機動戦隊アイアンブラッドサーガー悪魔と少女と機甲ー   作:野生のムジナは語彙力がない

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最近、ピークだった頃に比べて更新速度がガクッと落ちているのは忙しいというのもありますが、ムジナ(作者)がホロライブにハマっているのが原因だったりします。とくに桐生Cコ氏が面白くてですね……あと任侠出身だそうなのでこれを機に、任侠ガンダムと称される鉄オルのブームも再加熱しないかなって思う今日この頃です。

あと、ホワイトデーに実装される(この時点で草)グラサン野郎の機体、地味にカッコよくて草なんですけど(本人は豊◯真由子に暴言を吐かれそうな外見をしていますし!)
でも、せっかくなので指揮官の皆様はグラサン野郎共々、是非使ってあげてくださいね!(大人の事情的な)補正がついてて強いと思いますので!

まあ、ムジナは使いませんけどwww(エビオ構文)


前置きが長くなってすみません
それでは、続きをどうぞ……





第22話:再起動

 

 

某所

 

地中深くに建造されたソロモンの秘密基地

 

この基地の存在を認知しているのは、数多くの人員で構成されているソロモンファミリーの中でも、ごく一握りのみである。

 

そこには巨大な格納庫があった。

四方上下を1メートル近い厚さの隔壁で覆われた格納庫は、実に20機ものBMを収容可能……という広いスペースを擁していた。それにもかかわらず、機体を固定させるためのハンガーは一つのみで、鎮座しているBMもそのハンガーに固定されている1機のみだった。

 

それはこの、たった1機のBMを格納するためだけに建造されたものだった。いや、どうあがいても日の光を拝むことのできない薄暗いその空間の中央で、それは無数のワイヤーと巨大なチェーンで全身を拘束され、太いチューブで壁に固定され一切の自由を奪われていた。それに対する扱いを見ていると、それが格納とは程遠いことは目に見えてわかることだろう。

 

『…………』

 

黒い機体はハンガーの中で正座するかのような姿勢で駐機していた。一切の物音をたてることなくダラリと両腕を地面に垂らし、そのツインアイに僅かな光すら灯すことなく、まるで死んでいるかのように身動き一つしなかった。

 

LM−08? バルバトス

 

ファントムのコードネームを当てられた謎の機体、そして三日月はこの機体のことを黒いバルバトスと呼んでいる。

 

たった1機で極東を崩壊させた悪魔は、現在……全ての悪魔を束ねる王、バアルの命を受け、休眠状態に入っていた。

 

「…………」

 

ソロモンに所属する紫髪の女性……エレインは、死んだように眠るバルバトスのそんな姿を、モニタールームの映像越しに見つめていた。

 

「ここで何をしている?」

 

エレインが頰に手を当てて何かを考えるような仕草を見せた時、モニタールームに白髪の老人が姿を現した。

振り返ったエレインは、声の主がリヒャルトというソロモンの研究者であることに気づくと、すぐさま興味を失くしたように、モニターの中の黒い機体に視線を戻した。

 

「ふむ……エレインよ、この機体のことが気になるのか?」

 

エレインが見ているものに気づいたリヒャルトは、小さく息を吐いて顎に手を当てた。

 

「これとよく似た機体を、前に見たことがある」

 

「なに……?」

 

エレインのその言葉に、リヒャルトは一瞬だけ顔をしかめた後、それからなんの前触れもなく高らかに笑った。

 

「……何がおかしいの?」

 

エレインは不機嫌そうにリヒャルトを流し見た。

 

「いや、失礼。お前があまりにも突拍子もないことを言うものだから、ついな」

 

「嘘じゃないわ」

 

「ふむ……エレインよ、確かお前は記憶喪失だったな?」

 

エレインは苛立たしげにリヒャルトへ振り返った。

 

「ええ、そうよ……私には昔の記憶がない。自分が誰で、どこで生まれ育って、誰といたのかすら分からない。ソロモンにいるのも、自分の記憶を取り戻すための……いわば一時的に協力しているだけに過ぎない」

 

語気を強めに、エレインは続ける。

 

「でも、私の記憶とこの機体は関係ないわ。それに、私があの機体を見たのはここ最近のこと……」

 

「ふむ……ワシが復元した他のゴエティアと見間違えたのではないのか? ゴエティアは元々、古代ソロモンファミリーが製造した決戦兵器だ。その生産ラインは殆どが同じものを使用していると聞いている。それゆえにゴエティアの中には姿形が似ているものも少なからず……」

 

「いえ、違うわ。私はあの機体を見たことがないし、それに……あの機体のパイロットは、明らかにソロモン出身ではなかった」

 

「なっ……!? このわし以外にもゴエティアの復元に成功した者がいるとでも言うのか? ハッ、それはあり得んな!」

 

リヒャルトは吐き捨てるように声を放った。

 

「エレインよ、いいか? 量産型として再開発が行われたものはともかく、ゴエティアというものは基本的にこの世に二つと無い、唯一無二の存在なのだ。しかも、その殆どが古代の戦争で破壊され、残された一部も未だ行方不明なのだ」

 

老人の口調が自然と早口になる。

 

「しかし、行方不明のゴエティアの捜索及び発掘を行うとなるとそれはまず間違いなく大掛かりなものとなる。お前に預けたベリアルを発掘するにもかなりの時間と膨大な費用がかかっている。それ故に、世界中に監視の目を持つ我らソロモンファミリーの目を盗んでゴエティアの発掘を極秘裏に実行するのはほぼ不可能であると言えるのだ! たとえ発掘に成功していたとしても、わしがそれを見逃すはずはないのだ!」

 

「でも、私は……」

 

なおも反論しようとするエレイン

 

その時、モニター室に来訪者が現れた。

 

「よっ! じいさんはいるかい?」

 

振り返ると、右目に眼帯をつけた女性がいた。

黒髪で、肩に巨大な長銃を担いでいる。

 

「セレニティ……?」

 

エレインは女性を見るなり静かに呟いた。

 

「おっ! 私のお姫様!」

 

セレニティはモニターの前に佇むエレインを見つけて笑みを浮かべた。心なしか、鼻息が荒くなっている。

 

「その言い方は止めてよ、でも……いいところに来てくれたわ! ちょっとだけ、これを見てくれる?」

 

そう言ってエレインはセレニティを手招きし、拘束されているファントムの様子が映し出されたモニターを指差した。

 

「ねぇ、セレニティ。この機体に見覚えはない?」

 

「んん?」

 

セレニティは左目を細めてモニターの中のファントムをしばらく見つめた後……

 

「さあ? 知らないねぇ」

 

そう言って肩をすくめてみせた。

 

「もう! よく見てよ! この機体……前に、アフリカで遭遇したあの白い機体によく似ているとは思わない?」

 

エレインはそう言いつつも、自分でも少し前のことを思い返してみた。

 

セレニティと共にアフリカでベリアルとパイモンの実地テストを行っていた最中、偶然立ち寄った村で出会った黒髪の少年(三日月のこと)

そのあと、色々あって騒動が起きた際には、彼と共に戦うことになった。そして、彼が呼び出した白いBM

彼はその機体をバルバトスと呼んでいた。(第8話参照)

 

セレニティからも何か言ってくれれば自分も言葉を信じて貰えるはず……そう考えていたエレインだったのだが……

 

「そんなこと言われてもぉ、別に興味ないしぃ〜」

 

しかし、セレニティはヘラヘラと肩をすくめるだけだった。

 

「ところで……今日もいつものように美しいねぇ、私のお姫様」

 

そう言ってセレニティは一瞬のうちにエレインの隣に移動すると、続いて陶酔したような表情を浮かべ、左手でエレインの顎を持ち上げた。それから、右手でこっそりと彼女の魅惑的な臀部に手を伸ばそうとして……

 

「あ痛っ!?」

 

セレニティの手が届く前に、エレインは慣れた手つきで彼女の耳を引っ張った。

 

「もうっ! いい加減にしなさい!」

 

エレインはしばらくセレニティの耳を引っ張ったあと、そう言って地面に突き飛ばすかのように彼女の耳を離した。

かくして床にへばりつくことになったセレニティだったが、その表情はデレデレとしたものになっており「えへへぇ〜」と、まんざらでもないような声を放っていた。

 

「まったく……」

 

セレニティのそんな様子に辟易としつつも、エレインは再びモニターに映る黒い機体に視線を送った。ついでにモニターの表示板を見ると、そこには『LM−08 バルバトス』の文字が光っていた。

 

(アフリカで見かけた白い機体と、この黒い機体……どちらも名前は同じ『バルバトス』。これは偶然? いや、でも姿形まで似ているのはいくらなんでもおかしい……)

 

エレインは少しだけ考えるそぶりをみせた

そして、リヒャルトへ視線を送った。

 

「博士、一ついいかしら」

 

「何かな?」

 

「このゴエティア……バルバトスはいったいどこで?」

 

「うむ、この機体は今から数十年前に極東で発掘されたゴエティアでな。なんと300メートルもの地下に埋もれていたのだ」

 

博士はそれから発掘がいかに大変だったのか、どれだけの資金と人材を投入したのかについて長々と語った。

 

「……で、それだけのリソースを費やして発掘したにもかかわらず、いざ地上へ引き上げてみると驚くべきことにこのゴエティアは一瞬のうちにボロボロに砕け散ってしまったのだ……残ったのはコックピットと一部のパーツのみだった」

 

地面に埋もれていたことで、今まで風化を免れていたものが大気に触れてしまったことで急激に風化が進んでしまったのだろう、リヒャルトはそう補足した。

 

「それを、博士が修復したと……」

 

「いや、修復作業はしていない」

 

「え……?」

 

思いもよらないリヒャルトの言葉に、エレインは疑問符を浮かべた。しかし、リヒャルトの表情は至極普通で彼の性格的にもとても冗談を言っているようには見えなかった。

 

「わしは本当に何もしておらんのだ。ただ大崩壊時代の記録を抽出するために機体のAIを復元させただけで、他には誰も何も手をつけておらん……そもそも、機体の劣化が激しく手のつけようがなかったのだ。このわしですらな」

 

「では博士……この機体は……」

 

「そう、修復したのだ……自動的にな」

 

リヒャルトは真顔でそう告げた。

 

「いや、自己修復機能を持つこと自体はそう珍しいことでもない。古代機の中には瀕死の状態になると一瞬のうちに機体を無傷の状態に復元することができるものも存在している。問題は……自己修復にも限度があるということだ」

 

そこまで告げて、リヒャルトは頭を振った。

 

「いくら高度な自己修復機能を持っていたとしても、全身の9割を失った機体が完全な状態にまで復元することはほぼ不可能だ」

 

「それは、どういうことなの……?」

 

「ふん、わしの知る限りのことを話してやろう」

 

エレインの疑問に、リヒャルトは片眼鏡のズレを直してから、ゆっくりと答え始めた。(リヒャルトのセリフが長いので、要所ごとにカットさせていただきました)

 

「一部のソロモンファミリーは、この現象をロストテクノロジーの産物による必然的な奇跡だと吹聴している者もいる……だが、公式が全てである科学技術の分野において必然と奇跡が入り乱れるということはなく、ましてや無から有を作り出すような無償の奇跡など存在するはずがないのだ

 

であるからして……わしは、この現象をAIを復元したことによるものだと考えている

 

このゴエティアに搭載されているAIは特別なものでなく、十二巨神やバアルと同様のマスターシステムを採用しているようなのだ。そのAIを起動するためにはマスターと呼ばれる特別な存在を必要としており、またマスターが存在しなければAIの抽出も行えない

 

しかし、AIが完全に死んでいる以上マスターの選定が行われることはなかった。AIを復元させる鍵を握るマスターの代替として、ワシらはアフリカで回収した『ジョン・ドゥ』と呼ばれる特別なアーティファクトをバルバトスのコックピットに収めたところ……」

 

「……あの」

 

早口でまくしたてるように話すリヒャルトに、エレインは困り顔を浮かべた。早口である上によく分からない専門用語が次々に飛び出すものだから、話の内容が頭の中に入ってこないのだ。

 

「そのようにして復活したバルバトスは、さらにその隣に放置していた別のゴエティアの基礎フレームにも影響を与え、かくして……」

 

「何をしている?」

 

その時、モニター室にまた新たな来訪者が姿を現した。

 

「む? おお、これはこれは……オーシン様」

 

モニター室に現れたその男、ソロモンの盟主、オーシンの姿を見るや否や、リヒャルトは帝国風に恭しく頭を下げた。

それに続いてエレインも小さく頭を下げた。

 

「オーシン様、わしはこの女にこのゴエティア……バルバトスのことを説明してさしあげていたのです」

 

「私の命令を無視してか?」

 

リヒャルトの言葉に、オーシンは冷たい視線を送った。

 

「は? 命令ですと? そのようなものは……」

 

「げっ!」

 

そこで、今まで床にへばりついていたセレニティが反応した。

 

「セレニティ……あなた、まさか……」

 

そういえば、セレニティはこの部屋に来た時にリヒャルトのことを探しているようだった……そのことを思い出し、エレインはセレニティを叱ってやろうかと思うも、すぐさまその責任は少なからず自分にもあると判断し、ため息をついた。

 

「まあいい、それよりも……バルバトスはどうだ?」

 

「はい、休眠状態に入ってから104時間が経過しましたが機体のAIやジョン・ドゥの様子に一切の異常は見られませんな」

 

「そうか、なら……起動準備にかかれ」

 

「なんですと?」

 

驚いた様子を見せるリヒャルトに、オーシンは続けた。

 

「つい先程、古代遺跡の調査を行っていた部隊から連絡が入った。遺跡内部より、観測開始以降かつてないほどの超高出力EMPが観測されたそうだ」

 

「ほう?」

 

オーシンの言葉に、リヒャルトの目が鋭い光を放った。

 

「私はこれを、巨神復活の兆候だと推測している」

 

「巨神……」

 

オーシン発したその単語に、エレインは息を呑んだ。

 

「しかし、巨神の力は未知数ですぞ? ロストテクノロジーの集大成とも呼べるアレは本来、発見次第永久的に隔離・封印することが推奨されるシロモノであり……まさか、そのためにバルバトスを……?」

 

リヒャルトは何かに気づいたようにオーシンを見た。

 

「リヒャルト、命令だ。直ちにバルバトスの封印を解除し、実働部隊とともに現地に赴け。そこで巨神復活の確証が得られれば、その能力の観測を行うのが貴様の役割だ。また可能であれば、バルバトスを投入して巨神の力の奪取を実行せよ」

 

「御意」

 

リヒャルトは片膝をついてオーシンの言葉に従った。

 

「エレインは基地で待機。セレニティ、貴様は実働部隊だ」

 

「ええーっ!」

 

エレインと一緒にいられないことを知り、セレニティは悪態を吐くが、オーシンの放つ鋭い視線に耐えかねたのか、渋々というように頷いた。

 

「以上だ。では、行動開始だ」

 

そう言ってオーシンは3人に背を向けた。

 

「オーシン様……して、その場所とは……?」

 

「……ああ」

 

リヒャルトの言葉に、オーシンは「言うのを忘れていた」と言うような顔をして振り返り、そして短く……こう告げた。

 

 

 

 

 

「チュゼールだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンブラッドサーガ

第22話:「再起動」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイダロス2号ー会議室ー

 

 

 

『クソッ! 奴をこれ以上、街に近づけるな!』

 

会議室は極東軍人の罵声で溢れていた。

 

『バケモノめ! ここがお前の死に場所だ!』

『よくも極東武帝をやってくれたな!』

『野郎! チリ一つ残さず消してやるッ!』

 

次の瞬間、数え切れないほどの閃光が走り、真っ暗な会議室を白く染め上げた。また、立て続けに響き渡った銃声は騒音となって室内を目まぐるしく駆け回った。

 

『なんて奴だ! いくら撃っても死なないぞ!』

 

『構わん、撃ち続けろ!』

 

『落ちろ! 落ちろおおおおおおおッッッ!!』

 

罵声とともに、さらに無数の銃声と閃光が放たれた。

 

 

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!』

 

 

 

しかし次の瞬間、会議室に一つの悲鳴が響き渡ったかと思うと、途端に極東軍人たちの罵声も無数の銃声もピタリと止み、無機質なノイズ音が響き渡るだけとなった。

 

「…………」

 

それが、彼らを映した最後の姿となった。

会議室のど真ん中に座り、その映像を見ている小さな人影が一つ。映像が終了したのを見届けたその人物は、無言で手元のリモコンを操作して次の映像へチャンネルを切り替えた。

 

モニターに次の映像が映し出された。

今度はヘリの機首に搭載されたカメラの映像だった。

 

真っ暗な空を飛行する攻撃ヘリ。ヘリのパイロットは、地上を走る黒い影に向けて立て続けにミサイルを放ち、レーザーを照射するも……黒い影はこれといって動じた様子を見せない。

 

次の瞬間、見えない攻撃が攻撃ヘリを襲った。

モニター全体に爆炎が映し出され、それ以降、攻撃ヘリのカメラが何かを映し出すことはなかった。

 

「…………」

 

小さな影が再びモニターのリモコンを操作すると、今度は両腕に大量の火砲を装備したBMから送られてきた映像に切り替わった。

 

重装備のBMは、市街地を進む黒い影に向けてありったけの弾丸を叩き込んでいた。その破壊力は凄まじく、跳弾がぶつかっただけでもビルを倒壊させてしまうほどのパワーを有していた。

 

しかし、放たれた弾丸は一発たりともモニターの中の黒い影に命中することなく、まるで黒い影を避けているかのように周りの地形だけを破壊していた。

 

BMが火砲の弾を撃ち尽くすと……

次の瞬間、視界から黒い影が消失した。

 

BMのパイロットがその行方を追ってカメラを左右に走らせようとした時……機体が大きく揺れ、そしてカメラの映像が180度回転した。

 

「…………!」

 

可動域を超えて反転したモニターに、黒い影が映り込む

 

『…………』

 

黒い影は、映像を見ている者の様子を伺うかのようにカメラの中を覗き込むと、そのツインアイに狂気の色を閃かせ、ニヤリと笑った。

 

黒い影が左腕を掲げると、そこで映像は途切れた。

 

「…………」

 

再生するものがなくなり、砂嵐しか吐き出さなくなったモニターを三日月はジッとしばらく見つめていた。どこか心ここにあらずというような雰囲気でもある。

 

三日月の瞳からはなんとも言えない強烈なプレッシャーが放たれ、それと同調するかのように、三日月の体から得体の知れないオーラが発せれ、オーラは影となって三日月の背後で怪しく揺らいだ。

それはまるで、砂嵐の中に消えてしまった黒い影……いや、黒いバルバトスの姿を追跡しているかのようだった。

 

 

 

パチン

 

 

 

「……!」

 

その時、会議室の照明が点灯した。

 

「もう、三日月くんったら!」

 

「……ミドリちゃん?」

 

ふと我に帰った三日月が振り返ると、会議室の入口のところに、三日月の保護者であるミドリが佇んでいた。

壁に取り付けられた電灯のスイッチから手を離し、少しだけ怒った様子で三日月のことを見つめている。

 

「テレビを見ると時は部屋を明るくして、十分離れてからではないと……めっ! ですよ!」

 

「そっか……ごめん」

 

三日月は頭をかいて、素直に謝罪した。

 

「……ふふっ」

 

しゅんとした様子の三日月に、ミドリは少しだけ微笑んでその頭を優しく撫でてあげた。三日月はミドリのとったその行動に疑問を抱く

 

「ミドリちゃん? 何してるの?」

 

「いえいえ〜、何でもないですよ〜」

 

そう言いつつも、ミドリは三日月の髪の毛を整えるような頭ナデナデを続けた。三日月はミドリのそんな様子に疑問を抱きつつも、彼女の温かい手で撫でられることは特に嫌でもなかったので「まあ、いつものことか」とそれを受け入れた。

 

「三日月くん〜、送られてきた映像は全て目を通したんですか?」

 

ミドリはモニターの砂嵐をチラリと見た。

 

「うん」

 

「何か、参考になりましたか?」

 

「……とっても」

 

ミドリの問いかけに三日月は短くそう告げ、それからリモコンを手にとってモニターの電源を落とした。

ミドリが撫でるのをやめると、三日月は立ち上がって凝り固まった体をほぐすように背伸びをして、それから小さく欠伸をした。

 

「ミドリちゃん、ありがと」

 

「いえいえ〜、他ならぬ三日月くんの頼みなんですから! それよりも、このミドリちゃんに他にやって欲しいこととかありますかぁ?」

 

「ん……今はないかな」

 

「はい、何かあったらいつでも呼んで下さいね?」

 

微笑みを浮かべるミドリに微笑みを返しつつ、三日月は会議室から出ようとして……その途中で、部屋の入り口のところに意味ありげに置かれていたバケツの存在に気がついた。

 

「……?」

 

それはいたって普通のバケツだった。全体が鉄でできており、取っ手のところは木製で、使い古されているのか、その表面はところどころサビで覆われている。

 

「三日月く〜ん、それは気にしなくてもいいですからねぇ〜? 」

 

今から掃除でもするのだろうか? バケツの中には水がなみなみと注がれており、見るからに重そうだった。

 

「俺が持とうか?」

 

「いえいえ〜、ミドリちゃんこう見えて案外力持ちなんですっ!」

 

「掃除? 手伝おうか?」

 

「み、三日月くん〜ッッッ!!!」

 

「え?」

 

「ミドリちゃんのことを気遣うだけではなく、自分から進んで手伝おうとするなんて、はあぁぁぁぁぁぁ……なんていい子なんでしょう!」

 

三日月の小柄な体をその豊満な胸で包み込むようにして抱きしめ、わしわしとその髪を撫でて大げさに喜ぶミドリに、三日月は

「別に、普通でしょ?」

と告げて、ナツメヤシの実を一粒だけ口に入れた。

 

「でも、大丈夫ですよ! 三日月くん! 掃除とひと言に言っても、あんまり人には言えないミドリちゃんのプライベートなお掃除なので」

 

「……そっか、それなら仕方ないね」

 

一瞬、ミドリの瞳に不穏な気配を感じ取った三日月だったが、プライベートと言われてしまえばそれ以上は野暮になってしまう……そう思い、ここは引き下がることにした。

 

「それでは三日月くん、また後で〜」

 

「うん、またね」

 

ミドリはバケツを抱えて廊下の奥へと消えていった。それを見送った日月はその反対側に向かって歩き始めた。

ダイダロス2号の廊下は静寂に包まれていた。聞こえてくるものといえば、両端の天井にズラリと並んだ照明から放たれるジジジ……という電流が流れる音と、三日月の足音のみだった。

 

極東軍から提供された全ての映像見終えてしまった三日月は、特にやることもなくなってしまったので、ダイダロスの甲板に置いてある自分の愛機、バルバトスのところに行こうとしていた。

 

その道中、窓から外の景色を眺めてみる。

 

「…………」

 

大地は夕焼けに照らされ、撒き散らされた血のように赤く染まっていた。その光景に様々な想いを巡らせつつ、三日月は上へ上へと進む。

 

甲板へと続く扉を開くと、夕方の赤い強烈な日光が差し込んできた。それと同時に、飛来してきた冷たい風の流れが三日月の横を通り抜けてダイダロスの内部へと侵入していった。

 

先ほどまで暗い場所にいたこともあり、強烈な日差しは三日月の目にショックを与え、その瞳の奥に黒いもやを作った。

 

「……?」

 

目が慣れるまで扉の前でジッとしていた三日月だったが、風の流れが作り出した轟音の奥に、一筋の音色が隠れていることに気がついた。

 

それは琴の音色だった。

一筋の曇りもない、美しい音色

 

しかし、三日月はその音色の中に、押し隠した感情があることに気づいた。悲しさと寂しさを物語るかのような、まるで全てを奪われた者しか奏でることができない音。

 

視界を取り戻した三日月が扉を閉めると轟音はピタリと止み、琴の音色がよりハッキリと聞こえるようになった。

音の聞こえてくる方向を見ると、甲板の先の方に人影

 

人影は、黒いバルバトスによって平野と化した大地を眺めながら一心不乱に琴を弾き続けている。

 

三日月は音に誘われるようにその人影へと近づく。

そして、演奏者の姿をはっきりと目撃した。

 

「……うるさい人?」

 

それは三日月にとって見覚えのある人物だった。

いつかアフリカで出会った極東出身の傭兵。腕は確かだが、戦闘中ずっと「ザコ!ザコ!」と狂ったように叫び続けるその男は、三日月にとってとにかく耳障りであることこの上なかった。そのため、彼の存在だけはよく覚えていた。

 

三日月はそんな彼の名前こそ覚えていなかったが、とにかく「うるさい人」とだけは認識していた。

 

「……?」

 

声に気づいた演奏者は、琴を弾くのを止めて三日月へと振り返った。

美しい顔立ちの青年は疑問符を浮かべていた。

 

「あれ? 違う?」

 

容姿こそ似てはいたものの、前に見た目つきの悪い極東人とは違い、目の前の極東人は穏やかな目つきをしていた。

「騒音」ではなく「静寂」と呼称するに相応しいその佇まいは、まるで彼の存在が自然の中の一部と同化してしまったかのような雰囲気さえ感じられた。

 

「…………」

 

「……あ、ごめん……人違いだった」

 

「…………」

 

青年はしょんぼりとした表情で三日月のことをジッと見つめた。

 

「ううん、アンタの音がうるさいって言っているんじゃない」

 

「……!?」

 

てっきり琴の音色がうるさいと言われているのかと思っていた青年は、三日月の言葉でそれが勘違いであることに気づいた。それと同時に、まるで心を読んだかのような三日月の言葉に少しだけ驚きを示した。

 

「別に、普通でしょ」

 

「……」

 

「そっか、じゃあアンタは……静かな人だね」

 

「…………」(こくこく)

 

「俺のことは気にしないでいいから」

 

「……」(こくり)

 

三日月の言葉に、青年はまた琴を弾き始めた。

 

口数の少ない三日月と無言の青年。

しかし、2人の間では何故か会話が成立していた。それは2人の間でパロールという言語を伴わない高度な対話が行われていたからなのか、単に三日月の察しがいいだけなのか……恐らく、その答えは2人にしか分からないのだろう。

 

「そっか、アンタも……なくしたんだね」

 

「……」

 

「うん、音で分かった」

 

「……」

 

「……それに、俺も昔……なくしたから」

 

「……」

 

「大切な人を、たくさん……」

 

「……」

 

「……だから、アンタの気持ちも……よく分かる」

 

「……っ」

 

青年は三日月に背を向けた。

青年の頬に伝わる一筋の雫が、夕焼けの光で赤く美しく輝いた。しかし、青年はその涙を拭うことも、琴を弾く手を止めることもなかった。

 

「うん……だからさ」

 

三日月は青年の背中に言葉を続けた。

 

「アイツは……俺がやるよ」

 

「……」

 

「俺はアイツを倒さなくちゃならないから」

 

「……」

 

「アンタも、来るでしょ?」

 

「!」

 

その言葉に、青年は琴を弾く手を止めた。

そして、琴を甲板の上に置き、頬を伝う湿り気を静かに拭い……そして、三日月へと振り返った。

 

「……」

 

そして、青年は力強く頷いた。

 

「……うん、分かった」

 

そう言って三日月はポケットからナツメヤシの実が入った袋を取り出すと、二粒だけ取り出し、そのうちの一つを青年へ差し出した。

 

青年がナツメヤシの実を受け取ると、三日月は毒味でもするかのように先にナツメヤシの実を食べ、それから……こう、青年へと問いかけた。

 

「静かな人、名前は?」

 

「……影麟」

 

影麟はそう言ってナツメヤシの実を口にした。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

仇を討っても虚しくなるだけ

 

 

 

復讐は何も生まない

 

 

 

私怨を晴らすことに意味はない

 

 

 

オレは、ずっとそう思っていた

 

 

 

つい、数日前までは……

 

 

 

ダイダロス2号から少し離れた場所

 

眼下に広がる平野を一望することができる丘……かつては極東の街を一望することもできた丘の、その頂上で銀髪の傭兵、ベカスは水平線の向こうへ沈みゆく太陽を眺めながら、様々な思いを巡らせていた。

 

彼の前には小さな石碑

ただ石を積み上げただけの簡素なもの

 

「ほんとは、もっとちゃんとした墓を作ってあげたかったんだけどな……」

 

その石碑の下には遺体が埋められていた。

 

それはベカスにとっての師匠、そして影麟にとっては親と呼べる存在の遺体だった。しかし、ファントムとの戦闘で遺体は激しく欠損し、残されたのはベカスの拾った一部分のみだった。

 

「師匠……体も……全部は集められなかったけど、今はこれで勘弁してくれ」

 

そう言ってベカスは……生前、師匠がよく好んで飲んでいた酒を開けて、その中身を少しだけ口にした後、瓶を逆さまにして残った全てを石碑に向けて振りかけた。

 

 

 

『オマエは、何も喪っていない』

 

『何も喪っていないオマエに、家族を失った私の苦しみが!』

 

『大切なものを奪われた者の痛みが……分かるか!』

 

 

 

かつてテッサに復讐の無意味さ説いた時、悲しみと怒りにまみれた彼女の表情と彼女の放った言葉が、ベカスの脳裏にフラッシュバックした。

 

「オレ……ようやく、分かったよ」

 

ベカスはようやく気づくことができた。

 

あの時、自分の放った言葉は自身の体面を保つためだけの詭弁に過ぎなかったことを。そして持論を語るだけで、テッサの気持ちを全く理解しようとしていなかったことを……

 

 

 

そう言う話では、ないと気付かずに

 

 

 

あの時、彼女は自分のことをどう見ていたのだろうか? いや、言うまでもなく彼女にとって自分は復讐の妨げになるもの……邪魔な害悪に映っていたことだろう。

 

だけど……いざ、自分が復讐をする立場になってみると、彼女の気持ちがよく分かった。そして、かつて自分自身の言っていたことがありふれた綺麗事に過ぎないということに気がついた。

 

「師匠、辛かったよな……こんな姿になって……」

 

瓶が空になると、ベカスは力なく腕を垂らした。

 

師匠を喪った悲しみ、そして師匠をやった『敵』に対する憎しみが、ベカスにそれを気づかせた。ベカスは生まれた感情を、自分にぶつけるかのように歯を食いしばり、瓶を強く握りしめた。

 

次の瞬間、手の中の瓶はベカスの握力に耐えきれずグシャリと潰れた。大小の破片がボロボロと、ベカスの腕から垂れた血とともに流れ落ちた。

 

 

 

「仇は……オレが討つ!」

 

 

 

甘かった自分と袂を別つかのように

 

ベカスは手の中に残った血まみれの破片を強く払った。

 

やがて太陽が水平線の向こうへ完全に沈み込むと、かつての光を失った極東の大地は、一瞬のうちに闇に包まれてしまった。

 

皮肉なことに、光を失った極東の地からは、星のきらめきが非常によく見えた。

 

夜空に浮かび上がる、無数の星々

 

それは、失われたものの数を表しているかのようだった。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

ダイダロス2号ー尋問室ー

 

「ぅ……」

 

誰かが扉を開けて部屋の中へと入ってくる気配を感じ、ダイダロス2号の責任者であるその女性……葵博士は暗闇の中でうっすらと目を覚ました。

しかし、葵博士がいくら目を開けようとしても視界に入ってくるのは闇ばかり。まるで失明してしまったかのように何も見えず、葵博士は猛烈な閉塞感と息苦しさを覚えた。

 

体を動かそうにも、葵博士の体は木製の椅子に着席した姿勢で縄のようなものでぐるぐる巻きにされていた。その上、両腕は手すりに、両足も椅子の足に縛り付けられ、全くの身動きが取れない状態となっている。

 

突如としてダイダロスの艦橋へと押し入ってきた謎の男たちに訳も分からないまま拘束され、頭に麻袋を被せられ、そのまま船の尋問室に放置されること12時間……

 

それはたった12時間の話だったのだが、その間、葵博士には話し相手になる者もいなければ、身動きを完全に封じられているため暇を持て余すことすら許されなかった。

 

そんな彼女に食料や飲料水の供給が行われることはなく、そのため彼女には今が朝なのか夜なのか、大体の時間帯を把握することもできなかった。

 

この12時間の間で彼女は何度も悲鳴をあげた。

 

拘束された当初は比較的落ち着いており、冗談も言えるほどの余裕を見せた葵博士だったが、それから1時間もしないうちに声のトーンが徐々に高くなりヒステリックな声をあげるようになってきた。

 

それからも気丈に振る舞っていた彼女だったが、そこからさらに3時間が経過すると、最初の頃に見せていた余裕もすっかり消え失せ、絶叫と共に助けを求める悲鳴をあげるようになった。

 

拘束から逃れようと体を何度も揺らすも、彼女の体に巻きついた拘束帯は頑強で、地面に固定された椅子すらピクリとも動かなかった。

 

 

 

ドリスに助けを求め

 

 

 

ベカスに助けを求め

 

 

 

あまつさえ、自分のことを拘束した者たちにすら助けを求め

 

 

 

それでも誰も来ないことを知ると、彼女は嗚咽を漏らして泣き叫んだ。顔全体を覆っていた麻袋は彼女の撒き散らしたものでびしゃびしゃに濡れた。

 

時間感覚は遥か昔に消失していた。

葵博士は深淵の中でたった一人孤独と戦い続けることしかできなかった。しかし、彼女の視界を支配する闇は、無情にも彼女の精神を少しずつ擦り減らしていった。

 

尋問室に訪問者が現れたのは、空腹と喉の渇きも徐々に最高潮に達し、葵博士が迫り来る死の恐怖を感じ始めた時のことだった。

 

「ア……ぁぁァ……」

 

尋問室に現れた何者かに対し、助けを求める声を上げようとした葵博士だったが、強烈な喉の渇きが葵博士から声を奪った。

 

「み……水……」

 

咳き込み、しゃがれた声で水を求めた。

 

「水ですね」

 

「…………ェ?」

 

次の瞬間、葵博士は顔面に強い水圧を感じた。

 

「ガッ!?……ゲホっ、ゲホっ……かはっ!?」

 

麻袋の繊維の隙間を縫うようにして通過した水流が、葵博士の目、鼻、口へ侵入してきた。あまりにも突然の出来事に、葵博士は苦しむように咳き込んだ。

 

「いい姿ですね」

 

その声と共に、カラン……という何かが落ちる音が尋問室に響き渡った。

 

「だ、誰なの……?」

 

ようやくまともに喋れるようになった葵博士が顔を上げると、その人物は勢いよく葵博士の顔から麻袋を引き剥がした。

 

「うっ……!?」

 

眩しさで顔をしかめつつも、葵博士は状況を確認することに専念した。薄暗い尋問室、照明は天井に吊り下がっている電球ただ一つのみ。自分は部屋の中心に座らされており、床には鉄製のバケツが転がっている。

目の前には人影が一つ、それ以外に人影はない

 

「おはようございます、葵博士」

 

「……!?」

 

麻袋がなくなったことによりクリアになった人影の声を聞き、葵博士はハッとした表情を浮かべた。その声は、葵博士にとってとても馴染みのある声だった。

 

「気分はどうですか?」

 

「……ミドリ……な、なんで……?」

 

葵博士は震えた声で人影を見上げた。

 

「なんで?」

 

人影の正体、それは葵博士の知り合いであり、OATHカンパニーの社長代理であり、そして三日月の保護者役でもある女性……ミドリだった。

 

「それは勿論〜、決まってるじゃないですか〜」

 

ミドリはニコニコとした表情で葵博士の顔を覗き込み……

 

「ぐっ!?」

 

片手で葵博士の首を絞め始めた。

 

 

 

「裏切り者を、尋問するためですよ」

 

 

 

次の瞬間、ミドリの表情が豹変した。

先ほどのニコニコとしたものは何処へやら、一瞬にして顔に暗い影が差し込み、瞳孔をカッと見開いた状態で、強烈な殺意を葵博士に向けた。

 

「……ッッッ!?」

 

豹変したミドリの表情に、葵博士はこれまで味わったことのない恐怖を覚えた。思わず悲鳴をあげかけた葵博士だったが、しかし、恐ろしいまでの力で首を絞められているため、その口からは息の漏れる音しか聞こえなかった。

 

「あはっ」

 

ミドリは嘲笑を放つと、葵博士が落ちてしまう寸前のところで首から手を離した。

 

「げほっ、げほっ……はーっ……はーっ……はーっ」

 

葵博士は過呼吸になってしまった魚のように、酸素を求めて激しく息を吐いた。

 

(ミドリ……っ、なんで……こんなことを……っ!?)

 

「なんでこんなことを?……って、言いたそうな顔をしていますね」

 

「っ!」

 

表情から心を読まれ、葵博士は内心びくりとした。

 

「その顔は……心を読まれた、まずい、ここはポーカーフェイスで切り抜けよう、ですかね?」

 

「…………くっ」

 

葵博士は視線を逸らすように下を向いた。

ミドリの傍に転がっているバケツが目に入った。

 

「信じられない、あなたがこの私にこんなことを、水をかけたりするなんて……ふふっ、分かりますよ〜」

 

「…………っ!?」

 

「研究に関しては他に類を見ないほどの高度な思考を発揮するあなたですが、それ以外のこととなると……例えば、このような一対一での話し合いとなると、あなたほど表情の変化が分かりやすい人はいませんね〜」

 

ミドリはニコニコとしながら葵博士の周囲を回る。

 

「特に、博士は常日頃から無表情ですから〜その分、動揺した時とのギャップと言いますか、それが分かりやすくてありがたいですね!」

 

「……どうして、こんなことを……?」

 

葵博士は観念したようにボソボソと呟く

 

「自分の胸に手を当ててみれば、自ずと答えは分かると思いますが?」

 

「…………弁護士を呼んで頂戴」

 

「……はい?」

 

「じゃないと、私は何も喋らない……」

 

「……あはっ……博士ぇ、まだそんな冗談を言える余裕があったんですかぁ〜?」

 

 

 

ばんっっっっ

 

 

 

「ッッッ!」

 

ミドリはケタケタと笑い、次の瞬間、後ろから葵博士の両肩を勢いよく掴んだ。突然のことに、葵博士は大きく体を震わせた。

 

「自分の立場を分かっていないようですね」

 

ミドリは強い殺気のこもった言葉を吐いた。

そんなものを耳元で囁かれてはたまったものではなく……

 

「ひ……ひぃ」

葵博士は情けない悲鳴をあげた。

 

「フフフ……ミドリちゃんはぁ、暴力は嫌いです。なので話し合いをしましょう〜、あ・お・い・ちゃん?」

 

「わ……分かったわ」

 

冷たいものを背筋に感じながら、葵博士は必死に頷いた。

 

「与えられた業務さえこなしてくれれば、我が社は基本的に副業を認めています。なので葵博士、あなたが裏でとある組織の依頼を受けていることに関しても、今までは目を瞑ってきました」

 

ミドリは葵博士の肩から手を離した。

 

「ですが、状況が変わりました」

 

そうして、葵博士の正面へと回り込んだ。

 

「葵博士。あなたがソロモンと裏で繋がっていることは既に調べがついています」

 

「それが……どうして、こんなことに……?」

 

「おや? まだ気づいていないんですか?」

 

ミドリは肩をすくめて葵博士を見下ろした。

 

「いいでしょう、なら教えてあげます。たった一機で極東武帝を抹殺した挙句、極東共和国を破壊したあのBM……あれはソロモンが発掘した古代兵機、LM−08 バルバトスなのですよ」

 

「なっ!?」

 

葵博士の顔が驚愕に包まれた。

 

 

 

「あなた方はやり過ぎました」

 

 

 

ミドリは淡々と続ける。

 

「結果的とはいえ……最終的に数百万の命を奪い、世界のバランスを崩壊させてしまった。最早、あなた達は世界の調和を乱す害悪、根絶やしにしなければならない存在……即ち、世界の敵なのですよ」

 

「それは……っ」

 

「はい、やったのはあなたではありません。それは分かっています、ですが葵博士……現実はそう甘くはないのです。問題は、あなたがソロモンに協力していた……という事実です」

 

「……」

 

「あなたが世界の敵と繋がっているということは……我が社が世界の敵と関わりを持っているも同然のことなのです、この意味は……分かりますよね?」

 

「……ええ」

 

「感謝して貰いたいくらいですね、あなたをこうして隔離しているのは、あなた自身の命を守るためでもあるのですから」

 

「……」

 

「ミドリちゃんだって、本当はこんなことはしたくないのです。ですがこの件に関して、我が社が抱えている社員たちへの影響を鑑みると、こうせざるを得なく、仕方なーーーーーーーーく、葵博士の拷問という手を打たざるを得なかったのですよ〜」

 

「……私に、どうしろと?」

 

葵博士の呟きに、ミドリはニヤリと笑った。

 

「葵博士、あなたの今後……ソロモンに協力するフリをして、実際にはソロモンの内部情報をこちらへと持ち込むスパイだった……という役割を果たしてもらいます」

 

「……」

 

「この件に関しては、先に社長からゴーサインを頂いており、事情知る他の社員たちへの口止めも既に完了しています。あとは、あなた次第ですが……」

 

「やるわ……ええ! やるしかないんでしょ!?」

 

葵博士は大きくかぶりを振った。

それを見て、ミドリは満足そうに微笑んだ。

 

「そう言ってくれると思っていましたよ」

 

「わ……私にできることならなんでもするわ! だから、さっさとこの拘束を解いて頂戴……!」

 

「んん〜?」

 

ミドリはニコニコと首を傾げた。

 

「な……何よ……?」

 

「葵博士、今……なんでもするって言いましたよね?」

 

「え……ええ……」

 

「では、現在までに収集したウァサゴのデータを全て提出してもらいます。はい、製造データから戦闘データ、さらには各種レポートに至る、ウァサゴに関する全ての情報のコピーをですね」

 

「ウァサゴのデータを? なぜ……?」

 

「いいですね?」

 

「……分かったわ」

 

ミドリの笑顔に押される形で、葵博士は頷いた。

 

「おっと、隠し事はなしですよ? あと、レポートに関しては新規作成がある度に提出をお願いしますね? さもないと……」

 

「分かってるわよ!」

 

葵博士は大きなため息を吐いた。

 

「ありがとうございます。では、次にーーー」

 

ミドリのニコニコとした表情が黒く染まる。

 

 

 

「我々がファントムもしくは黒いバルバトスと呼称している、LM−08 バルバトスの行方を吐いてください」

 

 

 

「え?」

 

葵博士は疑問符を浮かべた。

しかし、すぐさま顔を横に振った。

 

「なんでもするって言いましたよね?」

 

「ええ、言ったわ……でも無理よ、アレのトレースは私も試したけど結局失敗したし、他のソロモンメンバーもこの件に関しては何も知らないし……」

 

「なんでもするって言いましたよね?」

 

「わ、私だってできることとできないことが……」

 

 

 

カァンッッッ!!!

 

 

 

なんの前触れもなく、ミドリは床に転がっていたバケツを足で勢いよく踏み潰した。

「ひっ!?」

葵博士はまたも悲鳴をあげた。

 

「ごちゃごちゃ……うるさいですね」

 

ヒールで押しつぶされたバケツを蹴り飛ばして、笑顔を消したミドリは冷淡に葵博士を見下ろす。

 

「葵博士、言いなさい」

 

「わ……私は何も知らない」

 

「いいえ、知らないとは言わせません。あなたは知っているはずです……ファントムの、いえ、バルバトスの行方を……」

 

「ほ、本当に何も知らないのよ! 私はただ、協力しているだけで、大した権限なんてッッッ!」

 

「はぁ……そうですか」

 

小さくため息を吐き、ミドリは自分の腰に手を当てた。

 

「なら……仕方ありませんね」

 

そう言って、ミドリは腰のポーチから筒状の何かを取り出した。彼女がそれを振ると、中に入っている液体が怪しく揺れた。

 

「ッッッ!?」

ミドリの取り出した何かを見て、葵博士は絶句する。

 

「この手だけは使いたくなかったのですが、やむを得ませんね……」

 

凶悪な笑みを浮かべながら、ミドリは筒状の物体の先端に取り付けられたカバーを外した。すると、その中から細い針のようなものがスラリと現れた。

 

「そ、それは……まさか……」

 

「自白剤……のような、何かです」

 

注射器の先端が照明を受けてキラリと光った。

 

「う、嘘でしょ……? ねぇ、嘘よね!?」

 

「これが、嘘に見えますか?」

 

激しく動揺する葵博士。

その背後へ、ミドリはサッと回り込んだ。

 

「これが最後のチャンスです」

 

「し、知らないのよ、私はなにも……!」

 

「言いなさい」

 

「本当に、知らないのよおおおおおおおおッッッ!」

 

「そうですか」

 

ミドリは葵博士の首筋に注射器の針を突き立てた。

 

 

 

「……ち、チュゼール!!!」

 

 

 

次の瞬間、葵博士は絶叫した。

ミドリは注射器を突き刺そうとする手を止めた。

 

「バルバトスのトレース中に、チュゼール方面で巨大なEMPを観測したわ! 確かあそこは、ソロモンの部隊がしきりに調査を行なっている場所だったはず……」

 

「……それで?」

 

ミドリは注射器を突き立てたまま聞き返した。

 

「恐らく、ソロモンはチュゼールに眠る大いなる力……巨神の力を手に入れるつもりよ。でも、巨神の力は圧倒的……現行のBMでは歯が立たない……」

 

「それで、バルバトスを使うと?」

 

「ええ、私ならそうするわ」

 

「そう言える根拠は?」

 

「……………………」

 

そこまで言って、葵博士は押し黙った。

唇を噛み、ぎゅっと目を瞑った。

 

 

 

「……そうですか、はい! 許します!」

 

 

 

「え?」

 

次の瞬間、ミドリの声色がいつもの明るく優しい雰囲気に戻った。葵博士の正面へと立ち位置を変え、注射器を手の中でくるくると回し始めた。

 

「葵ちゃん、お疲れ様でした」

 

そう言って、いつもの笑顔を葵博士へと振りまいた。

 

「ふぅ〜、ミドリちゃん、たくさんお話しして喉が乾いちゃいましたぁ……あ、こんなところにいい飲み物がありますねぇ」

 

そう言ってミドリは手元の注射器へ視線を落とし、それから顔を上げて注射器の蓋を開けて、まるで栄養剤でも飲み干すかのようにその中身を一気に煽った。

 

「あっ!?」

 

驚いたように見つめる葵博士

 

「うーん、美味しい〜! ああ、びっくりしましたか? 実はこれ、自白剤なんかじゃなくてただの砂糖水だったんです」

 

「な!? 騙したのね!」

 

葵博士は思わず抗議の声を上げた。

しかし、ミドリはその声を無視して注射器をポーチに戻した。

 

「これで、よし……と」

 

満足そうな表情のミドリ

今、ミドリの頭の中はとある事で一杯になっていた。

 

「葵ちゃん、ありがとうございます!」

 

「……何が?」

 

「葵ちゃんがバルバトスの行方を話してくれたお陰で、ミドリちゃんは三日月くんにいっぱい褒めて貰うことができそうですぅ!」

 

「は?」

 

呆然とする葵博士に対し、ミドリは頰を赤く染め、恍惚とした表情で自らの身体を抱きしめた。

 

「テッサちゃんが来てからというもの、最近は三日月くんとのスキンシップにあんまり時間が取れていなかったので、これを機に三日月くんとちょーっとだけイチャイチャしたいなって思っていたんですよ〜」

 

誰に言うでもなく、ミドリは独り言を口にし始めた。

 

「テッサちゃんは今、別件で出払っているので〜本当に少しだけですけど〜〜〜頭ナデナデとかして貰っちゃおうかな〜! それとも、あんなことや〜こんなことを〜ふふふふふ……」

 

悶々と、自分の世界に入り込んだミドリだったが、突如として我に返ると、怪しげな瞳で葵博士を見やり……

 

「だから、ありがとうございます」

 

葵博士へお礼を告げる、その一方で……

 

「ねぇ、葵ちゃん」

 

「なに……?」

 

「スパイ活動の一環として、我が社で管理している情報をソロモンに持ち込むのは少しだけなら構いません。ですが、それが原因で、三日月くんの負担になるようなことがあれば……分かっていますね?」

 

「…………っ!」

 

そんな脅し文句と共にミドリの体から放たれた強烈なプレッシャーを前にして、葵博士は黙って頷くことしかできなかった。

 

 




色々言いたいことはあると思いますが、ムジナからひとつだけ……

ミドリのセリフに「破暁が欲しいですね」というものがあります
破暁→ブレーキングドーン→暁
暁は鉄血世界での……はい、あとは分かりますよね?
つまり、ミドリさんは……ということです。(超拡大解釈)

冗談です。

今回からまた次回予告担当の双子がまた次回予告をしてくれることになりました……のですが、残念ながら次回から少しだけ三日月が全く出なくなる回が続きますが、ストーリーの進行上不可避なので悪しからず……

それでは、次回予告です。



エル「次は、みんな大好きスロカイ様が久しぶりに登場するよ!」

フル「何話ぶりでしたっけ? 本編よりもカッコいいスロカイ様をご覧あれ、です」

エル&フル「「次回、『スロカイ再び』」」

フル「なんか、どこかで見たことがあるタイトルです……?」

エル「なるほどね! これがゼータの鼓動、なのね!」

アイサガで貴方の好きなキャラを教えてください。(回答はこちらではなく気軽にコメントの方へお願いします)

  • 境界戦機もっと流行れ
  • 鉄血・ブレットもっと流行れ
  • 水星の魔女×鉄血のオルフェンズ?
  • あと、アイサガのエンディングも作ります
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