イナズマイレブン『黒山羊の意思』   作:mr.?

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それと感想で知りましたが当作品がランキング入りしたそうです、これも皆様のおかげです、ありがとうございます……!


だいじゅういちわ

黒髪に紅い瞳の少女、ニグラスはいつものスーツ姿でとある場所へと足を運んでいた。

真帝国学園、巨大な戦艦のような外観の潜水艦がその母船である。

真帝国学園は影山零治が表の世界から姿を隠しつつ、自らの目的である『必ず勝つ最高のチーム』を作り上げる為の施設である。

イプシロンに敗れた雷門中と真帝国学園を戦わせ、もしも真帝国学園が勝てばエイリア皇帝閣下……即ち『父さん』こと吉良星二郎からの支援を彼らは全面的に受ける事ができる。

といっても、ニグラスとニグラスの選んだエージェント達によって既に影山には他にもパトロンがおり、海外へと逃げる手筈を済ませている影山とその管轄下にある真帝国学園のことを吉良財閥の人間は1人を除いて見捨てているのだが、それはお互い様ということだろう。

今日この日、真帝国学園の元へと雷門がその情報を嗅ぎつけて試合までの流れを不動がセッティングした。ということでニグラスがその試合を見届けに来たのだが……。

 

「で、佐久間(さくま)と源田(げんだ)って2人の調整は間に合ったの?不動くん」

 

「いやー、無事に全員アンタらから頂いた力に対応出来たんスけどね……ちょいとあの2人には問題があるんスよニグラスさん」

 

薄暗い通路を歩きながら携帯やその他の通信などで聞けなかったことを質疑応答している2人、前回の視察の際には見られなかったFWの佐久間とGKの源田に何か問題があるということで彼女の眉間に皺がよる。

彼女は知っている、本来の世界線ではその2人は禁じられた技を無理矢理使って雷門と試合し、その上で敗北することを。

そして、力に執着する不動がその2人をわざと煽り立て、技を使わせていたことを。

だが、この世界線の不動は影山に逆らえないせいで嫌々従っているという、少し本来とは違った世界線だ。

ならば佐久間と源田、この2人への負担を減らす事は可能だと少しニグラスは安堵する。

 

「……影山の考案した技、皇帝ペンギン1号とビーストファングね……」

 

ニグラスの口からその言葉が出るとは思っていなかった不動が一瞬呆ける物の、流石ニグラスさんだねぇと言って2人は歩をとめない。

 

「だったら、2人にはなるべくその技を使わせないで、折角エイリア皇帝閣下の力を借りれるチャンスだと言うのに、2人も欠員を出すんじゃ意味が無いじゃない」

 

「アンタがそこまで言うってことはそんなにヤバい技なのか……へいへい、了解しましたよ」

 

通路の先に光が見える、それは通路の終わりを示し、2人は光へと踏み出した。

雷門と真帝国学園、本来とは違う世界線で両者の戦いが幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡る。

雷門の面々は真帝国学園のキャプテンを名乗っていた少年に埠頭へと呼び出され、そこで巨大な戦艦のような潜水艦、真帝国学園の校舎へと乗り込んだ。

かつて鬼道有人の在籍していた帝国学園、その総帥として君臨していた影山との戦いに終止符を打つため、雷門の面々は真帝国学園との戦いを余儀なくされた。

 

彼らが真帝国学園へと乗り込み、グラウンドへと足を運ぶと、そこにはかつて鬼道と共に戦っていた帝国学園のメンバーである佐久間と源田の姿があった。

影山が帝国を見捨て、新たに作り上げた世宇子中に無惨に敗れた帝国学園。

鬼道を除いた他のメンバーは世宇子中によって病院送りにされ、2人も病院にて療養中のハズだった。

 

しかし、2人は影山のもたらした新しい力を受け取る事で再びピッチへと帰ってきたのだ。

自分たちを見捨て、雷門でただ1人『勝利』を掴み取った鬼道への復讐のために。

 

そして、彼らは真帝国学園の面々へと視線を向けた時、ベンチに座っている1人の少女を見て、更なる驚愕に包まれた。

 

「アイツは……たしかエイリア学園のマネージャーじゃなかったか?」

 

染岡の言葉に何人かが同意するように疑問の声をあげた。

視線が集中することを鬱陶しく思ったか、秀子はベンチで腕を組んだまま雷門の面々を睨みつけた。

彼女自身、最近の出来事に余裕が無くなってきていたのもあり彼女からは彼女自身も無意識な内に殺気が放たれていた。

気圧される雷門と真帝国学園、雷門の面々も突如彼女から発せられた殺気に戸惑い、そしてニグラスによって現在進行形で視察されている形である真帝国学園も彼女に起きた突然の変化に驚きを隠せない。

 

「佐久間くんと源田くん……来なさい」

 

ニグラスの冷淡な声、そしてキャプテンの不動からも行けよと、声がかかったため2人は渋々といった様子でニグラスへと歩み寄る。

 

「源田くんはDFと連携してなるべくビーストファングを温存、佐久間君も不動くんや比得(ひえ)くんとの連携を中心にすること……いい?」

 

ニグラスの指示に2人が異議を申し立てた、だがそれはもはや理屈も何もない台詞ともいえない半ばただの癇癪のようであった。

その様子の2人を見て、一切表情を変えないニグラス。

溜め息を1つついた後、なら、と続ける。

 

「それぞれ1回だけ使うことを許します、2発目以降を使用したのならエイリア学園は一切の責任をおうことなくあなた方を見捨てます……良いですね?」

 

その妥協とも言える発言にさえ抗議をやめない2人、雷門の面々は仲間割れか?とこちらの様子を伺う様子がみてとれる。

 

「……これ以上騒げば勘のいい鬼道くんならあなた方2人の安易な策に気づきそうですけど……まだ続けますか?」

 

鬼道、その言葉を聞いた2人は黙りこくった後、それで勝てるなら従うさ、と2人して同じような事を言うとポジションへと走っていく。

今度は不動を呼び出すニグラス。

 

「聞いてたとは思いますが、あの2人に1回ずつだけと条件付きで許可を出しました、その1回のチャンスで雷門を切り崩しなさい」

 

「了解しましたよ、ニグラスさん」

 

最後に不動がポジションにつく。

雷門はどうやら前回のイプシロン戦と同じように栗松の代わりに漫遊寺から加わった追加メンバーである小暮(こぐれ)をDFへと採用しているようだ。

そして、真帝国学園ボールで試合が始まった。

 

佐久間から緑の髪をオールバックにして顔を白塗りにしているFW比得へとボールを渡し、比得が染岡へと突き進む。

染岡がスライディングでボールを奪おうとするものの、比得はそれを読んでいたのか流れるように不動へとバックパス。

 

「なっ?!」

 

「キヒヒッ、遅いな!」

 

ボールを受け取った不動へと迫るアツヤ、そこにアツヤが来ることを読んでいたかのように更に流れるように桃色の髪を巻いてサイドポニーにしている少女、MFの小鳥遊(たかなし)へとボールを渡してアツヤからボールを奪われるのを回避した。

 

「ヒュー!聞いてた通り速いねェ!熊殺しのアツヤクン!」

 

「そいつはどうも!」

 

小鳥遊が素早い動きで雷門の陣地へと切り込むと、風丸と一之瀬の2人がかりでボールを奪いにかかるに対し。

 

「仲良く2人でってか……ホモかよ……!」

 

暴言を吐くと、小鳥遊は思い切り息を吸い込み、吐き出した。

小鳥遊が吐き出した息は明らかな毒々しい紫色をしており、風丸と一之瀬の2人はそれに包まれ、小鳥遊を見失う。

 

「毒霧の術……!」

 

必殺技で突破した小鳥遊がMF2人を引き寄せていた内に前線へと進んでいた比得と佐久間、小鳥遊は比得よりも早くゴール前へと走り抜けた佐久間へとパスを飛ばした。

ボールを受け取った佐久間はニヤリと笑うと、そっと指を口元へ添える。

それを見た鬼道の顔が青ざめ、狼狽えながらも佐久間へと叫んだ。

 

「やめろ佐久間!!」

 

不動は内心でもう使うのかと思いつつ、これで牽制になれば雷門も動きずらくなるはずとそれを見送る。

彼がまだ、禁断の技の実態を知らないが故の失態であった。

ニグラスはただ黙って目を閉じた。

 

「それは……禁断の技だぁっ!!」

 

佐久間が指笛を鳴らすと、彼の足元から5匹の赤いペンギンが宙へと飛び出した。

佐久間が振りかぶった足へと食らいつくペンギンたち、痛みに耐えるように呻きながらも佐久間は足を振り抜いた。

 

「これが……皇帝ペンギン……1号だぁあ!!!」

 

鋭いシュートとそれに追従するペンギンたちが一斉にゴールへと襲い掛かる、円堂は身体を捻りながら心臓に右手を添え、パワーを右手へと収束させる。

 

「マジン・ザ・ハンドォオ!!」

 

金色の魔神が吠え、その右腕をペンギンたちへと振るう。

だが、見た目に反してペンギンたちは力強く、円堂の呼び出した魔神を一瞬で引き裂いた。

 

円堂の右手がボールを受け止めようとするものの、一瞬で身体ごとゴールへと押し込まれる。

肺の中の空気を吐き出させるような重い一撃、円堂もたまらず呻き声をあげてしまう。

そして、何故かシュートを撃った佐久間が悲鳴をあげた。

悲痛な叫びがフィールドに響き、雷門の面々は勿論ながら真帝国学園のメンバーも少し動揺する。

シュートを受けた円堂も身体の痛みで少し動きが鈍く、壁山や士郎が駆け寄り心配した等と声をかけると、彼自身問題ない大丈夫だ!と声を張るものの、どこか動きはぎこちない。

 

0/1

 

真帝国学園の先制点だが、そんな事はお構い無しにと佐久間へと急いで駆け寄る鬼道。

佐久間は自らの身体を抑えながら痛みに耐えるように震えて蹲っていた。

 

「皇帝ペンギン1号は禁断の技だ……2度と使うな……!使えばお前の体は……」

 

「怖いのか?」

 

鬼道の言葉に、先程まで痛みで苦しんでいた佐久間が引き攣った笑みを浮かべて鬼道へと顔を向けた。

その目に映っているのはもはや鬼道本人ではなく、彼自身が作り出した鬼道の虚像。

その目に、もはや理性など宿っておらず、ただ自らの力を振るわんと唸る獣のような目だった。

 

「俺如きに追い抜かされるのが怖いんだお前は……!!お前をずっと後ろから追いかけるだけだった俺だって……この技があれば……この技さえあれば……!!」

 

佐久間は心配する鬼道の身体を押しのけ、元のポジションへと戻る。

そして、鬼道は1度ポジションへと戻る前に円堂を含めた雷門の全員で話し始めた。

 

「あの技……皇帝ペンギン1号は影山が考案した技でな……あまりのパワーに使用者が耐えられず、3回も使えば2度とサッカーができない身体になってしまう……!!」

 

鬼道の言葉に驚く一同、そしてなによりそれを躊躇わず使った佐久間への恐怖やそれを看過する真帝国学園のやり方に怒りを隠せない。

実際は影山とニグラス以外はその技の実態を知らなかっただけなのを彼らはまだ知らない。

 

「今回の作戦が決まった……絶対に佐久間にボールを渡すな……!!」

 

その声にDFのメンバーを中心に佐久間のためにと頷く。

鬼道はスピードに優れたDFの士郎とテクニックに優れたMFの一之瀬に佐久間のマークを任せた。

 

「佐久間くんのために、僕も全力を尽くすよ……!」

 

「そうだ、サッカーで傷つく人なんてこれ以上見たくないからね……!」

 

無茶をするアツヤをいつも見てきた士郎と怪我によって1度はサッカーができない身体になってしまった一之瀬。

そんな2人の言葉にありがとう、と感謝する鬼道。

そして、アツヤと染岡がお互いに目配せをすると鬼道へと力強く声をかける。

 

「兄貴たちには負けてらんねェ……俺達も全力で攻めるぜ……!」

 

「あぁ、攻撃は最大の防御だ、こっちが攻めてればアイツらは防御するしかねぇんだからな……!!」

 

「お前らの言う通りだな、ありがとう皆」

 

鬼道がメンバーへと頭を下げる、そして鬼道は円堂へと顔を向けるとゴーグル越しでもわかる心配した顔で話した。

 

「円堂、お前も皇帝ペンギン1号はもう受け無い方がいい、あの技を受け続ければお前の身体も無事では済まないぞ」

 

鬼道のその言葉に、円堂は自らの未だに痺れの取れない右手を凝視する。

円堂自身もわかっていた、エイリア学園のシュートもたしかに凄いパワーであったが、皇帝ペンギン1号はそれらとはわけが違う。

あれは、人為的に人を壊すためにと設計された技だ。そう円堂も無意識のうちに理解していた。

 

「よし、みんな!佐久間の為にもこの試合、絶対に佐久間にあの技を打たせずに勝つぞ……!」

 

応!

雷門のメンバーが声を合わせ、そしてそれぞれのポジションへと散った。

 

そして、雷門ボールで試合が再開される。

 

染岡から風丸へのパス、そして風丸はその素早い動きで真帝国学園のMFたちを撹乱し、中央へと走り抜けた鬼道へボールを渡すことに成功する。

鬼道がボールを受け取り、後続から一気に走り出した土門と染岡がそれに続いた。

佐久間の皇帝ペンギン1号のように源田のビーストファングもそれ相応のリスクを背負った技なのではないか、と判断した不動が咄嗟にDFへと指示を飛ばすものの、それを鬼道たちは完璧に回避してゴール前へと躍り出た。

 

「思い出せ佐久間……これが本当の皇帝ペンギンだ……!!」

 

あまりのパワーにシュートする者の身体が悲鳴をあげる禁断の技、皇帝ペンギン1号。

その技の負担を3人で行うことで分散、威力自体は低下するものの、抜群の安定力を誇るその技。

 

鬼道が指笛を吹き、背後から土門と染岡が一気に上がる。

鬼道の足元からは先程の佐久間とは違い通常の色合いのペンギンが5匹現れ、鬼道がボールを蹴り出すとそれに追従し、そのボールを染岡と土門が同時に蹴り出すことで更に威力を高める。

 

「皇帝ペンギン……!!」

 

『2号!!』

 

3人の協力技が真帝国学園のゴールへと迫る、源田はその技を見るとニヤリと笑い両手を構えた。

その構えを見た鬼道に再び衝撃が走る、そして源田の両手を突き出すような独特な構えから一気に獣のようなオーラが発せられる。

 

「まさか……!!」

 

「ビーストファング……!!」

 

獣の牙のように両手をシュートへと突き立てる源田、その技によってペンギンもろともシュートの勢いは圧倒的なパワーの前に一瞬で崩壊した。

 

「ビーストファングまでだと……?!」

 

ボールを受け止めた源田が苦しみ出す、それを見た雷門の面々へと再度衝撃が走り、真帝国学園のメンバーたちも佐久間と源田へ少し悲しげな視線を送る。

 

「鬼道……まさか」

 

土門が鬼道へと声をかける、鬼道は深刻そうな表情で頷く。

 

「ビーストファング、皇帝ペンギン1号と同様、封印したはずの禁断の技だ……!!」

 

「クソっ……あの技も身体を壊しかねねーのか……!!」

 

染岡が拳を握るとわなわなと震える、雷門の士気は下がる一方である。

 

「源田にもあんな危険な技を使わせる訳にはいかない……」

 

「シュートもダメってか……!!クソっ手詰まりじゃねぇかよ!!」

 

苦しんでいた源田も鬼道の苦渋に歪む顔を見てニヤリと笑うと大柄なDF郷院へとボールを投げ渡す、再度始まる試合。

そしてシュートを打ってはならない、シュートを打たせてはならない。

そんな縛りを抱えてしまった雷門の動きは先程までと違い防戦一方となってしまう。

だが、それは真帝国学園もそうであった。

 

本来の世界線での真帝国学園は勝利の為ならなにもいとわない不動の性格と一致した非情なチームだった、だが、この世界線の不動はたしかにラフプレーや人を煽ったりするところもあるがそれは十分人道的で作戦の一種として受け入れられる範疇のことであり、そんな不動に集められた真帝国学園のメンバーたちも本来の世界線より幾分も温厚な性分であった。

 

膠着する試合展開、お互い攻めあぐねてしまったまま前半が終わりを告げた。

 

真帝国学園のメンバーがニグラスの元へ集まり、佐久間が1歩踏み出した。

 

「どうしたんだお前ら……!!勝つ気があるのか……?」

 

苛立ち混じりの言葉に他のメンバーは俯くことしか出来ない。

それを見た佐久間がニグラスへと更に1歩踏み出した。

 

「後半も皇帝ペンギン1号を打たせろ……!雷門に確実に勝つためだ……!!」

 

その言葉にニグラスは冷たい目で佐久間を睨みながら告げた。

 

「そんな技に頼らなきゃ勝てないような選手はエイリアには必要ないんだよね、さっきも言った通り1回だけだよ、そして君はもうその1回を使ったんだ、次はないよ」

 

佐久間が舌打ちをした後、ポジションへと戻る。

他のメンバーも渋々といった様子で戻る中、不動がニグラスへと歩み寄る。

 

「アイツが打たないように努力はしますよニグラスさん、でも……もし次にあの技を打った時はアイツを下げます……勿論イイっすよね?」

 

「……ええ、勿論」

 

そして、雷門ボールでの後半が始まった。

染岡から鬼道へボールが渡り、鬼道が駆け上がろうとした所へ不動がボールを奪いに一気に接近する。

鬼道がフェイントを仕掛けるものの、不動はそれを見透かしたかのように前へと進ませない。

両者の実力はほぼ互角、必殺技に頼らないボール捌きと体の身のこなしでの戦いが繰り広げられる。

鬼道は自分1人で抜く事を諦め、染岡へとボールを返すと残りの雷門のメンバーも一気に前線へと駆け出した。

 

染岡が真帝国学園のMFを突破し、更にDFが迫るものの、染岡のフォローのために前線へと上がってきていた塔子へとパスを渡し、染岡がDFを抜いたのを見測って塔子が再度染岡へとボールを繋げるワンツー。

染岡がゴール前へと迫るシュートチャンス、だが染岡自身、シュートを打とうとした時には既に源田はビーストファングの構えへと移行していた。

 

「……っ!!」

 

焦る染岡、だが彼の目にある男が映った。

逆サイドを走る、吹雪アツヤ。

 

染岡が意を決し空へとボールを蹴り出す、飛龍のようなオーラがそれに追従し、回転のかかったボールは染岡の元へと舞い降りる。

 

「ワイバーン……!!」

 

それを見た雷門の面々と真帝国学園、そしてニグラスに緊張が走る。

そんな事お構い無しと染岡はボールへとその足を叩き込んだ。

 

「クラッシュ!!」

 

ボールは物凄い勢いでゴールから逸れた。

 

生半可な覚悟で、ぬるい優しさなんて不要なものを持ったまま試合に臨んだせいで、こんな単純なミスを……と源田が少し気を緩ませたその時。

アツヤの口が弧を描く。

本当の覚悟を持った2人の連携に気づかなかったのは源田だったのだ。

染岡渾身のワイバーンクラッシュはゴールを逸れてアツヤの元へと迫っていた。

そして、アツヤはその身を翻し、一気に吹雪が吹き荒れた。

 

「ナイスだ染岡ァっ!!」

 

アツヤの回転で勢いをつけた蹴りがワイバーンクラッシュへと叩き込まれた、それはアツヤの必殺技であるエターナルブリザードと染岡のワイバーンクラッシュが融合し氷と竜、2つのエネルギーが一気にゴールへと突き進む。

気の緩みからビーストファングを出す暇もなく源田の両腕がボールを捕らえることならず、ボールがゴールネットを揺らした。

 

1/1

 

染岡の咄嗟の機転により同点へと追いついたことで一気に雷門の士気が上がる。

ベンチに座していた目金はワイバーンブリザード……!!と技を勝手に命名していた程である。

 

そして雷門の得点により、真帝国学園ボールでの試合再開。

そして、誰より焦る佐久間が強引に同じチームである比得からボールを奪うと一気に雷門の陣地へと駆け上がった。

鬼道が迫るものの、どちらかというと技術で敵を翻弄するタイプであるはずの佐久間は無理矢理鬼道を弾き飛ばしながら更に前線へと切り込む。

 

「認めない……!認めてたまるものか……!!」

 

更に一之瀬と小暮を抜き去り、塔子と壁山が必殺技を使う前に無理矢理突破する佐久間はゴール前へと辿り着くとその口を再度ニヤリと歪めた。

 

「これで俺は……鬼道に勝てるんだ……!!」

 

指笛を吹く佐久間、彼の足元から5匹のペンギンが現れ宙を舞う、そして振りかぶられた足へとペンギンが食らいつき、佐久間はその足をボールへと……。

 

「使うなって……言ったのになぁ……」

 

彼女の呟きを聞くものはおらず、そして佐久間の足がボールへと叩き込まれた。

 

「皇帝ペンギン1号!!」

 

その技を受け続ければ、お前の身体も無事では済まない。

その言葉が彼の頭の中に何回も響いていた。

ずっと同じ雷門中のメンバーとして自分たちが道を半ば諦めた時も俺たちを見捨てずにずっと手を差し伸べてくれたアイツを守れるのは俺たちしかいないじゃないか。

彼はその足を思い切りボールへと叩き込む。

その名に恥じぬ竜のようなオーラを纏わせて。

 

「ドラゴンクラッシュ……!!」

 

本来ならドラゴンクラッシュはエネルギーを溜めて打つ技であり、ボールを蹴り返したり、咄嗟に味方のシュートに合わせるのにはてんで不向きだ。

だが彼は、一気に攻め込んできた佐久間の皇帝ペンギン1号で円堂が傷つかぬようにと、彼は吠える。

 

「円堂も壊されてたまるものかよぉっ……!!」

 

傷ついた仲間達の姿が彼の脳裏に過ぎる、負けるものかと、彼は奮起する。

だが、それでも数秒の拮抗だった。

あまりのパワーに吹き飛ばされ、投げ出される染岡。

そしてボールはコースを逸らしてゴールポストに直撃、円堂が呆ける中ラインを越えて試合が止まる。

 

「染岡……!!」

 

慌てて声を震わせながら円堂が駆け寄り、雷門の他のメンバーも倒れ伏している染岡の元へと集う。

染岡の脚は腫れ上がっており、脚の内部に損傷があることは明らか、そして彼自身の意識が途切れていることからもう試合に戻ることは叶わないだろう。

 

「あっ……あぁぁ……!!」

 

そして、その光景を見た佐久間の脳裏にとある光景がフラッシュバックする。

世宇子中と帝国学園の試合、次々と倒れる仲間達、そして世宇子中の必殺シュートであるゴッドノウズを止めようとして足を負傷した自分の姿が染岡に重なると。

 

 

「うぁあああああぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

佐久間は一気に現実へと呼び戻された、怪我や圧倒的な敗北による精神の不安定化、そして影山に煽られたことによる鬼道へ抱いた理不尽な嫉妬と怒り。

それら全てをやっと理解した佐久間は叫んだ後に放心した、もはや身体の痛みなんて、なにも感じなかった。

 

「試合は中止だよ」

 

グラウンドへと歩を進めるニグラス、その手には黒いサッカーボールを抱え、そして雷門へとペコリと頭を下げた。

 

「すまない雷門、そしてなにより鬼道有人、私が影山を放置し過ぎていたのが原因だ……」

 

突如頭を下げたニグラスに困惑する雷門、だが彼女が黒いサッカーボールを起動すると周囲に黒いモヤがかかる。

 

「……真帝国学園のことを頼むよ、彼らはエイリア学園に取り入ろうとしていた影山に利用されていたに過ぎない」

 

黒いモヤが彼女の輪郭さえも隠す、そしてモヤが晴れた時にはその姿も消えていた。

 

消えたモヤの後ろで倒れ伏している佐久間を抱え起こす不動、そしてそんな彼に近づく鬼道の目に映ったのは意識を失いその閉じられた瞳から涙を流す佐久間。

自らの宿命のようなその名を鬼道は叫んだ。

 

「影山ァァァァアアア!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラウンドを見下ろせる真帝国学園の司令室とも呼べる暗い部屋で、男は詰まらなそうに息を吐く。

今回も無駄だった、せめてあのニグラスというやつから不動や佐久間たちが情報を聞き出したりしていればまだ違ったのだろうが……と、次回の作戦へと向けて彼は自らの脳内で自問自答を繰り返す。

この後の動きも既に考えてある、あとはこの真帝国学園という隠れ蓑を破壊し行方を眩ませるのみ。

そう、円堂大介を葬ったあの頃から何も変わらない。

長い沈黙の中、爆発音が遠くから聞こえる。

思考の海に沈み、自らが理想とするチームを思い浮かべると、いつもそこにあるのはある少年の姿。

彼の口が無意識に歪む。

 

そして更に続く爆発音の中、司令室の天井が開き、影山の身体が外へと露出する。

空中で彼を捕まえんと駆けつけた警察の鬼瓦がヘリの中からなにか叫んでいるが、彼はそんなもの気にも止めない。

だがそこに彼の名を叫ぶ1人の少年が現れた。

鬼道有人、彼自身の理想としたサッカーを体現する少年が彼を睨みつける。

彼の意識は少年のみへと注がれる。

 

「佐久間と源田をあんな目に遭わせて満足か……?影山っ!!」

 

その眼差しを受けて、再度彼は思わず笑みを浮かべる。

 

「満足?出来るわけなかろう!常に勝利する最高のチーム、それを作りあげるまではな……!!」

 

彼の欲望、そして目線の先には鬼道ただ1人。

 

「これまで私が作り上げた中でも最高の作品を教えてやろう……!!」

 

船が爆発で更に揺れるも彼の眼差しは変わらない。

 

「それは鬼道……!お前だ……!!」

 

驚愕する鬼道を鬼瓦が捕まえるように保護しヘリへと誘導する。

戦艦が爆発とともに沈み、彼の姿は海へと消えた。

 

「影山ァァァァアアア!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真帝国学園の騒動から数日後。

不動明王を含む、真帝国学園のメンバー9人の元にニグラスは現れた。

 

「……俺たちを放っておいて、今更何の用ですか?ニグラスさん」

 

「まずは、ごめんなさい……あなた方を連れ帰ることは出来なかった私を許してほしい」

 

頭を下げるニグラスに、真帝国学園のメンバーが少しどよめく。

 

「そして、エイリア学園とはもうなにも関係なくなったあなた達に手伝って欲しいことがある」

 

ニグラス……いや、秀子は真帝国学園のメンバー一人一人の顔を見た後、続けた。

 

「私の名前は黒山羊秀子、あなた達がもし手伝ってくれるのなら私に着いてきて」

 

深い決意を称えた瞳が真帝国学園のメンバーへと向けられた。

 

「私の家族を助けるためにあなた達の力を貸して欲しい」

 




この世界の不動はやはりアレスの不動に近いものがあるのでただのツンデレ君です。
そして影山は自分が書くとただのヤンデレおじさんと化してしまいましたね……。
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