君たちの前ではただ、私は私でありたい。
GK
立向居
DF
円堂 士郎 土門 壁山
MF
鬼道 一之瀬 塔子
FW
豪炎寺 アツヤ リカ
雷門のスタメンにはアッキー……不動君がいなかった。
恐らくはエイリア石を使ってたからスタミナ管理が覚束無いんだろう、治たちイプシロンとの戦いでは司令塔としての活躍がメインだったからフルで出場できてたけど晴矢と風介……圧倒的な攻撃力を誇るカオスとの戦いでは守備でもエンジン全開、体力の消費は凄かったからね。
鬼道君やアフロディ君、それに姉さんならそんな事ぐらいすぐに気がつくだろうし。
あとアフロディ君が控えている理由はわからないけれど、カオスとの戦いでは単独での決定力としては正直微妙だったけど、終盤での連携は見事だったから不動君とコンビでの運用を考えているのかもしれない。
吹雪兄弟は2人とも守備と攻撃に優れているから安定なんだろう、ホワイトダブルインパクトにアツヤ君が前回使っていたあのよくわからない技。
ファイアブリザードを絡めとっていたあの赤い風、俺の記憶ではそんな技は知らない。アツヤ君が生きていた時点で俺の知っている記憶には頼れない。
それに壁山君と円堂君の連携技、あれも強力だった。
ゴッドハンドの派生系、亜種と言えばいいのかよくわからないけれども。
ヘディング技であるメガトンヘッドは円堂君が使った直後に隙だらけになるし、前回の試合ではたまたま近くに跳ね返ってきた選手が拾うような動きをしていたし、狙った場所に向かって跳ね返すのも苦手そうだ。
雷門の観察と復習をしている内に試合は幕を開ける、豪炎寺君から鬼道君へのバックパス。
鬼道君が「みんな上がれ!」と指示出しをしている。
なるほど相手のペースになる前に得点してしまおうという算段かな?実力のわからないチームとはいえ同じマスターランクチームであるダイアモンドダストと引き分けた上、そしてその混成チームであるザ・カオスを打ち破っている今、勢いを大事にしたみたいだね。
雷門のFWとMFが散り散りになる中、タツヤも由宇も、それにMFの皆もそれを黙って見送ってる。
どうやら1回雷門の動きを見てからゲームメイクをしようって魂胆だね、この動きなら鬼道君のキープしているボールがジェネシス陣営の中盤に来た頃に奪うか、それとも1回シュートを打たせるのかもしれない。
鬼道君がボールを蹴り上げた、円堂君や一之瀬君たちが近くにいないから恐らくは連携技じゃなくてストライカーである豪炎寺へのパスだ。
ザ・ジェネシスのDFの皆は動かない、1回打たせるらしいね。
その動きを見て歯を食いしばったのは豪炎寺君とアツヤ君、明らかな挑発に乗っちゃうのはあの2人の良くないとこかな……豪炎寺君が背後に灼熱の魔人を呼び、その豪腕に弾かれるかのように跳んだ。
「爆熱ストーム!!」
豪炎寺君が怒号のように技の名前を叫びながら炎を纏った脚がボールに叩きつける、沖縄で練習を見てた時よりも威力が高まってるのを見て思わず気分が高揚する、期待で胸が膨らむ。
あれはプロキオンネットじゃ止めれるか微妙だなぁ、私の心配を他所に君之が片手を掲げた。
あれなら止めれる、俺の記憶にもあった君之の必殺技。
「時空の壁!!」
君之の周りの時が歪む、爆熱ストームの勢いが緩やかになって君之の目の前にやっとの思いで辿り着くけれど。
それを裏拳で君之は軽々と吹き飛ばした。
流石私の弟子!と叫びたくなる、これは親バカに近いのかな?
さてと、雷門……私の仲間たちを舐めてるとタダじゃ済まないからね?
豪炎寺は自身の技を軽々と吹き飛ばしたGKの余裕そうな笑みに思わず眉間に皺が寄る。
今はまだベンチでニコニコと笑っている黒髪の少女、ニグラス……黒山羊秀子。
正キーパーである彼女が出てこなかった理由は雷門への油断かそれでも勝てるという自信か、それを確かめるためにも最初は攻めようと鬼道が提案していた雷門はそれが後者であったことに緊張が走る。
だが、そんな事お構い無しと跳ね返ったボールはザ・ジェネシスのMFであるメットを被り赤いサングラスをかけた少年、アークこと阿久津 聖(あくつ きよし)へと渡った。
元々素早いから間に合ったのか、それともGKであるネロこと根室 君之(ねむろ きみゆき)の狙いが正確だったのか。
それは鬼道を含めたフィールドプレーヤーたちやベンチから見ている者たちでも見極められなかった。
アークが駆ける、博多での戦いのように目にも止まらぬ速さというわけではない。
対応できる、その事実に少なからず安堵する鬼道たち。
今までいくつもの試練を乗り越えてきた成果がここで現れていると彼らの自信へと繋がった。
駆けるアークへとなんとか一之瀬が追いつくも彼は逆サイド、同じくMFである紫髪のおかっぱで2つのお団子に結った髪が特徴的である小柄な少女、クィールこと久井 ルル(くい るる)へとボールを託した。
クィールの素早さに目の前でパスを許してしまった塔子が思わず唇を噛む、その先には壁山がいるものの速度で圧倒するクィールに壁山は技の展開が間に合わず、突破を許してしまう。
クィールがゴール前で待機するタツヤ……グランの付近へとボールを思い切り蹴り上げた、士郎と円堂がパスを阻害しようと跳ぶもののそれよりも高い位置でグランはシュート体勢へと移行した。
跳び上がり腰を捻って勢いをつけた蹴りを叩き込むグラン、その足とボールが触れた瞬間エネルギーが黒い光となってボールへと注がれる。
「流星ブレード!!」
黒き光がゴールへと迫る中、立向居はその両手を広げ頂点へと至ると体の前で1拍。
手の後をなぞるように幾本ものエネルギーで構成された腕が現れボールへと迫る。
「ムゲン・ザ・ハンド!!」
1本、また1本とボールへと腕が叩きつけられるが均衡を破り、勢いは止まることを知らず無数の腕たちは軋むような音をたてながら亀裂が入ったかと思うと数泊の後に砕け散った。
そのまま立向居の身体ごとゴールへと突き刺さるボール、立向居はあまりの衝撃に肺から空気を漏らし嗚咽が溢れる。
0-1
ザ・ジェネシスの先制点である。
バーンやガゼルのシュートだって防いでみせた立向居のムゲン・ザ・ハンドを容易くとは言わないがグランの流星ブレードは切り裂いてみせたのだ。
無情な先制点、だが鬼道や瞳子の目にはまだ希望が残っていた。
前回の試合、円堂のマジン・ザ・ハンドは紙切れのように容易く破られたが立向居のムゲン・ザ・ハンドは流星ブレードと拮抗した上に試合中だろうと成長を続ける究極奥義ならば次回以降は止められる可能性は充分。
それに今回こそジェネシス、グランに隙をつかれてしまったが雷門のDF陣だって負けてはいない次こそは止めると燃えている。
円堂の事を考えれば少し複雑ではあるが、立向居がGKとなったことはやはり正解だったのだと瞳子は考える。
雷門ボールで試合は再開する。
豪炎寺からアツヤへと託されるボール、アツヤは目を輝かせながら突っ込んだ。
「行くぜオラァ!!!!」
前回とは違い、大柄なFWのウィーズや俊敏なMFのコーマが止めにかかるのをアツヤは咄嗟にバックパス。
背後にいたリカが受け取ると逆サイドから攻めていた一之瀬へとボールを蹴り出す。
一之瀬へのパスに咄嗟に反応したのは青い髪の女性MFウルビダ、ザ・ジェネシスの司令塔を勤めていた彼女はアツヤの荒々しいプレイが良い意味でなりを潜めつつあるのに気づいている。
今の雷門にワンマンプレイをするような者はおらず、鬼道の指示やチームプレイを重視する。
いわばお利口さんの集団だ。
鬼道の普段の指示出しを見ていれば充分反応は可能。
ウルビダは一之瀬からボールを奪い、前へと駆け出そうとして。
目を見開いた。
目の前には既に円堂が迫ってきていた。
「なっ?!!」
「どりゃああああああ!!!」
円堂のスライディングでボールは弾かれ、鬼道がそれを抑えてみせた。
ウルビダの読みは確かにあっていた。
最近の雷門は鬼道や不動という司令塔が常に指示を出し規律的なプレイが多くなってきていた。
だが、鬼道も不動も円堂にとある指示を出していた。
「円堂は……」「キャプテンは……」
『好きにやれ』
全員が規律的なプレイを心掛けているチームはたしかに強い、だが規律に抑えられているプレイでは得られないモノもある。
時に規律的な動きよりアドリブが効果的なのは司令塔2人だってわかっている。
だからこそ、円堂と吹雪を同時投入し。
彼らには自由にやれと投げやりに笑ってみせたのだ。
鬼道から豪炎寺、豪炎寺からアツヤ、流れるようなパスで3人はザ・ジェネシス陣へと切り込んでいく。
アツヤが敵の隙を獣のような直感力ですり抜け、歴戦のストライカーである豪炎寺は経験に基づいたプレイでそれを援護しゴール前へと辿り着く。
士郎と円堂は自陣にいるため強力な連携技であるホワイトダブルインパクトやデスゾーン2、今の雷門のトップクラスの威力を秘めた技は使えないとウルビダとネロは少し油断した。
二グラスが彼らに鋭い眼光を向けて観察しているのに2人を含めたフィールドプレーヤーたちは気づかない。
「行くぜ豪炎寺!!……さん!!」
「今はプレイに集中しろアツヤ!!」
灼熱の炎を纏った豪炎寺と極寒の吹雪を纏ったアツヤが駆け出し同時にボールへと回転をかけてのツインシュートを放った。
カオス戦で幾度も見たファイアブリザード、それをあの二人は密かに練習していたのだ。
『クロスファイア!!!』
炎と氷が混じり合い強大なエネルギーとなって突き進む、ジェネシスのメンバーからの驚愕交じりの視線を置き去りにボールはゴールへと迫る。
ネロがまたも片手を掲げると空間が歪みボールがエネルギーが緩やかになる。
「時空の壁……!!」
カオス戦のデータをジェネシスの面々もたしかに目を通していた、だがそれは勝者の雷門のデータであり敗北し自分たちよりも弱い者と見限ったカオスのデータを彼らは軽視していたのだ。
緩やかになる時の中で炎と氷が辛うじて維持していた均衡が崩れ膨大なエネルギーが周りの空間すら喰らい尽くすように溢れ出た。
それはファイアブリザードの特徴である相手のエネルギーによる拮抗すら利用した爆発的エネルギーの融合。
周りの時間すら置き去りにしてエネルギーが弾けたそれをネロは抑えきれず彼の軽い体すら押し退けてボールはゴールへと叩きつけられた。
1-1
雷門の同点である。
雷門のシュートを抑えられなかったネロへと鋭い視線を向けるお父様が口を開こうとした時。
「ネロ!」
ベンチからの鋭い声、ネロは声を上げた張本人である二グラスへと視線を向ける。
それは穏やかな目だった、まだ行けるよね?と確認するような目を見てネロはいつものような穏やかな闘争心を灯した目で答える。
まだ行ける、まだ上がある。
「次はないからね?」
表情とは裏腹に冷たい声をかける二グラス、自分たちは最強の戦士を演じなければいけないため声こそは冷たいがそれはネロを鼓舞するためのものだった。
「わかってるさ!!お前の出番はない!!」
立ち上がるネロは心配そうな目で見るDFたちに次は通さないと声を掛ける。
DFたちも彼ら2人の連携シュートや攻撃フォーメーションに対し油断はしないと一層顔を引き締める。
ジェネシスからの攻撃、ウルビダが隣にいるグランにボールを渡しグランは即座に駆け出したジェネシスの最高戦力と思われるグランに対しアツヤと鬼道の2人は必死に食らいつく。
鬼道の類稀なる洞察力とアツヤの獣じみた直感力をしても食らいつくのが必死でボールを奪えない、グランも攻めあぐねていたが気付けばボールは無かった。
ボールを探す2人を他所にクィールがクポポーと謎の掛け声を上げながら雷門陣営へとボールを持って切り込んでいた。
2人の視線を自分に釘付けにした上での彼のシュート力を活かした素早いパスはもはや芸術の域に達していた。
難点としては彼と長い時フィールドを共にしていたMFやFWの面々でしか咄嗟に対応できないがそんなのは今の試合中には関係の無いことだ。
雷門も強くはなったがジェネシスの実力はあまりに強大だった、カオス並のフィジカル、そして淀みのない鮮やかな連携に少しずつ押されていく。
助かっているのは確実に攻め込む将棋などのようなボードゲームに近い堅実な攻めのため即座に切り込んでこないことだろう。
だがそれもグランやウルビダ、ウィーズといった1人で攻め込めるメンバーをなんとかして抑えていての現状のため雷門のDF陣は確実に体力を削られている。
アークへとボールが渡り、それを抑えようと一之瀬が向かうがそれをアークは紫電を纏い目にも止まらぬ速度で抜き去った。
「ライトニングアクセル……!」
アークが抜き去る事を確信していたウィーズとグランが駆ける、ボードゲームのような堅実な攻めではパターンを見切られてしまうかもしれないがそんな芸当ができるであろう鬼道は遥か後ろにいる。
アークがボールを蹴り出そうとするもそれは空を切る、目を見張る彼を背に塔子がボールを奪い取ってみせた。
「へへっ、油断したね?!」
塔子は普段の言動やプレイスタイルから円堂やアツヤのような直感で動くプレイヤーに思われやすいが彼女自身経験や知略を使って戦うプレイヤーなのだ。
父親譲りの地頭の良さを秘め、周りが大人であるSPフィクサーズでは実際彼女が司令塔だったのだから。
塔子はアークが自らのスピードに自信を持っているプレイヤーなのを見抜いていたのだ、それ故に抜いた後に隙ができやすいことも。
「リカ!」
ボールは雷門陣営からジェネシス陣営へと跳ねる、リカが受け取るもジェネシスのDFたちに油断はなく即座に先回りされてしまう。
鬼道や豪炎寺、アツヤといった面々にもプレッシャーがかけられており単独での特攻を強いられている。
だが、リカにはそんな事関係なかった。
最初から彼女は、自分が劣っているなど微塵も感じてないのだから。
サウザーが迫るもそれを緩急を加えた走りで翻弄する、彼女にとってフィールドは自分が輝ける舞台のように思っていた。
たしかにキャプテンは円堂、司令塔は鬼道や不動に譲っている。
だが、攻めの要は自分だと彼女は良くも悪くも自信を持っている。
そんなプレイヤーは強いのだ。
彼女のプレイに目を見張るジェネシスの面々、彼女単体での活躍は正直いってほぼ無いに等しい。
だが、それは決して彼女が劣っているのではなく単純な相性の問題なのだから。
今までの相手は直感やセンスで押し切る才能特化型の選手が多かった。
それが彼女の相手を翻弄するプレイと相性が悪かっただけなのだ、今回の相手であるジェネシスは理論に基づいた堅実なプレイが多い。
故に彼女の型ハズレな翻弄するプレイは相性が良い。
サウザーが抜かれた事でゲイルやキーブといったDFたちがボールを奪おうと彼女に迫る。
だが、それも彼女からしたら自分が目立っている証拠、プレッシャーが逆に彼女を強くした。
ゲイルやキーブが迫る中、彼女に追い付こうと後ろから迫るサウザーが気づく。
「罠だ!もどれ2人とも!!」
「今更気づいても遅いで?」
彼女の視線や翻弄するプレイに集中していた2人は反応が遅れた、それは奇しくも先程グランが見せたボールを隠しながらパスをする連携と被っていた。
気付けばボールはそこになく、アツヤへとボールは渡っていた。
「中々やンじゃねェか……!!!」
ゾーハン1人ではアツヤと豪炎寺を抑える事も適わずフリーとなっていたアツヤへとボールが渡る。
だが、アツヤ単体ならば攻撃力は大したことないと油断していたネロ、そしてベンチから見ていた二グラスは一瞬油断した。
だがそれは間違いである。
たしかにアツヤが最近点をとった際は連携シュートが多かった、だが彼は元々1人で点をとってくるを体現するタイプの孤高の獣だ。
そんな彼が牙を研がないわけがないのだから。
「油断すンじゃねェぞジェネシスのキーパー!!!本気で来やがれ!!!」
彼が吠える、ビリビリとしたプレッシャーが放たれネロは意識を切り替えた。
「必殺熊殺し……斬!!」
アツヤが腕を振るうと赤黒いエネルギーが爪のように形を変える、そのエネルギーを込めるかのように2度ボールを回転しながら左右の脚で切り裂いた。
2度切りつけたはずにも関わらず、あまりの速さに斬撃のような余波は重なりボールへと叩き込まれる。
ネロは片手を掲げ、いや両腕を左右へと掲げた。
それはまるで獰猛なワニのように牙を剥く。
「舐めるな雷門、僕たちが負けるわけないだろう?!!」
その構えに見覚えがある雷門の面々、そして鬼道は思い出す。
ビーストファングの改良案を短い期間で練り上げた黒山羊秀子、それを託したメンバーが源田だけとは限らない可能性を。
「プライマルファング……!!!」
黄金に輝く獰猛な顎がボールへと食らいつき、ミシミシと音を上げた。
エネルギーの拮抗、そしてネロはそのボールへと自らの膝を叩きつける。
ボールは上空へと上がり、重力のままにネロの手元へと落ちた。
「てめェもやるな……こうじゃなきゃつまらねェ!!!」
「僕らは負けられないのさ、覚悟が違う」
久々の投稿、精神的に荒れに荒れてたのでエタる?という状態になってました。