機動戦隊アイアンブラッドサーガー悪魔と少女と機甲ー   作:野生のムジナは語彙力がない

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というわけで外伝です。
お待たせいたしました。……と言っても、まだ前編だけなのですが……

本作はアイアンサーガ外伝『三流傭兵の鎮魂歌』の改造版です。三日月が加わったことにより、一体どのような物語が展開されるのか……お楽しみください!

ああ、そうそう。前々回の設定集でチラッと「ゆみちゃんプレイアブル化する説」って言ったのですが……まさか本当にやるとは……まあ、パイロットの卵って言ってる時点で何となく察しはついてましたが、でもユメノシオリは想定外だったりします。

それでは、ゆっくりしていってください




外伝1ー1:因縁

 

機動戦隊アイアンブラッドサーガ

外伝1ー1「因縁」

 

 

 

 

 

日ノ丸脱出から約1ヶ月後……

OATHカンパニー特別演習場

 

雲ひとつない青空の下、荒野の大地に佇むその白い巨人はまるで死んでいるかのように身じろぎ一つぜず、ただジッとその時を待っていた。

 

巨人は巨人と呼ぶだけあり、人の形をしてはいた。しかしながら、その背中から生えた6機の突起物はさながら巨大な翼のようであり、その白い装甲と相まってまるで巨大な天使が地上に降り立ったかのような神聖さがあった。

 

しかし、人はこの巨人のことを口を揃えてこう呼んだ。

 

白い悪魔……と

 

『三日月く〜ん』

 

突然、それまで荒野を支配していた静寂を打ち破るかのように、通信機からのほほんとした女性の声が響き渡った。

 

「…………」

 

そして、悪魔の中でそれは目覚めた。

 

少年の覚醒に呼応するかのように、悪魔の両目が鋭いモスグリーンの輝きを放ち、さらに背中の翼から赤い粒子が放出される。

 

『それでは三日月くん、お願いしますね〜』

 

「わかった」

 

その少年……三日月は通信機から響き渡ったミドリの声に頷き、空を見上げた。

 

「アレか」

 

上空にはブーメランのような形をした薄っぺらい飛行機が無数に存在していた。どれも灰色で、コックピットや武装の類は一切見当たらない。

 

「……」

 

三日月はそれら全てを視界に収めるように意識を集中させ……

 

「行け!」

 

次の瞬間、目先に火花を散らすと……それに反応した翼のような突起物が次々と悪魔の背中から射出され、上空を行き交う飛行機めがけて飛翔して行った。

 

「当たれ!」

 

再び三日月が目先に火花を散らすと、放出されたドローン砲たちはそれぞれ意思を持っているかのように各々飛行機を追跡し、あっという間に射程圏内に迫ると、その先端から赤い光線を照射した。

 

小さな爆発音と共に、快晴の空に無数の光球が生まれる。

 

『……3、7、12』

 

オペレーターのミドリが撃墜数のカウントを始める。

 

仲間を撃墜されたことに気づいた飛行機たちは、先ほどよりも機敏な動きで逃げ惑うかのように飛びまわるも、悪魔の翼からは逃れることはできなかった。

 

『25……32……40……』

 

常人の動体視力では捉える事すら困難な機動力と触れるもの全てを消し去る圧倒的な火力の前に、飛行機たちはあっという間にその数を減らし、そしてついに最後の一機が撃墜された。

 

『……50! 全機撃墜です!』

 

「あれ? もう終わり?」

 

通信機から放たれたミドリの歓声を聞き、三日月はそう呟いて小さく息を吐いた。

上空からバラバラと、標的用ドローンの残骸が降ってきた。

 

『三日月くん、お疲れさまでした。巧みなドローン砲さばき、すっごくかっこよかったですよ〜」

 

「うん、これも全部ミドリちゃんのお陰だよ。こうやって毎日特訓に付き合ってくれたから、俺もようやくこれの使い方に慣れてきた」

 

ドローン砲を背中に収めつつ、三日月は通信機越しにミドリへと微笑みかけた。

 

『ふふっ、いいんですよ〜♪ 三日月くんの頼みなら、ミドリちゃんはなんでも受け入れてあげますからぁ、だからなんでも言ってくださいね〜♡』

 

デレデレとした言葉を口走るミドリに対し、三日月の意識は別のところに向いていた。

 

「ミドリちゃん」

 

『はーい、何ですかー?』

 

「テッサたちのところはいいの?」

 

『……あ、そうでした〜』

 

三日月に指摘され、ミドリは苦笑いしつつも小さく咳をして口調を変えた。オペレーターであるミドリの声は小隊全体へと共有され、三日月だけではなく他の人にも聴こえていた。

 

『それでは……テッサさん、アイルーちゃん、テストを開始してください』

 

三日月は隣の射撃演習場へと目をやった。

射撃演習場と言っても、BM用であるためそこにはカウンターや屋根の一つすらなく、ただ広い荒野に複数の的が配置されているだけだった。

 

的に向かうようにして、2機のバルキリーが直列に並んでいる。それは赤と青のバルキリーだった。前方の赤いバルキリーは両腕に新型のライフルを持ち、後方の青いバルキリーはバックパックに大型のバッテリーパックを搭載していた。

 

バルキリーには、それぞれ1人の少女が搭乗しており、そして2人の血は繋がっていた。

 

『テッサさん、そのライフルはまだ試作段階のものです。一応、こちらでも綿密なテストを行ってはいますが、何か異常があればすぐに使用を中断してくださいね』

 

『はい』

 

通信機からテッサの声が放たれた。

 

『ヴァリアブルバスターライフル、連結します』

 

姉妹のうち、赤いバルキリーに乗る大人びた雰囲気の姉……テッサはそう告げて両腕のライフルを連結させた。二丁のライフルが一つとなり、二つの砲門を持つ巨大な主砲になった。

 

バルキリーに搭載された新兵器、『ヴァリアブルバスターライフル』は巨大なライフル銃で、その名の通り連射、単発、照射など様々な射撃携帯への変形が可能で、さらに二丁のライフルを組み合わせることによって『超高インパルス砲』形態への変形も可能となっていた。

また、ライフルのバレル下には近接戦闘用のバヨネットが搭載されており、不意の格闘戦にも対応することができるようになっている。

 

『エネルギー……チャージ開始』

 

ライフルのバレル周囲にスパークが走り、その砲門に光が収束する。

 

『はい。それではアイルーちゃん、クロッシングをお願いします』

 

まだ幼さを秘めた妹……アイルーの乗る青いバルキリーには『クロッシング』という新システムが搭載されていた。本来であればパイロットの能力は搭乗している機体にしか反映されないのだが、このシステムが導入された機体であれば、パイロットの能力を自機だけではなく他の機体へと移植するということができる。

 

『エネルギー供給はしなくていいなの?』

 

『はい。今回は50%の照射でいきたいと思います』

 

『わかったなの〜』

 

テッサの後ろに控えていたアイルーは、青いバルキリーを操ってバックパックに搭載されているバッテリーからエネルギー供給用のケーブルを引き出すと、それを赤いバルキリーへ接続した。

 

『接続完了なの!』

 

『はい。クロッシング開始……アイルーちゃんのクリティカルバーストをテッサさんのバルキリーへと移植……完了』

 

前後に並ぶ赤と青のバルキリーの瞳が、同時に強い輝きを放った。

 

『テッサさん、トリガーをお願いします』

 

『はい……ヴァリアブルバスターライフル、出力50%…………発射!』

 

テッサはトリガーをひいた。

 

『!!!』

 

すると、主砲の先端から莫大な光が放たれた。

 

砲門から我先にと飛び出していく赤い光。それはさながら、せき止められていた水が蛇口から溢れ出すかのようだった。

 

『くっ……!』

 

テッサは視界を埋め尽くす量の光を吐き出し続けるライフルを制御するだけで精一杯だった。バルキリーの体がグラリと揺れる。

 

『お姉ちゃん!』

 

慌ててアイルーがテッサの機体を支えに入る。

それによってテッサはなんとか射撃姿勢を保つことができた。

 

種明かしをすると、その光はアイルーの能力(バーストショット)により5つに分裂した光線の束なのだが、その光線一つ一つがあまりにも巨大で、それらが束になったことにより、まるで巨大なプロミネンスが生まれたかのようだった。

 

演習場は太陽が放つそれにも匹敵する、圧倒的な光の暴力に包まれ、衝撃は荒野を抉り、熱は大地を液状化させ、的(ターゲット)は跡形もなく焼失した。

 

「おー……」

 

隣の演習場からそれを見ていた三日月は、かつて火星で見たモビルアーマー『ハシュマル』が放ったビームをも超えるその威力を目の当たりにして、思わず感嘆の声を放った。

 

やがてエネルギーを使い果たしたのか、ライフルから放たれる光が収まると、2機のバルキリーは力を使い果たしたかのように後ろ向きに倒れた。

 

『…………凄い』

 

『こ……これで出力50%……なの?』

 

倒れた2人は呆然とした様子で演習場を見渡した。

凄惨な現場と化した演習場。地面は大きく削れ、液状化した地面はマグマのように赤く染まり、黒々とした大地が広がっていた。

 

『2人とも、無事ですか?』

 

倒れたテッサとアイルーの前に、ミドリの乗る垂直離着陸型輸送機が上空から飛来する。

 

『はい。私たちは何とか……でも……』

 

テッサはバルキリーを立ち上がらせようと操縦桿を捻るも、バルキリーの反応は鈍い。

 

『あら? 射撃の影響で操縦系統に支障が出たみたいですね。このままバルキリーに搭載するのは無理がある……バルキリー本体の改良が必要……と』

 

ミドリは輸送機を着陸させつつ、バルキリーの状況をレポートした。

 

『……動いてよ』

 

テッサは何とかバルキリーを動かそうとするも、しかしバルキリーの出力は上がらない。あまりの威力に、まるで腰を抜かしてしまったかのようだった。

 

『…………?』

 

その時、テッサはふと機体の前に影が差し込んできたのを感じ取り、顔を上げた。

 

「…………」

 

そこには、バルバトスの姿があった。

穏やかな色のツインアイでテッサを見下ろし、右腕を差し出している。

 

「三日月さん……ありがとうございます」

 

テッサはスピーカーを用いて三日月の声に応答し、それから融通が効かない腕で差し出された腕を何とか掴んだ。

 

「よっ……と」

 

三日月は腕を引き上げテッサを起こし、続いてアイルーの乗るバルキリーを起こしにかかった。

 

「お兄ちゃん、ありがとうなの!」

 

「うん」

 

2人が本当に無事なのを確かめてから、三日月はミドリの乗る輸送機へと視線を送った。

 

「ミドリちゃん、2人の仕事はこれで終わり?」

 

『はい、バルキリーの新型装備とクロッシングのテストは終了です。三日月くん、申し訳ないのですが、輸送機まで2人のことをお願いします』

 

『うん、分かった』

 

三日月は2機のバルキリーを支えるようにしながら輸送機へと向かった。輸送機の前にたどり着くと、三日月は慣れた手つきでバルキリーを輸送機のハンガーへと納め、それからバルバトスを輸送機の中へ潜り込ませた。

 

『3人とも、お疲れ様でした』

 

輸送機の中にミドリの声が響き渡る。

 

「うん、お疲れ様」

 

バルバトスとの繋がりを解除し、三日月はコックピットを開けて輸送機の格納庫へと降り立った。

 

「三日月さん」

 

小さく息をついてミドリの所へと向かおうとした三日月だったが、そこで同じく格納庫へと降り立ったテッサに呼び止められる。

 

「テッサ? どうしたの?」

 

「三日月さん……ちょっと、お願いしたいことがあって……あっ!」

 

ゆっくりと三日月へ近づこうとするテッサだったが、輸送機が離陸した衝撃によりバランスを崩し、前のめりになってよろめいてしまう。

 

「……大丈夫?」

 

三日月は反射的にテッサの肩を掴み、華奢なその体を優しく抱き止めた。意図せずして2人の顔が近くなる。

 

「あ……ありがとうございます……」

 

三日月に支えられ、彼の腕の中で呆然と目を見合わせていたテッサだったが、急に今の自分が恥ずかしくなってしまったのか、顔を真っ赤に染めて三日月から離れた。

 

「ごめんなさい……」

 

「……別に」

 

テッサは赤く染まった顔を見られたくないのか、三日月に背を向けた。

 

『ごめんなさい、少し揺らしてしまいました!』

 

格納庫のスピーカーからミドリの慌てたような声が響き渡った。

 

『皆さん、お怪我などはありませんか?』

 

「大丈夫、誰も怪我してないと思うから」

 

三日月は背を向けるテッサと今まさにバルキリーから降りてくるアイルーを見て、2人の無事を確認した後、声を張り上げて自分たちの無事を伝えた。

 

「るる〜! お姉ちゃん! お兄ちゃん! お疲れ様なの〜」

 

格納庫へと降り立ったアイルーが嬉しそうに2人の元へ駆け寄ってくる。そして、三日月とテッサの間に流れる妙な雰囲気を感じ取ったのか、疑問符を浮かべた。

 

「お姉ちゃん? 大丈夫なの?」

 

「アイルー……うん、大丈夫だよ」

 

「でも顔が赤いなの! お日様みたいに真っ赤っかなの」

 

「あ……アイルー!?」

 

自分が必死になって隠そうとしていることを、妹にあっさりと見抜かれてしまい、テッサはさらに顔が熱くなるのを感じた。

 

「るる……お兄ちゃん、お姉ちゃんどうしちゃったなの?」

 

「……疲れてるんでしょ」

 

三日月はそう言ってポケットからナツメヤシの実が入った袋を引き出すと、そこから二粒取り出してアイルーへと差し出した。

 

「お兄ちゃん、くれるなの?」

 

「うん」

 

「じゃあ、あーんして欲しいなのー」

 

「別にいいよ」

 

「!?」

 

テッサが三日月とアイルーのやり取りに気づいて振り返った時には既に遅く、アイルーは三日月の指に口づけするような形でナツメヤシの実を口に入れた。

 

「るる〜〜甘くて美味し〜なの〜♪」

 

幸せそうにナツメヤシの実を頬張るアイルー

 

「…………ッッッ」

 

そんな妹を見て、テッサは顔を引きつらせた。

 

「テッサ」

 

「は……はいっ!」

 

テッサが振り返ると、三日月の手にはまだナツメヤシの実が残っていた。それを見て、テッサは少しだけ期待に胸を膨らませた。

 

……が、次の瞬間、三日月が残ったナツメヤシの実を口にしてしまったので、テッサはそれを呆然と見送ることしかできなかった。

 

「それで、お願いって何?」

 

「…………あ」

 

三日月の言葉に我に帰ったテッサは、何かの未練を断ち切るかのように首を小さく横に振ると、強い覚悟を秘めた視線で三日月を見つめ……

 

「三日月さん、この後……少しだけ戦闘シミュレーションに付き合ってもらえませんか?」

 

「……いいよ」

 

三日月の言葉に、テッサの顔がパアッと明るくなる。

 

「あ……ありがとうございます!」

 

「うん、それじゃあ行こうか」

 

三日月とテッサが輸送機のシミュレーションルームへと向かおうとした時だった。

 

「ちょっと待ってください」

 

格納庫に2人を呼び止める者が現れた。

 

「ミドリちゃん?」

 

その人物……OATHカンパニーの社長代理であり三日月の保護者役を務める大人の女性、ミドリは三日月たちの行く手を阻むかのように格納庫の入口に姿を現した。

 

「テッサさん。気持ちは分からなくもないですが、あなたの自主練を含めた連続活動時間は既に30時間を超えています」

 

その言葉に、テッサはびくりと震えた。

 

「……知ってたんですか」

 

「一応、社長代理ですので。我が社で働く人のことを気にかけるのは当然のことですから、それが三日月くんのお友達ならば尚更のことです」

 

ミドリはテッサの元へゆっくりと近づき、その肩に触れた。

 

「テッサさん、せめて基地に着くまでの間お休みになってください。あの時から……全然眠ってないんでしょう?」

 

「眠れないんです……今、こうしている間にも時間はどんどんなくなっているんです。そう考えると、眠れなくて……」

 

「なら我が社のカウンセラーを……」

 

「お医者さんは……いりません。私は、大丈夫です」

 

「ですが……」

 

「ミドリちゃん……もういいよ」

 

見かねた三日月が2人の間に割って入る。

 

「今は、テッサの好きにやらせてあげて」

 

「三日月くん……でも……」

 

「大丈夫、テッサのことは俺が見てるから」

 

「……そうですか」

 

そこでミドリは小さくため息を吐き

 

「三日月くんが見ているのなら安心ですね」

 

そう言ってニッコリと笑った。

 

「でも、あまり無理はしないでくださいね? もし……あなたが倒れたりでもしたら、私も、三日月くんも、アイルーちゃんも、みんなが悲しんでしまいますから」

 

「は……はい! 気をつけますっ!」

 

テッサは畏まった様子でミドリへと頭を下げ、それから心配そうな眼差しを浮かべているアイルーへと目をやり……

 

「アイルー、これから三日月さんと訓練してくるから、その間ミドリさんに迷惑をかけないようにしてね」

 

「…………分かったなの」

 

何か言いたげな様子でそう返事をするアイルー。しかし、テッサは妹のそんな様子に気づくことなく格納庫の入口へと向かう。

 

「三日月さん、先に行ってるね!」

 

そんな言葉を残し、テッサは格納庫から去るのだった。

 

「……お姉ちゃん、最近忙しそうなの」

 

そう言って、アイルーは2人へと振り返った。

 

「三日月お兄ちゃん、ミドリお姉ちゃん。アイルーに何かできることはないなの? アイルー、お姉ちゃんのお手伝いをしてあげたいなの……」

 

「アイルーちゃん……いえ、大丈夫ですよ」

 

そう言ってミドリはアイルーを優しく抱きしめた。

 

「寂しいですね」

 

「うん、寂しいなの……」

 

ミドリはアイルーを抱きしめながら三日月へと視線を送った。

 

「…………」

 

その視線に応えるかのように、三日月は小さく頷いた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

ことの始まりはOATHカンパニーでの一悶着だった。

 

遡ること数日前……

 

OATHカンパニー本社

作戦ルーム

 

「あの……ミドリさん、これ頼まれてた資料です」

 

その日、ミドリから仕事を任されていたテッサは作成した資料をミドリへと手渡すべく、OATHカンパニーの作戦ルームに足を運んでいた。

 

「ありがとうございます」

 

資料を受け取ったミドリはそれをパラパラとめくって、その内容をざっと確認すると、満足げな様子でテッサへと微笑みかけた。

 

「うん、よくできていますね」

 

「本当ですか?」

 

「はい。やっぱりお若い人は仕事覚えが早くていいですね!」

 

「そんな……ミドリさんだって十分若いですよ?」

 

「あらあら、お上手ですこと」

 

フワフワとした笑みを浮かべるミドリ、それにつられてテッサも小さく笑った。

 

「それじゃあ、私はこれで……」

 

「はい、お疲れ様でした」

 

最後にそんな言葉を交わし、テッサはミドリの元から立ち去った。特にやることもなかったので、作戦ルームから抜け出し、そのまま通路へと出た時……

 

「それで、奴はどこに?」

 

「いや、居場所の特定まではできてねぇ……」

 

通路の影に二人組の男を見かけた。一人は銀髪の男で黒いコートを着こなし、腰に刀を吊り下げている。もう一人は金髪の男で、粗野な外見にもかかわらず長い髪の毛を女性のように後ろで結んでいる。

 

テッサはこの二人のことを知っていた。

OATHカンパニー所属のユニット『アンデット小隊』のベカスとカルシェン……傭兵に対して強い恨みを抱く彼女にとって、彼らは毛嫌いの対象であり本来であれば気にも留めない存在なのだが、彼らだけは違っていた。

 

というのも、この内のベカスという銀髪の男は、彼女が付き従う少年……三日月とどういうわけか仲が良く、テッサ自身、よく2人が一緒にいる場面を目撃していた。

 

おまけに、男同士であるにも関わらず2人の距離がやけに近かったため、2人が協力して何かをやっている場面を見ていると、その度にテッサは形容しがたいモヤモヤとした気分を味わうことになるのだった。

 

そして、もう一つ……テッサが彼らを気にする理由があった。

 

それは、彼らの所属するアンデット小隊の部隊長……フリーズにあった。OATHカンパニーでもまれな女性隊長であるフリーズはとても女性が発してはならない下品な言葉と態度で自分の部下2人をこき使う乱暴な女性だったのだが、それでいて確かな実力と思いやりのある、優秀な人物だった。

そんなフリーズの姿は、今は亡きテッサの母親に似ていた。また、態度だけではなく目つきや体格、雰囲気すらそっくりだった。

 

そのため、一時期はそんなフリーズの面影を自分の母親と重ね合わせかけていたテッサだったが、言うまでもなくフリーズとテッサの母親は違う。

 

自分の母親は1人しかいない、フリーズのことを母親に見立てるのは、身勝手な現実逃避に過ぎない……ふと、そのことに気づいたテッサはそれ以来フリーズのことを見ないようにしていた。

 

「そうか……で、奴の本当の上司は?」

 

「まだ情報の裏どりは不十分だが、俺はイブン王国のサマン親王が怪しいと睨んでいる……俺の友達も同意見だった」

 

何やら真剣に話し込む2人の様子がチラリと気になったものの、傭兵が考えることなのだからどうせロクなものではないと判断したテッサは、いつもの様に2人の脇を通り抜けようと足を早めた

 

「そうか……やはりな」

 

「なんだ、知ってたのか?」

 

「まあ、なんとなくな……」

 

会話に夢中になっているのか、2人はテッサの存在に気づかない。そうしている間にも、テッサは傍を通り抜けて通路の奥へと突き進む。

 

「……イーサ」

その時、ベカスは思わずその名前を呟いた。

 

……いや、呟いてしまった。

 

「!!!」

それは蚊の鳴くような小さな呟きだった……にも関わらず、それはテッサの耳に入り、その言葉は彼女の脳を侵食し、心を震わせた。

 

瞳孔が開き、心臓が高鳴り、体が硬直する。

 

「ん? 誰だそれ」

 

「いや……なんでもない」

 

「ふっ……女か」

 

「だから、なんでもないって……」

 

茶化すカルシェンをベカスが軽くあしらった時だった。

 

 

 

「なぜその名前を知っている!!!」

 

 

 

「!?」

背後から響き渡った突然の大声に、傭兵2人はびくりと体を震わせた。恐る恐る振り返った2人が見たのは、拳を握りしめ怒りの形相を露わにしたテッサの姿だった。

 

「うわっ……誰だお前!?」

 

「お前は、三日月の……」

 

テッサのことを知らないカルシェンに対し、ベカスは目の前のテッサのことを見知っていた。最も、いつも三日月に付きまとっている友達……程度の認識しかなかったのだが

 

「今、誰かの名前を言ったでしょ! なぜその名前を知っているの!?」

 

「……」

 

「答えろ!」

 

少女の叫びに圧倒され、ベカスは思わずカルシェンと目を見合わせた。カルシェンはいかにも気まずいというような顔をして顎をしゃくり上げた。

 

「…………」

 

ベカスは小さく息を吐いた。

 

「……昔、オレのことを助けてくれたからだ」

 

「それって……いつの話」

 

「……歴史的な虐殺が行われる、数日前」

 

「それって……サラ大虐殺のこと?」

 

テッサの言葉に、ベカスはハッとなった。

 

「お前……まさかあの事件の……?」

 

「私は、サラの孤児だ!」

 

その瞬間、ベカスは激しく驚愕した。彼の中で過去の記憶が鮮明に蘇り、バラバラだったパズルのピースが組み合わさっていくように、そしてベカスは頭の中である結論を導き出した。

 

自分の目の前に立つこの少女……彼女は、サラで自分を助けてくれた女性……イーサの、娘であるということを……

 

「そうか……じゃあ、あんたにはオレを殺す権利がある」

 

「…………!!!」

 

その言葉で、テッサは全てを察した。それは結論から言うと早とちりなのだが、今のテッサには冷静な思考をする余裕がなかった。

 

 

 

「そうか……お前がッッッ!!!」

 

 

 

テッサは腰のホルスターから拳銃を引き抜くと、その銃口をベカスへと向けた。

 

「お……おい!?」

 

テッサの凶行に、カルシェンが絶叫する

だが、テッサは止まらない

 

「…………ッッッ!!」

 

怒りにかられたテッサにより、今まさにトリガーが引かれようとしたその時……テッサの背後から忍び寄る小さな影があった。

 

それにいち早く気づいたテッサは即座に反転し、近づくなと言う意味を込めて忍び寄る人物へと銃口を向けようとした。

 

「……あっ!?」

 

だが、テッサが振り返った時には影は既に至近距離にまで迫っていた。そのままあっさりと拳銃を奪われ、テッサはバランスを失って地面へと尻餅をついた。

 

「テッサ」

 

「……三日月さん……?!」

 

テッサが見上げると、そこには三日月の姿があった。奪った拳銃を手の中でいじり回し、あっという間に解体していく。

 

「三日月さん……どうして、そいつは……ッッッ」

 

「テッサ……それは、ダメだ」

 

解体した拳銃をポケットに押し込み、三日月は続いてベカスに目をやった。

 

「ごめん、ベカス」

 

「いや、いい」

 

ベカスは淡々と三日月を見返し……

 

「三日月……これは柔道の一種か?」

 

「ううん、CQCって……学園で習った」

 

「そうか」

 

「三日月さん!!」

 

三日月の後ろでテッサが叫ぶ。

 

「なんで邪魔するんですか! そいつは、その男はッッッ、私からお母さんと村を奪った傭兵なんですよッッッ」

 

「……テッサ、落ち着いて」

 

怒りに震えるテッサに対し、三日月は冷静だった。偶然通りかかった彼は、2人のやりとりに聞き耳を立て、客観的な立場から大体の事情を察し、そして話の流れの不自然さに気づいていた。

 

「ベカス、ちゃんと話して」

 

「……ああ」

 

そうして、ベカスはことのあらましを語り始めた。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

ベカスの話を要約すると、こうだった。

 

 

 

6年前のババラール連盟のとある場所……

ベカスが駆け出しの傭兵だった頃……

テッサとアイルーがまだ10にも満たない年齢だった頃……

 

当時、傭兵として『イブン解放戦線』に加わっていたベカスは、『イブン王国』への反抗作戦に参加する事で日々の糧を得る生活を送っていた。

 

イブン王国軍との激戦の末、ベカスのいた部隊はサラの村へ移動し、そこで傷ついた機体の整備と休息を行うと共に、サラの民兵たちへ解放戦線への参加を交渉していた。

 

サラでの滞在中、ベカスは後にテッサとアイルーの母親だと発覚するイーサと出会った。ベカスと気が合ったイーサは好意からベカス機体の整備を手伝い、さらには寝床まで提供した。

 

因みに、まだ幼かった姉妹は別の町の学校へ行っており、この時点でベカスと姉妹の面識はなかった。

 

だが、ベカスがサラに入って数日が経過した時だった。

 

サラがイブン解放戦線への参加を拒否したことを機に、部隊の指揮官である『アブド』は部隊に参加しているベカスも含めた傭兵たちに向けてこう告げた。

 

「王国軍になりすまして、ここの人間を全員殺せ」

……と

 

傭兵を使って王国軍による犯行に見せかけ、解放戦線への参加を渋る他の部族たちの腹をくくらせようとしたのだ。

つまり、王国軍を打倒するだけの戦力を確保する為に、サラを生贄にしようとしたのだ。

 

ベカスはこれに抗い、重傷を負いながらもイーサと共に村を守るべく遁走した。だが、圧倒的な戦力差を前に撤退を余儀なくされた。

 

その最中、ベカスへ追撃の手が伸びることを危惧したイーサは、殿となって敵を食い止めることに成功するも、敵の集中攻撃を受け壮絶な最期を遂げた。

 

ベカスの知る限りでは、これが後に『サラ大虐殺』と呼ばれる事件の全貌であった。

 

この事件の後、生き残ったベカスは虐殺の首謀者を明らかにするべく様々な調査機関を転々とし、一方、傭兵によって全てを失ったテッサはこれ以降、傭兵に対して強い憎悪の心を抱き、妹と共に傭兵専門の賞金ハンターとして活動することになった。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「そんな……」

 

ベカスの口から語られたサラ大虐殺の真相に、テッサはうつむいたまま呆然とした。

 

「……君は、お母さんと同じ目をしている。とても美しい目だ」

 

「私のお母さんは……あんたを救うために死んだの?」

 

「そうだ」

 

淡々と肯定するベカス

テッサは歯を食いしばり、怒りを露わにした。

 

「なぜ! あの時、あんたが死ななかったのよ!」

 

「オレもずっとそう思っている。なぜあの時、オレは死ななかったのかって……」

 

「だったら……」

 

そこで、全身を震わせるテッサの言葉を遮るかのように横からサッと横槍が入る。それは先程から黙って聞くことに専念していた三日月の手だった。

 

「ベカスは、村を守ろうとしたんだよね」

 

「ああ、そうだ」

 

「ベカスはテッサの敵?」

 

「……いや、それは違う」

 

「この事件の首謀者を追っているんだよね?」

 

「ああ。まだ断定はできないが、かなり近いところまで来ていると思う」

 

「そっか」

 

ベカスの言葉を聞き、三日月はテッサへと振り返った。

 

「テッサ……ベカスは仲間、敵じゃない」

 

「なっ?!」

 

三日月の言葉に、テッサは驚愕する。

 

「三日月さん! なんでそんな奴の言うことを信じるんですか! 傭兵の言うことなんて信じられない、そいつが嘘を吐いている可能性だって……」

 

「ベカスはそんな卑怯な嘘をつくようなやつじゃない」

 

「なんで、そう言い切れるの……?」

 

「ベカスは俺の仲間だから」

 

三日月の答えは単純明快だった。

テッサは言葉を失う。

 

「それに……今、ベカスに怒るのは間違っていると思う。テッサが本当に怒るべき相手は……テッサのお母さんの仇は、もっと他にいる。そうでしょ?」

 

そこで三日月はベカスへと振り返った。

ベカスが小さく頷いたのを見て、再びテッサを見つめる。

 

「今、ベカスを殺してもあんまり意味はない。根っこの部分を断たないと、ダメだと思う」

 

「……!」

 

その言葉は、いつか三日月がテッサに言った言葉だった。

 

「テッサは、どうしたい?」

 

「私は……お母さんの、仇を討ちたい」

 

「そっか」

 

テッサの瞳に強いものを感じた三日月は、それ以降何を言うでもなくベカスへと視線を送った。その視線の意図に気づいたテッサは、ベカスへと向き直り……

 

「ずっと調査を続けているのよね?」

 

「ああ」

 

「じゃあ、私も仲間に入れてよ」

 

「それは……」

 

「私は傭兵たちに虐殺を指示したアブドと、その背後にいる首謀者に、復讐したいの!」

 

「復讐は……自分が虚しくなるだけだ」

 

「お母さんの仇が取れるなら、私は地獄に落ちたって構わない!」

 

その言葉に、2人の傭兵はピクリと反応した。

 

「いいだろう。だが……」

 

そこでベカスはチラリと三日月の方を見て……

「三日月。お前さんから見て、彼女は強いか?」

 

「ううん、弱い」

 

「な!?」

 

ベカスの問いに、三日月がきっぱりとそう答えたことにテッサは驚愕した。テッサは自分が弱いことは薄々実感してはいたが、尊敬する人からこうもハッキリと言われると、精神的にキツイものを感じたのか、目に見えて落ち込んでしまう。

 

「じゃあ、強くなってからだな。そうじゃなきゃ仲間には入れねぇ」

 

真面目な顔でそう告げて、ベカスはカルシェンと共にその場から去って行った。

「待ってよ……!」

地面に膝をついたテッサは手を伸ばして必至に2人を呼び止めるが、結局……2人が振り返ることはなかった。

 

「今のテッサは弱いよ。だから、仇討ちに行ってもただやられるだけ」

 

現実的な三日月の言葉に、テッサは目頭に熱いものを感じた。

 

「そんなの……やってみないと分からないじゃないですか……」

 

目に涙を浮かべて、テッサは弱々しくそう呟いた。

 

「そう、やってみないと分からない」

 

「……え?」

 

テッサが涙で溢れる目を上げると、目の前には三日月の姿。彼はいつもの淡々としたような表情で、膝をつくテッサへと手を差し伸べていた。

 

「俺が言った弱いっていうのは、あくまでもテッサの……パイロットとしての腕前のこと。だけど、もっと強いものをテッサは持っているってことを、俺は知ってる」

 

「三日月さん……それって……」

 

「弱いなら、強くなればいい」

 

三日月の言葉と強い視線に、テッサは心の底から衝撃を覚えた。それは、今まで悩みの種だった足枷から解放される……そんな感覚にも似ていた。

 

「なんだ……簡単だね」

 

テッサは小さく笑って涙を拭うと、差し出された手に向けて、精一杯、自分の腕を伸ばした。

 

「三日月さん。私を……強くしてください!」

 

やがて、テッサの指先が三日月の指に触れる。

 

「強くなれるんだったら、私、なんだってやります!」

 

 

…………だから!

 

 

「いいよ」

 

テッサの手を掴み、三日月は彼女を力強く引き上げた。

それはかつて悪魔と呼ばれた少年による、1人の少女への『救い』だった

 

 

 

そうして、その日からテッサの戦いが始まった。

 

 

 

復讐を誓った少女が、

復讐の戦乙女になるまで……あと数日……

 

 

 

to be continued...

 

 

 

 

 




なんか合体技がどうとか言ってましたが、やるんだったら冒頭のバルキリーみたいな感じになるんですかね? 期待大です!

次回『束の間の休息』(仮)
年内には書き切れるよう頑張ります

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  • 境界戦機もっと流行れ
  • 鉄血・ブレットもっと流行れ
  • 水星の魔女×鉄血のオルフェンズ?
  • あと、アイサガのエンディングも作ります
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