機動戦隊アイアンブラッドサーガー悪魔と少女と機甲ー 作:野生のムジナは語彙力がない
『重要』
機動戦隊アイアンブラッドサーガは第20話をもちまして終了とさせていただきますます。(やりたいことはやったため)
つたない文章ではありましたが(語彙力のなさからくる表現の使い回しやアイサガ本編のコピペなど)しかも、愚鈍な話だったのかもしれないので、ここまでお付き合いしてくれた方にはほんと感謝感激しかありません!
最終回ですが、正直言ってかなり長いです(当社比)
どこかで切ろうとも思ったのですが、切る場所が見つからなかったのでそのまま投稿させていただきます。
現在時刻、午前4:44……縁起悪い……あと眠いです!
それでは、二ヶ月間(三ヶ月?)ありがとうございました。
何か気になる点がございましたらご報告くださいませ
設定については後日、別で投稿させていただきます。
それでは……続きをどうぞ
樹海
指定された合流ポイント
ベカスは何度も押し寄せる敵機を撃退し、ひとまず敵の追撃をしのぎ、樹海の入口にあたる小道へとたどり着いた。
「オレが君のことを送れるのはここまでだ」
レーダーを確認して周囲に異常がないかを確認し、ベカスはウァサゴのコックピットを開放した。コックピットの先には、眩いばかりのネオン光で包まれた日ノ丸の街が広がっている。
「さあ……」
「うん……」
ベカスが外に出るように促すと、夏美は悲しそうな顔をしてコックピットの端へ足をかけた。
「…………ごめん」
「え?」
蚊の鳴くようなベカスの呟きに、夏美は振り返ってベカスを見つめた。
「オレたちがバカな依頼を引き受けたせいで、君に迷惑をかけた」
ベカスの謝罪に、しかし夏美はふるふると首を振り……
「あなたたちじゃなくても、父を貶めようとしている敵は別の方法であたしを騙したはず。そしたら……今ごろあたし、死んでたかもしれない」
危機的状況にもかかわらず、夏美は楽観的だった。
微笑みを浮かべ、小さく息を吐いた。
「ああ、そうかもな」
「ねぇ……少しはあたしのこと、好きだった?」
「…………」
その言葉に、ベカスは少しだけ考えるそぶりを見せ……
「そうねぇ……君はオレが会った中で、一番ダンスの上手い子だ」
肩をすくめ、ふざけたような口調でそう告げた。
その言葉に、夏美は小さく吹き出した。
「本当に? あの夜、最低でも5回はあなたの足を踏んだど思うけど?」
「そうか? 忘れたな。覚えているのは、君の優雅な姿と美しい瞳だけさ」
声を上げて笑う夏美に、ベカスは優しく微笑みかけた。
「でも、あたしとは一緒にいられない。でしょ?」
「オレは金目当てに君をだました、ただのペテン師だ」
「じゃあ、お金のためなら……ずっとあたしを騙し続けられる?」
夏美はベカスの瞳をジッと見つめた。
「………………それは…………」
夏美の問いかけに答えようと、ベカスが口を開いた時だった……
「!」
強烈な殺気を感じたベカスは、咄嗟にFSフィールドをウァサゴの背後へと展開させた。すると、フィールドの表面にいくつかの火柱が生まれた。
「しつこいな!」
開きっぱなしのコックピットをシールドでカバーしつつ、背後から迫る敵にソードライフルの銃口を向け……
「0.33秒遅い」
しかし、ベカスを襲った敵はどこからともなく飛来した一発の弾丸を胸に受け、沈黙。さらに、バックアップの為に別の方角から狙っていたもう一機も、同様に銃弾を受け、力なく地面へと沈み込んだ。
「クリア。ダメージリポートを、ベカス」
「いや、大丈夫だ」
淡々と発せられた声に反応したベカスは、短く礼を告げ銃弾の発射地点を辿った。そこには、立ち枯れた巨木の中に隠れて迷彩コートを展開しているドールの機体があった。
「ドール、いつからここに?」
「22分と45秒前」
「いるならいるって言えよ……それで、ニックはまだか」
「肯定(ポジティブ)」
その言葉を聞き、ベカスはドールの隣で機体を跪かせた。
「おかしいな……あいつがオレより後なんてこと、今まであったか」
「否定(ネガティヴ)」
「……だよな」
ベカスはソードライフルを地面に突き刺し、空いた右手をコックピットの前に移動させた。
「ここをまっすぐ行けば、樹海の外だ。あと少しで安全な場所に出られる」
ベカスの言葉に、夏美は小さく頷き、差し出されたウァサゴの掌の上に乗った。
「あなたは……まさか、戻るつもり?!」
ウァサゴの指にしがみつきながら、夏美はベカスへと振り返った。
「ごめんな……嫌な思いばっかりさせて」
「ううん。あの夜、あなたと出会えた……それはあたしにとってかけがえのない思い出! 約束して、必ず……帰ってくるって……」
それは決して叶うことのない願い。
しかし、夏美はそれを理解していた。どちらにしろベカスとは、もう二度と会えないということを……
ベカスは静かに夏美を見つめ……それかはコックピットから身を乗り出すと、その涙で濡れた頰を拭った。
「ああ……戻ってくるさ」
必然的な出会いをしたあの夜を思い出させるかのように、ベカスは夏美を優しく抱き寄せ、彼女の耳元で囁きかけた。
「ベカス、6時の方向、数は5」
無機質なドールの声が響き渡る。
「……」
「……あっ」
名残惜しさを捨てるように、ベカスは再び操縦席へ舞い戻ると、ウァサゴの腕を動かし夏美を地面へと下ろした。
「行け! 夏美!」
「……うん!」
ソードライフルを地面から引き抜き、ベカスはウァサゴを盾にするかのように機体を夏美の前へと移動させた。
夏美はベカスのBMから離れ、樹海の外へと向かった。未来への希望を残すかのように、何度もベカスへと振り返りながら……
「そうだ! 走れ! 走れ……夏美……」
飛来した火球を盾で弾き、ソードライフルの引き金を引く
(CMのあのシーン)
「知っているかベカス。お前は、最低な男だ」
「うるせぇ!」
叫び声と共に、ベカスはウァサゴに搭載された全砲門を展開した。ソードライフルからは高出力のビームが、バックパックの長距離キャノンから巨大な砲弾が、盾からは2機のドローン砲が、ミサイルが……圧倒的な火力の前に、襲撃者たちはなす術なく己の機体を爆散させていく。
「……クリア、流石だな」
ダガーのセンサーを活用し、敵の殲滅を確認したドールは、淡々と労いの言葉を送った。
「それで、これからどうする」
「……目障りな奴らを潰して、ニックと合流する」
「それだけか?」
ベカスはダガーのセンサー越しに、ドールから鋭い視線が放たれるような気配を感じた。
「あるんだろ? こういう時のための、プランBが」
それは、高橋夏美の誘拐に失敗した時など状況が悪い方向へと傾いてしまった時のためにベカスが事前に用意していたバックアップの逃走プランだった。
「……ダメだ、プランBは使えねぇ」
「何故だ? 説明を要求する」
「ここからじゃ、距離がありすぎるんだ。上手い場所を確保できなかったってのもあるが、まさかここまでの戦力を敵さんが投入してくるとは思っていなかった」
ベカスは操縦桿から手を離し、自分の髪をくしゃくしゃにした。
「現状の戦力じゃ、敵さんの包囲網を突破してあそこまで行けるとは思えねぇし……せめて、三日月がいれば……」
「否定(ネガティヴ)。三日月・オーガスなる協力者はここにはいない」
「そうなんだよなぁ……」
ため息混じりにそう呟いて、ベカスは夜空を見上げた。
色い輝きを放つ月が、ぼんやりと浮かび上がっていた。
機動戦隊アイアンブラッドサーガ
第20話:「夢の終わり」
ほぼ同時刻……
A.C.E.学園 ゲートA
そこは、ある種の地獄と化していた。
地面には大破した無数の機体が横たわり、しかもその大部分が無残な形で屍と化しており、機体から漏れ出した赤黒いオイルが、まるで人の血液を思わせるかのように吹き出し、至る所に血だまりを作っている。機械の地獄の中に生者の気配はなく、動くものはなかった。しいて言えば、その場で動きを見せたのは機体から発せられたスパークの光くらいなものだった。
その中……地獄の中心には、紅い光を身に纏った白い悪魔が佇んでいる。進化を遂げ、新たなる力を手に入れ、敵を撃退したバルバトスはまるで死んでいるかのように、ビーム刀を手にしたまま、その場で微動だにしなかった。
「……もう、ここには居られないか」
バルバトスの中で、搭乗者である三日月は静かにそう呟いた。その瞳には、僅かに悲壮の色が浮かんでいる。
『み……三日月さんのせいじゃないです!』
イヤホンを着用した三日月の耳に、少女の声が響き渡った。それは、三日月がこの学園に来て以来、ずっとお世話になってきた小林真希の声だった。
『三日月さんが責任を感じる必要なんてないんです! こうなったのも、全部あの黒いBMのせいですよ!』
「でも、あいつを引き寄せたのは多分……俺」
握りしめた自身の拳を見つめた。
「これ以上、俺の戦いで、関係のない他の誰かを死なせるわけにはいかない」
『……そんな……だって、もうあの黒いBMは……』
「いや、あいつはまだ生きてる」
『え?』
その言葉に驚愕した真希は、通信回線を開いたまま何やらカタカタと、手元の端末を使って何かを調べ始めた。
『そんな……音波、電波、磁気、生体反応、熱源、あらゆる要素で黒い機体の消失が確認されたのに……?』
「でも、あいつは生きてる。なんとなくだけど、分かるんだ」
黒いバルバトスが消えた方向へと視線を向け……
「あいつを完全に倒さない限り、俺は……」
(それに……聞きたいこともあるし)
爆炎に包まれた黒いバルバトスのニヤリとした表情と、去り際に残したその言葉を思い返し、三日月は心の中でそう呟いた。
「……じゃあ、俺はもう行くから」
『……本当に、行ってしまうんですか?』
「うん。短い間だったけど、色々と助かったよ。真希」
『……はい、三日月さんも……お元気で』
通信回線を切り、三日月は学園へ背を向けた。
「あ、そうだ」
だが、そこで急に何かを思い出したかのように振り返ると、機甲の残骸で埋め尽くされた戦場の、ある一点へと向け、ゆっくりと歩き出した。
「光子」
そして、そこにいる少女に向けて声をかけた。光子は上半身だけになった月影の上で体育座りをしていた。
「…………む?」
意識を失っていたかのように見えた光子だったが、三日月の呼びかけにすぐに反応し、ゆっくりと顔を上げた。
「これ、ありがと。返すよ」
そう言って、柄の先から未だ紅い閃光が迸るビーム刀……飛翔を月影の前へ置いた。バルバトスの手からは離れた飛翔は、たちまちその勢いを失い、柄だけの状態になった。
「…………」
光子は呆けたような顔で柄だけになった飛翔を見つめた後……
「……三日月、それはお前が持っておけ」
「え?」
「拙者の実力では、まだその刀を扱うことはできない。ならばせめて、その力を存分に扱える者の手元にある方が、その刀……いや、飛翔にとっても本望であろう」
「……そっか、分かった」
三日月は飛翔を拾い上げ、それから側に落ちていた鞘も拾って飛翔をその中に収め、いつものように武器を収納する要領で亜空間へと格納した。
「じゃあ、光子がこれを使えるようになるまで俺が預かっておくよ。俺も、全部終わったら必ず返しに来るから」
「必ず……返す、か……」
三日月が去った方向を見つめながら、光子は小さく笑いかけ……それから、意識を失った。
ーーーーー
「三日月さん……本当に、お気をつけて……」
学園の屋上から、徐々に離れて行くバルバトスの後ろ姿を眺めながら、真希は祈るようにそんな呟きを送った。
「ち……ちょっと待って……!」
その時、屋上へと続く扉が勢いよく開いたかと思うと、一人の少女が焦ったように姿を現した。
「わっ!……って、風紀委員さん?」
突然の登場に、真希の体がびくりと震える。
「三日月〜ッッ、待ちなさいよ!」
真希に倣うように、その少女……五十嵐命美は屋上の手すりをギリギリと掴み、離れて行くバルバトスの後ろ姿を恨めしそうに見つめた。
「あの……どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもないわよ! ねぇ、あいつ……いったいどこへ行くつもりなのよ!」
「どこへ行くかって……それはちょっと……」
「まさか、もう戻ってこないって言うんじゃないでしょうね!?」
「…………」
真希の無言で察した命美は、脱力したかのように突然膝から崩れ落ちると、それから深いため息を吐いて頭を抱えた。
「そんな……私のドローン砲が……私の戦闘データが……」
「あ、そっちですか」
ーーーーー
樹海 某所
「クソッたれどもが……!」
ベカスたちと別れた後、ニックは一人、合流ポイントへと向かっていた。だがその道中で襲撃者たちの手厚いもてなしを受けていた。
襲撃者たちによる執拗な追撃に、ニックは片っ端からショットガンの洗礼を与え、袋小路となっているその場所は無数の黒い残骸が折り重なっていた。
「倒しても倒してもこれじゃあキリがねぇ……早く合流ポイントに行かなきゃなんねぇのに……」
姿勢を低くして木の影に潜り込み、ショットガンに弾を込めつつニックは悪態を吐いた。
「!」
その時、どこからともなく響き渡った風切り音に反応し、ニックは思わずその場から飛び退いた。
その行動が功を奏し、先ほどまでニックがいた場所は三本の光の槍に貫かれた。
「クソが! どこからだ?」九死に一生を得たニックは木々の間を高速で移動し、死にものぐるいで索敵する。
『ほう、中々やるじゃないか』
その時、どこからともなく声が響き渡った。
「そこか!」
ニックは声の発生源に向けて榴弾砲をお見舞いした。ダガーの肩部から放たれた榴弾は、暗闇の中で放物線を描いて向かっていき……着弾。ニックは確かな手応えを感じた。
「やったか……!?」
ニックが安堵したのもつかの間……
「うおっ!?」
背後から飛来した光線がダガーの盾に……正確には、盾の裏側に搭載されたビームバルカンの弾倉へと着弾した。
「やべっ……」
ニックは咄嗟に左腕の盾をパージするも、次の瞬間、盾に内蔵された弾倉が誘爆し、ニックの乗るダガーは爆炎に包まれてしまった。
「あっぶね〜」
ニックは爆発を右腕の盾でやり過ごし……そしてついにそれを見つけた。榴弾で燃える木々の隙間に、化け物のようなBMが浮かび上がった。
『……ふん、やはりこの程度では死なないか』
白と青を基調としたBMの周囲には、青い軌跡を描いて飛び回る砲身のような何かがあった。
「ドローン砲……クソッタレ!」
『部隊を全滅させ、おまけに私の不意打ちを躱すとは……悪運だけは強いみたいだな?』
6機のドローン砲を操るBMの目が怪しく輝いた。
『だが、それも今日までだ』
「!」
強烈な殺気を感じ、ニックは機体を跳躍させた。
6機のドローン砲が一斉に飛来し、その砲身をダガーへと向け、次々とビームを放った。
「うおおおお!!!」
ニックは自らの技量と盾でなんとかドローン砲の直撃を避けるも、ドローン砲はまるでそれぞれが自分の意思を持っているかのようにニックが回避した先に現れ、執拗に火線を放った。
火線がダガーをかすめ、その青い装甲を融解させていく
「ぐあああああああ……」
制御系をやられ、バランスを失ったダガーがついに膝をつく
『これまでだ。この私とここまでやりあえた事、誇るがいい』
青と白のその機体……インフィニティはドローン砲を呼び戻し、右腕の巨大なビーム砲を満身創痍のダガーへと向けた。
『では……死ね』
「……!」
インフィニティのビーム砲から放たれた高出力の光が、動けないダガーへと迫る。
(ドール、すまねぇ……)
相棒の姿を思い返し……ニックは目をつぶった。
「…………?」
しかし、いつまで経っても自分を襲うはずの熱を感じないことに気づき、ニックはゆっくりと目を開けた。
「……お前は!!」
そして、ニックはそれを見た。
いつのまにか目の前に現れた白い巨人が、巨大な鉄塊を盾にして、真正面からビームの直撃に耐えていた。
「あ、生きてる?」
高出力ビームの直撃に耐えきった白い巨人は、振り返ってニックのダガーを見下ろした。
「お前……いや、お前が……三日月なのか?」
「うん。そっちは……ベカスの友達だよね?」
「友達…………ハッ……そうかもな」
「立てる?」
「まあ……なんとかな……」
関節を軋ませながら、ヨロヨロとダガーが立ち上がるのを見て、三日月は目の前の敵へと向き直った。
『チッ……仕留め損なったか』
インフィニティのパイロットは悪態を吐きつつも、ビーム砲のエネルギー装填と砲身の冷却を開始した。
「ねぇ、青い機体の人」
「ニックだ」
「……なんでもいいから、とりあえず……あいつを倒せばいいんでしょ?」
「……なっ!?」
『……ほう?』
何でもないというようにそう言った三日月に、2人のパイロットはそれぞれ違った反応を見せた。
「待て! あいつはヤバい、2人がかりでも倒せるかどうか……」
「そう?」
ニックの言葉に、三日月はチラリとインフィニティ一瞥し……
「こいつは……そんなに強いようには見えないけど?」
インフィニティのパイロットにも聞こえるように、堂々とそう言い放った。
『……黙って聞いていれば、言ってくれるじゃないか』
インフィニティからパイロットのイラついたような声が響き渡る。パイロットの怒りは青いオーラとなってインフィニティの周囲に現れ、それに呼応するかのように搭載された6機のドローン砲にも伝染していった。
「来るぞ!」
ニックが悲鳴にも似た警告を叫ぶ
『ファンネル砲たち!』
インフィニティのバックパックから6機のドローン砲が放出され、それぞれ青い軌跡を伴って三日月へと飛来する。
「……!」
次の瞬間、三日月は目先に閃光を走らせた。
迫り来るドローン砲を迎撃すべく、翼のようにバルバトスの背中に装備されたドローン砲……光輪を放出し、6機全てを前方へと射出する。
『ほう! 貴様もファンネル砲を使うのか』
しかし、紅い軌跡を伴ったドローン砲を見ても、インフィニティのパイロットは余裕の表情を崩さない。
『しかし、脳波コントロール制御のないドローン砲など、私に言わせれば蚊トンボに過ぎない! 私のファンネル砲が、ただのドローン砲とは違うことを……教えてやろう!』
次の瞬間……紅と青、二色のドローン砲が交錯し合い、空中でビームを撃ち合う空中戦(ドッグファイト)を展開した。
BMではとても披露することのできない、ドローン砲同士だからこそできる圧倒的なスピードで構成されたそれは、瞬く間に深淵を黒いキャンパスに見立て、紅色と青色の線を描いていく。
そして……勝敗は一瞬にして決した。
『………………馬鹿な』
インフィニティのパイロットは、目の前の光景が信じられないというかのように、狼狽えた声を放った。
それもそのはず、空中戦が終わった今、深淵を支配しているのは6機のドローン砲のみ……しかも、その全てがバルバトスの紅いドローン砲だったからだ。
『私の……6機のドローン砲が……全滅?! 10秒も経たないうちに……か?』
地面に散らばる青いドローン砲の残骸を見つめ、インフィニティは後ずさりした。それは、狩る者が狩られる者へと変化した瞬間でもあった。
「ねえ、まだやるの?」
光輪を背中に呼び戻した三日月は、メイスの先端をインフィニティに向けた。
「やる気なら、容赦はしないけど?」
『…………私は、お前たちのような人間とは……』
「…………!」
その瞬間、インフィニティから放たれた強烈な殺気を感じ、三日月はバルバトスを走らせた。
『薄汚い、無能力者のお前たちとはッッッ、違うんだああああッッッ!!!』
叫ぶインフィニティのパイロット
両肩に搭載された二問のビームキャノンから火線が放たれ、バルバトスへと飛来する。
光の速さで飛来するそれらを、バルバトスは敵の殺気を読んで回避し、インフィニティとの距離を詰めるべく機体を跳躍させた。
『空中に逃げるとは……馬鹿め、いい的だ!』
インフィニティのパイロットは発射準備の整ったビーム砲の先端を、上空のバルバトスへと照準した。
『許せないんだよ! ただの人間風情が、この俺よりもファンネル砲を使いこなせるのはッッッ……消しとべぇぇぇぇえ!!!』
その言葉と共に、ビーム砲の砲門から放たれた高出力の光線が、空中に跳んだことで自由に動くことのできないバルバトスへと照射される。
その場にいた誰もが、高出力ビームの束に機体を貫かれ、ズタズタに引き裂かれるバルバトスの姿を幻視した。
だが、そこで信じられないことが起きた。
インフィニティが放ったビームはどういうわけか、まるで雲を掴むかのようにバルバトスをすり抜け、夜空の彼方へと消えてしまったのだ。
『何!?』
インフィニティのパイロットが驚く間も無く、空中にいるバルバトスの表面にノイズのようなものが走り……あっという間にバルバトスの姿は煙のようにかき消えてしまった。
『残像だと!?』
それがバルバトスの光輪から放たれた紅い閃光が作り出した偽物であることに気づいた……頃には、もう手遅れだった。
「いちいち、うるさいね」
『ハッ!』
本物のバルバトスは暗闇に紛れて既にインフィニティの背後へと降り立っていた。既にメイスを構え、残忍な殺戮を披露する手はずは整えていた。
「もう、いいよ」
……喋らなくても
ーーーーーー
「すまねぇな。助かったぜ」
「別にいいよ、これが俺の仕事だから」
インフィニティを倒し、互いに一息つこうとコックピットから顔を出したところで目が合った2人は、お互いに声を掛け合った。
「この仕事が終わったら奢ってやるよ」
「そう? ありがと」
「なんだお前? なんか淡々としてるな」
「……そう?」
「ああ、そうさ。特に黒髪で、思いの外背が低いってところを見ると、なんかドールのやつを見ているみたいだぜ……ああ、ドールってのは俺の相棒で……」
「知ってる。狙撃の名人なんでしょ?」
「お! よく知ってんな、ベカスから聞いたのか?」
「うん。銀の人が教えてくれた」
「銀の人ってお前……ハッ、言えてるな。どんな戦場に放り出されてもしぶとく生き残るあのクソ野郎は、まるでエイリアンみたいだぜ」
ニックは小さく笑ってみせた。
「おっと……噂をすればなんとやらだ」
2人がベカスの話をしたちょうどその時、ニックはレーダーに映る機影に気がつき、樹海のある一点へと目を向けた。
するとニックが向いた先に、木々の間を搔き分けるようにして二機のBMが三日月たちの前に出現した。
「よお! 遅かったな〜」
その場に現れたウァサゴとダガーを見て、ニックは呑気に手を振ってみせた。
「ニック……被害報告(ダメージリポート)を」
「ああ。シールドを一枚やられただけで、あとはかすり傷さ……そんなジロジロ見ても異常はねぇよ」
ドールはニックの元へと近寄り、機体のチェックを始めた。ドールの検査をニックは言葉では嫌がりつつも、止める気はないようだった。
「三日月……お前……」
「ん?」
一方、ベカスは三日月へと近寄り、声をかけた。
「……来たのか」
「当たり前じゃん」
「いいのか……学園は……」
「うん、俺……気づいたから。俺のいるべき場所は、学園なんかじゃないって……」
三日月の言葉に、ベカスはなんと言っていいか分からずに頰をかいた。そんなベカスの様子を気にすることなく、三日月はポケットからナツメヤシの実を取り出して口にした。
4人がお互いに再び生きて会えたことを喜び合ったその時……樹海の奥地、暗闇の中、どこからともなく、無数の何かがこちらへと近づいてくる気配を感じ、4人は戦闘体制へ移行した。
「やれやれ……喜ぶのは、こいつらを撒いた後だな」
ニックがため息混じりに呟く
「肯定(ポジティブ)。ベカス、プランBの発動を要求する」
ドールはベカスに向け、淡々と告げる。
「分かった。そんじゃあ三日月、道は覚えてるな?」
「うん。俺が先行すればいいんだよね?」
三日月は前もって、ベカスが用意した非常時の逃走ルートを記憶していた。それは日ノ丸から大陸へと逃れるためのもので、三日月が記憶したルートの最終地点には港があり、そこにはBMを最大4機まで積載可能な貨物船が用意されている。
「そうだ。お前を前衛、オレとニックが中衛、そしてドールが後衛のクロスドッグでお前の動きに合わせて俺たちも動く」
「分かった。っていうか……なんで俺が一番前なの?」
三日月が抱いた素朴な疑問に、ニックとドールが反応する。
「そりゃあ、お前が俺たちの動きに合わせられるか分かんねぇからに決まってるだろ? 昔から腐れ縁で繋がってる俺たち3人は何となくお互いのことが分かるから動きを合わせることができるけどよ、新顔のお前さんは違う」
「そうだ。動きを合わせられないお前を後ろに置くよりも、寧ろお前の動きに合わせた方が効率が良いと判断した……そうだな、ベカス」
ニックとドールの説明に、ベカスはニヤリと頷いた。
「その通り、だからこそのクロスドッグだ。この陣形は、お互いの死角をなくすという意味のほか、全員の長所を活かしつつ、全員の短所を打ち消すという意味が含まれている……つまり」
「誰か1人でも欠けたら、危ないってことでしょ?」
三日月はベカスの言葉を要約した。
「理解が早くて助かるぜ。まあ、中衛のオレとニックはどちらかが消えても問題はないと思うけどな」
ベカスの言葉に、ニックはウンウンと頷いた。
「そうだなぁ、まあ……もし俺がやられたら、その時は……見捨てないでくれよ!」
「否定(ネガティブ)だ」
「嫌だね〜」
ドール、続いてベカスがニックに向けて肩をすくめてみせた。
「なんだとぉう?! お前ら薄情すぎんだろ!」
「ハハッ、冗談だよ」
「クソったれ……まあいい、また昔みたいにアレをやろうぜ?」
「おっ……そうだな!」
お互いに顔を見合わせ……ベカス、ニック、ドールの3人は三日月のクロスドッグを作るために三日月の後ろに立ち……
「ニック・オブライアン……『ダガー近接戦型』!」
「ドール……『ダガー狙撃型』」
「ベカス・シャーナム……『ウァサゴ万能型』!」
次々に、名乗りを上げた。
「え?」
流れに乗れなかった三日月は、思わずポカンとなってしまった。
「ほら、三日月……お前もやれよ」
ベカスは小声で三日月へと声をかけた。
三日月は少しだけ戸惑いつつも……
「三日月・オーガス……『バルバトス・神威』!」
先にやった3人に倣い、三日月はかつてどこかの戦場でやったように、気を引き締め、声を張り上げた。
「よし今から……俺たちは、全員で一つだ」
他の3人に聞こえるように、ベカスが呟く
「全員で……生き残るぞ」
そして……数時間にも及ぶ逃走劇が、今まさに火ぶたを切って落とされた。
ーーーーー
BGM:『katute no 宝物』
(権利云々がよく分からないのでぼかしてます)
先頭に三日月、その背後……両翼にベカスとニック、そして最後尾にドールを置いた、計4機の機甲が夜の日ノ丸を疾走する。
「三日月!」
手元のレーダー表示に目を落としたベカスが叫ぶ
「前方! 人型3」
「了解。突破口を開く」
ベカスの指示に、三日月は隊列から離れて先行する。
やがて前方に出現した黒いBMは、こちらへと迫るバルバトスの姿を見るなり銃撃を加えるが、三日月はメイスでそれを全て弾き返し……
「邪魔!」
メイスを振り回し、邪魔な障害物を薙ぎ払った。
黒いBM……飛影はロクな防御行動も取れず、真っ二つに引き裂かれ、爆発四散した。
それを見た残る二機の飛影は、それぞれ左右へと身を飛ばし、バルバトスの追撃から逃れようとするが……
「かかった!」
「クソったれが!」
逃れた先でベカスとニックの射撃を受け、大破……炎上する。
「さらに増援! 空だ!」
再び放たれたベカスの叫び声を聞きつけ、三日月は隊列に戻りつつ、背中のドローン砲を展開した。
暗黒の夜空に溶け込むかのように、無数の黒い戦闘機、そしてBMを運搬する輸送機がこちらへと近づいていた。
輸送機のハッチが開かれ、中から黒いBMが姿を現し……4人の進路上へ空挺降下を始めようとして……
「1.35秒遅い」
しかし、ドールの精密射撃を受け、空挺降下前のBMは大破。しかも、携行火器の弾倉へ誘爆したことにより大爆発が起きる。
その結果、輸送機と運搬していた他のBMを巻き込んでさらなる誘爆が発生し、日ノ丸の空に巨大な火球が生まれた。
しかし、輸送機を排除したところで戦闘機は止まらない。ウェポンベイを開き、密集した四機に向けてミサイルを叩き込もうとして……
「見える…………そこ!」
それよりも早く、三日月は目先に火花を散らした。
すると、展開された6機のドローン砲が一斉に火線を放ち……放たれた紅い閃光は次々と黒い戦闘機たちを捉え、その装甲を貫き、炎上させた。
儚く散った無数の戦闘機たちは、小さな火球となって深淵の空で最期の輝きを見せた。必然的に、大きな火球の周囲を、小さな火球が満たす構図になる。
それは夜空に咲いた大輪の花……
いや、まさしく『花火のよう』だった。
「ヒュ〜、た〜まや〜ってね!」
爆発を見上げ、ニックが叫ぶ
しかし、それでもなお4人は止まらない。
人気のない国道を疾走し……ついに4人は海へと出た。
「よし……あとはこのまま海岸線沿いに進めば……」
「ベカス、一時方向、艦船1」
ドールの言葉に反応し、ベカスが海を見渡した時……突如として海から飛来した巨大な砲弾が4人をかすめた。
「やべっ……ニック、場所代われ!」
右からの砲撃に対し、隊列の左側にいたベカスはニックと位置を交換し、右側へと移る。その瞬間、再び艦船からの砲撃……
「防ぐ!」
巨大な砲弾が4人の間に着弾しようとしたらその瞬間、ベカスはFSフィールドを展開。砲弾は空中で受け止められ、無力化された。
「クソったれ! 日ノ丸の巡洋艦だと!? 奴ら、あんなものまで……」
「任せて」
三日月は機体を滑走させつつ、メイスを左腕に持ち替え、空いた右手に滑空砲を出現させた。
「……撃つ」
ベカスがFSフィールドで砲弾を受け止めている間に狙いを定めた三日月は、巡洋艦へと砲撃……巡洋艦の砲弾に引けを取らない、巨大な砲弾が巡洋艦へと降り注ぐ。
三日月の放った砲弾は巡洋艦の砲塔、艦橋、船尾、機関部へと着弾……一瞬の間の後、巡洋艦から黒煙が上がった。
「すげぇ!」
一瞬にして巡洋艦を無力化したことに驚き、ニックは感嘆の声を上げた。
「ああ……やっぱすげぇよ、三日月は」
レーダーを確認しつつ、ニックの言葉に同意したベカスは、続いてアイコンタクトでニックへと指示を送る。
「おっ……そうだな、俺もガキに負けてられねぇ」
「よし、やろうぜ」
何やら後ろで話し合っているベカスとニックの会話を耳にしつつ、三日月は前方から敵の増援が迫りつつあることに気づき、メイスを構え直した。
防衛線を構築した数十機の飛影が、ライフル砲や突撃銃などを構えて迎撃体制を取っていた。
「待て、三日月! 今度はオレたちに任せてくれ」
ベカスは前に出ようとした三日月を制止させ、ニックと共に隊列の前に出る。
「「行くぜ!」」
2人は盾を構え……飛影の群れの中へと機体を突撃させた。
突撃してくる二機のBMに対し、飛影は所有火器を駆使して猛烈な弾幕を張るも、ウァサゴのFSフィールドはその殆どを無力化。榴弾に対しては盾で防ぎきった。
持っている火器では足止めすらままならないことを悟った飛影たちは、刀や双剣を構え、近接戦闘によりその動きを封じようと試みるのだが……
「うおおおおおお!!!」
「邪魔だクソ野郎があああ!!!」
しかし、突進するサイの如く勢いのついたベカスとニックを止めることはできず、二機のシールドアタックを受け、防衛線を構築するために密集していた飛影たちはまるでボーリングのピンのように弾き飛ばされてしまった。
「1.45秒遅い」
辛うじて2人の攻撃を避けた飛影も、後続の三日月とドールの援護射撃により、あっという間に戦闘不能へと陥った。
ーーーーー
クロスドッグにて飛影の防衛線を突破する三日月たち
『…………』
そんな彼らの様子を、海岸沿いの国道から遠く離れた、小高い丘の頂点から見つめる青い機体の姿があった。
青い機体は、並のBMでは抱えることすら困難な重砲を片手で軽々と持ち上げると、射撃を安定させるバイポッドすら展開することなく、その銃口をある一点へと向けた。
『…………』
次の瞬間、その場にいた者をショック死させてしまうのではないかと思われる程の爆音が、小高い丘にこだました。
ーーーーー
防衛線を突破した4人は再び集結し、隊列を組み直した。
「よし! 目的地までもう少しだ、後はこのまま……」
右翼に展開したベカスがそう言いかけた時だった
「…………え?」
ーーーーー
……
ーーーーー
…………
ーーーーー
数分後……
「…………?」
崖下へと落下した三日月は、どこからともなく流れ込んできた潮の香りと、機体が揺さぶられる感覚に目を開けた。
「あれ……? ここ、どこ?」
朦朧とする意識を何とか保ちつつ、海水に半分だけ浸かったバルバトスを起き上がらせたところで、三日月は左腕に鋭い鈍痛を感じた。
見ると、バルバトスの左腕は肘から先がなくなっていた。
「……!」
そこで、三日月は思い出した。
防衛線を突破し、再び隊列を組んで、目的地までもうすぐというところで……どこからともなく飛来した巨大な砲弾を……
何者かによる砲撃は、直撃こそしなかった。
だが、隊列の至近距離に着弾したことによる衝撃は凄まじく、風圧でバルバトスは吹き飛ばされ、弾けた砲弾の破片がバルバトスから左腕を抉り取ってしまった。
因みに、三日月の左後ろにはFSフィールドを展開したウァサゴと、そのパイロットであるベカスがいた筈だった。
「…………他のみんなは?」
三日月は真っ黒な海を見渡し、仲間の姿を探した。
そして、海中に沈んだ銀色の装甲を見つけた。
それは、ウァサゴの左肩だった。
「ベカス……?」
三日月は右腕でそれを掴み上げ、海から引き上げた
「……え?」
ウァサゴはまるで死んだように動かなくなっていた。
ソードライフルを失い、シールドは粉砕され、バックパックのキャノン砲はへし折れ……全ての武装を喪失した……いや、特筆すべきはそこではない
「……ベカス?」
ウァサゴのコックピットには、砲弾の一部とと思わしき、巨大で鋭利な破片が深々と突き刺さり、コックピットを貫通しかけていた。
ウァサゴの背中からは、突き刺さった破片の切っ先と思わしき部分が露出している。
ウァサゴのコックピットから雨漏りのように流れ落ちるものがあった。月明かりに照らされたそれは、暴力的な色をしつつも、どこか生命の神秘を感じさせる赤色をしていた。
「ベカス……ベカス……!?」
三日月は、まるで破片を抜けばそれがこの世に戻ってくるとでも思っているかのように、破片を右腕で掴み、ウァサゴのコックピットから引き抜いた。
ウァサゴのコックピットから大量の液体が漏れ、
滝のように流れて、黒い海へと落ちていった。
ーーーーー
「クソったれ! ベカス! 三日月!」
所変わってここは崖の上。
辛うじて砲弾の衝撃に耐えたニックとドールだったが、無傷というわけにもいかず、両機とも電気系統に異常が発生し、制御不能に陥っていた。
「ドール! あいつらどこ行った!」
「おそらく、崖下へ落ちたものと推測され……」
そこで、ドールはなぜか口を噤んだ。
「ドール……?」
ドールの視線を辿ったニックは……その光景を目の当たりにして恐怖で固まった。
「……オイオイ……嘘だろ……?」
「……同感だ」
これには、いつもならすぐに否定するドールでさえも、すぐには現実を受け入れることが出来ず、彼の小さな口からそんな言葉が漏れた。
なぜなら2人の目の前……日ノ丸の奥地へと続く樹海の中から、呆然と立ち尽くす2人を見つめる金色の瞳が浮かんでいたからだ。
しかも、それは一つではなく
まるで樹海を埋め尽くしてしまうかと思う程の、大量の瞳が暗闇の中に浮かんでいた。
ーーーーー
それは、崖下でも同じだった。
「あれが……全部、敵……?」
三日月は、海面を滑るように移動する無数の金色の瞳を目撃した。その無機質な黒い装甲が月光を浴び、鋭さを伴った輝きを放っている。
そして、襲撃者たちは分身を始めた。
襲撃者たちはあっという間にその数を増していき、終いには一国の総戦力にも匹敵する大群が海面を埋め尽くしていた。
「ああ、そっか……でも……」
しかし、圧倒的な戦力を前にしても、三日月の瞳から闘志が失われることはなかった。
亜空間から飛翔を取り出すと、その鞘を脇に挟んでビーム刀を引き抜いた。三日月の意思に呼応するかのように、飛翔の柄から紅い閃光が放たれた。
「俺たちは…………全員で、生き残る!」
ーーーーー
「クソったれがああああ!!!!」
ニックはショットガンを撃ち続ける。
彼が一発撃つごとに、襲いかかってくる飛影はあっさりと爆発四散する。だが、そんなこと御構いなしと言わんばかりに、次から次へと新たな飛影がニックの前に姿を現す。
「うざってぇな!! 寄るんじゃねぇ!」
吐き叫びながらもトリガーを引き続ける
やがて、撃ち漏らした一機がニックへと迫り、左腕に残った盾を引き剥がしにかかった。
「うるせぇ!!」
ニックは咄嗟に盾をパージし、飛影がバランスを崩したところにショットガンをお見舞いした。ほぼゼロ距離の状態で放ったことにより、爆発四散した飛影の爆風をモロに受け、ショットガンが損傷する。
爆風を抜け、また新たな飛影が刀を構えて迫る。
「うざってぇんだよおおおおおおお!!!」
ニックは使い物にならなくなったショットガンを捨て、腰のホルスターから対BMナイフを引き抜き……
次の瞬間、青い機体と黒い機体が交錯し……
そして、ナイフを持った青い腕が地面に落下した。
「な……!」
しかし、ニックに驚愕する暇は与えられなかった。樹海の奥地から無数の火球が放たれ、その内の一発がダガーの左足に着弾。
「ぐあああああッッッ」
片足を失い、転倒するタガー
「……!」
そして、ニックは見た。
倒れた自分を囲む、三機の飛影を
飛影の手にはそれぞれ刀が握られており、三機の飛影はまるで三つ子が動かしているかのように、ほぼ同時に刀を振り上げ……
「クソがぁぁぁあああ!!!」
絶叫するニックめがけて、その切っ先を振り下ろした。
「ニック!?」
自分にまとわりつこうとする敵の対処で精一杯なドールが、相棒の危機に気づいたのはその時だった。
ドールは三機の飛影に囲まれたニックを助けるべく機体を走らせるが、その前に刀を携えた飛影が割って入る。
「……!」
ドールは咄嗟に回避行動を取るも、飛影の放った斬撃がドールの狙撃銃を捉え、ダガー狙撃型のメインウェポンは真っ二つになってしまった。
「…….0.23秒遅い」
メインウェポンを失ったドールへと追撃をかけようとする飛影だったが、その時には既に、ドールが操るダガーの両手にはサイドアームのハンドガンが握られている。
コックピットへ正確に撃ち込まれた二発の銃弾が飛影を貫き、飛影は爆発四散する。
「ニック!」
そして、今度こそニックの救援に向かおうとしたドールだったが、その瞬間、敵の接近警報が鳴り響き……
「0.21……」
しかし、ドールが銃口を向けようとしたその瞬間には、背後から突き出された凶刃がダガーの装甲を貫き、コックピットを貫通してダガーの正面へと突き出た。
「……れ……0.」
コックピットを貫かれてもなお、ドールは機体を動かそうと試みるが……さらに二機、前方からクロスするように刀を突き出されては流石にどうすることもできず……
「…………」
合計三本の刀をその身に受け……
ドールは、意識を失った。
ーーー
…………
……………………
………………………………
私はUSFの古代技術を研究している秘密機関で製造された。アクシデントに乗じてそこから逃げ出し、身元を隠して傭兵になった。だが、誰がコンビを組んでもいつも私だけが生存する。だから皆は私のことを「死神」と呼んだ。私と組む者はいなくなり、必然的に私は単独での行動が多くなった。しかしニックだけは違っていた。彼は私にドールという名前を与え、何もなかった私に私という存在を与えてくれた。彼は人と会うごとに私の話をした。私にはどうやら寡黙な両親と反抗的な妹、そして吐き気がするほど甘いパイを焼く祖母がいるらしい。すると周囲の私を見る目が変わった。彼らは私のことを変人扱いするようになり、血の通った人間として見るようになった。「死神」とも呼ばれなくなった。私は私であることを終え、ロクでもない生活を送る、1人の人間として生まれた瞬間だった。彼はワタシをゴウインに自分の相棒にした。彼のタフさと悪運の良さは私に「ニンゲンではないのでは?」と思わせるほどだったが、さけを飲んで嘔吐するすがたを見て、ギモンもきえた。
彼はゲヒンな言葉をつつつかかかかいい…
粗野でガンコ……じじだだららくくく……だだだ
ーーーシステムに深刻な異常が発生
ーーースリープモードへ移行します
デモ……彼がそばにイルト、
ジブンガキカイデアルコトヲ
ワス……レ……
ーーースリープモード 実行
………………
…………
……
ーーー再起動 承認
でも、彼がそばにいると
じぶんが機械であることをわすれ
……生きるいみになやまなくてすんだ。
…………なぜなら
ーーースリープモード終了
ーーーシステムを『ラストラリーモード』へとシフト
ーーー……enjoy!
「私は……いや、俺はドール。
この世で最もロクでもない傭兵の相棒だ」
ーーーーー
「クソッ! クソッ! クソッッッ!」
コックピットめがけて振り下ろされる刀を、残った左腕で防御するニックだったが、ついに残った腕すら関節から切り取られ、刀の切っ先が操縦席にまで迫っていた。
「クソがあぁぁぁぁあああああああッッッ!!!」
断末魔の悲鳴と共に、ニックの体が巨大な刀によって引き裂かれようとした……その時だった……
「0.01秒……遅い」
ニックは、相棒の放ったその言葉を確かに聞いた。
次の瞬間、ニックを襲う三機の飛影に風穴が空いた。
「……なっ!?」
爆発四散する飛影
爆炎が晴れたことを確かめてから、ニックは斬撃によって空いた装甲の隙間から外へと這い出て、地面へと降り立った。
「無事か? ニック」
「ドール……?」
そしてニックは、変わり果てた相棒の姿を目の当たりにした。
そこには、上半身だけになったドールの姿
機能停止に陥ったBMからここまで這ってきたのであろう、地面にはドールの体から流れ出た白い人工血液が不規則な線を描いていた。
また、その手には、BMすら破壊することのできる世界最大の拳銃が握られていた。
命がけで、ドールはニックのことを救ったのだ
「酷い格好だろう?」
ドールは虚ろな視線を浮かべてニックを見上げた。
「ああ、確かにそうだな」
そう言ってニックはドールの前に跪き……
「……だが、どんな姿になってもお前はお前だろ?」
そして、ニックへと手を差し伸べた。
「肯定(ポジティブ)、俺は変わらない」
銃を手放し、相棒の腕を取る。
「最後に……お前と一緒に死ねて、よかったぜ」
絆を確かめ合う2人
そんな2人へと向けられる、機関銃の砲身
世界は残酷だった。無慈悲なまでに……
ーーーーー
三日月は迫り来る数百機の飛影を相手に、一歩も引かない戦いを繰り広げていた。
「いけ!」
数十回目にもなるエネルギー供給を終えたドローン砲がバルバトスの背中から再度出撃し、超高速機動にて敵に接近、火線を放った。
しかし、ドローン砲の動きは最初の頃に比べると明らかに精彩を欠いていた。動きはやや鈍重になり、その狙いも甘いものとなる。
肩で息をしながら三日月は目先に閃光を放つと、ドローン砲から放たれた紅い光線が一瞬にして六機の飛影を串刺しにし、片っ端から爆発四散させていく。
しかし、飛影もただやられているだけではなく、動きの鈍重になったドローン砲へと狙いを定め、攻撃を放った。
「……ぐっ!」
圧倒的な対空砲火により、ドローン砲が一機、また一機と撃墜されていく。ドローン砲が撃墜される度に、三日月は頭にナイフでも突き刺さったかのような痛みを感じ、顔をしかめた。
「チッ……でも、これで!」
ドローン砲が残り三機となったところで、同時に操作するドローンの数が減ったことにより、ドローンの動きが通常のそれへと戻る。
「そこ!」
一瞬にして10機近いBMを爆発四散させたところでエネルギーが尽き、ドローン砲が再びバルバトスの背中へと舞い戻ってくる。
ドローン砲のエネルギー供給を待っている間、三日月は防戦一方に陥ってしまう。
「くっ……」
大雨の如く降り注がれる弾丸を飛翔で撃ち落としながら、三日月はただ耐えた。
本来ならば敵の中央に飛び込み、敵の同士討ちを狙いつつ、各個撃破していく三日月だったが、状況が状況だけに、それができない理由があった。当然のことながら、引くことも許されなかった。
ビーム刀で攻撃を弾く三日月の背後には、両膝をついたままピクリとも動かないウァサゴの姿があった。
先ほどまでコックピットから流れ落ちていた大量の赤い液体は、パイロットの体からついに出尽くしてしまったのか、もはや雫となって垂れる程度になっていた。
パイロットの生存は絶望的なのは目に見えている。
しかし、三日月は一歩も引かなかった。
「全員で……生き残るって……」
なおもビーム刀で敵の攻撃を弾き返し続ける三日月
しかし、降り注がれる大量の銃弾の全てを撃ち落とすことは出来ず、そしていくら頑強なバルバトスの装甲であっても被弾し続ければ長くは保たないのは明白であった。
そして、ついに限界が訪れた。
榴弾の直撃を受け、バルバトスがゆっくりと膝をつく
「…………」
朦朧とする意識の中……三日月の虚ろな瞳が刀を手に迫り来る十数機の飛影を捉えた。
三日月は刀を構え直し、立ち上がろうとするも、バルバトスはまるで石になったかのようにピクリとも動かなかった。
(あ……)
振り下ろされた刀がバルバトスのコックピットを捉えようとした……まさにその時、奇跡が起きた。
「……え?」
盛大な水しぶきを上げて何かが飛び出したかと思うと、それは三日月の前に立ち塞がり、振り下ろされた刀を受け止めた。
『…………』
その機体……ウァサゴのセンサーが鋭い輝きを放ったかと思うと、手刀で飛影のコックピットを潰し、刀を奪って右手に持ち、迫り来る残りの飛影に向けて加速した。
ウァサゴが一機、また一機と飛影を切り裂いていく
「ねえ……バルバトス……」
その間に、三日月はバルバトスを立ち上がらせる。
「まだ、やれるでしょ?」
三日月の言葉に呼応するかのように、バルバトスのツインアイが鋭い輝きを放った。それと同時に射出されたドローン砲が飛翔の周囲を回り始める。
一方、無数の飛影を相手にたった一本の刀で奮闘するウァサゴだったが、ついにその刀が折れ、ウァサゴは丸腰の状態に陥る。
『…………』
そして、ウァサゴはブレイクパルスを放った。
ウァサゴの胸部から放たれた高出力のビームが、複数の飛影を貫いて空の彼方へと消えていく。
『…………』
その一撃で機体のエネルギーを使い果たしてしまったのか、海面に倒れたウァサゴがそれ以上、動くことはなかった。
「そうだ……俺たちは」
ウァサゴの最後を見届けた三日月は、静かに飛翔を掲げた。
すると飛翔の柄から成層圏まで到達するのではないかと思うほどの膨大な光が放出され、それは暗黒の空を引き裂いて、夜空を明るく照らした。
「生きる!」
振り下ろされた飛翔を避ける術はなかった。
圧倒的な熱量に、海水が蒸発し、戦場は霧に包まれた。
ーーーーー
かつて数百機ほど存在した飛影は、三日月との戦闘を経て一気に数十機になってしまうまで数を減らしていた。
しかし
「ああ……」
全てを使い果たしたバルバトスは、両膝をついて海に沈みかけていた。握りしめた飛翔からは、もはや一筋の光すら放たれることはなく、ドローン砲も海に突き刺さり、動くことはなかった。
「俺……また、ダメだったんだ……」
機能停止したバルバトス
光を失ったツインアイ
残った数十機の飛影を相手にする余力すら、残されていなかった。
生き残った飛影が三日月へと狙いを定める。
そして、動かなくなったバルバトスに向けて火線が降り注がれようとした……その時だった。
「…………?」
三日月の瞳が、空に現れたそれを捉えた。
空中に留まった火の玉が、夜空に浮かび上がっている。
飛影はそれを見ると否や、三日月にとどめを刺すこともなく、一目散に水上を駆け抜けてどこかへと消えてしまった。
ーーーーー
それはニックとドールのところでも同じだった。
今まさに2人に向けて銃撃を行おうとしていた一機の飛影が打ち上げられたそれに気づき、撤退を始めると、一機、また一機とそれに続いた。
「……助かった……のか?」
最後の飛影が2人の前から姿を消しても尚、ニックは何が起きたのか分からず、ドールを抱きしめたまましばらく呆然とその場に座り込んでいた。
ーーーーー
「…………」
バルバトスのコックピットから這い出た三日月は、先ほどとは打って変わって静かになった海を見渡した。
海はつい数分前まで戦闘が行われていたとは思えないほどの静けさに包まれており、いつもと変わらぬ素振りを見せるかのように、穏やかな波がバルバトスへと打ち付けられた。
すると、水平線の向こうから何か巨大なものが現れた。
その船のようなその何かは、一直線に三日月の元へと近づいてくる。
三日月はその船に見覚えがあった。
『ベカス! 三日月! 迎えに来てやったわよ!』
ダイダロス2号から、葵博士の声が放たれた。
ーーーーー
ーーーサブタイトル更新ーーー
機動戦隊アイアンブラッドサーガ
第20話:「明日への希望」
ーーーーー
一方その頃……
高橋重工 本社
最上階 総帥室
「くそっ!!」
高橋重工の総帥である高橋徹は忌々しげに悪態を吐くと、握りしめた携帯端末を壁に向けて投げつけた。
「電話の相手は誰だったのです?」
荒れた総帥の様子を見て、総帥室の入口近くにいた人物が思わず声をかけた。白衣を着た博士風の男で、首から下げたネームタグには『水原一郎』の文字が刻まれている。
「OATHカンパニーの……ミドリという女だ」
「ミドリ? それで……その方は何と?」
「……ご大層なことに、この私を脅してきたよ」
高橋徹は水原一郎を凝視し……
「あの女狐はこう言ったのだよ……今すぐに部隊を撤退させろ、さもなくば『モービィ・ディック』を派遣する……と」
「『白鯨部隊』を?」
水原一郎はその言葉を聞いて眉をひそめた。
「まさか……その女の言うことを信じたわけではないでしょうね?」
「当然だ。しかし先ほど、高橋家の監視衛星が日ノ丸の領空を侵犯する『モービィ・ディック』の旗艦らしき艦影を捉えた……」
「なるほど……それで、怖くなったと?」
「…………」
高橋徹は水原一郎を睨みつけるも、当の博士風の男は肩をすくめるだけだった。
「そうそう、我々が雇った傭兵たちのことですが……我が社の私兵部隊があと一歩のところまで追い詰めたものの……」
「それがどうした! 逃げられたのだろう!」
「ええ。どこかの工作船が彼らと彼らの機体を回収し……船は大陸へ向かいました。ですが、何も問題はありません」
水原一郎はそう言って小さく手を上げた。
「追跡者(チェイサー)を放ちました。彼らが真実にたどり着き、世間に向けて告発しようとする頃には、彼らは既にこの世からいなくなっていることでしょう」
「大丈夫なんだろうな?」
「ええ。ですから問題はありません」
「そうか……!」
水原一郎の言葉を聞いて、高橋徹はニヤリと笑った。
「内閣総理大臣直属の部隊が財閥の令嬢を襲撃したという情報はすでにばら撒いています。この一件はまず間違いなく明日のトップニュースになるでしょう。今の支持率では、内閣も今月いっぱいは持たないかと……」
「そうだな! これで新防衛法の最後の邪魔者が消えた。この国はもはや私のものだ! 幼い神皇はまだ自分が私の傀儡であることには気づいていまい」
拳を握りしめて高笑いする高橋徹。
水原一郎は今回の被害について報告しようと思っていたのだが、扉を隔てた廊下の先から何者かの足音が響き渡ったのを感じて口を噤んだ。
「お父様! 助けてください!」
次の瞬間、総帥室の扉が勢いよく開かれ、息を切らした高橋夏美が姿を現した。
「ほお、まだ生きていたか。これは面白い」
総帥室に現れた自分の娘を見て、高橋徹はサディスティックな笑みを浮かべた。
「お父様……? いま、なんと……」
「ふふっ……」
高橋徹は引き出しから白銀の拳銃を取り出すと、その銃口を夏美に向け……なんのためらいもなく発砲した。
「ぐ……」
胸を撃たれて、夏美の表情が苦痛に歪む。
「私は、君のそういう顔が、大好きでね」
「……ベカス」
夏美は愛する男の名前を呼ぶと、がっくりと膝を折り、混乱と絶望を抱いたまま糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
「これで、よかったのですか?」
水原一郎は倒れて動かなくなった高橋夏美を見下ろし、困ったように頭をかいた
「時々、この子が『Dool–01』であることを忘れてしまうよ。新しい体を用意して擦り傷と青あざをつけてくれ。それと、直近の記憶は全て排除しろ」
高橋徹はそう言って水原一郎へ白銀の拳銃を手渡した。
「御意。では……後のことは全て私にお任せください」
高橋徹はククッと笑いながら総帥室を去った。
ーーー
総帥室に一人取り残された水原一郎は、高橋徹から渡された拳銃を右手に持ち替え、ゆっくりと体から離れた位置に持っていく。
……
いつからそこにいたのだろうか……突然、水原一郎の背後から小さな手が飛び出したかと思うと、あっという間にその右手から拳銃を奪い取ってしまった。
「これで……よかったのかい?」
……はい、上出来です
水原一郎の手から拳銃を奪い取ったその『何者か』は、慣れた手つきで弾倉を引き抜くと、あらかじめすり替えておいた麻酔弾を全て取り出し、代わりに実弾を込め、再び水原一郎の手へ拳銃を握らせた。
「一つ、聞いていいかい?」
……なんですか?
「君は私の娘を……梨紗を人質に取っていると言った」
……?
「もし、私が君に従わなかったら、君は……いや君たちは本当に私の娘を殺していたのかい?」
……場合によっては、そうですね
「……私の娘が、君の主人の大ファンだったとしても?」
……はぁ、冗談です。殺したりなんかしませんよ
水原一郎の背後に潜む『何者か』は小さくため息を吐き、持っていたククリナイフを腰のホルスターに収めた。
……これはあくまでも手段の一つにすぎないのです
何者かは水原一郎の影から飛び出し、麻酔弾を受けて眠り続ける高橋夏美の元へゆっくりと歩み寄った。
……ですが、もうあなたは私たちの仲間です
その何者かは、少女だった。
しかも、少女が着ているのはA.C.E.学園の制服である。
……あなたの娘は私たちの手の中にあります
少女は虚ろな瞳で水原一郎を見つめ……
……もし、あなたが私たちを裏切るようなことがあれば
水原一郎は蛇に睨まれた蛙の気分を味わった。
……あとは、分かりますね?
「……勿論だよ」
吹き出した汗を拭いつつ、水原一郎はため息を吐いた。
「夏美お嬢様、申し訳ありません」
少女は高橋夏美の前で腰を下ろすと、まるで子守をする母親のようにその赤髪を優しく撫でた。
「私だって本当は、夏美お嬢様が悲しい目に合うのは見たくないのです。でも、あの人が思い描く希望へ辿り着くためには、こうするほかなかったのです」
その時、高橋夏美の意識が少しだけ覚醒した。
閉じられた瞼が僅かに開き、視線は目の前の少女へ……
「夏美お嬢様、それはいけません。大丈夫です、力を抜いてください……不安なのは分かりますが、あとは全て私たちにお任せください」
高橋夏美の瞳に一瞬だけ少女の顔が映った。
それは夏美にとって見覚えのある、青髪の少女だった。
「…………?」
「安心してください、夏美のお嬢様」
少女の言葉と様子に疑念を抱きかけた夏美だったが、少女はすぐさま彼女の目元に手を当てて視界を塞ぎ、その耳元で囁いた。(ASMR)
「たとえ記憶を失っても、時間が経てば全て元通りになります。そして、あなたの抱いた無念を、私たちは決して忘れません」
「…………」
「だから……その時が来るまで、眠っていてください」
「」
そして、高橋夏美の意識は……
完全に深い眠りの底へと沈んだ。
ーーーーー
その後……
高橋徹の狙い通り、田中内閣は暗殺スキャンダルによって解散に追い込まれた。代わって軍人主導の小磯内閣が誕生し、国会は『新防衛法』を可決、日ノ丸は軍拡路線に踏み出すのだった……
高橋徹の陰謀により、記憶の一部を失う羽目になった高橋夏美だったが、驚異的とも呼べる精神力の賜物か、すぐ学院へ復帰し元の暮らしを取り戻した。
なお、その後ろには相変わらず双子の女の子が、素知らぬ顔で寄り添うようにピッタリとくっついてまわっている。
奉仕部の部長は姿を消したが、それまでの活動が評価され、正式に部活動として学園から認定された。新たな部長と顧問も無事に就任し、これからの活躍が期待されている。
黒いバルバトスとの戦いで自分の不甲斐なさを痛感した佐々木光子は、三日月との約束を果たすためにも強くなることを決意。夏休みを利用して親友の水原梨紗と共にインターンシップに参加する。
(夏イベの時出てこなかったのはそのため)
エリカ教官は先の戦いで精神を病みかけるも、過去から逃げることをやめ、自分自身と戦っていくことを決意した。しかし、生徒にはそんな素振りを見せることなくカウンセラーとしての役割をきっちりと果たしている。
ただ、自分のことを「エリカちゃん」と呼んでくれた生徒がいなくなってしまったこともあり、少しだけ寂しそうでもあった。
五十嵐命美はゆきちゃんと共に風紀委員の仕事を頑張っている。以上
五十嵐「ちょっと! 他に何か書くことがあるんじゃないの!?」
……尚、三日月関連で知り合った小林真希とは、それ以来も度々会うようになり、本編未登場のクルスも含めた3人(と一匹)でちょっとしたグループを作ることになるのだが……それはまた別のお話……
五十嵐「え?」
小林「(こくこく)」
余談だが、三日月の登場により転校生に対する期待値が上がり、この後入学することになる佐伯くんは、周囲からの期待の目もあり、一層苦労する羽目になるのだった。
(その辺りのフォローも完璧です!)
ーーーーー
BGM:『鉄–アイアンブラッドの絆–』
(権利云々がよく分からないので敢えてぼかしています)
数日後……
工作艦ダイダロス(海上)
ダイダロスの甲板へ降り立ったベカスは、そこでお目当ての人物を見つけた。
「お、ここにいたのか」
「……?」
先程からバルバトスを見上げていた三日月は、突然聞こえてきたその声に反応し、サッとベカスの方へと振り返った。
「ベカス? あれ、いつの間に目を覚ましたの?」
「あー……少し前にな、いてて……」
ベカスは腹部に走る鈍痛に悶えながらも、ひょこひょこと三日月の元へ歩み寄った。
当初、ダイダロスへと収容されたベカスは全身傷だらけの血まみれの状態で、脈もなく、体も冷たくなっていたことから死んだものと判断された……のだが、艦内に居合わせた医者が次に確認すると、身体中の傷がいつのまにか塞がっており、顔色も良くなっていたほか、脈も回復し、おまけに体温も平熱の状態まで持ち直しており、血にまみれたその体を拭けば、そこには健康的な成人男性として奇跡の復活を遂げたベカスの姿があった。
これには、ベカスの生存を完全に諦めていた三日月も目を丸くするほどで、その驚きようといえば……持っていたナツメヤシの実が入った袋を床に落とし、その中身を盛大にぶちまけてしまうほどだった。
それからベカスは数日間に渡って眠り続けた
そして、三日月に会う1時間前にはベッドから起き上がり、よろめきながらも艦内を歩けるまでに至った。
「何見てたんだ?」
「んー……ちょっと、バルバトスをね。呼ばれたような気がして」
「そっか」
「ベカスはどうしてここに?」
「ん、オレか? オレは……お前を探すついでに、相棒に会いたくなってな」
そう言ってベカスはバルバトスの隣に鎮座した銀色の巨人を見上げた。それに倣って三日月も、ウァサゴを見上げた。
「お互い……ボロボロだね」
「そうだな……っていうか、どうしてこうなったんだ?」
「え?」
三日月は驚いたようにベカスを見つめた。
「いや……よく分からないけど、ここ最近の記憶がないんだわ。エイルのやつは戦闘で頭を強く打ったのが原因じゃないかって言ってたが……」
「…………」
「お前と一緒に日ノ丸の学園に行ったってことは覚えているが……そもそも傭兵のオレがなんでそんなところに行ったのか……まさか、教官になりに行ったってことじゃないよなー……?」
「……そっか」
そこで、三日月はポケットからナツメヤシの実が入った袋をつまみ上げると、袋からふた粒ほど取り出し、ベカスへと差し出した。
「おっ、サンキューな」
礼を述べつつナツメヤシの実を受け取ったベカスは、それを口の中へ放り込んだ。以前のように顔をしかめないところをみると、どうやらハズレではないようだった。
「ところで、ニックとドールは?」
「ライフル銃の人は多分、下の階でまだ修理を受けてると思う。ショットガンの人は、ずっとそれに付き添ってるよ」
比較的軽傷だったニックに対し、先の戦闘でボディに甚大な被害を受けたドールだったが、ちょうどダイダロスにそれを直すことのできる設備が備わっていたこともあり、応急処置程度ではあるもののドールの修理は順調そのもので、あとは専門機関で修理を受ければすぐにまた戦闘に参加できる……とは、葵博士の談だった。
「そうか、それなら良かった……っていうか三日月……お前、なんだよその変な呼び名は……」
ドールのことをライフルの人、ニックのことをショットガンの人と告げた三日月のネーミングセンスに苦笑しつつ、ふとベカスはあることに気づいた。
「って……そういやお前、いつの間にオレの事『ベカス』って呼ぶようになったんだ?」
「ん……あれ? いつからだろ……?」
ベカスの問いかけに、三日月は少しだけ考えるそぶりを見せ……
「まあ、いっか……どうでも」
「いやいや! どうでもいいって事はないと思うぜ?」
そう答えて呑気にナツメヤシの実を食べる三日月に、ベカスは肩をすくめてみせた。
「……なあ、三日月」
「ん?」
「学園は……楽しかったか?」
「うん。楽しかったよ」
「そっか……まあその、なんだ……もっとあそこにいてもよかったんだぜ? お前はまだ若いし、色々と学ぶべきものも沢山ある……だから……」
「(ため息を吐いて)何回言わせるの?」
「え?」
「俺のいるべき場所は、学園なんかじゃないって……前に……あ……」
「わりぃ三日月……オレ、最近の記憶がねぇんだわ」
「そうだったね……ごめん」
「いや、いい。それで……お前のいるべき場所ってどこなんだ?」
「……やっぱり、何回言わせるの?」
「え?」
「俺のいるべき場所は……オルガの居場所」
「……ああ! そう言えばそうだったな」
「うん。俺は自分のいるべき場所へ辿り着くために、この広い世界でオルガを探す
それが、俺に与えられた役割(ロール)なんじゃないかって……思うんだ
……だから、いつまでも学校にはいられない。俺はまた、オルガを探す旅に出なくちゃならない」
「そうか……まあ、応援してるぜ」
そう言ってベカスはポケットから不味いと評判の甘苦が入ったケースをつまみ上げ、中から一本だけ取り出し口に咥えた。
「ねぇ、それ……俺にも一本ちょうだい」
「え? ああ……別にいいけどね」
突然そんなことを言い出した三日月に驚きつつも、ベカスはケースから甘苦を一本取り出して三日月へと差し出した。
「……やっぱり、美味しくないね」
三日月は甘苦を咥えるとすぐさま顔をしかめた。
しかし、以前のように吐き出すことはなかった。
「三日月……お前、どうしたんだ?」
「臥薪嘗胆(がしんしょうたん)」
「?」
「極東のことわざ、授業で習った。意味は……」
「……復讐を成功するために苦労に耐える」
三日月に代わってベカスが呟く
「そう、それ」
「何だお前……誰か復讐したい奴がいるのか?」
「それもあるけど、今は屈辱を忘れないようにっていう感じかな」
「嘗胆の方か……じゃあ、甘苦は苦い肝の代わりってことか?」
「うん。今日は何とか乗りきったけど、明日は分からない……だから、今日の出来事をこの苦みと一緒に飲み込んで、明日になっても忘れないようにしたいなって思った」
三日月の言葉に、ベカスは少しだけポカンとなり……
「あはははは! 三日月……お前、やっぱり面白いやつだな!」
そこで思いっきり笑ってしまったため、腹部に走る鈍痛が一層酷くなり、ベカスはしばらくの間、痛みに悶絶する羽目になってしまった。
やがて痛みが引いたのか、落ち着いたベカスは少しだけ考えるそぶりを見せ……
「なあ三日月、ナツメヤシの実……もう一つだけくれ! それも、あえてハズレのやつをだな……」
「ハズレを? うん……別にいいけど?」
袋の中から「これだ」と思うものを引き上げた三日月は、それをベカスへと手渡した。
「……2つ欲しいとは言ってないんだが」
「そう? じゃあ返す?」
「いや、折角だしな!」
受け取ったナツメヤシの実を食べて、ベカスはそのあまりの渋さに先ほどとは別の意味で悶絶し、思いっきり顔をしかめた。
「不味いな」
「お互い様だね」
口の中を支配する苦しみに耐えながら、横に並んだ2人は大陸へと続く大海原を眺めた。朝日で海面が紅く染まったその光景は、かつて三日月が見たアフリカの大地……いや、生まれ故郷である火星を彷彿とさせる絶景だった。
「三日月」
ベカスが握り拳を上げる。
「うん」
それに合わせ、三日月も握り拳を上げ……
2機の巨人に見守られながら、
まるで絆を確かめ合うかのように
……コツンと、拳をぶつけ合った
機動戦隊アイアンブラッドサーガ–THE END–
通信記録:2943
(再生開始)
はい、ミドリです
…………ああ……『エイハブ船長』あなたでしたか
…………はい
はい、先日はどうもありがとうございました。
お陰で私の三日月くんも無事なようで……はい、今は海上、葵ちゃんの船に乗ってこちらへと向かっています。
いずれ、あなた様のお役に立てる日が来るかと……
それと、学園に潜入した三日月くんが面白いものを持ち帰ったようです。
なんでも……使用者の意思を……いえ、実際に見てもらった方が早いと思われます。
はい、では……いつかその時にでも
…………はい
はい、その件に関しては問題はないと思われます。
彼らが……彼らの内側に潜む『モービィ・ディック』の因子に気づくことはないでしょう。はい、そもそも疑いの芽すら出てきていません。
…………はい
誰も、あの双子が……あなた様が高橋家へと送り込んだ間者、いえ、スパイであることに気づくことはないでしょう。
一つ、問題があるとすれば……水原博士の存在くらいです。仕方がないとはいえ、彼は双子の正体を知ってしまいました。
手綱は……しっかりと握っておくべきかと
…………え? それに関しては問題ない?
そうですか……ふふっ、流石です!
…………はい、こちらも引き続き準備を行っています
あなた様の目指す、希望……
オペレーション『アイアンブラッド』の為に……
それでは……また……
…………指揮官様
通信記録:2943
(削除済み)
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境界戦機もっと流行れ
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鉄血・ブレットもっと流行れ
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水星の魔女×鉄血のオルフェンズ?
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あと、アイサガのエンディングも作ります