機動戦隊アイアンブラッドサーガー悪魔と少女と機甲ー   作:野生のムジナは語彙力がない

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この前、(1年くらい前に投稿された)ハッシュのMADを見たんですけど、そのコメント欄に(ハッシュが)黒いバルバトスに乗るんじゃないかと予想してた云々と言っている人がいて、まあこちらは黒いユニコーンが元ネタなんですけど……何が言いたいかって、みんな考えることは同じなんだなって思いました。

なので、黒いバルバトスは終了します。




それでは、続きをどうぞ


外伝2ー2:反撃の狼煙

 

 

 

突如として勃発したファントムと宏武率いる極東共和国軍(+アイアンサーガ主人公勢)の戦闘は、早くも決着が付こうとしていた。

 

 

 

極東共和国軍の圧倒的勝利という形で

 

 

 

『グアァァァァァ……』

 

獣のような呻き声を発し、ファントムはガクリと片膝をついた。その巨大な右腕を松葉杖のごとく砂に突き刺し、黒い巨体を支えている。

巨大な右腕はボロボロになり、全身を覆う黒い装甲も所々ひび割れ、頭部のV字アンテナも片方をなくし、ツインアイからは弱々しい赤色しか放たれなかった。

 

「この程度か」

 

玄武に搭乗している宏武は、膝をつくファントムに向けて静かに告げたが、それでも満身創痍の敵を前に拳を納めるような事はせず、一切の油断なくファントムを見つめていた。

 

「つ……強い……!」

 

先ほどから宏武の戦いぶりを見ていたベカスは、改めて宏武の強さと極東武帝の名前が伊達ではないことを思い知った。

「「「確かに……」」」

それはベカスの隣にいた影麟も同様で、宏武のことを知らない佐伯、グルミ、アルトも同意見だというように、その場にいた全員が唖然としながらも宏武の戦いぶりに魅了されていた。

 

圧倒的なパワーとスピードを持つファントム

 

『バルバトス』という悪魔の名前を冠するだけあって、その強さはかつて三日月を苦しめ、A.C.E.学園の守衛を一瞬のうちに壊滅させたように、並の人間には絶対に敵わないほどのものだった。

 

そう、並の人間であったのならば

 

しかし、宏武の武術はファントムを圧倒した。

ファントムがいくら他を凌駕するパワーとスピードを持ち合わせていても、それを打ち破るだけの技量と武の極意を持つ宏武を前にしては、あのファントムでさえも無力だった。

 

そのため戦いは終始、宏武が主導権を握っていた。

重い宏武の拳はファントムからパワーを奪い、宏武の素早い投げ技はファントムのスピードを殺し、その自由を奪った。

ファントムは何度もその巨大な拳を振るうも、その力は全ていなされ、受け流され、逆にカウンターを叩き込まれ、その度に地面に倒れた。

 

「お主のことは知っておったよ。この極東共和国にも、独自の情報網があるのでな」

 

拳を突きつけながら、宏武が淡々と告げる。

 

「なんでも、悪魔のような強さとバケモノのような恐ろしさを兼ね備えた存在で、単騎で1国の軍隊にも匹敵する戦闘力があると聞いて期待していたのじゃが……まあ、蓋を開けてみれば、所詮はこの程度か」

 

『…………』

 

「お主は、直線的な攻撃ばかりで工夫がない。どう攻撃が来ると分かっていれば、自ずと対処法は見つかるものよ。それはレーザー光線のような光学兵器を躱すことが、迫り来る1発の実弾を躱すことよりも遥かに容易なことと同義なのだ」

 

サラリと恐ろしいことを告げる宏武

 

「所長! それはあなただけです!」

「普通の人間は、レーザー光線なんか避けられません!」

「ハハッ、バケモノはむしろ所長の方ですよ!」

 

宏武の後ろに控えていた極東共和国軍出身の軍人たちが、所長の言葉を茶化すかのように笑ってみせた。皆、宏武の本気を間近で見られたことが嬉しかったのか、士気は高く、その表情は明るかった。

そして、その集団の中に撃破されたものはいなかった。

 

「ふむ、念には念を入れてこ奴らに召集をかけていたものの、誰もお主がこの程度だとは思わなんだ。まあ、やかましいのは勘弁せい」

 

『…………ッッッ!(ギリッ)』

 

余裕な表情を浮かべる宏武と、彼が呼んだ50名近い軍人たちを流し見て、ファントムは悔しそうに歯ぎしりをしてみせた。

 

「力に溺れすぎたな、ファントム(亡霊)よ」

 

『ガアアアアアッッッ!!!』

 

次の瞬間、宏武の単純な煽りに誘われたファントムは、大地を蹴って一瞬のうちに宏武の眼前に到達すると、その巨大な腕で宏武を掴み上げ……

 

「ハッ!」

 

『!!!』

 

しかし、宏武は投げカウンターを発動。ファントムの拳はあっさりと宏武に受け止められ、そのまま逆に組み付かれ、投げ飛ばされてしまった。

 

『グッ…………!』

 

ファントムの巨体が宙を舞う

 

宏武は機体を跳躍させ、さらに追撃をかける

 

「幻舞拳・瞬壊!」

 

宏武は空中で態勢を整え、巨大な拳をファントムへと叩き込んだ。

 

轟音とともに、ファントムの胸部……ちょうどコックピットがあると思わしき場所に大きな陥没ができた。もし、ファントムにパイロットがいるのならこの時点で押し潰され、絶命していたことだろう。

 

ファントムは勢いそのまま砂の上に叩きつけられた。

宏武はその真正面に着地を決める。

 

『グッ、グッ…………』

 

しかし、ファントムはまだ生きていた。

震える腕を無理やり砂に突き刺して上体を起こし、両膝をついて宏武のことを見上げた。

 

「ほう、まだ生きておるとは」

 

「師匠! そいつの弱点は……」

 

ベカスは先程コックピットを剣で突き刺した時の手応えのなさを思い出し、宏武にそれを伝えるべく咄嗟に声を上げようとするも……

 

「言わずとも分かっとるわい」

 

そういうや否や、宏武はあっという間に距離を詰め、巨大な拳でファントムの顔面を鷲掴みにすると……次の瞬間、ファントムの視線が突然180度回転した。

 

『ガッ…………アアアッッッ……』

 

首を折られたファントムは最後の力を振り絞って爪を振るうも、宏武は素早く後ろに飛んでそれを回避した。

首がすわっていない状態となったファントムだが、それでも戦うことを望んでいるかのようにヨロヨロと立ち上がった。

 

しかし、一歩踏み出すたびに安定感のない首がプラプラと揺れていることから、もはや長くないことが見て取れた。

 

「わしら極東の言葉に、人に一筋の情を留めておけば、後日好く相見えん……というのがある。まあ、お主は人ならざるものなのだろうがな」

 

宏武は幻舞拳の構えを取り、その言葉を放った。それはファントムに対する死刑宣告とも取れる言葉だった。

 

「皆、それぞれ事情があるのじゃ。どうだ、お主の口から飼い主の名前が漏れれば、わしらも悪いようにはせんよ」

 

『…………』

 

しかし、ファントムは宏武へ一歩踏み出すと……

 

『…………ガアアアアア!!!』

 

巨大な右腕を振り上げ、宏武へと飛びかかった。

 

「寸拳……」

 

しかし、宏武は……

 

「発勁!」

 

ファントムの右腕が振り下ろされるよりも早く、宏武の放った一撃がファントムの頭部に吸い込まれた。

 

それは安定感を失ったファントムの頭部を吹き飛ばすのに十分すぎるほどの威力があった。半分に潰れたファントムの頭部が胴体から離れ、数メートルほど後方の砂上に落ちた。

 

頭部をなくし、胴体だけとなったファントムが、巨体をしならせて、前のめりにゆっくりと倒れた。

 

「ふん」

 

倒れて動かなくなったそれを一瞥した後、宏武は後方の仲間たちの方へ振り返り、拳を上げた。

 

「「「おおおおおおおおおおお!!!!!」」」

 

宏武の勝利に、その場にいた全員が湧いた。

 

宏武に倣うように極東軍たちは皆、手にした銃器や拳を振り上げて、宏武の勝利を祝うと共に、優雅とも呼べるその戦いで我々を魅了させてくれたことに対する礼を送った。

 

「どうじゃ、わしの戦いは」

 

「1つ、分かったことがある」

 

戻ってきた宏武を前に、ベカスはため息を吐き……

 

「あんたとは絶対に戦っちゃいけないってね」

 

そう言って、肩をすくめてみせた。

 

「なぁに、自信を持たんか! お主らの打撃耐性なら、あれに5分耐えても余裕があるじゃろ」

 

「それは本当にお誉めいただいているんですかねぇ」

 

「…………」(こくり)

 

ベカスの呆れ声に、隣にいた影麟も小さく頷いた。

 

「それで……」

 

宏武は次に、先ほどから戦いを眺めていた3人へと視線を向けた。

 

「お主らは、何者だ?」

 

ベカスと影麟も視線を向ける。

そこには、ゼオライマーのコアに呼びかけられて召喚された3人のパイロット……アルト、佐伯、グルミの姿があった。

 

宏武の鋭い視線に照らされ、3人の間に緊張が走る。

 

「俺たちは……」

 

戸惑いながらも、3人のうちの一人……ダガーに搭乗していた少年、アルトが思い切って声を上げようとするも……

 

「いや、すまんな」

 

しかし、その途中で宏武に言葉を止められた。

 

「分かっておるさ。お主らも、わしの弟子と同じく次元を超えてやってきたアレに助けを求められたのだろう?」

 

そう言って宏武は、直ぐそばにあった残骸を指差した。

 

そこには、もう既にドロドロに溶けてしまったグレートゼオライマーの残骸があった。頭部と両腕、そして胸部を丸々失ったそれは、最早原型がどのようなものだったのかを思い出すことができないほど体を失っていた。

 

そして、残ったパーツもファントムの酸に蝕まれ徐々に消失し続けていた。このままでは、朝になる頃にはチリ1つ残さず消えてしまっていることだろう。

 

「……はい、俺たちは……ある人から彼を救って欲しいと頼まれて……でも……」

 

そこでアルトは口を噤んだ。

隣にいたグルミも無念そうに首を振った。

 

「結局……救えなかった……」

 

佐伯は自分の力不足を嘆くように俯いた。

 

「いや、あんたたちのせいじゃねぇ……」

 

そんな3人を見かねて、ベカスが声を上げる。

 

「本当に悪いのはオレだ。オレは、あいつがただ黙ってやられるのを見ていることしかできなかった。恐怖で、動けなかったんだ。だから責任は……オレにある」

 

「うるさいわい!」

 

「ぐっ!?」

 

落ち込んだ様子を見せるベカスに、宏武は彼の乗機であるウァサゴの頭部を軽く叩いた。

ゆるい振動にさらされ、ベカスが驚く。

 

「あの状況では仕方がないとしか言いようがない。それをグダグダと……いつまで根に持っているつもりじゃ?」

 

「でも、師匠……」

 

「お主の気持ちは分からなくもない。たしかに、あのような形で最後を迎えて、彼らはさぞ無念だったじゃろうな。しかし、お主が責任を感じる必要はない、そうしている暇があるのなら、もっと鍛錬に励まぬか」

 

「…………」

 

ベカスは思わず真上を見上げた。

つい先ほどまでそこにあったはずの次元の裂け目は、いつのまにか何事もなかったかのように消えていた。

 

「終わったんだな……」

 

「…………」(こくり)

 

ベカスの言葉に、影麟は小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンブラッドサーガ

外伝2:「冥王の襲来ー悪夢ー」ーENDー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

あとがき

 

というわけで、ファントムこと黒いバルバトスの登場はこれが最後です。

 

本当は三日月にとどめを刺して欲しかったのですが……まあ、話の流れ的に仕方ないですよね。だってそれだけのことをファントムはしちゃったんですから

 

色々と方々から批判されているとはいえ、やはり人の死というものは虚しくなるもので、本当にゼオライマーのパイロットのことは残念だと思って……

 

 

 

 

 

…………ん?

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

その時、ふと何かを感じ取ったのか影麟がキョロキョロと周りを見回した。

 

「影麟? どうしたんだ?」

 

「…………」

 

コックピットの中で緊張をほぐすように甘苦を咥えたベカスに、影麟は「しー」と、青龍を操って静かにするよう示した。

 

「…………え?」

 

そして、ベカスはそれに気づいた。

 

どこからともなく聞こえてくる、その音に……

 

「これは……?」

 

ベカスと影麟の様子に気づいたアルト、佐伯、グルミがハッとしたように耳を澄まし始めた。しかし、後方で騒ぐ軍人たちの声がうるさく、その音は若い彼らの耳をもってしてもよく聞き取れなかった。

 

「なんだ……この音は……?」

 

グルミは音に対して不快感を露わにした。

 

「この……ひどく人を不安にさせる、音は……」

 

佐伯は目を閉じて音の発生源を探っている。

 

『いや、これは音というより……』

 

佐伯の乗るスサノオに搭載されたAIは、自身の中でじっくりとそれを分析し、そしてある1つの結論を出した。

 

「歌……?」

 

アルトがボソリと口にしたその言葉に、その場にいた全員がハッと顔を見合わせた。

 

 

 

〜♫

 

 

 

その音は、どんどん強くなっていく

 

 

 

「おい、誰だよ。音楽鳴らしてるやつぁ」

 

やがて、歓喜に湧く軍人たちもようやくその音に気づいたのか、騒ぎつつもその音について声を上げ始めた。

 

「辛気臭い曲だな」

 

「この場には似つかわしくないぜ」

 

「ああ、もっとこう……パーっと派手なのをだな!」

 

 

 

〜♫

 

 

 

最初はそう言って茶化していた軍人たちだったが、音が大きくなるにつれて不快感を露わにし始めた。

 

「おい、誰だよ。やめろ!」

 

「いい加減、うるせぇぞ!」

 

 

 

〜♫

 

 

 

しかし、それでも音は鳴り止まない。

 

「これは……?」

 

歳のせいで耳が遠くなり、周りの者たちより音の存在に気づくのが遅れた宏武も、次第に大きくなる音に不審さを感じた。

 

その場にいた全員が音源を探した。

 

やがて、全員の視線がある一点に集中した。

 

 

 

…………(〜♫)

 

 

 

音は、首のなくなったファントムから聞こえていた。

 

「まさか…………」

 

ベカスは最悪の事態を想定して、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

 

 

 

……その時だった。

 

 

 

…………(びくっ)

 

ファントムの体が、大きく跳ねた。

 

「うわっ!」

 

その光景に、その場にいた全員が驚愕した。

 

びくびくと体を震わせながら、マリオネットのごとく、まるで何者かによって釣り上げられるように体を起こし、ファントムは砂の上に立ち上がった。

 

そして、全員の見ている前で……

 

 

 

ぐちょ……ぐちょ……

 

 

 

ファントムの損傷した部分から、例の黒い液体が染み出し……そして、液体はファントムの体にまとわりつくと、たちまち凝固し始め……

 

「まさか、再生……している……?」

 

ベカスが放った言葉通り……

 

 

 

ぐちょ……ぐちょ……

 

 

 

凝固を始めた液体はやがて個体となり、ファントムの負った傷を、受けた損傷を復元するかのようにその装甲を形作り始めた。

 

それだけではなく、ファントムの首から大量の液体が吹き出し、凝固し、顎から少しずつファントムの頭部を形作り始めた。

 

「いかん!」

 

危険を感じた宏武が絶叫する。

 

「あいつを撃てッッッ!」

 

ベカスは咄嗟に声を上げた。

 

その声に反応し、アルトはダガーの電磁クロスボウを、グルミはフェンリルの主砲を、佐伯はスサノオの技『草薙』による遠距離攻撃を放った。

 

いずれも強力な一撃である。

3つを束にしたその直撃に耐えられるBMは、おそらくこの世に存在していないだろう。

 

だが……

 

「なっ!?」

 

そして、3人は驚愕した。

 

なぜなら、ファントムの周囲に突如として発生した不可視の壁……FSフィールドが3つの攻撃を阻み、無力化させてしまったからだ。

 

極東軍人が操る竜胆もファイア重機関銃をはなち、巨闕も分離式ミサイルをファントムめがけて叩き込むが、それらも全てFSフィールドによって弾かれてしまった。

 

「弾かれた!?」

 

軍人たちの間に戸惑いが走った。

 

「ならば!」

 

それを見ていた宏武は、再生中のファントムめがけて機体を飛ばした。

 

「師匠! 慎重に!」

 

「わかっとるわい!」

 

ベカスの言葉を聞き流し、宏武はファントムめがけて拳を振り下ろした。FSフィールドが防げるのは、その特性上、遠距離攻撃のみとなっていた。そのため、遠距離攻撃でない近接格闘ならFSフィールドを無視してファントムに一撃を与えることを可能としていた。

そのため、宏武の判断は正しいと言えた。

 

宏武の放った強烈な一撃が、ファントムの目元まで再生しつつあった頭部へと吸い込まれた。その場にいた誰もが、再びファントムの顔が後方へ吹き飛ぶ様を想像した。

 

「何!?」

 

その瞬間、宏武は驚愕した。

玄武のフルパワーを用いて放った一撃だったにもかかわらず……しかし、ファントムはビクともしなかった。ファントムは巨大な拳を顔面だけで受け止め、その口元をぐにゃりと曲げた。

 

「ぐ……おおおおおおお!!!」

 

なおも宏武は脚部の出力を上げて力強く大地を踏みしめ、さらにスラスターを吹かせ、ファントムを押し込もうとするも、驚くべきことにファントムはそこから一歩も後ろに押されることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『メイ オォォォォォォォウ!!!』

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

完全に再生したファントムを前に、何かを感じ取ったのか、宏武は自機を大きく後ろに飛ばした。結果的に、それは宏武自身の命を救うことになった。

 

「ぐおおおおお!!!?」

 

突如、なにもない空間が爆発した。

その爆発に巻き込まれ、宏武の腕が……いや、正確に言えば彼の搭乗している玄武の巨大な右腕が、跡形もなく消えてしまったのだ。

 

「師匠!?」

 

砂の上にダウンする宏武に、ベカスが駆け寄る。

 

「師匠! 無事か!」

 

「だ……大丈夫じゃ、たかが右腕を一本持っていかれただけじゃ……だが……」

 

宏武は機体を起こしながら、亡霊を見上げた。

 

ファントムは両腕を自身の真正面に掲げ、それから胸部の前で拳を重ねるようにしてみせた後……

 

 

 

 

 

 

 

 

『茶番ハ、終ワリダ』

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、恐ろしく響き渡る声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンブラッドサーガ

外伝3:「冥王バルバトス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな……バカな……!」

 

ウァサゴのコックピットの中で、ベカスは悪態を吐いた。その額から大量の冷や汗を流し、驚きを隠せない様子の彼だったが、それはその場にいた全員が同じことだった。

 

アルト、グルミ、佐伯もまた、信じられないと言うような目で完全復活を遂げたファントムを見つめていた。

 

これには、歴戦の勇士である極東軍人たちの間にも衝撃が走った。たが、彼らにとってなによりも衝撃的だったのは……

 

「所長が……やられた?」

 

先程、圧倒的な実力差でファントムを追い詰め、ほぼ無傷の状態で完封したはずの宏武が、謎の攻撃を受け右腕を失ってしまったことにあった。

 

極東共和国の軍人である彼らにとって、極東武帝の名を持つ宏武こそが最強の人物だと信じきっていた。それは、かつて宏武が成し得た偉業と極東での知名度を考えれば当然のことなのかもしれない。彼らにとって宏武こそが至高であり、宏武こそが極東のヒーロー的な存在だった。

 

その宏武が、まさかたったの一撃で右腕を失い、さらに吹き飛ばされてダウンを取られてしまったことが彼らにとってはより衝撃的だった。

 

軍人たちの間にどよめきが広がる。

 

「う、狼狽えるな! まだ所長はやられてない!」

 

その中で、周囲に流れるネガティブな雰囲気を払拭しようと、1人の勇敢な軍人が声を張り上げた。

 

「そうだ! 極東武帝がこんなところで終わるはずがない!」

 

「いつも所長に頼ってばかりの俺たちじゃねえってことを、教えてやるぞ!」

 

「共和国軍としての意地を見せろ!」

 

「ああ! 所長を援護するぞ!」

 

軍人たちは口々にそう言って自らを奮い立たせ、そして前進を始めた。職業軍人である彼らもまた、最強の存在である宏武には遠く及ばないものの、自らの実力に自信があった。

 

また、彼らの中には一種の誘惑があった。

 

あの宏武を圧倒したこのBMを討ち取れば、自分は宏武と並ぶ英雄、ヒーローになれるのではないかという……甘美な誘惑が。

 

「お、お主ら……待てっ……!」

 

宏武は制止を叫ぶが、軍人たちはまるで聞き耳を持っていないかのようにそれぞれの機体を走らせ、宏武の前へ突出した。

 

「1番手は頂きだ!」

 

その中で、格闘型BM『闘将改』に搭乗した軍人の1人が、勇ましく機体をダッシュさせてファントムへと迫った。

 

闘将改は武装こそ積まれていないが、玄武にも匹敵する巨大な拳を持ち、フルパワーで振り下ろされたその一撃は戦艦の装甲に大穴を開けるほどの威力があった。そのほか、不屈の精神が込められた頑強なフレームは、並大抵の攻撃なら弾き返すほどの耐久性があった。

 

『…………』

 

拳を振り上げて迫り来る闘将改に、しかし、ファントムは一切の回避行動を取ることなく、ただ左腕を闘将改に向けただけだった。

 

そして獣のような爪が並ぶ左手の内、人差し指だけを伸ばし……ジェスチャーで言う所の、手を拳銃のような形に作り変え……

 

 

 

『バアアアァァァァァン!!!』

 

 

 

それは、言葉に置き換えるとこのような音だった。

 

左手を拳銃に見立てて、撃つ素振りを見せただけ

 

……ただ、それだけのことだった。

 

それにもかかわらず

 

 

 

「ぐああああああ!!??」

 

 

 

次の瞬間、闘将改が爆発した。

 

「なにっ!?」

 

たったの一撃で消し炭と化した闘将改を見て、極東軍人たちの間に再び衝撃が走った。前を走っていた軍人たちは、慌てて前進を止めた。

 

なぜ、突然仲間の機体が爆発したのか?

 

それはファントムの攻撃なのか?

 

どこかに武器を隠し持っていたのか?

 

どうやって攻撃したのか?

 

どういう属性の攻撃なのか?

 

彼らが、そんなことを考え始めた時……

 

 

 

『バアアアァァァァァン!、バアアアァァァァァン!!』

 

 

 

ファントムの攻撃がそんな彼らを襲った。

 

「がはっ……」

 

「ぎゃあああああああ!!!」

 

さらに2機の闘将改がパイロットごとチリとなって、存在そのものがこの世からかき消されてしまった。

 

「クソッ、なんだ!」

 

「敵はどうやって……」

 

 

 

『バアアアァァァァァン!、バアアアァァァァァン!、ズキュウウウウウウウンンン!、ズキュウウウウウウウン!、ズキュウウウウウウウンンンッッッ!!!』

 

 

 

「あああああああ!!!」

 

「ギャァァァァァァ!?」

 

ファントムの放った謎の攻撃を受け、極東軍人たちの操るBMが1機、また1機と消えていく。

 

 

 

『ババババババババババババババババババ!!、バキューンッッッ、バキューンッッッ、バッキューーーーーンンンッッッ!!!』

 

 

 

まるでマシンガンでも発砲するかのように、腰だめに構えた左腕を右に左に振り回して、ファントムは軍人たちに向けて制圧射撃を実施した。

 

ロクに狙いを定めていないにも関わらず、その攻撃は前衛の闘将改と巨闕改どころか、後衛の竜胆にも及び……一瞬にして彼らを焼き払い、吹き飛ばし、消し炭に変え、集団に大きな穴を開けた。

 

「な……なんだよ、アレはッッッ!?」

 

目の前で無残にも命を散らしていく極東軍人たちの姿を見て、ベカスは訳もわからず声を上げた。

 

「わ……分からん! だが、奴の左腕から何かが撃ち出されたようには見えぬ辺り、おそらく思念を直接撃ち出す……こちらの言葉を使うのなら気功のようなものじゃろうな」

 

「つまり、サイコキネシスってことかよ! クソッ……これじゃあチートじゃねぇかッッッ!」

 

攻撃に巻き込まれないよう、ベカスと宏武は姿勢を低くしてファントムのことを観察していた。

 

「影麟! お主も、もっと体を低くせい!」

 

「…………!」(こ、こく)

 

影麟もまた、目に見えない弾丸に怯えていた。

 

彼らは知らなかったのだ

 

ファントムの攻撃が、ゼオライマーを喰らうことで得た次元連結システムを応用した、空間を超えた攻撃であるということを……

 

宏武の腕前ならば、迫り来る銃弾を躱すことくらいどうということはない。だが、相手との距離や位置関係を無視して攻撃することのできるそれを前にしてみれば、宏武の持つ回避技術など全く意味をなさないものだった。

 

「あっ!?」

 

その時、3人の近くで悲鳴が上がった。

 

そこには、アルトの搭乗機……ダガー高機動型がファントムの攻撃を受けて、右腕を根本から失っていた。

 

『…………ハッ!!!』

 

アルトの存在に気づいたファントムが、その左腕をダガーへと向ける。アルトは迎撃のためにミサイルを放つも、それがファントムに通用するはずもなく……

 

 

 

『ババババババババババ…………バァン!、バァン!、バァン!、バァン!、バァン!、バァァァァァァンンン!!!』

 

 

 

最初の一斉射でミサイルの全てをことごとく撃ち落とされ、続いてダガーに降り注いだ不可視の攻撃が、ダガーの左腕、右足、左肩、左足、腰部、そして頭部を吹き飛ばした。

 

「…………」

 

一瞬の内に、ダガーは空中でダルマと化した。

 

回避することも、自爆することもままならず、文字通りコックピットだけとなったダガー(だったもの)は、地面へと落下、ゴロゴロと砂の上を転がった。

 

『ハハッ!!!』

 

見るも無残な姿になったそれを見て満足したのか、ファントムはニヤリと笑った。それから、パイロットの息の根を止めようとと、コックピットに左腕を向け……

 

「させるか!」

 

「やらせない!」

 

その時、どこからともなくファントムの両側から2機のBMが飛び出してきた。それは、ファントムの攻撃から逃れようと、機体を転進させていたスサノオとフェンリルだった。

 

最初の一撃で遠距離では敵わないと判断したグルミと佐伯は、下がると見せかけて密かにファントムの両側へと移動……奇襲による接近戦を仕掛けようとしていた。

 

右側から迫るフェンリルは『フェンリルの牙』と呼ばれる剣型格闘装備を振り上げ、左側から仕掛けたスサノオは『天叢雲剣』を構えてファントムへと迫る。

 

完璧な奇襲、理想的な挟撃

 

『…………ハッ!』

 

しかし、それにもかかわらずファントムはニヤリと笑うと、コックピットへの攻撃を止め、バッと両腕を広げた。

 

次の瞬間、ファントムの両腕と2機の得物が衝突した。

 

「なっ!?」

 

グルミは驚愕した。

 

なぜなら……完璧な奇襲だったにもかかわらず、グルミの剣はファントムの巨大な腕に掴まれてしまったからだっだ。フェンリルの牙が左腕に固定された剣だったこともあり、フェンリルは腕ごとファントムに掴まれて動かなくなってしまっていた。

 

「は!?」

 

佐伯は驚愕した。

 

なぜなら……自分が持っている全てを込めて放った一閃であったにもかかわらず、ファントムは伸ばした左腕の、爪一本でそれを受け止めてしまったからだ。

 

『ハッハッ!!!』

 

ファントムは佐伯の剣をスサノオごと、デコピンの要領であっさりと吹き飛ばすと、空いた左腕をフェンリルの頭部に向けた。

 

「ッッッ…………!!!」

 

ファントムから逃れようしたグルミだったが、ファントムの右腕はフェンリルの腕にがっちりと食い込んでおり、彼がどれだけ機体の出力を上げようとも、振りほどくことはできなかった。

 

咄嗟に右腕のパージを試みるも、それよりも早くファントムの爪がフェンリルの頭部を鷲掴みにしてしまった。その際、爪の一部が胴体にめり込みコックピットハッチを圧迫してしまっていたので、機体からの脱出は不可能だった。

 

『…………』

 

ファントムは軽々とフェンリルを持ち上げると、空いた左腕でフェンリルの胴体を掴み……そして……

 

 

 

ギ……ギギギギギギギギギギ……

 

 

 

フェンリルの体を、まるで雑巾でも絞るかのように捻じ曲げ始めた。

フェンリルは両腕の剣をファントムの腕に叩きつけるが、それは傷の1つすら与えることが出来ず……

 

 

 

メキョ……メキョ…………ぶちっ

 

 

 

フェンリルの細い胴体は、ファントムの雑巾絞りによって瞬く間に180度回転し、回転面から大量の液体を滴らせて、ついに真っ二つとなった。

 

まるで粘土を捻じ曲げたような跡を残した2つの鉄塊を、ファントムはまるで興味がないと言わんばかりに投げ捨てた。

 

「く……!」

 

佐伯がようやくスサノオを立て直し、前を見た時には……既にそこからファントムの姿は消えていた。

 

『佐伯殿! 後ろだ!』

 

「え!?」

 

スサノオに呼びかけられ、振り返った佐伯は……そこでファントムの赤いツインアイと至近距離で目を見合わせた。

 

『…………(ニタリ)』

 

「うわあぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

慌てて剣を振り回す佐伯だったが、それはファントムの爪で受け止められてしまった。そこからファントムは十手を使う要領で軽く爪を回すと、それだけの動きで天叢雲剣はスサノオの手からスルリと抜け落ち、ファントムの手元に収まった。

 

『マズイ!!!』

 

メイン武装である天叢雲剣を奪われたスサノオのAIは、ファントムの反撃を恐れ、パイロットに独断で機体を大きく後ろに飛ばした。

 

後ろも見ずに……

 

「がはっ……!?」

 

飛んだ先で、佐伯は腹部に衝撃を感じた。

 

その後に広がる、鋭い痛み

 

その痛みは、スサノオに搭載された神経リンクシステムによりパイロットへとフィードバックされたもの……つまり、現在スサノオが受けているダメージだった。

 

佐伯は訳もわからず自分の腹部……いや、スサノオの腹部に目を向けた。黒い刀身、ノコギリのような刃……そこには、よく見慣れたスサノオの剣……天叢雲剣があった。

 

 

 

(あれ……おかしいな?)

 

 

 

激痛で揺らぐ意識の中、佐伯は思った。

 

 

 

なぜ、こんなに痛いのだろうか?

 

 

 

なぜ、奪われたはずの剣が、ここにあるのだろうか?

 

 

 

なぜ、剣がお腹の中から突き出しているのだろうか?

 

 

 

『…………』

 

 

 

スサノオの背後で、ファントムがニヤリと笑った。

 

一瞬でスサノオの背後を取ったファントム。それはゼオライマーを喰らい、その能力である『次元跳躍』を応用したものだった。

 

奇しくも、自身の剣で自らを貫かれることになったスサノオ。

ファントムは天叢雲剣をスサノオの腹部に根元まで押し込み、それから……まるでグレートブリテンに伝わるあの聖剣のごとく、天叢雲剣を砂漠の上に突き刺した。

 

黒い剣で串刺しにされた黒い剣士は、黒い砂の上に野ざらしとなった。

 

それは、ドラキュラ伯爵のモデルとされているヴラド3世が行った敵兵士の処刑法……にも、似ていた。

 

スサノオの目は、もう光らなかった。

 

『…………』

 

スサノオのAIも完全に沈黙した。

 

『ハッハッ!!!』

 

ファントムは凶悪な笑みを浮かべると、その視線を極東軍の生き残りに向けた。

 

「ひいっ!?」

 

血に飢えたその赤い瞳に晒されて、勇敢な極東軍人たちは恐れ慄いた。ただでさえファントムの恐ろしい攻撃により、目の前で数多くの仲間を失った後だというにもかかわらず、さらにあのような恐ろしい戦闘……いや、虐殺と呼ぶに相応しいそれを見せつけられては、精鋭である彼らでも戦意を喪失してしまうものだった。

 

「に……逃げろ!」

 

誰かがそう叫ぶと、集団はまるで蜂の子を散らしたかのように一斉にその場から逃げ出した。無論、全員が全員逃げ始めたというわけではなかったものの……最早、極東軍は軍としての統制が取れないまでになっていた。

 

『…………』

 

そんな彼らを、ファントムが逃がすはずもなく……次の瞬間、ファントムの姿がその場からかき消えた。空間跳躍を実行したファントムは、一瞬のうちに集団のど真ん中へ……

 

「ひいっ……うわあああああッッッ!!!」

 

最初に狙われたのは、背を向けて一目散に逃げ始めた者たちだった。その真正面へと出現したファントムは、彼らのコックピットに容赦なく爪を叩き込み……そして、パイロットをコックピットから引きずり出した。

 

『ハハッ!!!』

 

そして、爪の中で絶望に慄くパイロットを、ファントムは嬉々とした表情で空間跳躍を利用し、次から次へと、1人1人丁寧に……

 

「あ……悪魔……」

 

ファントムの爪が瞬く間に赤く染まったのを見て、身を隠していたベカスは猛烈な寒気を感じ、震えた。

 

「クソッッッ! クソッッッ!」

 

竜胆のパイロットがファントムめがけてファイア重機関銃を乱れ撃つも、それらがファントムに命中することはなかった。

 

「はっ!?」

 

次の瞬間、ファントムは竜胆の正面ゼロ距離に転移した。竜胆の武装は全て遠距離に対応したロングバレルのものであるため、この状況下で竜胆が取れる行動オプションは、近接猛虎投げのみだった。

 

即座にそれを認識した竜胆のパイロットは、ファントムめがけて掴みかかり、その体を投げ飛ばそうと出力を上げ……

 

『ガアッッッ!!!』

 

「なっ!? ぐあああっ!?」

 

近接猛虎投げが決まろうとしたその時、ファントムは逆に竜胆の腕を掴み上げ、組み付き、そのまま竜胆を押し倒してしまった。

 

それは、宏武の投げカウンターの動きによく似ていた。

しかし、ファントムの攻撃はそれで終わらない

 

赤く染まった爪で竜胆のコックピットに亀裂を入れ、パイロットの存在を確認し、ニヤリと笑うと……

 

 

 

『ガッ!! ゲエエエエッッッ!!!』

 

 

 

大きく口を開け……亀裂の中にめがけて、アシッド属性を持つ例の黒い液体を流し込んだ。

 

「ぎゃあああああ! 熱ちっ……と、溶け……あちっあ、あ……あああああああああああッッッ……」

 

しばらく、パイロットの絶叫がこだました。

 

これにより、極東軍の戦意は完全に消失した。

 

軍人たちは、軍人としての誇りを捨て、逃げ惑った。

 

この時……BMを捨てて逃げるか、ベカスたちのように姿勢を低くして身を隠していれば、彼らの命はまだ助かる可能性があったのかもしれない。

 

しかし、遮蔽物砂漠の上を走るBMの、巨大な機影は……遮蔽物が殆ど存在しない砂漠の中では、逃げる彼らはファントムにとって格好の標的だった。

そして、空間跳躍が可能なファントムに、散り散りに逃げ惑う彼らとの距離など……最早、関係はなかった。

 

 

 

『バアァァァァァァンッッッ! バアァァァァァァンンンッッッ!!! ズキュウウウウウウウンッ、ズキュウウウウウウウンッ、ズキュウウウウウウウンンンッッッ!!』

 

 

 

ファントムは例の指鉄砲で軍人たちを消し去り、空間跳躍を連続で実行し、一度に複数のパイロットをコックピットから抉り出し、その爪の中に収め……

 

「動くな、影麟!」

 

「…………!」

 

宏武の声に、軍人たちを救うべく今まさにファントムへ飛びかかろうとしていた影麟は、びくりと震えた。

 

「お前の気持ちは分からなくもない……しかし……

 

次の瞬間、ファントムの爪の中で巨大な飛沫が吹き上がった。飛び散った赤い液体と肉片が、まるで爆発した手榴弾の破片がのように、砂漠の上に散乱した。

 

「…………!」

 

赤い飛沫は、ファントムから遠く離れた場所に身を隠していた3人の元にも降り注いだ。影麟はその中に、赤く染まった人の腕を見つけて大きなショックを受けた。

影麟は青年のような外見をしているが、その割に精神年齢が幼く純粋であり、こういったものに対して耐性がなかった。

 

「……迂闊だった。あれは、まさしく破壊の権化……決して手を出してはいかん存在だったのかもしれん」

 

宏武はコックピットの中で青ざめていた。

 

「おそらく、討伐に極東の全戦力……あるいは、世界中の全戦力を投じても、アレを破壊できるかどうか怪しいものだ……」

 

「そ……そんな……!」

 

宏武の言葉に、ベカスは愕然となった。

 

「でも……師匠はさっき、一度アレを破壊することができたじゃないですか! アイツを倒した技を、もう一度仕掛けることができれば……」

 

「……この腕で、どう仕掛けろというのじゃ?」

 

宏武は消失した玄武の右腕を示した。

 

「いや、例え技を放つことが出来たとしても、恐らく奴には通用せん。お前も見ただろう? 奴が竜胆の投げ技を弾き返したのを……アレは、まごうことなきわしの投げカウンターじゃ……」

 

「……なっ?! まさか師匠の技を……?」

 

「そうじゃ、最初から……奴はこのわしに手加減をしていたのじゃ。そうして、わしから技を盗み出し、恐ろしいことに一瞬で自分のものにしてみせたのだろうな……」

 

彼らは、知らなかったのだ。

 

いや、知ろうとしなかった。

 

確かに、宏武を始めとする極東共和国はその兵力や規模・戦力など、どれもを取っても世界的に最強の軍隊を抱えていると言えよう。

 

しかし、それだけだった。

 

彼らは知らなかったのだ。

 

この世界という……ごく限られた空間の中で最強を目指すということの、愚かさをと無意味さ、そしてスケールの小ささを

 

彼らは、無知だったのだ

 

しかし、決して触れてはいけない、関わってはいけないモノの存在に気づいてしまった。そして、彼らは興味本位でそれに近寄ってしまった。

 

自分たちが、弱者であることにも気付かず

 

まさしく、井の中の蛙大海を知らず

 

異世界のテクノロジーという大海を取り込んだファントムにとって、彼らは井の中の蛙のように極めて『矮小』な存在だった。

 

「ッッッ!」

 

2人がそんなことを話し合っていると、隣にいた影麟が突然立ち上がり、何を思ったのか遠くで殺戮の限りを尽くしているファントムの元へ機体を走らせた。

 

「影麟!」

 

慌てて止めようとするが既に遅く、影麟の乗る青龍は全身に青白い電流を纏っており、それは夜の砂漠を明るく照らした。

 

『……?』

 

今まさに闘将の四肢を喰いちぎろうとしていたファントムは、青龍から放たれる光に反応し、闘将のボディを吐き捨てた。

 

ファントムが闘将から離れたのを見計らって、影麟は幻舞拳の構えをとった。

「弧月・閃光!」

彼がそう呟くと、巨大な放電を蓄えた青龍は一瞬のうちに青白い弾丸となって、落雷のごとくファントムに衝突した。

 

『……!』

 

これには流石のファントムも反応しきれなかったのか、直撃を食らって大きく仰け反った。

 

「弧月・閃光!」

 

再び、影麟の技が放たれる。

 

亜光速の一撃が、再びファントムに直撃し……

 

「……!?」

 

今まさに青龍の拳が、ガラ空きになったファントムの背中に食い込もうとしたその時……影麟の前からファントムが消えた。

 

「後ろだ!」

 

「……!」

 

ベカスの声に反応し、振り返った影麟が見たのは……ファントムの黒い左足だった。

 

「ッッッ!!!」

 

ファントムの回し蹴りが直撃し、影麟は大きく吹き飛ばされてしまった。かろうじて、影麟は蹴りが直撃する瞬間に機体を飛ばし、ダメージを軽減させることに成功……したものの……

 

「影麟!? 影麟ッッッ!?」

 

「…………」

 

大量の砂を撒き散らしながら砂漠の上を転がった青龍。機体はピクリとも動かず、そして影麟がベカスの呼びかけに応えることはなかった。

 

『…………(ニヤァァァ)』

 

「くっ……!」

 

ベカスと宏武の姿を見つけたファントムは、ツインアイを赤く眼光炯々させ、大きく裂けた口を引きつらせ、気味の悪い笑みを浮かべた。

 

「クソッ、クソッッッ……どうすればッッッ!」

 

ウァサゴのコックピットの中で、ベカスは今まで味わったことのない絶望を口にした。奇跡的に無傷であるウァサゴだが、メインウェポンであるライフルと剣を初期の段階で喪失し、盾しか残されていなかった。

 

「わしに考えがある」

 

そんなベカスの前に、宏武が進み出た。

しかし、右腕を失った玄武は既にボロボロの状態である。

 

「師匠!? そんな機体で何を……ッッッ!」

 

そこで、ベカスは宏武のしようとしていることに気づいた。

 

「まさか師匠……あんた、死ぬ気じゃ……」

 

「馬鹿者! このわしがそんな真似をすると思ったか」

 

宏武は片腕で幻舞拳の構えをとって、ファントムを見据えた。

 

「ベカス、一瞬だけでいい。奴の気を引け」

 

「……分かった、で……師匠は?」

 

「玄武を特攻させ、『玄武雷陣』を奴にぶつける」

 

玄武雷陣とは、玄武に内蔵された散弾ミサイルである。ミサイルと一言に言っても、それは円筒状の物体に羽がついた一般的なミサイルではなく、その形状は平らで、どちらかというと地雷に似ていた。

 

「機体に内蔵されたありったけの玄武雷陣をぶつければ、いくら奴であろうとも耐えられまい」

 

「わ……分かった。だが爆発に巻き込まれれば、いくら師匠だって……」

 

「案ずるな、爆弾は時限式でセットしておる。わしにとって、玄武雷陣が爆発する前に安全圏まで脱出するのは容易なことじゃ」

 

「そうか……なら死ぬなよ、師匠!」

 

「このわしを誰だと思って言っておる!」

 

宏武の言葉に小さく笑うと、ベカスは砂漠の上を走り出した。

 

『…………』

 

ベカスに向けて、ファントムが左腕を向ける。

 

「行けッッッ!」

 

ベカスは盾からドローンを射出させた。

先端に小型ビーム砲を内蔵した2機のドローンが、ファントムにその砲身を向けて飛び立つ。

 

『バンッ、バンッ!』

 

だが、盾を離れてから10メートルもしないうちに、それらはファントムの指鉄砲で撃墜された。

 

爆炎がファントムの視界を奪う

 

その時、爆炎の中からファントムに迫る白い影があった。

 

『……バァン!』

 

ファントムは反射的に指鉄砲で迎撃した。

だが、その白い影はウァサゴではなく、投げつけられたウァサゴの白い盾だった。

 

『……!』

 

「うおおおおおおおッッッ!!!」

 

ファントムがそれに気づいた時、四散した盾の裏側から、ベカスが飛び出してきた。専属能力『強襲』を使用して爆発的な推進力を得たウァサゴが、その拳をファントムに叩き……

 

『ガアッッッッ!!』

 

「ぐああっ!?」

 

しかし、次の瞬間……ウァサゴはファントムの巨大な右腕で薙ぎ払われてしまった。

 

「ぐっ……師匠、今だ! 」

 

ベカスは砂漠の上を転がりながら、玄武に視線を送った。

 

「うおおおおおお!!!」

 

玄武をブーストさせ、宏武はファントムに肉薄する。

 

『バァン!』

 

「ぐおっ!?」

 

その途中、指鉄砲で左足を吹き飛ばされる。

 

「ま、まだじゃ! まだ終わらん!」

 

しかし、玄武が転倒するその直前に、宏武はワイヤーアンカーを射出。3本のワイヤーのうち、1本はファントムの胸部に命中、残りの2本もファントムの胴体に巻きついた。

 

『?』

 

ファントムは、自分の体に巻きついたワイヤーを不思議そうに見つめた。

 

「かかった!」

 

ワイヤーを巻き取った宏武は、残った左腕と右足を駆使してファントムに組み付き、玄武の胴体をファントムに固定させる。

 

そして、玄武に内蔵されたありったけの玄武雷陣を放出した。複雑に絡まりあった2機の周囲に、地雷にも似たミサイルが大量に浮かび上がった。

 

「師匠! 脱出を!」

 

「ああ、分かっとる!」

 

玄武のハッチが開くと、宏武が弾丸のごとく飛び出した。

 

「幻舞拳・電瞬!」

 

『!!』

 

脱出の間際に、宏武はファントムの頭部へ拳を叩き込んだ。

その一撃で、ファントムは怯んだように顔をしかめた。

 

「ハァッ!」

 

拳をぶつけた反動を利用し、宏武は後方へ跳躍……

 

「やった!」

 

ベカスは歓喜の声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

……その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……………………』

 

ファントムの目が、怪しく光り輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

ベカスは、思わず自分の目を疑った。

 

 

 

なぜなら、ワイヤーによって玄武とともに拘束されたはずのファントムが、忽然とその場から姿を消したからだった。

 

それだけならまだ、よかった。

 

だが、空間跳躍を利用してファントムが現れた先は……

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおッッッ?!」

 

 

 

それは、宏武が跳躍した先だった。

手を伸ばしたファントムは、無防備な状態で空中に身を晒した宏武を、獣の左腕でキャッチした。

 

 

 

『……アハッ!!』

 

 

 

まるでとっておきのオモチャを見つけた子どものように、ファントムは赤い瞳を爛々と輝かせて、左腕の中の宏武を見つめた。

 

「むぐ……ぐおおおおッッッ!!!」

 

赤く染まった爪の中に押し込まれ、宏武の体が瞬く間に赤く染まる。その中で、宏武は投げカウンターで必死にファントムの爪から逃れようともがくが、ビクともせず……

 

「師匠ッッッ!!!」

 

ベカスは慌ててウァサゴを起こそうとするが……

 

「ウァサゴ……?」

 

しかし、先ほど受けたダメージの影響か……しきりに操縦桿を動かすベカスに対し、ウァサゴはピクリとも動かなかった。

 

「ウァサゴ! 動けッッッ、動いてくれッッッ!!」

 

ベカスはコックピットの中で絶叫した。

 

ふと視線を上げると、獣の爪でギリギリと締め上げられた宏武が、強烈な圧迫に晒され、その全身から悲鳴をあげていた。

 

「そんな……ッッッ、動けよ! ウァサゴッッッ! 」

 

ファントムの左腕から、赤い液体が染み出す。

 

 

 

 

 

「ウァサゴーーーーーーーーッッッッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こきゅ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かを捻る、音が響いた。

 

 

 

 

 

それは、一つの命が失われた音だった。

 

 

 

 

 

しかし、失われたモノの重さを考えると

 

 

 

 

 

それは、あまりにも軽すぎる音だった。

 

 

 

 

 

「…………あ」

 

 

 

ベカスは、ウァサゴの前に落ちてきたそれを目撃した。

 

 

 

そして、彼と目を見合わせた。

 

 

 

その瞬間、ベカスは頭が真っ白になるのを感じた。

 

 

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼ッッッ!!!』

 

 

 

ファントムは高らかに勝利の雄叫びを上げると、左腕の中のモノを、操縦者のいなくなった玄武に返却するかのように……

 

 

 

その遺体を

 

 

 

コックピットに向けて

 

 

 

勢いよく、叩きつけた。

 

 

 

その瞬間、玄武の周囲に浮遊していた玄武雷陣が爆発した。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「…………」

 

玄武雷陣の爆発によって発生した爆炎が収まった頃、ベカスは濁った目でその場所を見上げた。

 

その場所には、玄武雷陣の威力を物語っているかのように、爆心地から半径数十メートルにも及ぶ巨大なクレーターが出現していた。

 

周囲の砂を蒸発させるほどの威力を誇った爆発

 

しかし、それにもかかわらず……

 

『ゲッゲッゲッゲッゲッゲッッッッ!!!』

 

その中心部で、まるで人の死を嘲笑うかのように、ファントムはケタケタと笑っていた。

 

笑っているファントムは当然、無傷だった。

 

「…………」

 

猛烈な脱力感に苛まれたベカスは、動かない

 

いや、動けなかった。

 

そんな時、ベカスはファントムに迫るその影に気づいた。

 

「……影……麟?」

 

青龍が、ファントムめがけて拳を振り下ろした。

 

ガッ……

 

鋭い音が響き渡った。

 

『……?』

 

青龍の拳を受けたファントムは、キョトンとした表情で胸部に叩きつけられた拳を見下ろした。ファントムの装甲には傷一つ付いていない。

 

 

 

影麟はその場で、幻舞拳による連打を繰り出した。

 

しかし、ファントムにダメージはない

 

 

 

続いて、二段突拳を繰り出した。

 

ファントムにダメージはない

 

 

 

続いて、無影拳を繰り出した。

 

ファントムにダメージはない

 

 

 

「……やめろ……影麟」

 

弱々しく、ベカスは影麟にむけて呟いた。

 

 

 

しかし、自身の親である宏武を失い、怒りに駆られた影麟は止まらない。続いて、投げ技である亢龍破を繰り出した。

 

しかし、ファントムは微動だにしない

 

 

 

続いて、幻舞水流無想を繰り出した。

 

ファントムにダメージはない

 

 

 

続いて、幻舞拳・瞬崩を繰り出した。

 

ファントムにダメージはない

 

 

 

「やめてくれ……影麟……」

 

ベカスは絶望に満ちた表情で影麟を見つめた。

 

 

 

続いて、幻舞雲柔投身法を繰り出した。

 

しかし、ファントムは微動だにしない

 

 

 

続いて、幻舞拳・掌破を繰り出した。

 

ファントムにダメージはない

 

 

 

続いて、幻舞拳・孤月連閃を繰り出した。

 

ダメージはない

 

 

 

続いて、幻舞拳・孤月閃光を繰り出した。

 

ダメージなし

 

 

 

『…………』

 

「…………」

 

最後に放った技により、青龍の拳は完全に潰れた。

 

後ずさる青龍に、ファントムは……

 

『ゲンブケン!』

 

「!」

 

次の瞬間、目にも留まらぬ速さで放たれたファントムの幻舞拳が、青龍から両腕を奪った。

 

「…………」

 

膝から崩れ落ちる青龍

 

『ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!』

 

それを見下ろし、ファントムは高らかに笑った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

1時間後……

 

 

 

「あれは……!」

 

葵博士は、無数の鉄塊が散乱した砂漠の上に自身の所有物である、ウァサゴをやっとの事で見つけた。激しい戦闘を経てボロボロになったウァサゴは、半分ほど砂に埋まっており、そのため発見が遅れた。

 

「……ベカス?」

 

「…………」

 

そして、力なく横たわるウァサゴへと近づいた葵博士は、そのコックピットにもたれかかっている1人の男を見つけた。

その男……ベカスは葵博士の呼びかけに応えることなく、虚ろな目をして明後日の方向を見つめていた。その腕の中には、どこからか拾ってきたのだろう、極東軍のヘルメットがあり、ベカスはそれをさも大事そうに抱えていた。

 

「ベカス!」

 

「……!」

 

葵博士が放心状態に陥ったベカスに詰め寄ると、そこでようやく葵博士の存在に気づいたのか、ベカスはハッとした表情を浮かべた。

 

「大丈夫か?」

 

「……ああ、オレは……大丈夫」

 

そこまで言いかけて、ベカスは周りを見渡した。

 

空に浮かぶ次元の裂け目を隠蔽するべく、空を遮っていた建物の一部は崩壊していた。崩壊したその場所からは、まるでどこまでも続いているかのようなゴビ砂漠を見通すことができた。そして、ファントムはベカスにトドメを刺すことなく、いつのまにかその姿を消していた。

 

「だけど……」

 

ベカスは手元のヘルメットに視線を落とした。

 

「それは……?」

 

葵博士もつられてヘルメットを見つめた。

一見すると、なんの変哲も無い普通のヘルメット

 

「…………」

 

ベカスはそれを葵博士に差し出した。

 

「……なっ!?」

 

ヘルメットを受け取った葵博士は、それが異様な重さを持っていることに気づいた。ズシリと、まるで土嚢のように砂でも詰まっているかのような重さで、慌てて取り落としそうになるのを堪えた。

 

「中に何が…………うっ!」

 

ヘルメットの中は砂で埋め尽くされていた。

しかし、その所々から赤いものが染み出しており、そこから放たれる猛烈な死の香りが、葵博士の顔をしかめさせた。

 

「…………」

 

そんな葵博士に、ベカスはゆっくりと顔を上げ……そして、こう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ……師匠」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッッ!?」

 

昨日まで普通に生きていたその人の、変わり果てたその姿に堪えきれなくなった葵博士は、慌ててベカスにヘルメットを返すと、踵を返して走り出した。

 

そして、しばらく行ったところで崩れ落ちるように膝をつき、砂の上に嘔吐した。

 

「…………」

 

そんな葵博士のことを見ることなく、ベカスはヘルメットを強く握りしめた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

こうして、ベカスの戦いは終わった。

 

この戦いにより、極東武帝は壮絶な最期を遂げた。及び戦闘に参加した軍人50名のうち、48名が戦死……その中には、総撃墜数が100を超えるスーパーエースも多数含まれていた。

 

さらに臨時研究施設も完膚なきまでに破壊され、多くの研究員と空の裂け目に関する貴重なデータも全て失われることとなった。

 

 

 

しかし、悲劇はこれで終わりではなかった。

 

 

 

4月1日

0:00

殺戮の限りを尽くし、ゴビ砂漠を脱出したファントムは、大陸の東海岸めがけて移動を開始。その進路上には、極東最大の都市があった。

 

4月2日

0:30

極東軍、ファントムの前進を阻止するべく全軍に出動を要請。極東の各地からスクランブルでの発進が相次ぐ

さらに、5機の高速BMからなる偵察部隊を派遣

 

1:00

高高度偵察機によって地上を猛スピードで移動するファントムの姿が確認される。

 

1:30

極東の都市で避難勧告が発令される。

 

2:00

ファントム、偵察部隊を発見、一蹴。

郊外の町を破壊しながら尚も前進を続ける。

 

3:00

極東軍、ファントムの進路上に総勢10000名からなる3つの防衛線を構築。1000機のBM、3000台にも及ぶ戦闘車両、さらに1500機にも及ぶ航空部隊を結集させ、ファントムを迎え撃つ。

 

3:10

航空部隊の第一陣がファントムに爆撃を加える。

絨毯爆撃

しかし、ファントムは無傷

 

3:20

航空部隊の第二陣、ファントムに接近し爆撃を敢行。

 

3:22

ファントムはデッド・ロン・フーンを使用

航空部隊第二陣、壊滅

 

3:50

ファントム、第一次防衛線に到達

 

3:52

ファントム、アトミック・クエイクを発動

第一次防衛線、壊滅、突破される。

 

4:00

ファントム、第二次防衛線に到達

 

4:15

ファントム、トゥインロード、Jカイザーおよび次元連結砲によって第二次防衛線を焼き払う。

 

4:23

ファントム、第二次防衛線を突破

 

4:30

再び航空攻撃が開始される

ファントムはデッド・ロン・フーンを再度使用

航空部隊はその半数を失う。

 

4:53

ファントム、第三次防衛線(最終防衛ライン)に到達

 

4:54

ファントム、プロトン・サンダーを発動

第三次防衛線、消滅。

 

5:00

極東軍、秘匿していた古代兵器『祖龍』および『黄龍』を起動、出撃させる。

 

5:12

都市に到達したファントム、極東軍の増援部隊と激戦を繰り広げる。

 

5:29

祖龍および黄龍の攻撃により、ファントム大破、その動きを止める。

 

5:30

ファントム、再生を完了

 

5:31

ファントム、メイオウ攻撃を発動

増援部隊、全滅

祖龍、大破、修復不可能

黄龍、焼失

極東最大の都市はこの世から消滅した。

その爆発は、地球の反対側からでも観測された。

 

5:50

ファントム、東海岸に到達

海に潜って逃走を図る。

 

6:30

ファントム、潜水艦の追跡を振り切る。

 

7:00

日の出

逃げ延びた住民たちが見たのは、焦土と化した、かつての自分たちの街だった。そびえ立っていた高層ビル群は跡形もなく消え去り、市民たちの憩いの広場となっていた場所も灰塵に帰していた。

 

後に『イースト・ダウン』と呼ばれることになるこの事件によって、極東軍は全戦力の3割を失った。

そればかりか、迅速な避難活動が行われたにもかかわらず、それでも万単位での死者行方不明者を出すことになってしまった。

 

多くの罪なき人々の命は、無情に失われ

 

生き残った者たちも、家と財産を失って途方にくれるのみ

 

事実上、極東は壊滅した。

 

 

 

 

 

だが、君は知るだろう

 

 

 

 

 

これが、後に全世界を震撼させる『大絶滅』の、ほんの序章に過ぎないということを……

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンブラッドサーガ

外伝3『冥王バルバトス』

 

ーバッドエンド ー『来ない明日』

 

 

 

 

 




某所


「こ……こんなことが……」

大崩壊が起こる以前に作られた、ソロモンの秘密衛星を使って極東の様子を見ていたリヒャルトは、消滅した都市を見て震えが止まらなかった。

ファントムの圧倒的な暴力は、高みの見物をしていた彼を怯えさせるほどの迫力があった。それは、彼の中に大崩壊という言葉を思い起こさせるほどだった。

「フ……フフフ……」

「オ、オーシン様?」

リヒャルトは、そこで自身の傍にいるオーシンが密かに笑っていることに気づいた。

「フフフ……はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ、あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはッッッーーーーこいつは傑作だーーーーッッッ!!!」

冷や汗をかくほどに怯えたリヒャルトに対し、ソロモンの盟主、オーシンは顔に残酷な笑みを浮かべると、鋭い眼光を放って高らかに笑った。

それは、あのファントムの笑みに似ていた。

「見たか! この威力! この力! これこそ、まさしく俺の求めていた力だ!」

巨大なスクリーンを前に、オーシンは拳を力強く掲げた。

「しかし、これは流石にやり過ぎでは……? ここは極東最大とまで呼ばれるほどの巨大な都市……それがこの様子では、恐らく民間人にも多くの犠牲者が……」



「それが、どうした?」



リヒャルトの懸念を、オーシンはその一言で一蹴した。

「今の俺にとって、あの場所でのたれ死んだ者などゴミかノミに過ぎない。そのような有象無象に構う必要はない! それよりも、死んだぞ……あの極東武帝が!」

オーシンは宏武の呼び名を口にした。

「かつて機械教廷の大軍勢を前に一歩も引かず、生還を果たしたあの極東武帝を……奴は、単騎で仕留めたのだ!」

「殺した! 殺した! 殺した!」
オーシンは狂ったように笑いながら、その言葉を口にした。

「……し、しかしながら、あの力は我らにとっても脅威となりまする。しっかりと手綱を握っておかなければ、いずれ我らに刃向かうやも……」

「だからこそ、俺には『バアル』がある!」

オーシンは振り返ってそれを見上げた。
そこには、ソロモンの家伝機体であり魔神シリーズの内の1機、悪魔を支配する地獄の王、LM01-『バアル』の姿があった。

「バアルは俺のものだ! バルバトスを唯一使役することができるバアルが我が手中にある限り、この俺に刃向かう者はいない! 今まで、この俺をソロモン王として認めようとしなかった者たちも、この一件で手のひらを返したように俺に従うようになるだろう!」



「俺は……世界の王になる」



力に酔いしれたオーシンは、バアルに向けて拳を上げた。

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  • 境界戦機もっと流行れ
  • 鉄血・ブレットもっと流行れ
  • 水星の魔女×鉄血のオルフェンズ?
  • あと、アイサガのエンディングも作ります
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