イナズマイレブン『黒山羊の意思』   作:mr.?

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真帝国学園のメンバーはアニメだと不遇だから扱いに困る……佐久間と源田、不動以外ほとんど出番がなかったから実際のキャラが掴みにくい……作者自身小鳥遊しか使っていなかったせいもあるのですが……。

中々筆が進まなかった……これも全て執筆の参考にと見始めたら止まらないほど面白い原作が悪いんだ……!!(?)

8/11 piyuさんまたも誤字報告ありがとうございます、一部修正しました。
ししとーさん、誤字報告ありがとうございます、一部修正しました。


だいじゅうにわ

とある病院の一室に、黒い軍服の趣向をあしらったワンピースに身を包んだ少女、秀子の姿はあった。

その背後には真帝国学園でキャプテンをつとめたモヒカンの少年不動を連れ添い、対面するは白髪混じりの青い髪をオールバックにして髭を蓄えた白衣の男の姿。

 

「……先生、検査の結果は?」

 

「まさか、驚いたよ……君の骨髄液なら親族ではないとしても型が偶然一致した、彼に移植しても問題ない……唯一の手段であったはずの彼の肉親からの移植という手段が潰えた時は……もう手遅れかと思ったが……」

 

その言葉に安堵する秀子、だが白衣の男はその鋭い目をまるで品定めするかのように彼女へと向けると語り始めた。

 

「だが、まさか君が来るとは思わなかったよ……白昼堂々と、うちの息子と娘、2人を人質と脅しをかけてきた君がね」

 

「……あの時は大変ご迷惑をお掛けしました、息子さんと娘さんの2人は、今は吉良財閥とは関係の無い私の知り合いや友人達が護衛としてついています、ご安心ください」

 

「……なるほど、だがこの手術はかなりの難易度だ、ドナーの君はともかく患者自身意識不明となってから約10ヶ月が経過している、体力の低下は著しく、そんな彼にもかなり長時間の手術を強要することになるからね、事前の準備がなにより大事になってくる、時間を少し頂けないかな?」

 

彼女はコクリと頷く、その意思は固いようで白衣の男は溜め息をひとつ着くと連絡先を秀子へと手渡した。

 

「私直通の連絡先だ……手術ができるようになった際にはすぐに連絡しよう、くれぐれも唯一のドナー候補である君が吉良財閥に消されました、なんて下らないことにならないようにな」

 

「……ありがとうございます」

 

頭を下げる秀子、そしてその白衣の男へと向き直り1枚の紙を差し出す。

 

「これでいつでも吉良財閥に勘ぐられずに彼とお話ができますよ豪炎寺先生」

 

白衣の男、雷門のエースストライカー豪炎寺修也の父である医師、豪炎寺勝也はフンと鼻を鳴らすとその紙を破り捨てた。

その突然の行動に呆ける秀子と不動。

 

「アイツの下らない玉遊びに付き合う時間は私にはない、それに今は日本のトップ企業でもある吉良財閥の関わっているこの大きい騒動の最中にあるアイツをわざわざ私が掻き回すことも無いだろう」

 

興味が無いと言わんばかりに豪炎寺勝也は病院の内線電話へと手をやると看護婦や薬剤師などへ指示を出しているようだ。

2人はありがとうございます、と声をかけると彼の邪魔にならないようにと部屋からそそくさと退室した。

 

「……で、どーするよ秀子サン、一緒に沖縄に行くのか?」

 

「勿論だよ、豪炎寺君の新必殺技もそろそろ完成の目処が立ってるし、そしてなにより君たちはまだまだ弱いからね」

 

「やれやれ、厳しいこった」

 

苦笑する不動に秀子はクスリと笑うと電話へと手を伸ばす。

 

「瞳子姉さん、久しぶり……私も動くよ」

 

その目にはやはり固い決意となにより強い意思が感じ取れる。

 

「沖縄で炎のストライカーと雷門の練習相手になれるチームを育ててるから……大阪でイプシロンとの対戦に備えてて」

 

狂った歯車の代わりに新しいパーツが当てはめられた。

彼女たちの行く先にどうか幸あれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、場面は沖縄へと進む。

地面に簡単なラインを引いただけのお世辞にもグラウンドとは到底言えないようなグラウンド擬きでは少し汗をかいている豪炎寺修也、そして不動を除く真帝国学園のメンバーが地面に倒れふしていた。

どうやら環境の違いにまだ慣れていないためか熱中症になりかけていたようで、豪炎寺への協力者である大柄な少年……?少年である土方(ひじかた)がだらしねぇなと豪快に笑いながら全員に水を差し出した。

 

そこに合流する秀子と不動はクスクスと笑いながらも豪炎寺へと声をかける。

 

「さてと豪炎寺くん、雷門に敗れたとはいえ影山に選ばれた真帝国学園のメンバーはどうだったかな?」

 

「パス回しやテクニックは順当なラインだ、筋は悪くない、だが基礎体力不足だな」

 

パス回しやテクニック、それらはエイリア石によって強化された肉体に動体視力などが慣れていたため雷門の面々が北海道にて行っていたスキーの特訓のような効果を成していた。

そして基礎体力不足はその代償でもある、エイリア石のブーストに慣れてしまった肉体と精神のバランスが取れなくなってしまったことでペース配分や体力の低下を感じてしまっていることによる。

 

「手厳しいこった、で俺たちとも特訓できるよな?豪炎寺クン?」

 

不動の挑戦的な目が豪炎寺へと注がれると、彼はフッと笑って勿論だ、とボールを不動へ軽く蹴って渡した。

真帝国学園のメンバーと練習した直後だと言うのに豪炎寺が不動と対等に渡り合う、そんな2人がボールを奪い合う姿を見て、秀子はまた微笑む。

だが、時間はない。

イプシロンと雷門の試合は今日の予定のはずだ、そして雷門との試合の後、イプシロンはこの沖縄へと特訓をしにくる。

その前に一定の実力まで至らねばならない。

 

「さてと、なんで寝てるのかな?」

 

秀子は意地の悪い笑顔を浮かべて倒れ伏している面々へと声をかける、何人かが引き攣った笑みを浮かべている中、秀子は更に満面の笑みで続けるのであった。

 

「強くなりたいって言ってたのは君たちだよねぇ」

 

豪炎寺と不動の2人は巻き込まれなくて良かったと、内心で安堵しながらそそくさとグラウンドの端へ秀子にバレないように少しずつ移動するも。

 

「2人も……だよ?」

 

いつの間にかボールが消え、2人の目線の先にはボールを足元でキープしている秀子の姿。

秀子は意地の悪い笑みを浮かべながら告げる。

 

「私からボールを奪えるまで、雷門とイプシロンの試合、見れると思わないでね」

 

ニィと秀子の口が弧を描く、不動が悪魔みてぇだとぼやき、豪炎寺も無言でそれに内心同意する。

 

彼らがそこから解放されたのは、約2時間のハードな訓練のあとだと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして苦しい訓練から開放された後、豪炎寺や真帝国学園の面々そして土方家族と秀子は大所帯に対して狭苦しい土方の家の居間にて秀子が持ってきた大型液晶テレビの前に鎮座する。

今か今かと試合を待つ彼らを見ると、テレビを前にした一般的な中学生と何も変わらなく、現在日本全土を揺るがす大事件に巻き込まれているのが夢のようにも見える。

普通のニュースを映していた画面が急に切り替わり、急にアップとなるデザーム。

それを見た不動は秀子へと話しかける。

 

「てかよ、エイリア学園に属してるアンタがこんなとこにいて良いのかよ、俺らとジェミニストームの時はマネージャーとか言ってベンチに居座ってた癖に」

 

「ジェミニストームが初心者集団だったからね、私はマネージャー兼監督って感じだったんだよねぇ

あとエイリア学園側には消えた雷門中のエースストライカー、豪炎寺修也の捜索にあたってるって言ってあるから大丈夫だよ……ていうか豪炎寺君もよく信じてくれたよね、私は君を脅迫したって言うのに」

 

「……瞳子監督から沖縄へ来る直前に話を聞いていてな、詳しい事はまだ教えてもらえてないが、お前はエイリア学園に潜り込んでいる瞳子監督のスパイだとな」

 

「まぁ、近からず遠からずってとこかな、私は実際エイリア学園の人間だしねー」

 

豪炎寺の言葉に軽い調子で応える秀子、そして不動は不敵そうに笑いながら秀子へと尋ねる。

 

「じゃあ明らかな日本人の名前な黒山羊秀子ってのは偽名かよ?」

 

「いんや、本名だよ、エイリア学園は皆2つ名前を持ってるって思ってくれればいいかなー、デザームの本名なんて砂木沼治(さぎぬまおさむ)だしねー」

 

驚愕の事実である、まさか画面の先にデザームも本人の個人情報がまさか遠い地の沖縄で流出してるとは露とも知らず雷門へと熱く語り掛けている。

貴様たちがどこまで強くなったか、見せてもらおうか!!

なんて台詞を聞いた小鳥遊が暑苦し……とボヤいたのを他の面々は苦笑する。

 

そして画面の先で、雷門とイプシロンの試合が幕を開けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷門とイプシロンの試合は雷門ボールでのキックオフ。

何故かまだ経験が浅く必殺技も不安定な小暮を起用しDFとしての経験が豊富な栗松はベンチへと下げられた、FWには真帝国学園との戦いで負傷した染岡に代わり、今回から追加メンバーとして浦部リカが参入。

 

画面越しでも彼女が一之瀬に猛アタックしてる姿がよく見える。

そんな浦部が鬼道へとボールを渡して試合開始、FWへのマークが厚いイプシロン相手には中盤の鬼道や一之瀬といったボールのキープ力が高い選手でボールを繋ぎ、頃合いを見てFWへとボールを繋ごうとするものの、イプシロンのMFやDFがそれを許さない。

 

「イプシロンはキャプテンのデザームの指示で動くチームだよ、実際戦況を1番離れたところから戦場を見れるから合理的っちゃ合理的だね

でも雷門みたいに前線で指示を出す人がいないから攻めは基本FWのゼルたちへの簡単な指示だけなのが玉に瑕かなぁー」

 

ニグラスの言葉通り、イプシロンの防御は後方のデザームからの的確な指示により攻めの要であるアツヤと浦部を完全に封じている。

そして決定力に欠ける一之瀬や鬼道では連携シュートなどを持ってしても、デザーム相手に必殺技すら使わせることが出来ない。

そしてデザームがシュートを止めるとイプシロンは前線へとボールを運ぶもののそこからは単調な動きが目立ち、MFのメトロンやマキュアが単独で切り込んでは円堂や雷門のDFたちに阻まれる。

そんな膠着した試合展開が続いた。

 

「お互い点を決められないみたいだな」

 

「雷門のMFでは決定力に欠けるし、イプシロンのFWのシュートも雷門のキャプテンが普通に止めれてんな」

 

豪炎寺と不動の言葉通り、前回のイプシロン戦では壁山と塔子の2人がかりでシュートの威力を軽減させてようやくゼルのガニメデプロトンを止めていた円堂も、今回の試合ではFWのゼルへとボールが渡って必殺技を放たれたとしてもマジン・ザ・ハンドで安定して受け止められている。

 

しかし、円堂がDFの士郎へとボールを繋いだ時試合が動いた、またもアツヤが強引にイプシロンのマークを振り切ったのだ。

士郎から鬼道へ、鬼道から一之瀬、そして最前線のアツヤへと流れるようにボールが渡り、ついに雷門のFWがゴール前へと躍り出た。

 

「雷門の今のエースストライカーがやっと動くみたいだな豪炎寺クン」

 

「……」

 

アツヤがその身を翻し、吹雪とともに回転で勢いをつけた蹴りがボールへと叩き込まれる。

その挙動を見逃さまいと豪炎寺は画面を凝視し、それを見た不動は少し笑った。

 

『雷門のエースストライカーは俺だ』って嫉妬してんの丸わかりだぜ……。

 

だがしかし、そんな不動も鬼道のプレイを凝視しているあたり、お互い様という言葉が秀子や真帝国学園の面々の脳裏に浮かんだのは仕方ないことなのである。

 

アツヤのエターナルブリザードがイプシロンのゴールへと迫る。

そして、ついにデザームが必殺技を使った。

両手で円を描き、デザームの目の前の空間が歪む。

空間に穴があき、吹雪を纏ったボールが吸い込まれ、気づけばデザームの斜め前辺りにもう1つ穴が下を向いて出現、そこへと転送されたエターナルブリザードは地面へと無理矢理軌道をズラされる。

地面へとめり込んだボールをデザームは悠々とキープするのみ。

 

「あれがデザームの必殺技、ワームホールだよ、目の前からのシュートの軌道を無理矢理ねじ曲げる技で、技が成功すれば安定してボールをキープできるのが強みだねー」

 

「あんなの使われたらシュートなんて入らねぇだろ」

 

秀子の説明にボヤく不動、だが豪炎寺は画面から目を離さずに口を開いた。

 

「だが、黒山羊は『成功すれば』と言っているんだ、転送限界があるんだろう?」

 

「勿論、シュートのパワーがワームホールを凌駕すれば転送できない、それかワームホールに転送されるより早くゴールにうち込めれば良いんだよー」

 

「……簡単に言ってくれるな、ファイアトルネードでもギリギリ届かないかもしれない」

 

「早く技を完成させないとね、豪炎寺くん」

 

そんな会話の合間にもデザームがボールを前線へと投げる、その勢いは凄まじくペナルティエリアから一気にセンターラインを跨いでMFのマキュアへとボールが渡った。

そして、マキュアの両サイドにはゼルとメトロンが追従。

士郎がアイスグランドでボールを奪いにかかるが、3人のパス回しに翻弄され不発に終わる。

そして、3人はゴール前へと躍り出ると一気にエネルギーを解放し地面がヒビ割れ地面から溢れ出たエネルギーがボールへと収束、そして3人が一斉にボールへと蹴りかかる。

ガイアブレイク、イプシロンのFWのゼルとマキュア、メトロンの3人による連携技である。

 

そこへ小暮が走り出すと何故かその場で逆立ちをする、そのせいでボールが小暮の無防備な背中へと命中、小暮ごと突っ込んできたボールに対応できなかった円堂はゴールを許してしまう。

 

「あちゃー、前回のイプシロン戦の時に出した小暮くんの技に期待してたんだろうけど、不発かー」

 

秀子の言葉通り、前回の試合ではゼルのガニメデプロトンよりも威力の高かったデザームのロングシュートを小暮が謎の技を用いて単身で止めてみせたのだ。

そこが雷門の強みであると同時に弱みでもある。

試合中に進化を続け、格上相手であろうと追い抜く事が可能なチームであると同時に逆に成長途上であるが故の脆さを常に抱えている。

技が安定しないのである。

たしかに雷門は試合中に技を完成させることで道を切り開いて来たが、それは目隠ししたまま綱渡りをするようなとても危うい行為である。

リスクを背負ったまま試合に臨む雷門中のどこか狂気じみた強さの反面、今回のような事故も起こり得るのをハラハラとしながら観戦する秀子たちであった。

 

0/1

 

無情にもイプシロンの先制点である。

 

そして前半終了が告げられ、一時的に画面が元のニュース番組へと切り替わった。

そこでその場にいた全員がフッと息を吐いた。

誰も意図していない偶然の一致に自然と小さな笑いが起きる、それ程までに試合観戦の時に全員自然と力が入っていたのだろう。

土方が麦茶の差し入れを持ってくると次々に手が伸び、土方家の約2日分の麦茶が一瞬で消えた。

呆然とする土方の弟や妹たち、そして豪快に笑う土方。

 

そんな優しい日常、それを崩してしまった自分達に少し苛立ち、自責の念に駆られる秀子。

そんな彼女を嘲笑うように後半が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視点は雷門へと。

 

吹雪アツヤは焦っていた、イプシロン戦に備えて、彼は練習を重ねてきたのに彼自慢の必殺技であるエターナルブリザードはデザームのワームホールによっていとも容易く止められてしまったのだから。

そして兄である士郎もそれを感じとっていたが、そのせいで思うように実力が出し切れていない部分もある。

アツヤの焦りを感じ過ぎてしまうのだ、2人は今まで2人揃えば完璧だと信じてサッカーを続けてきた。

 

 

 

 

 

突然の吹雪で試合が中止になった日、家の中で父と自分たち兄弟の3人で交わした会話。

 

「兄ちゃんこの前ミスしたんだぜー!」

 

「あれはアツヤが急に守備の方まできて邪魔したせいだろー!」

 

「まぁまぁ」

 

喧嘩をした時、父は優しく宥めてくれた,

でも幼い頃の自分たちはいつもそんな父の前で喧嘩をしていたっけ。

 

「守備なんてつまんねーし、俺がシュートを決めれば勝てるだろー!」

 

「ダメだよアツヤ、どんなに点を取れても、守備がちゃんとしてなきゃ負けちゃうんだよー?」

 

そんな2人の言い合いに顔を輝かせて笑う父、そして2人に優しく語りかける。

 

「なら2人揃えば完璧じゃないか、アツヤが点を取って、士郎が守る、2人が揃えば勝てるさ!」

 

父の言葉に顔を見合わせる2人。

 

「俺が点を取って……」

 

「僕が守る……」

 

2人の表情が自然と笑顔になる、そんな様子を見て両親も微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

士郎が守り、アツヤが決める。

 

そのプレイができれば自分たちは完璧なのだと、そう信じてきたのに、エイリア学園に対しては通じない時があった。

このイプシロンである。

この雷門のメンバーは自分たちと同等と言っても過言ではない程の実力を持っているチームで、今までの白恋のメンバーより正直にいえばやりやすい環境のサッカーにも関わらず、敗北してきた。

士郎の守備を突破し、アツヤのシュートを止めるチーム。

2人はそれぞれ壁にぶち当たり、そしてアツヤは士郎が、士郎はアツヤが壁にぶつかっている事に不安を感じ、それぞれ実力が発揮できなくなっていたのである。

父の言葉通りやってきたはずなのに。

 

「僕が敵からボールを奪わなきゃいけないのに……!」

 

「俺がシュートを決めなきゃいけねェのに……!!」

 

2人の不調をピッチの鬼道、そしてベンチからは瞳子、2人はそれを敏感に感じ取っていた。

 

それでもデザームからゴールを奪えるのは恐らくアツヤだけであり、イプシロンの連携を切り崩してボールを確保出来るのは士郎が適役。

2人の不調の原因を探り、それを排除しようと思いつつもそれは吹雪兄弟2人の内面の問題であり、外的要因だと思っている2人は原因に気づくまでに至らない。

 

「アツヤ……!」

 

士郎から前線にてイプシロンのマークを無理矢理突破したアツヤへのロングパス、アツヤは再度エターナルブリザードの体勢へと移る。

氷と風が荒れ狂い、ボールが吹雪を纏ってゴールへと突き進む。

 

「エターナルブリザード……!!」

 

決まれ!そう吹雪兄弟の2人が心の中で念じるもデザームのワームホールがそれを吸い込み、地面へと軌道を無理矢理変えてみせる。

地面にめり込み、それを悠々と回収するデザーム。

先ほどよりも威力が上がっているのか、地面に更に深く沈んでいた。

 

「いいぞ……!!もっと強く……!!もっと激しく打ち込んでこい……!!」

 

 

「……次こそ決めてやるから覚悟しやがれ……!!」

 

「アツヤのシュートを何回も止めるなんて……!!」

 

デザームからDFのケイソンへとボールが渡り、前線にて一之瀬のマークから突破したクリプトへとボールが繋がる。

クリプトに迫る土門だが、必殺技を使おうと一瞬のタメに入った隙を突かれMFのマキュアへのパスを許してしまう。

MFのマキュアがゴールへと迫る、士郎がボールを奪わんと駆け寄るがマキュアは空へと跳び、技の名を叫ぶ。

 

「メテオシャワー!!」

 

ボールをオーバーヘッドの体勢で下方向へと蹴り込むとボールとそれに追従する隕石のオーラが吹雪を襲い、吹雪がそれを回避している内にマキュアは悠々と突破する。

 

「くっ……!!僕が止めなきゃいけないのに……!」

 

「くっそ!!兄貴でも止められねェなんて……!!」

 

マキュアがドリブルで駆け上がりながら無駄のない動きでボールをゴールへと打ち込む、しかしながら円堂もそれを難なくキャッチし壁山へと投げ渡した。

壁山は自分のキープ力に自信が無いため、それを士郎へと託す。

士郎がボールを受け取ると、アツヤが強引にマークを振り切ってフリーな状態になるが、マキュアとメトロンが士郎へと迫る。

士郎が無理矢理パスを通そうとするのを見て、鬼道が叫んだ。

 

「士郎!!自分で運ぶんだ!!アツヤにばかり負担をかけるな!!」

 

その言葉にパスを止める士郎、その間にもイプシロンのMF2人が迫るが、士郎は鬼道の言葉に衝撃を受けていた。

 

自分のパスが負担になっていた?

 

たしかに、士郎がボールを奪ってすぐさま前線のアツヤへとパスを送るカウンターのような戦術は相手の不意をつく形になるのでかなり有用な作戦であることは間違いない。

だが、そのために毎回わざわざマーク突破するのではアツヤの肉体的な負担は計り知れないだろう。

 

ならばどうするか?

 

機を待つ、士郎自身がボールを運び、アツヤへのマークが緩む瞬間を待つ。

基本的かもしれないが、フィールドプレーヤーとして優れた才能を持ち、今までの速攻で充分通じていた2人にとってはそのプレイングとは自分たちより劣った弱者がするものであり、そんなことをしていてもなんの意味があるのか?

くらいにしか思っていなかったのである。

士郎もアツヤも、周囲との協調性より自分たちが思った通りに自分たちのやりたいプレイングをすることが勝利に繋がると信じてここまできた。

 

アツヤが決めて、士郎が守る。その言葉が何度と先程の鬼道の言葉が何度もリフレインする。

 

士郎から奪われるボール、マキュアとメトロン、そしてFWのゼルがゴールへと迫る。

そんな中、放心する士郎を眺めることしかできないアツヤと鬼道の言葉を脳内で何度も噛み砕く士郎。

そしてマキュア、メトロン、ゼルによる連携シュートが再度放たれた。

 

『ガイアブレイク!!』

 

地面から噴き出したエネルギーを纏ったボールがゴールへと迫る、壁山と塔子がそのシュートの前に立ちはだかり、巨大な塔と壁が出現、シュートの威力を削ぐものの破壊され2人は吹き飛ばされる。

円堂は、左腕を顔の前へと構え、右腕を腰に溜める。

心臓から解放されたエネルギーが円堂の身体の周りを衛星のように舞い、右腕へと収束される。

円堂の背後に出現する魔神が吼え、円堂と魔神がその右腕をボールへと振るう。

 

「マジン・ザ・ハンドォオ!!」

 

今までとは違う構えから繰り出されたその技は今までよりも強い出力でガイアブレイクを難なく止めてみせた。

エイリア修練所での特訓の最中、円堂が自分自身で見つけた最も力の込めやすい、踏ん張りやすい足腰の使い方。

それによって円堂自身は勿論、必殺技のマジン・ザ・ハンドまでもが強力になったのだ。

 

「士郎!!」

 

そんな円堂から士郎へとボールが渡る、士郎は先ほどイプシロンのMFからボールを奪われた自分が、何故?と円堂へと目を向けると、そこには士郎を信じている。と声を聞かずとも円堂の顔が、態度がそう伝えていた。

再度士郎へと迫るマキュアとメトロン、だがしかし、士郎はそれを簡単にすり抜け、前線へと走り出した。

 

「兄貴……!!コッチだ!!」

 

強引に突破しようとするアツヤ、しかし、士郎はアツヤへと叫んだ。

 

「まだだ……!!焦らなくていい!!」

 

士郎へと今度はMFのスオームとクリプトがスライディングでボールを奪いにかかるも、それを跳び上がって回避、そしてアツヤ……ではなく逆サイドの鬼道へとパスを回し、鬼道は更に浦部へと流れるようにパスを繋いだ。

今回の試合での不調、そしてアツヤとその周囲のメンバーにしかパスを回さない、という士郎の弱点がほぼ同時に改善されたことに鬼道は思わずニヤリと笑う。

アツヤに重点的にマークがついていたため、士郎を止めるためにと浦部についていたマークが一時的に離れた隙をついたプレイング、士郎はもう気づいていた。

 

自分たち2人では倒せないとしても、フィールドには他に9人も仲間がいるのだから。

そして、他の9人と力を合わせることで自分たちは力を温存でき、更に自分たちの実力を今よりもっと発揮できる。

 

浦部がゴールへと躍り出ると腰を捻り、身体を軽く回転させる、靱やかな身体の捻りから繰り出されたシュートはまるで赤い薔薇とその棘のように美しかった。

 

「ローズスプラッシュ!!」

 

だがしかし、デザームのワームホールによってそのシュートは難なく止められてしまった。

 

「おっしいなぁー!!腹立つわぁー!!」

 

苛立ちを隠すことなく全面へと出して跳ねる浦部、それを見た一之瀬や風丸は苦笑し、デザームは物足りん!!と叫ぶ、そんな中、アツヤは士郎へと目線で訴えかける。

 

なんで俺にパスを出さなかった?と。

 

士郎の判断は間違ってはいないだろう、無理にマークされているアツヤに回すよりマークの薄い浦部の方がシュート成功率が高くなるのは初心者でもわかる事だ。

だが、逆にアツヤと今までの士郎はそれに気づかなかったからこそ、今の不調を招いていたのだから。

士郎はアツヤの無言の訴えに何も返すことなくポジションへと戻る。

デザームが逆三角形型の赤いガスマスクをつけた少女、DFのモールへとボールを投げ渡すと、モールに向かってアツヤがボールを奪うため一気に速度を上げて迫る。

モールが他のDFやMFにパスを繋げるより早くアツヤがそれを奪い、再度、氷と風が周囲を舞う。

これにはイプシロンのメンバーだけではなく雷門の面々も驚きを隠せない。

 

「エターナル……ブリザード!!」

 

「ワームホール」

 

だがしかし、吹雪を纏ったボールはまたも、デザームのワームホールによってゴールラインを跨ぐこと叶わず。

シュートの軌道は無理矢理地面へと修正された。

 

しかし、デザームに衝撃走る。

 

先程より更に深くめり込んだボール、つまりはシュートの威力がまたも増している。

 

わなわなと震え、デザームはまたも歓喜を込めて叫ぶ。

 

「もっとだ!もっと激しく打ってこい……!!」

 

デザームのパスがDFのケイソンへと渡り、ケイソンはスオームへとパスを繋げた、そして攻撃の最中であるイプシロンは誰もアツヤにマークがついていない。

フィールドの魔術師こと一之瀬一哉がそんな隙を見逃すハズなく。

一之瀬がブレイクダンスのように身体を捻らせ回転すると炎が舞い、ケイソンを吹き飛ばし、ボールを絡めとる。

 

「フレイムダンス!!」

 

カウンターを仕掛けるつもりが雷門にカウンターを返されるイプシロン、急いで守備に戻ろうとするものの既に遅く、一之瀬からアツヤへとボールが渡るとアツヤは身体を捻りボールを中心にブリザードが巻き起こる。

 

「こいつでも喰らいやがれ……!!エターナルブリザードォオ!!」

 

これまでで最高の威力とスピード、キレ、そしてなによりアツヤ自身の覇気が凄まじいシュートであった。

デザームがワームホールを展開し、ボールが吸い込まれるかと思ったその瞬間、アツヤのエターナルブリザードの纏う吹雪がワームホールのエネルギーと拮抗し始めたではないか。

吸い込もうとするワームホールをそれ以上のパワーとスピードで押し退けるエターナルブリザード、ワームホールによって吸い込まれるかと思われたその技は空間に風穴を開け、ワームホールを突破。

驚くデザームの顔の横を通り過ぎ、ゴールネットを揺らした。

 

1/1

 

ついに雷門が鉄壁の守りかと思われたデザームから1点を奪い取った瞬間である。

 

「……よォっしゃァアア!!」

 

アツヤが歓喜の叫びをあげる、そして士気の上がる雷門、円堂もこの勢いでイプシロンに勝つぞ!と声を上げると雷門のメンバーが応!とそれに応える。

アツヤは得点板を見て、ニヤリと笑う。

 

兄貴、やっぱりそうだ。

俺が得点を取るのが1番速えーし、1番確実だ。

 

2人の間に、2人自身も気付かぬ間にできた溝に、気づくものはなく。

 

そのまま試合は続く。

 

イプシロンボールで試合再開、ゼルからマキュアへボールが渡りマキュアが必殺技のメテオシャワーによって塔子を吹き飛ばしながら前線へと突き進む。

一之瀬と風丸が両サイドから挟み込むように迫るものの、隙のできたライン際に走り込んでいたメトロンへとパスを回すことでそれを回避する。

メトロンへとボールを奪いに迫る土門だが、メトロンはそれを壁山のマークを振り切って走り抜けていた最前線のゼルへとパスを回して回避。

ゼルはその両手からエネルギーをボールへと込め、そのエネルギーをもってボールを射出する。

手は触れていないのでハンドではない。

 

「ガニメデプロトン……!!」

 

何度でも言う、手は触れていないのでハンドではない。

エネルギーを纏ったボールへと立ちはだかるは小さな影、漫遊寺からの追加メンバーである小暮。

彼はボールをしっかりと正面から見据え、その目には力がこもっていた。

既に恐怖はなく、宇宙人と戦うだけの覚悟は決まっていた。

逆立ちの体勢をとると、カポエラのように手を軸に身体を回転させる、否、これは太極拳の亜種と言った方がいいのかもしれない。

ボールを正面から弾くのではなく、足の回転に合わせて方向をズラし、それを回転の中に閉じ込め勢いを殺す。

 

「今度こそ……!!これが俺の旋風陣!!」

 

その名に恥じぬ、旋風が巻き起こるとボールの勢いは完全に小暮のものとなり、旋風が止んだ頃には小暮の足元に転がるボール。

壁山のザ・ウォールと塔子のザ・タワーが強固なエネルギーをもって敵の勢いを削ぐ剛の技ならば、小暮の旋風陣は風のように敵の勢いを意のままに操る柔の技。

DFに止められるとは思わず呆けるゼルをお構い無しに小暮から士郎へとボールが渡る。

士郎がボールを確保したのを確認すると、またもアツヤはマークを無理矢理突破してフリーな状態でゴール前へと躍り出る。

士郎から鬼道へとボールが渡り、アツヤへと迫るDF陣を見た鬼道は浦部へとボールを回すが。

それを見たアツヤは激昴、無理矢理イプシロンのDFを置き去りにするほどのトップスピードのまま浦部からボールを奪い取った。

 

「アツヤ……?!」

 

「危なっ?!なにすんねん!!」

 

アツヤの独断による浦部からのボール奪取に驚く士郎を含む雷門イレブン、そしてボールを仲間であるアツヤに奪われたもののなんとか転ばずに体勢を整えた浦部を尻目に彼は再度、必殺技の体勢をとる。

 

「俺が決めんのが1番手っ取り早いじゃねェか……!!」

 

吹き荒れるブリザード、その中を舞うアツヤの回転の勢いがボールへと叩き込まれる。

吹雪を伴ったシュートが再度イプシロンのゴールへと迫る。

 

「エターナルブリザード!!」

 

デザームがニヤリと笑う。

 

「この私のワームホールを破ったのは貴様が初めてだ……敬意を表し私も本気で貴様のその技を打ち破ろう……!」

 

その右腕を天に掲げると右腕から放出されたエネルギーが巨大なドリルを形取り、その右腕をデザームはボールへと振るう。

 

「ドリルスマッシャー!!」

 

エターナルブリザードのエネルギーを削り取るドリル、勢いもなにもかも削がれたボールは回転するドリルスマッシャーのエネルギーによって空へと弾かれ、そのまま落ちてきたボールをデザームは軽くキャッチする。

 

「あいつ、あんなすげー技をまだ持ってたのか……!」

 

デザームのドリルスマッシャーに驚く円堂、そして雷門イレブン。

なによりその技に衝撃を受けたのはアツヤだった。

自分が必死になって打ち破ったデザームはまだ本気ではなかったという事実。

アツヤがそんな事実に打ちのめされている中、デザームはボールをラインの外へと放り投げ。

 

「引き分けだ、今回の勝負はここまでにしよう」

 

その言葉に驚く雷門、ベンチにいるマネージャーの雷門夏未が時計を確認すればたしかに試合の時間ももう残り僅か、とはいえワンプレイならできるかもしれない、という微かな希望もまだある時間が残っていた。

デザームの言葉にイプシロンのメンバーが集まり、黒いサッカーボールから発せられる歪みがイプシロンのメンバーを包む。

それを見て最も納得がいかない彼は叫ぶ。

 

「ふざけんなァ!!まだ勝負はついてねェぞ!!」

 

歪みへと突撃せんと走るアツヤを士郎と鬼道が止めるが、アツヤは尚も叫ぶ。

 

 

「我らは再び、真の力をもって貴様らの前に立ちはだかろう……では、さらばだ……雷門中……!!」

 

「逃げんなァっ!!」

 

睨むアツヤの目の前でイプシロンは姿を消し、グラウンドには雷門の面々だけが残された。

そしてその中で、アツヤの叫びだけがグラウンドに響くのだった。

 

「畜生ォォオオオオ!!!!!」

 

 

 




間が空いてしまいました……。

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