お気に入り登録が22件……プレッシャーが凄いぜ……!!
皆さんに見限られないように頑張ります。
消毒液や薬品特有の匂いが支配する病院の中でも比較的、豪炎寺夕香の病室は風通しがいいおかげか……それとも兄である豪炎寺修也が定期的に花の交換や病室の整理をしているおかげか空気はそこまで悲惨なものではなかった。
「……」
手馴れた手つきで花を交換し、部屋の整理をする兄の姿がそこにはあった。
全国大会であるフットボールフロンティアの優勝報告の為に訪れるはずだった……だが実際は宇宙人の襲来と自分たちの敗北、そんな事実だけが今、豪炎寺修也を蝕んでいた。
勝利という絶頂からの転落、傷ついた仲間たち、破壊された校舎、そして……ただただ無力な自分自身。
「夕香……お兄ちゃんは……どうしたらいいんだろうな……」
そんな彼の耳に聞こえる足音、仲間たちのものかと後ろを振り返るとそこに立っていたのは、彼の知らない一人の黒髪の少女だった。
「炎のストライカー、雷門のエースストライカー……どっちで呼べばいいかな?豪炎寺修也くん」
ニコリと笑ったソレは、スーツを着ていて大人びて見えるものの、どこか雷門中のマネージャーやクラスメイトの女子などと似たような子供らしさも見て取れる。
「私はエイリア学園のニグラス」
エイリア学園、現在日本を……いや地球へと侵略してきたその名に思わず身体から脳へと警戒の信号が発せられ、全身が強ばる。
その様子を見たソレはニコリと笑い、落ち着いて、と続けて言葉を紡いだ。
豪炎寺にとって予想外のその言葉を。
「妹さんの命が惜しければ、エイリア学園に力を貸してくれないかしら?」
歯車が狂い始める音がする、ボタンをかけ違えたかのような違和感がする、まるで覗き込んだ暗い穴から。
じっと何かが見つめ返している気がする。
「レーゼ、雷門たちはどうやら奈良に来てるみたいだよ」
緑川リュウジとその仲間であるジェミニストームの面々は目の前の少女の言葉を聞き、はっ!と兵士のように揃えて返した。
場所は自分たち……正確にいえば吉良財閥が占拠した奈良しかテレビの屋上。
自分たちに与えられた指名は、ここで地球人への宣戦布告……もとい、吉良財閥のスポンサーやジェネシス計画の賛同者たちへの広告である。
自分たちに与えられた装備は万が一吉良財閥の警告を無視して警官隊や自衛隊などが独断専行での突入などしてきた際への対策で造られた防弾などの機能が着いたユニフォーム、人体を極限まで強化する謎の鉱石であるエイリア石、そして吉良財閥の科学の結晶であるスクリーンや催眠音波、催眠光線、電波阻害などの機能を搭載した『黒いサッカーボール』のみ。
いや、装備だけならそれだけだが、もう1つ、兵器があったのをリュウジは思い出す。
「とりあえず、私のことは無視して雷門中イレブンが来た時は連中に応戦してあげて……まぁ、まだ彼らじゃ戦いにすらならないだろうけどね」
目の前の少女、黒山羊秀子。
吉良財閥の研究成果、ハイソルジャーの中でも最強の1人。
ここにいるジェミニストームのメンバーが総出でかかってもものの数分で鎮圧できるであろう彼女がいれば、恐らくは並程度の戦力では話にならないのかもしれない。
「了解しました、ニグラス様、では電波をジャックし……放送を開始します」
「うんうん、早く始めないと放送中に邪魔が入るかもしれないよー」
目の前のサッカーボールに意識を向ける、奈良しかテレビ……民間の企業とはいえ電波を完全に乗っ取り、芝居とはいえ自らが矢面に立ち宣戦布告をする。
重圧だ、額から滴る雫はどうやらまやかしではないらしい。
失敗すれば、自分たちを助け、今まで育ててくれた『父さん』への迷惑になってしまう。
そんな、中学生にはとても重い抱えきれないほどの圧力が、エイリア石で興奮状態になっているはずの今の自分を、昔の、何も出来ない少年へと一時的に戻しているのを感じていた。
だが、時は待ってはくれない。
動き出した時計の針は、自分では手の届かない場所にあって、そんな今でも非力な自分では。
戻すことすらできないのだから。
「我々はエイリア学園、この星を……侵略する者である」
実際の時間は、そんなに経っていないだろうが。
リュウジは何時間も喋り続けていたかのように疲労していた。
だが、そんな時間に突如として終わりが告げられた。
「待て!エイリア学園!!」
やはり彼らだ、ああ……やっぱり勝機もないというのに、自分たちしか止められないと言わんばかりに……ノコノコとやってきた。
そう、リュウジは呆れ半分、残り半分はその蛮勇ともいえる豪胆さに嫉妬していたのかもしれない。
「またお前達か……降伏のための話にでも来たのか?」
「いいや!お前達を倒すために……戦いに来たんだ!!」
円堂守……自分たちが憧れていた中学生サッカーの日本一を決めるための大会、フットボールフロンティアで優勝を勝ち取った日本一のキャプテン。
嫉妬の感情が強くなる、自分をも燃やしてしまうほどの炎が自分の中で滾っている。
「……貴様らとは戦わん」
「っ!!なんでだ!!」
「言ったはずだ、我々は貴様らの星の秩序に従い……戦うとな、貴様らは10人しかいない、11人のメンバーも揃っていない貴様らに戦う資格などない」
諦めてくれ、いっそ俺たちに戦いなんて与えないでくれ、そんな意思もあったのかもしれない。
だが、そんな祈りも届くことは無く。
「いいや!これで11人だ!!」
スーツを着た赤い髪の少女が雷門中イレブンの前に立ち、そのジャケットを脱ぎ捨てる。
雷門のユニフォームを身にまとった少女を見て、リュウジは内心で落胆し、そして同時に高揚するのだ。
また戦わなきゃいけないのか。
また叩きのめすことができる。
そんな相反した感情、エイリア石による感情の昂りを、彼も、彼の仲間たちも抑えられずにいる。
「面白い……ならばまた叩きのめすまでだ」
もはや彼ら自身には止められない、『止める』という意思も、『父さん』と……この石の前では無意味だったのだ。
雷門中のメンバーの士気は思ったより低くない、黒山羊秀子はその事実に少し高揚する。
生前はテレビの前で、アニメとして見ていた世界が、やはり『今』では実在するのだと、再確認できたのだ。
「みんな!前回はあいつらのスピードに面食らって思うように試合ができなかったけど、今回はもう違う!俺達のサッカーを見せつけてやろうぜ!」
一人の少年の言葉に、チームメンバー全員が応!と力強く答えた。
円堂守、この世界の主人公、イレギュラーである自分とは違う本物。
そして同時に落胆する。
この前、自分が一方的にプライドをへし折ったクラリオという海外の選手の方が強いという事実。
世界線が違うから、だからリローデッドという作品の中では円堂守たちは負けたのではないかという僅かな希望が、実際に円堂守や雷門中のメンバーを見たことで間違いだということに彼女は気付いた。
「こんな弱い雷門中に瞳子姉さんはどんな指揮をするんだっけなぁ……」
この世界でもう既に『秀子』として10年程過ごした彼女の中に前世の記憶は……もうほとんど残っていない。
自分自身の妄想の類ではないのか?そんな考えが過ぎるほどの年月が経ったのだ。
「っ?!」
雷門中のメンバーを見て遠い記憶の中の自分のデータと参照するように秀子が眺めていると。
ふと、豪炎寺修也と目が合った。
ニコリと笑う秀子に対して狼狽した豪炎寺は即座に目を逸らし、それに気づいたのは一人の男。
「あれは誰だ……年代は俺たちと同じくらいか……?」
特徴的なドレッドヘアにゴーグル、そしてユニフォームにマントを纏った個性の塊のような外見をした少年……鬼道有人。
「ホントっすねえ〜、誰っすかねぇ、あの女の子」
巨大な図体に盛り上がった腹の少年、壁山が鬼道の呟きと目線の動きから秀子の存在を見つけ、それに同調する。
完全に存在がバレた。
元々隠す気もないが、まぁ見つかったのなら自己紹介くらいはしておこうと、雷門中のメンバーが出てきた扉とはジェミニストームたちを挟んで反対側の壁からニコリと笑みを貼り付けて秀子は告げた。
「私はエイリア学園のニグラス……まぁ今回はこのジェミニストームのマネージャーってとこかな、以後よろしくね、地球人の代表さん」
そういって再度笑みを浮かべるとチラホラと頬を染めて目をそらすのが何人か……地球を侵略しにきた憎き宇宙人!!と頭の中で警戒しているはずなのに逆らえないのは男のサガか……今は黒髪ロングで色白の肌、ナイスバディな美少女と脳内で自画自賛するような彼女も元は同じ性別だった好としてそれを気にしないことにした。
だが、同時に別の視線を秀子はひしひしと感じていた。
何人かは警戒の視線を……そして特に感じるのはお日さま園の皆が崇拝する父さんの長子である吉良瞳子と自らがプレッシャーを与えた雷門のエースストライカー豪炎寺修也。
何故あなたがいるの?と言わんばかりの瞳子からの視線も気にしない、今はまだ秀子自身が手を出さないことは彼女も知っているはずだから。
一方で豪炎寺は気が気じゃないだろう、脅迫してきた宇宙人がこの試合を見に来ているのだから。
「フフ……」
自身が自然に笑みを浮かべたことを彼女はまだ知らない。
そしてついに、試合開始を告げるホイッスルが屋上に響いた。
「行くぞ豪炎寺!」
コワモテな顔の少年、染岡がドリブルで駆け上がり、豪炎寺が染岡にいつでもフォローできるような位置で続いた。
だが守備側であるジェミニストームは様子見と言わんばかりに動かない、それを好機と中盤の要である鬼道有人へとショートパスを繋げた染岡と即座に鬼道からのパスコースを繋げやすくなるようにとディフェンスの隙を模索する豪炎寺。
染岡からのパスを受けた鬼道は自らに求められている能力が決定力ではないことを知っている、そして事前の打ち合わせ通りチームのエースである豪炎寺へとショートパスを繋げようとボールを素早く蹴り出した。
「豪炎寺!!」
だが、ジェミニストームは……いやエイリア石で強化された『捨て石』たちはその程度の温い動きを見逃さない、否、自分たちが崇拝する偉大な『父さん』の計画の成就の為にも決して見逃すことは出来ない。
たしかに豪炎寺自身、秀子の存在を……そして病院に残してきた妹を意識するあまり集中していなかったこともある。
しかしながら、決して豪炎寺が万全だったとしても所詮その程度のパスでは決して通らないのだ。
「っ?!」
団子のように髪を結った少女、MFのパンドラがショートパスをカットする。
その速さは雷門中のメンバーに比べると数段上のものだ。
パンドラから同じくMFの仮面を被った少年イオへとボールは渡り、流れるようにFWの少年ディアムへと繋がった。
身体的に速さで劣り、動体視力等でも劣る雷門中のメンバーたちの何人がその動きを目で捉えられただろうか、いや、捉えられた者はほんの僅かだった。
攻防の起きている最前線から離れた位置にあるゴールで全体を遠くから見渡せる円堂守、そして動体視力や全体の視野が優れた鬼道……たった2人であった。
もしも、万全であれば豪炎寺も捉えられたかもしれないが、彼は自身がパスカットされたことでも酷く動揺しており惜しくも捉えることはできなかった。
ディアムは素早い動きでDFを一瞬でくぐり抜けゴール前へと乗り出した。
円堂に緊張が走る。
しかし、そこからはさらに一瞬の出来事であった。
ディアムの蹴り出したボールは文字通り円堂の視界から『消えた』のだ。
「え?」
円堂は優れたGKであり、シュートから目を離すなんてことはしない……そしてこのゴールという最終防衛ラインを守る上では命取りになるような瞬きですらしていなかったはずなのに。
相手の目線、脚の角度からボールの飛んでくる位置を直感で理解し見極めた上で確実にその両腕で止める。
そんな動きもしっかりと身体に染み付いている。
だが、エイリア石で強化されている圧倒的な速さの前ではそれも無意味だった。
他のメンバーがゴールに振り返った時には、既に円堂の体ごとボールはゴールラインを通り過ぎ、ゴールに突き刺さっていたのだ。
嘘だろ……と誰かが呟いた。
円堂が地面に倒れ伏した瞬間、無機質なホイッスルの響きが非情にも雷門にエイリア学園の得点を報せる。
1-0
これは試合開始から僅か30秒程度の先制点であった。
やっと試合の描写までたどり着いた……。
まだ一人称視点だったり、三人称視点だったりと描写が纏まらない……早く慣れねばならない……。