあ――」
「残念ながら。アタシの中には、希望なんてもんは元々無いのよ。
あるとしてもそれは、絶望を求めるという希望だけ。
希望は絶望の種、って思っていたけど。
絶望を枯らす、除草剤のような希望もあるのかも知れないわね。」
「いや……アタシは今それを目の当たりにしているし、
ずっと、身をもって経験して来たんだから、それは確かにある……。」
「アタシの一番の天敵が、こんなか細い、背の低い、華奢な男だったなんてね。」
「江ノ島さんは、今でもボクを殺したいの?」
「それは間違いなく、そう。」
「じゃあ、どうして」
「一年ほど前までね――
ああ、と言っても苗木は二年間の記憶を失ってるし、
それを思い出すような都合のいい物なんて存在しないんだけど。」
「なくすのは簡単でも、それを元に戻すのは難しい……いや、無理なんだよね。」
彼女は、何を思い浮かべているのだろうか。
失ってしまった肉親か。クラスメイトか。はたまた――
絶望か。
「……とにかく、一年ほど前までアタシには恋人がいたんだ。」
「へぇ」
「これでも読モやってたしね。
まぁ、もっともアイツはアタシの事、いっつもブスだブスだって言ってたけど。」
「だから恋人になったの?」
「ん、そういうわけじゃないんだけどね。
アイツとは腐れ縁でね、小さい頃から何となく惹かれてた。」
「だから――
ちょうど良かったの。」
「幼いながらに僅かに芽生える恋心。それを、半生を掛けて育んで
お互い年頃になって付き合って、一番幸せな時期に……」
「アイツを絶望の底に落として、殺すのに、ね。」
「……」
「その為にずっとずっと準備をしてた。
それをアイツに教えてやった時の顔ときたら……。
今思い出すだけでもあの時の絶望は、最高過ぎて、絶頂だったわ。」
「……だからこそ、その後どんな絶望があってもすぐに飽きてしまうようになったみたい。
人生最後の最大のイベントであるはずの、自分の、死の絶望にすらね。」
「死ぬ事に興味が無くなって、アンタに無理矢理生かされて。
これからどうやって生きていけって言うのよ。」
そこまで聞いて、ボクは一瞬言葉を忘れてしまっていた。
少し間が空き、やっと出た声。
「だから、これからは希望を持っていけるような事を探して……。」
「あーさむいさむいさむい、アンタってホント二言目には希望希望って
どっかおかしいんじゃないの? アタシなんかよりよっぽどさ。」
「こんな薄ら気持ち悪いヤツと強制的に一緒にいさせられて、絶望も感じなくなっちゃうなんて。
希望でも絶望でもない、失望だわ。」
「アンタさえ……アンタさえいなければ
アタシは、また絶望を感じられるかもしれない。」
「だから、アンタは殺したい。」
「でも……その後どこで何をしようがさ、得られる絶望なんて全然大した事無さそうなんだよね。
だからもっともっと、絶望的な事を考えてみたの。」
「気持ち悪くて、生理的に嫌悪感しか感じなくて、殺したいほど邪魔なアンタを――」
「愛してる」