機動戦隊アイアンブラッドサーガー悪魔と少女と機甲ー   作:野生のムジナは語彙力がない

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本当はこれで終わらせるつもりだったのですが字数がバカみたいになりそうなのでここで一旦区切ります。(この時点で1万7千、そのままやってたら3万超える)

注意
・アイアンサーガしか信じられないって言う人は見ない方がいいかもしれません。(とくに鎮魂歌の結末が最良!という人は)
・バイオレンスな表現が多めかもしれないです(作者的には全然ですが)
・賛否両論あると思います
・もうヒロインはテッサでいいや

それでは、続きをどうぞ……







外伝1ー3:たった1人の弔い合戦

OATHカンパニー

発着ゲート

 

暗闇に包まれた通路を歩く一本の影

 

「…………」

 

その少女……テッサは神妙な面持ちで通路を進んでいた。

 

彼女が一歩一歩進むたびに、ブーツの踵が地面を叩き、高い音を通路に響き渡らせる。

 

通路の先には大型の輸送機が待機していた。輸送機は、彼女の到着を今か今かと待ちわびているかのように、既にエンジンを回していた。

 

輸送機まであと少し……そんな時、テッサは暗闇の中に自分のものではない、何者かの気配を感じた。

 

「待て」

 

「……!」

 

突如として目の前に現れたその影に、テッサは身構えた。

 

「アンタは……」

 

テッサはその人物を見つめた。

照明が放つ薄い光の下、腰に一本の太刀を携えた銀髪の傭兵の姿が浮かび上がる。

 

「どこへ行くんだ?」

 

ベカスがテッサの前に立ち塞がった。

 

「アンタには関係ないでしょ」

 

テッサはベカスの横を通り抜けようとするも、ベカスはテッサの動きに合わせて移動し、その行く手を遮った。

 

「……邪魔なんだけど」

 

テッサは苛立たしげにベカスを睨みつけた。

しかし、ベカスがテッサに道を譲る様子はない

 

「ああ、邪魔してるからな」

 

「通して」

 

「……ここを通すわけにはいかねぇ」

 

「通して」

 

「嫌だ……って言ったら?」

 

「…………」

 

その瞬間、テッサは腰のホルスターから拳銃を取り出し、その銃口をベカスへ向けた。

 

「通せ」

 

銃を構えるテッサに、ベカスはどうせ撃てないだろうと高を括り、肩をすくめてみせた。

 

「どうしても通りたいのなら、オレを倒してから……」

 

 

 

パンッ

 

 

 

「……ぐっ!?」

 

甲高い音と共に、ベカスの体が崩れ落ちる。

 

「……アンタが邪魔しにくることぐらい、最初から分かってたのよ」

 

通路に消炎の香りが充満する。

足を撃たれたベカスが痛みに呻く。

そんな彼に、テッサはなおも銃口を向ける。

 

「安心して。ゴム弾だから、死なないよ」

 

テッサは虚ろな視線でベカスを見下ろした。

 

「痛い?」

 

テッサは静かに続ける。

 

「痛いよね。でも、アンタの感じてる痛みなんて所詮はその程度……例えアンタが私のお母さんと恋仲だったとしても、私の感じたこの痛みに比べれば、遥かに軽いはずよ」

 

テッサの口がゆっくり動く

 

 

 

オマエは、何も喪っていない

 

 

 

何も喪っていないオマエに、家族を失った私の苦しみが!

 

 

 

大切なものを奪われた者の痛みが……分かるか!

 

 

 

「…………!」

 

殺気に満ちたテッサの言葉と視線に、ベカスは本能的な恐怖を感じた。邪魔をするなら誰であろうと叩き潰す……テッサの放つそれは、戦っている最中の三日月から放たれるそれと酷似していた。

 

「邪魔、しないでよね」

 

テッサはそれだけ言って拳銃をホルスターに収め、今度こそベカスの横を通り抜けようとした時だった。

 

 

パンッ

 

 

「……!」

 

銃弾が、テッサの足元を穿った。

 

「……動くな」

 

テッサが振り返ると、そこには膝をつき、痛みに悶えながらも拳銃を構えるベカスの姿

 

「止めろ、復讐は虚しくなるだけ……だ」

 

そんな状態になっても、まだ復讐を止めようとするベカスの執念深さに、テッサは舌打ちした。

 

「……まだ言うか、こいつ」

 

そして、ベカスの体にもう一二発ほど撃ち込んでやろうかと考え始めた時だった。

 

「もういいよ、テッサ」

 

通路の先からそんな声が響き渡った。

 

「三日月?」

 

「……三日月さん?」

 

暗闇に包まれた通路の奥から、明るく照らされたその場所に姿を現した三日月は、テッサの側を通り抜け、ゆっくりとした動作で2人の間に自身の体を滑り込ませた。

 

「テッサ、いいよ……行っても」

 

「!」

 

その言葉に、ベカスは思わず拳銃でテッサの足元を狙おうとするも、その射線上に立った三日月がそれを許さなかった。

 

「ねぇ、ベカス」

 

三日月はベカスに背を向けたまま告げる。

 

「ベカスは言ったよね。強くなったら仲間に入れてあげるって」

 

「……ああ。だが、戦闘に参加させるとは言ってない」

 

「……なっ!?」

 

裏切るようなベカスの言葉に、テッサは込み上げてきた怒りを爆発させようとした……だが、その直前で三日月がサッと手を振りあげたことで怒りの勢いを失う。

 

「そうだね。テッサに復讐をさせるとは言ってなかった」

 

三日月はベカスへと振り返る。

 

「でも、テッサは頑張ったんだよ? ベカスの言葉を信じて、自分が弱いって分かってたから強くなれるよう沢山努力したんだよ」

 

 

 

なのに、なんでそんなこと言うの?

 

 

 

なんで、テッサの努力を否定するの?

 

 

 

なんで、テッサのことを分かってあげようとしないの?

 

 

 

「だが……三日月、復讐なんかに意味はねぇ、復讐は……ただ虚しくなるだけだ」

 

 

 

「ふーん……まあ、そうかもね」

 

そう言って、三日月はベカスの前へ進む

 

「でもさ、それって……ベカス個人の考えだよね」

 

「!」

 

その瞬間、ベカスの体がびくりと固まる。

 

「昔……俺も仲間の復讐をしたことがあるよ。でも、仲間を殺した奴を殺っても、俺は別に虚しくなんてならなかった」

 

「違う……ッ、オレはただ……」

 

「ものの考え方や感じ方って一人一人、違うと思う。ベカスの言ったことって、自分の考え……というか、価値観を押し付けているだけじゃないの? テッサの努力も知らないあんたが、それ言えるの?」

 

「だが……復讐はダメだ! だから、オレが……」

 

しかし、ベカスの言葉は途中で打ち切られた。

 

「ぐっ……」(ぴぎゅ……)

 

言い終えるよりも先に、三日月は学園で習ったCQCでベカスを掴み上げた。服の襟を掴み、ベカスの顔を引き寄せ、お互いの顔が接触してしまうギリギリまで迫る。

 

三日月は至近距離でベカスを睨みつけ……

 

 

 

「誰が復讐するとか、復讐したらダメだとか……

それを決めるのはお前じゃないんだよ」

 

 

 

「……!!」

 

三日月の放った言葉と視線に貫かれ、ベカスは雷にうたれた時にも匹敵する衝撃が体の中を走るのを感じた。

 

「復讐したい奴が復讐する、そうでしょ?」

 

狂気を含んだ瞳で見つめられ、ベカスは言葉を失った。

 

「テッサ、行って」

 

「……はい」

 

三日月の言葉を受け、テッサは2人に背を向け歩き始めた。

だが、その途中でふと足を止め……

 

 

 

「……綺麗事ばっかりだね」

 

 

 

去り際に、そんな言葉を残した。

 

「ま……待ってくれ!」

 

ベカスは三日月を振りほどいて彼女を止めようとするが、彼の襟をがっしりと掴んだ少年はそれを許さない。

 

「…………」

 

三日月は淡々とした視線でベカスを見つめる。

 

「離しやがれ!」

 

三日月の体を壁へと突き飛ばし、どうにか拘束から逃れたベカスは、すぐさまテッサへと振り返った。

 

しかし、通路にテッサの姿はなかった。

 

「…………くっ」

 

ベカスは膝をつき、がっくりと項垂れる

 

「違う……」

 

「…………」

 

「違うんだ……」

 

「…………」

 

「オレは、そんなつもりじゃ……ないんだ……」

 

「…………」

 

「オレは……ただ……」

 

ベカスは拳を壁に叩きつけた。

 

「ベカス」

 

そんなベカスに、三日月は近づき……

 

「…………」

その耳元で小さく、あることを囁いた

 

「……え?」

 

その言葉を聞いたベカスは、驚いたように三日月を見上げた。

 

「……それじゃ」

 

しかし、三日月はベカスが抱いた疑問に答えることなく、テッサの後を追ってさっさと通路の奥へと消えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンブラッドサーガ

外伝1ー3「たった1人の弔い合戦」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが夢であることに気づいたのは、割とすぐのことだった。

 

気がつくと、そこはこの前みんなで行った遊園地の敷地内で……今、私はテントの中にいる。

 

私はそこで泣いていた。

 

暗闇の中で、両膝をついて、ひっそりと

 

人目をはばかるように、泣いていた。

 

でも、次の瞬間……急にテントの中が明るくなった。

 

……いや、ちょっと違う

 

誰かが、私のいるテントの扉を開けて、外の日差しをテントの中に送り込んできたのだ。

 

「テッサ」

 

三日月さんが、私を見つけ出してくれた。

 

その時は、ちょっと複雑な気分だった。

 

泣き顔を見られて恥ずかしいとも思った

 

でも、それ以上に……嬉しかった。

 

この広い世界から……暗闇に包まれた世界にいる私に向けて光を送り込んで、そして悲しみにくれる私を見つけて名前を呼んでくれた。

 

それが、とても嬉しかった。

 

そして、私は思わず三日月さんに話してしまった。

 

私の抱いている苦しみを

 

悲しみを……

 

痛みを……

 

……まるで、三日月さんにぶつけるかのように。

今思えば、とても失礼なことをしていたなと思った。

 

でも……その間、三日月さんは真剣に話を聞いてくれた。

 

ううん、そればかりか……

三日月さんは嘆き悲しむ私へ顔を近づけ……

 

 

 

「……!?」

 

 

 

次の瞬間、私は自分の唇に別の温もりを感じた。

 

 

 

自分の心臓が大きく跳ねた。

 

「…………み、三日月さん……!?」

 

急な出来事に驚いた私は、思わず体を逸らして三日月さんから顔を離してしまった。

 

すぐ目の前には、真剣な眼差しを浮かべる三日月さんの顔。出した涙に全ての水分を割いてしまったかのように、自分の唇は乾ききっていた。

 

はじめての甘酸っぱさを感じる余裕はなかった。

 

心が高鳴った。

 

そして、思った。

 

 

 

もう一度……と

 

 

 

心を読んだかのように、三日月さんとの距離が近くなる。

 

「……んっ」

 

そして、私は三日月さんを受け入れた。

 

時間にすれば20秒近くはしていただろう。

 

でも、私にはそれが一瞬の出来事のように感じられた。

 

たった一瞬の出来事……にも関わらず、その間に感じた三日月さんの温もりはとても心地よく、寂しさで凍てついた心を溶かすかのように、私の中で深く浸透した。

 

曇っていた気持ちが晴れ、私は落ち着きを取り戻した。

 

「テッサは……凄いね」

 

お互いに顔を離し、息を整える私に向けて唐突に彼は告げた。

 

「自分の……家族のことを覚えているから」

 

そこで思わず、私はハッとなった。

 

「俺なんか……もう、自分を産んでくれた親の、名前や顔すら覚えていないのに。俺にとっては大切な人のはずなのに……だから、凄いなって」

 

それを聞いて、私は思わず三日月さんに謝った。

 

「別にいいよ。でも、俺の隣にはオルガがいて、みんながいて、そのうち鉄華団っていう新しい家族ができた。鉄華団のみんなは、俺にとって産みの親以上に大切な存在だった」

 

産みの親以上に、大切な存在……?

 

「うん。大切な人がいてくれたからこそ……大切な人が支えてくれたから、俺は俺になることができた」

 

 

 

 

 

テッサにもそういう人、いるでしょ……?

 

 

 

 

 

その瞬間、私の脳裏にアイルーの顔が浮かんだ。

 

 

 

どんな時でも笑顔を忘れなかったアイルー

 

 

 

いつでも私の側にはアイルーがいて

 

 

 

落ち込んだ時には明るく励ましてくれた。

 

 

 

アイルーがいなければ、きっと今の私はいなかった

 

 

 

アイルーがいてくれたからこそ、私は私であれた。

 

 

 

お母さんも、私にとって大切な存在には変わりない

 

 

 

でもそれと同じくらい、アイルーも私にとって大切な存在だった

 

 

 

にもかかわらず、私は……アイルーを……

 

 

 

「俺はテッサに『過去に囚われるな』って言えない」

 

三日月さんは穏やかな瞳で私を見つめた。

 

「テッサの心が過去の鎖に繋がれているんだったら、まずはそれを断ち切らないとテッサは未来には進めないと思う」

 

ああ……やっぱり

 

「だから、今……俺はこの言葉を使わない」

 

三日月さんは……

 

「でも全てが終わったら、テッサが大切だと思ってる人と……ちゃんと向き合ってほしい」

 

「……!」

三日月さんの言葉に、私は心がすっと軽くなるのを感じた。

 

復讐はただ虚しくなるだけ、復讐に意味はない……そんな綺麗事は、誰にだって言える。でも、三日月さんは違った。

 

私のことを知らない人たちは、中途半端な優しさで私のことを否定する。でも、三日月さんは私のことを理解して、これから先のことを信じてくれていた。

 

 

 

そして、心の底から思えた。

 

 

 

三日月さんもまた、自分にとって大切な人であると

 

 

 

「テッサ」

 

三日月さんが手を伸ばしてくる。

 

「はい!」

 

私は三日月さんの手を握った。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「テッサ」

 

「…………?」

 

テッサが目を覚ますと、そこはバルキリーのコックピットの中だった。テッサはディスプレイ上の三日月と顔を見合わせた。

 

「三日月さん……?」

 

「テッサ、そろそろ到着する」

 

その時……気流の影響だろう、バルキリーのコックピットが小さく振動した。ミドリの操縦する輸送機に揺られ、2人は乗機と共に戦地へと赴いていた。

 

「よく眠れた?」

 

「はい」

 

「いい夢は……見られた?」

 

「……」

 

三日月の質問に、テッサは顔が熱くなるのを感じて押し黙った。

 

「……テッサ?」

 

「いえ、なんでもないです」

 

そう言いつつも、テッサは三日月を見つめた。

 

(やっぱり……三日月さんは、ずるい……)

 

見つめながら、心の中で数日前のことを思い出す。

 

(私にあんなことして……平気な顔して……)

 

テッサは自分の唇に触れた

 

(恥ずかしがってるのが、ばかみたい……でも……)

 

あの時の熱を、唇に感じた。

 

「三日月さん」

 

「なに?」

 

「ありがとう、ございます」

 

「?」

 

訳がわからず、三日月は首を傾げた。

 

その時、2人は視界の隅に赤い光を感じた。

 

それは戦いの時が近いことを示すものだった。

 

降下、3分前……

 

格納庫クルーへ退避を指示するランプが点滅し、アラームの後、格納庫内の減圧が開始される。最も、格納庫には機体の中で待機する2人を除けば誰もいなかったので、切り替わりはとてもスムーズだった。

 

「それじゃあミドリちゃんの作戦通り、俺が先に降りて敵の攻撃を引きつけるから……テッサは後から来てね」

 

「本当にいいんですか?」

 

「うん。これくらいはやらせてよ」

 

降下、2分前……

 

輸送機の後部ハッチが開く

 

ハッチから流れ込んできた強風が、格納庫内の2機を揺らした。

 

雲の上、暗黒に包まれた空の中で、月の光が一際強い光を放っていた。

 

『テッサさん』

 

「……?」

 

呼ばれ、テッサは輸送機との通信回線を開いた。

ディスプレイ上にミドリの顔が浮かび上がる。

 

『その機体は「リキッドバルキリー」三日月くんのバルバトスとの連携を考慮し、我が社によるカスタムが施された機体……つまり、あなたのための機体です』

 

「……はい、知ってます」

 

テッサはミドリとの通信回線を開いたまま、ディスプレイの端に機体ステータスを表示させた。その機体コードは『Liquid』となっていた。

 

『名前にある通り、その機体のコンセプトは液体。液体は雨や川……つまり「絶え間ない流れや勢い」を表し、その威力は「敵を液状化させるほど」を目標としています』

 

テッサの脳裏に数週間前の……新型ライフルのテストを実施した時の記憶が浮かび上がった。アイルーの力を借りつつも、出力50パーセントの時点で驚くべき威力を発揮した二丁のライフル。

 

『非常に強力な機体です。使い道を誤れば、あらゆるものを破滅へと導く恐ろしい機体となるでしょう』

 

そしてカスタムされたバルキリーには、その時使用したライフルの改良型にあたるものが装備されていた。

 

『ですが……それを踏まえた上で、この機体を……リキッドバルキリーをあなたに託します。この力が……せめてあなたのお役に立てることを願って……』

 

「ミドリさん……ありがとうございます」

 

テッサが礼を述べると、ディスプレイ上のミドリは心配そうな顔をしつつも、小さく頬を緩め……

 

『最後に……空から雨となって落ちた水は、自然のサイクルによりまた空へと戻ります。それと同じように、テッサさんもまた……帰るべき場所へ帰ることができるよう祈っています』

 

では……ご武運を!

その言葉を最後に、通信回線は途切れた。

 

降下、1分前……

 

「!」

 

突然、アラームが鳴り響いた。

いや、降下を指示するものにしては早すぎる。

 

それはミサイルの接近を知らせる警報だった。

 

その時、機体が大きく揺れた。

 

『掴まっていてください!』

 

ミドリの機内アナウンスが響き渡り、続いて輸送機の後部から連続した短い音と共に無数の火の玉が飛び出した。

 

放出された対赤外線誘導ミサイル用フレアが接近するミサイルの誘導装置を狂わせ、ミサイルを明後日の方向へと導いていく。

 

『パラダイス・ヴィラからの攻撃です』

 

ミドリは落ち着いた声でそれを告げた。

 

「分かった、それじゃあ降りるよ」

 

バルバトスに搭乗している三日月は、そう言って後部ハッチの前へと移動し……

 

「バルバトス、三日月・オーガス……出る」

 

スカイダイビングをするかのように、輸送機から飛び降りた。

 

そして次の瞬間……どこからともなく爆発音が響き渡った。

 

『三日月くんが盾になってくれています。今のうちに!』

 

「はい!」

 

テッサはバルキリーを後部ハッチの前へ移動させた。

 

「リキッドバルキリー、テッサ……行きます!」

 

三日月に倣い、テッサは輸送機から飛び降りた。

 

「……くっ!」

 

飛び降りてからすぐのこと……強風に煽られ、バルキリーはきりもみの回転を始めるも、テッサはすぐさま機体をリカバリーさせ、スカイダイビングのように両腕と両足を広げた。

 

 

 

月を背に降下するバルキリー

月の光に照らされ、その全貌が明らかになった。

 

 

 

リキッドバルキリーはバルキリーAをベースにカスタムされた機体ではあるものの、その機体ボリュームは原型機のそれを遥かに上回っていた。

 

見た目こそ、そこまで変わっていないように見えるが、新装備に合わせて各関節のアポジモーターに改良が加えられ、以前のものと比較すると耐久性と反応速度が大幅に向上していた。

 

さらに、バックパックのマグニエンジンをOATHカンパニーで試作中だったフライトユニットへと換装し、機動性が向上した他、短時間のフライトが可能になっている。

 

武装面に関してはこれまた原型機に比べて大幅な強化が施されており、先に述べた新型ライフル……『ヴァリアブルバスターライフル』を二丁、両手に保持している。

また、肩部には二門のレールガン

腰部にはビームライフルを二丁、これはバルキリーの標準装備をそのまま転用している。

さらに、両腕にエリプスシールドを装備していた。

 

 

 

テッサは落下しつつ、先に降りた三日月へと視線を送った。

 

バルキリーから見て、遥か下方。ほぼ垂直に落下しているバルバトスの周囲には、いくつもの爆発が生まれていた。

 

三日月は敵の対空攻撃を一挙に引き受け、対空砲による攻撃をメイスで防御し、飛来するミサイルは滑空砲の同軸に内蔵されたマシンガンで全て叩き落としていた。

 

「これ以上、三日月さんをやらせない!」

 

テッサは両腕のバスターライフルを始めとするバルキリーの全砲門をパラダイス・ヴィラに向け、さらにバックパックに装備した携行式ミサイルポッドを展開する。

 

バルバトスとのデータリンクにより、三日月が目視しているターゲットがバルキリーのディスプレイ上に表示される。

 

「マルチロックシステム、起動」

 

テッサはディスプレイ上に映る無数の赤い点のいくつかに視線を走らせた。すると、パイロットの視線を感知したバルキリーのAIが自動的にターゲットをロックオンする。

 

「当たれ!」

 

テッサがトリガーを引いた次の瞬間、バルキリーから眩いばかりの火線とミサイルの群れが放出され、雪崩れ込むようにパラダイス・ヴィラへと殺到した。

 

落下時の弾道計算が甘かった為か、バスターライフルとレールガン、ビームライフルによる狙撃はパラダイス・ヴィラの外壁を削るだけに終わった。だが、誘導のあるミサイル攻撃は確実に目標へと着弾した。

 

それにより、パラダイス・ヴィラの各所に配備された対空砲とミサイルサイロは壊滅的な被害を受けた。

 

残った対空兵器も、続く第二射によりその全てが壊滅……これにより、パラダイス・ヴィラからの対空射撃は完全に沈黙した。

 

それ以降、三日月とテッサは何不自由ないスカイダイビングに成功し、2人はこれ見よがしにパラダイス・ヴィラの真正面へと着地を決めた。

 

サマン親王とアブドが潜む要塞、パラダイス・ヴィラからは敵襲を知らせるアラームが盛大に鳴り響き、無数のサーチライトが延々と空を照らしていた。

 

「俺にできるのは、ここまで」

 

三日月は滑空砲とメイスを格納し、テッサへ視線を送った。

 

「ここから先は……」

 

「分かっています!」

 

機体越しに、テッサは三日月へと強い視線を送った。

 

「ここから先は私の戦いです! 三日月さんは手を出さないでください!」

 

「…………!」

 

テッサの様子に少しだけ驚いた様子を見せる三日月だったが、小さく頷くと、すぐさま機体を跳躍させ、テッサから遠く離れた後方へと移動した。

 

「テッサ」

 

「……はい」

 

「信じてるから」

 

「はい!」

 

テッサの頼もしい返事を聞いた三日月は、コックピットの中で力を抜き、それから腕を組んで眠るように目を瞑った。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

サマン親王の秘密別荘パラダイス・ヴィラ、司令部

 

『こちら守衛部! 状況は? 』

『襲撃者は誰だ!? 数は?!』

『こちら西部対空陣地、対空砲の損傷により火災が発生! 誰か人を寄越してくれ!』

『こちら親衛隊! サマン親王は無事だ、これよりサマン親王をお連れして地下シェルターへ向かう……』

『BM部隊! 何をしている、早く出撃しろ!』

 

夜間の突然の襲撃により、司令部は混乱に陥っていた。

 

通信回線から響き渡る怒号と罵声が室内に響き渡り、つい数時間前の静寂が嘘だったかのように騒音を撒き散らしていた。

 

「司令部より守衛部へ……分からない、突然すぎて現場は混乱中、敵の詳細は把握できない!」

 

『なんだと!? 誰の襲撃かも分からないのか?!』

 

「分かるわけないだろ! こっちは対空陣地の被害確認だけで手一杯なんだから!」

 

通信を担当する兵士の1人が、現場の兵士と苛立たしげに会話を繰り広げていると、そこに1人の男が現れた。

 

「何事だ?」

 

「あ……アブド長官!」

 

兵士は通信機を持ったまま、その男……アブドへと敬礼した。

 

「状況は?」

 

「は! 輸送機から降下してきた敵は、我が方の対空戦力を全て無力化、その後、正門前へと着地したように見受けられます」

 

「数は?」

 

「ふ……不明です」

 

『こちら正門前守備隊! 敵の攻撃を受け被害甚大!』

 

その時、司令部に新たな報告が入った。

 

「こちら司令部、アブドだ」

 

アブドは兵士から通信機を奪うと、現場の兵士と通信を始めた。

 

『長官!』

 

「敵の数は?」

 

そう尋ねつつ、アブドは司令部の端末を操作し、正門前の監視カメラ映像をモニターに表示させた。

 

『2機……いえ、実際に戦闘を行なっているのは1機、赤い機体……あれは……バルキリーです!』

 

「バルキリー?」

 

監視カメラの映像を確認すると……確かに、映像の中にはヴァルハラ製バルキリーAらしき機影を見つけ、アブドは少しだけ考えるような仕草を見せた。

 

『後方の白い機体は今のところ動きを見せていないようですが……あ! また1機やられた……!』

 

その爆発は司令部からも確認することができた。

 

「……このタイミングでの、襲撃……?」

 

映像を眺めながら、アブドは眉を潜め……

 

「因果応報というやつかもしれんな」

 

小さく、そんな言葉を口にした。

 

「何ですって?」

 

爆発音でアブドの言葉を聞き逃してしまったのだろう、側にいた兵士がアブドを見上げた。

 

「いや、なんでもない。私のBMを準備するよう格納庫へ連絡を」

 

「まさか、長官ご自身が出撃なさるおつもりですか!?」

 

「ああ……念のためにな」

 

アブドは身を翻して司令部を後にした。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

パラダイス・ヴィラー正門前ー

 

パラダイス・ヴィラに駐留していた兵士たちは、それぞれ自分のBMに乗り込み、敵機を迎撃すべく巨大なメインゲート前に展開した。

 

主に高橋重工とゼネラルエンジンの機体で構成されたBM部隊……その数、30機。

 

通常編成ではBM5機で1小隊とされるこの世界で、30機という数は大隊クラスの戦力に匹敵していた。

 

パラダイス・ヴィラは迫り来るたった1機を相手に、それだけの戦力を投入していたのだ。最も、この時それだけの戦力を投入することができたのは、サマン親王が解放戦線を叩き潰すために必要な兵士と機体をパラダイス・ヴィラに集結させていたからでもあった。

 

戦力差はどう考えても圧倒的……にも関わらず、戦局は硬直状態にあった。いや、それどころか……

 

「ぐわああぁぁ!?」

 

断末魔の悲鳴と共に、兵士の機体が爆散する。

 

「また1人やられたぞ!」

 

すぐ隣で巻き起こった爆発に、兵士達は狼狽えた。

 

「クソッ! なんなんだ!」

 

それでもまだ戦闘不能に陥っていない兵士達は、BMに搭載された重火器を敵機に向けて撃ち続ける。

 

「なんなんだお前は!」

 

パラダイス・ヴィラの正面は数十を超えるBMから放たれた無数の曳光弾が滝のように飛び交っていた。

 

「なんで当たらない!」

 

しかし、一発たりとて目の前を駆け巡るバルキリーを捉えることはなかった。

 

「…………」

 

液体の名を冠したバルキリーのパイロット……テッサは、強化された機体のポテンシャルを活かし、迫り来る弾丸とミサイルの群れを難なく回避していた。

 

バックパックのフライトユニットを展開し、地上をブースト走行するバルキリーの速度は圧倒的で、ツインアイの光が残像となって帯を引くほどだった。

 

その速さを前に兵士たちのガンレクティルは追いつけず、バルキリーはパラダイス・ヴィラの兵士たちに全くと言っていいほど追従を許さなかった。

 

(……見える!)

 

目標を捉えられない敵に対し、高速で移動するテッサにはしっかりと敵の姿が見えていた。ランダム回避を実行しつつ、ヴァリアブルバスターライフルを単発モードに変更……

 

「そこ!」

 

巨大な砲身から、高出力の光球が放たれた。

 

 

 

ジュッ……

 

 

 

光球の直撃を受けた、ゼネラルエンジン製レンジャーの上半身が一瞬で消し炭になる。

 

「ひっ!?」

 

その圧倒的な威力を間近で目撃した兵士から、悲鳴が上がる。

 

「クソッ、ライフルじゃだめだ!」

 

「敵の動きを止めろ!」

 

「ミサイルだ! ミサイルを使え!」

 

兵士たちは高速で移動するバルキリーに対し、ミサイルによる波状攻撃を画策した。

 

ミサイルによる攻撃では直撃にならずとも、近接信管によるダメージは見込める上、爆風で敵の動きを鈍らせることができる……という考えからの行動だった。

 

「ミサイルランチャー用意完了!」

 

「よし! 撃て!」

 

メインゲート前に展開した兵士たちは、バルキリーに向けて一斉にミサイルを放った。

 

「……!」

 

迫り来る大量のミサイルに、しかしテッサは微塵も慌てることなくヴァリアブルバスターライフルを単発モードから連射モードへ変更……

 

肩部レールガン、腰部ビームライフルを展開

 

マルチロックシステムを起動

 

迫るミサイルのいくつかに視線を滑らせ、目標を順次AIにロックオンさせ……そして、トリガーを引き絞った。

 

次の瞬間、パラダイス・ヴィラの正面が連続した爆炎に包まれた。

 

「やったぞ!」

 

兵士たちは歓喜の声を上げる。

 

この爆発の前には、奴も逃れることはできまい!

 

……誰もが、そう思った。

 

「いや、待て! まだ反応が…………あっ」

 

レーダーを見ていた兵士が違和感に気づいたその時、黒煙を断ち切るように飛来した一条のビームがその兵士の機体を貫いた。

 

「な!?」

 

「ゲッ……」

 

「ああああ!!!」

 

仲間がやられたことに気づいた兵士たちだったが、それに気づいた時にはもう遅く、兵士たちの機体は黒煙の中から飛来するビームに次々と撃ち抜かれていく。

 

「まぐれ当たりだ! 怖気づくんじゃ……うおっ!」

 

「バカな! ぐあっ……」

 

「姿勢を低くしろ! そうすれば……ぐあああ!」

 

姿勢を低くし、動きを止めた者は真っ先に撃破されていく。

 

「クソッ! 見えねぇ、どこだ!」

 

「そんな……奴はこの見晴らしの悪い中でも、我々の姿が見えているというのか!?」

 

見えない敵に恐怖し、動き回りながら闇雲に射撃を行う兵士たち。機体のレーダーは爆風の影響で表示が乱れており、パイロットは目視に頼るしかなかった。

 

しかし、戦場は黒煙に包まれている。

 

にも関わらず、正確に直撃弾を送り込んでくる敵に、兵士たちは怯えることしかできなかった。

 

「…………」

 

そして、その怯える兵士たちの姿をテッサは正確に捉えていた。彼女がトリガーを引き絞ると、その度に黒煙の先からは爆発音が轟いた。

 

しかし、テッサの目には実際に敵が見えているわけではなかった。目の前を覆い尽くす黒煙は、テッサにとっても視界を邪魔するものでしかなかった。

 

これには、2つのトリックが仕込まれていた。

 

1つは、後方で待機するバルバトスの存在

 

実は、ミサイルによる波状攻撃が行われた直後……三日月は密かにドローン砲『アマテラス光輪システム』を展開し、黒煙の届かない所に向けて飛翔させていた。

 

そして、三日月は光輪を通して目視した敵の位置をデータリンクによりバルキリーへと伝えていたのである。

 

しかし、それだけでは戦場全体を見通すことはできず、かと言って光輪を黒煙の中へ近づけさせればその赤い光が兵士たちに目撃される恐れがあった。

 

敵の位置を正確に掴む、2つ目のトリック……それは……

 

『ふふっ、見えてますよ〜』

 

テッサたちから見て、遥か上空で旋回している輸送機に残された、ミドリの存在だった。

 

輸送機をオートパイロット制御にしたミドリは、席を離れて輸送機の格納庫にあったもう一つの機体に乗り込んでいた。

 

それはリキッドバルキリー同様、OATHカンパニーによってカスタムが施されたバルキリーR……通称『ソリッドバルキリー』だった。

 

ソリッドバルキリーはリキッドバルキリーの兄弟機であり、バルバトスを援護するリキッドを支援するために考案された機体だった。

 

その為、中遠距離機体であるリキッドに対し、ソリッドは完全な遠距離型(狙撃型)となっている。これは、本来のパイロットであるアイルーの身に極力危険が及ばないようにするための仕様であり、そのため原型機に比べて防御性能が大幅に向上していた。

 

ソリッドに乗り込んだミドリは輸送機の下部ハッチから身を乗り出し、スナイパーライフルのスコープを覗き込んで地上を観測していた。そして、敵の発砲位置とデータリンクによって三日月から送られてくる情報を頼りに、敵の正確な位置を割り出し、テッサへと転送していたのだ。

 

最初に対空兵器を潰したのも、その為だった。

 

『こう見えても、アンチステルスは私の得意分野なんですから〜♫』

 

そして、一気に数十機分の座標データを転送した。

 

「見えた!」

 

地上にいるテッサは黒煙の中で敵の位置を目視し、再びバスターライフル、レールガン、ビームライフルを展開し、さらに盾の内側に内蔵されたミサイルまでも起動させる。

 

マルチロックシステムにより、一度に数十機をロックオンしたテッサは、容赦なくトリガーを引いた。

 

次の瞬間、パラダイス・ヴィラを守っていた兵士たちは永遠に沈黙することになった。それは圧倒的な戦力を誇る兵士たちが、テッサたちの連携を前に大敗したことを意味していた。

 

しかし、その結果はリキッドバルキリーの性能が良かったからでも、3人のとった戦術と連携が良かったからでもない。

マルチロックシステムやフライトユニットなど、いくら機体が高い性能を誇っていたとしても、迫り来る大量のミサイルを迎撃・回避するには、機体を操縦しながら情報処理と火器管制を同時に行えるだけの技量を必要とし、ましてや黒煙の中で送られてくる情報だけを頼りに、動き回る敵を正確に狙い撃つのは簡単な話ではなかった。

 

だからこそ、テッサは努力したのだ

 

通常のミサイルとは比べ物にもならないスピードと回避性能、マニュエーバー、そして威力を持つ三日月のドローン砲を相手に……テッサはマルチロックによる攻撃と迎撃を訓練してきたのだ。

 

そんな過酷すぎる訓練を積み重ねてきた今のテッサにとって、兵士たちが操るBMの速度は愚か、迫り来る通常のミサイルですら三日月のドローン砲の動きに比べれば鈍足と言っていいほどであり、そのため迎撃は余裕だった。

 

この結果は偶然ではない

 

機体と戦術、そしてパイロットの腕

この3つが合わさったからこそ得られた、必然だったのだ。

 

やがて黒煙が晴れると、パラダイス・ヴィラの正面に動くものはなくなっていた。あるとすれば……せいぜい風でたなびく炎と残骸から立ち上る煙くらいだった。

 

「…………」

 

無言のテッサは、それを淡々とした目つきで見つめた。

 

その目つきは、三日月のものとよく似ていた。

 

「……?」

 

バルキリーのコックピットに警報が走る。

それは敵の接近を知らせるものだった。

 

「増援?」

 

見ると、パラダイス・ヴィラのメインゲートが開き、中からBM小隊2個分……合計10機のBMが姿を現した。

 

「へぇ……まだ来るんだ」

 

かつてベカスから母親のように綺麗だと言われたテッサの瞳は、光を失い、濁ったような色をしていた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「うわあああああ!」

 

戦場に兵士の絶叫が響き渡る。

 

フライトユニットを展開したバルキリーが華麗に空中を舞い、地上をノロノロと進む敵に向けてビームの『雨』を降らせた。

 

戦いは一方的なものだった。

 

先程増援で現れた10機も瞬く間に消滅し、テッサは次に現れた小隊と戦闘を繰り広げていた。

 

連射モードに切り替えたバスターライフルの残弾を撃ち尽くしリロードに入ったテッサは、機体を自由落下させ、そのまま地上へと舞い降りる。

 

「いまだ!」

 

テッサの機体がリロードに入ったと判断した兵士は、乗機である飛影をダッシュさせた。

 

「落下直後ならば……!」

 

着地により機体が姿勢を崩したところを狙って攻撃する気なのだろう……側面からバルキリーに迫り、兵士は飛影の標準装備である太刀を振り上げた。

 

高橋重工製の太刀は切れ味が良い。それに対して、バルキリーには近接装備が搭載されているようには見受けられない。たとえ盾で防がれようとも一刀両断であれば一撃で粉砕できる自信があったのだ。

 

「貰った!」

 

バルキリーの胴体に、太刀が振り下ろされる……

 

 

 

ギンッ……

 

 

 

「なっ……?!」

 

しかし、兵士の思惑に反して太刀はバルキリーを捉えることはなかった。いや、盾で受け止められたということでもない。

 

敵の接近に合わせ、今までヴァリアブルバスターライフルのアンダーバレルに隠されていたバヨネット(銃剣)が展開し、飛影の太刀を受け止めたのだ。

 

「……う、動かん」

 

「…………」

 

突如発生した鍔迫り合いに、飛影を操る兵士は太刀を両手持ちし、機体の出力を上げて切り払いを試みるが……それに対して、バルキリーは片腕でそれを完全に防ぎきっていた。

 

「……ねえ」

 

「……?」

 

飛影のパイロットは、そこで始めて敵パイロットの声を聞いた。

 

 

 

 

 

「絶望を経験したことはある?」

 

 

 

 

 

その声は女性のものだった……

しかし兵士にはその事実を認識する暇もなく……

 

「ぐあっ?!」

 

バヨネットの刃……太刀との接触面に突如として発生した衝撃波に押され、制御を失った飛影は虚しく空中を舞う。

 

それはバルキリーのフレーム効果『対近接格闘プログラム』のフェーズワンだった。格闘攻撃を防御し、その際に受けた衝撃を指向性ショックウェーブとして敵機へ反射させるというものだった。

 

しかし、これはあくまでもプログラムのフェーズワン。

バルキリーが持つ機体行動への布石だった。

 

 

 

 

 

「私は……あるよ」

 

 

 

 

 

次の瞬間、バルキリーは空中の飛影に向けて跳躍

 

飛び膝蹴りを、叩き込んだ。

 

飛び膝蹴りが飛影のコックピットを叩いた瞬間、バルキリーに隠されたもう1つの対近接格闘プログラムが作動……膝の先から一本の刃が勢いよく飛び出した。

 

「……げへっ」

 

バルキリーのニーブレードにコックピットごと体を貫かれ、飛影のパイロットは奇妙な叫び声を上げて絶命した。

 

飛影の分身を発動する余裕すらなかった。

 

空中で飛影を蹴り飛ばし、優雅に着地を決めるバルキリー

 

一方、地面に叩きつけられた飛影。

そのコックピットからは、血とも燃料とも見分けのつかない『液体』が勢いよく吹き出していた。

 

「ひっ……ひいいいいいいい」

 

その光景を見て、残った3人の兵士のうち1人が絶叫した。

 

「クソッ! クソッ!」

 

しかし、残る2人は依然としてバルキリーへ銃撃を加える。

 

バルキリーはそれを右へ左へ、避ける。

 

(…………ああ、そうか)

 

バルキリーを操縦しながら、テッサはある想いを抱いていた。

 

(楽しい!)

 

避けるのに飽き、テッサはバルキリーを前に飛ばす。

 

(弱い者を弄ぶのは、とても気分が良い!)

 

バヨネットの先端を敵の胴体へと突き刺す。

 

(ハハッ!)

 

突き刺した機体を盾にするかのように別のもう一機の方に向けると、IFFが働いたのかその機体からの銃撃がピタリと止んだ。

 

(ああ……そうかぁ……)

 

ライフルが使えなくなった敵は、対BMナイフを構えてバルキリーへ迫る。

 

(こいつらは、そうやって……)

 

しかしリーチの差から、対BMナイフがバルキリーを切り裂くよりも早く、突き出されたバヨネットがコックピットを貫き、兵士の体を真っ二つに引き裂いた。

 

(弱者を……ッ!)

 

戦闘不能になった敵機をバヨネットで貫いたまま銃身を持ち上げたバルキリーは、そこでバスターライフルを単発モードに切り替えた。

 

 

 

 

 

ユ ル セ ナ イ

 

 

 

 

 

バスターライフルのゼロ距離射撃により、兵士の亡骸は機体と共に蒸発した。

 

「…………へぇ、まだ生きてるんだ」

 

テッサは虚ろな瞳を隣に向けた。

 

ギギギギギ……

 

そこには胴体を貫かれ、今まさに盾として活用されている敵機の姿。それに搭乗している兵士は、最後に残った力を振り絞ってライフルの銃口をバルキリーに向け……

 

 

 

「もう……いいよ」

 

 

 

テッサは穏やかな声でそう告げた。

 

次の瞬間、バヨネットの刃から放たれた指向性ショックウェーブが兵士の体を肉のミンチになるまでズタズタに引き裂いてしまった。

 

ズシャリ……

 

真っ二つになった機体と肉塊が地面に落下する。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

一方……後方で待機していた三日月

 

光輪から送られてくる情報を通して、今まで眠るように目を閉じていた三日月の元にもテッサの姿は届いていた。

 

 

 

「…………」

 

 

 

(↑ちょっと引いてる)

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「ひ……ひぃ!?」

 

そして残る敵は、怯えてライフルを撃つことを忘れた兵士1人だけとなった。

 

「…………」

 

テッサは虚ろな瞳を最後の1人に向け、続いて単発モードにしたバスターライフルを向けた。

 

「ひいいいいいいっっっ!!!」

 

すると兵士はライフルを捨て、あろうことかテッサに背を向けてBMを走らせた。

 

逃走する敵兵……

 

テッサは……その背中へ……

 

「…………」

 

トリガーを引く……ことはなかった。

 

(邪魔をするなら誰であろうと叩き潰す……)

 

バスターライフルを下ろし、テッサはその背中を見送る。

 

(だけど……私はお前たちみたいには……)

 

しかし突如として発生した砲撃音に、テッサの思考は中断させられる。それはパラダイス・ヴィラのメインゲートからだった。

 

「なっ!?」

 

驚くテッサ、無理もない。

巨大な砲弾が、逃げる敵兵の機体を貫いたのだ。

 

この時……テッサと敵兵の距離は既に離れており、角度的にも誤射ではなかった。

 

わざと……やったのだ

 

見るとメインゲートの真下に……いや、メインゲートを埋め尽くすかのように、巨大な怪物が……いや、ゲートキーパーが姿を現していた。

 

 

 

ゼネラルエンジン製『ブラックパンサー』

 

骨董品と呼んでもおかしくない程の旧式でありながら、優れた火力と厚い装甲を持ち、未だ第一線で活躍する巨大戦車。

 

『負け犬め!』

戦車から逃げた兵士を揶揄するダミ声が響き渡る。

 

 

 

「へぇ……そんなこと、するんだ」

 

テッサはバルキリーを、ユラリ……

幽鬼のようにブラックパンサーへと向けた。

 

「アンタ……死んでいい奴だね」

 

テッサが機体を跳躍させるのと、ブラックパンサーの砲撃が行われたのはほぼ同時だった。

 

「……そこ!」

 

砲撃を回避したテッサは、バスターライフルを連射モードに切り替えトリガーを引き絞った。二丁のライフルから放たれた無数の火線がブラックパンサーに着弾する。

 

『ムダだ!』

 

しかし、ブラックパンサーの頑強な正面装甲の前には威力よりも手数を重視したビームの束など意味をなさず、全て弾かれてしまった。

 

このように、生半可な攻撃では重装甲を誇るブラックパンサーの正面装甲には傷1つつかないのである。ならば側面から攻撃すれば良いと思われるかもしれないが……現在、ブラックパンサーはメインゲートの真下におり、露出しているのは正面装甲のみで、角度的に側面への攻撃は不可能だった。

一応、外壁を破るなりすれば他の侵入ルートから要塞内部へと侵入することは可能だったのだが、それでも骨が折れる上に、テッサにはあえてこの場所でパラダイス・ヴィラの戦力を削っておきたい理由があった。

 

「ちっ……」

 

舌打ちをするテッサ、そこへ再び砲撃……

 

テッサは機体を空中で捻って砲撃を回避し、今度はバスターライフルを単発モードに切り替え……二丁同時に放った。

 

高出力の光球は狙い違わずブラックパンサーに着弾……しかし、ある程度のダメージは与えられたものの、その正面装甲を貫徹するにはまだ遠く及ばないようだった。

 

フライトユニットの飛行限界時間の到達により、自由落下で高度を下げるバルキリー。落下中を狙い、ブラックパンサーから大量のミサイルが放たれる。

 

テッサはバスターライフルを連射モードに切り替え、ミサイルの迎撃に移るが……

 

「……!」

 

運悪く、バスターライフルのリロードと重なってしまった。着地したバルキリーの元に、数え切れないほどのミサイルが迫る。

 

「ッッッ!」

 

そして、バルキリーは爆炎に包まれた。

 

しかし、それだけでは終わらない。ブラックパンサーはバルキリーの着地地点に向けて主砲による砲撃を加え、さらに機銃掃射による鎮圧射撃を実施した。

 

瞬く間にバルキリーの姿は煙の中に消える。

 

『ハッ! 雑魚め!』

 

ブラックパンサーの戦車長は高らかに勝利を叫んだ。

 

やがて煙が晴れ……戦場の様子が明らかとなった。

 

そこには、ボロボロになったバルキリーの盾。

二枚のエリプスシールドを傾斜させた状態で地面に突き刺し……そして、盾の後ろからそれはユラリと姿を現した。

 

『バカな!』

 

勝利を確信していた戦車長が驚愕する。

 

リキッドバルキリーは生きていた。

しかも、殆ど無傷の状態である。

 

『あれだけの攻撃を……ッッッ、オイ! 主砲装填急げ!』

 

戦車長はリロードを叫ぶが、もう遅い……

 

「ヴァリアブルバスターライフル……出力、50パーセント」

 

なぜなら、リキッドバルキリーは既に装備していた二丁のバスターライフルを連結させ、爆射モードである『超高インパルス砲』形態へと移行……エネルギーチャージを完了させていた。

 

テッサは砲身を盾の上に乗せ、ブラックパンサーへと狙いを定めた。ブラックパンサーからの牽制射撃がバルキリーを掠めるが、何も問題はなかった。

 

 

 

「……撃つ」

 

 

 

トリガーを引いた。

 

次の瞬間、砲門からプロミネンスにも等しい光の柱が放たれ、衝撃は大地を抉り、熱は砂を蒸発させ、一直線にパラダイス・ヴィラへと殺到した。

 

光を吐き出すその音は、獣の咆哮にも似ていた。

 

『ブラックパンサーの正面装甲なら耐えられ…』

 

戦車長の言葉はその光と音にかき消された。

 

そして、眩いばかりのプロミネンスはパラダイス・ヴィラの奥底に消えた。

 

光と衝撃が去り、テッサが見上げると……そこには見るも無残な姿に変わり果てたブラックパンサーがあった。砲塔から上は完全に消失し、その車体もキャタピラ部分が僅かに残るだけだった。

 

それどころか、超高インパルス砲の一撃はパラダイス・ヴィラを崩壊させていた。司令部は完全に破壊され、通信系統も全て切断、いくつかの施設は倒壊。さらに崩れた地盤がサマン親王の地下シェルターを直撃していた。

 

「…………」

 

しかし、今のテッサにはそんなことに構っている暇はなかった。砲身が融解しかけたバスターライフルを放棄し、代わりにバヨネットを外して両腕に持ち替えた。

 

「まだ……終わらない」

 

最初の障害を排除した復讐の戦乙女はメインゲートをくぐり、パラダイス・ヴィラの奥底へと進む……

 

 

 

仇を探して……

 

 

 

弔いの贄を探して……

 

 

 

to be continued...




次回
「2人の未来」

アイサガで貴方の好きなキャラを教えてください。(回答はこちらではなく気軽にコメントの方へお願いします)

  • 境界戦機もっと流行れ
  • 鉄血・ブレットもっと流行れ
  • 水星の魔女×鉄血のオルフェンズ?
  • あと、アイサガのエンディングも作ります
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