グランとニグラスは笑う、2人は東京のとあるカフェで珈琲を飲んでいた。
「秀子も中々いい演技だったよ、雷門のマネージャーが萎縮してる様は中々面白かったね」
「えー、タツヤもノリノリだったじゃん……ていうかグランも私に負けず劣らず盤外戦好きだよねぇ」
「……まったく、君も本当に色々動いてくれたよね。
イプシロンやジェミニストームだけじゃない……まさかカオスまで強くするのは意外だったけどね」
「……だってあの程度に勝てないようなヤツらと戦っても面白くないしね」
2人の視線が冷たく交差する、2人に珈琲のおかわりを聞きに来た店員は場の空気に呑まれてしまい涙目だ。
それに気づいた2人は苦笑しておかわりを頼んでいた。
「……ところで、どうなると思う?」
「んー?瞳子姉さんの事をザ・ジェネシスのキャプテンとゴールキーパーが身内だって言ってたら多少は動じるんじゃない?」
「多少、か……彼らを信じているんだね?」
「いーや、鬼道、不動、アフロディの影山被害者の会は『判断材料が足りないから実際にこの目で把握するまでは迂闊に判断できない』とか言うんじゃない?」
秀子が鬼道の真似をするとタツヤは少し笑った。
だが、その後すぐに秀子の表情がつまらないといったものに変わる。
「で、円堂守は瞳子姉さんの味方するんじゃない?
結局は頭いい連中と円堂守に依存してる連中の多数決で雷門イレブンは来るだろうね、富士山」
「……へぇ」
「ま、でも今の雷門のシュート程度なら君之(きみゆき)で余裕でしょ!サボっていい?」
「それはダメだよ……俺たちは圧倒的な実力差で雷門に勝つ……それを示すなら君の力が手っ取り早い」
「えー、か弱い女の子だぜ私」
「ははっ、君でか弱い女の子なら俺のシュートを抑えられない子達はどうなるのさ?」
「……プランクトン?」
「困ったな、人の総数が今ので約半分減ったよ」
夜、帝国学園スタジアムに轟音が響く。
そこでは不動とアフロディ、そして豪炎寺はいくつもボールをダメにして練習していた。
そして、不動は力尽きたかのように仰向けに倒れた。
「……なんとか形にはなったな不動」
「これなら彼女からゴールを奪えるかもしれないね」
「……豪炎寺クンとアフロディクンは余裕そうだねぇ……」
肩で息をする不動、不動はそんな中ポツリと呟いた。
「でも、これが成功すんのは1度っきりだ……アイツの……秀子サンは確実に2回も同じシュートを通すわけねぇ……」
「わかってるさ、エイリア学園最強のゴールキーパー……油断はしない」
「ああ」
「どうやらお前たちはあのゴールキーパーについて詳しいらしいな」
『ッ?!!』
そこへ現れたのは鬼道だった、ゴーグルの向こうから赤い瞳で3人を見る。
「……話してくれ、今日の瞳子監督の件とも……関係があるんだろう?」
雷門中のグラウンドで瞳子の事を姉さんと親しげに呼んだグランとニグラス……その事で雷門は今割れていた。
瞳子がその事を言及された際に富士山脈……そこで全てを話すとだけ言ってまた姿を消したのだ。
時々練習の度に姿を消す瞳子監督に疑念を持つ選手もいた、一之瀬や土門は瞳子監督を信頼できないと言って出ていってしまった。
そして鬼道は判断材料が足りないと現状維持を支持、キャプテンである円堂は彼女を信じるべきだと。
そうして意見が割れる中、一言も話さなかったのがこの3人ということで鬼道は密かに目星をつけていたのだ。
「わかったよ、でも俺達も全部知ってるわけじゃねぇ……知ってる事だけ話すぜ?」
不動の口から語られたことに鬼道は驚きを隠せなかった。
エイリア学園は宇宙人ではなく、吉良財閥が発見したエイリア石という未知の物質で強化されただけの人間であり。真・帝国学園もその力を使っていたという。
だが、佐久間や源田は鬼道への復讐に毒されていたせいかその事を聞いていなかったため知ったのはつい最近だと。
そして、その情報を持たらした人物の名は黒山羊秀子(くろやぎしゅうこ)。
アフロディや豪炎寺、そして真・帝国学園を鍛え上げた雷門のサポーター。
源田にハイビーストファングを伝授し佐久間や源田たちの先進治療を手配した者。
エイリア学園で1人スパイとして活動している瞳子監督の妹分であり、エイリア学園最強チームザ・ジェネシスの正ゴールキーパー、ニグラス。
聞けば豪炎寺をエイリア学園に引き込もうとしたエイリア学園の過激派と言った者たちを警察が確保できるように手配したのも彼女だという。
「……驚いた、そこまで俺たちの事を裏から助けてくれていたのか」
「あぁ、だがアイツも言ってたけどよ……ザ・ジェネシスとして戦う時は、徹底的に捻り潰す気で行くから覚悟しろ……だってさ」
「なるほどな、それでお前たちは密かに練習していたのか……だがあの技はなんだ?とても限定的な技のように見えるが」
「ああ、だからこそザ・ジェネシスのゴールキーパー……ニグラスからゴールを奪える」
朝、雷門イレブンが富士山脈へと向かう当日。
雷門中のグラウンドへと集合時間よりもだいぶ早く来た円堂の前に2つの人影が立っていた。
「やぁ、円堂くん」
「ヒロト……!」
「ヒロトじゃない!!」
円堂の言葉に叫ぶようにして否定の声を上げたのはニグラス、そしてニグラスは気まずそうに彼はグランだよ……と呟いた。
「まぁ、そういう事だよ……僕達のホームグラウンドに来なよ」
「……富士山か?」
「正解!そこで待ってるよ、雷門の最後の相手……ザ・ジェネシスとしてね」
「お前たちは何を企んでる!!」
「来たらわかるよ」
交差するタツヤと円堂の視線、グランは円堂の隣を通り過ぎるように歩き始めた。
そんな彼を追うようにニグラスも歩き出した。
「ザ・ジェネシスはエイリア学園最強のチーム、君たち地上最強チームと戦えること、楽しみにしてるよ円堂くん」
「私たちザ・ジェネシスは強いよ、精々抗ってみせてね……雷門」
グランとニグラスはすぐに吉良財閥の所有する小型飛行機に乗り込んで、彼ら自身のホームグラウンドである富士山脈へと向かっていた。
顔色の悪いニグラスに、薄ら笑みを浮かべるグラン。
「ニグラス、君があそこまで感情を露わにするなんてね……珍しいこともあるものだね」
「アンタはヒロトじゃない……アイツの……代わりじゃない」
「……俺はヒロトになるよ、それで父さんが救われるなら……ね」
それ以降、2人に会話はなく。暫くした後富士山脈へと辿り着いた。
2人が降りると、そこにはザ・ジェネシスのユニフォームを着たウルビダが待機していた。
「2人は目立ちすぎる、ザ・ジェネシスのキャプテンと切り札の自覚はあるのか?」
「なに、ザ・ジェネシスのキャプテンとして彼らを揺さぶってきただけさ」
「……別にデートしてた訳じゃないから安心してよ玲名(れいな)」
「ッ!!知らん!!」
怒って何処かへと歩いていってしまうウルビダ、そしてグランとニグラスもザ・ジェネシスのユニフォームに着替えるためにとそれぞれ割り振られた自室へと向かう。
そうしてニグラスが歩く中、ふと通路にバーンとガゼルの姿があった。
「秀子、段取りはOKだ……実行のタイミングはいつだい?」
「……ホントにやれんのか?」
「晴矢(はるや)風介(ふうすけ)……ありがと、大丈夫……ごめんね2人にも監視の目が多かったから、ハイソルジャー計画が最終段階になるまで話せなかったの」
「はっ!水くせぇなぁ!……俺らこそすまねぇな、色々迷惑かけた」
「ホントだよ、2人とも一角(いっかく)たちにも謝りなよ……?」
『ぐっ!!』
秀子の言葉にたじろぐ2人、秀子は少し笑うと2人を置いていくようにまた歩き出した。
その姿はたしかに未だ自分たちと同じ年頃の少女のものだが、彼らにはその姿がこれ以上なく頼もしく見える。
「……ふん、晴矢は本当に秀子から貰った資料の内容がわかっているのかい?君がなにかしでかさないか心配でしょうがないよ」
「んだとゴラ?!……一通り目は通したさ!!」
「……返事になっていないのがさらに心配だよ」
吉良財閥兵器開発所、総帥室という名の茶室。
その空間には3人の人間がいた、吉良財閥会長……お父様こと吉良星二郎(きら せいじろう)とその秘書研崎(けんざき)そしてハイソルジャー代表として黒山羊秀子。
どうやら秀子がお茶を点てているようで、彼女は2人へとそれぞれ茶碗を差し出した。
吉良はそれを1口唆ると頷いた、結構なお点前で……その声に秀子は頭を下げる。
研崎も同じように唆ると少し体が震えた、彼は秀子を睨むようにして吉良と同じように結構なお点前でと呟く。
秀子がわざと不味く点てたのをわかっているのだろう、だが会長の手前で粗相は起こせない。
今の吉良は計画の成就間近でご機嫌ではあるが、とある事情で精神が不安定なのだから。
「秀子、最初は君之にキーパーを任せると……」
「はい、タツヤが言っていた通り私が最初から出ても良いのですが……それでは花が無いかと」
「ほほう……」
「君之というキーパーをやっと乗り越えた……そんな場面で更なる脅威に晒されれば彼らの心も折れ、宣伝としての演出になるかと」
というのは建前で、自分がキーパーをする前に雷門には数点だけでもリードしててほしいという彼女の不安から来ているものである。
ザ・ジェネシスは負けなければならない、だが。
手を抜いて負けるのは嫌だ、という複雑な心境でもある。
今はもう転生してからだいぶ時間が経った彼女ではあるが今の精神は確実に今の身体に引っ張られている。
じゃなきゃアニメキャラクターたちに混ざってあんな風に振る舞えない。
そんな風に会話していると、アナウンスが鳴った。
侵入者発見、という機械音によるアナウンス。
吉良が呟いた、来ましたか……と。
「雷門の連中のようです」
研崎が電話を片手に告げる、どうやら部下から連絡が来たらしい。
秀子は臆病者なコイツらしいなと思いながらも頭を下げた。
「吉良さん、私たち……ザ・ジェネシス、準備します」
「頼みましたよ秀子……おっと、君の言っていた作戦ですが……良いでしょう折角君之もガイアとして頑張っていたのです……少しくらい許しましょう」
秀子は頭を再度下げると茶室を後にした。
その瞳に闇を宿しながら、ザ・ジェネシスの準備室へと足を踏み入れた。
「みんな、準備して……君之もね」
その言葉に小柄な少年、ネロこと根室君之(ねむろ きみゆき)が立ち上がる。
「良いのか秀子」
「うん、君之なら大丈夫でしょ……なんたって私の一番弟子なんだよ?」
「フッ……秀子の出番は来ないぜ?」
「お、サボれてラッキー」
君之と秀子が笑う、その姿を見てジェネシスの大柄なフォワードであるウィーズが近付いてくる。
その表情は少し申しなさげだ、いつも堂々としている彼らしくもない。
「どうしたの由宇(ゆう)?告白なら後にしてね?」
「ちげぇ!!」
秀子の軽口に大きな声を出した彼はすまねぇ、と小声で続けた。
「この間はすまなかった、だが……お前がこの場にいる誰よりもこの計画に尽力してきたのは知ってるつもりだ……勝つぜ俺たちは」
「うんうん、私から1点でも奪えてたらもっと心強かったなぁ」
「なんでそう茶化すんだてめぇは!」
「そうそう、由宇も含めて皆やる気満々ってわけ!頑張っちゃうよ!!」
そう言ってMFの少年の2人、いつも目を閉じているのではないかという程の細目のコーマとその後ろに紅いサングラスをかけたアークが声をかけてきた。
「俺たちはエイリア学園最強の座を背負ってる……負けていい理由がないからな」
「京馬(きょうま)聖(きよし)……」
「やーね、皆やる気になっちゃって……私たちはいつも通りやればいいだけよ」
「そうだっポー!いつも通り捻り潰すだけっポ!」
DFの紫の巻き髪の少女キーブとその近くで跳ね回るMF大きなお団子を2つ結った紫髪の小柄な少女クィール。
「布美子(ふみこ)ルル……」
「殺ってやるっポー!!」
「相変わらずクィールは口が悪いな……」
「キシシ……まぁ、君之の出番すら無いかもな!」
「お前らもだが、試合中はコードネームで呼べよ……?」
跳びはねるクィールの頭を撫でるのは大柄で少し異質な肌色のDFハウザー、笑いながら近付いてきたのは蛇のような風貌の少年ゲイル、そして彼らを見て呆れた表情をしているのはマスクをつけた大柄な少年ゾーハン、いずれも優秀なDFたちだ。
「剛太(ごうた)隆則(たかのり)半蔵(はんぞう)」
「行くぞお前たち、全てはお父様のためだ……失敗は絶対許されない」
「勿論だよウルビダ。改めて言うけど……行くよ皆」
そして青い髪の少女、司令塔のウルビダと赤髪の少年……キャプテンのグランが手を出した。
それを見て少し間が空く、クィールだけはすぐ手を出そうとして周りを見渡してしまっている。
その光景を見てグランは少し笑った。
「円陣ってやつ……やってみたかったんだよね。
父さんのためにも俺たちは負けない、負けられない!」
1人ずつ手が重ねられていく、秀子は手を出せなかった。
ウィーズが言っていた通り確かに秀子は数々の事を行ってきた。だがそれは彼の思いに反していた。
雷門を育てるために。お父様への裏切り行為でもあった。
「ニグラス」
グランの目がニグラスへと向いた、彼ら11人の手の上へとニグラスはゆっくりと最後に手を乗せた。
「これは侵略だ。
俺たちの父さんのために……俺たちは今の社会を作り替えるための侵略者になるんだ」
全員の目がグランへと集まる、その中には恐れといった表情で見る者もいた。
だが、グランの目を見て迷いを掻き消した。
誰よりも強い意志で彼は立っている。
「ザ・ジェネシス、出陣だ!!」
『応!!』
お父様こと吉良星二郎による日本の首脳陣へのプレゼンが終わり、彼らザ・ジェネシスはグラウンドへと降り立つ。
秀子は黒髪を団子のように結って無骨なガスマスクでその顔を隠す。
「脅威の侵略者……ね」
彼らの眼前にいるのはかつてライバルでもあったプロミネンスとダイアモンドダストの混成チームカオスすら打ち破った地上最強チーム、自分も関わってきた最強の敵。
その事実に秀子は一瞬身震いした、やっと、やっと全力を出せるかもしれない。
その瞳は闇へと沈み、ガスマスクの奥で口角が歪に上がる。
「かかっておいでイナズマイレブン」
そして、地上最強チームの背後にいる泣きそうな表情の女性へと目が向いた。
姉と慕った女性、こんな不気味な子供でも妹として扱ってくれて……何度も助けてくれた瞳子。
「姉さん……!!」
最後の戦いが始まる。
雷門視点のお話は是非原作で、次回以降の秀子ちゃんの活躍をお楽しみに(なお、スターティングメンバーではない)