機動戦隊アイアンブラッドサーガー悪魔と少女と機甲ー 作:野生のムジナは語彙力がない
やっぱりこう、お互いに生み出すものがあってこそのコラボというものです!
今回で外伝1は終わりです。ありがとうございました。
それでは、続きをどうぞ……
「…………」
テッサが要塞内部へと侵入したことを確認した三日月は、小さく息を吐いてポケットからナツメヤシの実を取り出した。
『三日月く〜ん』
それを口に入れようとした時、通信機からミドリのそんな声が響き渡った。上に目をやると、垂直に降下してきた輸送機が三日月のすぐ近くに着陸した。
対空兵器を潰したとはいえ、基地の制圧が完了していない中でランディングを試みるミドリの度胸に、三日月は少しだけヒヤヒヤとしたものを感じた。
『お怪我はありませんか〜?』
「うん、俺は大丈夫」
ミドリにそう告げてから、三日月はナツメヤシの実を口にした。
『それにしても、テッサさん凄かったですねー』
「うん」
『行ってしまいましたね』
「……うん」
『心配……ですか?』
「…………」
ミドリの言葉に三日月は少しだけ考え……
「……ん……自分でもよく分からない。でも俺はテッサのことを信じるって決めたし、テッサの頑張りも、テッサの気持ちも沢山見て考えてきたから……もしかすると心配していないのかもしれない」
それに……
そこで、三日月は口を噤んだ。
『三日月くん?』
「……ううん、何でもないよ」
2人がそんな会話を繰り広げていると、パラダイス・ヴィラ方面から爆発音が響き渡った。三日月とミドリはメインゲートへと視線を送る。
『後で……迎えに行ってあげてくださいね?』
「分かった」
そう告げて、三日月はまたナツメヤシの実を取り出すのだった。
機動戦隊アイアンブラッドサーガ
外伝1ー4「2人の未来」
「こちらB2! B2より司令部!」
ボロボロの乗機を物陰に滑り込ませ、パラダイス・ヴィラ地下ブロック守備の任に就いていたその兵士は通信機に向けて叫び声を上げていた。
「B2に待機していた守備隊は半数以上がやられました! 敵はもうすぐそこまで迫っています! B2の突破は時間の問題です! 増援を……」
『……………………』
しかし、通信機は雑音を吐き出すばかりで司令部からの返答はなかった。
地下にいる兵士は知らなかった。
襲撃者の攻撃を受け通信系統も完全に切断されていた。いや、それ以前にパラダイス・ヴィラの司令部はとうの昔にこの世から消え去っているということを……
「司令部?! 司令部! 応答せよ!」
そうとも知らない兵士は、それでも司令部へと通信を試みる。
「司令部! 増援を……ぐああああ!?」
次の瞬間、兵士が身を隠していた空間が機体ごと真っ二つに両断された。崩れ落ちる機体の後ろには、両手にバヨネットを携えたバルキリーの姿があった。
「……逃すわけ、ないでしょ」
たった一機でB2フロアを制圧したテッサ。
B2フロアには守備隊の残骸がそこら中に転がっている。
続いて、パラダイス・ヴィラのさらに深く……B3フロアへの移動のためにエレベーターの前へと進み、乗り込もうとして……
「…………?」
そこで嫌な予感を覚え、テッサは足を止めた。
ーーーーー
一方その頃……B3フロア
噴水広場にて、3機のBMがライフルの銃口をエレベーターに向けていた。
「一体何者だ? こんなに早くB1とB2を突破するなんて!」
「全くだ! だが通路は潰した、もはやB2から直通なのはこのエレベーターだけだ」
兵士たちは冷や汗をかきつつも、ニヤリと笑った。
「つまり奴がこのフロアに来るためには、このエレベーターを使うしかないってことだ!」
「へへっ、奴の運命はここまでさ」
お互いに嘲笑し合いつつも、兵士たちが油断なくライフルを構えていると……その時、B2フロアに停まっていたエレベーターが動き出した。
「来るぞ!」
「まだ撃つなよ!」
「ああ。エレベーターが開いた瞬間を狙え!」
そして……たっぷりと時間をかけて、エレベーターがB3フロアに到達した。
兵士たちはゴクリと生唾を飲む
エレベーターの扉がゆっくりと開いた
箱の隅に、赤い機影
「今だッ、撃て!」
3人の兵士はエレベーター内部の機影に向けて、一斉に鎮圧射撃を行った。
3機分の全力射撃を受け、蜂の巣になるエレベーター
「やったか!?」
残弾を撃ち尽くし、3人は炎に包まれるエレベーターを見つめた。燃える箱の中に、動くものはなかった。
兵士たちはお互いの健闘を讃え、笑い合った。
しかし、兵士たちは知らなかった。
実際にエレベーターに乗っていたのは、仲間の機体であることを。機体表面が赤かったのは、B2フロアに保管されていた赤いペンキをぶちまけられただけに過ぎなかったということを……
天井が崩落したのは、ちょうどその時だった。
「な!?」
しかし、それに気づいた時にはもう遅い
瓦礫と共に天井から出現したバルキリーがバヨネットを閃かせ、すぐ近くにいた機体の胴体を切り裂き突き刺して、それを残った兵士たちの前に盾として掲げた。
「う……撃てえねぇ!」
「この……卑怯者が!」
撃てなくなったライフルを構えて、2人の兵士が批難の声を上げる。
「卑怯?」
バルキリーのツインアイが強い光を放った。
「お前たちが……それ言える?」
テッサは一切の躊躇いなく、肩部レールガンを発砲した。両肩から超高速で射出された2発の弾丸が、兵士たちの機体を同時に貫いた。
崩れ落ちる2機のBM、テッサは残弾のなくなったレールガンをパージし、バヨネットを振り払って刃に残った機体を投げ捨てた。
「…………」
周囲に敵の存在がないことを確認し、テッサはバルキリーの被害状況と残された武装のチェックを始めた。
両手のバヨネット
腰部ビームライフルが二丁……残弾は少ない
両膝のニーブレード
損傷こそ軽微だったものの、出撃直後のリキッドバルキリーと比べると、お世辞にも武装面では満足と言える状態ではなかった。
しかし、ここまでの道のりでテッサに苦戦はなかった。
むしろ余計な武装を捨てたこの状態は、テッサにとって戦いやすい状態であると言えた。
それは何故か……?
実は、リキッドバルキリーは屋内での戦闘には不向きな機体だった。
その理由は、まずリキッドバルキリーの武装……とくにヴァリアブルバスターライフルにあった。高火力でモードチェンジにより遠距離から格闘戦に至るあらゆる状況に対応できる万能ライフル……しかし、その銃身の長さから取り回しが非常に悪く、それゆえ屋内での戦闘には不向きな武装だった。
そしてもう一つ、バルキリーが屋内での戦闘には不向きな理由は……その高すぎる機動性にあった。
フライトユニットでいくら驚異的な飛行能力を得られたとしても、そのようなものが屋内で発揮できるはずもなく、むしろ機動性を活かしきれず最悪の場合、壁に激突するなどして自滅する恐れがあった。
だからこそ、テッサは最初の段階……メインゲート前で長々と戦闘を行い、ライフルの火力とフライトユニットの機動力を存分に発揮しつつ敵の増援が現れるのを待ち、時間をかけて敵の戦力を消耗させていたのだ。
その気になればメインゲート前を一瞬で制圧し、一気にパラダイス・ヴィラへと侵攻することは可能だった。だが、そうしていればテッサは要塞内部に立て籠もる敵部隊の圧倒的な物量差に押され、苦戦を強いられることになっただろう。
しかし最初の段階で多数の敵を撃破したことで、パラダイス・ヴィラを進むテッサの邪魔をする敵の数は少なかった。
「次……」
テッサは破壊されたエレベーターとは別の、さらに地下へと進むことのできるエレベーターを見つけ、それに乗り込んだ。
「…………」
そして迷わず最下層へのスイッチを押そうとして……そこであることを思い出した。
それはここに来る途中の……格納庫での出来事だった。格納庫を通過中のテッサは、そこで1人の衛兵を見つけた。
衛兵はBMに乗っておらず丸腰の状態だったので流石に見逃したが、衛兵は繋がらない内線に向けてしきりにあることを叫んでいた。
それは要約すれば大体このようなことだった。
「サマン親王がいる最下層のシェルターが落盤で押し潰された。サマン親王の安否は不明、生き埋めになっているかもしれない」
浅はかなものだった。
普通……シェルターといえば、施設の中で最も頑強にするべき場所であり、それが真っ先に崩壊するとは……欠陥にも程があった。
それを踏まえ、テッサは少しだけ考えた。
落盤の規模は不明だが、このまま最下層へ進んでも進めなくなるのは明らか……サラ大虐殺を仕向けたサマン親王がそこで圧死するなりしているのなら、それでもいい。
しかし……もし、サマン親王が落盤から逃れているとしたら? 彼らはより安全な上階へと避難することだろう
ならば……
テッサは最下層であるB5ではなく、その手前のB4を押した。
エレベーターが動き出す。
テッサは小さく息をついて目を閉じた。
ついに……この時が来た
全ては、この時のために
過酷な訓練に耐えることができた
あの時に味わった絶望を……
あの時誓った復讐を……
今日……ここで……!
エレベーターが開くと同時に目を見開き、テッサはゆっくりとB4フロアへ踏み出した。
「…………」
そこは、とても静かな空間だった。
敵兵もサマン親王もいない。
あるとすれば、フロアを支えるいくつかの柱と床に開いた大穴だけだった。後者はテッサの砲撃による衝撃で発生した穴でもあった。
(罠……?)
あまりの静けさに、テッサはふとそんなことを思った。
(いや、何か策を仕掛ける時間はなかったはず……)
それでも油断せずにフロアを進む。
やがてフロアの中程まで来た時だった。
「…………!」
妙な気配を感じ、テッサは反射的に機体を飛ばした。
次の瞬間、テッサが先ほどまでいた空間を砲弾が通過する。
「躱したか」
遠くからそんな声が聞こえた。
「そこ!」
テッサは腰部ビームライフルを展開し、砲弾が放たれた地点に向けて火線を放った。暗闇を貫いて進む火線は……次の瞬間、壁のような何かに衝突し、弾かれた。
「……いい腕だ」
テッサの前に、それは柱の影から姿を現した。
緑色の角ばった装甲と、無骨なメインカメラ
ゼネラルエンジン製『レンジャー強襲型』
しかしその武装は原型機のものとは違い、両手にロングバレルショットガン、左腕の大型シールドに対し、右腕には大口径機関砲を装備していた。
おそらくショットガンは屋内での戦闘を意識したもので、大型シールドのカウンターウェイトに見える機関砲は、ショットガンではカバーできない遠距離戦に対応するためのものなのだろう……レンジャーの装備を見て、テッサは密かにそう思った。
「何者だ?」
レンジャーのパイロットはテッサに向けて尋ねた。
「私は……サラ大虐殺の生き残りだ!」
「!」
テッサの言葉に、レンジャーのパイロットは驚愕した。
「そうか……やはり、因果応報ということか」
「……?」
怪訝そうに見つめるテッサに、パイロットは続けた。
「私は……アブド」
「ッッッ!!」
今度はテッサが驚愕する番だった。
「サラ大虐殺を指揮したのはこの私だ!」
「……そうか、お前が……ッッッ!」
テッサは怒りを露わにし、バヨネットを構えた。
「小娘よ……お前にしてみれば、私は倒すべき相手なのだろう。だが私にも意地があるのだ、私はここで倒される訳にはいかない。我が主……サマン親王の彼岸を達成するためには……」
しかし、アブドは言葉を中断せざるを得なかった。
「なに……!?」
彼の目の前からバルキリーが消えた。
しかし、それはテッサにしてみればフライトユニットによる爆発的な推進力で前進しただけなのだが、あまりにの速さにアブドの目にはそのように映ったのだった。
(速い!?)
一瞬でゼロ距離にまで迫ったバルキリーに、アブドは震えた。あまりにも近すぎて、ショットガンを撃つことすらできなかった。
「ごちゃごちゃ……うるさいね」
テッサは右腕のバヨネットを突き出す。
アブドは反射的に盾を突き出した。
バヨネットと盾が衝突し……
「ぐわっ!」
バヨネットの先端から放たれた指向性ショックウェーブが盾ごとレンジャーを吹き飛ばし、機体を後方の壁へと叩きつけた。
「ぐう……!」
ショットガンをロングバレルではなくショートバレルにするべきだった……アブドがそんな後悔を抱いた時には、既にテッサの追撃が迫っていた。ダウンしたアブドに向けて、ビームライフルの雨が降り注ぐ。
アブドは倒れながらも盾で防御するが、高速で突き出されたバヨネットに加え、指向性ショックウェーブの直撃をモロに受けた盾は既にボロボロで、ビームが直撃する度に装甲が削られていく。
やがて、ビームの雨が止んだ。
「チッ……」
テッサは弾切れになった腰部ビームライフルをパージすると、バヨネットを構えてレンジャーへと接近する。
アブドは無用の長物と化した盾を捨て、迫るバルキリーに向けてショットガンを発砲……
テッサは柱の影へと機体を滑らせ、それを回避……さらにショットガンが降り注ぐ中を、テッサは柱の影から影へと移動し、徐々にアブドへと迫る。
アブドはテッサを攻撃しながら機関砲でテッサの潜む柱を狙い始めた。それはテッサに直撃する事こそなかったが、彼女の隠れ場所を潰すことに意味があった。
テッサがアブドに接近する方が早いか、それともアブドがテッサの隠れ場所を潰す方が早いか……それが勝敗の分かれ道だった。
そして、ついにその時が訪れた。
「はああああ!」
影から飛び出したテッサはアブドに肉薄、アブドは必死にショットガンの照準を定めるが、テッサはそれよりも早く機関砲を切り裂いて破壊し、再び柱の影へ……
機関砲を失ったアブドは肩式ミサイルで柱を破壊しにかかるが、残弾の少なく威力が低い内蔵式ミサイルでは柱2つを吹き飛ばすだけで精一杯だった。
一方、テッサの周囲にはまだ柱が残っている。
「貰った!」
アブドを血祭りにするべく柱の影から飛び出し、その側面に躍り出たテッサは両手のバヨネットを閃かせ……
「な!?」
今まさに目と鼻の先にいる仇を切り裂こうとした、その瞬間……突如としてバルキリーが制御を失った。
いや、それは連戦によって蓄積したダメージが現れたからでも、テッサ自身のコンディションが影響を与えた訳でもなかった。
「ま……マグネサクション!?」
レンジャーの周囲に発生した磁力がバルキリーに絡みつき、機体のバランスを保てなくなったテッサは転倒、地面に膝をついた。
「!」
見上げると、レンジャーの右腕がぐぐっと曲がり……右手に収まったショットガンの銃口がゆっくりとテッサに向けられた。
トリガーが引かれるその瞬間、テッサは咄嗟にスラスターを全開にして回避行動を取った。かろうじて直撃こそ免れたものの、テッサはその代価としてバルキリーの左腕とバヨネットの1本を失った。
そこへアブドの追撃
テッサは柱の影に逃げ込むだけで精一杯だった。
「はぁ……はぁ……」
息を吐き、状況を確認する。
磁力の影響は抜け、操縦に支障はなかった。
だが……
「くっ……」
テッサはつい先ほどのことを思い出した。
マグネサクション
ゼネラルエンジンが開発した特殊兵装。
主に近接戦闘に対する防御用の兵装で、機体の周囲に強力な磁力を発生させ、効果範囲内の敵機を引き寄せ、制御不能に陥れることができる。
その性質から非殺傷武器の延長線上にあるとされており、合衆国では主にライオットポリスなど警察機関が保有するBMに搭載されている。
一般的にレンジャーには搭載されていない兵装なのだが、どういうわけかアブドが使っているレンジャーは、特別にその兵装が搭載されているようだった。
問題は、それが近接戦闘に対して絶対的な威力を発揮する兵装だということ
(これじゃ……勝てない……っ)
テッサは右腕に残されたバヨネットを一瞥した。
リキッドバルキリーに残されている武装は、バヨネットが1本と両膝のニーブレード……言うまでもなく、その全てが完全な接近戦用の武装だった。
テッサが接近戦を仕掛けようとすれば、アブドはまず確実にマグネサクションを使用することだろう。先ほどは運良く避けられたが、おそらく次はないだろう。
過酷な訓練を突破したテッサとOATHカンパニーが誇る技術力で生み出されたリキッドバルキリーの組み合わせの前に敵はいない。しかし、今回ばかりは相性が悪かった。
全ての射撃兵装を使い果たしたリキッドバルキリーに、最早マグネサクションへの対抗手段はなかった。
テッサは周囲を見回して何かないかと探してみるが、落ちているのは自分がパージしたライフル(残弾なし)と真っ二つになった機関砲、そして盾の残骸だけだった。
上の階へ戻れば倒した敵機の武装を剥ぎ取って使うこともできるのだろうが、それをするにはエレベーターに乗り込む必要があり、その隙をアブドが与えてくれるとは思えなかった。
その時、鉛の雨がテッサの潜む柱を叩いた。
「ぐっ……」
柱の崩壊に合わせ、テッサは別の柱へと逃げ込んだ。
その移動に合わせ、アブドはショットガンを旋回させる。
(負ける……? 私が?)
柱を背にしてショットガンの雨をやり過ごす。
(私は、死ぬ……?)
背中に衝撃を感じながら、テッサは思った。
(お母さんの仇を討つこともできずに……?)
柱が崩壊する。
反射的に飛び出した先に……アブドはテッサの行動を読んでショットガンの銃口を向けていた。放たれた無数の鉛玉が、バルキリーに命中する。
幸いにも、それは致命傷にはならなかった。
しかし右肩の装甲が吹き飛び、ツインアイの右目部分が抉り取られた。さらにフライトユニットが損傷、エンジン部分にスパークが走り、推進剤に引火するまで一刻の猶予も残されていなかった。
「ちっ……」
テッサはフライトユニットをパージせざるを得なかった。パージしてから数秒後に、スパークが推進剤へと引火し、それは大爆発を引き起こした。
至近距離での爆発に吹き飛ばされ、テッサは地面を転がった。一方、爆発の影響はアブドにも及び、爆炎に視界を阻まれ彼はテッサの姿を見失った。
爆炎に紛れ、どうにか別の柱へと移動したテッサだったが、しかし、すぐ後ろにアブドの機体が迫っているのをハッキリと感じ取っていた。
(いや……それはありえない!)
テッサは柱の影に身を隠し、歯を食いしばった。
(私は……負けられない! 負けるわけにはいかない!)
テッサは胸元で輝く宝石を握りしめた。
(お母さんの仇を討つためにも……!)
(いや、お母さんのことだけじゃない! ここで私が負けたら……サラ大虐殺のような事件が繰り返される。そうなると、これからもっと多くの人が死ぬ……)
(私のように、居場所を失う人も……)
(私のように、家族を失って苦しい思いをする人も増える)
(それに……約束した)
(アイルーと、もっとちゃんと話し合うって!)
(だから……私は……)
死ねない!
負けられない!
諦めない!
そんな時、三日月の顔がテッサの脳裏をよぎった。
(こんな時……三日月さんなら……?)
そして、テッサは三日月と初めて会った時のことを……正確には、三日月と戦った時のことを回想した。アフリカ、砂漠のど真ん中で繰り広げられたその戦いは、テッサにとってそれまでの戦い方の常識を根底から覆すものだった。
その中でとくに衝撃的だったのは……三日月が大量のミサイルをわざと受け、その爆炎に紛れていつのまにか自分たちの背後へと移動したことだった。
(あの時は……怖かったな)
圧倒的な暴力により完膚なきまでに叩きのめされ、さらにはアイルーまで失いかけたあの時のことを思い出し……テッサはひとり、ほくそ笑んだ。
(ああ、そうだね)
そして、テッサは思った。
(あの時に比べたら……今の、この状況なんて、全然怖くない!)
その瞬間、テッサの瞳に強い光が灯った。その意思に呼応するかのように、バルキリーの左目もまた強い光を放った。
(だったら……)
そして、テッサはそれを実行した。
ーーーーー
「…………」
B4フロアを、アブドは慎重に進む。
フライトユニットの爆発によって生まれた黒煙は思った以上に激しく、ただでさえ薄暗いB4フロアをさらに暗く包み込んでいた。
アブドは機体の暗視装置を起動し、バルキリーを追って柱の間を進む。時折、B5フロアへと通じる大穴とエレベーターに視線を送りつつ、バルキリーが潜むと思われる柱の影一つ一つをクリアリングしていく。
『あのさ』
「!」
その時、暗闇の中からテッサの声が響き渡った。
『完敗だわ、もう勝てる気がしない』
アブドは声の聞こえてきた場所にショットガンを向ける。
『正直言って、こっちはもう満身創痍……片腕とスラスターを失って、武装もバヨネットが1本だけ。それに対してアンタはショットガンが2丁、それにマグネサクションなんて使われてはね……』
「投降する気か?」
『……いえ、投降はしないわ』
テッサのとった作戦……それは声でアブドをおびき寄せ、近づいてきたところで一気に決着をつけるというシンプルなものだった。
(今は……これしか手がない……)
テッサはバヨネットを構えた。
『私は諦めない。アンタを殺すまで、私は絶対に諦めない』
「愚かな……」
アブドは警戒を緩めることなく機体のAIを使って、B4エリアに響き渡る声の発生源の特定を開始した。
『最後に……アンタを殺す前に、1つだけ聞いてもいい?』
「なんだ?」
『どうして、サラ大虐殺を引き起こしたの?』
その問いかけに、アブドは少し間を開け……
「……それが、命令だったからだ」
淡々と、そう告げた。
『あはははは!』
暗闇にテッサの嘲笑が響き渡る。
「?」
『言い訳にならないね』
困惑するアブドに、テッサの声は続く。
『撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけ。いくら命令だったとしても、なんの罪もない人の命を奪っていい理由にはならない……そうでしょ?』
「甘いな。その理屈がどこでも通じると思っていたのか?」
『ええ、思っていたわ。アンタたちが来るまでは』
機体のAIが導き出した情報を元に、テッサの位置を把握したアブドは、ショットガンの銃口を柱の一つへと向ける。
『アンタたちは……そもそも人間じゃない。人の皮を被った血も涙もない別の何か、怪物! バケモノ! だからこそアンタたちはこのルールは守れなかった』
「…………」
アブドは柱をショットガンの射程圏内に収めた。
『アンタもサマン親王も人でなしだよ! 世界の平和を乱す害虫、駆除しなくちゃならない世界の敵、だから……アンタは死んでいい奴だね!』
「なんとでも言うがいい」
アブドは柱の影からバルキリーが飛び出してくることを想定し、ショットガンの射程距離ギリギリで発砲。
複数発放たれた散弾の雨を受け、柱は一瞬で砕け散り、その中程から倒壊を始める。アブドはバルキリーの出現に備えた。
「……?」
しかし、いつまで経ってもそれは現れなかった。
「これは……!」
そして、アブドは気づいた。
『はぁ……』
声を発する、その物体を
『……あのさ、まだ気づかないの?』
折れた柱の根元に落ちている、小さな箱の存在に
『もう……アンタは終わりだってことに』
それはバルキリーの声帯……もとい、バルキリーから切り離されたスピーカーだった。
テッサは自分のバルキリーに内蔵されていたスピーカーを抉り取り、そこに自身の声を吹き込んだ端末をセットし、再生することであたかもそこに自分がいるかのように見せかけていたのだ。
テッサは自分の言葉に対してアブドがどのような反応を返すのかを見越した上で端末に声を入力していた。しかし、それはテッサにとっても大きな賭けだった。想定していた会話が上手く成り立たず、アブドが早々にテッサの意図に気づいてしまうリスクも十分にあった他、スピーカーが上手く作動しない、アブドがテッサの言葉を無視して攻撃を仕掛けてくる……など、考えられるリスクを上げればキリがなかった。
だが見返りは大きかった。
そして、テッサは賭けに勝った。
ヴン……
レンジャーの背後に緑色の瞳が浮かび上がる。
「終わりだ!」
テッサはバルキリーを走らせ、レンジャーめがけてバヨネットを突き出し……
「甘い! マグネサクション!」
しかし、バヨネットの切っ先がレンジャーの背中を捉えようとしたその刹那……アブドはマグネサクションを起動する。
「しまっ……!」
磁力の波に囚われ、バルキリーは制御を失って転倒しかける。テッサは一か八かでバヨネットを地面に突き刺してダウンを防ぐ、だが……
「残念だったな!」
アブドはレンジャーを反転させ、ショットガンの銃口をバルキリーのコックピットへと突き立てた。
「!!!」
それに対し、バルキリーは未だ磁力に犯され制御不能。さらに、バルキリーにはゼロ距離からのショットガンに耐えられるだけの防御力は備わっていない。
アブドは勝利を確信した。
ショットガンのトリガーが引かれる……
爆音と共に放たれた大型の弾丸は、銃口から飛び出すと、無数の鉛玉となってすぐさま分裂を開始し……バルキリーへと殺到……
そして、それら全てが……
地面を抉った。
「何!?」
突然の出来事に、アブドは驚愕した。
目の前から、忽然とバルキリーが姿を消したのだ。
あるのは、地面に突き刺さったバヨネットのみ
肝心の本体はどこへ……?
ーーーーー
その時、テッサは
「…………」
アブドの真後ろに着地していた。
ここまで、全てテッサの計算通りだった。先程、バヨネットを地面に突き刺していたのはマグネサクションに耐えるためだけではなかった。
ショットガンのトリガーが引かれるその瞬間、テッサはバヨネットの指向性ショックウェーブを発動。バヨネットの先端から放たれた衝撃波は地面へと向けられるが、質量の差によって反射……衝撃波はバルキリーの元へと帰ってくる。
しかし、衝撃波に抗うのではなくその勢いに乗り、テッサはバルキリーを空中へと飛ばした。衝撃波を受けた代償として、バヨネットを保持していた右手のうち親指と人差し指が消失するが、何も問題はなかった。
バルキリーはレンジャーの頭上を飛び越え、空中で磁力による制御不能を脱し、着地……その結果、テッサは完全にアブドの背後を取る形となった。
(これを逃したら最後……!)
今、戦況はテッサへと好転していた。
テッサが機体の姿勢を整えるまで1秒、攻撃に移るまで1秒……合計2秒を必要としていた。それに対し、アブドは状況を理解するのに1秒、機体を反転させるまで1秒、さらに迎撃に1秒……合計3秒かかる。
(これで……決める!)
テッサはバルキリーに残された最後の武器……右膝部分に収納されたブレードを展開
「はあああッッッ!」
レンジャーのコックピットめがけて、膝蹴りを放った。
「ぬううううッッッ!」
しかし、ニーブレードは反転したレンジャーの左腕に突き刺さり、刺突位置が悪かったのか、レンジャーの左腕とショットガンを破壊することに成功するも、根元から折れてしまった。
両者の姿勢が大きく崩れる。
「まだ!!!」
テッサは機体を立て直しつつ、左膝のブレードを展開
アブドは右腕のショットガンを旋回させる……
早かったのはテッサだった。
ロングバレルショットガンが突きつけられるよりも早く、その内側に飛び込み、ニーブレードをコックピットへと叩き込もうとして……
「同じ手を何度も!」
その瞬間、レンジャーの頭部バルカン砲が火を吹いた。
バルカン砲はバルキリーのニーブレードへと着弾。ニーブレードは根元から折れ、衝撃で頭上へと吹き飛ばされた。
これにより、バルキリーは全ての武装を喪失した。
アブドは今度こそ勝利を確信する。
だが、そこで信じられないことが起こった。
根元から折れ、舞い上がったニーブレードを……
「まだだ!」
テッサは空中で掴み取った。
人間で言うところの中指から小指にかけた、3本の指しか残っていない右腕のマニュピレーターでブレードを痛々しく掴み上げ、その切っ先を下に向け……
「とどけぇぇぇぇぇぇえ!!!」
レンジャーのコックピットめがけて、振り下ろした。
「ぐわあああああああ!?」
ブレードの先端がコックピットを貫き、パイロットの体をも貫いてレンジャーを串刺しにした。
「が……はっ……」
レンジャーの手からショットガンが落ちる。
「…………あ、あああああ」
コックピットにブレードを突き刺さしたまま、レンジャーが……いや、アブドはたたらを踏むかのように後方へ数歩下がり……
「…………」
ヨロヨロと、地面に開いた大穴へと落ちていった。
数秒後……大穴の向こうから、金属が潰れる大きな音が鳴り響いた。
「…………勝った……の?」
朦朧とする意識の中、テッサはしばらくの間、自分のしたことが信じられないというように呆然と佇んでいた。
「あ…………」
リキッドバルキリーが限界を迎えたのはちょうどその時だった。左足と右腕に蓄積したダメージがスパークとなって現れ、小規模な爆発を引き起こし、衝撃によりテッサは意識を失った。
片足を失い、バルキリーが倒れ始める。
だが、機体が大きく傾いたその瞬間……後ろからバルキリーを掴み、倒れないよう支える影があった。
「お疲れ様」
コックピットの中で眠るテッサに向けて、三日月は優しく囁いた。
ーーーーー
パラダイス・ヴィラB5
「…………」
その男は、たった1人で通路を進んでいた。
左腕をなくした男の顔面は大量出血により蒼白に染まり、男が進む後には右腕から吹き出した血液が川を作っていた。
川を遡ると、そこには落下による衝撃で潰れたレンジャーの姿があり、そのコックピット付近には小さな刃が突き刺さっていた。
(なぜ、私は生きているのだ?)
その男、アブドは奇跡的に即死を免れていた。
朦朧とする意識の中、アブドは進み続ける。
自分の勝利を待つ……主人の元へと。
サマン親王もまた、生きていた。
リキッドバルキリーの砲撃によってパラダイス・ヴィラが崩壊した際、発生した二次災害によりB5フロアは完全に土砂で埋め尽くされてしまい、圧死したかに思えたサマン親王だったが、奇跡的にサマン親王が避難していた格納庫だけは被害を免れていたのだ。
サマン親王の生存を確認したアブドはこのことを司令部へと伝えようとしたが、この時すでに司令部は破壊され、通信系統もダウンしていることもあり、そのことを上のフロアへと伝えることができなかった。
エレベーターも使用不能になっていたため、開いた穴を登ってそれを上のフロアへと伝えに行こうとした……ちょうどその時、テッサのバルキリーと遭遇したのだ。
(その結果が……これか……)
たった1人の少女に敗北したばかりではなく、テッサの放った一撃はアブドの左肩を綺麗に切断していた。その後、穴へと落ちたアブドだったが、落下の最中、奇跡的に脱出装置が作動し、アブドは生きながらえることができた。
しかし、もはや彼の命が長くないのは誰が見ても明らかだった。アブド自身、迫りつつある死をハッキリと感じ取っていた。
それでもアブドは……なくなった肩で息をしながら、なおも歩き続ける。その姿は、男は死に場所を求めて彷徨う落ち武者のようだった。
(なぜ……?)
そのことに尚も気づかないアブドを支えていたのは気力だけだった。アブドはヨロヨロと……時間をかけて格納庫へと歩く
格納庫にはサマン親王と、彼の座乗艦であるジャッジメントシャトーが待機していた。
彼ならば……その答えを教えてくれるだろう。そんな淡い期待を覚えながら、アブドはついに巨大な扉の前へとたどり着いた。
側にある端末に認証コードを入力し、格納庫の扉を開く
外壁に体を預けながら、ゆっくりと……格納庫の中へ……
「…………!?」
そこで、アブドは顔を凍りつかせた。
なぜなら……そこにはサマン親王の戦艦、ジャッジメントシャトーの姿はなく、代わりに赤色と銀色の塗装が施された鉄塊がゴロゴロと転がっているだけだったからだ。
それは、ジャッジメントシャトーの残骸だった。
炎上するコックピットの中に、既に炭化したサマン親王と乗組員たちの姿。黒くなっても判別可能なその表情は、苦しみで酷く歪んでいた。
そこには、コックピットのハッチを踏みつけ、乗組員たちが逃げられないように退路を塞いでいる1機のBMの姿があった。
それはゼネラルエンジン製『リンクス』のカスタム機だった。両肩にリンクスにとって負荷にしかならないビームキャノンを搭載し、火力と機動力を高めた世界にひとつだけの、オリジナルの機体……
「!」
アブドには、その機体に見覚えがあった。
「久しぶりだな」
リンクスのコックピットから身を乗り出すは、銀髪の傭兵
「……生きていたのか」
「ああ、お互い……な」
アブドはリンクスの上に佇む男を見上げた。
男はアブドに拳銃を向けている。
「そうか……」
全てを察して、アブドはニヤリと笑った。
パンッ……
アブドが懐から拳銃を引き抜くのと、傭兵が発砲するのはほぼ同時だった。
ーーーーー
「…………」
銀髪の傭兵は生き絶えたアブドを背に、拳銃をしまって、代わりに楊枝を取り出そうとポケットを探っていると、彼の元に通信が入ってきた。
『終わった?』
「ああ、終わった」
楊枝を取り出すのを諦めた傭兵は、ポケットから通信機を取り出して短く返事をした。
『そっか』
「…………」
『ベカス?』
「あ……ああ、なんだ?」
『生きてる?』
「ああ、オレは生きてる」
そこで小さく咳をして、傭兵は……ベカスはこう続けた。
「三日月、オレは……生きている」
『ん、そうだね』
ベカスは三日月の淡々とした返事を耳にした。
それは遡るのこと数時間前……
OATHカンパニーでの出来事。
通路の奥に消えたテッサ
それを見送る三日月とベカス
膝をつくベカスに、三日月はこう囁きかけていた。
「ベカスは後から来てね」
……と、
三日月の言葉を受け、格納庫に向かったベカスはそこでもう一機の輸送機を目撃した。そのコックピットには、葵博士とその助手であるドリスの姿。2人に促されるまま、ベカスはパラダイス・ヴィラへと飛んだ。
遅れて現地入りしたベカスは、テッサが砲撃で開けた穴から密かにパラダイス・ヴィラへと潜入、ダクトを通って一気に最下層まで降下。そしてB4でテッサとアブドが激戦が繰り広げている間に、ベカスはサマン親王を撃破していた。
『それじゃあ、後は俺とミドリちゃんに任せて、ベカスは適当に帰ってね……』
「待ってくれ!」
ベカスは三日月が通信を切るのを慌てて止めた。
「三日月……その…………ありがとな」
『……なんの話?』
「いや……許してくれないんじゃないかって思ってな」
『……?』
「オレに……戦う機会をくれて、ありがとな」
『別に、俺は最初からベカスに戦うなって言ってないし……っていうか……』
三日月は小さく息を吐き、こう続けた。
『ベカスが自分の戦いだって思っているなら、それはベカスの戦いで、それを止める権利は……俺にはないから』
「そうか」
『うん。じゃあ、またね』
ベカスはポケットから楊枝を取り出して口に咥え……
「……イーサ」
小さく、恩人の名前を呼んだ。
ーーーーー
こうして、たった1人の戦いは終わった。
ーーーーー
1週間後……
OATHカンパニー
三日月の部屋
「…………?」
深夜、ベッドの上で中々寝付けずにいた三日月は、部屋の入り口の前に何者かの気配を感じてムクリと起き上がった。
「…………あ」
扉を開けると、そこにはテッサがいた。
「テッサ? どうしたの?」
「三日月さん……これは、その……」
そこでテッサは何やら俯き、口を噤んだ。
「……入って」
その様子から何かを感じ取ったのか、三日月は彼女を部屋へと招き入れることにした。
「え……でも……」
「いいから」
テッサは躊躇いつつも、三日月の後に続いた。
「その……ごめんなさい」
「何が?」
「もしかしたら起こしちゃったかなって……」
「別に……なんか眠れなかった」
「そうですか……」
「もしかして、テッサも?」
「実は……私も、同じです」
三日月の部屋はビジネスホテルのように、リビングとベッドルームが一体化したような所だった。そして部屋の中にあるのは、冷蔵庫やクローゼット、クーラーなどといった生きる為に最低限必要なものばかりで色がなく、あるとすれば園芸用の教科書が部屋の隅にあるくらいだった。
「えーっと……」
三日月は調理台に置かれたケトルを手にした。
「俺、今まで自分の部屋とか持ったことないからあんまり分かんないんだけど……こういう時って、何か飲み物でも出せばいいんだっけ?」
「い、いえ……お構いなく」
ケトルを示すと、テッサはやんわりと断りを入れた。
「それで……どうしたの?」
ベッドに2人並ぶように座り、三日月はテッサの顔を覗き込んだ。
「三日月さんは……前に言いましたよね。ベカスから復讐は虚しくなるだけだって言われた時、自分は虚しくなんてならなかった……って」
「うん」
「あれは、本当なんですか?」
「うん」
「そうですか……」
そこでテッサは顔に影を浮かべながら、小さく笑った。
「やっぱり……私は弱いんだね」
「テッサ?」
三日月は心配そうにテッサを見つめた。
「私は、三日月さんみたいになりたかったんです」
……弱い自分が嫌だったから
そんな自分を変える為に
私は、三日月さんみたいになろうと思いました。
三日月さんのような力が欲しかった。
三日月さんのような優しさが欲しかった。
そして、三日月さんのような強い心が欲しかった。
だからこそ、三日月さんになれるよう努力しました。
三日月さんの真似をして、戦いました。
でも……結局、私は三日月さんになれなかった。
……なぜなら
「お母さんの仇を討てて、嬉しいはずなのに……なんでだろ……心の底から悲しみが溢れてくるみたいで……」
テッサの瞳から涙がこぼれ落ちる。
「だから……私は、弱いんだなって……三日月さんみたいな強い心があったなら、こんな想いはしなくて済んだはずなのに……私は結局、自分を変えることができなかったんだって……」
……そんなことは、ないと思う。
「え?」
テッサは顔を上げて三日月を見つめた。
「テッサは変わったよ。確実に強くなってる」
「でも……」
「テッサは、もっと自分に自信を持ってもいいと思う。分かってるから……テッサがもう弱くないって……弱い自分を変えることができたって、分かってるから」
三日月は涙に濡れたテッサの頬に触れた。
「俺はずっとテッサのことを見てきたから、分かる」
「……三日月さん」
頬に触れている三日月の手に、テッサは自分の手を重ねた。
「無理して俺みたいになろうとしなくても、俺は今のテッサのままでいいと思う。だってテッサには俺にはない、いいところがたくさんあるから」
三日月はテッサの顔を真っ直ぐに見つめた。
「俺は、そのままのテッサの方が…………好き」
「三日月……さん…………っ」
テッサは三日月に肩を寄せて、小さく泣いた。
三日月はテッサを抱き寄せ、彼女の髪を優しく撫でた。
三日月の優しさに触れたテッサは、まるで今まで溜め込んできたものを決壊させるかのように、声を上げて泣いた。三日月の胸元に顔を埋め、三日月にしか聞こえない声で自分が抱えていた苦痛を吐き出した。
2人はしばらくの間体を密着させて、お互いの体温を感じながら、同じひと時を過ごした。
「テッサ、これからは未来を生きて」
三日月はテッサが落ち着いたのを見計らって声をかけた。
「テッサにはアイルーがいるでしょ? 過去に囚われるのはもう終わり、これからはアイルーと進み続ける明日を……2人で歩む未来のことを考えて」
「2人の……未来……?」
テッサは泣きはらした顔を上げ、三日月の瞳を見つめた。
「俺は、2人に幸せになってほしいって思ってるから」
「私は……幸せになっても、いいんですか?」
「当たり前でしょ」
その言葉に、テッサは少しだけ俯き……
「三日月さんは、いないんですか?」
その言葉を口にした。
「私たちの進む未来に、三日月さんはいないんですか?」
そばに、いてくれないんですか?
あなたのいない未来に、幸せなんて……
「…………」
テッサの言葉に、三日月は少しだけ顔を俯かせた。
「……ふふっ」
すると、テッサは唐突に小さく笑った。
「ごめんなさい……ちょっとだけ、いじわるだったね」
彼女は瞳に浮かぶ涙を払って、穏やかな笑みを浮かべた。
「本当は……ちゃんと、分かっているんです」
三日月さんには、オルガさんがいるんだって
「もう、三日月さんには鉄華団っていう大切な家族がいて、三日月さんの隣を歩いていいのは、オルガさんだけで……そこに私が入る余地なんて、ないんだって……」
でも……
テッサは三日月の頬に手をやり、俯いてしまった彼の顔を上げた。それから、少しだけ驚いた様子を見せる三日月へ、涙ながらに色っぽい視線を向け……
お願いします、三日月さん
今だけでも……
少しだけでもいいんです
今だけは、テッサに幸せを感じさせてください
テッサに、勇気をください
幸せな明日を生きる勇気を……
未来を生きる勇気をください。
サブタイトル更新
『2人の未来、2人の夜明け』
機動戦隊アイアンブラッドサーガ
外伝1『たった1人の弔い合戦』ーENDー
正直言って鎮魂歌は納得がいかなかったんです。
ですが、今回の話が最良であるとは私自身思っていません。
でも、これだけは言わせてください
綺麗事ばかりでは人は成長しないと思います。
そして、伝えるべき言葉はちゃんと伝えなければ意味はないと思います。
以上です、ここまで読んでいただきありがとうございました。
では……また……
アイサガで貴方の好きなキャラを教えてください。(回答はこちらではなく気軽にコメントの方へお願いします)
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境界戦機もっと流行れ
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鉄血・ブレットもっと流行れ
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水星の魔女×鉄血のオルフェンズ?
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あと、アイサガのエンディングも作ります