機動戦隊アイアンブラッドサーガー悪魔と少女と機甲ー   作:野生のムジナは語彙力がない

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別件で変なもの作ってたのも影響してから、すごい時間がかかりました。
なるほど、これが難産というやつですか……最も、これからも難産は続きそうですが……

それでは、続きをどうぞ





外伝1ー2:束の間の休息

ベカスの口から語られたサラ大虐殺の真実を知ったテッサが、三日月と共に訓練に明け暮れる日々を送り始めてから2週間後……

 

OATHカンパニー模擬戦場

 

上空は天を覆い尽くさんばかりの雨雲が広がっていた。それは太陽の光を遮り、まだ午前中であるにもかかわらずまるで夜の闇がすっぽりと戦場を包み込んでいるかのようだった。

 

「……さて」

 

輸送機のモニター室から模擬戦場の様子を一望し、模擬戦の準備が整ったことを確認したミドリは、通信用のヘッドフォンを頭に装着した。

 

『三日月くん、テッサさん、準備はよろしいですか?』

 

ヘッドフォンから伸びたマイクへと声を吹き込み、輸送機から数百メートルほど離れた位置にいる2機のバルキリーへと呼びかけた。

 

互いに離れた位置にいるバルキリー、その間には巨大な渓谷がまるで迷宮のように広がっており、期待に搭載されたナビゲーションがなければ迷ってしまうほど入り組んだ地形をしていた。

 

『はい、いつでも構いません!』

 

赤い装甲が特徴的なそのBM……バルキリーAのパイロットであるテッサは、ミドリの言葉に反応し鋭くそう言い放った。

 

ヴァルハラ製、俊敏性に特化したBM……バルキリーA

だが今回、その武装は少しだけ変わっていた。

 

バルキリーAの両手には通常兵装であるビームライフルの代わりにそれぞれハンドガンが一丁ずつ握られている。弾丸は実弾ではなく、模擬戦用のペイント弾を内蔵していた。

 

『こっちもいいよ』

 

テッサから遅れること数秒後、機体の起動に成功した三日月がそう言い放った。

 

『三日月くん、バルキリーの調子はどうですか?』

 

『……バルバトス程じゃないけど、まあいいと思う』

 

そう言って三日月は、搭乗している白いバルキリーをまるで自分の体をチェックするかのように、両腕、胴体、腰部、両足と……メインカメラでしきりに見回した。

 

三日月の乗る機体……バルキリーSはバルキリーシリーズのフラグシップモデルとして再設計された機体で、防御や素早さなどパイロットの生存性に繋がる面で特化したそれまでのバルキリーとは違い、より攻撃的なバルキリーとして生まれ変わった機体だった。

 

本来の機体カラーは灰色なのだが、三日月の乗るバルキリーSは彼のために特殊な改造が施されており、通常型のそれと区別するために全身に白い塗装が施されていた。

 

というのも、本機はOATHカンパニーが1年以上もかけてようやく解析(一部)に成功したバルバトスの阿頼耶識システムのデータを……コピーした、いわゆる擬似阿頼耶識システムを搭載した実験機だった。これは阿頼耶識システムのさらなる解析のために生み出された機体であるがゆえ、阿頼耶識手術を受けていない者でも一応の操縦は可能である。

 

『では改めてルールを説明します。模擬戦は1ラウンド5分の15セット、ラウンド終了ごとに1分間の休憩を挟んで次のラウンドへ。また、1回の戦闘につき被弾は3回まで、3回ヒットした時点でそのセットは終了、各自初期位置へ戻って下さい。なお、盾への着弾は被弾としてカウントされません……』

 

ミドリが模擬戦の説明をしていると

ポツリポツリと……大量の水を溜めていたダムが徐々に決壊を始めるかのように、少しづつ雨が降り始めてきた。

 

『また、攻撃は原則としてペイント弾によるもののみ、徒手空拳やシールドを鈍器に見立てた攻撃などは禁止です。他に何か質問はありますか?』

 

『ねぇミドリちゃん、雨降ってきたけど?』

 

『いい質問ですね! はい、ペイント弾は雨の中でも十分使用可能です、なにも問題ありません』

 

『そっか』

 

ミドリの言葉を聞きつつ、三日月は右手の中に収まったハンドガンと左腕の巨大な盾の具合を確かめ、模擬戦の初期位置へと移動する。

 

『三日月さん!』

 

『?』

 

三日月はモニター上に映るテッサの顔に目をやった。

 

『手加減なんてしないで、全力で来てください』

 

『……うん、分かった』

 

三日月はテッサの強い意志を感じ取った。

 

『それでは……戦闘開始』

 

輸送機から模擬戦の始まりを告げる信号弾が上がる。その瞬間、赤と白のバルキリーは獲物を探し求める狩人の様に、ほぼ同時に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンブラッドサーガ

外伝1ー2:「束の間の休息」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

模擬戦終了後……

 

輸送機 待機室

 

「はぁ……はぁ……」

 

激戦をなんとかくぐり抜けたテッサは、息も絶え絶えといった様子で待機室のベンチに横になっていた。

 

テッサの頬は赤く染まり、額から生まれた汗の玉が、彼女の白い肌を伝って床へと落ちていく。

 

先ほどの模擬戦に加え、連日続いた激しい特訓のせいか、疲労による体の重さを感じ、テッサは動けなくなっていた。それこそ、まるで自分にのしかかる重力が突然何倍にも膨れ上がったかのようだった。

先ほどから休憩室を明るさで満たす照明の光が、天井を見上げるテッサの目に刺激を与えているものの、今の彼女にはそれを気にするだけの余裕すらなかった。

 

(やっぱり……強い……)

 

心の中でそう思いながら、テッサは体を横にしたまま格納庫へと視線を送った。

格納庫は待機室からガラス窓一枚隔てた先にあり、テッサのいる場所からでも格納庫全体をよく見渡すことができた。

 

格納庫のハンガーには2機のBMが納まっていた。

しかし、テッサの赤いバルキリーは全身が真っ青に染まっており、一方、三日月が搭乗する白いバルキリーはというと、脚部と胴体が少しだけ赤く染まっているだけで、白い装甲は無事だった。

 

模擬戦はテッサの敗北に終わった。

それも、圧倒的な差をつけられて……

 

「…………」

 

テッサは三日月の放ったペイント弾の影響で、全身が真っ青に染まった自分のバルキリーを見つめて模擬戦のことを思い返していた。

 

テッサの言葉を真面目に受け取り、一切の手加減をせず全力で模擬戦に挑んだ三日月は、まるで鬼神のように強かった。

 

射撃は正確で、ハンドガンの射程圏内であればどんな状況下からでも確実に命中させてくる。

 

回避に関しても完璧で、テッサの射撃をまるで先読みしていたかの様に最小限の動きだけで回避してみせ、数少ない直撃コースの弾も盾であっさりと防がれてしまった。

 

それは天候が悪化してもなお、変わらなかった。

 

テッサが土砂降りの雨に視界を塞がれ、轟く雷鳴に気を取られ動き辛そうにしている一方で、三日月は悪天候など気にならないとでも言いたげに渓谷の中を飛び回っていた。

 

そして三日月は彼女がぬかるみに足を取られ、渓谷の間へと滑落し、行動不能に陥ってしまった際にも、容赦なくペイント弾を撃ち込んだ。

 

(練習して……少しは強くなれたと思っていた……けど……)

 

テッサの脳裏にその時の光景が浮かび上がった。

落雷を背に、こちらを見下ろす白いバルキリー。谷の底に落ちた自分のことを、無機質なツインアイで淡々と見下ろしている。

 

(まだ……三日月さんに比べたら、私は弱い……)

 

最も、三日月がバルキリーをここまで上手く操ることができたのは三日月の技量もさながら、模造品とはいえ阿頼耶識システムがあったからこそのことだったのだが、阿頼耶識システムに関する知識がないテッサにはそれを考えることはできなかった。

 

(もっと……もっと強くならなくちゃ……!)

 

視線を待機室の中へと戻したテッサは、真上で眩しい光を放ち続ける照明へと手を伸ばした。

 

「大丈夫?」

 

その時、テッサは視界の隅に何者かの影を感じた。

 

「三日月さん……?」

 

三日月の存在に気づいたテッサは慌てて体を起こし、ふらつく体を言い聞かせ彼へと体を向けた。

 

「寝ててもいいよ」

 

「いえ、大丈夫です」

 

明るく気丈に振る舞うテッサだったが、しかし、その顔色は誰が見てもあまりよくなかった。

 

「はい、これ。疲れたでしょ?」

 

そう言って三日月は水の入ったボトルを差し入れする。

 

「あ……ありがとうございます」

 

テッサはそこでようやくカラカラに乾ききった自分の喉に気づいた。礼を言ってボトルを受け取り、それを一気に飲み干した。恐ろしいほどに冷えきった水が喉を潤し、火照った体を涼しくさせた。

あまりにも勢いよく飲み干してしまったからか、テッサは最後に少しだけ咳き込んでしまった。

 

「……ごめん」

 

「え?」

 

唐突に謝りを入れた三日月へ視線を送る。

 

「少し、やりすぎたかも」

 

三日月はテッサを見ずに、なにやら顔を格納庫の方へ向けてそう告げた。少しだけ申し訳なさそうにしている辺り、彼にも自覚はあったのだろう。

 

「いえ、そんなことはありません!」

 

そこでテッサはボトルを置き、三日月を見上げた。

 

「三日月さんが本気を出してくれて、私はむしろ……嬉しかったです」

 

「え?」

 

三日月はチラリとテッサを流し見る。

 

「毎日の訓練で、自分は強くなっているんだっていう実感を持っていました。でも、それは自分の勝手な思い込みで、本当はまだ大したことないんだなって……」

 

「…………」

 

「三日月さんと模擬戦して、それをよく思い知ることができました。私はまだまだ弱い……だから、今の自分の強さで満足してはダメ……私はもっと強くならなくちゃって……」

 

「…………」

 

「だから三日月さんには感謝しているんです」

 

「そっか」

 

テッサの言葉に、三日月は静かに頷いた。

 

「だから……その、三日月さんさえ良ければ、これからも全力で相手をしてください! 私相手じゃ物足りないかもしれませんが、私もいつか三日月さんと肩を並べられるくらい強くなってみせますから!」

 

「……うん、分かった」

 

三日月は視線を格納庫に向けたまま、続ける。

 

「無駄だと思えることでも積み重ねていけばそれは自分のためになる。テッサのやっていることは無駄じゃない。それに……強くならないといけないのは、俺も同じだから……一緒に、頑張ろ」

 

「はい!」

 

三日月の言葉に、テッサは強く頷いた。

 

「あと……」

 

「はい、何ですか?」

 

「テッサ、体……冷やさないようにしてね」

 

「はい……え?」

 

テッサは三日月の言葉に疑問符を浮かべた。

三日月は先ほどから格納庫のある一点を見つめているのだが、その視線の先には空いたハンガーが天井から下がっているだけで特に何かあるわけでもない。

しかし、三日月は無表情でジッとその空間を見つめていた。まるで、何かから目を背けるかのように……

 

「……え?」

 

そこでテッサは、三日月が自分を見ないようにしていることに気づいた。なぜ、自分を見ないようにしているのだろうか……? そう思いながらも、テッサは三日月の「体を冷やさないで」という言葉を思い返した。

 

「…………あ」

 

そうしてテッサは、ようやく今の自分の状態に気づくことができた。

 

ただでさえ露出の多いテッサの服は、激戦を経て大きく着崩れていた。火照った体を冷ますためにジャケットは脱ぎ捨てられ、胸当ては汗でずり落ちて大切な部分がほぼ丸見えの状態になっている他、体の上を流れ落ちる汗が、彼女の肌を艶やかに光らせていた。

 

「……ごめんなさい」

 

赤みのあった顔をさらに赤面させながら、テッサは着崩れを直し、すぐそばに投げ捨てていたジャケットを拾い上げて胸に抱いた。

 

「……別に、謝らなくていいよ」

 

テッサが身なりを整えたのを確認し、三日月はここでようやく彼女へと体を向けた。

 

「俺は別に自分の体とか人に見られても気にならないけど、女の人は、他の人に見られるのは嫌でしょ?」

 

「それは……」

 

「世の中には女の人のそういうところを見て、変なことを考えるような悪い人もいるだろうから……気をつけてね」

 

「……はい」

 

「じゃあ俺はもう行くから、テッサはゆっくり休んでてね」

 

そう言って三日月は、テッサへ背を向け、待機室から出て行こうとする。

 

「……三日月さん、待って!」

 

そんな三日月を、テッサが呼び止める。

 

「なに?」

 

「……その……私は…………」

 

そして、テッサは思いきってその言葉を口にした。

 

「私は……三日月さんになら、見られてもいい……です」

 

「……そう」

 

決意のこもったテッサの言葉に、しかし三日月は顔色一つ変えることなく僅かに頷いただけで、ゆっくりと彼女の前から去るのだった。

 

「……三日月さん…………」

 

ズキリと痛む胸を押さえながら、テッサは三日月が去った後も彼のことを見送り続けるかのように、しばらくの間ベンチの上から動くことはなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

ババラール連盟の某所

 

「ふっふっふっ……ははははは!」

 

その男……イブン王国のサマン親王は、豪華絢爛な玉座に深々と腰を下ろし、声高々に笑い声を上げた。

 

「ははははは! 長い年月はかかったが、これでわが計画はついに成功したぞ! アブド!」

 

サマン親王はそう言って目の前で膝をつく男の名前を呼んだ。それはかつてイブン解放戦線を率いてサラ大虐殺を実行した人物の名前であり、ベカスやテッサにとって因縁のある男の名前でもあった。

 

「おめでとうございます、殿下。我々の積年の苦労もこれで報われましょう」

 

イブン解放戦線のリーダー格であり、本来であればイブン親王とは敵対関係にあるはずのアブドは、主人の喜びを分かち合うかのように深々と頭を下げた。

 

そう、全ては何年も前から仕組まれた嘘だった。

 

この男……サマン親王はかつて兄の王位継承に不満を持っていた。自分こそが国のトップに相応しい、自分こそが人の上に立つに相応しい……にもかかわらず、王位を継承したのは兄だった。

 

だからこそ、彼は王族でありながら影で国を貶める計画を立てた。国内の弱小民族の独立運動を密かに支持、アブドをイブン解放戦線のリーダーに仕立て上げ、王国の政治に不満を持つ各地の民族やレジスタンスへ資金提供を行い、決起を起こさせた。

 

全ては……兄王の威信を削ぎ、自分が王になるため

 

サラ大虐殺は、イブン親王の野心のためだけに行われた事件だった。

 

他の部族へ王国軍への不満を煽る……ただ、それだけのために何百人、何千人もの罪のない者たちの命が失われた。しかし、そんな虐殺も彼にしてみれば身勝手な私利私欲を満たすためのゲームの一つに過ぎなかったのだ。

 

その結果、イブン解放戦線の勢力は数年のうちに大きく膨れ上がり、対称的に解放戦線を始末できない兄王の支持率は急激に落ち込み、王室と大臣からは「役立たず」呼ばわりされるほどだった。

 

「お前が私を殿下ではなく、陛下と呼ぶ日も近いぞ」

 

イブン親王はそう言ってニヤリと笑い

 

「即位の暁には、解放戦線を完全に叩き潰し、わが地位を確立する。アブド、その時こそお前が武勲をあげる大きな機会となろう」

 

その言葉にアブドは驚愕し、イブン親王を見上げた。

 

「解放戦線を壊滅させるおつもりですか!?」

 

「当然だ」

 

「しかし陛下は、王位奪取の暁にはバイカ人と解放戦線に参加した少数民族の独立を許すと約束されたはず……」

 

「私が解放戦線を潰さず、権威を示さなければ、王宮の愚者どもは私のことを兄王と同じく役立たずとみなすだろう。解放戦線は何がなんでも叩き潰さなくてはならないのだ!」

 

イブン親王の言葉に、アブドを唇を噛んだ。

 

「で……では、せめてバイカ人の独立だけでも……」

 

「黙れ! お前はわが腹心の立場に専念せよ。解放戦線を倒した後は、お前を王国軍の総司令官に取り立ててやる」

 

「しかし……」

 

なおも納得した様子を見せないアブドに、イブン親王はため息を吐いて立ち上がり、そばに控えていた使用人からサーベルを受け取った。

 

「アブドよ……これは悪い話ではないぞ」

 

「……!」

 

イブン親王はサーベルを引き抜き、膝をつくアブドの首筋へその刃を突きつけた。刀身に反射した光に晒され、アブドは思わず息を呑んだ。

 

「全てが終われば、わが娘の1人を娶るがいい。その時はお前も最高の富と栄誉を得られるのだ」

 

「……御意」

 

半ば脅すようなその言葉に、アブドはただ頷くとこしかできなかった。

 

「いいだろう。それと、お前の配下の者を始末しておくのだ。お前の周りには、知りすぎてしまった者が多くいるからな……」

 

「御意……」

 

「さて、私は別荘のパラダイス・ヴィラでしばらく休養を取る。新しい少年を何人か見繕って、しっかりと私に『ご奉仕』するように言い含めておいてくれ」

 

「御意……」

 

玉座からイブン親王が去った後も、アブドは膝をつき、ジッと自分の役割について考え続けた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

さらに数日が経過した。

 

その間も、テッサは死にものぐるいで訓練を続けた。

 

復讐を誓った少女は驚くべき成長を遂げていた。

未だ三日月の実力には程遠く、それに関して彼女は自分自身を「まだ弱い」と評していたものの、それは三日月と比較しての話で、その存在はあまりにも強すぎた。

 

それ故、自分の実力に気づくことなく……いや、自分の実力に満足や慢心といった感情を抱くことなく、彼女は強くなることにこだわり続けることができた。

 

元々、強くなれる素質はあった。

 

そして、いつしか彼女はOATHカンパニーの中でもトップクラスの実力を誇るようになり(相変わらず彼女はそのことに気づいていないようだが)、その強さはアンデット小隊を相手にした模擬戦にてカルシェンとフリーズをあっさりと撃破するほどだった。

 

確実に強くなっているテッサ

 

しかし、そこで思いもよらぬ事態が起きた。

 

いや、過労によりテッサが倒れただとか、体を痛めたなどということではない。過酷な訓練を続けるテッサの隣にはいつも三日月が立ち会っており、三日月はテッサの身が危ないとあればすぐさま訓練を止めに入っていた。

 

思いもよらぬ事態は、テッサの知らない別のところで起きていた。

 

 

 

アイルーが幼児退行を引き起こしていた。

 

 

 

アイルーにとってテッサは実の姉であり、血の繋がった唯一の家族なのだ。そして、賞金ハンターらしく一人前にバルキリーを操縦しているように見えるが、その言動と容姿から分かるようにアイルーはまだ幼かった。

 

本来であればまだ母親に甘えてもいい年頃

しかし、その母親はサラ大虐殺で亡くなっている

 

そのため、アイルーはしばしば母親に対する感情をテッサに向けていた。テッサもアイルーのことを慮り、それまでは愛情たっぷりに接していた。

 

しかし、ベカスとの衝突以降、テッサが寝る間も惜しんで過酷な訓練を始めてしまったことにより、姉妹の間に軋轢が生じた。

テッサはそれまでアイルーとのふれあいに使っていた時間さえも訓練に回すようになり、これによってアイルーは自分の感情を発散させる機会を失った。

 

構ってくれないテッサに、アイルーは度々駄々をこねるようになった。しかし、それでもテッサが自分のことを見てくれないことを知ると、甘えの矛先(迷惑をかけるという意味で)を三日月やミドリにまで向けるようになった。

 

 

 

それによって、2人の間でちょっとした事件が起きるのだが、それはまた別のお話……

 

 

 

この事件以降、2人の関係はよりギクシャクしたものになってしまうのだった。この状況を重く見た三日月とミドリは姉妹に仲良くなって貰おうと奔走し、一応は仲直りさせることに成功するも、依然としてアイルーが家族の愛情に飢える日々は続いた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

その日、ミドリは三日月とテッサ、そしてアイルーを連れて極東一と称されるテーマパークを訪れていた。

 

これは愛情に飢えたアイルーの鬱憤を晴らすためだけではなく、テッサの努力を労う(というか、無理やり休ませる)ためのものでもあった。なお、訓練に夢中なテッサを連れ出すのに相当な手間がかかったことは言うまでもない。

 

4人はたっぷり数時間を使ってテーマパークを一周した。

こういったところは初めてなのか、目の前に広がる沢山のアトラクションを前にアイルーは目を輝かせ、大はしゃぎで姉を引きずり回し、2人でジェットコースターやゴーストハウス、メリーゴーランドなどのアトラクションを回った。最初は訓練ができないからとピリピリとしていたテッサも、時間が経つにつれて徐々にアトラクションを楽しめるようになり、姉妹は自然と年相応の笑顔を見せるようになってきた。

 

その様子を見て、陰ながらミドリがホッと胸を撫で下ろしていたというのは完全な余談だった。

 

三日月はいつものように無表情で2人のことを見守っていたものの、その無機質な表情の中にはうっすらと穏やかな色が浮かんでいた。そして、そんな彼の些細な変化に気づくことができたのはミドリただ一人だけだった。

 

4人はそれぞれ充実した時を過ごした。

 

楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、

そして夢の時間は終わりを告げる。

 

夕方

 

茜色に染まった空、今まさに地平線の彼方へ沈もうとする夕日、傾いた日差しがテーマパーク全体を綺麗なオレンジ色に照らしている。

 

「アイルーちゃん、今日一日どうでしたか?」

 

「楽しかったなの〜!」

 

アイルーは興奮冷めやらぬといった雰囲気を放っていた。

 

「ジェットコースターは速くてぎゅんぎゅんして楽しかったなの! お化け屋敷は面白いオバケさんが沢山いて面白かったなの! メリーゴーランドもぐるぐるで凄かったなの!」

 

「そうですか〜ふふっ、楽しんでもらえてよかったです」

 

アイルーの様子にミドリはふんわりと笑った。

 

ここはテーマパーク内に作られた自然公園。今、ミドリとアイルー、そしてテッサの3人は公園のベンチに腰を下ろし今日1日の出来事を振り返っている。

 

ちなみに三日月はというと、待ち時間中の暇つぶしに行ったカードゲームで負けたため、4人分の飲み物を買いに行っている。

 

「また来たいですか?」

 

「来たいなの! 今度はミドリちゃんも一緒にジェットコースターに乗ろうなの!」

 

「ジェットコースターですか、えっと……ミドリちゃん、実はちょっとそういうのは苦手で……」

 

「大丈夫なの! みんなで一緒に乗れば怖くないなの!」

 

すっかり子どもらしい純真無垢な感情を取り戻したアイルー。その瞳には、昨日まであった濁りが全くと言っていいほど感じられなかった。

 

「ミドリさん……その、今日はありがとうございました」

 

ベンチの端に座るテッサがペコリと頭を下げた。

 

「いえいえ〜、テッサちゃんは楽しめましたか?」

 

「私は……それなりに……」

 

「ぶー、それなりにじゃないなの! アイルーは見てたなの! お姉ちゃん、とっても楽しそうにしてたなの!」

 

「あ、アイルー……」

 

妹の指摘にテッサは顔を赤く染めた。

その様子に、ミドリはニコニコと頷く。

 

「うぅ……それにしても……ミドリさんって、子どもの扱いが上手なんですね」

 

「るる! アイルーは子どもじゃないなの! もう一人前の大人なの!立派な『れでぃ』なの!」

 

テッサの言葉から、自分が子どもであると見られているのが気になったのか、アイルーは声を上げて見栄を張った。

 

「んー……そうですねぇ、きっと長らく三日月くんのお世話をしていたからだと思います。あとはアイリちゃんのお世話もたまにやっているので、ミドリちゃんの保育技術は、いわばお二人に鍛えられたものだと思いますね」

 

「そ……そうですか」

 

テッサは社長代理という立場にありながら三日月を育てたミドリを、同じ女性として本気で凄いと思っていた。

 

そして、心の奥底にチクリとしたものを感じた。

 

もし、自分がミドリさんのような女性だったのならアイルーを悲しませずに済んだだろうか? ……ふと、そんなことを思う。

 

テッサがそれについて考えていた時……

 

ビュウゥゥ……と、

冷たい北風が3人の前を通り抜けた。

 

アイルーが体をぷるぷると震わせていると、ミドリはそれを見かね……

 

「アイルーちゃん、寒いですか?」

 

「うん、ちょっとだけ寒いなの」

 

「そうですかーそれじゃあ……ぎゅ〜」

 

「るるっ!?」

 

突然、アイルーのことをぎゅっと抱きしめた。

 

「ほら、こうすればあったかいでしょ?」

 

「本当なの! ちょっと苦しいけど、ミドリお姉ちゃんとぎゅーしてると、あったかいなの〜♫」

 

最初こそ驚いた様子のアイルーだったが、抱きしめられたことで身も心も温かくなったようで、今度は自分からミドリへとすり寄り始めた。

 

側から見れば、仲の良い親子に見えたことだろう。

 

(……あっ)

 

その瞬間、テッサの中で、抱き合う2人の後ろ姿が昔の自分と母親(イーサ)の姿と重なり合った。まだ自分が幼かった頃……甘えたがり屋だった自分を力強く抱きしめてくれたお母さん。

 

 

 

ガサツで、料理が苦手だったお母さん

 

 

 

私たちのことを精一杯育ててくれたお母さん。

 

 

 

そして、愛情いっぱいに抱きしめてくれたお母さん

 

 

 

貧しいながらも、しあわせだったお母さんとの日々

 

 

 

でも、お母さんはもう い な い

 

 

 

あの温もりは二度と感じられない

 

 

 

いなくなった

 

 

 

奪われた

 

 

 

殺された

 

 

 

誰に?

 

 

 

「…………ッッ」

唐突に、テッサは現実に打ちのめされた。

いつのまにか歯を食いしばっている自分に気づいた。

 

「ミドリちゃん、大好きなの〜❤︎」

 

「あらあら〜ふふっ、私もアイルーちゃんのこと大好き〜ですよ〜❤︎」

 

「るる〜♫ なんだかミドリちゃんって、アイルーの『お母さん』みたいな……」

 

 

 

「アイルーッッッ!」

 

 

 

「るるっ!?」

姉の大声に、アイルーがびくりと体を震わせる。

 

「……あ…………」

 

しかし、驚いたのはアイルーだけではなかった。テッサもまた、自分の上げた大声に驚愕していた。アイルーの口から『お母さん』という言葉が出てきた瞬間、まるで、自分の口から勝手に言葉が飛び出してきたような……

 

何事かと、丁度その場に居合わせた通行人たちが懐疑的な視線をテッサに向けた。

 

「テッサちゃん……泣いてるんですか?」

 

「え……?」

 

ミドリの言葉で、テッサは自分の瞳が熱くなっていることに気づいた。

 

「……ッッッ」

 

そうして、テッサは自分の涙を隠すかのように2人へと背を向けて走り出した。

 

「テッサ?」

 

その途中、飲み物を抱えて戻ってきた三日月とすれ違う。

 

「ミドリちゃん、テッサは……?」

 

「三日月くん」

 

ミドリはいつものニコニコとした表情ではなく、とても真剣そうな眼差しで三日月を見つめると……

 

「追いかけてください。彼女は今、あなたの言葉を必要としています」

 

「……分かった」

 

三日月はさっさと買ってきた飲み物をアイルーへ手渡し、それからテッサのことを追いかけた。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

三日月がテッサを見つけたのは、それから僅か数分後のことだった。

 

「…………」

 

「……テッサ」

 

「……!」

 

テッサは公園のすぐ近くの、薄暗い小さなテントの形をした物置小屋の中でうずくまっていた。暗闇の中で両膝をつき、小さくすすり泣いていたテッサだったが、思いもよらぬ人物の登場に泣くのを堪えた。

 

「……なんで、ここが……?」

 

「テッサの匂いがした」

 

「匂い……?」

 

少しだけポカンとした様子をみせたテッサだったが、すぐさま瞳に浮かぶ涙を手で払い……

 

「やっぱり、三日月さんって凄いね」

 

精一杯の作り笑いをした。

 

「こんな広い施設の中から、あっという間に私のことを見つけてくれるんだね」

 

「テッサ、どうしたの?」

 

「…………」

 

三日月の言葉に、テッサは視線を下に向けた。

 

「アイルーが……ミドリさんのことを、お母さんって言ったんです」

 

「……?」

 

「私は今まで、お母さんの仇を討つために生きてきました。ううん、私からお母さんを奪った奴だけじゃない……何の罪のない人たちに暴力を振るう悪い奴ら全員をやっつけるために、私は今まで生きてきたんです」

 

テッサは泣き腫らした顔を隠すことなく、ただ一心に三日月を見上げた。

 

「それが、あの虐殺を生き残った私の役割なんだって……ずっとそう思って、今まで生きてきました」

 

テッサの瞳を、三日月はジッと見つめ返した。

 

「私はお母さんを殺されたあの日に誓ったんです……悪い奴らを一人残らず倒すって、そのためなら私はどんなに汚い手も使うつもり、血で服を汚すのも恐れない」

 

テッサはジャケットの袖を強く握った。

 

「だから、私は幸せになっちゃダメ……あの日起きたことをなかったことにして、自分だけ幸せになってはいけないんです!」

 

 

 

でも……

 

 

 

「最近……アイルーがよく笑うようになったんです」

 

 

 

「それは三日月さんやミドリさんがいてくれたからなのは間違いないし、アイルーにとってはいいことだから、2人には感謝しかありません」

 

 

 

「だけどアイルーの笑顔を見ていると、幸せな気持ちになってしまう自分がいて……幸せになっちゃダメなのに、幸せになったらあの時の決意が揺らいでしまうような気がして……」

 

 

 

テッサの言葉に、三日月の眉がピクリと動く

 

「もしかして、テッサが頑張りすぎていたのは……アイルーの笑顔を見ないようにしていたっていうのもあるの?」

 

「…………」

三日月の言葉に、テッサは静かに頷いた。

 

 

 

「さっき、アイルーがミドリさんのことを……お母さんみたいだって言ってたんです」

 

 

 

「私のお母さんはサバサバしてて、どっちかっていうと男勝りな感じの人で……ミドリさんとは真逆の人だったんです。私たちのお母さんは世界にたった1人、代わりなんていない。……なのに、アイルーはミドリさんのことをお母さんみたいだって……」

 

 

 

「もう……アイルー中にはお母さんの記憶はないんだって」

 

 

 

「私は……怖いんです。私もアイルーみたいに、いつかお母さんのことを忘れてしまうんじゃないかって……」

 

 

テッサの瞳に大粒の涙が浮かぶ

 

 

「…………」

三日月はゆっくりとテッサの元へ近づく。

 

 

 

「幸せになってしまうのが怖い……」

 

 

 

「……テッサ」

 

 

 

「忘れてしまうことが怖い……」

 

 

 

「テッサ」

 

 

 

「だから……私は……!」

 

 

 

「…………」

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……み……三日月さ……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

それから数分後……

 

「ミドリちゃん、テッサ連れてきた」

 

「あら、三日月くん、早かったですね……え?」

 

公園のベンチで2人のことを待っていたミドリは、帰ってきた2人を見て少しだけ固まった。

 

「…………」

 

三日月の後ろには、まるで借りてきた猫のように大人しくなったテッサの姿。しかし、テッサの顔に暗いものはなく、その姿はどこか吹っ切れたようにも見える。

雰囲気が明らかに変わっていた。

 

「……あの、三日月くん?」

 

「なに?」

 

「テッサちゃんに、何かしたんですか?」

 

「……別に」

 

そう言って三日月は明後日の方向へ目を向け……

 

「ただ、話をしただけ」

 

それだけ言って、口をつぐむのだった。

 

一体、2人の間でどのような話が行われたのだろうか……? ふと、ミドリは心の中でそんな疑問を抱いたのだが、三日月の表情と、テッサの顔がやや赤くなっていたことから、湧き出た疑問を心の中でそっと蓋をすることにした。

 

「あの……ミドリさん」

 

口を閉じた三日月の代わりに、テッサが声を上げる。

 

「さっきは、突然大声を上げてごめんなさい」

 

そう言って小さく頭を下げた。

 

「いえ、テッサちゃんは何も悪くないですよ」

 

「……でも」

 

「……お姉ちゃん」

 

アイルーが意を決したかのようにミドリの後ろから姿を現し、躊躇いがちな足取りでゆっくりとテッサの前へ歩み寄る。

 

「お姉ちゃんは何も悪くないなの……悪いのは……」

 

「待って、アイルー」

 

しかし、テッサは妹の言葉を制止した。

 

「この話は……全てが終わってからにしようよ」

 

「全てが終わってからって……それはいつなの?」

 

「それは……私が仇を……」

 

そこでテッサは

「いや……」

と、言葉を切り……

 

 

 

私が、過去の因縁と決着をつけてから

 

 

 

言葉を変えて、そう告げた。

 

「それが終わったら、たくさん話し合おうよ。だから……その時まで待っていて欲しいの」

 

「…………」

 

テッサの言葉にアイルーが返事をすることはなかった。

 

しかし、返事の代わりに両腕を前に出し……

 

「お姉ちゃん、寒いなの!」

 

 

 

ぎゅって……してほしいなの!

 

 

 

「……ッッッ、アイルー!」

 

それはアイルーなりの返事だった。

テッサはアイルーを優しく抱きしめる。

 

 

 

「アイルー、ありがとう!」

「るる! こちらこそなの!」

 

 

 

側から見れば、それは結論の先送りに過ぎなかった。

 

けれど、先送りにすることは悪いことではない

 

ゆっくりと、時間をかけてお互いを理解することも……時には必要なのだろう。そして、彼女たちはまだ若く、それをするだけの時間はたっぷりあった。

 

「とりあえず、元通りと言ったところでしょうか」

 

「……そうだね」

 

抱きしめ合う2人を、三日月とミドリは安心したように見つめた。

 

「ミドリちゃん! 三日月お兄ちゃん!」

 

すると何を思ったのか、アイルーはテッサを抱きしめながら2人へと呼びかけ……

 

「一緒にぎゅってするなの! みんなでぎゅってした方が、もっとあったかいなの!」

 

「そうですね!」

 

「え?」

 

アイルーの提案に、ミドリは待ってましたとばかりにポンと手を叩いた。一方、色々と思考が追いついていない三日月はミドリに引きずられるようにして抱き合う2人の元へ連れられる。

 

 

 

ぎゅー

 

 

 

結局、4人は閉園時間ギリギリまで抱きしめ合った。

 

だがその甲斐あって、テッサとアイルーは心に余裕ができたのか、つい先日まで2人の顔を覆っていた影は鳴りを潜め、その代わりに穏やかな表情が生まれた。

 

そして、姉妹は失いかけた絆を取り戻した。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

数日後……OATHカンパニー

 

 

カルシェンの部屋 バルコニー

 

部屋の照明を背に受け、2人の男が並んで話をしている。それは部屋の主であるカルシェンとその戦友であるベカスだった。

 

しかし、普段の気楽なものとは違い、2人の表情は真剣そのものだった。

 

「ベカス、例の情報だが……お前の睨んだとおりだった」

 

「確かか?」

 

甘苦を口から離し、ベカスはカルシェンを見ることなく告げる。

 

「ああ、前に裏情報を集めていた時の友達が調べてくれた。あのアブドとかいう男の本当の上司はイブン王国のサマン親王……極東の特勤5部の連中もこれを証明している」

 

「そうか……」

 

「今、サマン親王は『パラダイス・ヴィラ』という秘密別荘で静養中だそうだ……だが、警備は厳重、ハエだって入り込めない」

 

そう言ってカルシェンはベカスに一台の端末を差し出した。それを受け取ったベカスが端末を起動させると、そこには別荘の内部情報や人員の配置、予想される戦力など、特勤5部が集めた情報が事細かに集積されていた。

 

「……」

 

カルシェンの話を聞き終えると、ベカスは端末の情報に目を落としながらゆっくりと外に向かって歩き出した。

 

「もう行くのか?」

 

「ああ」

 

背中に投げかけられた問いかけに、短い言葉を返し……

 

「…………?」

 

ベカスはそこで違和感に気づいた。

 

「…………データが……別の端末へダウンロードされた形跡がある……?」

 

ベカスはカルシェンへと振り返った。

 

「……あー……実は、悪い知らせがあってだな」

 

カルシェンは降参とばかりに両手を上げた。

 

「お前がここへ来る少し前に……俺が情報を掴んだって話を誰かから聞いたのか、ガキが俺の部屋に踏み込んできてよ……」

 

「まさか……!」

 

「……そうだよ、あのテッサっていう嬢ちゃんさ」

 

「……!」

 

次の瞬間、ベカスはカルシェンの胸ぐらを掴み上げた。

 

「なぜ教えた!」

 

「……すまねぇ、怖かったんだ」

 

カルシェンは怒りに満ちたベカスの目から視線を逸らし、恐る恐るそう呟いた。

 

「怖かった……?」

 

ベカスはカルシェンから放たれた言葉に、思わず胸ぐらを掴む力を弱めた。

 

「……本当にすまねぇ」

 

「…….くっ」

 

考えている暇はないとばかりにベカスはカルシェンを突き飛ばし、振り返ることなく一目散に部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

ベカスとカルシェンが話をする少し前……

 

 

 

「テッサ、じゃあ……待ってるから」

 

薄暗い室内

扉越しに三日月の声を感じながら、テッサはベッドの上で準備を進めていた。

ベッドの上にはテッサのために新調されたトップ、ボトム、ブーツ、ジャケットが並べられていおり、黒色に統一されたそれらを半裸のテッサは一つずつ身につけていく。

 

「……止めないんだね」

 

「止めて欲しいの?」

 

無意味なやり取りに、テッサは思わず苦笑する。

 

「いえ、言ってみただけです」

 

「そっか」

 

布が擦れる音が響き渡る。

 

「俺はずっとテッサのことを見てきたつもり。その間に、テッサがたくさん悩んで、たくさん努力して、たくさん苦しんできたのも知ってる」

 

「…………」

 

「だから、俺はテッサを否定しないよ」

 

「…………」

 

「それがテッサの決めたことなら、なおさら」

 

「三日月さん」

 

「ん?」

 

「……ありがとう」

 

「……うん、じゃあ『プトレマイオス』で待ってる」

 

扉の先から三日月の気配が消えた。

因みに『プトレマイオス』というのは、今まで三日月とテッサが移動のために使っていた輸送機の名前である。

 

テッサは最後にジャケットを手にした。

ジャケットのちょうど背中に当たる部分には『三日月』のマークが施されていた。

 

素早くそれを着込み、テッサは鏡の前へ

改めて今の自分の姿を見返す。

 

その胸元には、母親がよく好んで身につけていたものと同じガーネットのネックレス。ガーネットはベランダから差し込んだ月の光を受けて、美しく輝いていた。

 

実りの象徴を意味する赤い宝石。その輝きは、テッサが今まで積み重ねてきた努力を肯定しているかのようだった。

 

光を放つそれを胸に抱くと、温かい何かが入り込んでくるような気がした。

 

 

 

「お母さん……力を貸して」

 

 

 

そして、確かな決意を胸に……

 

 

 

テッサは戦いの場へと、足を踏み出した。

 

 

 

 

 

to be continued...




説明や意味不明な点が多くなったのは申し訳ないと思います。実を言うと、作者なりの遠慮があったりするんです。

テッサとアイルーの関係に亀裂が生じた事件に関しては、そのため完全に伏せさせてもらいました。とはいえ、気になる人がいるかもしれませんので少しだけヒントを……わかる人にだけ……

ヒント
・姉の気を引くために
・三日月
・オルフェンズ♫
・姉の目の前で

あとはご想像にお任せします。
次回「たった1人の弔い合戦」

アイサガで貴方の好きなキャラを教えてください。(回答はこちらではなく気軽にコメントの方へお願いします)

  • 境界戦機もっと流行れ
  • 鉄血・ブレットもっと流行れ
  • 水星の魔女×鉄血のオルフェンズ?
  • あと、アイサガのエンディングも作ります
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