あと、お気に入りが97人ともうそろそろ100人に届きそうです、こちらもありがたい話です。
「秀子はさ、なんでキーパーをしようと思ったの?」
幼い頃、まだ私が小学生の低学年の頃の話だ。
そんな疑問を誰かに尋ねられた。
私はその子にたしか、こう返したんだ。
「ゴールの前ってね……皆がフィールドで走って、ボールを蹴ってるところがよく見えるからだよ」
その子は、ニコリと笑うと。
「そっか、秀子は……」
その先は覚えていない。
「え?スキー?」
ジェミニストームとの特訓を終えた次の日の朝、私が雷門中の監視のために派遣してもらっているエージェントの林さんからの報告を電話で聞いていると、突如別のスポーツの名前が出てきた。
ベッドの中で私は正直困惑している。
「は、はい……何故か日中はほぼスキーやスノーボードなどをしております」
北海道へと雷門中の面々が渡ったのはもうほぼほぼ忘れてしまった原作知識で既に知っていた、恐らくはエースストライカーである豪炎寺の脱退による攻撃力の欠如や補欠である……いや、正直に言うと運動センスが皆無な目金を採用していることでのディフェンスラインの穴を埋めるために白恋中の吹雪兄弟をスカウトしに行ったのだろう。
その2点は実際に雷門を指揮してるわけじゃないが、ジェミニストームとの戦いを見ればすぐわかる事だ。
それよりも、脅威の侵略者編の世界線では本来死亡しているはずの弟でFWの吹雪アツヤも今回の世界線では生存しているようで、DFの吹雪士郎とFWの吹雪アツヤ、その2人が同時に加わる事ができる。
正規の世界線ですら、たしかDFとFWをこなせた吹雪士郎たった1人が加入しただけでジェミニストームは敗北した。
吹雪兄弟の加入で雷門は正規の世界線よりも更に強化されるはず、でも。
「まさか遊んでたとは……ええと林さん、引き続き監視は続けられそうですか?北海道なんて遠い場所に出張をお願いしてしまってすいません」
「いえ、我々は会長のために行動するだけです……
っ!
雷門の染岡竜吾と吹雪アツヤに動きがありました、すぐに監視に戻ります」
「わかりました、吹雪兄弟や鬼道有人には気をつけて……吹雪兄弟は土地勘がありますし、鬼道はカンがいいですから」
「了解です」
通信が切れ、私はベッドから起き上がる。
扉が開く音がする、顔を向けると青い髪に白いメッシュの女の子、八神玲名(やがみれいな)が立っていた。
珍しく黒いシャツに白い薄手のロングカーディガンを着てショーパンから覗く太ももが素晴らしい私服を着た玲名は私の姿を見ると溜め息をついてから、さっさと着替えなさいと簡潔に告げた。
「あいあい、どうしたのー?いっつも制服とかジャージ姿でおめかしなんてしないのにさー……あ、もしかしてタツヤとデートぉ?」
「何言ってるのよ、ルルと布美子(ふみこ)たちがついに痺れを切らしたから少し出かけようって話になったじゃない」
「……そうだっけ?」
「はぁ……そんなことだと思ったわ、この前の夕ご飯の時話したじゃない……まぁ秀子は雷門とジェミニストームの試合データを見返してたみたいだけど」
完全に覚えがない、冗談などを言わない玲名が呆れた顔をしていることから恐らくは事実だろう……ルルと布美子はガイアでそれぞれMFとDFを務める女子メンバーだ……『俺』だった頃はクィールとキーブ、コードネームでしか覚えてなかったけれども。
あの2人が出かけたいということは恐らくは大阪のナニワランド辺りかな?
あの辺りはエイリア学園……もとい吉良財閥の息のかかった場所だからまだメディアに顔を晒していない3人と唯一雷門とジェミニストームの試合でマネージャーとしてジェミニストーム側にいた私が歩いていて万が一何かあったとしても吉良財閥が揉み消してくれるとは思うが。
「華(はな)とか愛(あい)は?誘わないの?」
私の発言に、少し玲名は顔を曇らせた。
私も失言だと、声に出してからやっと気がついた。
華と愛、それぞれプロミネンスのDFであるバーラとダイアモンドダストのMFであるアイシー、違うチームのメンバーでありマスターランク同士で父さんの計画の核であるチーム、ザ・ジェネシスの座を賭けて争っている最中だというのに。
「あー……今のなし、ていうか私が行って大丈夫なの?ジェネシス正規メンバーの私に媚び売ってるーとか晴也あたり言い出しそうだけど……」
そう、私は皆が必死に争っている中で唯一その争いを免除されているシード枠、彼女たちに恨まれていたりしても……仕方がない存在なのに。
「ッ!!それは……」
玲名の顔に焦りや後悔といった表情が見える、きっと彼女たちなりに唯一のジェネシス正規メンバーという形で『孤立』してしまっている私に配慮した結果なのだろう。
たしかに、ジェネシス計画が始まってからというもの……前までは仲の良かった私たちはチーム間で少し壁ができてしまっていた。
前までは、ジェネシス計画の適正テストの件までは違うチームのメンバーとも仲良くしていたのだから。
例えば、プロミネンスのバーラとボニトナ、それとガイアのキーブ。
3人ともよく服や小物などの趣味が合うということで休日はよく一緒に出かけているのを見たものだ。
だが、今はどうだ?
キーブこと布美子は2人のチームのキャプテンである晴也が目の敵にしているガイアのDFである、なんてくだらない理由で疎遠になってしまっている。
こんなことを続けていたら、お日さま園の皆の絆はきっと崩壊してしまう。
「……私、やっぱりやめとくよ」
私はベッドから降りると玲名の横を素通りして部屋に備え付けられたタンスへと歩を進めた、すれ違う途中、玲名は何か言いたげだったが、わかったと小さく呟くと部屋から出ていってしまった。
今はまだ、遊んでいる余裕などない。
一刻も早く、私はこのふざけた計画を終わらせなければならない。
そのためにも、まだやらなきゃいけないことや調べなきゃいけないことが山積みだ。
私はお日さま園で頂いたダボダボなパジャマを脱ぎ捨てて最近やたら着る回数の増えたスーツに身を包む。
ベッドの上に放置していた携帯に1件の報せが届いた、見てみれば林さんからのようだ。
「さってと、次は北海道か……ジェミニストームのユニフォームの防寒機能の強化……さすがに終わってると良いんだけどなー」
終わらせるんだ、この戦いを……そのためには一刻も早くあの人を見つけ出さないといけない。
そして、原作とは違うこの世界の流れを見極めるんだ。
まずは吹雪兄弟の……弟のアツヤのせいできっと歪みが生まれる。
その次、その更に次は?
「てか、このスーツまたキツくなってきたな……」
北海道、白恋中の近くでニグラスとジェミニストームのメンバーたち……そしてジェミニストームのメンバーは知らないが、もしもに備えてイプシロンのメンバーが待機していた。
レーゼの顔に少しばかりの焦りが見える、彼が先日白恋中への宣戦布告をしたために白恋中の周りにはマスコミが大量に押し寄せていた。
吉良財閥はジェネシス計画成就のためにも広告塔が必要なため、今回は情報規制などを揉み消さずマスコミを見逃していた。
「レーゼ、大丈夫だよ」
「……ニグラス、いや……秀子……大丈夫かな、俺……できるかな……」
「リュウジ、大丈夫だ」
「え」
「リュウジが影で努力してたのは知ってる、密かにディアムと技の特訓してたでしょ」
ニグラスは微笑むとその手をレーゼの頭の上に乗せた。
驚くレーゼに彼女は大丈夫、と言い聞かせるように優しく呟いた。
吉良財閥の気象学の研究成果である『なんか雰囲気のいい暗雲発生装置(秀子命名)』により、空は暗い雲に包まれている。
「さぁ、出番だよ皆」
その言葉にジェミニストームは立ち上がった。
この先に、どんな結果が待っているか、彼らはまだ知らない。
突如、白恋中の上空を暗雲が包んだ。
雷門の面々はこの空に見覚えがあった、いつもあいつらが……いやエイリア学園が来る時、決まってこんな風な天気だったのだから。
突如、紫色の光が白恋中のグラウンドを見渡せる高台に現れたかと思うと、そこにはいつの間にかエイリア学園のジェミニストームとニグラスが姿を現した。
ニグラスは写真などのデータではない、本物の吹雪兄弟を目視で確認した事で警戒度を高めた。
やはり、完全には自分の知っているイナズマイレブンの世界ではないのだと。
円堂や鬼道を初めとした雷門イレブンもエイリア学園へと向き直ると。
「円堂……!」
「とうとう来たな……!」
睨み合う円堂とレーゼ、円堂は持っていたボールをレーゼへと蹴り出す。
「待ってたぜエイリア学園……勝負だ!!」
レーゼは飛んできたボールを片手で難なく受け止める。
「これ以上サッカーを破壊の道具にはさせない!!」
こうして、雷門とエイリア学園3度目の死闘が幕をあげる。
雷門は新規メンバーのアツヤと士郎を即戦力として導入し、FWは染岡とアツヤの2トップ、DFは目金に代わって士郎が入り、攻守万全であった。
ニグラスは事前に、ジェミニストームの面々に対して吹雪兄弟の情報を少しばかり話していた。
曰く、FFに参加出来ないようにと元帝国学園総帥であり世宇子中の総統だった影山が北海道にいる彼ら兄弟に薬を盛っていたこと。
そして技量やスピード、アツヤに至ってはパワーまでもジェミニストームに劣らない。
それ程の実力者が雷門に手を貸していることから決して油断しないように、と。
試合は雷門ボールで始まった。
染岡がアツヤへとボールを託すと、アツヤは咆哮をあげながらジェミニストームの陣地へと単独で切り込んでいく。
ディフェンスの練習をあまりしていないリームは勿論、グリンゴやパンドラも軽くいなしてアツヤは止まらない。
「はっ!宇宙人ってのはこんなもんなのかよォ!!」
だが、カロンがそれに立ちはだかる、彼はその場で高速回転し、彼自身の身体から光が溢れ出す。
カロンは個人技ならイプシロン相手にも引けを取らないんだから、あとは自信を持って。
「フォトンフラッシュ!!」
あまりの光量にアツヤは目を背けてしまう、すると気づけばボールは彼の足元には既になく。
カロンがアツヤから奪ったボールをイオへと繋げた。
そのまま今度はジェミニストームの攻めが始まる。
イオはまたもライン側ギリギリに陣取っていたため、鬼道はパンドラへのパスを予期し即座にパスカットの体制をとった。
それを鬼道とのアイコンタクトだけで確認した風丸がイオへボールを奪いにかかる。
そう、パターン通りならライン際でボールを狙われた時、イオはパンドラへとパスを回すはずと。
風丸が迫る中、イオは鬼道へと仮面の中で視線を向けた。
やはり、そこに来たか、と。
確かに前回の試合、彼はライン側ギリギリを常に陣取り、ボールを貰うことによってライン側に敵をおびきよせたところを中央を攻めるパンドラにパスをする。
そんなプレイを彼自身心掛けていた。
だが。
イオはちゃんとフィールドを見てプレイすること、個人技は充分だから後は連携をしっかりね。
彼は走りながら掌を前に掲げる、空間が裂けると穴のような何かが現れた。
風丸がボールを奪うより早く、彼自身とボールを穴へと飛び込んだ。
「ワープドライブ……!」
風丸の死角となる背後に再度穴が出現し、そこから飛び出すイオ。
そのままイオは雷門陣地へと突き進む。
「なにっ?!」
鬼道は前と違う行動パターンに困惑するも即座に切り替えるとそのままパンドラへとマークについた。
彼は視線をジェミニストーム側のベンチに座っていたニグラスや今まさに自陣の中央へと走るレーゼへと向ける。
「……前回のようにはいかないか!!」
イオへと迫る土門、即座にイオはパスコースを模索するがディアムは壁山と塔子にマークされており、パスを繋げることは困難と判断した。
そして、レーゼには試合前にニグラスから告げられた警戒の対象である吹雪士郎がマークについている。
イオは若干距離の遠いもの、フリーな状態のリームへとパスを出さんと足を振り抜くものの。
「キラースライド!!」
咄嗟の判断が遅れたか、まるで足が何本もあるかのような程の速度で行われたスライディングにボールの軌道を変えられてしまった。
土門はボールを奪うのに間に合わなかったかと焦り、イオも正確なパスには間に合わなかったと自らの判断の遅さを後悔する。
ボールはリームを飛び越えるような軌道を描く、このままの軌道ではリームでも間に合わずラインを越えるかと思われたが……彼女は諦めていなかった。
リームはディアムより柔軟な動きができるんだから、もっと積極的にゴールを狙いに行こうか。
リームは即座に身を捻り、オーバーヘッドキックの体勢へと移行した。
彼女の頭上を通り過ぎんとしたボールへと高く飛び上がり、その脚が叩き込まれた。
「いけっ……!」
円堂の守るゴールへと、鋭いシュートが襲う。
だが、円堂は前回の試合や北海道での『自らの最高速度より速い動きの中で周囲のものを識別する』スキーの動体視力強化特訓の成果により、ボールをその目に捉えていた。
「止めてみせる……!」
前回の試合の最後、目でやっと追えるようになったものの止められなかったディアムのシュート。
あんな風にはもうならない!
円堂の両手がボールへと伸ばされる。
少しの摩擦音の後、円堂の両手にボールは収められていた。
「やった……!止めたぞ……!!」
円堂は勿論、雷門イレブンの士気が上がる。
円堂がシュートを止めたことは勿論、今のところ通常のサッカーの試合として『成り立っている』のだから。
「ここから反撃だ!皆!!」
円堂がボールを投げる、その先にはいつの間にかレーゼへのマークから外れていた吹雪士郎は自身がフリーになるように駆けつけていた。
ジェミニストームの面々はリームのシュートが止められたことに動揺し、咄嗟に士郎への対応が遅れた。
1番近くにいたレーゼが士郎へボールを奪おうと駆けるものの、レーゼの予想を超えて、士郎が一瞬でレーゼを抜き去った。
更なる驚愕がジェミニストームを襲った、レーゼはこのチームで1番のサッカー経験者であり、エイリア石の力も相まってジェミニストーム最高のプレイヤーだ。
その彼が一瞬で抜かれた。
即ち、ジェミニストームの選手では彼を止めるためには複数人がかりでかからねばならないという事だ。
「風になろうよ……!」
士郎はある程度前線近くまで駆けると、風丸へとパスを繋げた。
手強い士郎から、今まで何回も止めることのできた元々いる雷門の選手である風丸にボールが渡ったことでパンドラとグリンゴは一斉にボールを奪いにかかる。
パンドラはメンタル面が弱点かな、動揺が隠しきれてないよ。
グリンゴは仲間との連携はバッチリだね。
一斉にボールを奪いにかかる2人に対し、風丸は撹乱させんと加速と急停止を使いこなし緩急をつけ翻弄する。
緩急を作り出すことで特訓によりジェミニストームに勝るとも劣らないスピードを身につけた風丸は更にその速度を速く魅せることができるのだ。
「疾風ダッシュ!!」
2人を瞬く間に抜き去ると即座にエイリア陣営の奥にてフリーとなっている染岡へとパスを回した。
ジェミニストームのDFたちは先程の士郎の動きを見たせいか、アツヤを警戒するあまり染岡への対処が遅れた。
そんな隙を、雷門のストライカーとして日々豪炎寺と鎬を削ってきた染岡が見逃すはずもなく。
だが、
キーパーはフィールドをいつでも見渡せる位置にいるんだから、DFへの声掛けを忘れないこと。
「もう1人のFWがフリーになってるぞ!!」
ゴルレオが声を上げた、その際他のメンバーに比べまだ染岡の近くにいたギグの巨体が染岡へと襲いかかった。
ギグは相手を待ち構えるだけじゃなくて、自分からボールを奪いにいこうか。
染岡とギグの身体がぶつかり合う、たしかにギグはワンテンポ遅れたかもしれないが、その巨体から繰り出されるパワーが染岡をはじき飛ばした。
呻き声をあげる染岡を尻目に、ギグがパンドラへとパスを回そうとするが。
「貰ったぞ……!」
鬼道がそのパスを阻んだ、彼は先程までパンドラへのマークを一時的に解いていた。
個人への徹底したマークより、フィールド全体を観る司令塔としての視点で周囲を警戒していた。
ジェミニストームのパス回しやプレイングが前回の試合に比べ変化している今、彼ももう一度分析をやり直すハメになっていたからだ。
その過程で染岡が作り出した隙を見逃すはずもなく。
鬼道は完全にフリーとなっており、そのまま単身陣地の奥へと駆け出した。
さすがに見逃せないとカロンが迫るが……つまりそれはある男へのマークが1人減ったことを意味する。
「アツヤ!!」
鬼道が蹴り出した先、エイリア学園のマークが1人減ったことで振り切れたアツヤが待ち構えていた。
ガニメデとコラルがアツヤを急いで追うものの、その瞬間のアツヤは誰よりも速かった。
「ドンピシャだァ!!行くぜ……!!」
アツヤとボールを中心に吹雪が荒れ狂う。
目にも止まらぬ速さで身を翻し、回転をかけた蹴りがボールへと叩き込まれる。
「エターナルブリザード……!!」
ゴルレオが自らの必殺技のブラックホールを繰り出さん右腕に力を込め、ボールへと手を振り抜いた瞬間には。
彼はゴールごと凍りついていた。
「こんなもんよォ!!」
1/0
3戦目にしてようやく雷門が先制点にして、初得点を得た瞬間であった。
なにげに今回の玲名さんがエイリア組初私服描写だった……。
Q.吹雪兄弟は双子?
A.双子です。