機動戦隊アイアンブラッドサーガー悪魔と少女と機甲ー   作:野生のムジナは語彙力がない

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お知らせです
・今回はかなりぐたぐたになってしまったような気がするのでご了承ください

・今日でアイブラサガ連載開始してからちょうど1ヶ月となりました。本当はこの日までには全てを終わらせたかったのですが、皆様にはもう少しお付き合い頂ければ幸いです。

・次回から段々と投稿頻度が落ちていくと思いますがご了承ください




それでは、続きをどうぞ…







第14話:激闘!A.C.E.学園!(前編)

三日月とベカスがA.C.E.学園に潜入してから2週間が経過した……

 

旧校舎、化学室前

 

「化学室は……ここだな」

 

ある目的のために古い化学室を訪れたベカスは、咥えていた甘苦をポーチの中に戻すと、ノックをすることなく化学室の扉を開いた。

 

「……あなたは?」

 

見ると、様々な実験道具や薬品の収められたフラスコで埋め尽くされた化学室の奥側……ちょうど窓際のところに一人の少年が佇んでいた。

 

「あんたがエディだな?」

 

ボサボサ髪で細い目をした少年を見つめ、ベカスは続ける。

 

「オレは新しくここに来た戦術科の教官兼『奉仕部』の部長だ」

 

ーーーーー

 

ベカスの言う『奉仕部』とは、ベカスが学園の不良たちを説得して結成した部活動のようなものだった。

その部活動のことを一言で説明すると「学園関係者の悩みを解決する部」だった。その具体的な活動内容は学習指導、失せ物探し、恋愛相談、風紀維持……など、人の迷惑にならないことならなんでも引き受けていいとされている。

 

ーーーーー

 

「奉仕部?ああ、この前僕の実験を邪魔したやつらだね?それで、僕に何の用?」

 

「うちの部員に謝ってほしい。それと今後は、無闇に危険な実験をしないと約束してくれ」

 

ベカスは真剣な眼差しで静かにそう告げた。

 

ーーーーー

 

というのも……このエディという少年は『爆破同好会』という、学園から認められていない部活動の部長をしていた。ちなみに、部員はエディ一人だけである。

 

それだけならまだ良いのだが『爆破同好会』はその名の通り素行に問題があり、いつも怪しげな爆破実験を行ってはその度に少なくない被害と怪我人を生み出し、そのため多くの生徒や教官から顰蹙を買っていた。

 

しかし、エディはオーリアという国の財閥企業『シニー製薬』を牛耳るハイマー本家の一人息子であり、貴重な跡取りであることから、全世界に通用するその権力と身分を恐れ、生徒どころか教官すらエディに対して指導や警告をすることができなかった。

 

これを受け、奉仕部の部員たちはエディに対して「爆破実験をやめてほしい」と直談判に行くのだが、交渉は決裂、奉仕部の部員たちに多数の被害者を生み出す結果となってしまった。

 

幸いにも部員たちは皆軽傷で済んだものの、このままではいずれ取り返しのつかない事態が起きても不思議ではない。暴走するエディを止めるべく、部長であるベカスが立ち上がった……というのが、ことのあらましだった。

 

ーーーーー

 

「あなたも、僕に実験をやめろって言いたいの?」

 

エディは人に怪我を負わせたことを全く気にしていないというように、ヘラヘラと肩をすくめてみせた。

 

「その冗談は、全く笑えないね」

 

「そうか、それはすまなかった……だが、これは冗談じゃない」

 

ベカスは静かに怒っていた。

 

しかし、その怒りは自分を「部長」と慕ってくれる部員に怪我を負わせたというエディに向けられたものではなかった。

 

ベカスの怒りの矛先はベカス自身に向いていた。

部員に指示を送って他人の厄介ごとを背負わせてしまった挙句、怪我を負わせてしまったのだ。その責任は、ベカスにないとは言い切れない。

 

しかし、それは高橋夏美の誘拐というベカスの真の目的を踏まえると、夏美との接触に繋げるための土台作りの一環に過ぎず、そもそも奉仕部という存在自体が偽善に過ぎなかった。しかし現在、ベカスは自分のとった行動に深い責任を感じ、部員の正義を取り戻すべく心に火を灯していた。

 

「へ……へぇ……わかったよ、約束する」

 

ベカスの強い視線に恐怖したのか、エディはやけにあっさりとその言葉を口にした。

 

「ただし」

しかし、エディはまだ諦めてはいなかった。ベカスに向けて謎の化学物質が入ったフラスコを放り投げると、続けざまにライターを投げて寄越した。

 

「それを浴びて、ライターを灯して火ダルマになってくれたらあなたの言う通りにしてあげる」

 

エディはフラスコの中身をじっと見つめるベカスを冷ややかに見つめた。

 

「でもね、それは僕の調合したガソリンよりももっと引火性の強い……」

 

しかし、エディが言葉を終えるのを待つことなく

 

「……え?」

 

ベカスは無言で目を閉じると、フラスコの栓を開け、その中身を体に振りかけ、さらに何の躊躇いもなくライターを使って自分の体に火を灯した。

 

「ちょ……!?」

 

 

 

瞬く間に火ダルマになる、ベカスの体。

 

 

 

しかし、ベカスは全く慌てた様子を見せることなく平然とその場で天を仰いでいた。そう、自分の体を這い回る炎を受け入れることで、せめてもの贖罪とするかのように……

 

ベカスの体から放出された火の粉が、すぐそばの机をかすめた。

その上には、危険な科学薬品が詰まったフラスコ

 

まさか本当にそれをするとは思いもしていなかったエディはそれを見て悲鳴をあげた。このままでは化学室が消失しかねない。

 

 

 

「や……やめろ!」

 

 

 

エディは慌ててもう一つのフラスコを取り出すと、ベカスへと投げつけた。

 

白い粉のようなものが入ったフラスコは、ベカスの体にぶつかるといとも簡単に割れた。内容物が飛散すると同時に炎と反応し、ベカスの周囲にモウモウとした煙を生み出す。

 

それは消化剤のようなものだった。

次の瞬間にはベカスの体を覆っていた炎はものの見事に鎮火していた。

 

「あなたみたいな命知らずは、初めて見た……」

 

「……約束は、守ってもらうぞ」

 

ベカスは目を開けてエディへ視線を送った。

 

「……ああ、約束は守る」

 

 

 

降参したように手を上げるエディ

「だけど!」

しかし、そう言って足元のスイッチを踏むと、エディの背後……化学室から一望できる庭の中央があ突然割れたかと思うと、BM用のカタパルトが出現し、その中から3機のBMが姿を現した。

 

 

 

「やれやれ、往生際の悪い野郎だ……」

 

エディは背後のBMへと乗り込むべく窓を開けた。そんな姿を見てベカスが呟く

 

「その前に……あなたが本物の戦術科の教官か、きちんと確かめさせて……」

 

窓を跨いでエディがBMへと乗り込もうとした時だった。

 

 

 

 

 

「やっちまえ!三日月!」

 

 

 

 

 

ベカスが叫ぶ

 

 

 

「……?!」

 

 

 

すると……どこからともなく白い機体が、エディの所有する3機のBMの背後へと姿を現したかと思うと、手にしたメイスを叩きつけ、搭乗者のいない3機のBMをあっという間にミンチにしてみせると……

 

 

 

「……え?」

 

 

 

何が起きたのか未だに理解できていないエディをその視界に収め……バルバトスは窓を乗り越えようとするエディの体を、化学室の壁ごとその巨大なマニピュレーターで掴み上げ、青空の下に晒した。

 

 

 

「ぎゃあああああああ!?」

 

 

 

情けなく悲鳴をあげるエディ

バルバトスが旧校舎に向けて腕を突き入れた衝撃で化学室の中がぐちゃぐちゃになってしまうが、エディにそんなことを考える余裕は無かった。

 

 

 

「よーし、三日月〜よくやった〜」

 

 

 

ベカスはのんびりとした口調で大穴の空いた化学室からバルバトスへと呼びかけた。

 

「あ……あんたら、こんなことしていいと思ってるのか!?」

 

バルバトスのマニピュレーターの中で、エディはなけなしの力を込めて喚く。

 

「僕はオーリアの……ハイマー家の跡取りだぞ!」

 

「それが、何?」

 

「え……?うわっ!」

 

その瞬間、バルバトスのマニピュレーターがくるりと回り、エディの体が逆さまになってしまった。

その真上(正確には下だが)には無機質な視線で見上げる三日月の姿。

 

バルバトスのコックピットから身を乗り出した三日月は半裸ではなかった。バルバトスに繋がっているにもかかわらず、BMパイロットの着る黒い対Gスーツのようなものを着込んでいた。

 

 

 

「お前の家はどうだっていいよ、で……お前は何なの?」

 

 

 

三日月に権力という言葉は通用しなかった。エディに向けて淡々と問いかける

 

「……!」

そうしてエディはようやく自覚することができた。

 

 

自分から家の力を取り上げると、そこには何も残らないということを…

 

 

自分が今まで、どれだけ家の力に依存していたのかということを…

 

 

圧倒的な暴力の前には仮初めの権力など、意味をなさないということを…

 

 

 

「ちなみに、三日月は奉仕部の部員じゃないぜ〜」

 

 

 

そんなエディに追撃をかけるように、ベカスが告げる。

 

 

 

「そいつはオレが呼んだ、いわゆる助っ人ってやつでね。要するに、そいつが何をしようが、オレには一切カンケーねぇってことさ」

 

 

 

ベカスはニヤリと、エディを見つめた。

 

 

 

「そしてオレは生徒同士による一対一の正々堂々としたケンカには首を突っ込まない主義でね〜、まあ、オレの言葉を最初から聞いていればこんなことにはならなかっただろうなぁ〜」

 

 

 

化学以外では無知蒙昧を極めたエディではあったが、その言葉の裏に隠された本当の意味を理解できるだけの頭は持ち合わせていた。

 

 

 

「沢山の生徒に怪我を負わせたことに比べれば、ケンカで負う傷なんて大したもんじゃないさ……なるほどな、これが因果応報ってやつだな?」

 

 

 

ーーーーー

 

(アタシの台詞取られたー!うぇーん、フルぅー)

(お姉ちゃん!まだ始まったばかりだから泣かないで……)

 

ーーーーー

 

「ねぇ、銀の人」

 

ベカスが語り終えたのを見計らって、三日月はバルバトスのマニピュレーターにかける力を強めた。

 

「次は……どうすればいい?」

 

挟まれ身動きの取れないエディは、自分の体にかかる圧力が強くなっていくことに気づいた。

 

「……あっ……あっ」

 

本気で命の危機を感じ、青ざめるエディ

 

「ふっふっふ……それじゃあ」

 

それを見て、ベカスは自分の瞳に嗜虐的な色を浮かべるのだった。

 

ーーーーー

 

(なるほどね!これが『グレンタイ』なのね!)

(ま……まあ、ある意味そうなのかもしれませんね(笑))

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第14話:「激闘!A.C.E.学園!(前編)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日……

早朝、三日月(と小林真希)の部屋

 

A.C.E.学園の一般的な学生寮は一つの部屋に2人(もしくは3人)で住むのが基本ではあるが、日ノ丸でナンバーワンを称していることもあり、生徒一人一人のプライバシーにも配慮しているのか部屋の中には人数分の寝室があった。

 

エアコンや冷蔵庫、洗濯機などといった部屋の備品に関してもA.C.E.学園はそれなりのものを用意しており、まさに至れり尽くせりといったようでもあった。

 

最も……これはあくまでも一般的な生徒向けの学生寮の話であって、ソフィア(奉仕部副部長)などが使用できるVIP御用達の学生寮とは比べるべくもないのだが……

 

そしてここは三日月の寝室である。

 

朝日がカーテンの隙間から漏れ、三日月の頬を温かく照らした。

 

「……」

三日月は毛布も被らず、タンクトップ姿でベッドの上に体を横にして眠っていた。

 

すると、三日月の部屋に来訪者が現れた。

「お……お邪魔します」

数回のノックの後、それでも返事がないことを不思議に思ったのか、躊躇いがちに一人の少女が扉を開けた。

 

その少女……三日月と同じ部屋で暮らす小林真希は、開けた扉の隙間から部屋を覗き込み、三日月の姿がまだベッドの上にあることに気づくと意を決して眠っている三日月へと近づいていった。

 

「あの……三日月さん?」

 

「……」

 

真希の呼びかけに対し、しかし三日月の様子に変化は見られない。

 

「もう、朝ですよ?」

 

「……」

 

「早く学園へ行く用意をしないと、遅刻して……」

 

その時、真希の目があるものを捉えた。

 

それは三日月の背中に埋め込まれ、タンクトップ越しでも分かるほど歪な形をした阿頼耶識システムの手術跡だった。

 

「…………」

 

真希は興味深そうな視線を三日月の背中へと送った。

 

これが、三日月と真希が同室になった理由だった。

 

まず、三日月の背中は言うまでもなく人の目につく。それは学園に通う生徒だけならまだしも、教官などの大人とて同じことだった。

特にここ、A.C.E.学園は各分野ごとの教官による生徒への教育がメインではあるが……その傍ら、教官たちもまた自分の見聞を広めるために研究や自主学習を日々欠かすことなく行なっている。

普通に考えれば勤勉でよろしいように思われるかもしれないが……少し裏に目を向ければ、時に教育のためと称して一部の特殊な能力を持つ生徒を実験台とした研究も行われるほどだった。

そして、三日月もまた阿頼耶識を持っていることからその研究対象として見られる可能性も十分に考えられた。

一度でもそうなってしまえば、教官たちは三日月のことを離そうとしないだろう。そしてそれは潜入任務への障害にもなりかねない。

阿頼耶識を隠そうと思えば隠せるのだが、学園に通うということは多くの生徒と集団行動をすることと同義であり、学生寮というプライベートな空間でも、いつボロが出てもおかしくはない状態に立たされているのであった。

 

 

 

だからこそ、小林真希は適任だった。

 

 

 

もしも三日月の阿頼耶識を見たのが真希以外の生徒であったのなら、その背中に驚愕し、誰かにこのことを話したくなる衝動にかられることだろう。そうなってしまえばもうお終いだ。直ちに噂は生徒から教官へと広がり、三日月が研究対象になってしまう可能性があった。

 

しかしその点で真希は違った。

貧しかった彼女は三日月の保護者であるミドリの援助を受けてA.C.E.学園へと入学することができた。その上、実習先にOATHカンパニーを紹介してもらったこともあり、真希はミドリに対して深い恩義を抱いていた。

 

真希が三日月の背中を他の生徒にバラすということは、恩人であるミドリを裏切ることにも繋がる。だからこそ、将来を棒に振ってでも真希が三日月の背中をバラすとは考えられなかった。

 

「うわぁ……すごい……」

 

しかし、真希にしても初めて見る阿頼耶識システムに興味を抑えることができなかったのか、小さく呟いて三日月へとさらに近づいた。

 

顔を近づけて間近で阿頼耶識を観察し始めた真希は、それに飽き足らず、今度は阿頼耶識へと手を伸ばした。

 

「へー……」

 

人一倍好奇心が旺盛なその手がゆっくりと阿頼耶識に触れると、真希は人肌の温かな質感と機械の冷たい硬さが入り乱れたような触感を自分の指先に感じた。

 

「……気になるの?」

 

いつの間に目を覚ましていたのだろうか、瞳を閉じたまま、三日月は小さく声を発した。

 

「……ひゃあ!」

 

その声に驚いた真希はサッと手を引っ込めた。

 

「ご、ごめんなさい!私……つい……」

 

「いいよ、別に」

 

三日月は大きなあくびを一つして、眠そうな瞳をこすり、ベッドから起き上がった。

 

「で、何の用?」

 

「あ…はい、これお返しします」

 

 

 

そう言って真希は三日月へ黒いボディスーツを返した。

 

 

 

この世界のBMパイロットが着用する対Gスーツにも似たそれは、三日月のためにミドリが発注した世界で唯一無二のボディスーツだった。

 

元々は三日月の背中にある阿頼耶識を隠すために開発されたスーツなのだが、その名の通り、高い加速度によって生じるブラックアウトを軽減させる(最も、三日月には必要ないのだが)効果の他、保温、防刃、防弾など、シンプルな見た目ながら通常の対Gスーツと比較すると様々な機能が追加されている。

 

 

 

そして、小林真希を同室としたもう一つの理由がこれだった。

 

 

 

このスーツは常に三日月のコンディションを計測し、数値化して記録していた。それは、異常なまでの回復力を目の当たりにしたミドリによって考案されたものであり、真希は三日月が学園にいる間そのデータの収集・分析をミドリから依頼されていた。

 

意外なことに、こんなものでもOATHカンパニーの機密に当たる貴重なものなので、三日月が着用しない時は形式上、真希が責任を持って管理・メンテナンスを行わなければならなかったのだ。

 

 

 

「着替えたらリビングに来てくださいね。朝ごはんを用意していますので」

 

「うん、ありがと」

 

小さく笑って部屋から出て行く真希。

それを見送ってから三日月はタンクトップを脱いでスーツを着始めた。

 

それから床の上に放り投げていたA.C.E.学園の上着を拾い上げ、所々皺の入っているにもかかわらずスーツの上から羽織って、寝室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

お昼休み

 

午前の授業を終え、三日月が向かったのはA.C.E.学園の旧院と呼ばれる場所だった。

 

A.C.E.学園は学園であるにもかかわらず厳しい身分制度があった。学院は旧院と新院に分かれており……

 

新院は一流の設備と教官が揃っているため、普通のお金持ちや成績優秀な奨学生はここで勉学に励むことになる。

 

それに対し旧院には最新設備こそないが、露天風呂や決闘用の闘技場、大型ダンスホールといったものが完備され、まさしく豪華絢爛。超VIPしか入れないクラッシックな帝国風の建物だった。

 

本人もそれを望んでいたことから、普段は新院で勉学に励んでいた三日月だったが、特例として旧院へ入ることも許されていた。

 

それはミドリに持たされた黒いカードによる影響だったのだが、今の三日月にとってこれを利用しない手はなかった。

 

とはいえ……しっかり身なりを整えたとしても三日月の内側から溢れる野生的な一面は、煌びやかな旧院にて授業を受ける生徒たちの中でも一層目を引いてしまうので大胆な行動はできず、三日月はそそくさと旧院のある場所へと向かうのだった。

 

その場所とは、図書室だった。

 

お昼休みの図書室は人気が少なく、静かに時間を過ごしたい人にはもってこいの場所だった。

 

しかし、三日月の目的は静かに時間を過ごすことではなかった。

巨大な本棚の間に立ち、適当に一冊を引っ張り出してその場で読み始めた。

 

いや、本の内容は分かっていない。

あくまでも読んでいるフリをすることが重要だった。

 

そして、この時間になると図書室へ平穏を求めて訪れるその人物の到着をひたすら待ち続けるのだった。

 

「……!」

 

そしてついにその時が訪れた。

図書室の中に一人の少女が現れた。

 

オレンジ色の髪の毛、高貴な出自であることを伺わせる佇まいに、整った顔立ち……

それは、ベカスらが誘拐しようとしている少女……高橋夏美だった。

 

三日月は手元の本へ頭を落としながら、その視線を高橋夏美へと向けていた。

 

三日月は数日間に及ぶ調査の末、婚約者からの積極的なアプローチに耐えかねた高橋夏美が昼休みの間はこの図書室を避難場所としていることを掴み、情報を得るために図書室へと張り込んでいた。

 

(……今日の護衛は3人か)

 

情報というのは影ながら常に夏美のことを見守る護衛のことだった。本棚の隙間から護衛らしき影を次々に見つけ、その人数と人相を記憶する。

 

夏美が本を読み始めたのを見て、三日月が帰ろうとした時だった。

 

 

 

「あ!三日月だ!」

 

 

 

ふと何者かに呼び止められ、三日月はハッとなった。

 

 

 

「お姉ちゃん、図書室ではあんまり大きな声を出しちゃ……」

 

「大丈夫だって、フルは相変わらず心配性だなぁ〜」

 

 

 

振り返った三日月が見ると、そこには双子だろうか……よく似た容姿をした二人の少女がいた。

 

「……誰?」

 

三日月は警戒しながら双子を見つめた。

 

 

 

「エルだよ」

双子のうち、桃色の髪の少女が答えた。

 

「ふ…フルです」

続いて、青色の髪の少女が答える。

 

 

 

二人の少女はそれぞれ名乗り終えると、エルは不敵な笑みを浮かべ、フルは躊躇いがちな様子を見せ……そしてゆっくりと三日月へ近づくと…

 

 

 

「あははーやっと会えたー!」

 

「あの……っ、もしよければ握手して下さい!」

 

 

 

そんなことを言って、二人は三日月へ握手を求めた。

 

「え? ……いいけど?」

 

訳も分からず三日月が両手を差し出すと、エルは三日月の左手を、フルは三日月の右手を手に取り、嬉しそうにその手を握りしめるのだった。

 

「いやー、まさか有名人がこんなところにいるとは思わなかったねー」

 

「あの……私、三日月さんのこと応援してますので、これからも頑張って下さいね!」

 

二人によって三日月の両腕がブンブンと振られる。

 

 

 

「ねえ……なにこれ?」

三日月は未だ双子の意図がわからず、困惑するばかりだった。

 

 

 

「なるほどね!これが『イミフメイ』ってやつね!」

 

「あ、ごめんなさい。説明がまだでしたね……実は……」

 

 

 

双子のうち、フルがなにやら説明をしようとした時だった。

 

 

 

「エル?フル? そこにいるの?」

 

 

 

騒ぎに気がついたのか、先ほどまで本を読んでいた高橋夏美が声を辿って三日月たちの元へと歩み寄って来た。

 

「……っ」

((ニコニコ))

 

三日月は咄嗟にその場から離れようとするも、双子に両腕を掴まれているためその場から動くことができなかった。

 

「もうっ、図書室で騒いじゃ駄目でしょ……って」

 

本棚の間へと姿を現した夏美が、三日月の存在に気づいた。

 

「えっと……フル、この人は……?」

 

「はい!この方は三日月さん…と言って、最近ここにやってきた転校生なのです、夏美お嬢様」

 

夏美の質問に対し、フルは簡潔に答えた。

 

「夏美お嬢様!三日月って凄いんですよ!なんと編入試験で元A級傭兵の試験官を倒しちゃったんですよ〜」

 

エルが補足を入れる。

 

「えっと……よく分からないけど、要するにとっても強いってこと?」

 

「「その通り(です)!」」

 

双子は息ぴったりな様子でそう答えた。

 

「へ、へぇー……」

 

夏美はそれでもまだピンときていないのか、わざとらしく驚いてみせ、それから気を取り直すかのように咳を一つして…

 

「申し遅れたわね。私は高橋夏美、高橋重工ってところの…」

 

「知ってる」

 

「ああ、そう?なら話が早いわね。その二人はうちのメイドなんだけど……あなたに迷惑をかけたみたいで、ごめんなさいね」

 

夏美は尚も三日月の両手を握り続ける双子を交互に見つめた。

 

「別に……ていうか、そろそろ戻りたいんだけど」

 

「そうね、もうお昼休みも終わりみたいだし」

 

そう言って夏美が双子へと笑いかけると、双子は三日月を解放し、定位置である夏美の両側へと移動した。

 

「それでは、ご機嫌よう」

 

優雅に図書室から立ち去る夏美の姿を見送った後、三日月も次の授業を受けるために新院へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

それからしばらく後……授業中

 

新院にある自分の教室へと戻った三日月は授業を受けつつ、昼間の出来事をメモに残していた。

 

まず、記憶しておいた夏美を見守る護衛の人相をできるだけ事細かに文字で表し、さらに夏美がどんな本を読んでいたのかもついでにメモした。

 

三日月は書くべきか悩んだものの……よく分からない双子の存在と、高橋夏美と接触してしまったことも念のためメモしておくことにした。

 

それが終わり、手持ち無沙汰になった三日月は退屈しのぎのために、ぼーっとベカスが実施している戦術の授業に耳を傾けていた。

 

「……以上のように、こちらの保有する戦力とほぼ同等の戦力を持つ敵対勢力と戦闘になった場合、どのように戦えばいいのか考えてみよう」

 

1クラス40名の広い教室の中で、ベカスは教壇に立ち、タッチパネル式の黒板に擬似再現された戦場を表示させていた。

 

「まずイメージしろ!お前らはこの部隊の指揮官だ。それを踏まえて、まず最初に何をするのがベストかを考えろ」

 

黒板に表示された戦場が、三日月たちの座る席に取り付けられたモニターにも表示された。

生徒たちはそこに表示されたあらゆる情報を駆使して、戦い方を組み立て始める。

 

「先生!出来ました!」

 

ベカスの与えた問題を解き終えたのか、一人の男子生徒が手を挙げた。

 

「よし、じゃあ黒板に映すからな〜みんな注目〜」

 

のんびりとした口調で、ベカスは男子生徒から送られてきた解答を黒板へと反映させた。

 

「ふむ……つまり、少数部隊による一撃離脱戦法によって敵を混乱させ、その隙をついて遠距離からの砲撃で仕留めるということか」

 

「はい!」

 

「まあ、悪くはないな。戦場において敵を撹乱させることは敵から正常な判断を奪う他、同士討ちを狙うこともできるしな」

 

そこまで言ってベカスは

「だが……」と、切り返した。

 

「惜しいな。多分、このやり方じゃあんまり上手くいかない」

 

「え?ベカス先生、どうしてですか?」

 

その問いに答えるかのように黒板の戦場をリセットしたベカスは、あらかじめ用意していた敵の行動プログラムを黒板に反映させ、そして再び戦場を動かし始めた。

 

すると、先ほどは上手くいっていたように見えた少数部隊による一撃離脱戦法は、敵の本隊へと辿り着く前に激しい迎撃を受け、あっさりと全滅してしまった。

さらに、そのあとに行われた砲撃も全くと言って良いほどダメージを与えられず、シミュレーションは終了した。

 

「さあ?どうしてだと思う?」

 

ベカスは顔をニヤつかせ、肩をすくめてみせた。

 

「まず、戦場は平野だ。こういう地形では数が物を言う。だからこそ圧倒的な戦力で構成された防御陣地に阻まれ、部隊は全滅してしまった。そもそも状況は敵味方共に臨戦態勢、奇襲をかけるようなタイミングじゃなかった」

 

ベカスは男子生徒を見つめ、さらに続ける。

 

「この後に行われた砲撃にしても、敵が分散したこの状況下では砲撃もあまり意味をなさない。より効率的な砲撃を行うには、もっと敵を密集させるか、先に偵察部隊を送る必要があった」

 

そこまで言ってベカスは

「では、お前ならどうするべきだったと思う?」

と、男子生徒へ尋ねた。

 

「……えーっと、少数部隊を下げて……偵察部隊を出します」

 

「おいおい、オレの言ったまんまじゃねーか……もうちょい考えろよ」

 

ベカスが苦笑してため息をつくと、その様子がおかしかったのか、生徒たちの間で小さな笑いが起きた。

 

戦場上がりのベカスによって論じられる戦術教室は、生徒たちの間でも概ね好評だった。

 

ベカスは指揮官でこそなかったが、数々の戦場を渡り歩いてきたその口から語られる戦術の講義は、理論だけで戦場を考える平凡な教官に比べると論理的なところで若干の甘さは見られはしたものの、非常に理にかっている点と、えも言われぬリアルさがあり、それが生徒たちにはウケたようだった。

 

「いいか?いつの世も戦場というものは、どんなに優秀な指揮官がいたとしても想定外のことが起きるものだ。だからこそ、指揮官に求められているのは……戦場をあらゆる角度から見渡し、あらゆる可能性を考え、あらゆる状況に対応する力を備えることだ」

 

その時、授業終了のベルが鳴り響いた。

 

「よし、今日はここまで!次回は圧倒的不利な状況からの打開策について論じるから、ちゃんと予習しとけよ?」

 

ベカスはそう言って黒板上のシミュレーションを終了させた。

生徒たちも授業の後片付けを始めた。

 

「……」

 

三日月は教本を机の上に広げたまま、椅子から立ち上がってベカスの元へゆっくりと歩み寄る。

 

「おう三日月、どうした?」

 

「質問があるんだけど」

 

そう言って三日月は、ベカスに何か話しかける素振りを見せつつ、教卓の上にメモを置いた。

 

「……悪いな」

 

ベカスは小声で礼を述べて、しばらくメモを見つめた。

 

「……ふーむ、なるほどな」

 

少し考えるような素振りを見せた後……

 

「放課後、屋上に来てくれ」

 

ベカスはそっと三日月へ耳打ちした。

 

三日月は小さく頷き、そそくさと自分の席へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

放課後

 

授業を終えた三日月が新院の屋上に向かうと、そこには既にベカスの姿があった。

甘苦を咥え、とてもリラックスした様子で手すりにもたれている。

 

「遅くなってごめん」

 

「いや、大したことないさ」

 

ベカスは甘苦をしまい、三日月へと向き直った。

 

「これはソフィア……いや、奉仕部副部長から聞いた話なんだが、今週末、あそこで盛大な舞踏会が行われるらしい」

 

「ふーん、それで?」

 

三日月はナツメヤシの実を口にしつつ、ベカスの言葉を聞く姿勢をとった。

 

「オレはそこで夏美と接触したいと考えている。だが、オレには旧院へ入る権限がない……招待客に紛れて入ろうとも考えたが、夏美に接触する前に追い出されるのがオチだ」

 

ベカスはそこで少しだけ間を置いてから続ける

 

「そこで三日月の出番だ。奴隷でもなんでもオレのことを、旧院を自由に出入りできるお前の付き人ってことにすれば、オレも舞踏会の中に紛れることができるだろうからな! ああ、そのあとは全部俺一人でやるから、三日月は適当にゆっくりしてても大丈夫だぜ」

 

ベカスは「我ながら完璧な作戦!」と充実感溢れるような顔をした。

 

「あのさ…」

 

「うん?」

 

「俺、舞踏会の招待状とか貰ってないんだけど?」

 

「え?」

 

三日月の言葉に、ベカスは顔を凍りつかせた。

 

 

 

「いやいや、旧院に入れるんだったら招待状を持っていなくても舞踏会に参加できるんじゃないのか?」

 

 

 

「……でも、舞踏会に参加できるのは招待状を貰った人だけって聞いたんだけど?」

 

 

 

「え?」

 

「?」

 

 

 

二人の間に、気まずい沈黙が走った。

 

 

 

「……なあ、一ついいか?」

 

「何?」

 

「オレの授業、どうだった?」

 

沈黙に耐えきれなくなったベカスは顔を抑え、三日月へそんなことを尋ねた。

 

「普通に、面白かったと思うけど」

 

「そうか……なら、よかった」

 

そうしてベカスは、静かに肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

to be continued...




・本編ではベカスが戦術科の教官という設定が全く活かされていなかったので頑張って先生っぽくしたのですが、正直言ってお粗末なものしかできませんでした。何をやらせていいのか分からず、それっぽいものを何とかでっちあげましたが、この辺りは深読みせず雰囲気を楽しんでください。

・光子との戦闘までを予定していましたが作者が力尽きてしまったので(そのため最後らへん本当に語彙力がなくなっている)申し訳ありませんが今回はここまでとさせていただきます。




次回予告です

エル「ベカスと共に舞踏会に潜入した三日月」

フル「今度こそ、佐々木先生と戦います!」

エル&フル「「次回『激闘!A.C.E.学園!(後編)』」」

エル「なるほどね!これが『シノギヲケズル』ってやつね!」

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  • 境界戦機もっと流行れ
  • 鉄血・ブレットもっと流行れ
  • 水星の魔女×鉄血のオルフェンズ?
  • あと、アイサガのエンディングも作ります
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